バレンタインの変・天



バレンタインの変・天

バレンタインの変・天


@珠阯レ市特別行事対策委員会

「以上の点に置いて、今回のバレンタイン廃止を提唱する物であります」

 人修羅こと、英草 修二が普段と打って変わってメガネにネクタイ(※半裸はそのまま)という真面目なのか珍妙なのか判断に困る格好で、最近の珠阯レ市の物資消費状況及びレッドスプライト号への食料提供グラフ、欠乏状態になりつつある砂糖その他の状態を事細かに説明し、理路整然とバレンタイン廃止論を打ち立てる。

『確かに、彼の言ってる事は間違ってはいないな』
「ぐぬぬぬ………」
「まさか正論で来るとは………」

 突如として開かれた会議に通信回線越しに克哉が頷き、女性陣が歯噛みしながら人修羅を睨みつける。

「………また今回は珍妙な事言い出したな」
「言ってる事は一理ある」
「ふふ、地下に押し込められていた時期を思い出すな」

 八雲が首を傾げる中、南城も一連のデータに一考し、ロアルドは苦笑する。

「明確な反対意見が無い以上、これらを正規の提案として珠阯レ市議会及びレッドスプライト号指揮権限者達に陳情致します」
「議会に陳情した所で市民が納得するかしら?」
『いや、市議会だけでなく、警察内部、更には自警団の一部からも市内に戒厳令をしくべきではないかという案も出ている。物資の支給制限はその内に入るだろう』

 たまきも難しい顔をする中、克哉は更に顔を険しくする。

「それでは…」
「ちょっと待ったぁ〜!!」
「おごげ!?」

 人修羅が決断を促そうとした時、突然の怒声と共にドアが蹴破られ、吹き飛んだドアが人修羅に直撃する。

「何事だ?」
「こういう事よ!」

 突然の事にロアルドがドアを蹴破ったリサの方を見ると、リサがふんじばったアンソニー及び数名のマネカタを突き出す。

「こいつら、データ改ざんのためにシバルバーからの物資搬入路閉鎖とか横流しとかしてたのよ!」

 リサはそう言いながら、後ろから困った顔でついてきた風花の差し出した証拠写真を周辺にばらまく。

「………そういう事か」
「くそ、なんでバレた!?」
「バレないように慎重にやってたのに!」
「いきなりチョコだけ出てこなくなったらそりゃバレるでしょうが!」

 八雲が呆れ果てる中、人修羅とアンソニーの自供とも取れる発言にリサが怒鳴り返す。

『……物資横領は重罪とみなすぞ』
「横領って言っても私腹は肥やしてませんよ!?」
「チョコは非常用物資として小学校においてもらってますよ!?」

 冷たい声で宣言する克哉に、二人は慌てて弁明するが、彼らを見つめる瞳はどれも冷め切っていた。

「で、どうする?」
「まずは横領物資の回収及び物資搬入路の再開だな」
「この二人は?」
「ほっとけ、どうせいつものパターンだ」

 皆があれこれ言いながらバラバラと会議場から出て行き、最後に首謀者二人と女性陣が残された。

『さて、覚悟はいいかしら?』
「あの、できれば再度の検討を…」
「物はちゃんとあるから…」
『問答無用!』
『ぎゃああああああぁぁぁぁ………』



Aプリティー・バルキリー号ミーティングルーム

「義理チョコ廃止論?」
「ええ、そんなのが有ったらしいですわ」

 様々な時代のバレンタイン資料が山積みにされた中、一冊の本に目を留めた芳佳に、エリカが説明する。

「なんでも、女性の増え過ぎた贈答チョコの数量と、義理でもらう事を嫌う男性双方の意見から、そのような事が起こったとか」
「はあ、未来の人達って何かと大変ですね」
「いっそ私達もそうする?」
「でもそうなると、どうなるかな?」

 芳佳の素直な感想に、音羽とユナが首を傾げる。

「義理って事は、優先順位が低い所から削っていけばいいから………」
「となると」

 亜乃亜と音羽が一覧表を書いていき、冬后と僚平の名が一番下にある事に芳佳とユナの眉根が寄る。

「その、さすがにこれは………」
「じゃあ大きさを変えるという事で」
「えっと、そういう事していいのかな?」
「いいんじゃない? この二人なら」
「あれ、いつもお世話になってる人にあげるんじゃないんですか?」
「う〜ん」

 後ろからそれを見たエグゼリカの一言に、音羽は真剣に悩む。

「男は適度にエサ撒いかないと、使いモンにならないわよ」
「あ、なるほど」
「舞ちゃん、変な事教えちゃダメだって………」


「という訳でこれ」
「………前置きがすげえ気になるんだが。あとこれも」

 僚平が音羽から渡されたチョコ(※ラッピングにでかでかとエサと書いてある)に頬を引きつらせる。

「お返しは期待してないから、ゼロの整備お願いね〜」
「そりゃ言われなくてもちゃんとするって」

 にこやかに手を振りつつ去っていく音羽に、どこか苦い顔をしながら、僚平はもらったチョコをポケットにしまいつつ、仕事を再開する。
 ラッピングの下の「いつもありがとう」と書かれたメッセージカードに気づくのはしばらく後の事だった………


 2月14日、側にいる人に想いをこめて………





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