BIO HAZARD irregular
SWORD REQUIEM

余章



 アメリカ中西部の荒野を貫くハイウェイを、一台の車が走っていた。
 長い時間走り続けた車は、やがて荒野のど真ん中にある小さな公園を見つけるとそこに止まった。
 止まった車から、墨色で染め上げられ胸に五芒星の紋が入った小袖袴を着込んで、更紗の布で包まれた細長い包みを持った東洋系の男性と、花束を持って眼鏡を架けた白人女性が降りてきた。
 荒野を吹く風が男性の袖をそよがせると、袖に隠れていた左腕の傷跡が目に付いた。
 二人は、その小さな公園の中央に有る石碑の前に立ち、眼鏡を架けた女性がそれに花束を捧げた。
『ラクーンシティ伝染病死者慰霊碑』と掘り込まれた石碑に向かって、二人は無言でしばし黙祷をした。

「スミスは?」
「仕事で遅れるかもとは言っていたが…」

 黙祷をし終えた女性が、背後にいた男性へと声を掛け、男性がそれに答えた時、遠くからヘリのローター音が聞こえてきた。
 音の方向を二人が見ると、州警察のエンブレムが入ったヘリがこちらへと近付いて来ていた。
 ある程度の距離まで近付いた所でヘリはその場でホバリングし、そこから降ろされたロープを伝って一人のSWAT隊員が降りてきた。
 その場で手を振って乗せてきたヘリを送ったSWAT隊員は、二人の方へと歩み寄る。

「久しぶりだな、レン」
「元気そうだな、スミス」

 SWAT隊員―スミスの笑いながらの挨拶に、男性―レンも微笑しながら答える。

「ミリィも元気そうだな。おっとミセスミズサワと呼ぶべきかな」
「まだミスよ、式の予定は来年だもの」

 女性―ミリィは笑いながら少し頬を赤くした。

「にしてもレン、何だその格好?ハロウィンの仮装か?」
「こいつは御神渡(おみわたり)流陰陽師の制服だよ。そういうお前もあんまり似合ってないぞ」
「悪かったな、どうせまだ新人だよ」

 二人は一頻り笑うと、少し神妙な面持ちになった。

「あれから5年か、今思い出してもホントの事だったとは思えねえな」

 スミスはタクティカルベストからポケットウイスキーを取り出すと、封を開けて石碑へと注いだ。

「あの後すぐに街は焼かれちまったからな。残ってるのはこの慰霊碑とオレの傷跡ぐらいなもんだ」

 レンも石碑を見ながら、その時の事を思い出した。

「あたし、今でもたまに夢に見るんだ。ゾンビに追われるあたしと、それに立ち向かう二人の事………」
「そいつは光栄だな」

 空になったウイスキーボトルを仕舞いながら、スミスが微笑する。

「結局、何が原因だったのかすらオレ達には分からず終いだったからな」
「国家機密扱いで全部闇の中だ。調べたければCIAの諜報員にでもなるか、FBIのXファイル課にでも入るしかねえな」

 スミスが冗談めかした事を言いながら、レンの方へと向き直った。

「もっとも、調べようとして暗殺されたりしたらかなわんからな。お互いの胸の内に仕舞っておく事にしようや」
「そうか…………」

 少し残念そうな顔をしながらレンは呟いたが、すぐにその表情を消した。

「せっかく久しぶりに会ったんだ。飲みにでも行くか?」
「また目が覚めた時ゾンビがいたらどうすんだよ?」
「また倒すまでだ。この刃に賭けて」

 レンは包みの中の刀を抜き放って天へとかざした。
 かざされた刃は、太陽の光を受けて眩しいばかりに輝いていた………………








次章

 ここ数年間何者にも脅かされる事無く積もり続けたホコリに足跡を記しながら、一人の男が寂れた廃工場の中を歩いていた。
 ホコリが積もっているとはいえ、コンクリートで固められているはずの床に、不思議と彼の履いている厚底のコンバットブーツはまったく足音を響かせていない。
 そのまま廃工場のほぼ中心に歩を進めた彼は、そこで足を止め周囲を見渡した。
 彼は黄色人種特有の墨色の髪に、それと同色の小袖袴を着込み、手には更紗の布で包まれた細長い包みを持っていた。
 鋭さと、冷静さを兼ね備えた瞳を持った彼を、この土地の住人達が見かけたら十中八九こう呼んだだろう。

 サムライと。

 その彼の前に、分厚いコートを着込んだ大きな影が現れた。

「あんたが、情報提供者か?」

 英語での彼の問い掛けに、影は答えず片腕を持ち上げた。
 途端、そこから何かが猛烈な勢いで飛び出し、彼を襲った。
 それが何かを一瞬にして見切った彼は、無言で少しだけ体を横にずらした。

「手長か」

 日本の妖怪の名を彼が短く言った時には、その軌道を完全に見切られた伸びる腕は彼のすぐ傍を通り過ぎる。
 その時すでに、彼は更紗の包みの口を解いていた。
 伸び切った腕が戻ろうとする時、彼は包みの中の物を掴み、素早く抜いた。
 影が奇怪な悲鳴を上げる。縮んできた腕は半ばから両断されていた。

「人ではないようだな」

 彼の呟きと、彼が抜いた白刃によって両断され、宙を待っていた腕が血をホコリの上に撒き散らしながら床へと落ちるのはほぼ同時だった。

「ならば容赦はしない」

 彼は一瞬にして影との間合いを詰めると、手にした愛刀、源清麿(みなもときよまろ)を袈裟懸けに振り下ろした。
 振り下ろされた刃は、影の着ていたコートを切り裂き、その中に仕込まれた防弾用のチェーンを露出させる。

「あれと同じか」

 彼は呟きながら、手首を返して刃を逆にすると、先程とまったく同じ軌道を逆に斬り上げた。
 弾丸をも阻むはずの防弾用のチェーンが、先程の斬撃によって傷付けられた場所と寸分の狂いも無い同じ軌道の斬撃によって、その下の肉体ごと斬り裂かれる。
 周囲に鮮血を撒き散らしながら、影は断末魔の悲鳴を上げて床へと倒れ込んだ。
 彼は刃に付いた血を振るい落としながら、視線を横へと向けた。

「助ける気が有るならもっと早く出て来たらどうだ」

 刀を鞘へと収めながらの彼の言葉に、うず高く詰まれた廃材の影から銃を構えた一人の男が出て来た。

「あんたが本当の情報提供者か?」
「ああ、そうだ」

 男は答えながら、構えていたデザートイーグル50AEをゆっくりと降ろした。

「何でこんな真似をした?」
「お前が知りたがっている事は危険過ぎる。それを分からせるつもりだった。だが…」
「だが?」

 男は彼の姿を上から下まで見て軽いため息をついた。

「まさかサムライが来るとは思いもしなかった」
「オレはサムライじゃない」

 相手の否定に、男が少し虚を突かれた表情になる。

「日本の闇を司る陰陽寮五流派の一つ、御神渡流陰陽師の一人、水沢 練。それがオレだ」
「オンミョウ?」

 聞き慣れない言葉に首を傾げている男に、レンは更なる説明を加える。

「この国で言う所のエクソシストだ。そして、オレは五年前のラクーンシティの脱出者でもある」
「!」

 後半を聞いた男の顔に驚愕が生まれる。それを見ながらレンはさらに加えた。

「教えてくれるんだろうな。五年前の真実を」

 確たる決意を秘めて、レンはその言葉を口にした。

to be continued



後書き

 え〜、この作品を読まれて鬼武者?だのデビル・メイ・クライ?と思われる人もいるかもしれませんが、ボクがSWORD REQUIEMのオリジナルを書いたのは西暦2000年、鬼武者の開発すら知りませんでした。
 BIO HAZARDをプレイした人がもっとも切望すると言われる武器、日本刀を振るい、アンブレラの陰謀もSTRASの活躍も知らず、ただ生き残るためだけに戦う。そんな話を書いてみたくて書いてみました。
 主人公のレンは前に考えたオリジナル小説の設定を引用したため、陰陽師の血を引くという設定になりましたが、ゲームを尊重するためにオカルトはなるべく出さないように心掛けております。(内心むっちゃ出したいんですけど(笑))
 ここに掲載されたのはバイオ小説大賞用にオリジナルに加筆修正を加えた物で、あちこち明らかなツギハギ部分があったりします…………(規定上、1.5倍にするか、半分にしないとダメだったので)
 ま、一読してそれなりに楽しんでもらえれば光栄です。

 なお、PURSUIT OF DEATHは本作の正式続編となります。
 本作を読み終えてから読まれると、より一層楽しめるかと思います。




感想、その他あればお願いします。

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