第七章・最後の犠牲者


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第七章・最後の犠牲者


四人はリッパーと正面で向き合っていた。

「シーバス、これを使え」

アディスはイングラム二丁をシーバスに渡した。

「いいのか?」
「俺はこれだけでいい」

そう言って蛍雪を軽く叩いた。

「わかった」

イングラムを受け取り、シーバスは両手で構えた。アディスも蛍雪を抜き正面に構えた。
すると、蛍雪を抜くのを待っていたのか、リッパーは突然突進してきた。

「俺が隙を作る!」

アディスもリッパーに突進していった。

「はぁ!」

掛け声と共に切りかかるが、リッパーはそれを難なく回避すると今度は爪を突き出し串刺しにしようとするが、ギリギリでそれを剣で受け止める。
そして再び爪で切りかかろうとしたとき横から大量の弾丸がリッパーを襲った。

「どうだ!」

しかし、驚くべきことに傷がすべて瞬時に再生した。

「そんなばかな!あんなに撃ち込んだのに!」

リッパーはネイシー達めがけて突進していった。

「来るぞ!」

三人は散開し、リッパーを三方向から攻撃したが一向にダメージを与えられなかった。その時、リッパーがシーバスに向けて突進していき、そのままの勢いでタックルを食らわせた。

「がはっ!」

すさまじい衝撃がシーバスを襲った。

「くそ、アバラが何本か折れたな」

そしてリッパーはシーバスに止めを刺そうと腕を上げた。

「俺を無視するとは余裕だな」

シーバスとリッパーの間にアディスが現れた。

「シャーーーーー!」

リッパーの振り下ろした爪を刀で受けたが、力の差は歴然だった。
徐々に爪がアディスに近づいていった。

「二人ともシーバスを早く安全なところに!」

二人はシーバスを方で支えながらその場を離れた。

「くそ、なんて奴だ。あんなに撃ち込んだのにびくともしない」
「アディス!」

ネイシーの声で考えをやめて振り向くとそこには今にも切裂かれそうな距離まで爪が近づいているアディスの姿があった。

「あのままだとまずい!」

するとネイシーがリッパーに向けて発砲した。
しかし、リッパーはその攻撃を無視してさらに力をいれアディスを切裂こうとしていた。

「いいかげんにしなさいよ!」

そう言うと、ネイシーは今までの怒りを爆発させ、猛然とリッパーに走り寄ると、肩にかけていた鉄のハリセンを両手に持ち。

「くたばれー!」

掛け声と共にありったけの力でハリセンをリッパーの顔面に叩き込んだ。

「ブシャッ!」

火事場のばか力が働いたのか、リッパーはその場から三メートルほど後方に吹き飛ばされていた。

「大丈夫?」

「な、なんとか・・・」

その様子を見ていたジャックとシーバスはあっけに取られていた。

「嘘だろ・・・ハリセンでリッパーを殴り飛ばすなんて。」
「ネイシーもしかしたら四人の中で一番強いんじゃ・・・」

もちろんその攻撃でリッパーは死ぬことは無く、すぐに跳ね起きて攻撃態勢をとっていた。

「ジャック!お前のP90と手榴弾の入ったリュックにシーバスの持ってるナイフを入れて俺に渡してくれ!」

「分かった!」

ジャックは手榴弾入りのリュックにナイフとP90を入れると、アディスに投げ渡した。
受け取った後、ネイシーに早口で耳打ちした。

「俺が合図をしたら・・・」

ネイシーは少し動揺したが、覚悟を決めて同意した。

「わかったわ」

ネイシーは屋上の端まで移動した。

「やるか」

そう言うとアディスは残弾を確認し、その後P90を肩にかけリュックを背負い、刀を構えた。

「行くぞ!」

それを合図にリッパーも動いた。
二人の距離はすぐに無くなり、激しい戦闘に突入した。
アディスのあらゆる方向からの攻撃に、対応できず何度も切られるが、その度にリッパーは瞬時に回復していった。
隙を見てリッパーも攻撃するが、アディスはそれを何度かは受け止めたが、左右の腕からの攻撃に徐々に押され、ついに突き出された右腕の爪がアディスの腹に突き刺さった。

「ぐ・・・くそ!」
「アディス!」

無理やり爪を引き抜くと、アディスは何を思ったのかネイシーのいる方に移動し、蛍雪を仕舞い代わりに、左手にリュック、右手に取り出したナイフを持った。

「来いよ。バケモノ!」

リッパーはアディスに答えるかのように突進していった。

「打ち合わせどおりに頼むぜ。」
「まかせて!」

そういってアディスから少し離れた位置で横に並ぶようにした。
リッパーはネイシーを無視してアディスめがけて爪を振り下ろした。
アディスは振り下ろしてきた腕を掴むと、そのまま背負い投げで相手を投げ飛ばした。ちょうど落ちるか落ちないかぐらいの距離に。
そして、リッパーが起き上がった時を狙って、リュック越しにナイフを突き立てた。

「ネイシー!」
「そーれっ!」

ネイシーのハリセンが再びリッパーを吹き飛ばした。
リッパーはそのまま地面めがけて落下して言った。

「これで本当に終わりだ」

アディスはP90でリュックを撃ち抜いた。
放たれた弾は手榴弾に命中し、中に入っていた手榴弾すべてが一気に誘爆、いままでで最大の爆発を起こした。
二人は咄嗟に後ろに飛んで爆風を避けた。
爆風が収まり、二人が下を見るとリッパーの姿は無く、代わりに粉々に砕け散った壁面が見えた。

「やったのかな?」
「もちろんだ」
「やったー!」

ネイシーはアディスに抱きついた。

「い、痛いよ。ネイシー」
「あ、ごめん」

二人はジャックとシーバスの方に歩いていった。

「最高だぜお前は!」
「よくやったな」

四人は並んで座った。
シーバスはおもむろに時計を見た。

「あと、七分か」
「ここまで来たのにこれかよまったく」
「無線で助けは呼べないの?」
「無理だ。ここまで最低十分はかかるからな」
「リッパーだけでも倒せたからいいやもう」

しかし、奇跡は起きた。

「おい・・・諦めるのは早いぞ」
「え?」
「ヘリだ!見ろ!」

視線の先にはヘリが一機飛んでいた。

「信号弾を上げるんだ!」

シーバスは急いで予備の信号弾を上げた。すると、ヘリがこちらに向かって来た。
程なくしてヘリが到着し、着陸した。

「早く乗るんだ!時間がない!」

そこにはシーバスと同じ格好をした兵士が乗っていた。

「カルロス!生きていたのか!」
「シーバスか!とにかく話は後だ、早く乗れ!」
「急いで!」

後部の扉が開き、そこから女性が叫んだ。
四人は急いでヘリに乗り込もうとした。

「ぐは!」

アディスが突然苦痛の声を上げた。

「アディスどうし・・・」

その場にいた全員が絶句した。
アディスの体を触手が貫いていたからである。

「なん・・だ・・・と・・・」

そこにはリッパーに寄生していたものと同じ生物がいた。
リッパーが死ぬ瞬間に放った一匹であった。もちろんそのことを四人が知るはずも無かったが。
そいつは、そのままアディスの背中に飛びつくとすぐさま同化しようとした。

「シー・・・バス。イン・・グラムを・・はや・・・く」

シーバスはイングラムを投げ渡した。

「ありがとう」

そうはっきりとそういうとアディスはイングラムの弾をすべて自分に撃ち込んだ。

「アディス!いやーーー!」

イングラムの弾はアディスの体もろとも寄生虫を撃ち抜いた。
寄生虫は咄嗟に離れたが、それを見たシーバスが咄嗟にシグをホルスターから抜き、寄生虫を撃ち抜き絶命させた。
ネイシーはアディスに急いで駆け寄った。

「アディス死んじゃだめ!」

「ご・・めん。もう・・・無理・みたい」
「そんなこと言わないで・・・」

ネイシーの目には大量の涙が溢れていた。

ジャックはシーバスを肩で支えながら静かに二人を見守っていた。

「はや・・・くにげ・・・て」
「あなたも一緒に・・・」

突然激しくアディスは咳き込み、口から血を吐いた。

「アディス!」

するとなぜかアディスの容態が少し落ち着いた。

「君にし・死なれたら、俺が仕事をい・引退した意味が無くなる」
「え?」
「俺は君に一目ぼれしたんだよ」

ネイシーは驚いた。まさか、自分だったとわと。

「だから、逃げて。お・俺のために」

ネイシーは尚も首を振った。

「いいから行くんだ!」

アディスの叫びにネイシーは驚いた。そして、すべてを受け入れた。

「わかった。私生き延びるわ。あなたのために」
「ありがとう」

そう言うと、アディスは蛍雪をネイシーに渡した。

「この刀を持って行って。きっと役に立つから」
「わかったわ」
「き・君をま・守り抜くことができ・・・てよか・・・た」

アディスは静かに目を閉じ、二度と目を開かなかった。
ネイシーは静かにアディスを横たえた後、ジャックとシーバスに言った。

「行こっ!生きるために。」
「ああ」
「そうだな」

三人は急いでヘリに乗り込んだ。

「急いでこの町から脱出しないと全員月まで吹き飛ばされちまう!」

カルロスはそう言うと、ヘリを最大出力で発進させた。

「残り時間は!」
「あと一分!」
「くそ!無理か!」
「諦めるな!」

その時、シーバスの無線から男の声がした。

「誰だ?」
”君たちに感謝している者だ。”
「なんのことだ?」
”それを知る必要はない。だが・・・お礼としてミサイルの発射時刻を五分だけ遅らせてやろう。それだけあれば安全圏には行けるだろう。”
「お前はどうする?」
”私はすでに安全圏近くまで高速ヘリで移動したから心配は無用だよ。”
「そうかい。何に感謝してるが知らんが、どうもありがとな。」
”当然のことをしたまでだよ。”

そこで無線は切れた。

「誰からだ?」
「わからんがミサイルの発射を五分遅らせてくれるそうだ。」
「五分でもギリギリだが助かった!」

そこで会話をやめ、カルロスはさらにスピードを上げた。

「アディスのおかげ・・・かな?」
「きっとそうよ」

すると、いままで黙って座っていた女性が話しかけてきた。

「さっき死んだ彼は、あなた達とはどんな関係だったの?」
「大学の同級生でした。」
「そして、私を愛してくれていた人でした」

三人はそこで沈黙した。

その時、カルロスとシーバスが同時に叫んだ。

『ミサイルだ!』

後ろの三人がミサイルを目で追っていった。

「急いで!」

その時、ミサイルが町に着弾し、すさまじい衝撃波がヘリを襲った。

「うお!」
「きゃあ!」
「くそ!」
「く!」
「いて!」

ヘリが衝撃波によって大きく揺れ動いた。
しばらくして、不安定だったヘリがバランスを取り戻し、安定飛行に入った。

「助かった・・・のか?」
「ああ。助かった」

五人全員が安堵した。
その時、女性がおもむろに自己紹介した。

「こんな時になんだけど私はジル、ジル・ヴァレンタインって言うの」
「俺はジャック、ジャック・シュトラウス。」
「私はネイシー、ネイシー・フォード。」
「俺はカルロス・オリヴェイラ。」
「シーバス・ロウだ。」

自己紹介が終わるとジルはおもむろに聞いた。

「私はこれからアンブレラを潰しに行くけどみんなは?」

ジルを除く四人が同時に言った。

『アンブレラにこの償いをさせてやる!』

この時初めて五人はお互い、目標を共にする仲間になったのである。

ネイシーは蛍雪を強く握り締めながら静かに心に誓った。

必ずアディスの仇を取る、と。




エピローグ




三ヵ月後・・・とある研究所にて

「どうだね、彼の調子は?」

金髪に黒のサングラスをかけた男性が、目の前の研究員に話しかけた。

「順調です。このまま行けば、予定より早く目が覚めるでしょう。」

彼らの前には、水で満たされた巨大なカプセルがあり、中では一人の青年が静かに眠っていた。

「すばらしい。この調子で頼むよ、彼は組織にとって無くてはならない存在だからね。

その時、眠っていた青年が目を開いた。その目は赤く、猫のような鋭い目をしていた。

「目が覚めたようです」
「ここは・・・どこだ?」
「ここはH・H部隊専用の秘密研究所だ。」
「俺は・・・誰・・・だ?」
「君は私の部下だ。事故で記憶を失ったらしい」
「そう・・・なのか?」
「まだ傷がしっかり治っていない。今は治療に専念するんだ。話はその後だ」
「わかった」

そして再びその青年は眠りについた。

「引き続き経過を見守っていてくれ。」
「わかりました。」

そう言うと、男は部屋を出た。

「あいつの力が手に入れば、私の計画の成功が保障されるだろう。」

男はこれから自分が生み出すであろう結果を思いながら廊下を歩いていった。
その頃、カプセルで眠っている青年は夢を見ていた。
刀を持ち、目の前にいるバケモノと戦っている夢だった。彼の隣には一人の女性が立っていた。その女性は、彼になにか話しかけているが、彼にはなんと言っているのかわからなかった。

彼女は誰だろう?そして、俺は一体誰なんだ?

いろんな疑問を思いながら、その青年は静かに眠り続けるのであった。






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