バレンタインの変 煮従移置



バレンタインの変 煮従移置




@ ディファレンス編

「はいこれこっちに残ってた材料」
「ありがとうございます!」

 みもりがとりのタウンから持ってきた製菓材料になのはが頭を下げる。

「さあてそれじゃあ始めよか」

 それらをうけとったエプロン姿のはやてが、さっそくそれをアースラの厨房へと運んでいく。

「あの子料理できるの?」
「はやてちゃん料理上手ですよ。私は、まだ修行中というか………家は喫茶店なんですけど」
「あ、オレん家も喫茶店だ」

 総二の問いになのはが苦笑しつつ答え、総二は意外な相似点に笑みで答える。

「あ〜、一応警戒態勢だから程ほどにな」
「あら別にいいじゃない。親睦深めるの大事よ」
「そやそや、これから一緒に戦うんやさかい」

 他にも料理が得意な者達が厨房に向かうのを見たクロノがそれとなく釘を刺すが、エプロン姿で加わる気満々のリンディとそれに続くかっぽう着姿のメガ・ネにそれ以上何か言うのを断念する。

「それじゃあ会場の方よろしくね」
「そちらも今急ピッチで進んでます」

 有志達主催による親睦を兼ねたバレンタインミニパーティーがアースラで開催される運びとなる中、クロノは未だ疑問を感じずにはいられなかった。

「食料問題が起きる前に脱出出来ればいいんだが………」
「あまり悩まない方いいんじゃない?」

 腕組みしながら悩むクロノを見かけた愛香が、声を掛けてくる。
 そちらを向いたクロノが、今度は別の問題気付く。

「それは何をしている?」
「ああ、これから外に吊るす所」
「むも〜!!」

 猿轡の上に簀巻きにされて愛香に引きずられているトゥアールの姿に、クロノの頬が引きつる。

「何故?」
「異物混入の常習犯なのよ。ましてや小学生のいる所に混入されても困るし」
「ほふな! ほれこほひひひゃにゃいでふか!」
「黙りなさい。あんたはホントはこの船にいてはいけないのよ!」

 何かわめいているトゥアールにケリを入れて強引にだまらせた愛香が、そのままトゥアールを引きずって船外へと出ていく。

「………これから本当に大丈夫だろうか」
「ゲーム大会やろうゲーム大会!」
「程ほどにね」
「何か余興が必要だろうか」
「居合でも見せんのか?」
「パーティーグッズまだ残ってた!」
「使っちゃえ!」
 そんな中各所から嬉々として色々な物が持ち込まれていくのを見たクロノは、吐息一つで気分を切り替える。

「まあ、あまり切迫しているよりはマシか」

 皆がはしゃぐ中、自分くらいは警戒を続けようとした時、突然船外から爆発音が響いてくる。

「敵襲か!?」
「トゥアールが逃げた! 見つけ次第攻撃していいわ!」
「いや、そこまでは…」
「主にとってかなり悪い影響を与える可能性が高いと聞いた! 捕縛に協力する」

 聞こえてきた声に、クロノの頬が今度こそ完全に引きつる。

「ふははは! 私が何の準備もしないで掴まるとでも思っていたのですか! 今の内にこのギンギンZとシッポリβを…」
「………」

 あちこち焦げているトゥアールが自分の目の前を通り過ぎようとするのを、クロノは少し悩んでから捕縛魔法を発動させる。

「ふご!? まさかこの少年そんな趣味が!」
「頼むからこれ以上悩みを増やさないでくれ………」

 捕縛されたトゥアールが何故か潤んだ目で見てくるのを絶対零度の視線で睨み返しながら、思わずぼやく。
 そのままトゥアールが愛香に引き渡される中、厨房から甘い匂いが漂い始める。

「クロノく〜ん、冷やすの手伝って〜」
「人を冷蔵庫代わりに…そう言えばそっちも今最低限度か」

 なのはにこわれ動力不足を魔法で補うべく、クロノは厨房へと向かう。
 なお、その後のパーティーが終わるまで外で吊されたトゥアールは交代制で監視される事となった。



A 真クロス編

「ソワカ ソラソバテイエイ オン! ソワカ ソラソバテイエイ オン!」

 淀んだ水かヘドロか分からない物がたまった池のほとり、崩れかけたお堂の前で一心不乱に詠唱を続ける者達がいた。
 お堂の前には朽ちかけたボートの上に錆びた一斗缶で作った護摩壇らしき物と、何故か供物台に山盛りにされた煮干しが捧げられ、目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被っている者達が、詠唱を続ける。

「ソワカ ソラソb…」

 だがその詠唱は護摩壇に投げ込まれた何かが爆発し、捧げられた煮干しごと護摩壇が吹っ飛んだ事で中断される。

「おわあ!」
「何だ!?」
「敵襲か!」
「うにゃああ!」
「こんなとこで何してんだ………」

 マスクを被った四人組がそれぞれの反応を示す中、爆発物を投げ込んだ当人、八雲は呆れた顔で適当に薬品や油を詰めた簡易爆弾を手に四人を睨みつける。

「何故ここが!」
「あんだけ妙な事調べたり聞いたりしててバレねえわけねえだろ………誰に聞いた、不忍池の弁天堂で逆真言唱えるなんて」
「頑張って調べた!」

 全身に隈取のような文様の入った嫉妬修羅一号の驚愕に八雲が冷めきった視線を向けるが、学生服姿の嫉妬修羅新二号が胸を張る。

「ここで供物を捧げ詠唱をすれば、カップルに破局をもたらす嫉妬の女神が召喚されるはず!」
「まあ、やり方は間違ってないが、微妙に違うぞ………」

 デモニカ姿の嫉妬修羅三号に、八雲は頭を抱えながらどうすべきかを考える。

「ええいこうなったら、私のマガツヒがこもった本命チョコ(※送り先不明)を生贄に…」

 砲塔の付いた艤装を背負った嫉妬修羅四号が何か帯びているような気がするチョコをかざすが、その脳天にハリセンが叩き落とされる。

「ふにゃあぁ!」
「何やってるの足柄。さあ早く戻るわよ」
「毎度妹がすいません」
「そっち持って!」
「離して〜! 嫉妬の女神を今こそここに〜………」

 姉妹達に引きずられ、嫉妬修羅四号は退場していく。

「あっちは任すとして…」

 どさくさ紛れに逃げようとしている残る三人に向けて八雲は無造作に簡易爆弾を投げ、三人が逃げようとした先で爆発して完全に足を止めさせる。

「片付けとけ、その後でちゃんと正真言を唱えるようにな」
「あの、爆破したのはそっち…」
「ここに本物の手りゅう弾が有る」
「すぐやります!」

 反論する嫉妬修羅達に、八雲は本物の手りゅう弾のピンを抜こうとした所で嫉妬修羅達は慌てて片づけを始める。

「にしてもこの状態で肝心の弁財天が残ってるかどうか」
「あら、あなたも気をつけなさい」

 呟く八雲の耳に、弦楽器の音と共に女性の声が届いて八雲が振り返るが、そこには誰もいない。

「………まだ残ってるのはいるからこの世界はかろうじて持ってるのか」

 八雲は小さく頷きながら、懐から小銭を取り出し、かろうじて残っていた賽銭箱に弾いて投げ入れる。

「八雲〜! こっちに使えそうなボート残ってた〜!」
「こんな状態の池じゃ無理ですよ!」

 向こうでボートで乗り出そうとはしゃいでいるネミッサとそれを止めているカチーヤを見て八雲は先程の警告を思い出しつつ、そちらへと歩き始めた………







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