BIOHAZARDnew theory
FATE OF EDGE

余章「終幕、そして開演」


アメリカ ネバダ州・モハーヴェ砂漠

「やれやれ、なんとか到着できたわね」
「これは墜落って言わないかな?」
「本気で墜落しなかっただけでもマシだと思ってくれ」
『戦闘及び大気圏離脱のダメージが予想以上に深刻でした。無事帰還できたのは操縦者の腕による物です♪』

 乾ききった荒野のど真ん中、STARS本部からかなり離れた場所に不時着したギガスのブリッジで、全員が思い思いの感想を述べつつ、胸を撫で下ろす。

「『TINA』、ギガスのダメージは?」
『現在確認中……予備動力完全ダウン、メインブースター、エーテルクラフト、全兵装使用不可、臨時動力で生命維持装置は辛うじて起動中。なお、現在レベッカ女史率いる検疫部隊が急行中。レン捜査官は大西洋にて生存を確認、現在ジル女史が救出に向かってます』

『TINA』からの報告を聞きながら、キャサリンはため息をつく。

「迎えが来るまで、大人しくしてるしかないわね〜。艦内生存者の状況は?」
『緊急手術を要する者が十数名、現在臨時作動中のオートオペレーションシステム及びミリア女史により手術中、もしく生命維持装置にて手術待機中です』
「STARS本部の動きは?」
『モニターに出します』

 インファの問いに、モニターにいきなりニュース速報が映し出される。
 そこには、レオンの指示により連行されていくアメリカ大統領の姿があった。

「………何があったのかな?」
『我々が入手した背後関係データを元に、残存部隊が急襲確保を行いました。関係各省庁及び民間組織の全関係者が引っ張られてます。ちなみに大統領はレオン長官にボディブローを食らってひっくくられたとの情報が………』

 とんでもない情報に、智弘やフレックの顔が引きつる。

「真似できないわね。それは………」
「レオンの奴、昔より少し強気になったみたいね」
「……母さん、父さんとどういう出会いを?」
「確か、足に鉛弾撃ちこもうとしてゾンビじゃない事に気付いたのが初めてね」
「…………」

 どういう出会い方だったんだろうか、という思いは口にせず、リンルゥは開いていた席にどっかりと座り込む。

「一休みしたら、今度は後始末が山とあるわね」
「やれやれ、怪我してベッドに縛り上げられてた方がよかったかもな」
「そうかもね」

 その場に、誰とも無い笑いが溢れていった。



一週間後

「こりゃ完全にダメだね………」

 同じ場所に鎮座したままのギガスのダメージレポートがようやく完成した所で、それを見た智弘とメカニックスタッフを中心としたSTARS処理部隊が重い息を吐き出した。

「外装、内部システム、動力、エネルギーバイパス、ほとんどイかれてます。兵装は使えそうですが、これ本体が動かない以上はどうにも………」
「そりゃ、46cmレールキャノンなんて外してもね………」
「検疫検査終わったわよ、こっちは大丈夫みたい」

 検疫調査を終えたシェリーがレポートを手に智弘のそばへと歩み寄る。
 そこでチェックが山とついているダメージレポートを見て眉根を寄せた。

「これ、やっぱダメ?」
「どうやっても動かしようもないし、修理のアテもね………」
「回りもうるさいし」

 ギガス周辺、T―ウイルス感染防護のためと称し、周囲を取り囲んでいるアメリカ軍の兵隊達をシェリーはうろんな目で見つめる。

「大統領も国防長官も逮捕されたってのに、元気な物ね」
「シェリーも、怪我大丈夫?」
「ダイジョブ、結構頑丈なのは知ってるでしょ?」
「レン君は全治半年とか言われてたけどね……」

 全身あちこち包帯とギブスだらけのシェリーを智弘は心配するが、シェリーは片手を上げてアピール。

「利き腕オシャカにしたらそうでしょ。私も前やったけど」
「あの、シェリー隊長……それであれどうしましょう?」

 処理部隊の一人が、明らかにギガスを狙っている兵隊達を指差し、八谷夫妻は黙って考え込む。

「今から爆破する訳にもいかないわね………」
「これ全部爆破するには、相当量の爆薬がいるし」
「けど、幾らジャンクでもこれそうそう放出する訳には……」
「欲しけりゃくれてやればいい」

 そこで上からいきなり響いてきた男の声に、全員がそちらに振り向く。
 斜めになっているギガスの搭乗用タラップに、いつの間にか白衣姿のやけに筋肉質の男が立っていた。

「あら守門君、来てたの?」
「お久しぶりです、バーキン博士」

 その男、シェリーの教え子にして杉本財団の重鎮、その驚異的な頭脳と非常識過ぎる行動から《史上最強のマッド・サイエンティスト》の異名を取る異才、守門 陸が片手を上げて挨拶する。

「どうせなら、もうちょっと早く来てほしかったわね」
「すいません。こっちも忙しくて」

 弁解しつつ、陸がギガスの方を見る。

「想定よりも、派手だったか………」
「どんな想定?」

 妻の教え子とは言え、轟いている異名の方に怯えながら智弘が問う中、陸は苦笑しつつ、懐からタバコを取り出して火をつける。

「このまま破棄して問題は無い。必要なデータは十分なまでに取れた」
「それって、何に使うのかしら」

 シェリーがにこやかに、だが強い口調で陸に問う。

「ボクはなんとなく分かったよ、ギガスが何のための船か」
「え?」
「明らかに地上使用以外を想定した武装、単機による大気圏離脱及び航行機能、何よりこの重装甲。これらが必要な状況はただ一つ。これは、ギガスは超大型外宇宙探査・開発船のテストベッド、違うかな?」

 智弘の導き出した答えに、陸はタバコを咥えたまま口の端を僅かに持ち上げて笑みを作る。

「なかなか鋭い旦那さんですね」
「こういう事に関してだけだけどね」

 微笑を浮かべたシェリーだったが、そこで視線が鋭くなる。

「守門君、ひょっとしてオリンポスが敵の中枢だって知ってたんじゃない?」
「え!?」

 いきなりの質問に、全員が驚く中、陸は紫煙を吐き出した。

「確証どころか、証拠は何一つ無かった。だが、極一部の科学者達の間で、オリンポスで何か危険な実験が行われているという噂だけはあった。まさかあれ程の規模とは思いもしなかったが」
「……ま、そういう事にしておきましょ」
「いいのかい?」
「守門君なら、知ってたら一人でオリンポスふっ飛ばしてるわよ。最後にあった軍事衛星のハッキング、あれもあなたが仕掛けたのかしらね?」
「半分は。もう半分は誰かさんの知り合いが恩義としてやったらしい」
「軍事衛星に同時複数ハッキングできる電族なんて、〈エンペラー〉か〈マーティー・マスター〉くらいじゃ………」
「……多分当たり」
『んげっ!?』

 智弘が出したネット上で有名な超一流電族の名前に、そばにいたメカニックスタッフが全員吹き出す。

「どうやってそんな凄腕………」
「片方は知らん」
「片方は知ってても教えられないって事ね……それと、本当にこれほっといていいの?」
「どうせ宇宙法を盾に技術公開迫ってくるでしょうからね。この後全データは一般公開する予定です」
「………軍事利用されるんじゃ」
「技術レベルが半世紀以上違う部分もあるから、オレ以外に設計どころか解析すら出来ないだろう」
「あなたらしいわね」

 嫌がらせとしか思えない技術公開に、シェリーが肩を震わせて笑う。
 ふとそこで、陸の懐から何かの書類が零れ落ちたかと思うと、妙に不自然な動きで八谷夫妻の足元へと転がってくる。

「ああ、拾ってもらえませんか」

 陸がわざとらしく言うのを不信に思いつつ、シェリーがそれを拾い上げ、その表紙を見て絶句する。

「これ…!」
「えっ……」

《タイタン計画・超大型外宇宙探査船建造及び外宇宙探査計画について》と銘打たれた計画書に、シェリーが陸の方を見る。

「必要なデータはそろった。後は造って行くだけ」
「そうか君の、いや杉本財団の本当の目的は、オリンポスに集中していた宇宙探査・開発権の自由公開!」
「今回の一件で、STARSから優先枠を取る事が決まってます。たとえば、優秀な生物学者や神経電子工学者とか………」
「ん〜、正直宇宙はもうコリゴリかしらね………」

 頭をかきながらその計画書を陸に返そうとした所で、シェリーの目がギガスの中から何か大荷物を背負って出てきた人影に移る。

「でも、枠は空けといてもらえるかしら? もっと若い人が行くかもしれないし」
「若い?」
「ママ〜、こっち終わったよ〜」

 夫妻と陸の目は、ドラム缶より一回り大きいサポートAI『TINA』のメインCPUユニットを背負ってこちらへと歩いてくるトモエに向けられていた………



更に一週間後

「入るぞ」
「おう」

 病室のドアがノックされ、ドアが開くと車椅子に乗った宗千華が病室内に入ってくる。

「具合はどうだ水沢」
「何とか、生きてはいる」
「つうかよく生きてたよ………」

 ベッドの上、全身覆うところが無い位に治療されているレンに、ベッド脇で今回の事件レポートを読んでいたフレックが胡乱な目を向ける。

「腕の方は?」
「大分いい。まるで自分の腕を付け直したようだ……」

 レンがその右腕、顔などに比べて随分と白いそれを持ち上げてみせる。

「医者も驚いていた。ここまで問題なく完全接合出来るとは思ってなかったらしい」
「ならば、また剣を振るえるようになるのか?」
「その点に関しては、問題ないだろう」
「完治するまでここから出るなっておふくろさんに言われてるけどな」

 フレックがそう言いながら頭上を指差す。
 宗千華が天井を見ると、レンのベッド周囲をくまなくセンサーが覆っており、それに連動して無数のクレイモアが設置され、レンがベッドから出ると逃げ場も無いくらいに攻撃される状態になっていた。

「ならばいい。私は今日退院だから、挨拶に来た」
「お前の方こそ大丈夫か? そうとう深くやったらしいが」
「もう直歩けるようになるそうだ。それに日本で残務も溜まっているからな」
「そうか」

 そこでフレックがレポートのあるページをめくり、宗千華へと横目で視線を向ける。

「残務、ね。今回の一連の逮捕劇で、アメリカ以外の国の関係者の所にも検挙の手は伸びていた。だが、その中で日本の関係者数名が、検挙前に自殺していた。検挙する情報すら伝わってなかった可能性もあるにも関わらずにな」
「気の早い連中だったのだろう」
「それともう一つ。オレ達がドタバタしてる内に、STARS本部に侵入した者がいたらしい。今回の事件で、あんたに関するデータだけ、根こそぎ消去されていたそうだ。他のデータには一切手をつけずにな」
「それは残念だな。まあ助太刀に来た女侍と一言だけ書いておけばよかろう」

 顔色一つ変えず、あまりに不信な事を言う宗千華にレンも嫌疑の視線を向ける。

「宗千華、お前最初からそのつもりだったな。日本の国家責任上の問題全てを、自分自身の行動すらも闇に葬る。お前はそういう一族の人間だからな」
「好きなように取るといい。私は何も知らないし、言わない」

 眉一つ動かさずそう言う宗千華に、フレックとレンは長いため息を吐き出す。

「お前、よくこんなのと付き合いあるな……」
「もう慣れた。それにいつも厄介事しか回してこないからな」
「縁談はお前の方が無視してるだけだろう」
「…………」

 最早何も言う気が失せたレンが、そこで右手を宗千華の方へと突き出す。

「何の真似だ?」

 問いに答えず、レンの右手が奇妙な印ともサインともつかない物を幾つか描き出す。
 最後の一つと同時に、いきなり宗千華の視界が半分消失した。

「! 何をした?」
「お前の《鬼ノ眼》のリセットサインだ。内部記録データは全てリセットされる。今回の戦闘詳細データも全てな」

 鍔眼帯で普段能力をセーブしているとは言え、いきなりの事態に宗千華が頬をかすかに引きつらせる。

「そんな物は聞いてないぞ」
「陸から直接聞いてたんだよ。こういう時、お前が余計な手土産持ち帰らないようにな」
「余計、か。もっとも今の日本でSTARSを敵に回してまでBOWを作るような気合の入った政治家は存在しないだろうがな」

 ようやく再起動した《鬼ノ眼》の具合を確かめつつ、宗千華が苦笑する。

「私がすでにデータを持ち出してるとは思わなかったのか?」
「長い付き合いだ。それだけ貴重な物、お前が直接完全な状態でない限り、外部に出す訳が無い事くらい知っている」
「確かに、その通りだ」

 含みのある笑みを浮かべた宗千華が、そこでレンのベッドへと車椅子を寄せると、上半身をレンの方へと乗り出してくる。

「おい…」

 フレックが声をかけようとした時に、レンの唇に宗千華のそれが押し当てられる。
 数秒間その状態が続き、ゆっくりと宗千華が離れる。

「たまには家にも来い。父上も会いたがっている」
「行ったら確実に最後の気がするが。色々な意味で」
「安心しろ、クローニングに関しては許可していない」
「………レン、こいつとは絶対縁切った方いいと思うが」
「出来るならとっくの昔にやってる」
「ではまたな」

 軽いあいさつと共に、宗千華は部屋の外へと出て行く。
 そこで室外で待たせていた太刀狛が、車椅子に取り付けられたフックを咥え、牛車のように車椅子を引っ張りエレベーターへと乗り込む。
 屋上までのボタンが押され、屋上へとたどり着くとそこにはすでに一機の高速ヘリがローターを回して待機していた。

「お疲れ様でした、室長」
「ああ」

 スーツ姿の男性が宗千華を迎え、ヘリへと乗り込ませる。
 ハッチが閉められ、ヘリが飛び立った所で宗千華に複数のレポートが渡された。

「処理、全て滞りなく終わっております」
「こちらでも確認した。さすがに余計な手土産は持たせてもらえなかったがな」
「致し方ありませぬ。それと総理が今回の一件の直接報告をしてほしいとの事」
「なんだもう穴倉から出てきたか」
「ストレスで10kg程お痩せもうしたとか。すでに国内では骸骨総理というあだ名まで」
「そうか、では早く帰るとするか………」



同時刻 カナダ BC州・バンクーバー島 STARS本部

「以上、貴君方の助勢により、今回一連の事件は無事終息しました。よってここに感謝の礼を示す物とします。謝礼などは現在検討中ですが…」
「いや、別に構わん」
「やりてえだけやっただけだしよ」
「確かに」

 危機は脱していたが、今だベッドから動けない(正確には動く許可がもらえない)レオンの前で、過労を理由に退職した秘書の後任となった女性が中国のクァン元司令、小菅組長、オーストラリア軍元将官を代表として謝礼を述べていた。

「外交的責任問題は全てこちらで処理致します。安心して自国にお帰り下さい」
「そうはしたいのだが………」
「長官さんがよりにもよってアメリカ大統領ぶちのめして逮捕したって話が子分連中に伝わっちまって」
「どこからも正式にSTARS入りを希望する人員が多く出ている」
「こちらもまだ再編の途中だ。前のような臨時募集は無いが、正規の募集試験なら再来月に予定されている」
「あの二〜三年に一人しか合格しないという奴か………」

 ベッドから半身起こしたまま、数多の書類を脇にのけて言うレオンに、クァン元司令が小さくうめく。

「確か、軍か警察の特殊部隊上がりか、副隊長以上の推薦がないと試験資格すら取れないのでは?」
「あれ、レン坊は高校の時には入隊試験の案内状が来てたって先生言ってやしたが」
「ああ、オレが送っておいた。その後毎年のように隊長の誰かが送っているようだが………いつからか入隊推薦状になっていたが」
「彼なら退院してきたら今すぐにでもやっていけるだろう」
「引き入れられるなら人民軍でも欲しい所だが」
「下手な組織で飼えるような玉じゃねえですぜ、あの坊は………あの女課長さんとやら、どうやって飼ってやがんだか」
「最終的に判断するのは当人だ。無理強いして入れた者なぞ、何の役にも立たん」
「その通りだ。志無き者は闘えん、崑崙島での私のように………」
「レオン長官、貴方ほどそれを強く持っている人間はいない。もしまた何か有れば、我々はSTARSの旗の下に集うでしょう」
「はは、どうしよもねえ極潰しばかりだが、また先生が来なきゃなんなくなった時は先生のガードに来ますんで」
「その勇猛を失わない限り、私は貴君に敬意を払い続けるだろう」

 三者三様の言葉を述べつつ、三人の指揮者がその場を去る。
 部屋に二人が残された所で、秘書の女性がレオンの方を見る。

「随分とえらくなった物ね、レオン」
「いつの間にかな。やっている事はあの日から何も変わっていない」
「そうね。あの時私をかばってくれた時のままね」
「立場が少し上がっただけだ。そうだろう、エイダ」
「今はインファ・インティアンよ」
「……そうだったな」

 苦笑しつつ、二人は残った書類の片付けへと向き直った。



ギガス帰還から二ヵ月後 ラクーンシティ跡地

 夕闇から夜の帳へと変化していく空の下、無数に並ぶラクーンシティ死者慰霊碑の隣、旧STARS殉職者の墓標の一番端の前に、一人の男が腰を降ろしていた。
 そこにいきなりヘリのローター音が響き、一機の大型ヘリがホバリングしたかと思うと、そこからもう一人の男が降りてきた。

「おせえぞカルロス。先に二人で始めてたぞ」
「悪いな、ちょっとヤボ用があって」

 再度飛び立っていくヘリに手を振り、降りてきたカルロスが墓標の前へと歩み寄る。
 先に墓標の前にいたスミスは、手にしたバーボン入りのグラスを傾け、中身を飲み干すと用意いしておいたもう一つのグラスにボトルからバーボンを注ぎ、カルロスへと差し出した。

「どうだ新しい腕の具合」
「調子いいぜ、さすが最新型」

 両腕とも義腕となったスミスが右手を振り回してみる。

「あんま無茶して女房泣かすなよ」
「まあ、確かに右腕半分になったら泣かれたけどよ………そういや聞いたぜ、現役引退したって?」
「ああ、年金もらう分くらいにゃ稼いだし、跡目押し付けられる奴も見つかったしな」

 そう言いながらも、二人はグラスの中身を一気に飲み干す。

「それがよ、隊長辞めたいってオレが言ったらレオンの奴がやけにあっさり認めたかと思いや、今度フランスに出来る特殊災害テロ研究研修所の所長やれとよ。死ぬまでこき使うつもりだぜあいつ」
「研修所って事はあれか、教官込みって事かよ。しごき過ぎて潰すんじゃねえぞ」
「お前だって、今回の件であちこちからスカウトかかってるって話だろ、軍の機甲特殊部隊だったか」
「そっちは蹴った。そしたら市長が今度州と政府が合同で総合特殊機動部隊だとか作るから、そこの総隊長やってくれとか言われたぜ」
「STARSモデルにした災害・犯罪両対応のモビルチームって話だろ? お前に総隊長やらせたらどんな力任せの部隊になるか分かりゃしねえ」
「違いねえ」

 互いに爆笑しつつ、再度グラスを傾ける。

「そういや、CHの方なんて言ってる?」
「STARSへのスカウトの話だろ? 本人はあくまでオレの下につきたいからお断りしますとよ」
「もったいねえな〜、あの腕ならウチでもやってけるぜ?」
「あいつは親に似ないでクソ真面目なとこあるからな。一度忠誠を誓った人間から離れるのはどうのこうのなんて前に言ってやがったな〜………」
「どんな洗脳施した、てめえは?」
「しらねえよ」

 また笑いながら空になったグラスにバーボンを継ぎ足す。
 ふとそこで、スミスの顔が少し厳しくなる。

「それじゃあ、またしばらく会えねえか」
「かもな。ま、場合によっちゃこっちで講師にでも呼んでやるか?」
「オレが講師なんてガラかよ。ま、今晩は三人で楽しくやろうぜ。なあレン」

 スミスはそう言いながら、墓標の前に置かれたグラスに、バーボンを継ぎ足していった。



その頃 飛び立っていったヘリ内

「本当に明日の朝までほっておいていいんですか?」
「男三人で宴会とか言ってたからな。この季節なら凍死する事も無いだろう」

 心配するヘリのパイロットにそう言うと、フレックは機内へと向き直る。
 タクティカルスーツに身を包み、隊長の階級章を付けたフレックは部下となったSTARS第五小隊のメンバー達へ声を掛ける。

「FBIとの合同演習とは言え、再編成後初の出撃だ! STARSの実力を見せつけるぞ!」
『了解!』

 情報課所属特務諜報員から、STARS最年少隊長へと昇格したフレックの号令に、隊員達が力強く答える。

「もう直予定ポイントです」
「総員、降下準備!」

 隊員達がリベリングの準備を始めた所で、無線がいきなりアラームを鳴らす。

「何事だ?」
『長距離バスジャック発生! バスは現在ルート134を南下中!』
「バスジャック!?」
「ルート134というと……」
「真下です!」
「おい、あれか!」

 ヘリの窓から下を覗いた隊員達が、そこで不自然なまでに猛スピードを出している一台のバスを発見した。

「警察に連絡して救援の準備があると…」
「行くぜ!」
「ええ!」
「ちょっと待て馬鹿双子!」
「ムサシ、アニー!」

 他の隊員やフレックの指示も聞かず、ケンド兄妹はジャックされたバスへと向かってダイブしていった。



数日後 日本 水沢家菩提寺

 日本特有の四角い墓標が並ぶ中、一つの墓標の前でミリィが手を合わせていた。
〈水沢家の墓〉と刻まれた墓標の前で、線香の煙が立ち昇り、備えられたばかりの花の匂いがかすかに漂う。

「やっと終わったわ。またみんなして馬鹿再開してるみたいけど」

 ミリィはそう墓標に呟く。

「ま、またあんな事起きるなんて事は無いと思うから、静かに寝てなさい。それとも、相変わらずSTARSの守護天使やる気かしらね?」

 ミリィはそう言って墓標の前で小さく笑う。
 そこで懐で携帯電話が鳴り、それを取り出した所で自分の診療所からである事に気付いて急いでそれに出る。

「ああ、明日香さん。何かあった? またケンカ? 抗争? 似たような物でしょ、まったく小菅さんにまた注意しておかないと。すぐに戻るわ」

 携帯電話をしまいながら、ミリィは急いで帰ろうとするが、ふと足を止めて墓標の方を見た。

「またね」

 そう呟くと、ミリィは自分の診療所へと足を急いだ………



同日 カナダ STARS記念博物館

 かつてのアンブレラ事件の教訓を残すため有志の支援によって建設された博物館は、《第二次アンブレラ事件》と呼称された一連の事件の影響で、いつもにも増して見学客で盛況だった。
 その博物館に一人の男が訪れる。
 展示品を見ていた見学客が、男の姿を見かけ、その格好を一瞬不信感を覚え、隣にいる見学客に話し掛ける。

「おい、あれ………」
「コスプレか? それともまさか……」
「おう、Jrじゃないか!」

 そこで、見学客の案内をしていたSTARS記念博物館・館長を務めるバリーがその男、いつも通りの墨色の小袖袴姿のレンに声を掛けてくる。

「お久しぶりです、バリーさん」
「もう傷はいいのか?」
「ええ、出歩くぐらいには。バリーさんこそ腰の方は大丈夫ですか?」
「しばらく寝込んじまったけどな。お陰で孫に叱られちまった」
「それはそうでしょう」

 二人の会話を聞いた見学客が、にわかに騒ぎ始める。

「じゃああれが!」
「FBIの!」
「二代目ブラック・サムライ!」
「本物!?」
「あの生物兵器ごと宇宙ステーションまでたたっ斬ったっていう!」
「……何か変な噂立ってませんか?」
「まあいいじゃねえか。後でコーヒーでも出すから事務所に寄ってくれ」
「ええ」

 騒ぎながら寄って来る見学客をバリーが何とか遠ざけてくれる中、レンは展示品の一角へと向かう。
《STARS殉職者遺品》の看板が掛けられ、壊れた銃や階級章と言った遺品の中の一つの前にレンは立った。
 遺品の中央、壁にかけられた無数の傷でボロボロになった、かつては己が着ていた物と同じ色合いだったはずの小袖袴の前で、レンは姿勢を正す。

「全て終わりました。あなたのお陰です、父さん」

 そう言いながら、レンはそれだけ色の白い右腕を己の前にゆっくりとかざす。

「あいつは、またオレに剣を振るえと言っているようです。だから」

 レンは腰にさしていた拵えを作り直した大通連を鞘ごと抜き取り、父の遺品の前へと突き出す。

「これからも、己の信じる物を貫き通します。この刃に賭けて」

 鞘の中で、大通連が静かに震えた気がした………



しばらく後
アメリカ ワシントンDC FBI本部

 雑多な人種が行き交う中、一つの影が歩いていた。
 色々な人物の中で、その影は不自然なまでに浮いている。
 その人物はしばしロビーを見回した後、オフィスへと続くゲートへと歩き出す。
 その姿を確認した監視員が、思わず首を傾げる。

「IDを」
「あっと、はい」

 ゲートの前で立ち止まった人影が差し出したIDカードを監視員はしばらく見つめた所で、相手が誰か気付いて顔色が変わる。
 同時に監視員の上部に取り付けられたセンサーがそのカードをオートスキャンし、本物である事を示す電子音が鳴り響く。

「ど、どうぞ」
「はい!」

 相手が元気よく敬礼してゲートを通り過ぎた所で、後ろで順番待ちしていた捜査官が首を傾げる。

「ジョン、誰だ今の?」
「噂は聞いてたが、本当だったとは………」

「おい聞いたか?」
「Xファイル課の新人の事だろ?」
「まだ17歳らしいぞ」
「マジか? ここはハイスクールじゃねえぞ」
「それが………らしいぞ」
「なっ!? 本当か!?」
「本当らしいわね………」
「キャサリン課長もよく……」
「オレなら断るな、ドゲザしてでも」



「あ〜、やっと元通りね」
「長期で休んで申し訳ありません」
「いいわよ別に、仕事はちょっと溜まってるけどね」

 長い療養からようやく出勤してきたレンに、キャサリンが胸を撫で下ろす。

「三人も抜けて大変だったぜ、ホント………」
「ゴメン、でもどうしようもなくってさあ〜」

 同僚のぼやきにトモエがかわいく謝る。

「今回の件の特別ボーナスも上から分捕ったし、無理しない程度にばりばりまた頑張ってもらうわよ」
「はい課長」
『マム、そろそろ到着します』

 なぜかSTARSから特異事件捜査課預かりとなったサポートAI『TINA』の言葉に、皆がそちらを見る。

「そうそう、今日から新人が増えるから」
「新人?」
「聞いてないですよ課長?」

 全員が顔を見合わせる中、オフィスのドアが開く。

「来たわね」
「はい!」
「え?」
「まさか………」

 そこに現れた見覚えのある人物に、レンとトモエが思わず呟く。

「本日付でICPO直属特殊機動部隊《STARS》第六小隊から、FBI特異事件捜査課に研修出向になりました、リンルゥ・インティアン・ケネディです! よろしくお願いします!!」
「え〜〜〜〜〜!?!?」

 リンルゥの元気のいい声に、トモエの絶叫が重なった…………





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