「今年もまた、この日が来てしまった」 「早急に対策を立てねば………」 暗い室内に、男二人の声が響く。 僅かに照らしだす明かりには、白地に目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被った全身に隈取のような文様の入った少年と、同じマスクを被ったデモニカを着た男が照らし出されていた。 「同士、嫉妬修羅二号の抜けた穴を補充しなくてはならない」 「新たな同士を見つけ出さなくては………」 「で、何の用?」 「勧誘だ、君達我々の同士にならないか?」 突然訪ねてきた怪しさMAXの二人に、作業の手を止めた杏平は頬を引きつらせていた。 「聞いているぞ、ここの艦長は一人で何人も女を侍らしているとんでもない男だと」 「何か誤解がありませんか?」 「何を言っている! 銀髪の美少女を何時も連れ回しているのを確認している!」 「まあ、間違って、は………」 マスクで表情は分からないが、呆れた声を上げる僧と首を捻る杏平だったが、そこでなぜか杏平の顔色が変わっていく。 「さあ、我らと共に!」 「バレンタインに制裁を!」 『誰が何人も女を侍らしているとんでもない男なのかしら?』 力を籠めて勧誘する二人の背後から響いてきた、怨嗟がこもった声に二人はゆっくりと振り返る。 そこには、天井から出てきたディスプレイに表示されるタカオと、その両脇に並ぶ艦内防衛用レーザーの砲口(※しかもチャージ状態)が有った。 『まさか、群像艦長の事じゃないわよね?』 「いや、その…」 「は、話せば分かる…」 「待てタカオ! オレらにも当たる!」 「逃げましょう」 杏平と僧が我先に逃げ出した直後、遠慮なしにビームが発射される。 『ぎゃああああぁぁぁ!!』 「え、えらい目に有った………」 「メンタルモデルとやらがあそこまで執念深いとは………」 あちこち焦げている二人が、なんとかイー401から脱出する。 「他に勧誘出来そうな人材は?」 「難しいな、華撃団とやらの司令はあの艦長よりも多くの女性に囲まれているらしい。しかも海外にも女がいるとかどうとか」 「なんとうらやま…いやとんでもない男だ!」 ふとそこで、何か騒がしい事に気付いた二人は身を隠す。 「こっちか不審者が逃げたと言うのは!」 「妙なマスクを被った二人組だそうです」 「かなりの危険思考を持った不穏因子らしいわ」 「早急に確保しましょう!」 美緒、瑛花、マリア、ポリリーナの四人が何か色々誤解があるような無いような事を言いながら、手に手に武装している姿に二人の嫉妬修羅の顔から血の気が引いていく。 「ここは、やばい………」 「早く撤退を」 「何してるの?」 「変な格好~」 背後から聞こえてきたに二人が振り向くと、そこにそれぞれクマのぬいぐるみを抱えた二人の少女がいた。 「いや、その…」 「これは…」 「ぬ、待て! そいつらタカオから送られてきた不審人物のデータと一致するぞ!」 突然おさげの少女が抱えていたぬいぐるみが二人を指差し、二人は凍りつく。 「バレンタイン粉砕って、何するの?」 更には金髪の少女が口に出していない事まで聞いてき、二人の体は完全に石化した。 「いたぞ!」 「貴方達、何をしてるの!」 呼びかけられた声に二人の石化が解ける。 だが冷静に考えれば、二人の少女の前に奇妙なマスクを被った半裸少年と武装した男。 どう捉えれれるかは、考えるまでもなかった。 『逃げろ!』 「待ちなさい!」 「不審人物発見! 応援乞う!」 周囲がにわかに騒がしくなる中、二人の嫉妬修羅は我先に逃げ出していた……… 『さて、ある意味ちょうど良かったわね………』 ディスプレイの中でタカオはほくそ笑む。 無駄に画像をエプロン姿にしながら、イー401の厨房で勝手に設置した遠隔マニュピレーターを機動させた。 『え~と何々?』 光の戦士達の世界から送られてきた物資の中に紛れていた、香坂・ピエレッテ著『魔女のおまじない百科』と『バレンタインスィーツ大全』を開いて画面越しに読みながら、マニュピレーターでこっそりかき集めた材料を料理し始める。 『まずチョコを刻んで、50度前後のお湯で湯煎・ここでバラの花びらを…』 足らない材料はナノマテリアルで合成しつつ、『意中の相手に自分だけを見つめさせるおまじない』を再現しかけていた時だった。 「何してるの」 『はう!? 401!』 熱中するあまり、イオナが厨房に入ってきてからようやく気付いたタカオが、マニュピレーターの動きが止まり、見ていた魔女のおまじない百科が床に滑り落ちる。 「あ、これ前にペリーヌさんが見てた本だ」 「え~と、意中の相手に…」 『見るな~!』 イオナと一緒に厨房に入ってきた芳佳と音羽が、何気に本を拾ったが、タカオが慌ててマニュピレーターで奪い返す。 『な、何しに来たの!』 「今日はバレンタインと言って、好意を持った異性にチョコをメインとしたお菓子を送る日らしい」 「だから、みんなで作ろうって話になりまして」 「他の人達はマスク被った不審人物追い回してるけど」 『くっ、あんた達も行ってればよかった物を…』 「どうせなら、タカオさんも一緒にやりません?」 「直にマドカも、あ天使の中で一番お菓子作り上手い子が手伝いに来てくれるって言ってたし」 『………………そうね』 しばし一人で作る事と、経験者に手伝ってもらう事の間で葛藤していたタカオだったが、経験はもっとも大事なファクターの一つという結論に達し、しぶしぶ了承する。 結局、大勢で皆の分まで作る事になったが、こっそり群像の分だけ大きめのを作る事に成功したタカオだったが、遠隔操縦で誰にも知られず渡すのに苦労する事となった。 「………どこ行ってきたお前ら」 「し、死ぬかと思った………」 「あっちは恐ろしい………」 姿が見えないと思った嫉妬修羅一号・三号が二人揃ってボロボロになって帰ってきた事に、八雲は首を傾げる。 「向こうは女の子ばかりだと聞いていたのに、セメントな子が多過ぎる………」 「我らはどこに言っても阻害されるのか………」 「いい加減止めとけ。そぞろ懲りたろ」 「あら英草君、アンソニーさんも戻ってきたの?」 祐子がぐったりしている二人を見つけると、持っていたカゴの中から、包装された包みを二つ取り出す。 「はい二人の分、ストレス溜まってるのは分かるけど、毎回騒ぎ起こすのは辞めた方いいわね」 「うう、祐子先生………」 「ありがたや………」 涙を流しながらそれを受け取ろうとした二人だったが、受け取る直前に突如として祐子の体が痙攣を始める。 「な、このタイミングで!?」 「なんだぁ!?」 「おいおい」 八雲を含めた三人が驚く中、祐子にアラディアの神が降臨する。 『嫉妬に狂いし修羅達よ! 汝ら恐るるな! 飢えし狼が如き四番目の修羅、直に現れん!』 とんでもない神託に、三人は無言で顔を見合わせるしかなかった……… 終 |
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