BIO HAZARD irregular
another story

STARTING PURSURE
終章 終焉、そして開始



『さて、昨夜起きた在日米軍横須賀基地の爆発事故ですが、先程在日米軍広報部が埋設されていたガス管の老朽化によってガスが地下に溜まり、なんらかの原因で爆発した物と発表しました。現在、さらなる詳しい原因の特定に全力を尽くすとのコメントです。今の所、二名の死亡が確認されているとの情報ですが、今後これが増える可能性は少ないと見られております。深夜の首都を震撼させたこの事故に、大山総理は今日の国会で…』

 ニュースを見ていた練が、先程から同じ内容ばかりなのに飽きが来てテレビを消した。

「ガス爆発、にしては派手過ぎたな」
「見分けが付かないだろ、普通の奴にはな」

 全治三ヶ月を言い渡されて入院の憂き目に遭っている練に、鼓膜保護のためのイヤ・プロテクターを付けている徳治がベッド脇でため息をついた。

「さっきメーソンから使者が来てな。リオン・マドックについては一歩遅く暗殺命令が出ていたために今回の件は全面不問、導師ルーフェは借り一つという事にしてくれるそうだ」
「借り?貸しじゃなくか?」
「暗殺命令を出したのは彼だそうだ。遅かれ早かれ、あいつは何らかの形で殺されていただろうし、殺されて当然の事をやってたしな…………」
「ああ…………」

 そこで両者に沈黙が訪れる。
 その沈黙は、荒々しく病室のドアが開けられる音で破られた。

「………レン」

 全身から殺気(っぽい物)を漂わせた白衣姿で手にスポーツバッグを持ったミリィが、カルテ片手に練を睨み付ける。

「昨夜、何、しテきたノ?」
「仕事だ」

 ミリィの質問にたった一言で応えた練のベッドに、カルテが叩きつけられる。

「刀傷三ツ、内セナカのは肩甲骨を削ってルし、打撲個所ハ無数。肋骨完全骨折4ホン、亀裂骨折2本。胃に重度ノ損傷あり。戦争ニでも行っテきたノ?」
「まあな」

 英語なまりが更なる圧迫感を加えるミリィの誰何を、レンは適当にはぐらかす。

「……分かっタわ。ただし、退院許可がオりるまで、ベッドから動けナいようにスルから」

 引きつった笑顔で、ミリィがスポーツバッグから頑丈そうなロープだの手錠だのを取り出し始める。

「……そこまでするか」
「…お大事にな」

 それを見た徳治は、さすがに多少顔が引きつっている練をその場にして病室を出た。
 そこでふと、練が昨夜言っていた事を思い出す。

「無力……ね…………」

 廊下を歩きながらその意味を反芻しつつ、徳治は何気なく窓から空を出た。

「あいつが無力だって言うのなら、力ってのは何なんだ?」

 僅かに雲がそよぐ空に、応える者はいなかった…………



半年後 日本 京都のある館にて

季節の変わり目を感じさせる紅い夕焼けが差し込む座敷にて、二人の人物が対峙していた。
一人は、胸に白地で五芒星が描かれた墨色の小袖袴を着込んだ、鋭い目と冷静な顔をした若い男、もう一人は古代の神官を思わせる白い着物を着込んだどう見ても10代前半位の少女だった。

「それでは、どうしても行くというのですね」

少女が問うた。その声は幼そうな外見とは裏腹に、まるで年配者のような落ち着きに満ちていた。

「今までの修行は全てこの為の物です」

男が断言した。不可思議な雰囲気を持つ少女に、男はまったく物怖じせずに対面している。
しばし、二人の間に沈黙が流れた。

「…………分かっているのでしょうね?どうしても行くというのであれば、わたくしはあなたの力を封じなければなりません。そうなればあなたは陰陽師ではなく、ただの一般人になってしまうのですよ」
「オレには、この二つの刃が在ります」

少女の問いかけに、男は手元に置いておいた名刀源 清麿と、服の下のショルダーホルスターに入れられているサムライエッジを見せながら自信に満ちた声で言い返した。
少女はしばし無言で、瞳に迷いと悲しみを少し浮かべたが、やがて無言で何処からともなく一枚の五芒星と奇妙な呪文の書かれた符を取り出した。

「?(オン)」

少女が一言呪文を唱えた途端、符はまるで自らが意思を持っているかのように宙を舞い、男の懐の中へと飛び込んだ。

「う…………」

男が低い呻き声を挙げて胸を抑える。ちょうど男の心臓の真上へと張り付いた符は、即座にその効力を発揮した。
しばしその状態が続いた後、男はゆっくりと手を離した。
男は試しに人差し指と中指を突き出す刀印と呼ばれる手印を結んでみるが、そこに在るべき力は感じられなくなっていた。

「これであなたは何処に行くのも自由である代わり、我が陰陽寮の援助も受けられなくなりました。本当によろしいのですね?」
「お手間を取らせました、安部ノ御門(あべのみかど)姫」

男は、少女に深々と頭を下げてからその場を後にした。



「許可は貰えたか?」

玉砂利の敷かれた庭園を歩いていた男に、側の木に寄り掛かっていた人物が声を掛けてきた。

「ああ、術の封印と引き換えにだがな」

男はそう言いながら声の方に振り向いた。
そこには、男と同じ格好をし、男とはまったく逆の余裕と落ち着きを感じさせる青年が立っていた。

「分かっているのか?下手したらアメリカその物が敵に回る可能性だって在るんだぞ?」
「覚悟の上だ。この国にいる限り、真実は掴めない」

男のまったく譲らない態度に、青年は呆れたようにため息をつきながら懐から分厚い封筒を出して男に手渡した。

「軍資金だ。オレにはこれ位しか出来ん」
「分かってるさ。陰陽五家の当主が下手に動く訳にはいかないからな。その代わり、家族の事は頼む」
「本当に黙って行くのか?」

男は無言で頷いた。

「ラクーンシティの惨事を知っているのはオレだけだ。余計な心配を掛けたくない」
「そう言いながら人にボディーガードやらせる気だからな。安心しろ、御神渡家当主の名に掛けて例えCIAだろうが在日米軍だろうが指一本触れさせやしないさ」
「すまない」

男は青年に向けて軽く頭を垂れた。それを見た青年は苦い表情になる。

「よせよ、オレとお前の仲じゃないか。相棒の頼みを断る程非情じゃないさ」
「相棒、か。お前に比べりゃオレなんかまだまだ未熟者だと思っていたがな」
「よく言うぜ。御神渡流陰陽師28名中、当主以外に光背一刀流免許皆伝を授かった唯一の人物が」
「オレのは亜流だがな」

男は服の上から拳銃を軽く叩き、笑みを浮かべた。
それに吊られて青年も薄く笑ったが、すぐにその瞳が真剣な物へと変わる。

「ミリアさんは知っているのか?」

その名を出された男の表情が僅かに揺らぐ。

「………彼女には向こうに着いてから言うつもりだ」
「予約まで入れてるんだ。絶対に泣かすなよ」
「努力はするさ」
男のその口調は、可能性が有るという事を暗に示している証拠だという事を青年は長い付き合いで知っていた。
そのまま無言で男は青年の前を通り過ぎようとする。青年はしばし迷った後、その背中へと声を掛けた。

「絶対に死ぬなよ、練」

男―練は片手を挙げてそれに答えながら、青年の視界からゆっくりと消えた。


 長く、激しい戦いが、静かに開幕のベルを鳴らそうとしていた……………









感想、その他あればお願いします。


小説トップへ
INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.