クリスマスの変・鹿


クリスマスの変・鹿



(ダークボーイ・管)「え〜、それでは本年はFATE OF EDGE完結記念とあわせまして、2008クリスマス服喪大法要を…」
(トモエ)「あ、手が滑った!」
(ダークボーイ・管)「むぎゅげ!?」

(シェリー)「ねえ、今虫けらを潰すような声が響かなかった?」
(トモエ)「ううん聞こえなかったよママ」
(リンルゥ)「あのさ、何かこの大型ツリーの下から血のような物が………」
(トモエ)「気のせい気のせい。それじゃあ本編へ♪」



「カルト事件と魔術事件を分ける際、必要なのは現場の痕跡の正確な解析と理解であり、これは多大な知識と経験が……」
「まだ残ってたの?」

 クリスマス・イブ、町の各所から、テレビのどのチャンネルからもクリスマス・ソングが鳴り響く時間だというのに、リンルゥは特異事件捜査課のオフィスで山と積んだ資料とにらめっこしていた。

「あ、課長。あれ、立て篭もり事件にネゴシエートしに行ったんじゃ?」
「それが、犯人が私の名前聞いただけでいきなり武器投げ捨てて命乞いしてきてね。無駄足だったわ」
「前の騒ぎで、父さんの代わりにSTARS指揮した女傑って評判だからな〜」
「その割には下着まで脱ぎ捨ててドゲザしてきたけど、なんだったのかしら」

 小首を傾げるキャサリンに、リンルゥはネット上などで元から流れていたキャサリンの噂が、さらに尾ひれがついて今や《ブラック・サムライ》や《イーグル・ハート》に匹敵する危険人物扱いされているらしい事を喉元まで出しかかったが留めておく。

「あなたも、入ったばっかの新人なんだから無理に仕事してなくていいわよ。なんならクリスマス休暇くらい出してもいいし」
「う〜ん、一人で過ごすのも………去年はバイトだったし。母さんも父さんも年末年始は忙しいって言ってたからプレゼント贈ろうと思ったら、レンから直に渡しに行かないと無事に届かないとか言われたしな〜」
「そりゃ、届くプレゼントの半数が爆弾だのABCトラップな人じゃね………前にトラップ付き小型核爆弾もらった事もあったらしいわ」
「か、核………?」
「さすがにやばいってんで、FBIからも専門家が解体手伝いに行ったけどね。一番驚いたのは解体途中の核爆弾の隣で平然と彼が仕事してた事かしら」
「……父さん逃げなかったんですか?」
「個人認識トラップが付いててね。爆発すればSTARS本部ごと吹っ飛ぶから全員どころか全島避難してたのに当人は眉一つ動かしてなかったわ」
「……ボクが父さんの足元に届くのに何年かかるだろ?」
「さあね」

 キャサリンが微笑した所で、課長席の電話が小さく鳴ると、自動着信がかかる。

『レンです。こちらは終わりました。現場処理を委託したら戻ります』
『イブにつまんないテロなんて起こそうとしてんじゃないの! グラマンズの特製クリスマスケーキ売り切れたらどうしてくれるのかしら!』
『ぎぃやああああぁぁぁ…………』

 レンの声の向こう、トモエの怒声と何か肉のような物を殴打するような音、段々か細くなっていく断末魔が聞こえる中電話が切れる。

「トモエまたやりすぎてないといいけど。前に無差別爆弾テロ強盗を完全再起不能にするまで殴ってちょっと問題になったのよね」
「ちょっと?」
「ただいま戻りました〜」
「あらお帰りシルモンド。首尾は?」
「目標の完全浄化を確認、片付けは本部の対策班に任してきました。あとこれお土産」

 特異事件捜査課の先輩、シルモンド・リガルドが首を鳴らしつつ、フライドチキンの入ったビッグカップをテーブルの上に置いた。

「あら気が利くわね」
「いや、イブに召喚儀礼なんてやるからどんな連中かと思えば、そろいもそろって一人身のひがみ連中で、虚しくなったんでヤケ食い用に」
「こっちも戻りました〜」
「はい被疑者」

 同じく同僚のミックとリズが、それぞれオリに入った二股の尾を持った猫と異様に漆黒の犬を無造作にオフィスの両隅に置く。
 離れてなおけたたましく吠え会う猫と犬を無視して、二人はワインとシャンペンのビンを無造作にデスクへと置いた。

「何が悲しくてイブに猫と犬のケンカ仲裁してんだオレらは………」
「低位のマニトゥと低位のブラックドッグじゃなきゃね」
「ご苦労様」

 ぐったりしている二人に声をかけつつ、キャサリンは勝手にビンの封を開けていた。

「リンルゥ、コップある?」
「紙コップが確か………ってオフィスで酒はマズイんじゃ?」
「じゃあ仕事はここまで。今からパーティーよ!」
『お〜!』
「……え〜と」

 なぜか異様なテンションで盛り上がる中、レンとケーキの箱を山と持ったトモエが帰ってくる。

「ただいま戻りました」
「楽しみにしてたのに………グラマンズのケーキ………」

 涙目で何かをブツブツと呟きながら、トモエがすでにセールの札が付いているケーキをデスクへと置いた。

「また買い込んだわね………」
「目的のが売り切れだったとかで、そこいらに売ってた安物を片っ端から買ってきたんですよ」
「ふんっ!」

 レンが小声で呟く中、トモエが広げたケーキの一つにフォークを突き立て、貪り食らい始める。

「じゃあ、処理手伝いましょ」
「これ全部?」
「一人ノルマ1ホールかな………」
「もう食うぞ!」
「お〜!」
「とりあえずメリークリスマス!」

 ケーキのおまけのクラッカーが鳴らされ、皆がチキンとケーキに食らいつき、ワインやシャンパンが飲み干される。

「ほらほら、リンルゥもこんなの後回し!」
「……はい!」

 苦笑しながらリンルゥは資料を閉じる。
 どこか変わった人間ばかりのオフィスに、半ばヤケクソだが楽しい夜が、訪れていた。

「すいませ〜ん、黒鷺宅急便ですがリンルゥ・インティアン・ケネディさんにお届け物で〜す」
「あ、は〜い」
「送り主はレオン・S・ケネディさんとインファ・インティアンさんから。サインここにお願いします」
「父さんと母さんから?」

 サンタルックの宅急便屋が差し出した受取書にサインをし、リンルゥが荷物を受け取る。

「なんだろ? 重いけど」
「いやそれ以前に荷物ってカウンタ止まりじゃなかったか?」
「だよな?」

 皆が首を傾げる中、リンルゥが荷物のラッピングをほどき、出てきたやけに頑丈そうなメタルケースを開ける。
 中からはクリスマスカードとホルスター、そして黒光りする拳銃が一丁入っていた。

「うわ〜、なんかすごいの出てきちゃった………」
「ベレッタ90TWO、サムライエッジカスタム? この間STARSに配備されたばかりの最新型だぞ………」
「いや、45口径に変えてあるな……FBI仕様、というか彼女専用銃って事か」
「ちょっと待って、銃火器はここの職員じゃない限り持込許可すら………」
「あ〜、もしもしジョン? 今サンタの格好した宅急便屋が………は? 来てない?」
「わあ、ぴったりだ!」

 何か色々と不信な点を皆が感じつつも、リンルゥがホルスターを身に付け、90TWOリンルゥカスタムとも言える銃を収める。

「これで格好だけは一人前ね」
「ハイ♪」
「本当に当人が送ってきたのか?」
「こういう物を送ってくる人間はレオン長官以外いないと思いますが………」

 念のためにガンケースをチェックしてみたレンが、ほかに何も無い事を確認してケースを閉じる。

「それじゃあ、改めてメリークリスマス!」
『メリークリスマス♪』

 クラッカーが再度鳴らされ、皆が持ち寄ったご馳走に手が伸びる。
 リンルゥも手にしたクリスマスカードをデスクに置いてグラスを手に取る。
 クリマスカードには、手書きで『我が娘へ』と書かれていた………


 聖なる夜に、ささやかなる幸いがあらん事を…………






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