バレンタインの変・背分帝印



バレンタインの変・背分帝印



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「それでは、始めましょう」

 学園の一室、関係者以外立入禁止と手書きのビラが張られた一室で、あかりが密かに呼んだねじるとニナを前に会合を始める。

「え〜と」
「何が始まるんです?」

 誰にも知らせず来るように言われたねじるとニナが顔をしかめる中、あかりは一枚のチラシを見せる。

「ああ、例年のアレか」
「バレンタイン特別セール? なんですかこれ?」
「あ、そっちには無いのか。2月14日に好きな相手や世話になっている相手にチョコレートを主に菓子を送るってイベントだよ」
「へえ〜、そんなイベントが………」

 ニナはそのセールが学園の購買で色々な物を取り揃えている事を通知する物だと理解するが、それとなぜ呼ばれたかが結びつかずにいた。

「騒ぎになんのは毎度だろ。何か問題があんのか?」
「有るのよ、それが」
「今回は十分な量が有るし、特別配給チケットも希望する生徒には配られるんだろ?」
「ああ、これ………」
「問題はそこじゃないわ」

 ニナがもらっていたチケットを確認する中、あかりが深刻な顔をする。

「なんだ? 何か知らん内に千早艦長や大神司令のファンクラブが一夏ファンクラブとしのぎ削ってる事か?」
「蒼き波濤の会と太正群狼団は今や一夏親衛隊とほぼ拮抗してるし、そもそも掛け持ちしてる子もいるから、さほど問題じゃないわ」
「そんなの有るの………」

 名前だけは御大層なファンクラブに、ニナは半ば呆れる。

「問題は、それ以外よ」
「なんだそれ以外って? 友チョコでも送るのに問題であるのか?」
「友、で済めばいいんだけど………長引く閉鎖環境と、相次ぐ戦闘で、その………それ以上になりつつある子達がいるみたいで………」

 あかりの言葉に、ねじるとニナの動きが止まる。

「その、それは………」
「ねじる、貴方なら分かるでしょう? 最近匿名のファンレターが来るようになったの知ってるわよ」
「確かに、なんか最近そういうのがちらほら………」
「まあ、ガルデローベにそういう話は有ったけど………」
「貴方はここに来て日が浅いから大丈夫だと思うけど………」
「だって私にはセルゲイが…」

 思わず口走った事にニナが慌てて口を塞ぐが、あかりとねじるは生ぬるい視線を向ける。

(こいつ男いやがる………)

 全く同じ事を内心思ったが、口には出さずに続ける。

「そんな事、普段のメンツで話し合えよ」
「………気付いてない? 最近はさみとのずるも少し怪しく」
「マジか」
「一緒に頑張っている内に、関係が進み過ぎる。ガルデローベと全く同じね」
「サムライ少佐なんか、上司と部下で三角関係になってるみたいよ。当人は気付いてないっぽいけど」
「どこにもそういう話が有るみたいで………こっちも学園長が」
「待て、待ってくれ。それ以上はこっちの頭が持たん………」

 アレな話が盛り上がりかけた所をねじるが強引に止める。

「とにかく、学園内に流行りつつ有るこの兆候が、バレンタインを機に一気に加速する可能性が有るわ。何とか対策を練りたいの」
「友人同士がデキるのを阻止したい訳か」
「そんな身も蓋もない………」
「考えてみなさい。外にほとんど出る事が出来ないこの学園内のあちこちに同性カップルが溢れかえる。ノーマルには地獄絵図よ………」
「止めろ! 考えさせるな!」
「そのファンクラブの方々に頑張ってもらうとか」
「勢力拡大させて揉め事起こされても困るし」
「校則で規制、は難しいでしょうし………」
「千冬先生はどうか知らないけど、どりあ様はそういう所に口挟むタイプじゃなさそうだし。サイコの事放置してるのがいい例よ」
「あいつ、最近更にどりすにつきまとうようになってきたよな………」
「………先輩を幽閉どころか囲い者にしてたはずがされてた例がこっちに有ったわ」
「どういう状況!?」
「………ベビーグッズが転がってたそうよ」

 ニナの言葉に、あかりとねじるの顔色が一気に青くなる。

「………まあ、ここでそこまでする人はいないでしょう、多分」
「今の話、絶対サイコにするなよ? どりすのそばにやたらいる眼鏡だ」
「私も聞いた時引いたわ」

 三人は沈痛な表情でうつむく。
 しばしの間を持って、あかりが口を開いた。

「それで、何か対策は思いつく?」
「どうしろと………」
「ガルデローベだと基本異性交友禁止だから、むしろ同性交友が活性化していた節が………」
「この学園に男を増やすとか?」
「どうやって? いっそどこぞの男子校とでも合併すれば………」
「それは期待しない方が」
「く、JAMも余計な事ばかりして、少しはイケメンをダースでよこすくらいしてくれれば………」
「イケメンの敵が来たらどうするよ、その可能性はむっちゃ低いだろうが」
「対処が難しそうだね………」

 結論の出ない不毛その物の議論は結局ぐだぐだのままお開きとなったが、バレンタイン直前に突如として出現した新勢力・大河 新次郎の『プチミントファンクラブ』によってさらなる混沌の状況へと突き進んでいった………



A

「これは、一体?」
「つうか何だこれ?」
「銃弾?」

 白地に目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被った全身に隈取のような文様の入った少年、嫉妬修羅一号(HDリマスター)、学生服姿に同じようなマスクを被った嫉妬修羅新二号と同じくマスクをデモニカの上から被った嫉妬修羅三号はどこかから送られてきた謎のプレゼントを前に首を傾げる。

『これを使ってバレンタインを阻止してください』『まさか百合肯定派じゃないよな?』『やりすぎないでください………』

 3つのメッセージと共に送られた、銃弾のような物を見て三人はマスク越しに顔を突き合わせる。

「何者かは分からないが、我らの活動を支持してくれる者達がいるようだ」
「これ、女の字に見えるような………」
「はて、何者だ?」

 彼らの知る由もない、深刻な悩みが別作品で起きている事を想像も出来ない中、三人の嫉妬修羅は応援してくれる者がいる事に奮起する。

「では者共、準備はいいか」
「おうよ! これの使い方はわかんねえけど」
「では取り掛かろう!」

 そう言うや否や、三人の嫉妬修羅は防護マスクと消毒液噴霧装置、そして爆発物処理用の耐爆ポッドを用意する。

「今、世は正に大自粛時代!」
「空前の疫病対策をする必要が有る!」
「全てのカップルにソーシャルディスタンスを! 感染源となる手作りチョコは全て完全焼却処理を!」

 色々と明らかに間違っている防疫態勢を実行せんと、三人の嫉妬修羅は外へと繰り出そうとするが、一歩出た瞬間、凄まじい熱気が三人を襲う。

「熱ぃ!?」「何だこれ!?」「火事か!?」
「何だお前ら、また何かする気ならちょっと待て」

 そこで、借りてきたのかデモニカ特別耐熱仕様をまとった八雲が三人を制止する。

「周王弟が本編でちと腹に据えかねる事が有ったのか、少しペルソナが暴走気味だ。今みんなで抑える準備してるから、手伝うか引っ込んでるか好きにしろ」
「こ、これペルソナなのか!?」

 熱波の陽炎に遮られてよく見えないが、中央で達哉らしき影がいる事に同じペルソナ使いの新二号が愕然とする。

「あと念の為聞くが、可燃物とか持ってないだろうな? 持ってたら熱で着火するぞ」
「可燃物………」

 八雲の言葉に、嫉妬修羅達は背負っている消毒液(高濃度アルコール)タンクと耐爆ポット(燃焼剤入)を見る。
 警告は遅く、達哉のペルソナが放つ超高温にすでに可燃物は十分な程に熱されていた。
 数分後、程よく焼却消毒された三人の嫉妬修羅(自前の防御力で致命傷は免れた)がレッド・スプライト号の医務室へと担ぎ込まれた………







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