バレンタインの変・銃禄



バレンタインの変・銃禄



@

「じゃあ集まったね」
「集まったのはいいけど………」
「何するのだ?」

 バレンタインを翌日に控えた学園の調理室の一角、イノセンティアの呼びかけで学園中の武装神姫達が集められていた。

「オーナーに送るバレンタインにぴったりのプレゼントを聞いてるんだけど」
「ダー、詳細は?」

 ランサメントとエスパディアが確認する中、イノセンティアが不敵な笑みを浮かべる。

「これは私達FAGの間で密かに流行っている究極のプレゼント、というか私達にしか出来ないプレゼントよ」
「どういう意味?」
「それより、みんなちゃんと洗浄してきた?」
「ちゃんとお風呂は入ってきたのだ」

 ツガルが首を傾げる中、イノセンティアの確認にマオチャオが元気よく答える。

「それじゃあ全員並んで。消毒するから」
『え?』

 イノセンティアが食品用アルコールスプレーを持ち出し、武装神姫達が首を傾げる間に吹きかけていく。

「な、いきなり何を!?」
「いや、お料理するなら消毒は大事だけど」

 ムルメルティアとアークが文句をいう中、イノセンティアは次の準備に入る。

「で、この型に食品用エポキシを入れる」
「何に使うのそんなの」
「こうする」

 小さな型に入れたエポキシの中に、イノセンティアは迷わずダイブ、更にその上から蓋までする。

「………え〜と」
「この容量だと、五分もすれば固まる」

 どう反応するか困るランサメントに、エスパディアは冷静に時間を図る。
 固まった頃合いを見図って、武装神姫達は蓋を開ける。
 そこでイノセンティアは手にしたFAG用ブレードで器用に型をくり抜く。

「とまあこのように型を取って、ここにチョコを流し込めば、プレゼントに最適の等身大チョコが出来上がります」
「最適、なのだろうか?」
「面白くはあるけど」

 出来上がった型を見てムルメルティアは言葉に詰まり、アークは興味津々だった。

「FAFで一部の人達にいい値段で売れるので、小遣い稼ぎにもぴったりです」
「大丈夫なのか、それ………」
「ニェット、嫌な予感がする」
「大丈夫です。寿整備主任は今まで作った分も含めて全部冷凍保存してるくらいです」
「大丈夫なの、その人の方が………?」

武装神姫達はちょっと引くが、販売はともかくプレゼント用には良さそうなので取り敢えず手順を確認していく。

「これにエポキシ入れて型を取るのか」
「動いたらダメなのがきついのだ」
「チョコは色々用意してあるぞ」
「オーナーの好みに合わせる必要がある」
「にしては、分量が多い気がするが」
「どう見ても多いよ?」

 みんなで型取りの準備を進める中、ムルメルティアとアークが明らかに自分達の体積の倍はある製菓用チョコに首を傾げる。

「いや、寿整備主任から武装神姫の分も持ってきたら小遣い倍額出すと言われて………」
「その人、本当に大丈夫?」
「大丈夫、ただFAG発売当初からのマニアが講じて、私達専門の整備員になっただけですから」
「筋金入りか」
「うん、そうだよ」

 ムルメルティアが呆れた所にかけられた声に皆が振り向くと、そこに笑顔のまま目が笑ってないあおが立っていた。

「あ………」
「イノセンティア、それは止めろってブッカー隊長に言われてたでしょ?」
「いや、そのバレンタインに最適って………」
「それバカ正直に信じて豪雷や迅雷が量産したの、マテリア達が密売して問題になったの、教えたよね?」
「そ、そこまでは作る気は………」
「じゃあなんで3Dモデリングじゃなくて型取りしてるのかな〜?」
「それは直取りの方がプレミア出るからと寿整備主任から…あ」

 口を滑らせたイノセンティアをあおは無言でつまみ上げる。

「全く武希子はこの子達に甘すぎるんだから!」
「ひ〜」

 イノセンティアを連行しながら怒りつつ調理室を出ていこうとしたあおだったが、そこでふと振り返る。

「そういう事だから、マスターに送る分以外は作らないようにね。何に使われるか分からないし」
『了解』

 あおの剣幕に武装神姫達は返礼した後、顔を見合わせる。

「じゃあ、各自一個ずつという事で」
「分かったのだ!」
「私はもうちょっと作る。他の駆逐艦の娘達の分も」
「ダー、私も」
「他にいいのも思いつかないからな」
「いいのかな〜?」

 武装神姫達が協力しながら作った等身大チョコは、各マスター達から様々な反応をもらうが、概ね好評ではあった。
 なお、廃棄を忘れた型が裏で流通しかけたのを差し押さえられたのは数日後の事だった………


A

「さ〜どうぞ、順番に順番に」
「まだまだあるぜ」
「器はこっちだぜ」

 白地に目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被った三人の嫉妬修羅達が、タルタロス132階に転移している人外ハンター本部前で、なぜか炊き出しを行っていた。

「食べ物はうれしいけど、なんであの格好?」

 配給された物を食べながら、アサヒは首を傾げる。

「変わった味のスープですけど」

 イザボーも器の中身を確かめつつ、ソレをいただく。

「なんか変わった具が入ってんぜ?」

 ハレルヤが汁の中になぜか大量に入っている小さな魚のような物をつまみ上げ、首を傾げる。

「知ってるわ。それ煮干しっていうのよ。そしてこれはすいとんって奴ね」

 ノゾミが前に何かで見た事を思い出すが、それにしても何かがおかしかった。

「まだいっぱいあるぞ。煮干しの佃煮、煮干しのマリネ、煮干しの…」
「なんで煮干しばかりなんですの?」
「そりゃ今日は煮干しの日だからな」
「苦労して集めたぜ」

 イザボーの素朴な疑問に、嫉妬修羅達は即答する。

『まって、今日は確か…』
『煮干しの日だ』

 イザボーのガントレットからバロウズが何の日か答えようとするのを、嫉妬修羅三人がかりで黙らせる。

「さあ皆さんいっぱい食べてくださいね」
「お代わりもあるぞ」
「食べられる時に食べよ〜」
「………怪しい」

 配られる大量の煮干し料理に、ガストンが不信感を覚える。

「今戻った」
「お土産もらってきた」

 そこに珠阯レ市に行っていたフリンと付添のトキがダンボールに入ったチョコを持って帰還する。

「く、しまった!」
「大丈夫だ! もうすでに腹は満ちてる!」
「チョコの入る隙なぞない!」
「………そういう事か」

 例の三人がなにかしていると聞いて様子を見に来た八雲が、あまりにアホらしい所業に呆れ果てる。

「周防署長から日持ちするように作っていると言われている」
「保存して後で食べればいい」
「何ぃ!?」
「あの署長、そんな特技が!?」
「こうなれば、最後の手段…」
「ふん!」
『うぎょわっ!?』

 強硬手段に出ようとした嫉妬修羅達に、事態を見守っていたナバールが状態変化アイテムをまとめて投げつけ、油断していた三人がまとめてバッドステータスを喰らって悶絶する。

「全く、プライドという物が無いのか、プライドが!」
「幽霊に言われたらおしまいだな………」

 ふんぞり返って悶絶してる三人を見下ろすナバールに、八雲が頷く。

「それで、この方々どうしますの?」
「一応実害は出てないからな。取り敢えず………」

 その後、しばらく炊き出し係を強制される三人の姿が有ったが、同情する者は皆無だった………






感想、その他あればお願いします。


小説トップへ
INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.