①学園編 「は~い、並んで並んで!」 「ちゃんと数量守るように!」 カルナダインが運んできたバレンタイン緊急支援物資の製菓材料をもらうため、学園の生徒達が列をなしていた。 「何あれ?」 「ほら、明日バレンタインだから」 「バレンタインって何?」 「まずそこからかい………」 殺気立っている生徒達をどりすが不思議そうな顔で見るが、つばさがカメラを構えながら説明してやるが、更に首を傾げる事にのぞみが呆れる。 「ま、バレンタインちゅうのは好きな相手や気になる相手、ついでに世話になった相手にチョコなんかのお菓子送るイベントや」 「ふ~ん」 「今年は出来ないんじゃないかと思ったけど、材料運んできてくれるなんて気が効く人達みたい」 「もらってる方が殺気立ってるんやけどな………」 その様子を取材しているつばさだったが、並んでいる生徒達、特にIS学園の生徒達が何か妙な殺気を放っている事にのぞみが首を傾げた。 「あ、サイコ」 「あら皆さんもですか?」 列の中にいたサイコにどりすが声を掛け、サイコも片手を上げて答える。 「ウチらは冷やかしや。そもそも結構並んどるけど、数足りるんかいな?」 「一応数の上は足りるそうで。いい材料は抽選になるかもしれないそうですが」 「………それで、その手は抽選用かしら?」 淡々と告げるサイコだったが、つばさの目は彼女の片手にいつの間にか握られているアームに気付いていた。 「いえ、念のための護身用です」 「アーム出してる時点で護身用も何もあるかい………」 「バレンタインって結構ハードなんだ~」 「その通りです、どりすさん」 「………巻き込まれん内に離れとこや」 「そうだね………」 そこはかと嫌な予感を感じた三人がその場をこそこそと離れる。 案の定、少なくなった材料の奪い合いに発展仕掛けた所で、千冬、どりあが睨みを効かせてなんとか事無きを得る事態となった。 「隊長! 無事バレンタインの材料を確保しました!」 「ご苦労だったなクラリッサ。だが、日本ではそんなにバレンタインというのが重要なのか?」 何故か多少ぼろけている格好のクラリッサに、ラウラが礼を言いつつも首を傾げる。 「何を言ってるんですか! バレンタインイベントはフラグ構築には必須イベントです! これを逃せば、ルート導入が不可能になるのです!」 「そ、そうか………」 多少意味不明な事を力説する副隊長にラウラはたじろぎながらも材料を受け取る。 「さて、料理は出来るが、菓子は作った事はついぞ無かったな。シャルロットにでも手伝ってもらうか?」 「お待ち下さい隊長、実はこのような物が混ざっていたのを入手しておきました」 「それは………」 「く~、まさかあそこで織斑先生が出て来るなんて………」 「IS使って材料取ろうとするからよ」 「あんただってパンツァー使おうとしてたでしょうが!」 「あれは後ろの天野が応戦しようとしたから、正当防衛よ! お陰でどりあ様に思いっきり怒られたし!」 鈴音とはさみが仲がいいのか悪いのかよく分からない状態で、なんとかゲットした材料を手に校内を歩いていた。 「で、あんたのはあの一夏ってのに?」 「そうよ、あんたは?」 「ひかり達とミニパーティしようかと思って。あれ?」 そこではさみが、園芸部が作った花壇に誰かが入り込んでいるのに気付く。 「ちょっとそこのあんた! 何してるの!?」 「い、いやこれは………」 「ラウラ?」 花壇から顔を上げたのが意外な人物だった事に、鈴音が驚く。 「生真面目なあんたが花壇荒らし?」 「いや、これは材料を探して………」 「材料? 何の?」 「ぐ、軍事機密だ!」 「花壇の中に軍事機密も何も…」 やけに慌てているラウラに二人が近寄った所で、彼女が何か大事そうに一冊の本を抱えている事に気付く。 「………《魔女のおまじない百科》?」 「どこからそんな物?」 「クラリッサが支援物資に紛れていたのを持ってきたとか………」 「おまじないって、あんたが? そういう事気にするタイプだったっけ?」 「迷信なぞは気にしないが、これはその………」 「あれ、その本どこから?」 そこへ、偶然通りかかった亜乃亜がラウラが持っている本に気付く。 「知ってるの?」 「うん、ペリーヌさん、前に一緒に戦った人のパラレル存在? だかいう人が書いた本。本物の魔女が書いた本だから、案外効果あるかも」 「本物の魔女? まさか~」 亜乃亜の説明にはさみは呆れるが、鈴音の目が鋭くなる。 「ちょっと見せなさい!」 「あ!」 半ば強引にラウラから件の本を奪った鈴音だったが、そこで栞が挟んでいるページを見て硬直する。 「……意中の相手に自分だけを見つめさせるおまじない?」 「いや、クラリッサがこれをと………」 「ふ~ん………はちみつにバラの花びら、その他諸々か~」 冷めた目をした鈴音がラウラを睨むが、そこで素早く携帯を取り出すとそのページを撮影する。 「じゃ、私急用出来たから!」 「待て! 今レシピを盗撮しなかったか!?」 本を突っ返すと猛ダッシュでその場を去る鈴音を止めようとするラウラだったが、すでにその姿は向こうに消える所だった。 「く、出遅れてはならぬ!」 「何やってんだか………」 「まずい事言っちゃったかな~」 「成る程、そんな物まで」 ラウラも急ごうとするのを呆れるはさみと亜乃亜だったが、そこでどこから現われたのかサイコが恐ろしい程冷たい視線で二人の背後に立っていた。 「あ………」「い………」 「その本、他にありませんか?」 「え、え~と確かエリカさんが他にも何冊か送ってくれてたかも………」 「貸してもらえますか?」 「い、いいよ?」 有無を言わせぬ声で迫るサイコに、亜乃亜は反論する余裕すら失って首を縦に振る。 この後、どういうルートを辿ったのか、おまじないの材料を集めようとする生徒達を再度千冬とどりあが睨みを効かせる事となり、翌日、変わったフレーバーのチョコが複数一夏に届いた。 なお、どりすに届いたかなり危険なフレーバーのチョコに、保険・風紀両委員が緊急出動して対処する事態となった……… ②シバルバー編 「ようし、こんな物でいいか?」 「わ~、ありがとう」 「よくこんなに」 業魔殿のキッチンの片隅、陽介が用意した種々の材料に千枝と雪子が喜ぶ。 「ねえ、バレンタイン用だよね?」 「そのはずですが」 「お菓子に使いそうにない物が混じってない?」 りせと直斗は、材料の中にしれっと明らかに使いそうにない香辛料や度数が強すぎる酒、怪しげな各種サプリが混ざっている事に眉根を寄せる。 「さて、まずはどれにしよう?」 「これから忙しくなりそうだし、スタミナ付くのがいいよね」 そう言いながら、千枝がスタミナドリンクを、雪子がサプリを手にした所で他の二人の顔色が変わる。 「そ、そう言えばあの二人、すごい料理下手だって聞いたような………」 「………まさかそれを狙って?」 「首尾はどうだ、新二号よ」 「問題ねえ、あの二人は目の前にあれば必ず使うはず。大人数分作れるように板チョコもいっぱい用意した」 「くくく、まさかそのような方法が有ったとはな」 白地に目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被った全身に隈取のような文様の入った少年に、同じようなマスクを被った陽介が状況を報告。 同じマスクを被ったデモニカを着た男が、今までと真逆の手段に感嘆の声を上げる。 「くっくっく、キャンプではえらい目にあったが、それを利用する時が来たぜ………」 「なんと頼もしい。そして恐ろしい………」 「シュバルツバースにもいなかったぜ、そんな恐ろしいスキル持った奴は………」 はたから見ると無茶苦茶怪しい三人の嫉妬修羅達だったが、やがて甘い匂いに混じって表現しようのない不可思議な匂いが漂ってくる。 「どうやら、作戦は成功したようだ」 「さて、じゃあブツが完成するまえにばっくれよう」 「安全圏まで退避だな」 そう言いながら巻き添えを食わないよう逃げ出そうとした三人だったが、その前に人影が立ちはだかる。 「へえ、そういう事だったんだ」 「残念ですが、まだ試作段階で量産はしてませんよ」 りせのアナライズ能力と直斗の推理力であっさりと陽介の行き先を見つけ出した二人が、嫉妬修羅達の企みを看破していた。 「あのね、試食してくれる人が欲しいって二人が言ってたよ♪」 「ちょうどここに三人いますね」 「え、いや………」「その………」「退避!」 空恐ろしい事を告げてくる二人に、嫉妬修羅一号二号がたじろぐ中、三号がとっさにスタングレネードを投じる。 「何これ!?」 「閃光弾です!」 「今の内だ!」 向こうが目が眩んでる内に逃げ出した嫉妬修羅達だったが、そこで何者かに行く手を阻まれる。 「何やってんだよ………」 「ホントにこっちに来ましたね」 「ワンワン!」 呆れた顔の悠と驚いた顔の乾、やる気満々のコロマルが行く手を塞ぎ、しかもいつでもペルソナを呼び出せるようにアルカナカードや召喚器が手に握られている。 「話は聞いてましたから、発見された時の逃走は予想出来ました。だから先手で逃走経路を塞いでもらってます」 「何者だこいつ!」 「あの、探偵王子って言われてる凄腕名探偵………」 「それを先に言え! ええい、強行突破だ…」 背後から追ってきた直斗の説明に、嫉妬修羅達が戸惑い、とうとう力尽くで逃げようとする。 「その手も予想出来ました」 次の瞬間、行く手を塞ぐ二人+一匹の前で、三人の嫉妬修羅達は派手にすっ転ぶ。 「何だぁ!?」 「あ、油!?」 「こっちが本命か!」 勢い込んで突撃した勢いで見事に転倒した三人に、無造作にどこかから用意された投網が投じられる。 「しまったぁ~!」 「ちょ、出してくれ相棒!」 「こ、この程度!」 「………その変なマスク被ってる人達には容赦するなって言われてて」 「それじゃ、毒見役確保完了♪」 「風花さんも一緒になって、毒見役の到着を待ってるそうですよ」 「味見じゃないんですね………」 「ワンワン!」 網の中でもがく嫉妬修羅達は、そのまま無造作に引きずられていく。 しばらくして、業魔殿の一角から珍妙な悲鳴が上がる事となった……… 終 |
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