バレンタインの変 十宴帝



バレンタインの変 十宴帝




@ ディファレンス編

「そういう訳でこれからトゥアールのドキッ! 一撃必殺バレンタインクッキングのお時間です」
「どういう訳よ………」

 とりのタウンの厨房で、唐突な事を言い始めたトゥアールに愛香が半ば呆れる。

「バレンタインです! 今こそ女子力の全てを発揮する時!」
「あんたのは絶対違うでしょ!」
「まあまあ………」

 気合を入れるトゥアールに愛香が突っ込むが、まもりがなんとかなだめる。

「でもチョコが有ってよかったですね」
「なんで業務用割チョコなんてのまであるの………」
「多分、美鳳が持ち込んでたんだと。それこそバレンタイン前に需要高まりますし」
「とことん商売っ気強いのね、その子………」
「ドライフルーツも有った〜」
「おつまみ用って書いてるけど」

 倫花と乱花も倉庫を漁って出てきた材料をあれこれ厨房のテーブルに並べ始める。

「じゃあ始めましょう、まずはチョコを湯煎して温度を測り、テンパリングを」
「なんかお菓子作りの器具とかそろい過ぎてない?」
「趣味の子も多かったんで。私もよくやってました」
「なんか話に聞いてたよりマーメイド島って呑気じゃない?」
「裏はビクニ島より酷いかもしれないけど………」
「お、何かやってると思えば………そういやバレンタインだったか」

 そこに甘い匂いに誘われ、流子が覗き込んでくる。

「まあね」
「一緒にやります?」
「いんや、私は食う方専門だし」
「あ、もらってたクチ?」
「う〜ん、そういや中坊の頃、なんでか同級生からもらったような………」
「あ、私も」
「体育会系って同性からモテるよね」
「なるほど、蛮族度が高い程同性から…」

 経験を語る流子と愛香にトゥアールが余計な一言を付け加えた所で、トゥアールのつま先に愛香のかかとが踏み下ろされる。

「ふごぉ!」
「ホコリが立つから、それで我慢しなさい」
「いちいちエグイ突っ込みするよな………」
「ラッピングありました〜」

 絶叫するトゥアールを愛香が冷めた目で見るのを流子が呆れた所で、遅れてきた慧理那がラッピング用の箱やリボンを持ってくる。

「ちょうどいいの有ってよかったですね」
「あ、でも何か入ってるみたいで、まもりさんに聞いてから使おうかと」
「何入ってるんだろう?」

 未開封らしいラッピングされた箱を開け、中身を確認した全員(慧理那除く)の顔が引きつる。

「なんでしょうか、この紐みたいの?」
「その、紐って言うか………」
「それってスリングショット下g…」

 慧理那が理解出来ずに摘み上げる中、倫花と乱花が赤面し、愛香が猛スピードでそれを箱に戻して蓋を閉める。

「これはダメね。他のにしましょう」
「あ、そうですか。誰かがプレゼント用に使った物なら使えると思ったんですけど………じゃあ他のに」
「待って」

 他にも持ってきた箱を開けようとする慧理那を愛香が思わず止めると、それらを流子に押し付ける。

「悪いけど、中身確認してきて」
「私がか!?」
「絵理奈に見せちゃいけない物が入ってるかもしれないから」
「箱入り過ぎないか、あいつ………」
「ガチのお嬢様だから………魅零と一緒にでいいから」
「皐月も混ぜるか、まあ下手したら箱ごと両断されそうだが」
「物によってはそうして」

 危険物確認を任された流子が、確かに大きさ的にはチョコを入れるのに最適そうな箱の中身を予想してため息を漏らす。
 しばらく後、半数以上両断された箱の代わりを探す羽目となった。



A 真クロス編

「つまり、この塔を最上階まで登ればいいのね」
「一応そうらしいが、今はどうなってるか分かんないぞ………」
「だが、他に手は無い」
「確かに望む世界が作れるのなら!」

 目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被っている者達が、完全武装でタルタロス250階にいた。

「先行する気か?」

 何故か登る気満々の四人に、八雲が生ぬるい視線を向ける。

「この塔の頂上に行けば望む世界が出来るんでしょう!?」
「らしいが、詳しくは知らん」

 複数の砲塔が付いた艤装を装備した嫉妬修羅四号が詰め寄るのを、八雲は適当に受け流す。

「つうかそんな重装備で昇る気か? あんた海戦専門って聞いてるが」
「ふふ、モテモテの世界を作るためならこれ位………」
「そうだな、それもまた一つのコトワリ………」
「そうなのか?」
「さあ?」

 賛同する嫉妬修羅一号に、新二号と三号が顔を見合わせる。

「魔術の類はちゃんと手順踏まんとどう発動するか分からんぞ。悪魔召喚プログラムだってちゃんと術式使ってんだから」
「何事もトライ&エラーあるのみ!」
「オカルトでそれはヤバい領域なんだが………」

 どんどん八雲の視線が冷たくなっていく中、四人の嫉妬修羅がタルタロスの登頂を始めようとする。

「あの、上にニュクスがいる可能性も」
「そもそも守護たる神無しでどうする気だ?」
「何とかするわ」
「神っぽい物が何かいれば………」

 啓人とフリンがそれとなく止めるが、四人は構わず昇っていこうとする。

「つうか、話聞いた限りだと、望む世界作れるの開放した一人だけじゃねえ?」

 そこに何気に言ったダンテの一言に、全員の動きが止まる。

「一人………だけ?」
「そうか………その可能性も有ったな………」

 先程まで一致団結していた四人の嫉妬修羅の間に、殺気が漂い始める。

「到着する前に気付いてよかったな。という訳で諦めてこっち手伝え」
「ぬおおお、だが!」
「例え一人だけでも!」
「お〜い、やってくれ」
「メーディア」『マハムドオン』

 連れ戻そうとする八雲に抵抗する嫉妬修羅達だったが、そこでチドリの呪殺魔法を食らって昏倒する。

「適当に蘇生させとけ。忙しいのに仕事増やしやがって」
「いつもの事」
「じゃあこっちで………そっちの人はあっちに戻しときましょう」

 八雲が呆れチドリがうなずく中、順平が昏倒した四人を引きずっていく。

「バレンタインに開放したら、そういうサービスはあるんだろうか?」
「無いと思いますけど………」
「愛を司る神でも守護にすれば有り得るかもしれないが」

 八雲のボヤキに啓人とフリンも首を傾げる。

「取りあえず、普通に行こう、普通に」
「そうだな、それがいい」
(あんたらが言うか………)

 そう言いながら登頂準備を進める八雲とダンテを、周囲は極めて不審な目で見つめる事となった………








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