第二次スーパーロボッコ大戦
EP61



「パラレルワールド?」
「またはマルチバース、まあどっちでも意味はあんまり変わらないけれど」
「つまり、貴方がいたのとは違う世界という事だ」

 ノイズとの戦闘の後、リトルリップシアター地下、紐育華撃団の基地に連れてこられた響は、そこで紗羅檀とサイフォスから説明を受けていた。

「違う世界………確かに何かすごいの見えてるけど………」

 響は自分の目の前、帰還したスターやストライカーユニットが回収、点検されているのを見ながら首を傾げていた。

「まあ、言われてもすぐには分からないよね」

 そこへトレーにマグカップを載せたジェミニが歩み寄ってくる。

「取り敢えずこれでも飲んでて、リトルリップシアター自慢のカフェオレ。何か今ちょっとバタバタしてて」
「あ、どうも」

 トレーからマグカップを受け取った響はそれをすすりながらとにかく一息つく。

「色々不安かもしれないけど、大丈夫。ボクも似たような事態になった事あるから」
「そうなんですか?」
「間違いありません。姫からは時間経過はしていますが、次元転移反応が残っています」

 同じくカフェオレをすすっていたジェミニからの話に響は驚くが、ジェミニの胸ポケットにいたフブキはそれを肯定する。

「その時はどうなったんですか?」
「う〜ん、色々な人達と色々な所行ったな〜
格闘家だったり、賞金稼ぎだったり、アンドロイドとかアバターって人もいたな」
「え?」
「過去に行ったり未来に行ったり、天界や魔界にも行ったし」
「は?」
「あ、大丈夫。時空座標とかいうのが分かったら、すぐ帰れると思うから」
「姫、その説明では余計不安を感じます」
「っていうか、一体そっちのマスターは前回何をしてたの?」
「私も初めて聞いたのが混じっている………」
「出来れば分かるように話してほしいでち」

 武装神姫達も首を傾げる中、潜水艦艦娘達が姿を見せ、それを見た響が思わずコーヒーを吹き出しそうになる。

「あの、それ………」
「いえ、流石に水着のままだとアレだから着替えてくれって言われて………」
「着替えはいっぱいあったよ、いっぱい………」

 イムヤとハチが視線を反らす。
 水着の代わりにラメやフリルが付いてたりまばゆい原色だったりと様々かつ派手なステージ衣装に着替える羽目になった潜水艦艦娘達に、響は目を丸くする。

「まだ色々あるよ、響も着替える?」
「その、結構です………」
「いたわね。貴方達、司令が会いたいそうよ」

 ジェミニの誘いを断る響だったが、そこへラチェットが皆を呼びに来る。

「あ、待ってください………ごちそうさまでした」

 響は残ったカフェオレを一気に飲み干すと、空になったマグカップをジェミニへと渡す。

「合う前に聞いておくでちが、ここの司令はどんな人でち?」
「う〜ん、切れる変わり者、かな?」
「悪い大人の具体例よ、あまり気を許さないで」

 ゴーヤからの質問に、ジェミニがそれとなく答えるが、ラチェットが一言で切って捨てる。

「そうなの?」
「え〜と、そこまでじゃ…」
「そこまでよ」
「食えない男らしいのは分かったでち」
「こっちと大分ちがうな………」
「そっちの司令ってどんな人?」
「頼れる肉体系、かな? 私の師匠でもあるんだ」
「こっちの提督は質実剛健が軍服着てるでち」
「………話が通じる人である事を願うわ」

三者共そこはかとなく不安を感じながら、支配人室へと案内される。

「ようこそ紐育華撃団へ! ボクがこのリトルリップシアター支配人にして紐育華撃団司令、マイケル・サニーサイド、よろしく」
「第31統合戦闘飛行隊 《ストームウィッチーズ》隊長、加東 圭子。階級は少佐よ」
「立花 響です」
「呉鎮守府所属第ニ潜水艦隊、旗艦の伊58でち」

 どこか芝居がかった口調のサニーサイドと普通に名乗る圭子に、響とゴーヤも名乗る。

「さて、事情は聞いてるかな?」
「一応は………」
「どうにも信じられないでちが」

 サニーサイドの確認に、響も艦娘達も首を傾げる。

「そうだろうね〜、ボクも最初は信じられなかったけど、実際この目で色々見た以上は信じるしかなかったからね」
「え〜と、他の世界の見た事の無い敵が襲ってくるんですよね?」
「そう、心当たり無い?」
「あります! 最初は何か黒いような赤いような、固くて中に玉みたいな弱点のあるのが…」
「それならこっちにも来たでち!」
「ネウロイ、それは私達ウィッチの敵よ。そちらにも出たのね………」
「その後、海から来る生き物なのか兵器なのか分からないのとも戦いました」
「深海棲艦でち! どうやって戦ったでち?」
「あ、私の所属するS.O.N.G.は母艦が潜水艦で、その上からなんとか………」
「陸戦装備でよく出来たわね………」

 互いに情報を交換する中、いつの間にかサニーサイドの顔から笑みが消えていた。

「状況は予想以上に悪化している、という可能性は有ったが、その通りみたいだね」
「他にどの世界がどこまで攻撃されているか、見当もつかないわね」

 圭子も同じように各世界からの被害報告に頭を抱える。

「とにかくさしあたっての問題は、彼女達の処遇をどうするかだ。特に響君」
「はい?」
「我々に今圧倒的に足りないのは情報でね。君の持っている君の世界の情報を提供してもらいたい。代わりにこちらの世界での生活は保証しよう」
「艦娘の人達はその気ならすぐ帰れるわよ。まあ送迎は必要かもしれないけど」
「う〜ん………」
「どうする?」「どうしよう?」

 それぞれ悩む響と艦娘達だったが、判断はそれほどかからなかった。

「お姉様、取り敢えず支援は受けて損は無いわよ。文字通り右も左も分からない世界で孤立するよりは」
「それもそっか」
「こちらの目的は霧の竜巻の調査でち。ある程度調査を進めてからじゃないと帰還できないでち」
「先に帰った艦娘の人達から情報回ってくるんじゃ?」
「ウチの提督は基本、身内からの情報しか信用しないでち」
「性格の割に用心深いんだよね………」
「確かにただ帰るわけにはいかないし」

 紗羅檀に促される響に対し、艦娘達は任務重視でしばらく滞在を決める。

「なるほど、双方事情は色々だね。もっとも今後の事もあるし、一度協議は必要だろう。少し来てもらえるかな? 指揮官クラスでの緊急会議が学園で開催されるので、その場で少し事情を説明してもらう事になるね」
「学園?」
「この世界に学校丸ごと転移してきたのがあるのよ、しかも二つの学校が融合する形で。で、通称が学園」

首をかしげる響に、圭子が苦笑しながら説明する。

「そんなのありなんでちか?」
「それに緊急会議って、ここからその学園って所まで行くの?」
「移動は一瞬よ、この基地からなら転移装置ってので簡単に行けるわ。ま、使ってみた私達もいまだに慣れないし使用許可は厳しく制限されてる状況。今回は指揮官クラスの緊急会議で、即時許可がでたけどね」

ゴーヤとハチの疑問に今度はラチェットが答える。が、その言葉を反芻した響に戸惑いが浮かぶ。

「え〜と、それって偉い人達が集まるって事じゃ………」
「大丈夫、ウチの司令より性格悪い人はいないから、多分」
「全然安心出来ないでち。もっともこっちの提督会議も魔窟だのサバトだの言われてるでちが」
「大本営から視察に来た将官が逃げ出したって噂もあったし」
「ほう、それは一度見てみたい物だね」
「貴方なら平気でしょうね」

 艦娘や華撃団で交わされる会話に、響はそこはかとなく不安を感じる。

「大丈夫、化かし合いは上の人達が勝手にやるから」
「師匠だったら大丈夫かもしれないけど………」

 紗羅檀のサポートに響は思わず苦笑する。

「おっと、転移装置の準備が出来たようだ。それじゃあ響君と艦娘から誰か代表を一名」
「旗艦はゴーヤでち」
「じゃあその二人で。あーでも流石にダンス用のステージ衣装はまずいかも」
「また着替えでちか」
「冗談で済ませなさそうな人達いるからね」
「軍属となると余計にね」
「将校クラスがうるさいのは、どこでも一緒か」

ゴーヤのボヤキに周囲が同情する言葉をかける。
「ボクもつきそいで行くよ! 学園は前に行った事あるし!」

 サニーサイドが同行者を指名した所で、様子を見に来たらしいジェミニも手を挙げる。

「そうだな、じゃあ頼もうか。他の子達は…」
「私の方で詳細説明とかしておくわ。今後の方針についても」
「弾薬を補充したい所ですが、使えるのがあるかどうか………」
「この間艦娘用に幾つか開発されたのがあったはず。問い合わせてみるわ」
「それじゃよろしく」

 ラチェットとイムヤに後を任せ、サニーサイドは新たな転移者達を連れて転移装置へと向かう。

「どうやら、状況がまた変わりそうだね………」

 サニーサイドが漏らした呟きは、転移者達の耳には届かなかった………



少し後 学園

「これは驚いた………」
「うわ〜、ホントに全然違う所に来たよ………」

 転移装置で学園へと転移してきたマシロとアリカついでに猫のミコトは、ペテルブルグ基地からいきなり未来的な学園へと変化した事に驚いていた。

「私も仕組みは分からないけど、今NORNで使ってるので一番大きい転移装置はここのよ。他の世界に行くには主にここのを使う事になるわ」
「これだけ大きいと、色々運べそうだね」

 付添で来たロスマンの説明に、アリカは興味津々で大型転移装置を見ていた。

「ここは二つの学校がまとめて転移融合した、今まで確認されている中でも最大の転移現象が起きた所でもあってね。巻き込まれた生徒達のライフラインを維持するためも有って大型のを設置したらしいわ」
「学校がまるごとか、それはすごいの」
「下手したらガルデローベ学園がこうなってたのかな?」
「可能性としてはあり得ます、マスター」

 周囲を見回すアリカに、肩にいるジュピジーが頷く。

「さて、案内が誰か来る予定なんだけど………彼女かしら」

 ロスマンがこちらに向かってくる人影に気付き、ミコトも鳴いたのにアリカとマシロもそちらを見て驚く。

「久しぶり」
「ニナちゃん!?」
「ニナ? お前無事じゃったか………」

 アリカもマシロも予想外の人物に驚くが、微妙にその内容は違っていた。

「え? なんでニナちゃんがここに!?」
「何者かにさらわれたとは聞いていたが、なぜここに?」

所在を問う言葉が、全く違う事にアリカは遅れて気付く。

「さらわれたって何!? 私聞いてないよ!?」
「学園長に口止めされておったからな。お前に知らせたら、学校もマイスター乙HiMEの務めも放り出して探しに行くだろうからと」
「当たり前だよ!」
「もう少し自分の立場という物を考えい。ただでさえ単位ギリギリなのじゃぞ!?」

 騒ぐアリカとマシロに、ロスマンはうろんな視線を向けるが、ニナは小さく笑う。

「変わってないのね、アリカ」
「………変わったぞ」

 ニナが話しかけた所で、突然マシロの動きが止まる。

「こやつ、マスターである妾を差し置いて、この半年胸ばかりムクムクと成長しておる! 妾は全く変わらぬと言うのに!」
「いや、そんな事言われても………」
「そう言われてみれば確かに…」
「おかげで下着代が最近嵩んで」
「また成長しおったのか!」
「落ち着いてください、マシロ陛下」

 何か女子として譲れない事で騒ぐマシロと火に油を注ぐアリカ、なんとかなだめようとするニナを見たロスマンが思わずため息を漏らす。

「三人がどういう関係かはよく分かりました。とにかく後の事はお任せしてよろしいでしょうか?」
「はい、分かりました。ここまでの案内ご苦労さまです」

 後を任せようとするロスマンだったが、そこでニナのそばで耳打ちする。

「何か、話に聞いていたマイスター乙HiMEとやらと彼女は随分とイメージが違うように感じるのですけれど」
「アリカは、まあ色々特別でして………」
「まあ、ウィッチもどこの人達も色々いますしね。502は問題児ばかりで………」
「これニナ、すまんが案内を頼む。放っておくとアリカがどこかに行きかねん」
「分かりましたマシロ陛下」

 マシロに促され、ニナがは二人と一匹を伴ってその場を離れる。

「仲間がいるのはいい事ね………」

 それを見送ったロスマンは小さくそう呟いた。



「今会議の準備中なので、しばらくここで待っていてほしいそうです」
「会議というのがめんどくさいのはどこも変わらぬか」
「そうみたいだね〜」

 ニナの案内で会議室の外にある長椅子に座ったマシロとアリカが周囲を見ながら呟く。

「NORNは各世界からの指揮官が通信も混ぜて参加するので、特に準備にかかるみたいです」
「一体全体、幾つの世界からどれだけの組織が参加しておるのやら………」
「こっちで待っててだって!」

 そこに同じような事を言われてる者達がこちらに向かってくるのに三人は気付く。

「って、先客?」
「あ、武装神姫………」
「それがいるという事は、そなたらもいきなり飛ばされた口かの?」

 待機場所にいる先客に気付いたジェミニと響がその先客にも武装神姫がいる事に気付き、同じく気付いたマシロが声をかける。

「あ、はい。S.O.N.G.所属ガングニールのシンフォギア装者、立花 響です!」
「ヴィントヴルーム王国マシロ女王陛下のマイスター乙HiME、《蒼天の青玉》のアリカ ユメミヤ! よろしく!」
「ヴァイオリン型MMS、紗羅檀よ」
「種型MMS ジュビジーです」

 響とアリカ、そして武装神姫が一緒になって自己紹介し、ついでに握手する。

「呉鎮守府所属第ニ潜水艦隊、旗艦の伊58、ゴーヤでいいでち」
「アリカのマスター、ヴィンドブルーム王国女王、マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルームじゃ」

 同じくゴーヤとマシロが自己紹介しながら、握手した所で、響が首を傾げる。

「女王?」
「そうじゃ。まあそちらからすれば聞いた事も無い国じゃろうが」
「本物?」
「そうだよ」
「えええ!? 王様なんて初めて見た!」
「そんな重鎮まで来てるんでちか?」
「他にも螺旋皇国の王女も二人ここにいるわ。貴族クラスも各組織に何人か」
「………S.O.N.G.にはいないな〜」
「艦娘はそういうの問わない方針でち。特にウチの提督は」
「本当にいろんな者達がおるようじゃな」
「人間じゃない人達も多数参加してます………」

 響のあまりの驚き様にマシロは半ば呆れるが、ニナが追加を加える。

「トリガーハートとか機械人とメンタルモデルとか、多少見た目が違うだけでみんないい人達だから大丈夫!」
「私達もいます、姫」

 ジェミニが妙な方向で断言するが、そこでフブキが襟を引っ張りながら追加した。

「………国に戻れても、こんなのどう説明すればよいのやら」
「あった事全部言ったらいいんじゃない?」
「信用してもらえるかどうかじゃな。ただでさえ妾は女王としは信用度低かろうし」
「そんな事ないよ! マシロちゃん頑張ってるよ!」
「こっちの師匠は………まあ見せれば信じてくれるかな?」
「ウチの提督もまあ………多分」

 少し話しただけで色々な世界が垣間見える中、それぞれが首を傾げて唸る中、会議室のドアが開かれる。

「準備ができました、皆さんこちらに」

 中から声を掛けられ、新たに訪れた者達が室内へと入っていく。

「じゃあ私はここで」
「え、ニナちゃん来ないの?」
「指揮官クラスと言ってたろう、妾達は説明のために呼ばれたのじゃ。おっとミコトを頼む」
「じゃあボクも?」
「そういう事です姫」
「むう、どこかで時間つぶそうかな?」
「あちらに剣道場が」
「じゃあそっち!」

 フブキに促され、剣道場へと向かうジェミニを会議室に入る直前に見たマシロは思わず呟く。

「どこにも似たようなのはおるな」
「どしたのマシロちゃん?」
「いや少しな」

 中に入った所で、会議室の各所に並ぶ軍の将校らしき者や一般人に見えて明らかに雰囲気が違う者、自分達とそう年齢の変わらない者、そして幾つか通信会議用のディスプレイも並んでいるのにマシロは眉根を寄せる。

「随分と色々おるようじゃの」
「偉そうな人多い………」
「そうだね」
「マジモンの将校ばかりでち」
「貴方達が新たに来た方々ですね。皆さんはこちらに」

 そこで着席を促され、そちらを向いた四人は促したのが宙に浮かぶ小型のロボットのような姿をした者に絶句する。

「これも武装神姫とやらか?」
「いえ、NORNの参謀、英知のエルナーさんです」
「参謀………?」
「そう、私達とは記憶、演算能力共に桁が違うわ」
「違いが判らないでち」

 ジュピジーと紗羅檀の説明に首を傾げつつも、四人は席に着く。

「それでは、これよりNORN緊急会議を始めます。まずは最近起きた二件の転移現象と新たな転移者について」

 エルナーが議長となって会議が始まる。

「事の始まりはウィッチの世界、オラーシャ・ペテルブルグの次元トンネルそばにてJAMの襲撃が発生、これに応戦していた502統合戦闘航空団所属、雁淵 ひかり軍曹が突如次元トンネルの一部に捕らわれ失踪、同時にマイスター乙HiMEとそのマスターを名乗るこちらの二名が出現しました」
「ヴィンドブルーム王国女王、マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルームじゃ」
「蒼天の青玉のマイスター乙HiME、アリカ ユメミヤです!」
「ニナから大体聞いてはいるようだが、どうやらマスターである妾とそのマイスター乙HiMEであるアリカとまとめてさらわれてしまったらしい」
「さらった、というよりは交換したという感じですが」

 マシロの簡潔な説明に、エルナーが率直な感想を述べる。

「交換、か。確かにそんな感じだ」
「私達はいきなりここにまとめてでしたけれど」
「確かに」
『今までと規模が全く違うな』


 千冬とどりあの意見に、同じような目にあった門脇と群像(通信参加)が頷く。

「じゃが、妙な敵ならこちらにも出現しておった。シュバルツのアジトは襲撃を食らって壊滅、アスワドの谷はなんとか撃退できたそうじゃ」
「やはり懸念通り、他の世界にも襲撃はありましたか………」
「こっちもでち」
「こっちでも!」

 マシロとエルナーにゴーヤと響が手を挙げる。

「こちらはニューヨークでの襲撃の際に転移してきた方々です」
「呉鎮守府所属第ニ潜水艦隊、旗艦の伊58。ゴーヤでいいでち」
「S.O.N.G.所属、ガングニールのシンフォギア装者 立花 響です!」

 エルナーの紹介に、ゴーヤと響がそれぞれ名乗る。

「艦娘に、全くの新顔さね」
「響君はあの物理攻撃が効かないノイズと戦っている世界から来たそうだ。今一番欲しかった人材なのは確かだね」

 グランマが小さく首を傾げた所で、隣にいたサニーサイドが先程聞いたばかりの情報を教えてやる。

「立花さん、貴方の世界の情報をお願いできますか?」
「あ、はい!」

 エルナーに促されて、響が少し考えてから喋りだす。

「私の世界は地球のえーと、21世紀あたりになります。昔に作られたノイズとかをはじめとする敵と戦うためにシンフォギア装者達をまとめてるのがS.O.N.G.でして、ん−と、それと私の他にも5人の装者がいまして・・」

 たどたどしい響の説明に、会議に出ている面々が微妙な表情を浮かべる。

「まって、私が変わるわ。お姉様」
「ん、ごめん。私こういうの苦手で」

 響の代わりに、ここに来るまでに色々聞いていた紗羅檀が説明を始める。

「立花響をサポートしている武装神姫、紗羅檀です。お姉さまとの会話で聞いた物をまとめて説明いたします」

その言葉と共に会議場中央のディスプレイに響の持っているペンダントが表示される。

「お姉様が言った通り、彼女の世界は地球21世紀ですが、この世界には古代文明をはじめとした幾つかのオーバーテクノロジーがあり、その一つがこの聖遺物と呼ばれる物」

 聖遺物という言葉に何人かがわずかに反応したが、紗羅檀は構わずに説明を続ける。

「こちらにも出現しているノイズも、元は古代文明の兵器とみられてますが、普段は異相次元に存在するノイズが突発的に表れて被害をもたらす災害として扱われる存在です。それに対してこの聖遺物に歌を媒介として干渉して力を引き出した物がシンフォギアシステムと呼ばれており、そのシンフォギアを扱うお姉様達が装者と呼ばれています」

 そこまで説明した所で、紗羅檀は響に確認のために視線を移すが響は感心した表情でうなずいていた。

「このシンフォギアシステムですが、純粋にこの力を引き出せる人間は非常に限られており現装者でも、お姉様ともう1人の2人しかおらず、他の方達は適正のある人達を調整する事によって装者としているそうです」
「調整……か」

説明をともに聞いていた響が微妙な表情を浮かべたのを隣で見ていたマシロは、それが容易な物でないのを感じ取る。

「簡単な説明としては以上となります。後ほどお姉様とまとめてレポートを提出いたします」
「え?」
「頑張りましょうね、お姉様」
「はい………」

(彼女はどうやらユナと同じタイプみたいですね)
 先程から、一喜一憂する響を見ていたエルナーは密かにそう結論ずけた。

「ありがとうございました。それでは次に艦娘の方々の話ですが」
「艦娘らはこの間返したばっかじゃなかったか?」
「所属鎮守府が違うでち。その話、こっちに来てから聞いたでち」
「行き違いって事かい。内密にしてたのが裏目に出たか………」

 米田が別の疑問を口にするが、帰ってきた答えに思わずため息を漏らす。

「第二潜水艦隊の人達は、彼女達の世界の次元トンネルを調査しようと入った結果、紐育華撃団の所に飛ばされた模様です。その前は巴里華撃団の所でしたが。ただ、そちらの響はどうやら選別して転移させられた可能性が高いようで………」
「そして最大の問題は、ほぼ同時刻にこちらの香坂 エリカも転移中に失踪してるという事ね」
「状況から考えて、彼女も恐らくは…」

 エルナーの説明にポリリーナが付け足し、その場の指揮官達が思わず唸る。

「よりにもよってエリカ嬢とはな………」
「今この学園は彼女の支援で何とか持っているような物ですし」
「物資だけでなく技術支援も香坂財団からの物が多い。これはかなりの問題だ」

 まず一番影響を受けそうな学園から千冬とどりあが大きく唸る。

「よりにもよってパトロンさらうたあな。JAMとやらはそっち方面も攻撃してくるんか?」
「いや、JAMはそんな俗な事は微塵も考慮しない。おそらく何らかの別の要因でしょう」

 米田が頭をかきながらボヤく中、クーリィはそれをむしろ否定する。

『で、他に個人で飛ばされた者達に要因は?』

 ガランド(通信参加)からの問いに、転移してきた者達は顔を見合わせる。

「ゴーヤ達は霧の竜巻に近づき過ぎたのが原因らしいでちが」
「こちらは説明出来る。恐らくは妾達の蒼天の青玉がハイパーマイスターJEMだからじゃ」
「ハイパーマイスターJEM?」
「そう、本来マイスターJEMはヴィントブルーム学園にある霊廟地下のサーバで管理されておる。じゃが、蒼天の青玉はそのサーバが作られる前に作られた、サーバの管轄外でも機能する数少ないマイスターJEMなのじゃ」
「つまり、こちらで使用可能だと?」
「実際、飛ばされてすぐに戦闘に参加しておる。ただ管轄外じゃと、マスターと乙HiMEがあまり離れると機能しないという欠点もあるが………」
「なるほど、今度はちゃんと使えるようにしてきたって訳かい」

 マシロの説明に、米田が代表するように頷く。

「あの、だったら私も…」

 そこでおずおずと響も手を挙げ、皆の視線が集中しておもわずたじろぐ。

「私のシンフォギアは、武器となるアームドギアが形成出来ない代わり、他のシンフォギアと繋いで調律する力が有るんです」
「どういう事でしょうか?」
「シンフォギア装者には、絶唱っていう切り札が有るんです。ただしそれはすごい破壊力を持つ代わり、使った装者にもすごいダメージが有るんですが、私ならそれを調律して防ぐ事が出来るんです」
「シンフォギアの中でも特異能力の持ち主という事ですか………」

 響の説明に、エルナーが端的に解釈して指揮官達は顔を見合わせ、あれこれ論議する。

『つまり今回の転移は、更に特異な力を持つ者を選別して行われた?』
『いやそっちのはともかく、こっちからのは特異と言える程ではないのでは? 特に雁淵曹長はウィッチの中でも並の力しかないようだ』

 群像の仮説を、データを見直したガランドが否定する。

「JAMにしか分からない基準があるのかもしれない。奴らの固執はよく知っている」

 クーリィの言葉に、更にその場で唸り声が上がる。

「その点に関しては、更に情報の精査が必要になるので後にしましょう。次の問題は、彼女達の処遇をどうするかです」
「考えたでちが、横須賀鎮守府の艦娘達が臨時基地を設置してたと聞いてるでち。だったらそこを使いたいでち」
「学園鎮守府(仮)ですか、霧のコンゴウさんに許可をもらいたいのですが、今本体はそちらの世界に行ってまして………サブユニットで許可下りるでしょうか?」
「………意味が全然分からんでち」

 ゴーヤの提案にエルナーがやや難色を示すが、ゴーヤの方も首を傾げる。
 そこで群像が手を挙げた。

『その件はこちらで話を通しておく。あまり散らかしたりはしないでほしいが』
「使わせてもらうだけでありがたいでち」
「それでは第二潜水艦隊の人達は学園鎮守府(仮)にという事で。後の方々は…」

 エルナーの視線が残った三人、特にマシロへと向けられる。

「妾の事はあまり気にせんで構わんぞ」
「いえ、仮にも一国の国王の方にそういう訳には………」
「ならば、同じように王族のいる所なら問題ないのでは」
「そうですわね」

 言いよどむエルナーに、千冬とどりあが声を上げる。

「王族?」
「ええ。改めまして螺旋皇国第二皇女、瑠璃堂 どりあと申します」
「ほう、妾以外にも王族がいるとは聞いていたが、そなたか」
「様々な者達がNORNには所属しているが、王族は彼女とその妹だけだ。それに知己がいる方が都合がいいだろう」
「そうか、ではよろしく頼む皇女殿下」
「こちらこそ、女王陛下」

 二人の王族が笑みを浮かべながら歩み寄り、握手を交わす。

「ではマシロ陛下とアリカは学園の方で預かるという事に。あとは…」
「響君の事だが、こちらで預かるのはどうだろうか」

 エルナーの言葉を遮り、サニーサイドが名乗りを上げる。

「彼女のシンフォギアは歌に反応するそうだが、それは華撃団の設営理念に通ずる物があるかと思ってね」
「なるほど、一理あるな」
「確かに」
「それもそうね」
「設営理念?」

 サニーサイドの説明に華撃団関係者が頷き、響が首を傾げる。

「華撃団の隊員は、都市を守る戦士であると同時に、その都市に歌劇を捧げる巫女でもある。それが華撃団の設営理念だ」
「ああ、それで劇場が秘密基地だったんですね」
「そういう事。華撃団の戦闘部隊は全員俳優でもあるわ」

 大神の説明に響が納得し、紗羅檀が追加説明を加える。

「それでジェミニさんはあんな格好を…」
「あれは彼女の素だよ。テキサス出身でサムライから剣術を習ったらああなったそうだ」
「え?」
「あんなのNORNじゃ珍しくないわよ?」
「そうなんだ………」

 サニーサイドと紗羅檀の説明に今更ながら響は不安になる。

「今後も同様の転移現象が起きないとも限りません。能力や特性に応じて受け入れ先を決めるのは妥当かと」
「後は当人達が慣れてくれるかどうかだが」
「クーデター起こされて城を逃げ出した時に比べればいか程の事もなかろう」
「そんな事あったんですか………」

 エルナーの提案に千冬がマシロ達の方を見るが、マシロの漏らした事にどりあも思わずたじろぐ。

「では彼女達の受け入れ先はそれで決定という事になります。受け入れ準備の方を。続けて今回の個別転移現象の今後の影響についてですが…」
「とりあえず皆さんはここまでで」
「あとは指揮官クラス会議になるわ」

 ジュピジーと紗羅檀に促され、四人は会議室から外へと出る。

「あ、終わりましたか」
「おう、律儀に待っててくれたか」
「待った?」

 会議室の外でミコトを抱きながら待っていたらしいニナに、マシロとアリカが声をかける。

「しばらくここに厄介になる事になった。こちらの王族が面倒見てくれるそうじゃ」
「ああ、瑠璃堂先生ですね。パンツァー隊の指揮官も兼ねてる方だそうです。この学園でも最強クラスの実力者でもあります」
「確かに、どこかただならぬ雰囲気を持っておったな。もっともどいつもそんなのばかりじゃったが」
「そうだった?」
「さあ?」
「こんな鈍いので大丈夫でちか?」

 アリカと響の鈍さにゴーヤが呆れる。

「とにかく編入という事になるなら、まずは事務局でしょうか」
「案内を頼むぞ」
「あ、ガルデローベにも出さないと」
「連絡も取れないのでそれは不可能です」
「じゃあゴーヤ達は一度紐育に戻るでち」
「ジェミニさん剣道場だっけ」
「こっちよ」

 目的別に二手に分かれ、双方その場を後にした。

「それにしても、学校丸ごと飛ばされるなんて驚きだね」
「他にも基地丸ごととか、潜水艦や戦艦丸ごとなんてのもあるわよ」
「艦娘じゃなくてマジ戦艦でちか。鎮守府が飛ばされなくてよかったでち」

 響の何気ない呟きに、紗羅檀がほかの事例を教えるとゴーヤが顔をしかめる。

「今後起きないとも限らないわよ?」
「潜水艦丸ごとだったら、S.O.N.G.の母艦も飛ばされるかも…」
「ごちゃごちゃ来るのも問題でちね」
「そっちの方は手遅れね」

 あれこれ言いながら剣道場の方へと響達が向かうと、何か剣道場が騒がしい事に気付く。

「なんでち?」
「随分と練習熱心な学校なのかな?」
「まさか…」

 紗羅檀がデータにある前例を思い出しながら、皆が剣道場に足を踏みいれる。

「ミフネ流、ランブリングホイール!」
「きゃああぁ!」
「強いぞ、このテキサス娘!」
「サムライ少佐よりはマシだけど!」
「ウィッチや華撃団はこんなんばかりか!?」

 竹刀を手にしたジェミニのそばには、文字通り叩きのめされた剣道部の部員達が何人も転がっていた。

「あ、会議終わった?」
「一応私達の分は…」
「これ、あんた一人でやったでちか?」
「いや〜、紐育だと相手してくれる人少なくて」

 元気いっぱいのジェミニに、響とゴーヤは唖然としていた。

「ま、まだ手も足も出ないって訳じゃないから前よりはマシ………のはず」
「まったくとほとんどの違いの気が…」
「姫、これくらいで止めておいた方が」
「トラウマえぐる事になるから」

 あえぐ剣道部員達を見ながら、フブキと紗羅檀がジェミニを制止しようとする。

「トラウマ?」
「前にここの部員全員一人で叩きのめしたウィッチがいたのよ」
「ついでにほかの武道関係の部活と射撃関係の部活を総なめにしたそうです」
「いるんだ、そんなすごい人………」
「まあ、あっちこっちから色んなの集まってるでちから、そんなのが混じってても不思議じゃないでち」
「それと今通達が来ました。立花 響はしばらく紐育華撃団で預かるそうです」
「え、そうなんだ」
「ええ、しばらくよろしく」
「こっちこそ」

 フブキからの通達に、片手に竹刀を持ったままジェミニは響のそばまで駆け寄ると、その手を握って強く握手する。

「じゃあさ、ボクのアパートに来る? 一人くらいなら問題ないし」
「姫、正確には一人と武装神姫一体です」
「いいの?」
「ラリーも一緒だし」
「ラリー?」
「ほら、公園で会ったじゃん」
「姫の愛馬の事です」
「え、馬と住んでるの?」
「よく紐育にそんな物件あったでちね………」
「それじゃあ早速行こう! すいません、稽古に付き合っていただきありがとうございましたー」
「…どういたしまして」

 竹刀を置いて嬉々として響達を連れていくジェミニを、残った部員達はどこか畏怖の目で見送った。



翌日 学園 IS棟一年二組教室

「それでは、また転入生が増える事になりました」
「マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルームじゃ」
「アリカ・ユメミヤです!」

 自己紹介する二人に、二組の生徒達が色々囁きあう。

「あれが?」
「本物のマイスター乙HiMEだって」
「どっちが?」
「偉そうな方がマスターでそうじゃない方」
「分かりやすい………」

 好奇の視線が集中する中、二人はどこか平然としていた。

「それでは、席はニナさんの隣に」
「心得た」
「また一緒だね!」
「あまりはしゃがない」

 嬉々として席につこうとするアリカをニナがたしなめる。

「あれが、現役のマイスター乙HiME?」
「ええ、ただあまり期待はしない方が…」

 鈴音が話しかけてくるのに、ニナは言葉を濁す。
 その理由は程なく分かる事になった。


 昼食時、食堂でテーブルに突っ伏してるアリカを、マシロとニナが呆れた顔で見つめていた。

「あれ、例の転入生だよな? どしたの?」
「四時間目のIS運用論で限界来たらしいわ」
「ああ、オレも理解するのしばらくかかったからな〜」

 それを見かけた一夏の問いに、鈴音は理由を教えてやる。

「現役のマイスター乙HiMEって聞いたからどんなのかと思ったけど、意外と普通ね」
「やっぱニナみたいなのは珍しいんじゃ…」
「いや、こやつの能力が体力関係にだけ特化しとるだけじゃ」
「どうやらそのようです」

 鈴音と一夏の会話が聞こえていたマシロとジュピジーが、そこで若干訂正を入れる。

「確かに、体力だけはずば抜けてるのよね………舞闘次席で進級通過したし」
「何それ?」
「ガルデローベがコーラルからパールに進級出来るのは半数とは聞いとるか? 成績優秀者の上位半分じゃが、特例として舞闘、つまり戦闘能力の上位二名はその時点で進級が決まるからの。主席はニナじゃったが」
「昔の話です」
「つまり、彼女ニナ並みに強い?」
「ええ………」

 マシロの説明に鈴音がアリカの方を見るが、ニナがなぜか言葉を濁す。

「ちょうどいいわ、午後一はIS実習だし、ちょっと見せてもらおうかしら。今度は中断なんて事無いといいけど」
「中断?」
「その、私にIS適正があるとの事で前の実習で使用してみたのですが、なんでか途中で発火しまして…」
「発火!? ニナちゃん大丈夫だったの!?」
「ここの教習用ISは徹底した安全システム組まれてるからね、大した事はなかったわ。いきなり目の前で火吹かれた時はさすがに仰天したけれど………」
「こちらはそんな事無いじゃろうから安心せい。それにしてもここの装備ではニナの力に耐えきれんか………」

 マシロの最後の呟きに、鋭敏なセンサーで唯一捉えていたジュピジーだけが小さく首を傾げた。



五時間目 IS実習

「これはまた中々」
「ふへ〜すご〜い」

 何故か一組二組合同となった実習で、教習用ISのみならず一年生の専用機まで並ぶ様にマシロとアリカは驚く。

「何かやけに物々しくありませんか?」
「前回の例があるからな。正直マイスター乙HiMEとやらの実力が分からん以上、用心のためだ」

 ニナの疑問に、合同講師として来ていた千冬が呟く。
 その脇にはなぜか整備課や保健委員が準備万端で待ち構えていた。

「ニナ、そなた一体何をやらかした?」
「いえ、私もまさかここまで警戒されるとは」
「形式上の転入とはいえ、私の目の届く範囲で不用意な事故は起こすわけにはいかないからな」
「ましてや、女王陛下に何かあったら大変ですし」

 何故かいるどりあも頷く中、とりあえず実習が開始される。

「そういう訳だから、早速…」
「待て鳳。篠ノ之、ユメミヤ、その二人で組み手をしてもらおう」

 前に出ようとする鈴音を制し、千冬が箒とアリカを指名する。

「分かりました」
「はい! それじゃあマシロちゃん!」
「分かった」

 箒が紅椿で前へと出ると、アリカがなぜかその場で跪く。

「我、マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルームの名において、汝の力を開放する」

 アリカの前に出たマシロが、認証のワードを詠唱し、アリカの耳のマイスターJEMへと口づけする。

「え!?」「ええ!?」
「マテリアライズ!」

 突然の事に生徒達から驚きの声が上がる中、アリカはマテリアライズを開始、マイスターJEMに『ROSE BLUE SKY SAPPHIRE MATERIALISE START』と浮かび上がると、その身にピンクを基調としたローブをまとう。

「ま、マイスター乙HiMEってああやるの!?」
「そうです」
「耳にキスして!?」
「正確にはマイスターJEMにですけど。ああしてマスターの認証を受けるんです」
「つまり、毎回…」

 驚きながら鈴音がニナに問い詰めるが、ニナの説明を聞いた生徒達の喉が思わず鳴る。

「毎回、毎回…」
「真祖をマスターにするガルデローベの生徒や五柱は違いますけど」
「でもさあ、マスターって選べるの?」
「いえ、大抵は要請を受けて就任します」
「それっておっさんとかの可能性も…」
「はい」
「ちなみに、あなたの前のマスターってどんな人?」 
「私より小柄で年はほとんど同じでしたが、少年のような外見でした」
「ショタ!? ショタマスター!?」
「お前達その辺にしておけ」

 何か色々な疑問が飛び交う中、千冬が黙らせる。

「それでは、双方まずは軽めに手合わせを」
「はい」「分かりました!」

 箒が雨月と空割の二刀を構え、アリカがダブルセイバー型のエレメントを構える。

「始め!」

 千冬の号令と共に双方が掻き消えるように高速で動き、激突する。
 甲高い音が周辺に鳴り響き、双方の得物が鍔迫り合いを演じていた。

「なるほど、いい性能ね」
「母さんに比べたらまだまだだけど」

 双方笑みを浮かべた直後、箒が自分の得物ごと相手の得物を弾くと、紅椿を急上昇させる。

「なんの!」

 アリカもそれを追い、双方の距離がぐんぐん迫っていく。

「紅椿と互角のスピードか………」
「いや、双方まだトップスピードではないようですわ」
「なかなかやるわね」

 上昇していく二人を見た一夏の呟きに、セシリアが分析する中、鈴音は前回のニナとの手合わせを思い出して呟く。
 上昇していく中、突然アリカが真横へと動いたかと思うと、急角度の高機動で箒の死角を狙ってエレメントを振りかざす。
 紅椿のハイパーセンサーでかろうじてそれを捕らえた箒は雨月でそれを受け止めようとするが、予想外の重さに慌てて二刀に切り替える。

(なんてパワー! 見た目で判断しちゃいけないって分かってたけど!)

 一見するとただのスーツに見えるマイスター乙HiMEの戦闘力の高さに、箒は驚く。

「どんどん行くよ!」

 アリカも箒と紅椿の性能をある程度認めると、再度距離を取る。

「こちらからも!」

 双方がそのまま、すさまじい高機動マニューバを行いながら、幾度となくぶつかり合う。

「うわ、すごいなあ」
「双方本気でないとしても、かなりの物だ。速度は紅椿に分があるが、機動性とパワーは向こうにありそうだ」

 シャルロットが素直に驚嘆するが、ラウラは冷静に双方を分析していく。

「これならどう!」
「なんの!」

 箒が振るった刃から放たれたエネルギー刃を、アリカはエレメントで薙ぎ払う。

「今度はこっちが…」

 急上昇して上から狙おうとするアリカだったが、そこで耳のマイスターJEMから警告音が鳴り響く。

「あ!? いけない!」

 慌てて急降下を始めるアリカに、不審に思った箒が同じく急降下を始める。

「何か問題?」
「霊廟の管理システム下じゃないと、あまりマスターから離れるとマテリアライズ解けちゃうの!」
「そんな欠点が…」


「あやつ、有効距離忘れておったな」
「有効距離?」
「管理システムの無いここでは、マスターである妾からあまり離れると最悪マテリアライズが解ける」
「なるほど、マスターがグランドマスターをおぶったまま戦っていたのはそういう事ですか」

 マシロが慌てて下がってくる二人を見て呆れる中、理由を聞いたジュピジーが念のために有効距離を記録する。


「よし、これくらいで!」
「なら、仕切り直しと行くか」

 ある程度高度を落とした所で、両者は再度対峙する。

「はああぁ!」
「たああぁ!」

 双方の得物が激突する瞬間、力勝負は不利と見た椿が一刀で相手のエレメントをかろうじて受け流し、もう一刀を相手の胴に叩き込む。

「くっ!」
「まずは一本…」
「なんの!」

 用心して手加減はしたが、確かな手ごたえを感じた箒だったが、アリカはわずかに顔を歪めながら力任せの一撃で紅椿を強引に弾き飛ばす。

「この…」

 直撃は避けたが、一瞬機体制御を失う程の一撃に箒の背に冷たい物が走った。


「つっ…」
「陛下!」

 腹を抑えたマシロに、ニナが慌てる。

「仔細無い。アリカめ油断したな」

 顔を歪めていたマシロがなんとかその場を取り繕う。

「大丈夫ですか!? 一体…」
「なるほど、ダメージを共有とはそういう事か」

 二組の担任が慌てる中、千冬は先程アリカが一撃食らった所と同じ個所をマシロが抑えた事に気付く。

「これくらい、乙HiMEのマスターとしては茶飯事じゃ。気にするな」
「そう言われてもね………」
「あいつが死なん限り、妾も死なん」
「いや、そういう意味じゃなくて」

 胸を張るマシロに鈴音がどこか不安な視線を送るが、平然とするマシロに一夏も何か言うべきかと思うが言葉が浮かばない。

「ヴィントブルーム陛下、そろそろ中断させるか?」
「いや、もう少しやらせい。こちらでの戦い方を把握する必要があるでな」
「なんなら治癒能力を持つ方達も待機してますので遠慮なく」

 千冬も心配したのか中断を申しでるが、マシロはそれを遮り、どりあもバックアップ万端な事を告げておく。

「はああっ!」
「たあっ!」

 もう何度目かも分からない激突の後、両者は一度距離を取る。

「どうやら、もう少し本気を出してもいいようだな」
「うん、そうだね」

 互いに確認した所で、箒は紅椿の出力を上昇させ、アリカの手にしたエレメントがダブルセイバーから長大なダブルランスへと変化する。

「では、行くぞ」
「こっちも!」

 先程よりも加速した両者が、互いの得物で激突する。
 内包したエネルギーが周辺に凄まじいスパークとして飛び散り、下で見ていた者達も思わずたじろぐ。

「ちょ、これ大丈夫か!?」
「前言撤回じゃ! これ以上は練習で済まんぞ!」
「双方そこまでだ!」

 一夏とマシロが慌て、千冬も中断を命じる。

「そ、それが!」
「は、離れない!」
「なんだと!?」

 箒とアリカが、鍔迫り合いの状態で何故か膠着してしまった事に焦り、千冬も予想外の事態に驚く。

「オレの零落白夜で!」
『大丈夫』

 一夏が白式で救助に向かおうとする時、その場にいた何人かに突然声が聞こえる。
 直後、スパークが収まり膠着していた得物が離れる。

「収まった…」
「取れた!」

 箒とアリカも胸を撫でおろすが、そこで周囲を見回す。

「今のは…」
「誰!?」

 何者かの干渉で事無きを得たらしい事を気付いた箒とアリカが周囲を見回すが、それが誰かは分からなかった。

「今の、ナノマシン干渉………」

 唯一、それが誰の仕業か分かったニナは急いでその場から相手の元へと向かっていた。



「アイーシャ!」

 病室に飛び込んだニナは、そこで身を起こして窓の方を見ていたアイーシャがこちらに振り向くのを確認する。

「さっきの…」
「今戦っていたのは、ニナの仲間?」
「その、多分………」
「あの赤いISとは戦わない方がいい。どっちも内包エネルギーが半端じゃない。危うく双方が互いのエネルギーを引き出しそうになってああなった」
「貴方は大丈夫!? 無理をしたら…」
「少し干渉しただけ、でも少し疲れた」

 息を吐きながら、アイーシャはベッドに横たわる。

「ありがとう。でも体は大事にして」
「今の私にはこれくらいしか出来ない。ニナも仲間が来たら大事にしたらいい」
「………そうする」

 取りあえずアイーシャは大丈夫らしい事を確認したニナは、礼を述べて部屋を出る。

「今のがアイーシャ・クリシュナムの力か」
「狙われた理由がこれで分かりましたわね」
「はい、囚われていた時も何度も助けられました」

 いつの間に来たのか、廊下にいた千冬とどりあに、ニナは説明する。

「ともあれ、今後篠ノ之とユメミヤを戦わせるのは禁止だな」
「能力が強すぎるのも何かと問題になりますわ」
「全力でなくて何よりでした………」

 思わずため息を漏らす千冬とどりあに、ニナも思わず言葉を濁す。

「もう少しマイスター乙HiMEに対して情報が必要だな」
「他にも相性問題があるかもしれませんし」
「こちらではそんな事気にした事ありませんでしたが」
「今後の課題だな。まあ篠ノ之もユメミヤも軽症で済んだのが何よりだ。性能のお陰だろうが」
「発火しないで済みましたし」
「下手したら発火じゃ済まないかと………」

 今後の課題を色々話し合いながら、三人は授業へと戻っていった。



「ふーん、交換はうまくいったんだ。じゃあ次の課題だね。今度は、こういうのはどうだろう………」





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