第二次スーパーロボッコ大戦
EP67



「出撃可能な人は全員出撃! 順次艤装装備!」
「偵察機飛ばすわ!」
「ありったけの弾薬出せ!」

 横須賀鎮守府は多数の深海棲艦接近の報に、蜂の巣を突いたかのような騒ぎになっていた。

「よりにもよって提督不在の時に…」
「こちらもガランド少将不在だ。まさか狙ったわけではなかろうが………」

 鎮守府の作戦会議室に401から運び込まれた機材がセットされ、接近している深海棲艦の位置が表示される中、陸奥と美緒が思わず呻く。

「アーンヴァルだけでも残しておくべきだったか。偵察には最適なのだが」
「大本営召喚と鎮守府襲撃が同時に起こるなんて誰も考えてなかったわ………そっちに感知出来る子がいてなんとか奇襲は防げると思うけれど」
「問題は規模だな………」
『こちらストラーフ…敵を確認…!』
『すご…数! とても数え…れないよ!』

 先行で偵察に出たストラーフとバーゼラルドから、深海棲艦の影響かノイズ交じりの通信と共に映像が送られてくる。

「なんて数………これだけの襲撃は滅多に無いわね」
「防ぎきれるか?」
『こちら401千早、これから有るだけのミサイルで接近中の深海棲艦に攻撃を加える。通常弾頭ではダメージにはならなくても、進軍速度を低下させる位は出来るはずだ』
「千早艦長、今までの状況から考えて、ただの敵襲で無い可能性も高い。増援要請を」
『先程出した。問題は増援部隊を送れるだけの母艦が無い。401に搭載された転移装置をビーコンにしての転移は可能だが、かなりのエネルギーを食うらしい。下手したら本艦は行動不能になるかもしれない』
「どちらにしろ、そちらの装備では深海棲艦相手に防戦は不可能だ。攻撃はウィッチと艦娘で行うしかあるまい」
「その通りね」
『ちょっと待…て! 今撤退するか…!』

 攻撃の報を聞いたストラーフとバーゼラルドが撤退するのと入れ替わりに、イー401からミサイルが次々と発射される。
 その内の一発が、なぜか他のミサイルと逆方向へと飛んでいった。

「今、こちらの頭上を飛んで行ったのが無かった?」
「ああ、ガランド少将達の迎え用だ」
「ミサイルで?」
「中身は違う」

 明らかに明後日の方向へと向かっていく轟音に陸奥が首を傾げる中、美緒が簡単に説明する。

「全艦出撃体勢整いました!」
「後は私達が!」
「お願い、私も出るわ」

 作戦会議室に飛び込んできた明石と夕張に後を任せ、陸奥も己の艤装をまとうべく飛び出す。

「ミーナ」
『こちらも準備完了、いつでも出れるわ』
「艦娘と歩調を合わせろ、学園襲撃の時よりも数が多い。突出したら潰されるぞ」
『ええ』

 美緒が前の経験から助言するが、押し寄せる深海棲艦の数に顔色はすぐれない。

「増援に来れる部隊がいればいいが………」

 最大の懸念事項を呟きながら、美緒は表示される戦況図を凝視した。



同時刻 市ヶ谷・帝国大本営

「ガランド少将!! 急報です!!」

 バルクホルンの大声と共に、会議室の扉が吹き飛ぶ。

「すでに聞いている」

 突然の強行に室内の将校達が唖然とする中、ガランドはつい今しがた懐のウィトゥルースから聞いた報告に顔をしかめていた。

「横須賀鎮守府に深海棲艦の大群が迫っているそうだな」
「はい! 至急戻らないと!」
「迎えを寄越した。すぐに到着するはずだ」

 姿勢を正すバルクホルンに、ガランドは吐息一つ吐くと椅子から立ち上がる。

「ま、待て本当か!?」
「本当のようです」

 ようやく我に返った将校の一人が叫ぶのを、冬后提督が肯定して自分も椅子から立ち上がる。

「ど、どこに行く!?」
「聞いたでしょう。鎮守府に戻ります」
「呉鎮守府にも連絡は行っているはず。近隣にいる艦隊は増援に向かわせよう」

 それに続いて杉山提督も椅子から立ち上がり、何かわめいている将校達を無視して室内から出ようとする。

「正確な数は?」
「詳細不明、かなりの大艦隊です」
「危なくて正確な数は計測出来なかったそうよ」

 ただ一人冷静な神崎提督の問いに、ガランドの懐からウィトゥルースが、冬后提督の懐からスティレットが顔を出して答える。

「な、なんだそれは!? 妖精か!?」
「妖精なら貴方達の目には見えないでしょうね」

 驚く将校達に一瞥をくれ、神崎提督も椅子から立ち上がる。

「神崎提督」
「何かしら」
「こちらの経験で言えば、ただの大軍勢でない可能性も有る。詳しい事は直に分かるだろう」
「そう」

 ガランドが話しかけてくる中、轟音と共に何かが大本営の前に落下する。

「て、敵襲!?」
「ここにもか!?」
「ただの迎えだ」

 慌てふためく将校達に完全に呆れながら、ガランドは轟音の元へと向かう。
 玄関から一歩出ると、そこに突き刺さっているミサイルの姿が露わになり、そのミサイルが展開して二機のストライカーユニットと中に入っていたヒュウガが現れる。

「はいお二人さん、帰りの便よ」
「出前ご苦労」
「ターボブースター付きか、これなら滑走路もいらない!」

 それにあわせるように、大本営上空に待機していたアーンヴァルもその場へと降下してくる。

「私も一緒に急行します」
「そうだな、ではバルクホルン大尉の方のナビゲートを頼む」
「了解しました」
「それではお歴々方、緊急事態故につき非礼で申し訳ないが失礼する」
「冬后提督もお急ぎを」

 ガランドとバルクホルンは礼もそこそこに届けられたばかりのストライカーユニットに足を突っ込み起動、増設された魔導ブースターが出力を上げ、一気に二人の姿が宙へと舞い上がると、そのまま横須賀へと向かっていく。

「あら、文字通り飛んでいったわね」
「よろしいのですか?」
「今更追えないでしょう」

 神崎提督がすでにその姿が小さくなっているウィッチ達を見送り、秘書艦の扶桑が思わず問うが、確かにもう追う手立ては無かった。

「こちらも鎮守府に帰投する。車を回してほしいが」
「更識少佐、送迎を」
「は!」

 冬后提督の要望に神崎提督が声を掛けると、どこからともなく提督達を召喚した更識少佐が現れ、即座に車が用意される。

「では我々は鎮守府に帰投します」
「気をつけなさい。最近深海棲艦の動きがおかしいとの話だから」
「恐らく、今回の襲撃でそれが明白となるでしょう」

 神崎提督に見送られ、冬后提督と長門が乗り込んだ車が急加速で発進する。

「さて、現場の情報が欲しい所だけれど」
「私はそのために来たの。イオナ姉様に頼まれたのでなければ断ってたけど」

 残ったヒュウガが、ミサイルの中から通信機を取り出して神崎提督へと見せる。

「こちらに送られたのと同じ物か」
「多めに用意しておいて正解ね。さてどこに広げればいいかしら?」

 杉山提督がその通信機に見覚えが有るのに気付くが、ヒュウガはそれを愛用のポッドごと浮遊させながら大本営の中へと入っていく。

「ちょうどいいわ、皆さんにも見てもらいましょう」
「よろしいのですか?」
「詳細な情報が欲しい所だったし。彼女達の分も含めてね。判断はその後に下す事になるわ」
「はっ!」

 神崎提督の判断が、暗にNORNへの参加を示唆している事に杉山提督は悟る。

「今、一体何が起きているのかしら………」
「それはこちらも一番知りたい所ね」

 神崎提督の呟きに、ヒュウガは思わず苦笑した。



「戦艦、重巡を前に! 有効射程と同時に、斉射。敵接近の後に打撃戦に移るわ!」
「艦載機全機発進! 打撃戦の前に少しでも数を減らしましょう!」

 陸奥の指示に艦娘達が陣形を組み、赤城の指示と同時に空母が一斉に艦載機発進体制を取る。

『こちら401! 通常弾頭のミサイルは先程撃ち尽くしました! 残存兵装で援護を試みますが、ダメージは期待しないでください!』
『こちら501ミーナ、ウィッチ総員発進体勢整ってます! そちらの指示と同時に出撃します!』

 401から静の通信が入ると、続けてミーナからも出撃準備完了の報が入る。

「順次出撃してこちらの上空に待機してください! にしてもなんて数………」

 ウィッチに出撃を打診しつつ、視界の向こうの水平線を埋め尽くすような数の深海棲艦に陸奥は思わず呻く。

『こちらのコンゴウが呼べればもう少し援護が出来たのですが、前回の襲撃でまだ修理中で………今増援に来れそうな人達を集めてるそうです』
「間に合えばいいのだけれど」

 静の申し訳なさそうな通信に陸奥は小さく呟くと、装填の済んだ主砲を照準する。

「目標、射程内! 全戦艦・重巡、主砲発射!」

 陸奥の号令と共に、大口径の砲が一斉に発射される。

「着弾、確認!」
「半数命中、けどこの数相手じゃ………」

 如月が改造されている視力で戦果を確認するが、同様に確認していたランサメントが相手の数の前に微々たる効果しかない事を呟く。

「次弾装填急げ!」
「敵、発砲確認!」
「防御体勢!」
「任せて!」

 艤装の再装填よりも早く、今度は深海棲艦側が発砲、それに命令よく早く芳佳が飛び出し、続けてウィッチ達が横に並んで一斉にシールドを張る。
 直後、シールドに放たれた砲弾が直撃して盛大な爆炎が吹き上がる。

「くっ!」
「結構強烈〜」
「被害確認!」

 初弾を防いだウィッチ達が全員無事なのを確認する中、ある疑問に気付いた者達が数名いた。

「弾着が早い? それに威力も増している………」
「改造でもしたか?」

 ミーナとシャーリーがこちらに来てからの戦闘との違和感を感じる中、深海棲艦の集団から速度に優れた駆逐級が加速、突撃してくる。

「イ級、ロ級多数接近!」
「雷撃準備! 扇状発射!」

 報告と指示が飛び交い、魚雷を装備した艦娘達が一斉に前へと出ると、全員で魚雷を一斉発射する。

「これだけ放てば…!」
「当たらない事は無いはず」

 吹雪とランサメントが接近する駆逐級と魚雷の行方を見守る中、完全に予想外の事が起きる。
 駆逐級の半数ほどがいきなり水中から飛び出したかと思うと、巨大なヒレとも滑空翼とも、見える物を展開、そのまま滑空して魚雷の半数がその下を通り過ぎていく。

「え? ええ!?」
「飛んだぞ! そんなのまでいるのか!?」
「そんなのは今まで確認されてないわ!」

 吹雪が驚き、ランサメントが確認する中、そばにいた加賀が否定しながら、迎撃すべく弓を構える。
 だがそれより早く上空からの狙撃と電撃が宙を舞った駆逐級達へと炸裂する。

「数が多いよ! 全部は無理!」
「わざわざこちらの領域に出てきてくれるとは!」

 リーネの狙撃とペリーヌの固有魔法が宙を舞った駆逐級を狙い撃ち、そこへ艦娘達が砲撃で追撃していく。

「何がどうなって………」
「吹雪ちゃん! さっきの駆逐級、何かがおかしい!」
「それは見て分かるけど!」
「そうじゃなくて………今データを共有化するから!」

 吹雪も砲撃しながら呆然とする中、如月が思わず叫び、睦月が思わず言い返すが、如月が自分のセンサーで捕らえた違和感を401へと送信する。


「如月ちゃんからのデータ受信! 今襲撃してきている深海棲艦の相違点だそうです!」
「モニターに回してくれ」

 静の報告に群像がデータを表示させ、そこに指摘されたポイントが出てくる。

「何だこりゃ、飛び魚か?」
「いや待て、タカオ、画像更に拡大! 今までの深海棲艦との戦闘データとも比較!」
『了解艦長』

 タカオが次々とこれまでの戦闘データに有ったイ級やロ級と先程のを比較する。

「ねえ、これって………」
「どうにも、このヒレと本体に一体感が有りませんね」

 蒔絵と僧がその違和感の正体に気付く。

「まさか、改造されているのか?」
「おい、あんな化け物どうやって改造を…」
「化け物の改造なら、データに有ったはずだ」

 群像の仮説に杏平が思わず突っ込むが、群像は冷静にある前例を持ち出す。

「オペレーション・ラプンツェルの時の降魔兵器」
「もしJAMがその技術を吸収し、応用出来ていたとしたら………」
「ちょ、それヤバイんじゃねえのか!?」
「じゃあこれも?」

 僧も同じ結論に達したらしく、群像が更に仮説を立てたのを聞いた杏平が焦るが、そこでイオナが更に違和感を持ち出す。
 深海棲艦の何機がが明らかに長大な砲を装備しているのを。

「マジかよ………」
「至急NORN上層部にこの事を報告! 増援の要請を再度打診! 大至急と!」
「は、はい!」

 杏平も呆然とする中、群像の指示が鋭く飛び、静は慌てて次元通信の準備をする。

「持たせられるか? それまで………」

 群像の呟きは、モニターに写される更に接近してくる改造深海棲艦達へと向けられていた。



同時刻 大本営

「何だあれは!」
「あんな物の報告は受けてないぞ! 新型か!?」
「新型なのは間違いないでしょうね」

 先程までの会議室でヒュウガが持ちこんだ通信機を介してリアルタイムで映し出される横須賀鎮守府襲撃の様子に、居並ぶ将校達が思わず声を荒げるが、神崎提督は一人落ち着いていた。

「深海棲艦を名乗る割に、空飛ぶとはまた」
「そんな報告は今まで一度も無いわね」

 ヒュウガが思わずうそぶくが、神崎提督は冷静に返し、扶桑に入れさせたお茶をすする。

「それで、そちらで覚えは?」
「あ〜、今こちらの艦長から来ました。改造の可能性有りだそうで」
「改造、改造だと!? 深海棲艦をか!」
「今まで深海棲艦の調査研究は行われてきたが、そんな事はまだ不可能のはずだ!」
「こちらでは、でしょうね」

 更に口調が荒くなる将校達に、ヒュウガは皮肉気に返す。

「そちらでは?」
「私達にはまだ不可能でしょう。そもそも技術班の班長さんが生体実験の類に厳しい人で」
「つまり、可能な敵がいるという事」
「ええ、それが私達、そして貴方達の敵」
「なるほどね」

 神崎提督がまた茶を一口すすると、それをテーブルに戻す。

「扶桑、周辺に他に戦闘可能な部隊は?」
「今急報を受けて迎える部隊は向かっている模様ですが、間に合うかどうか………」
「こちらでも増援は要請してるわ。問題は深海棲艦と戦える人は少ないのよね………」
「彼女達のように?」

 神崎提督の視線は、艦娘を援護すべく、制空権を確保せんとするウィッチ達に向けられていた。



異なる世界 学園 大型転移装置

「回路全チェック! 少しでも怪しいのはバイパスして!」
「ケーブルをこちらに!」
「エネルギー回すのはチェックが終わってからに!」

 エミリーと妖機三姉妹を中心に、緊急で大型転移装置の再起動が行われようとしていた。

「せめてあと2,3日はチェックに回したかったのに!」
「緊急事態だ、致し方無い」

 エミリーがぼやく中、幻夢がコンゴウの船体から引っ張られたケーブルを担ぎながらこちらもぼやく。

「起動と同時にどこか火を噴かないといいのですけれど」
「この間の虫は徹底的にチェックしたからそれは大丈夫」
「中まで調べました!」

 接続作業を急ぐ狂花に亜弥乎とアークが確認をしながら豪語する。

「で、どこが行くの!?」
「今上で協議中らしい。ここの部隊ではないのは確かだ」
「機体の半数がオーバーホール、人員の半数が病み上がりですしね」
「! 今情報が来た! 深海棲艦に改造の痕跡有り!」
「まさか!?」

 エミリーの確認に幻夢と狂花が首を傾げたり嘆息したりするが、そこでアークから更なる情報がもたらされる。

「JAMがそこまでの技術をもう………」
「置いていかれてるな」
「一部機械化帝国より上のようですし」
「あんな気持ち悪いの、いじりたくない!」
「それに関してはマスターに賛成」

 エミリーが愕然とする中、妖機三姉妹+アークはそれぞれの感想を呟く。

「緊急出撃でち!」
「準備出来てる!?」

 そこへ第二潜水艦隊の艦娘達が艤装準備して大型転移装置へ到着する。

「もう少し待ってください! 今ラインの確認が終了!」
「エネルギー回せ!」
「現在チャージ中………50、60…」
「エネルギーバイパス、機能中!」
「システムグリーン、起動準備完了!」
「起動!」

 エミリーがメインスイッチを入れると、大型転移装置が起動する。

「各所点検!」
「現状では問題無いようだな」
「空間座標、401艦内の小型転移装置に設定しますわ」
「空間リンク確認、ゲート発生」

 エミリーの指示の元、大型転移装置が無事に動いている事を確認した妖機三姉妹が次に次元転移手順を進めていく。

「これで繋がった。ただ向こうのが小さいから半数ずつだな」
「じゃあ先に行くでち!」
「私達は次で」

 幻夢の指示に従って、第二潜水艦隊の半数が転移装置に入り、転移を確認した後に残った半数も転移される。

「………情報通りなら、あの人数では焼け石に水という奴だな」
「深海棲艦相手では、私達では役に立ちませんし」
「待って、増援部隊が決まったらしいわ。大型転移の準備を」

 幻夢と狂花が飛び込んでいった潜水艦娘達を見送りながら呟くが、そこでエミリーがある情報を持ってくる。

「どこがどうやって行くんだ?」
「それが…」



異なる世界 401艦内

「第二潜水艦隊、こちらへの転移確認!」
「戦闘準備は?」
「即時出撃可能だそうです!」
「タカオ、カタパルトまで案内を」
『了解』

 静からの報告に、群像が矢継ぎ早に指示を出していく。

「他の増援部隊は?」
「今準備中の模様! ただやはり少し時間がかかるみたいです………」
「それまで持たせるしかないようですね」

 群像からの確認に静が歯切れ悪く答え、僧が思わずため息を漏らす。

「あれを、か?」

 杏平はそう言いながらモニターを見る。
 そこでは、すさまじい激戦の真っ最中だった。



「装填しだい順次砲撃! 敵を近寄らせないで!」
「フォーメーション・キャンサー! 弾幕を途切れさせないで!」

 陸奥とミーナの指示が飛び交う中、艦娘の放つ砲弾とウィッチの放つ銃弾が無数に放たれる。

「今までのデータが役に立たない敵がいるわ! 注意して!」
「私とサーニャさんは感知に専念するわ! エイラさんも何か見えたら教えて!」

 改造深海棲艦の異質な攻撃に面食らいつつも、艦娘、ウィッチ双方が手分けしてなんとか対処しようとする。

「こちら呉鎮守府所属第二潜水艦隊! そちらの指揮下に入るでち!」
「海中の警戒を! この様子だと水中も何がいるか分かった物じゃないわ!」
「了解でち!」
「任務了解、サポートに入る!」

 海中で陸奥からの指示に返答したゴーヤだったが、そこで聞きなれない声が隣から聞こえた事に気付く。
 何気に振り向くと、自分のすぐ隣に小さな重装のウェットスーツ姿の小さな影に気付いた。

「自分は武装神姫、イルカ型MMSヴァッフェドルフィン。リーダーのサポートのために急遽派遣されました。以後リーダーの指揮下に入ります!」
「武装神姫って水中用もいるんですね」
「数は少ないですが」
「またちょうどいいのがいた物で」
「話は後でち。水中索敵開始!」

 他の潜水艦娘達も驚く中、ゴーヤは即座に任務を開始する。

「上の音がひど過ぎてソナーは役に立たない………」
「大体でいいでち。とにかく水中からの奇襲を防がないと」
「自分のソナーならノイズキャンセルでなんとか………! 二次方向から反応!」

 イムヤが上から砲声や爆音が水中にまで響いてきて顔をしかめ、ゴーヤもなんとか敵を探ろうとするのをヴァッフェドルフィンがサポートするが、そこですぐに敵を発見する。

「距離は!」
「今探索中…! 魚雷発射音複数! こちらに向かってきます!」
「先手撃たれたでち! 全艦急速潜航!」

 ヴァッフェドルフィンの警告に潜水艦娘達が慌てて潜航して魚雷を回避しようとする。

「距離は!?」
「300…250…200…」
「見えた! あの深度なら上の人達には当たらな…」

 接近してくる魚雷群を確認した潜水艦娘達だったが、そこでその内の数発が突然方向を変える。

「! 魚雷音に変化、こちらに三発向かってきます!」
「まさか、深海棲艦がホーミング魚雷を!?」
「艦娘用のでもまだ開発出来てないのに!」
「散開でち!」

 ヴァッフェドルフィンからの報告と、明確にこちらに向かってくる魚雷に潜水艦娘達が驚く中、ゴーヤが素早く指示を出す。
 散開した潜水艦娘をそれぞれ狙うように、ホーミング魚雷も散開するがそこをヴァッフェドルフィンのヴァッサーマン・トーペードGランチャーから放たれた魚雷と、ヴァッサーマン・D―MPライフルから放たれた水中弾が直撃、目標手前で爆散する。

「敵魚雷撃破確認!」
「やるでちね………」
「自分の装備ではこれが精々です、リーダー。401にデータリンク、敵はホーミング魚雷を装備している個体有り」
「早い所それを見つけて撃沈するでち!」

 反撃に出るべく、ゴーヤは魚雷の発射源と思われる相手へと進路を向けた。


「飛行翼に長距離砲、今度はホーミング魚雷だと?」
「おいおい、時代端折ってねえか?」
『理論上、開発は難しいけど不可能ではないと言われてたわ。問題は対深海棲艦用に合わせると電子機器の類はどうしてもね………』

 海面下からの報告に群像が眉をひそめ、杏平が揶揄するが、報告を聞いていた明石が俯きながら答える。

「キャニスター射出!  オートで魚雷対処に当たらせろ! 敵味方識別を忘れるな!」
「了解! って艦娘って識別信号出してたか!?」
「生体認証と起動モーションで識別しましょう」
「今入力する! くそ、こいつの装備でも防御が精々か………」

 群像と僧から指示が飛び交い、杏平が急いで入力しながら思わず悪態をつく。

「武装神姫とFAGからのデータリンクを途切れさせるな!  全ての戦闘データを常時学園へと送信!」
「了解!」
「私達も出るべき?」
「盾にしかなれないが」
「準備はしておいてくれ。何がどう起こるか予想も出来ん」
「あいつらとの戦い方は前回学習した」

 401がデータ収集に尽力する中、イオナを先頭にハルナやコンゴウが出撃を申し出るが、群像はまだ早いと判断する。

「なんとか防衛線は構築出来てるな。ウィッチ達と来たのは行幸という奴か」
「せめてもうちょっと有効的な武装がこの船に有れば………」

 キリシマと蒔絵が戦況と被害を解析するが、ウィッチのシールドのお陰か現状艦娘達に被害は出ていないかった。

「問題は………」
「烈風丸を所持しているかはまだ不明だな。アレだけやばい刀なのに、発動させないと発見出来ないとは」
「完全に外部エネルギー型だからね。出来れば解析してみたいけど」

 群像の指摘せんとする所をキリシマと蒔絵は現状から未発見を報告する。

「坂本少佐からは破壊してかまわない、というか見つけ次第破壊してほしいと言われている」
「あの威力ではな………」
「ウルスラさんと何とか防げそうな物は作ったけど、まだ実戦試験はしてないし」
「どちらにしろ、こちらの準備が整う暇も無く襲ってきたのだけは間違いないな………JAMは一体いつからこの世界で活動していた?」
「それはなんとも。ただ、あらゆる世界から貪欲に技術を吸収しているのだけは間違いないですね」
「現地交渉も無しにな。深海棲艦が同意の上で改造されたかどうかも不明だが」

 僧と群像が愚痴交じりの推測をする中、砲声と着弾音は更に激しくなっていく。

「なんとか持たせなければ………」

 そんな中、群像は今出来る事を必死になって思考していた………


「重巡、戦艦は砲撃による防衛線を構築! 接近してきた相手には軽巡以下で集中砲撃!」
「敵艦載機撃墜を優先! 制空権を取らせないで!」

 陸奥とミーナの指示に従い、砲弾と弾幕が飛び交う。

「提督が戻ってくるまで、絶対ここはガードするネ!」
「ダー、サポートします」
「弾道補正の必要も無いです! あれだけいればほっておいても当たります!」

 砲撃の中心となっている金剛が撃ちまくるのをエスパディアがサポートする中、霧島が妖精達に指示を出していた。

「何が出てくるか分からないぞ! 注意だ!」
「もう〜、小さくて狙いにくいのに!」

 他のウィッチ達が防衛に回る中、遊撃担当のシャーリーとハルトマンが次々と向かってくる深海棲艦艦載機を撃破していくが、その内の数機が突如として異常加速して向かってくる。

「な…」

 シャーリーは撃ち落とそうとするが照準よりも向こうの突撃の方が早かった。

「シュツルム!」

 そこでハルトマンがとっさに固有魔法を発動、突撃してきた艦載機をまとめて撃墜する。

「今のって、突撃、いや特攻か!?」
「そんなのあるんだ〜」
「これも改造機か! どこまで混ざって!?」

 明らかに今までと違う相手が混じっている事に、シャーリーは仰天する。

「ミーナ隊長! 防御をもっと厚くした方がいい! 特に宮藤は401から離れさせるな!」
「そうしたいけれど、難しいかもしれないわ………」

 シャーリーからの連絡に、ミーナは顔を険しくする。

「敵中央、やや奥に反応! 詳細サーチを!」
「う〜ん?」

 ミーナの言葉にそばにいたストラーフは目とセンサーを凝らす。
 他にも感知系の者達がミーナの指摘した個所を集中探知して気付いた。

「烈風丸を確認!」
「何かやばそうなのが持ってるぞ!」

 飛鳥とランサメントが指摘した先、武装神姫が確認した映像が拡大されて401経由で鎮守府へと転送される。

「戦艦仏棲姫!? こんな大物まで来てるなんて!」
「話を聞くまでもなく危険そうなのは見て取れるな………」

 その映像を受け取った明石が驚き、美緒が顔をしかめる。

「攻撃を奴に集中させろ、烈風丸の射程にあいつを近寄らせるな」
「もちろん! 陸奥さん!」
『こちらでも確認したわ! けど周辺の敵が多過ぎて…』
「ミーナ! 上空からは狙えないか!」
『敵陣直上は艦載機と対空防御が濃いわ! 完全に私達を警戒してる!』
「準備万端か………このまま数で押し進め、烈風丸で一気に攻める気か」
「そんな事されたら、どんだけ被害が出るか!」
「そちらのシールドでも防ぐのがやっとなのでしょう?」

 美緒の推測に明石だけでなく夕張も声を荒げる。

「宮藤のシールドでやっとではな………他のウィッチだと持たないだろう。複数で収束させるという手も有るが、そうすると守備範囲が狭くなってしまう」
「装甲の薄い子達を下がらせる?」
「そうすると火勢が弱くなるわ。今でもギリギリなのに………」

 対処法を協議していた最中、突然警報が鳴り響く。

「何事だ!?」
『烈風丸装備深海棲艦、加速! すごい勢いで迫ってきてます!』
「そんな!? 戦艦仏棲姫にそんな足は…」
「総員に最大防御! そいつも改造されている!」

 401からの報告に明石が驚く中、美緒は即座にその原因を悟る。

「間に合うか………」



「軽巡以下の娘は下がって! 陣形を密集! ウィッチのシールドの後ろに!」
「501総員、シールド全開! 隙間を造らないで!」

 戦艦仏棲姫が突撃してくるのを見た陸奥とミーナの指示が飛び交う。

「防御の低い人はなるべく私の後ろに!」
「龍田!」
「分かってるわ天龍ちゃん!」

 芳佳が中心となって最大出力でシールドを発生させ、天龍と龍田が同じく中央でそれぞれの剣を構える。
 戦艦仏棲姫は間合いに入るや、漆黒の烈風丸を構え、横薙ぎに振るう。
 そこから放たれた斬撃波がこちらへと向かってくるが、ウィッチ達のシールドに当たって盛大にエネルギーの火花が飛び散る。

「なんのぉ!」
「何とか!」

 その中心で天龍と龍田が構えた剣、横須賀鎮守府とNORN共同開発・対烈風丸防御用剣≪竜鱗剣≫が斬撃波を押しとどめ、そしてようやく斬撃波が消失する。

「何とか持ったな………」
「ええ………」
「被害報告!」

 たった一撃食い止めただけで天龍と龍田が大きく息を乱す中、陸奥が状況を確認する。

「こちらは被害有りません!」
「こっちもだ! けど…」

 吹雪が左右を見回して報告するが、そこでミーナに代わってシャーリーが報告する。

「ちょ、ちょっと無理したかしら………」
「マスター!」

 全身を汗で濡らしてあえいでいるミーナに、ストラーフが思わず近寄る。

「何人か無茶した! 二発目は食い止められないかも………」
「あいつ下がってく!」
「追撃は禁止! 防御態勢を解かないで!」

 シャーリーの報告に、ハルトマンが追加する中、あえぎながらミーナが指示を出す。
 その直後、突撃とほぼ同速度で下がっていく戦艦仏棲姫の艤装があり得ない速度で砲塔が旋回し、一斉に砲撃してくる。

「二段構えか!」
「任せて! うりゃ〜!!」

 シャーリーもシールドを再度張ろうとするが、そこへルッキーニが固有魔法の複層シールドを展開、放たれた砲弾に自ら突っ込んで撃墜する。

「逃がしません!」
「追撃!」
「ダメよ! 向こうの弾幕に突っ込む気!?」

 ペリーヌとシャーリーが戦艦仏棲姫を追おうとするが、ミーナが一括して止めさせる。

「向こうの主力はあの大物、全ては烈風丸の一撃を叩き込むためのフォーメーション………」
「そういう事になるわね。しかも明らかにJAMの手が入っている」

 ストラーフが今までの戦闘データを解析し、ミーナも頷く。

「この弾幕、しかも烈風丸が相手の手に有る以上、こちらは防御に主体を置かなければならない。さらに…」
「危ないよ!」

 ミーナに向けて飛来した砲弾をハルトマンが遮る。

「向こうにこちらの射程以上の長距離砲まで有るわね………」
「なんとか防げる! 多分…」
「まずいわね………」

 予想以上に隙の無い深海棲艦の布陣に、ミーナの焦りは高まる一方だった。

「まずは敵戦力を削れ!」
「ガランド少将!」
「すまない、遅くなった!」

 そこへガランドとバルクホルンが到着し、戦線へと加わる。

「ウィトゥルース、相手は烈風丸を持ったままか?」
「はい、他の深海棲艦には渡してない模様」
「じゃああいつ以外に突撃可能な奴はいない、ならまずは周辺を削るのが優先だな」
「しかし少将、向こうに長距離砲を配備した者が…」
「数は多くないはずだ、防御に徹して雑魚を削れ!」
「了解!」
「バルクホルン大尉!」
「はっ!」
「401にウルスラが持ってきたアレがある。使用許可を出すから換装を!」
「! 了解!」
「アーンヴァルは401到達までの彼女の援護を、それ以降は坂本少佐の指揮下に戻れ」
「了解」
「え、アレ使うの!?」

 ガランドが次々指示を出す中、ある装備の使用許可にハルトマンが驚く。

「使える物は使え、この状況ではな」

 そう言いながら、ガランドは背負っていた銃を構える。

「あの、出来れば後方に………」
「手が足りないのだろう、シールドは任せる!」

 自分もやる気満々のガランドに、ミーナは頬を引くつかせる。

「この戦い、勝てばこちらの連中を納得させられる。どの世界も実力を示すのが一番だな!」
「それはそうかもしれませんが………」
「次弾来たよ!」

 再度放たれた深海棲艦の無数の砲弾に、ウィッチ達は必死になってシールドを張った………





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