バレンタインの変 渋蜂



バレンタインの変 渋蜂



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「バレンタイン?」
「何それ?」
「あ、こっちにはないんか」
「確か、2月14日に好きな人や親しい人にお菓子送る日、だっけ」

 タテナシとディアナがティグリースの言葉に首を傾げる中、ひかりがうろ覚えで教える。

「あんたの故郷にはそんな風習あるんだ」
「いや、私も前にクルピンスキーさんから聞いただけで」
「それってせびられてない?」
「毎年いっぱいもらってたそうです。たまにカミソリ入ってたそうですけど」
「どういう人よ………」

 ひかりの説明に、タテナシとディアナはますますバレンタインがどういう物か分からなくなる。

「こっちでそんな風習あったら、妙な事に利用されそうね」
「可能性は高いです。ただでさえ乙HiME・GRAPHにたまに妙な特集組まれるのに」
「特集?」
「これよこれ」

 そう言いながら、タテナシは乙HiME情報誌乙HiME・GRAPHをひかりに見せる。

「へ〜、こんな本出てるんですか」
「乙HiMEは象徴であると同時に人気者だからね。私も取材された事あるわ」
「私も」
「どこでもあるんですね、そういうの」
「直にあなたも受けるかもよ」
「え?」
「あ〜、多分そこらは学園長がガードしてくれる思うんやけど………」
「だといいけど。たまにパパラッチが狙ってるって話もあるし」
「パパラッチってなんですか?」
「フリーの記者の事ですよ。タチの悪いのも多いようですけど」
「はあ………」

 今一理解していないひかりに、二人は内心心配する。

「それで、ひかりは誰かにあげるの?」
「う〜ん、お世話になってる人とかなら学園長とか舞衣さんとか………あ、タテナシさんとディアナさんもか」
「外出許可でももらって何か探しに行く?」
「自作って手もあるわ」
「ちょっと待ってや。確かお菓子によっても意味が違うたはずや。え〜と」

 ティグリースがメモ用紙にメモリの片隅に何故かあったデータを書き出していく。

「マカロンやカップケーキだと特別な人、グミは嫌い、マロングラッセは永遠の愛………」
「花言葉みたいな物ですね」
「お姉ちゃんならお料理得意なんだけど、私はちょっと………」
「レクリエーション代わりにやってみる? 息抜きにもなるし」
「面白そうね」
「二人がそう言うなら、ちょっとやってみようかな?」

 半ば興味本位で三人はバレンタインのお菓子作りを始めようとする。
 その際、たまたますれ違ったクラスメートへの説明と、どうしてか流れたティグリースのメモから、後年バレンタイン戦争とまで呼ばれるガルデローベ学園屈指の激しいイベントへとなっていく事なぞ、当事者達は知るよしも無かった………



A

「測距良し、距離測定、弾種榴弾、撃…」
「ストップ、ストップ!」
「マジ砲弾はやべえって!」
「死人はまずい! 死人は!」

 全員が白地に目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被っている四人、正確には艤装を起動させて照準している嫉妬修羅四号を、他の三人が必死になって抑え込んでいた。
 砲口が狙う先に業魔殿があり、そこには一つの看板が有った。
〈レストランにてバレンタイン特別メニュー、カップル限定〉の看板が。

「何がカップル限定よ! さっきの奴なんて男一人に女二人で入っていったわよ!」
「あれ八雲さんが財布にされてるだけだ!」
「どうせ食う事しか考えてねえし!」
「せめて徹甲弾に!」

 全身に隈取のような文様の入った少年、嫉妬修羅一号(HDリマスター)、学生服姿に同じようなマスクを被った嫉妬修羅新二号と同じくマスクをデモニカの上から被った嫉妬修羅三号があまりにストレートかつ過激な四号をなんとか抑え込もうとする。

「ぐおお、なんてパワーだ!」
「だ、ダメだ! ペルソナでも抑えられねえ!」
「艦娘だとしても強すぎる! これが婚期への焦り…」

 口を滑らせた三号の顔面(デモニカメット越し)を四号が凄まじい速さで鷲掴みする。

「今、何か言った?」
「いや、その…ちょ、ま…」

 素手で掴んでいるにも関わらず、戦闘用のメットが軋み音を立て始めた事に三号の背中を冷たい汗が滲み出す。

「情人、なんだろアレ」
「いつものだろう、放っておけ」
「毎度よく飽きないわよね、パオ」
「関わんねえのが身のためだ」
「ほらここだよナナシ!」
「待て、主様は私と来たんだ」
「落ち着け二人共………」
「なにか騒がしい」
「イベントだろ、早く行こうチドリ」
「君達、ほどほどにしないと連行するぞ」
「克哉さん後にしましょ、そろそろ予約時間だし」

 騒ぐ嫉妬修羅達の前をカップル達(奇数もあり)が通り過ぎていく。
 それを見送った四号は手に込めた力はそのまま、どころか更にパワーアップしていく。

「ちょ、耐爆バイザーが割れそう…」
「………がああああ! どいつもこいつも!」

「なんか変なおばさんいるよ」
「ああいうのには関わるな」
「そうだね! じゃあ行こう!」

 絶叫する四号の前を、あかりがライドウを半ば強引に誘って業魔殿へと向かっていく。
 それを見た四号の脳内で、何かが切れた。

「全兵装照準! 弾種三式弾! 無差別攻撃開s…」

 艤装の全兵装を放とうとした四号の脳天を、突然巨大なハリセンが炸裂する。

「ふにゃああ!?」
「もういいでしょう足柄。これ以上他所に迷惑かけるんじゃありません。帰ったらお説教ね」
「すまん、妹が迷惑をかけた」
「さあ帰りましょう」

 ハリセンを手にした妙高に、那智と羽黒が半分伸びている四号を手早く回収していく。

「待って姉さん! せめて一太刀…」
「ダメ、そんなんだから振られるのよ。お説教更に追加ね」
「いやああああぁぁぁ………」

 悲鳴が遠ざかっていく中、その光景を呆然と見送っていた嫉妬修羅三人は無言でそれを見送る。

「………どうする」
「どうするって言われても」
「オレ達もああなるんだろうか………」

 最早何をやる気も無くし、三人は無言でその場を去っていく。
 なお、バレンタイン特別メニューは好評だった。






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