バレンタインの変 獣駆



バレンタインの変 獣駆




@

「え〜と、分量はこれであってる?」
「大丈夫です。それと温度管理を…」
「あら、チョコ作り? そう言えばもうじきバレンタインだったわね」

 所用でリディアン音楽院の寮を訪ねた香坂 エリカは、そこでお菓子作りをしている未来と調を見つける。

「ええ、皆さんに配る分を」
「ちゃんとエリカさんとすぴなさんの分も作りますから」
「それはありがとう。どこの世界もこういうイベントはある物ね」
「そうなんですか?」
「こちらで教えて広まっていった可能性もありますけれど」
「異世界の風習持ち込んで大丈夫なんですの?」
「これくらいなら問題無いでしょう。情勢によっては多少奪い合いになりますけれど」
「どんな世界があるんだろう?」
「さあ?」

 香坂 エリカとイーダの会話に未来と調は首を傾げる。

「何か材料が色々あるのだけれど」
「ええ、何種類か作ろうと思って」
「レシピ見ながらだけど」
「へえ、本格的ね」

 イーダの指摘に未来と調がそれぞれタブレットでレシピを確認していく。

「取りあえず皆さん用にトリュフチョコでも。苦手な物とかありますか?」
「そこにある中には無いわね」
「よかった。こっちは切ちゃん用」
「こっちは響がいつ帰ってきてもいいように」

 そう言いながら、調はマカロン、未来はマロングラッセのレシピと材料を確認していく。

「どの世界もそういうのは変わらないわね」
「ご主人様、ご主人様」

 本命用の別途制作を見てからその場を去ろうとした香坂 エリカだったが、そこでイーダが小さく襟を引っ張る。

「どうかしまして?」
「確か、バレンタインでマカロンはあなたは特別の人、マロングラッセは永遠の愛を意味してます………」
「………」

 イーダの指摘に、香坂 エリカはゆっくりと振り向いて一見和気あいあいとお菓子作りに精を出す二人を見る。

「………この世界にもそういう方がいるという事で」
「いいんですの?」
「文字通りのよそ者にプライベートに口を出す権限は無くてよ」
「早い所、NORNとの合流と立花 響の発見をしませんと………」
「こちらからは出来る事はほとんど無いですけれど」

 敢えてそれ以上突っ込もうとはせず、香坂 エリカはその場を後にする。
 なお、少し後に別件で訪ねてきたすぴなが未来のマロングラッセと調のマカロンをつまみ食いしようとしてガチ殺気とシンフォギアで追い払われるのはまた別の話。


A

「………で、どうしてこうなった」

 すでに焦げている白地に目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被っている三人の姿に、八雲は温い視線を送っていた。

「そ、それが艦娘で既婚者がいるって本当かって聞いたら」
「いきなり砲撃されて………」
「ただ興味本位だったのに………」
「触れてはいけない禁忌ってのは有るからな。まあ随分と沸点の低い禁忌だが」
「なんと恐るべき嫉妬…力………」

 それだけ言うと三人の嫉妬修羅は事切れる(※息はしている)。

「バレンタインでなければ、もうちょっと手加減はしたかもしれんな………」
「いたいた、八雲〜はいバレンタイン!」

 取りあえず放置する事にした八雲だったが、そこへネミッサがバスケットを渡してくる。
 その中に大量に入っている手羽先料理に八雲は顔をしかめる。

「なぜチキンのしかも手羽先ばかりだ?」
「悪い所が有ったら同じ所を食べればいいって聞いたから♪」
「オレに羽根でも生やす気か………つうかどこからこんなに?」
「事情話したらメアリとメアリ妹が作ってくれた。あ、腕の変わりは今ヴィクトルが調整中だって」
「………羽根つきじゃないよな?」

 何か腕ネタでもてあそばれている気がしつつ、八雲はどう見てもパーティーサイズの手羽先の山に呆れる。

「ネミッサ、なんかかじった跡も有るんだが」
「おいしかったよ♪」
「………ここじゃアレだ。食堂にでも行って食うか」

 もう色々諦めた八雲は、しょうがなく手羽先満載のバスケットを手に業魔殿の食堂に向かおうとする。

「あ、八雲さん。さっきネミッサさんが…」
「これか」
「ホントにあげたんですか………」

 そこへカチーヤが現れ、何かを言う前に八雲がバスケットを見せると、カチーヤが思いっきり微妙な顔をする。

「あの、後からちゃんとチョコはあげますから」
「そうか、取りあえずこれの処理を優先だな」
「手伝うよ八雲♪」
「お前は食い足りないだけだろうが。カチーヤも手伝ってくれ」
「はい、でもこんなには………」

 バレンタインに何をしてるのか八雲自身分からなくなってきたが、二人を連れて八雲はその場を去る。
 なお、焦げた嫉妬修羅三人は放置されたままだった………








感想、その他あればお願いします。


小説トップへ
INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.