バレンタインの変・獣死



バレンタインの変・去亜帝武



@ガクエン鎮守府(仮)

「え〜と、これでいいのよね?」
「温度調整が大事らしい」
「ナッツこれくらい?」
「ドライフルーツ用意したのです!」

 学園の厨房を借り、第六駆逐隊がレシピ本片手にチョコ作りに勤しんでいた。

「え〜と、ここでラム酒を」
「周王博士は大人だけど、コンゴウさんってお酒大丈夫?」
「少しなら問題無い」
「あれで私達より年下なんてね〜」
「上手くいってる?」

 騒がしくチョコ作りを進める第六駆逐隊の所に、包装紙を探してきた吹雪が様子を見に来る。

「後は、型に入れて固めればいいはず」
「取り敢えず、レシピ通り」
「冷めたら、冷蔵庫に入れて」
「固まったら包装なのです」
「さて、次は」

 吹雪は追加でもらってきた製菓用チョコを取り出す。

「こちらの金剛さんや加賀さんの分も作らないと」
「赤城さんが来てたら、固まるまえに無くなっていた」
「加賀さんも油断出来ないわね」
「取り敢えずいっぱい作るのです」
「手伝うよ」
「なんか、アレな事言ってんナ〜」

 そこにたまたま通りがかったエイラが、とにかく数を重視して量産されるチョコに苦笑いする。

「そんなに大食いなのカ? あいつら」
「大和さんほどじゃないけど」
「戦艦や空母の人は消費が激しい分、補給も多く必要なんです」
「本物の軍船まんまなんだナ………直にネウロイと合体して空飛ぶゾ」
「何の話?」
「こっちの世界の話ダ」

そのままエイラは厨房を後にする。

「う〜ん、私はどうするかナ〜」

 サーニャの分のチョコをどうするか悩むエイラだったが、そこでふと中庭が騒がしいのに気付く。

「なんだ?」


「え〜、それじゃあ希望者はこれで全員?」
「そのようですわね」
「準備はOK」
「いつでも始めていいわよ」

 亜乃亜が確認した所で、完全武装のISを展開しているセシリア、シャルロット、楯無が頷く。

「こちらも構いません」
「まさかそんなのが混じってるなんて」
「それなら欲しい!」

 反対側にはこちらも完全武装のサイコ、あかり、どりすが構えている。
 両者の中央には、何の手違いか一個だけ紛れていたベルギー王室御用達のエンブレムが入ったチョコが置かれている。

「それじゃあ、勝者一人だけがこれを手に出来るという事で双方いいですね?」

 エグゼリカの再度の確認に、双方が頷く。

「では、せ〜の」
『ジャンケン』『ポイ!』

 完全武装したIS使いとパンツァーが、何故か全力でジャンケンを繰り出す。
 そして何の偶然か、全員がパーを出す中、一つだけチョキが有った。

『あ………』
「私の勝ちダナ。じゃあもらってくゾ」

 飛び入りで参加したエイラが、チョキを手にしたまま意気揚々と王室御用達チョコを手に去っていく。
 奪い合いをしていた者達は、唖然とした顔でそれを見送るしかなかった。

「あの、確か………」
「多分、ね」

 エイラがイカサマをした事に気付いたエグゼリカと亜乃亜だったが、それを口にすればすさまじい修羅場になりそうな予感に口をつむぐ事にする。
 しばし後、コンゴウの甲板上で仲睦まじくベルギー王室御用達チョコを分けて食べるエイラとサーニャの姿と、厨房で味見と称して固まったチョコを端から貪っていく加賀の姿が見られる事となった………



A人外ハンター商会タルタロス支部(仮)

「バレンタイン?」
「あ、やっぱ知らないか」
「聞いた事あるわね。確か、2月14日に女子が男子にチョコレートってお菓子を上げるイベントでしょ?」

 首を傾げるアサヒに教えてやった修二が頬を掻くが、ノゾミが詳細を教えてやる。

「チョコレート………小さい時に、お父さんが秘蔵ってのをくれた事が有ったような………」
「ああ、サバイバル状態じゃ甘いのなんていの一番に無くなるか」
「昔は義理チョコなんていって、男達にばらまいてた時代も有ったらしいけど」
「ばらまかれるのを漁るのも惨めなんだけどね………」

 ノゾミの話に、小学校時代の黒歴史を思い出しそうになった修二が慌ててその記憶に蓋をする。

「ターミナルが使えるようになれば、シバルバーからそういう物資も届くようになるかもしれないんだけど」
「へ〜、そうなんだ。それは楽しみだな〜」

 そう言いながら素直に楽しみにしているアサヒを見た修二は、用意していた白地に目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクをそっと仕舞う。

(さすがにここでは止めておこう………向こうで新二号と三号は頑張っているだろうか?)

 修二が流石に罪悪感を感じていた頃……


「同士一号不在の間は、オレ達が頑張らないと!」
「無論!」

 学生服姿に額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被った嫉妬修羅二号と、同じマスクを被ったデモニカを着た男、嫉妬修羅三号が気勢を上げる。

「取り敢えず、今回はこちらの女性陣は警察署長自ら制作指導に入っているらしい」
「く、あの署長、切れ者のくせにお菓子作り上手いからな………」
「変わった人多いよな〜」
「排斥運動も補給線を抑える手もやった。残るは…」
「見つけた」

 悩む二人の背後から聞こえた声に、二人が振り向くとそこにいるチドリに気付く。

「…逃げるぞ!」「へ?」
「メーディア」『マハスクンダ!』

 一瞬で撤退を判断した嫉妬修羅三号が新二号の首を掴んで逃走を図るが、チドリのペルソナのステータス低下魔法を食らい、その場で転倒する。

「大丈夫、ムドらない」
「信用出来るか!」
「あの、ムドるって………」

 ペルソナで動きを封じてから宣言するチドリに嫉妬修羅三号は反論するが、新二号は何か不穏な単語に戦慄を覚える。

「周防署長がタルタロスにもバレンタインスィーツを贈りたいと提案してきたから、持っていく鉄砲だ…ボランティアを探していた」
「今鉄砲玉って言わなかった? 鉄砲玉って言わなかった?」
「何だ鉄砲玉って?」
「特攻とかカミカゼって意味!」
「ちょ、それは…」
「イヤなら、このまま皆の前に連れていく」
「ち、ちなみにそうなったどうなるの?」
「皆、武装したままバレンタインスィーツ作ってる。いつでも対処出来るように」
「何でもするので勘弁してください」
「鉄砲だ…ボランティアやります」
「分かった」

 即座に土下座した二人に、チドリは頷くとペルソナで二人を引きずっていく。

「どうしてこうなった?」
「さあ………」

 涙目(マスクで見えないが)の二人の嫉妬修羅は、最早抵抗する気も無くしたのか、大人しく従う。
 それから半日後、カグツチ黒化寸前でタルタロスエントランスにタッチダウンでバレンタインスィーツを運び込んだ二人の姿が有ったという………








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