パロディ


『魔人』
元ネタ:真・女神転生3NOCTURN マニアクス

『闇に潜み、刻が来る時を待ち続けた者達よ。 今、新たな闇の悪魔が誕生した。……刻が来たのだ』

 すでに世界を照らさなくなった太陽の元、元はただの少年であった一人の闇の悪魔が、その場に立ち上がる。

『集え! そして行こう!』

 何者かの宣言に従い、その悪魔の瞳が赤く光る、そして、その背後に無数の悪魔達が姿を現していく。

『我等の真の敵の所へ……!』

 先頭の悪魔が歩を踏み出すと、背後の悪魔達も一斉に進軍を開始する。
 闇に生まれた者、光から闇へと落とされた者、異端とされて闇に落ちた者、己から闇へと望んで落ちた者、地平を埋め尽くすおびただしい悪魔達が、己達の真の敵へと向けて進んでいく。
 だが、その前にただ一人待ち構えていた者がいた。

「……待ちな、ボウヤ」

 先頭にいた少年の姿をした悪魔が、その待ち構える者の言葉に従ったのか、その場で歩みを止め、背後の悪魔達も一斉に止まる。

「行くのか」
「……ああ」

 その待ち構えていた者、背中に大剣を背負い、腰に白と黒の大型拳銃を帯びた赤いコートの男、デビルハンター・ダンテの問いに少年の姿をした悪魔は答える。

「……お前は、どうする。最早人の世は終わった。それでもなお、悪魔を狩り続けるのか?」
「…………」

 ダンテは答えず、背の大剣リベリオンを抜き放つ。

「正直、お前達が何と戦おうと、オレには興味は無い」
「では、なぜ?」
「決まっている。オレはデビルハンター、そして今オレの前に最強の悪魔がいる」
「……それだけのために、この軍勢と戦おうと言うのか」

 少年の姿をした悪魔の背後から、無数の唸り声や咆哮が響く。
 あまりにもおびただしく、恐ろしい声は徐々に広がっていき、それは常人ならば正気を失ってもおかしくない程の唸りとなって大地に響き渡る。
 だが、ダンテはリベリオンを構えたまま、僅かに唇を持ち上げて笑っただけだった。

「雑魚に用は無い。オレの獲物はお前だけだ。人修羅」
「……そうか」

 かつての名で呼ばれた悪魔が背後に手をかざして控える悪魔達を静まらせる。

「では、やるか」
「ああ」

 静かになった所で、少年の姿をした悪魔が拳を構え、ダンテもリベリオンを構えたままわずかに歩を進める。
 僅かな間を持って対峙した二人が動き出すのは同時。
 互いの間合いに入ると同時に、魔力のこもった拳と、大剣がお互いに向けて繰り出された。
 人修羅と呼ばれた悪魔と、悪魔も逃げ出すと言われたデビルハンター、最強の魔人の名を賭けた戦いが、今、始まった…………



『出撃』
元ネタ:新世紀エヴァンゲリオン


「太平洋上空に本土に向けて接近中の物体確認!」
「衛星からのデータ来ます! 数は18、いえ20! パターン青、レギオン(軍勢)です!」
「第一第二両小隊出撃準備! 敵の構成は!」

 2024年、人類は、未だに未知の敵との戦いを繰り広げていた。

「サキエルタイプ10、シャムシエルタイプ4、マトリエルタイプ5、ゼルエルタイプ1です!」
「多いわね………第一、第二共にC体制! 到着までの予想時間は!」
「現在の進行速度だと、あと40分!」

 かつて《使徒》と呼ばれた敵とよく似た特徴を持ち、使徒よりも小柄であるが、集団で襲ってくるその存在を、人類は《レギオン》と命名した。

「こちらの出撃までの必要時間は!」
『20分で済ませます!』

 人類は自分達の生存のため、対使徒戦闘組織だったNERVを改変、その戦闘力を大幅に増強し、葛城 ミサト司令の元に対レギオン戦闘組織として集結させた。

「ポジトロンライフルをあるだけ出して! チャージ急いで!」
「今回は多いで! 弾あるったけ出しぃ!」

 ハンガー内に出動警報が鳴り響く中、新生NERV第一小隊隊長、惣流・アスカ・ラングレーと、第二小隊隊長、鈴原 トウジの指示が飛ぶ中、メカニックスタッフが大型ロッカーから次々と武装を取り出していく。

「一斑、二班はライフル準備! 他は武装取り付けだ! 早く!」

 メカニックスタッフリーダー、相田 ケンスケが次々と指示を出しつつ、出撃準備が進んでいく。

『目標集団、進行速度上昇! このままだと到着がさらに10分早まります!』
「ホンマかヒカリ!? 気の短い連中や! もっとゆっくり来い言うたり!」
『出来る訳ないでしょう!』
「あんた馬鹿ぁ!?」

 オペレーターの鈴原(旧姓洞木)ヒカリの報告に、思いっきり無茶な事を言い放つトウジにアスカも加わってその意見を却下。

『進行速度が更に上昇するかもしれないわ! 第一小隊の最優先で出撃可能にして!』
「待てや指令! なんでアスカんとこ優先やねん!」
「あんたの部隊がトロいからでしょ」
「あに〜! もっぺん言うてみぃ!」
「何よ!」
「またやってるよ………」
「隊長達もよく飽きないよな〜」

 出撃準備を進める第一、第二両隊員達がいつものように口論を始める隊長二人を生温い目で見守るが、そこに更なる警報が重なる。

『目標更に加速! 到達時間が更に早く…』
「ケンスケ! 私のエヴァの準備は出来てる!?」
「あと五分待って!」
「B型装備で構わへん! ワシのもすぐに出しぃ!」
「隊長! C体制が出てんですよ!」
「おまんらは装備整えてからや! 急げ!」

 口論を瞬時に止めた二人が、指示を出しながらエントリープラグへと急ぐ。

「エヴァンゲリオン弐号機、惣流・アスカ・ラングレー出るわよ!」
「エヴァンゲリオン3号機、鈴原 トウジ、行くで!」

 号令と同時に、高速エレベーターが射出。
 程なくして地表ゲートが開き、そこから真紅の弐号機と漆黒の3号機が姿を現す。

「ちょっと、もうそこまで来てるわよ!?」
「まだ準備中や! ご入店は早いで!」

 敵の姿が視界に入る所まで来ている事に驚愕しながら、二体のエヴァが同時に間近のハンガービルからポジトロンライフルを取り出す。

「攻撃開始!」
「行くで!」

 収束された陽電子が閃光と共に発射され目標に直撃、直撃したレギオン二体が爆砕する。

「サキエルタイプ、シャムシエルタイプ一体ずつ撃破!」
「他の機体は!?」
『第一小隊準備完了!』
「すぐに出して!」

 先制攻撃が成功した後も、葛城司令の号令が飛び、即座に第一小隊のエヴァンゲリオン量産型改(有人型)が射出されていく。

「マユミとマナはバックアップ! 残りはフォワード!」
『了解!』
「ヒカリ! ワイのドスを!」
「マゴロク・E・ソード射出!」

 フォーメーションを組む第一小隊の先頭に、パレットライフルを装備した弐号機とマゴロク・E・ソードを装備した3号機が並んで構える。

「来るなら来なさい!」
「返り討ちや!」

 押し寄せてくるレギオンにタンカを切ると、二機の隊長機を先頭となって突っ込んでいく。
 すさまじいまでの激戦の、開始だった。


「……今回は多いみたいだね」

 NERV本部の最深層、そこに住まう住人が上から響いてくる振動に小さく呟く。
 部屋のモニターには、現在行われているエヴァンゲリオンとレギオンの戦闘がリアルタイムで映し出され、住人はベッドに腰掛けたままそれを見ていた。
 隊長機二機の活躍と、第一、第二小隊のコンビネーションにより戦闘は最初は有利かと思われたが、突如として出現したレギオンの増援に、段々苦境へと追い込まれていく。

「……あ」

 量産型改の一機がレギオンの攻撃の直撃を足に食らい、その場に擱座する。
 そこへ集中攻撃をかけようとするレギオンの前に、3号機が強引に割り込み、攻撃を食らいながらも手近の一体を斬り捨てる。

「……トウジは相変わらず無茶するな」

 苦笑した所で、その部屋の住人は傍らに立つ、青髪と紅瞳を持つ少女へと視線を向ける。

「綾波、みんな頑張ってるよ。でも少し危ないな………」

 その少女へと語りかけている途中で、また一機量産型改が擱座する。

「ミサトさんもアスカもトウジも、ケンスケや委員長だって戦ってるよ。ボクや、綾波が変えなかったこの世界を守るために………」

 少女の顔が僅かに微笑む。それが、自分が見ている幻だという事を知りながら、言葉は続く。

「そうだね、他の誰でもない、ボクが望んだ事なんだよね………」

 モニターには、更に現れたレギオンの増援が映し出される。

「じゃあ、行ってくるよ」

 住人がそう言うと、少女の幻は頷いて掻き消える。
 ベッドから立ち上がった住人は、そのまま歩きながら衣服を脱ぎ捨て、そのまま自分専用のエレベーターへと乗り込む。
 その中でプラグスーツへと着替えながら、エレベーター内ロッカーに置かれた、壊れたメガネに目を映す。

「行ってきます、父さん」

 そう呟くと、住人はエントリープラグへの直行スロープへと飛び込んだ。


「ムサシ! マリイを連れて下がり!」
「しかし隊長!」
「邪魔や! そこにいても的になるだけや!」

 装甲の各所が破壊され、体液が流れ出している3号機を駆りながらもトウジが部下へと向かって叫ぶ。

「浅利! そっちのグレイブよこして!」
「これで打ち止めです!」

 近接の乱戦へと突入した状態で、レギオンの予想を越える増援に苦戦しながら、それでもエヴァンゲリオン小隊は着実に相手を減らしていく。
 だが、それと同時にこちらへのダメージも蓄積していった。

「ゼルエルタイプさらに五体出現!」
「こちらの状況は!」
「ムサシ機被弾! このままだと戦闘不能になります!」
『第二ターミナルビルがやられた! マナ機のアンビリカルケーブルが断線する!』
「戦略自衛隊のJA改部隊、到着まであと15分!」
「それまで持たせて!」
「言うてもこの数はちときついで………」
「マナ! 内蔵バッテリーが切れる前に下がりなさい! くうっ!」

 指示を出している途中で、ATフィールドに攻撃が直撃、弐号機の体勢が大きく揺れる。

「弐号機のダメージ、このままだとレッドゾーンに突入!」
「下がりなさいアスカ! 命令よ!」
「そうは言ってもね………」
『下がってアスカ。あとはボクがやるよ』

 突如として聞こえてきた通信に、それを聞いた全員が驚愕する。

「い、碇か!?」
「シンジ、まさか!」
「01ハンガー、開放確認!」
『00ロッカーが開いてく! まさかシンジが出るのか!?』

 封印されていた装備が開放されていく事に、メカニックスタッフからも驚愕の声が漏れていく。

「00番ゲート、開きます!」
「あかん! 敵のど真ん中や!」

 トウジの指摘どおり、敵陣の中央となっているゲートが開くと同時に、そこに一斉に攻撃が集中する。

「シンジっ!」
「碇ぃっ!」

 思わず隊長二人が絶叫した瞬間、レギオンの集団が、まとめて千切れ飛んで吹き飛ぶ。

「アスカ、トウジ、下がってて」

 その中心から、レギオンの体液にまみれた紫のエヴァンゲリオンが姿を現す。

「シンジ君!」
「ミサトさん、危ないですから皆を下がらせて下さい。あとはボクがやります」
「でも!」

 紫のエヴァンゲリオンに襲い掛かろうとしたレギオンが、それが手にした二股の奇怪な槍に一撃で貫かれ、次の瞬間には四散する。

「分かってるはずですよ。ボクと初号機が戦えば、ただじゃすまないって………」
「……分かったわ。全機撤退させて」
「でもっ!」
「命令よ! じゃなければ、シンジ君が戦えないわ」
「……了解。やり過ぎんじゃないわよシンジ!」
「皆引け! 巻き込まれるで! 無理はすんなや碇!」

 負傷したエヴァンゲリオンが引いたの確認すると、エヴァンゲリオン初号機のパイロット、碇 シンジは手にしたロンギヌスの槍を一閃させる。

「じゃあ行こうか」

 シンジが呟き、初号機の力を解放。その背に天使を思わせるような無数の光翼が出現する。
 そのあまりの強力さ故に、《悪魔》、《紫の破壊神》と呼ばれる力が、その場に巨大な光の十字架を築き上げる。
 そこにいた、レギオン達をATフィールドごと吹き飛ばしながら………


「……レギオン、全て消滅を確認」
「……ご苦労様シンジ君。戻っていいわ」
「ええ、分かりました」

 周辺を半ばクレーターと化した初号機をゲートへと戻しながら、シンジはふと空を見上げる。

「これが、ボクが、ボク達が望んだ世界なんだよな。綾波………」

 口から漏れた呟きは、聞く者はいない。
 世界の継続を願った彼の戦いは、まだ、続いている……………



『提出期限』
元ネタ:ペルソナ3

 ロビーの時計が夜中の11時を知らせる。

「え〜と」
「ちょっとそっちの本取って」
「お、これか」

 寮の食堂のテーブルに無数の本を並べ、しかめ面をした月光館学園特別課外活動部2年生五人が、各々のレポート用紙を埋める作業に没頭していた。

「風花決まった?」
「一応、ゆかりちゃんは?」

 山と積んだ歴史の資料や随筆を前に、テーマを悩んでいた二人が顔を見合わせる。

「そもそも、戦国武将と言ってもその人数はかなりの多岐に渡ります。人物は自由と言われましても困るであります」
「自分が好きなのにすりゃいんじゃねえの?」

 歴史の課題である《戦国武将についてのレポート》の提出期限が翌日へと迫る中、連日のタルタロス通いが災いしてそろって追われるメンバー達が、まず課題とする人物の選抜に頭を悩ませていた。

「私は、織田 信長の政治的手腕と外交戦略についてにしようと思うの」
「風花らしいわね〜私は徳川 家康あたりかな? 一番資料多いし」
「小野先生の事だから、やっぱ伊達 正宗っしょ。オレっちはそれにする」

 そう言いながらも、戦国BA○ARAの攻略本を広げている順平に、ゆかりが冷たい目線を向ける。

「あの先生、戦国時代ばっかやってるから、異常に詳しいんだよね〜」
「先輩から聞いたんだけど、去年適当に書いて提出したら、すごい量の修正個所指摘されたって………」
「これと試験の成績で今学期の成績決まるからね」
「そもそも、順平が今週中にあと10階進もうなんて言うから」
「オレのせいかよ! 第一、一番最初に倒れたのゆかりっちじゃん!」
「後にしよう。急がないと終わらないし」

 リーダーのもっともな指摘に、言い争っていたゆかりと順平も大人しく自分のレポートに取り掛かる。

「アイギスは決まった?」
「はい、本田 忠勝にしようと思いますです」

 なぜか順平から借りた戦国BASA○Aの攻略本からスペック表とカスタム予想図を書いていくアイギスに、風花がどこから指摘するべきかを悩む。

「お、やってるな」
「どうだ進んでいるか?」

 差し入れのドーナツを持ってきた明彦と、人数分の紅茶の用意をしてきた美鶴が、それらを差し入れながら各々の進行状況を確認。

「先輩の時は何書いたんですか?」
「私は、上杉 謙信女性説の考察と推論についてだったな」
「オレは何書いたかな………」
「戦国武将の武勇伝を片っ端から列挙していっただろうが。なぜか小野先生の評価はやたらと高かったが」
「いや、あの先生だからな〜」

 それぞれらしいレポートに、執筆中の五人は苦笑。

「え〜と、英語を好んで使い、得意とする六爪流は」
「メイン推進機関の飛行可能時間から予想されうる動力源は」
「……お前ら、本当にそれ提出する気か?」
「絶対何人かはゲームから書いてくると前に小野先生は言っていたな」
「小野先生の事だから、ちゃんと書いてれば認めてくれるんじゃないですか?」
「頑張るであります」
「そう言えば、リーダーは誰を書いてるんです?」
「ん?」

 何気なくリーダーの方を見た風花が、そこに積んである陶器の資料に眉根を寄せる。

「ああ、古田 織部と彼が推奨した陶芸窯元について書こうかと思って」
「……誰だよそれ」

 積んである資料(全て歴史ゲーム攻略本)からその名前を探す順平が首を傾げる。

「これだよこれ」

 資料として読んでいたへ○げもののコミックスを差し出され、それを半ばまで読んだ所で順平がそれを返す。

「オレの趣味じゃね」
「だろうね」
「それじゃ、私達は就寝するから頑張ってくれ」
「はい、さて急がないと」

 その後、影時間を利用してなんとか翌朝までに完成したレポートだったが、案の定順平とアイギスは再提出となった。
 さらに、眞宵堂の店主から主人公が熱心な勧誘を受けたのは、また別の話………



『本能』
元ネタ:鋼の錬金術師 アニメ第一部


「くそっ!」
「ダメだ、来るよ兄さん!」

 狭い路地を二つの人影が走り抜ける。
 片方は小柄な金髪の少年、国家錬金術師で《鋼》のあざなを持つ兄エドワード・エルリック、その後ろを大きなフルアーマー姿の弟、アルフォンス・エルリックが一緒になって追ってくる敵から逃げていた。

「くそったれ!」

 エドが両手を合わせ、それを地面に叩きつけて練成開始。
 練成反応の光と共に地面が盛り上がり、壁となって自分達の背後を塞ぐ。

「これで少しは…」

 言葉も終わらぬ内に、壁が一撃で粉砕される。
 破砕された破片すら飲み込みながら、向こうからよだれを垂れ流す口が迫る。

「おわあっ!」

 からくも転倒する事で迫る口から逃れたエドが、そのまま転がって相手から逃れる。

「食べるよ、食べちゃうよ………」

 迫ってきた相手、いかなる物も食い尽くすホムンクルス、グラトニーが飢えた目でエドを見た。

「させない!」

 再度襲い掛かろうとするグラトニーを思い切り殴り飛ばしたアルが、ついでとばかりに手近にあった雨どいに錬成陣を描いて錬成、蛇のようにしなった雨どいがグラトニーを縛り上げる。

「いい加減にしろよ。このデブ!」
「もう直大佐も来るよ! それまでなんとか!」

 悪態をつきながら、すでに戒めを解きかけているグラトニーからエルリック兄弟は逃げ出す。
 路地を抜けた所で、ちょっとした広場になっている空き地に青地の軍服を来た男性がいるのに二人は気付く。

「来たな鋼の」

 その男、二人の上司であるロイ・マスタング大佐がこちらに向けて不敵な笑みを浮かべると、エドはそのまま一気に駆け寄ると、ロイの顔面にオートメイルの鉄拳を叩き込む。

「兄さん!?」
「本物の大佐だったら、あいさつもしねえで相手を攻撃して恩を押し売ってくるだろうが」
「なるほどね」

 殴られて倒れたロイが、先程とは違う黒い笑みを浮かべると、その顔どころか全身が違う人物、変身の力を持つホムンクルス、エンヴィーへと変わる。

「手前も来てたのか!」
「ボクだけじゃないよ」

 身構えるエルリック兄弟の元に、別方向から伸びてきた無数の爪が襲い掛かる。

「危ない!」
兄をとっさに突き飛ばしたアルの腕を削るほどの鋭利な爪で攻撃した相手、ホムンクルス・ラストが二人を見て妖艶な笑みを浮かべる。

「あら残念」
「やべえ、2対3か………」
「いや、同数だな」

 声と共に突然出現した業火がラストへと襲い掛かり、とっさに飛んで避けたラストの髪の一部を焦がす。

「ふむ、もう少し早ければ鋼のに恩を売れたか」
「………」

 小首を傾げながら現れた男、本物の《炎》の錬金術師、ロイ・マスタングが姿を現す。

「おや、あんたも来たんだ」
「これも仕事でね」
「ラスト、あれも食べていい?」
「いいわよ」
「そうだ、大佐の方が食いでがあるぞ」
「減俸するぞ、鋼の」
「兄さん、それはちょっと……」

 相対する三人の錬金術師と三人のホムンクルスの間に緊張が走る。

「ふ、ふふふふ………残念だったな、今日のオレには秘密兵器があるんだ、これが………」

 不死身にも近い生命力を持つホムンクルスを前にして、エドが不敵、というか妙に不気味な笑みを浮かべる。

「へえ、それは是非とも見て見たいな」
「おう、見せてやるぜ! この錬金術の奥義の結集を!」

 そう言い放つと、エドはポケットから六角形で中央にギリシア数字が刻まれた不思議な合金を前へと突き出す。

「兄さん! それ作品が違う!」
「構うか! 行くぞ武○連金!」

 掛け声と共に合金が分解、無数の六角形の光となってエドを取り囲み、四肢へと集結していく。
 なぜか足元へと多く集まった六角形の光がエドを押し上げていき、その目線がロイを追い越し、さらにアルよりも高くなっていく。
 個人の闘争本能に応じて形態を変えるそれは、光から完全な物体へと変化、四肢を更に延長させるようなスプリングのような武装へと変わっていく。
 完成したそれ、偽装靴(シークレットシューズ)の武○錬金《ジャック・ザ・スプリングレッグ》を見た一同の間に、沈黙が舞い降りる。
 予想外の形態に、エドがこちらを見上げているアルとロイを見た。
 その目は、明らかな憐憫だった。

「……ゴメン兄さん、兄さんがそんなに背が低いの悩んでたなんて気付いて上げられなくて………」
「おいアル………」
「鋼の、まだ可能性はある。まずは牛乳を飲めるようになれ」
「大佐まで!」

 ふと向こうを見ると、理解できてないグラトニー以外の二人も、哀れそうな視線でこちらを見ている。

「み、見るな! そんな目でオレを見るな!!」
「背が伸びて良かったわね、ノッポさん」
「そうだな、ノッポ」

 誠意が1ミリも入ってない二人の声に、エドの目から何か光る物が溢れ出す。

「ちくしょおおぉぉぉぉ!」

 滂沱の涙を流しながら、エドが突撃。
 スプリング上の両足は、驚異的な瞬発力で一気に間合いを詰めると、同じくスプリングの両腕から伸びた鋭利な爪が振るわれる。

「くっ!」
「やるじゃない!」
「う〜!」

 見た目とは予想外の戦闘力に、ホムンクルスは散開。

「じゃあ次はこっちからだ!」
「ちっ!」

 すかさず反転して攻撃に転じるエンヴィーに、エドは両手を合わせて錬成を開始。
 瞬時にスプリングの両腕が盾へと変化し、攻撃を受け止める。

「! 錬成変化可能が特性か!」
「じゃあこれは!」

 真横から伸びるラストの爪を驚異的な跳躍力でかわしたエドは、再度両手を合わせると両手をスプリングの両足に当てる。
 即座に両足が複数の矢へと変化し、バネ仕掛けで撃ち出される。

「くっ!」

 避けきれなかった矢がラストをかすめ、鮮血が舞う。

「すごいよ兄さん!」
「やるな鋼の」
「はっ、リーチが長いってのはいいねぇ〜!」

 物はともかく、驚異的な戦闘力を持つジャック・ザ・スプリングレッグにエドは得意になってホムンクルスを睨む。

「ふふっ、なるほど分かったわ。じゃあこちらも」

 すでに矢傷が消えているラストが、胸元に手を入れるとそこから同じく六角形の合金を取り出す。

「なっ!?」
「まさか!」
「○装錬金!」

 ラストの声と同時に合金が発動、無数の六角形の光となって形態を変えていく。
 光は最初に赤いオーブを創り上げ、それを覆うように半孤を描いて周縁部に二本の排気管の付いた外装が付き、それから持ち手部分が形勢されると、持ち手部分が伸びて完全なロッドを形勢した。
 なぜか同時に光がラストの周囲を覆っていき、武装の完成と同時にその姿も変わっていた。
 完成したのは魔法杖(マジカルロッド)の○装錬金、《レイジングハート》。特性・魔法少女への変身。
 光が消えると、体にフィットした黒のドレス姿のはずのラストが、白いブレザー制服のような服装に変わり、髪型もツインテールになっている。
 それを見た全員の動きが、完全に停止した。
 三人の錬金術師は今見た物を何か脳が理解できず、目を点にしている。

「ラスト?」

 グラトニーは人差指を咥えるいつもの仕草で不思議そうに見ているが、エンヴィーの方は見てはいけない何かを見てしまった衝撃に、驚愕の表情のまま凍りついていた。
 その場を、あまりにも乾ききった風が吹き抜ける。

「……………………武装解除」

 武装が解かれ、ラストの姿が元に戻る。

「さあ始めましょう」
「ちょっと待て! なんだ今のは!」
「何の事だい鋼の錬金術師!」

 抗議の声を上げるエドを無視して、ホムンクルスが襲い掛かってくる。

「大丈夫、まだ若作りしなくてもいいと思いますから!」

 余計な一言を言ったアルが多少集中攻撃を食らったが、結局勝負はつかずにお互い逃走という形になって戦闘は終息した。
 後日、幼馴染のオートメイル技師のウィンリィから、「大佐から聞いたんだけど、今度背が高く見えるオートメイル作ってみるから」との電話を受けたエドがロイのオフィスに殴りこむのはまた別の話…………



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