第二次スーパーロボッコ大戦
EP65



「こちらFFR―31。現在《学園》は全通信システムがダウン、現状の詳細確認は不能。安全圏からの偵察を続行します」

 高高度、コピーネウロイが来れないと確信出来る場所から学園の被害状況を確認していたシルフィードが、持てるセンサーその他を駆使して偵察を続ける。

「機械と下着の中に潜り込むって、どんな特性よ………私達も下着じゃ済まないのは自明の理ね」

 得られた情報から、シルフィードは半ば呆れていた。

「見た目的には全然被害出てないのが最悪ね……増援も下手に送れない。コンゴウも水中じゃ連絡取りようもないし。重力通信機の小型化を進めてもらった方いいかしらね」

 自分の能力の限界を感じながら、シルフィードはカメラやセンサーの感度を限界ぎりぎりまで調整する。

「現在戦闘中はIS二機とRV二機、敵コピーネウロイは数を減少中。戦闘による撃破ではなく、コアである小型の破壊による物と推測。つくづく厄介な敵ね」

 シルフィードは戦闘状況を記録しつつ、呟く。

「多種多様な敵の存在は確認していたけれど、こんなのまで出てくるとは………戦術戦略の根本的見直しが必要ね。けど、JAMらしくない」

 現状で確認できる情報を精査したシルフィードが、ある疑問にたどり着く。

「この作戦を考えたのは、JAMなのか、それとも………」


同時刻 学園内 黒ウサギ隊基地

「…どうだ? 先程の虫はこれで全部のようだが」
「 おそらくは信じられない程小さい小型ネウロイだと思われます」
「しかも電子機器破壊を得意とするタイプの」
「下着に入ってきたと思ってそちらに注意を取られ過ぎました」
「ダメです。やはり開閉システムの回線がどこかで破壊されてます。反応ありません」
「部隊のIS全機、すべて動作がおかしいです。危険すぎて使えません」
「通信もダメです。先日に引いたばかりの学園との有線回線すらも連絡がとれません」
「くそ! おそらく学園全部がこの状態だろう」

 照明システムすら不調を起こし、明滅を繰り返す中で自分達の基地に閉じ込められた黒ウサギ隊の隊員達はその被害状況に頭を抱えていた。

「くそ、こうなったら手動で扉を砲撃するしか」
「落ち着いてください副隊長! 加減すら出来ないのにIS用の火器を使ったらどうなるか」
「扉の向こうは普通の建物です。下手したら余計な被害が…」
「分かってる。隊長がおそらく奮闘してる時に何もできんとは不甲斐ない」
「我々も同じ気持ちです」

 隊員の誰もが悲壮な顔をする中、誰かのくしゃみが派手に響いた。

「副隊長、とりあえず室内の小型ネウロイは全滅させたので、その、下着を履いてもよろしいでしょうか?」
「そうだな。少し慌て過ぎたか」
「………地獄絵図でしたからね…」
「基地内でなければ流石に脱げませんよ。一応男性もおりますし」
「だな。さすがにやるやつはいないだろう」

 期せずしてある意味正しい対処をしていた黒ウサギ隊だったが、他にやっている者がいるとは思いもしなかった。



「そこなのだ!」

 マオチャオが飛来したコピーネウロイを切り裂く。

「大分減ってきたかな?」
「そうらしいのだ。でも一匹でも残すわけにいかないのだ」

 他にいないかを探すどりすに、マオチャオが自らのセンサーを使って残りを探す。

「いちいち妙なモンに紛れてきてよるし………」
「メッセージボトルはともかく、この時代にジュース缶やペットボトルが流れてくる訳有りませんし」

 浜辺に有るゴミを片っ端から攻撃し、たまに当たりを引いてコピーネウロイが吹き出しては潰していく最悪のもぐら叩きに、のぞみとサイコは思わずボヤく。

「さっきのなんか、中身ただの腐った酒だったで………終わったら服も体も全部洗わんと」
「このまま管理システム破壊が続けば、給水システムもどうなるか………」
「冗談やないで!? ええい、もう海で洗うか」 
「中央管制は更識姉妹がなんとか守ってるのだ。最低限のライフラインは何とかなってるはずなのだ」
「だといいけどな。連絡も取れへんから何がどうなってんのかさっぱり分からへん」
「皆さん独自に各個撃破してるのは確かですが………」
「武装神姫の通信はかろうじて使えるのだ。一応駆逐は進んでいるらしいのだ」
「う〜ん、やっぱり相手がここまで小さいとやりにくい〜」

 どりすのボヤキに、全員が頷く。

「恐らくそれが狙いなのでしょう。極限なまでに感知・発見されにくい個体。なぜ下着の中に潜り込むかは不明ですが」
「あれなかったらもっとバレへんかったよな?」
「そうだね………なんでだろ?」

 他にコピーネウロイがいないかを探る一行だったが、ふと開けた場所で奇妙な物を発見する。

「………何あれ?」
「さあ………」
「オイ、何のつもりだ?」
「しっ!」
「むご〜!」

 その奇妙な物、何故か海パン一丁でこちらに背中を向ける裏表逆の状態で磔(※猿轡付き)にされている一夏に、専用機持ち達数名が物陰から得物を構えていた。

「それが、探すよりはおびき出した方がいいじゃないかって話になって………」

 ツガルの説明にパンツァー達は半ば呆れる。

「で、あれが囮って訳かい」
「男で囮になるのでしょうか?」
「来ました!」

 どこかから飛来したコピーネウロイが磔にされた一夏の足にすがりつくと、そのまま足を昇り始める。

「そこだ!」
「むごが〜っ!?」

 コピーネウロイが海パンに入ろうとした瞬間、箒が竹刀を横なぎに振るってコピーネウロイを叩き潰し、一夏の口からくぐもった悲鳴が上がる。

「よし、いける!」
「いっていいんか?」
「痛そう………」
「あまり公然とやっていいとは思えませんが」

 囮作戦がうまくいった事に喜ぶ箒だったが、パンツァー達からは総突っ込みを食らう。

「じゃあ誰か代わりする?」

 鈴音からの提案に、パンツァー達は全員首を左右に振る。

「よし、次を待とう」
「次私ね」
「あくまで潰すのは敵です。一夏さんのお尻では有りません」
「分かってるわよ」

 再度物陰に隠れる箒に、鈴音とセシリアが順番待ちを告げるが、鈴音の手に握られた長柄の青龍刀にパンツァー達の顔が引きつる。

「おいそれ………」
「練習用の模造刀、刃は付いてないわ」
「それで彼のお尻を狙うんですか?」
「ちゃんと腹で叩くわよ」
「痛そう………」
「来ましたわ!」
「そぉい!」

 再度飛んできたコピーネウロイ目掛け、鈴音が野球のスイングよろしく模造青龍刀を振り回し、一夏の尻ごとコピーネウロイを叩き潰す。

「むごぉ〜!」
「よし、次!」
「それ以上やったら、そいつの尻使い物にならなくなるで………」
「ここの医療設備でなんとかなるでしょうか?」
「………何をしてるんです?」
「まあなんとなく分かるが」

 そこに何か荷物を抱えたココロと華風魔が通りかかり、奇妙な物を見る目で専用機持ち達を見ていた。

「見ての通り、一夏を囮にして殲滅戦の最中よ」
「随分貧相な殲滅戦じゃの」

 模造青龍刀を手に鼻息を荒くする鈴音に、華風魔は哀れな物を見る視線で一夏を見る。

「それより有効な方法が有ります。攻撃が小康状態の内にこの学園全体に浄化術を試みます。ネウロイが魔法関係に弱いのなら、一気に殲滅出来るかもしれません」
「出来るの!?」
「残ってる奴全部!?」

 ココロの提案に皆が驚く中、ココロは頷く。

「可能性ですが。効率を上げるために手伝ってもらえますか?」
「何すればいいの?」
「この場所にこの楔を打ち込んでください。出来れば潜在力の強い方、ここだと箒さんとどりす王女に」

 ココロがどこから用意したのか紙の地図にちょうど五芒星の配置になるようにつけられたマークを指さす。

「ココロ殿と某を入れても四人、あと一か所………一夏殿は無理か」

 相変わらず張り付けられたまま、すすり泣きしている一夏を見た華風魔が残った一か所のポイントの事を考える。

「織斑先生か瑠璃堂先生は?」
「お二人とも各所を回って指揮の最中でした」
「通信機器は完全に死んでますからね」
「誰かあとおるか?」
「ポイニーさんとエスメラルダさんはまだ交戦中ですし」
「ニナは?」
「彼女のはナノマシンとの干渉能力なので、こちらのとは少し………」
「なら私とのぞみさん二人がかりなら」
「それで行きましょう」
「これを渡しておこう。楔をセットしたらあげるのじゃ」

 ココロがそれぞれポイントを指示しながら太めのポール状の楔を渡し、華風魔がやけにレトロな信号弾を手渡す。

「通信手段がこれしかないか………」
「仕方ありませんね」
「じゃ私達はもうちょっとここで粘ってみますわ」
「やり過ぎないように………」

 互いに頷くと、楔を持ってそれぞれのポイントへと向かっていく。

「本当にこんなんでこのエロエネミー倒せるんか?」
「このまま気長にもぐら叩きするよりはマシでしょう」

 半信半疑ののぞみだったが、サイコは思考を切り替えていく。

「それとどりす一人にして大丈夫か?」
「一応マオチャオがついてます。迷う事は無いでしょう」
「あれもどりすとどっこいやしな………」

 別れたどりすを心配しながら、二人は指定ポイントへと向かって走る。

「そこか!」
「あっち行った!」
「向こうから人が来ます、注意を」

 向かう最中、何か凶悪な威力の高圧洗浄機を使ってコピーネウロイを掃討しているニナとアリカを見かける。

「………ありゃキレとるな」
「何か有ったのでしょう」
「よっぽど身持ち固かったんやろな………」
「ええ、多分………」

 高圧洗浄機を連射しまくるニナの姿に何かをそこはかとなく感じつつ、飛んでくる流れ水弾を避けながら二人は更に足を速める。

「他にもキレてる奴おるんやろな………」
「私達もそうな気もしますけれど」

 大分少なくなったが、時たま聞こえてくる悲鳴と怒声に二人は顔をしかめながらも足を止めない。

「そろそろやないか?」
「なるべく水際に置きましょう。まだ排除してない偽装ポッドがある可能性も高いので」

 指定されたポイントに二人は楔を打ち込んでいく。

「後はこれ掴んどきゃいいんやったな」
「連絡を」

 楔を掴んだままののぞみに、サイコが渡されていた信号弾を打ち上げる。
 ほぼ同時に他の個所からも信号弾が上がっていくのを見たサイコが頷くと自分も楔を掴む。

「で、どうなるんや?」
「さあ? 魔術とかの事はさっぱり分かりませんので」
「ウチもそうやけど…」

 言ってるそばから楔が光り出し、同時に明確な疲労感が二人を襲う。

「ちょ、そういう訳かい!」
「明らかに、エネルギーのような物を吸われてますね………」
「他んとこは大丈夫なんやろか………」


「我が右手にミカエル、我が左手にガブリエル、我が右足にウリエル、我が左足にラファエル。四天の力ここに在りて、悪しき物払わん事を!」

 ココロが聖句を詠唱しながら、浄化術を発動させていく。

「ヴァーデ レトロ サターナス!」

 聖句の完成と共に、五か所の楔から発せられた光が五芒星を構築し、学園全体を光で染め上げる。
 それにあぶり出されたようにあちこちから湧いてきたコピーネウロイが、浄化術の負荷に耐え切れず破裂するように砕けていった。

「せ、成功した………」

 その様子を見たココロが、大きく息を乱しながら楔にもたれ掛かる。

「ココロ!」
「ココロちゃん!」

 上空から降下してきたエスメラルダとポイニーが慌ててココロのそばに降りてくる。

「敵は全て消滅した! コアの掃討に成功したようだ」
「すごいね、こんな事出来るなんて!」
「セピア姉さんならもっと早く確実に出来たんだろうけど………」
「あれ、お姉さんいたっけ?」
「従姉の事だろう。最初そちらにGの勧誘が行ったと聞いている」
「へ〜、そうなんだ」
「まあ、浄化のついでに爆弾で吹っ飛ばすのがたまに傷なんですけど………」
「………たまに?」

 そこはかとなく危険な事を聞いたエスメラルダが首を傾げるが、そこでRVのセンサーが甲高いアラームをかき鳴らす。

「大型反応!?」
『こちらラウラ! 接近していたネウロイ消失直後、大型がこちらに向かってきている! 迎撃に入るが、残弾が少ない!』
「今向かう! だがこちらもプラトニックエナジーが…」

 飛び込んできたラウラからの報告に、エスメラルダもたった四機だけで迎撃戦を行ったツケが迫っている事に思わず顔を歪める。

「ポイニー!」
「ごめん、私も回復ドリンク切れてる!」
「わ、私のが…」
「それこそ自分で飲みなさい! 行くわよポイニー!」

 ココロが取り出した回復ドリンクを明らかに自分達より疲弊しているので断ったエスメラルダが、RVを急上昇させて迎撃へと向かっていく。

「見えた! 大きい!」
「分類は大型ネウロイ、あれより大きいのとウィッチ達は戦った事あるらしいけど………」
「向こう、ISがすでに交戦中!」
「さすがにこのサイズ差は………」

 巨大なUFOを思わせる大型ネウロイに、すでに攻撃を開始しているのが見えたエスメラルダはそれがあまり有効的で無いのも気付いていた。

「そちらの残弾は!」
「私はレールカノン用の砲弾はもう数発、不用意に使えん!」
「ボクも重火器は品切れ! 小火器ならまだ残ってるけど………」
「この巨体相手では………」
「コア反応確認! ちょうど中央部のど真ん中!」

 ラウラとシャルロットはコピーネウロイ子機との戦闘でほとんど弾薬を使い果たし、ポイニーがRVのセンサーで探り当てたコアはもっとも装甲が厚い所の最奥に有った。

「恐らく、全て計算づくの戦術か………」
「増援は!?」
「学園内の機体はどれも使用可能かどうか不明、通信設備も使用不能で救援も呼べまい」
「あまりに作為的過ぎる………JAMとはここまで策を練れる相手なのか?」

 シャルロットが大型相手にはあまりに心もとないアサルトライフル《ヴェント》とショットガン《レイン・オブ・サタディ》を構えながら叫ぶが、ラウラは首を横に振り、エスメラルダはある疑問を感じていたが、それは大型コピーネウロイの一部が発光した事で途切れる。

「散開!」「散れ!」

 ラウラとエスメラルダが同時に叫びながら、四機がそれぞれ別方向に散り、直後大型ネウロイから赤い閃光が放たれる。

「うわっ!」「ひゃあっ!」

 シャルロットとポイニーの口から思わず間抜けな声が漏れるが、放たれた閃光は太く、離れていても熱量を感じる程に強力だった。

「なんて威力だ………」
「下手な宇宙戦艦並だ、ウィッチはこんなのと日常的に戦っているのか………」

 ラウラとエスメラルダも凄まじい威力に思わず冷や汗が滲み出す。

「私とシャルロットで隙を作る! そちらで何とかコアの露出を!」
「分かった!」
「シャルロット! 攪乱に徹するぞ!」
「任せて!」

 瞬時に作戦を決めると、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンはプラズマ手刀を展開、ヒット&アウェイで大型ネウロイに斬りかかり、シャルロットのラファール・リヴァイヴ・カスタムUは高速で旋回しながら銃弾を叩き込んでいく。
 だが相手の巨体の前に効果の程は薄かった。

「ダメ! ほとんど効いてない!」
「構わん、相手の注意をこちらに向けられればいい!」

 小口径火器では大型ネウロイの表面に傷をつけるだけに終わるのをシャルロットが歯噛みするが、ラウラは構わず攻撃を続ける。

「ポイニー、下から中央コアを狙え! 私は上から狙う!」
「OK〜!」

 エスメラルダの駆るジェイドナイトとポイニーの駆るファルシオンは機体を翻し、大型ネウロイのコア反応の有った部分を上下から狙う。

「プラトニックエナジ―チャージ、プラトニックブレイクスタンバイ!」
「スタンバイOK!」
『プラトニックブレイク!』

 ジェイドナイトから大型ラウンドレーザーが、ファルシオンから水晶竜が放たれ、大型ネウロイのコア反応の有る部分が上下から同時に穿たれる。

「どうだ!?」
「見えた!」

 破壊された装甲の中に見える赤いコアに、ラウラが大口径レールカノンを照準する。

「食らえ!」

 正確に照準し、対艦用プラズマ砲弾を放ったラウラだったが、直後に信じられない事が起きる。
 砲弾が炸裂する瞬間、コアがその場から消える。

「!?」
「な…コア移動型か!」

 砲弾が炸裂してプラズマが巻き散らされるが、それが無意味になってしまった事にラウラとエスメラルダが気付く。

「コア反応を再サーチ!」
「あっち!」

 シャルロットとポイニーが慌てて機体のセンサーをフル稼働して移動後のコアの場所をサーチする。

「もう一回…」
「まずい、先程のでプラトニックエナジーは限度だ!」
「こちらも対艦砲弾は後一発だけだ!」
「このぉ!」

 エスメラルダ、ラウラ共に再攻撃が困難と判断する中、コア反応が装甲の薄い端に移動している事に気付いたシャルロットがパイルバンカー≪グレースケール≫でコアを狙うが、パイルが突き刺さった瞬間、再度コアが移動する。

「また動いた!」
「どういう構造をしている!?」
「止むを得ない、残弾を全て叩き込んで飽和攻撃を…」

 ポイニーが再度コアが動いた事を確認する中、ラウラが歯噛みしエスメラルダは残弾全てを発射しようとするが、そこで大型ネウロイの各所が発光し始める。

「散開!」
「最大防御」

 ラウラとエスメラルダが同時に叫んだ直後、大型ネウロイの各所から一斉に閃光が放たれる。

「うわあ!」
「きゃあ!」

 先程のとは違い、威力は落ちる物のハリネズミのような無数の攻撃にシャルロットはシールドを構え、エスメラルダはシールドを最大にしながら回避し、なんとか防御する。

「なんと多芸な!」
「迷惑な事にね」

 無数のビーム攻撃を何とか回避したラウラとエスメラルダだったが、双方の頬を冷たい汗が滴り落ちる。

「どうする?」
「大型転移装置は停止、学園内の残った機体は起動可能かどうかも不明、なんとか増援が来るまで…」

 ラウラとエスメラルダが必死になって策を練る中、突如として上空と下方からの攻撃が大型ネウロイに炸裂する。

「増援か!」
「こちらFFR―31、小型敵機の殲滅と判断、加勢するわ!」
「コンゴウもか!」

 上空から急降下してきたシルフィードと、海中から浮上してきたコンゴウから放たれたミサイルとレーザーが大型ネウロイに次々と炸裂していく。

「こちらも総攻撃だ!」
「もちろん!」

 ISとRVもそれに応じて残った残弾を使い果たさんばかりに撃ち込む。

「でもコアを破壊しないと…」
「コンゴウにはアレがあるでしょ!」

 シャルロットの呟きに、ポイニーがウインクする。
 それに答えるようにコンゴウの船体が展開していった。

「超重力砲か!」
「? 何かおかしい」

 ラウラがコアの移動もお構いなく吹き飛ばせるコンゴウの切り札に声を上げるが、エスメラルダは先程からコンゴウの攻撃に何か違和感を覚えていた。


その頃 大戦艦コンゴウ ブリッジ

「撃ちまくるでし!」
「こんなの撃った事ないよ!」
「大体狙えば当たるよ!」

 小型コピーネウロイの攻撃で各所に破損が生じている火器管制の代わりに、臨時にマニュアルで引き直した火器管制を潜水艦娘達が操作して大型ネウロイを攻撃していた。

『今だ、超重力砲展開。照準頼む』
「何で私が〜!」

 ブリッジ中央、サブコンゴウの指示で作られたばかりの照準システムのトリガーを、何故かあおが握っていた。

「ブッカー隊長からも何か有っても私が射撃するくらいならFAGに任せろって言われてるのに!」
「こっちで出来るだけサポートするから!」

 わめくあおにイノセンティアが照準システムを自分に直結させて照準を調整していく。

『目標をセンターに入れてトリガー』
「FPSは苦手なんだって!」
「トラクタービームの演算はそっちで! こっちは照準で手一杯!」
「上空味方陣営への退避勧告したよ!」
「ちょ! なんか船体ぶれてるよ? 大丈夫?」
『トラクタービームのジェネレーターに損傷あり、これが限界』
「念のためにもっと離れてもらって!」
「離れたら早く打つでち!」
『予測影響範囲からの退避確認』
「ええい! ターゲットインサイト! 超重力砲、発射〜!!」

 半ばやけくそに叫びながら、あおがトリガーを引く。
 放たれた超重力砲が大型ネウロイの中心部から少しずれた場所に直撃、その巨体を移動していたコアごと大きく吹き飛ばすと、残った部分も誘爆、そして一気に崩壊していった。

「やった!」
「さすがの威力ね」
「他に敵はいないでち?」
『センサー系に多少不備が出てるが、反応は無い』
「まだ少しは小さいの飛んでるかも」
「取りあえず帰還を」

 戦闘が終了したと判断し、コンゴウブリッジ内に安堵の吐息が漏れる。

「今学園内どうなってるだろ?」
「大変なのは確かね」

 しおいが漏らした呟きに、イムヤが顔をしかめる。

「通信システムは完全にダウンしてるみたい。それだけでもかなりの損害だね」
「こりゃ修復にえらい事になるわね」

 イノセンティアが通信状況を確認して顔をしかめ、はっちゃんも思わず頷く。

『大型転移装置はかろうじて破壊を免れているらしい。点検と再起動にかかるだろうが』
「あの、ここ転移装置届く前に半サバイバルしてたって聞いてるんだけど………」
「多分直るまでそうなるでち」

 サブコンゴウからの報告にあおが思わず呟いた事に、ゴーヤが渋い顔をする。

「えええ!? 私アウトドア趣味なんて無いよ!?」
「あなたも一応軍人じゃなかったでちか?」
「私スカウトされて入ったから、軍事訓練なんて最低限しかやってない〜!」
「何で今ここにいるの?」

 新たな問題におあがまたわめく中、潜水艦娘達が呆れる。

「カルナダインも401も出払っちゃってるからな〜。救援も遅れるかもね」
「ダメ押ししないで!」

 イノセンティアのダメ押しにあおに泣きが入り始める。

「食料の備蓄もあるし、寝床も無事ならしばらく問題ないでち」
「少なくても海上で交代で寝るよりはね」
「そうそう」
「私は一般人! 軍属だけど特殊訓練も何も受けてないから!」
「艦娘って結構ハードなんだね………」

 平然としている潜水艦娘達とわめくあおと呆れるイノセンティアを乗せ、コンゴウは学園へと着港した。


二時間後 学園中央管制室

「で、現状で判明している被害は?」
「大は各種設備、特に黒ウサギ隊基地はほぼ機能停止状態、小は個人所有の電子機器に至るまで。ISは学園保有、専用機合わせて全機総点検中、パンツァーも同様です。コンゴウは現在セルフチェックと修理中、一部マニュアル操作ですが戦闘力は維持しています」
「通信関係は?」
「学園の通信設備は現在修復中、外敵交戦していた機体の通信は生きているので、そちらで現状を各所に報告、必要に応じて救援を送るそうです」

 念のため防護メットを外しただけの千冬とどりあが、簪からの被害報告を受けていた。

「散々たる有様だな」
「前回、前々回の方がまだマシね。破壊箇所が目に見えた物」

 千冬、どりあ共にそこで重苦しいため息を吐き出す。

「大型転移装置は破壊前に完全停止させたので無事らしいとの事ですが、点検及び安全の確認まで再起動はしないそうです」
「妥当な話だ。あれはここの生命線だからな」
「ライフラインの影響は?」
「ここが無事だったので致命的影響は出ていませんが、各所で電気水道関係のトラブルが頻発、随時対処中ですが何せ数が多くて………」
「工兵でも救援に送ってもらうべきか………」
「元栓閉めてどうにかならないかしら?」

 あまりの修理箇所の多さに二人は頭を抱え込む。

「コンゴウの戦闘力が消失する前に潜航してたのは行幸だったな」
「ええ、最後のは彼女の超重力砲が無ければ危ない所でした」
「またこの手のが攻めてこないといいが………ご苦労だった更識。作業に戻ってくれ」
「はい」

 千冬とどりあは考え込みながら、簪を下がらせる。
 しばし二人は無言で考え込むが、やがてどちらともなく口を開く。

「どう思う?」
「おかしい、の一言ですね」

 千冬の問いに、どりあが頷く。

「今までのJAMの戦術は、こちらの戦闘力をむしろ引き出そうとしていた。だが今回は逆だ」
「下着の中に潜り込む妙な特性さえ無ければ、もっと事態は深刻になっていたでしょう」
「何らかの理由でJAMの戦術が変わったのか?」
「FAFの方と協議してみないと何とも………けれど、戦術が変わる一番の可能性は」
「軍師か」

 どりあの指摘せんという事を千冬が口にする。

「何者かがJAMに入れ知恵した、その可能性が高いでしょう」
「しかもこの陰険極まる戦術、まるで人間が考えたようだ」
「下着の中に潜り込むのもでしょうか?」
「それは多分向こうにもイレギュラーだろう。だが…」
「JAMと組む人間、なんて方がいるのかしら?」
「分からん………」

 二人はただ唸りながら考えるが、答えは出そうには無かった。


同時刻 学園IS格納庫

「セルフチェックだけでなく外部チェックも走らせて! どこが壊れてるか目視確認は不可能よ!」
「そっちの武装関係も! FCSに潜り込まれたかも!」
「それ以前に検査機器も無事!?」

 整備科の生徒達が総出で学園保有のISと専用機全ての点検を行っていた。

「全く、えらい目に会いましたわ」
「違いない」
「あああ、思ったより深いとこまでやられてる………」

 専用機持ち達も自機の点検を行い、問題が無いかを総点検していた。

「さすがに姉さんもあんな小さい敵は想定してなかったろうからな」
「誰もしておりませんわよ」

 箒とセシリアが各種ラインの損傷を確認しながらボヤく。

「あんな小さいくせに、なんでこんなとこまで壊されてるのよ! これ自己修復したら変な繋がり方しそう………」

 鈴音が予想以上に深刻なダメージに頭を抱え込む。

「シャルロットとラウラは?」
「念のため完全遮蔽でチェック中だそうですわ。最後まで飛んでいたのを見る限り大丈夫そうですけれど。それと黒ウサギ隊の方々、いの一番に基地のドアロックと所有ISに潜り込まれて、先程まで閉じ込められていたそうです」
「簪と盾無会長は用心してまだ管制室の警備だって。あれだけいたら一匹二匹残ってるかもね〜」
「イヤな事言わないでくださいまし!」
「全くだ。だが総数が不明な以上は全滅したかどうかは容易に判断出来ん」
「勘弁して………」

 箒の言葉に、その場にいる全員がうんざりした顔をしていた。
 なおその頃、一夏は医務室で尻に氷嚢を当てながらうめいていた。



「う〜ん………」
「いかぬ、やはりいくつか潜り込まれてたようだ」

 自分のRVをチェックしていたココロと華風魔が、幾つか出ているエラーサインに顔をしかめていた。

「自動修復にも限度があるそうですし、本部に戻るかマドカさんが戻ってくるのを待つしかないですね………」
「我らでは直す事も出来ん。あの虫型が完全に駆逐確認されん限り、本部にも戻れんじゃろう………」
「間が悪かったですね。エスメラルダさんとポイニーさんも用心して隔離検査してますし」
「ココロ殿が浄化術を使わねばもっと事態は深刻になっておったろう。魔力の類に弱いのは行幸であった」
「初期の段階に行えればもっと被害を小さく出来たんですけれど………」
「言うだけ千無き事。あのような雲霞(うんか)がごとき相手では、まずは己の身を守らねば」
「そうかもしれませんが………」
「ちょっといいかしら?」

 少し思い悩むココロに、未だ高圧洗浄機を背負ったままのニナが声を掛けてきた。

「なんでしょうか?」
「あの小型殲滅した光、貴方がしたそうね?」
「正確には他の方の力も借りましたが」
「念のためもう一回、いえもっと小規模でもいいから出来ない? 完全に殲滅しておかないと」
「何度もやったら電子機器に更にダメージ出る可能性も有りますし、かなりエナジーを消費するので連続は………」
「そう………分かったわ。無理強いする気はないし」
「残敵は僅かじゃろう。今武装神姫達が総出で捜索してるゆえ、そこまで警戒はせずとも」
「しかし………クシュン!」

 華風魔にも諭され、ニナが悩む所でクシャミが飛び出す。

「それと幾らここが寒くない地域とはいえ、濡れた水着のまま歩くのはどうかと思うのじゃが」
「そ、そうね………そろそろ着替えるわ」

 ニナが高圧洗浄機を外しながらその場を去っていくのを見た華風魔がふと思いつく。

「他にもずぶ濡れの者達もいたような気がしたが」
「シャワー室に立てこもった人もいますね」
「大丈夫かの?」
「風邪薬を大量に用意しておいた方がいいかもしれません」

 二人の懸念は的中し、この後学園内に風邪が蔓延し大問題となっていった。


「ただいま〜」

 束が学園内に密かに作った秘密スペースに戻ると、設置されている簡易浴室の方を覗く。

「もう大丈夫ですか?」

 そこでずっとバスタブの中に避難していたクロエが顔を覗かせる。

「多分ね。小さいのは残ってるかもしれないけど。いや〜、まさかあんなのが出てくるなんてね〜」
「私の黒鍵とあそこまで相性が悪い敵がいるとは………」
「全くね。危うくくーちゃんのお尻だけじゃすまない所だった」
「お尻どころか神経に潜り込まれそうでした………」

 バスタブから上がったクロエがようやく胸を撫でおろす。

「しばらくは黒鍵も調整必要だろうから、外に出ない方いいね」
「分かりました。どのみち偽装も出来ないなら出られませんし」
「じゃあ私はここの点検したら紅椿と白式の修理してくるから。戸締りしておいてね」
「はい、緊急隔離モードですね」
「バウ!」

 そこで束は秘密スペースにいつの間にかいるチロの存在に気付く。

「なんでこの子が?」
「さあ? でも私に近寄るのはこの犬が捕まえてくれました」
「大した番犬だね、これで私に懐けば…」
「ウ〜」

 相変わらず束には警戒をむき出しにするチロに、束は呆れめたのかそのまま簡易浴室を後にする。

「貴方、ここに来るなら束様には愛想よくしなさい」
「バウ!」
「少し調教が必要でしょうか………」

 クロエもどうすべきか悩む中、とにかく着替えるべく脱衣所へと向かった。


「ラインチェックを念入りに! どこに破損が有るかもしれないので!」
「外部ラインの幾つかにらしき損傷があるな」
「さすがに内部までは入れなかったようですが………」
「アーク、そっち見て」
「了解マスター」

 エミリーと妖機三姉妹が中心となって大型転移装置の総点検が実施されていた。

「大きな損傷は無し、これならすぐにでも再起動できそうだな」
「念のため安全確保してからとの織斑女史からの指示ですけれど」
「コンゴウからまたエネルギーライン引かないとダメだしね」

 敵襲確認の直後に完全に起動停止させたためか、大型転移装置に思っていたよりもダメージが少ない事に妖機三姉妹は胸を撫でおろす。

「これが使えなくなったら今後の活動に大きな支障が出ますからね」
「………まさか、相手の狙いは最初からこれだったのでは?」

 エミリーも安堵するが、その一言に幻夢がふとある可能性を思いつく。

「有り得ますわね。現状、転移装置設置可能な母艦が少ない中、NORNの活動はこの大型転移装置によって支えられてますし」
「完全に動力落とすとは考えてなかったって事?」
「再起動も大変だからね………」

 狂花と亜弥乎も考え込む中、アークも思わず大型転移装置を凝視する。

「恐らくその可能性が高いでしょう。現状、
学園の機能は停止、NORNの活動に大きく支障が出ています。ここは各組織への中継点として機能していた以上、早急に機能を回復させないと今後更に影響が多くなるでしょう」
「ある意味、向こうの作戦は半分成功していたと考えるべきか………」

 エミリーの指摘に、幻夢は顔を曇らせる。

「しかし対処方も分かりましたわ。通常のネウロイよりも更に生体エネルギーに弱く、大規模な術のような物で一掃可能という事が」
「そういう事出来そうな人、それなりにいそうだし」
「司令部に上申しておくね」

 狂花の上げた対処法に亜弥乎がユナやウィッチ、華撃団の面々を思い浮かべ、アークはその情報をまとめていく。

「向こうも同じ手を何度も使うような馬鹿ではあるまい。アレンジされる可能性はあるが………」
「すでにあのコピーネウロイ特有の反応はデータにまとめてます。次は迅速に発見出来るかと。ただ通信設備もやられてるので送信が…」
「コンゴウのは無事みたいだからそっちから送るって」
「ホントに直す所だらけです事」

 あれこれボヤきながらも、大型転移装置の点検修理は大急ぎで進められていくのだった。



「そういう事で、なんとかなりました」
『そういう事、ね………』

 コンゴウに設置された次元通信装置であおは同じく設置されたばかりのFAFの次元通信装置越しにブッカーに報告を上げていた。

「データは先程送った通り、レポートはこれから書くので………」
「あおのレポートよりは私とシルフィードの観測データそのまま送った方よくない?」
『情報は複数から入手し、精査した方が精度が上がる。まああおのレポートの精度が今一なのは事実だがな』
「隊長ひどい! これでも頑張って書いてるのに!」

 イノセンティアの突っ込みにブッカーは一応フォローになってないフォローを入れ、あおは思わず抗議する。

「いきなり潜水したかと思えば、船内にまで注水されて生きた心地しなかったし! しかも超重力砲のトリガーまで押し付けられたし!」
『お前の腕でよく当たったな』
「こちらでサポートしました」
「ひどい!」
『とにかくそっちが完全に機能停止しなくてよかった。防御で火力ばかりに注視するのは危険だな』
「今回に限っては武装神姫の子達が頑張ってたみたい。サイズ的にちょうどよかったし」
『予見して配備してた訳ではないだろうが、相手もデカいのばかりとは限らないか………』
「とにかく、今急ピッチであちこち修理中です。私のタブレットもいつの間にかやられてました………」
『ホントに無差別だったんだな。むしろその方が厄介だが………待て、じゃあレポートはどうする気だ?』
「だからその代わりのを………」
『………分かった。誰かに持っていかせる。シルフィードは交代が行くまで警戒に当たらせろ』
「了解。というか私はいつまでこっちに………」
『今准将が上と色々調整してる。そっちが片付くまで詰めててもらう事になるだろうな』
「正直私がいて何か変わる事有るのかと………」
『エディスがお前の定期報告を随分と熱心に解析してるからな。まあ書類の上ではお前はこっちにいる事になってるし』
「それって偽装出張………出張費出ます?」
『出ないだろうな。じゃあそちらは頼む』
「ちょっと!?」

 あおの抗議を無視して通信が切られる。

「ブッカー隊長の人使い荒いけど、クーリィ准将は荒いなんてレベルじゃない………」
「まあ機密性の高い組織だから、多少は仕方ないんじゃない?」
「そういや就職の時に色々機密云々にサインさせられたっけ………」
「そっちも色々大変そうでちね………」

 通信装置の前で突っ伏しているあおを見かけたゴーヤが、若干哀れみのこもった視線をしつつ声を掛ける。

「あ〜、そっちはどう?」
「注水して一部ダメになった物はあるでちが、特に問題無いでち。元々私らは普段から防水性の使う事多いでちから」
「そうなんだ………私は買い置きのお菓子が水圧で全滅してた」
「それはこっちもでち」
「防水金庫でも用意した方いいかな………」
「そもそもあお出しっぱなしだったじゃん………」

 大小様々な被害が確認される中、学園各所で対処が進められていった。



「あ〜、テステス。感度はどうですか?」
『良好です。問題なさそうですね』

 アンテナの修理が終わり、簪が追浜基地との通信で最終確認を行っていた。

『大変だったみたいですね』
「まずは通信関係を最優先させるようにと織斑先生の指示で。まだ直す所はいっぱいあります………」

 タクミが心配そうに声を掛ける中、簪は思わずため息を漏らす。

「今大型転移装置の再起動準備にかかっています。それさえ動けばなんとか………個人所有のとかは後回しですけど。今個室の設備が使えないとの報告が山と来ています………」
『………本当に大変でしたね』

 疲れた顔の簪に、タクミは気の毒そうな表情を思わず浮かべる。

『生憎とこちらも数日中にソニックダイバー隊の支援で攻龍であちらの世界に赴く事になってまして、救援に向かってる暇が………』
「仕方ありませんよね………こちらでなんとかします」

 申し訳なさそうにするタクミに思わずため息を漏らしながら、簪は通信を切る。

「外部通信はよし、内部通信は確認中、60%は大丈夫と………」
「簪ちゃん、そっちの様子は?」

 通信関係を見直す簪に、未だISをまとったままの盾無が顔を覗かせる。

「外部通信は先程確認出来ました。問題は内部ですね………」
「こっちは探知索敵関係は再起動させたけど、今穴が無いか調べてるわ。にしてもホントこまごまと壊してくれた事………」
「完全復旧まで何日かかるか………IS関係は?」
「取りあえず織斑先生の指示で専用機を優先して修復してるわ。篠ノ之博士も協力してくれてるし。パンツァーの人達上位ランカーから順次修復中、ただ出撃してなかったRVは修理できる人員がいなくてしばらく無理だそうよ」
「ボロボロですね、今までで一番………」
「建物は何一つ壊れてないってのにね………」

 復旧状況を双方確認した所で、姉妹そろって思わず同時にため息を漏らす。

「501基地襲撃の際はここまでじゃなかったみたいね………」
「そりゃ電子機器の数が違うし………」
「通信の最後、ミーナ隊長が何をしたかそう言えば聞きそびれたっけ」
「何だったんでしょう?」

 密かな疑問の詳細は、501に厳重に敷かれた箝口令により、ついぞ知り得る事は無かった………



深夜 学園 大会議室

「ようやく被害状況がまとまったので報告する」

 なんとか復旧した通信と各種設備を使って、NORN所属組織のトップ会議が急遽行われていた。

「本日早朝、当学園にて無数の小型コピーネウロイによる襲撃を受けた。いつからこの襲撃が始まったのか、その詳しい時間すら不明だ」
「報告によれば、この小型コピーネウロイは漂流物に偽装したポッドを用い、当学園の警戒網を突破して潜入した模様です」

 千冬とどりあの説明に、通信枠越しに各組織の指揮官達は黙ってその報告を聞いていた。

「早期の段階で当学園は通信、警戒、を含めた各種システムがダウン、中央管理棟を守るのが精いっぱいだった」
「大型転移装置は襲撃判明してすぐにシャットダウンしたのが功を奏したのか、致命的な損傷は有りませんでした。数日中には復旧できるでしょう」
「だが問題は山積みだ。通信システムは復旧出来たが、レーダー関係は確認にしばしかかる可能性も有る」
「他に個室設備や個人所有の電子機器はもう手が付けようがない状態で………」
「被害は今までの襲撃で最大と言っていいだろう。一番の問題は外見上は一切被害が見えないという事だ」

 報告を聞いた指揮官達はしばし無言。
 だがおもむろに口を開く者がいた。

『何かおかしい。今までと違い過ぎる』
『確かに』

 最初に大神が、続けて門脇が口を開く。

『今までJAMはこちらの戦力をより引き出す戦い方をしていた。だが今回の学園の襲撃はまるで逆だ』

 さらに群像は今までその目と資料で見てきたJAMとJAMが繰り出してきた敵との戦いを思い出しつつ、大神の意見を肯定する。

『戦い方に変化が生じた、という事か』
『でも、おかしいね。なんで急に変わったのかな?』

 ガランドも頷く中、サニーサイドが新たな疑問を呈する。
 その疑問の答えを持っていそうな人物の通信枠に皆の視線は集中する。
 その人物、クーリィは表情を変えないまま、口を開いた。

『可能性は二つ、一つはJAMの興味の対象が変化した。もう一つは、JAMがその行動を変える要因が生じた事。根幹は一緒だが、後者は外的要因の可能性も有り得るでしょう』
「誰かが、JAMに口添えしたと?」

 クーリィの言葉に、千冬が険しい顔をする。

『可能なのかい? 言葉も通じるかどうか怪しい宇宙人なんだろ?』
『いえ、資料によればJAM自体は極めて高い知能を持っているのは確かです。根幹が我々とは全く違うだけで』

 グランマの疑問にジオールが補足説明をする。

『確かにメンタリティの面ではJAMのそれは人間とも、私達のような機械体のそれとも違います』
『かなり独自な進化を遂げたのでしょう。しかし………』

 更にクルエルティアと玉華の二人が補足するが、そこで二人とも言葉を途切れさせる。

『新参の意見で済まないが、そもそもコミュニケーションを取る事が可能なのかの?』

 新たに参加した健次郎(むろんぬいぐるみのまま)の意見に、誰もが首を傾げる。

『あくまで可能性での話です。それ以上はこちらでも何とも』
『あんな得体の知れねえのに組する奴がいたら、よっぽどの狂人だろうさ』

 クーリィの肯定とも否定とも取れない言葉に、米田が思わず苦言を漏らす。

「米田元司令の言う事だけは間違いないく頷けるな」
「まあ、確かに」

 千冬とどりあが頷く中、どの指揮官達も同様に思わず頷く。

『安全が確認されたならば、救援部隊を送ります。取りあえず自動修理ロボットと予備電子部品ですね。こちらのエリカがいないのでどこまで用立てられるか………』
『他の基地も同様の警戒をした方がいいか?』
『いや無差別なら学園のような孤島でない限り、狙い通りにはいかないだろう』
『むしろ設備が古い所は被害は少なくて済むだろう』
『じゃあ華撃団基地はむしろ安心か?』
『となると問題は…』

 各指揮官達の間で喧々諤々の議論が起きる中、JAMをもっともよく知るクーリィは黙考していた。

(まさか、またJAMの側に着いた者が現れたのか。しかし、一体誰が………)

 その懸念事項を口には出さずに、クーリィは議論を静かに聞いていた………



「う〜ん、うまく行かなかったか。そこが潰せれば向こうの行動を大きく制限出来ると思ったのに………組織間の情報共有と下着の中に潜り込む特性が消せなかったのが失敗の要因かな。じゃあ、今度は情報共有出来てない所を狙おうか。さて、どこにしようかな………」





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