クリスマスの変・究



クリスマスの変・究




その1

「お待たせしました〜」

 ウェイトレスがにこやかにファミリー用の大皿に盛られたハンバーガーセットを運んでくる。

「来た来た♪」

 皿の上にジューシーなハンバーグとナッツ入りのパンズ、さらに野菜や各種具材と各種ソースまでそろった豪華なセットに、リンルゥは嬉々として手を伸ばす。

「あら、すごいわね」
「ここのハンバーガー、ホントにおいしいんだよ。さすがにパーティーセットは前に一度頼んだきりだったけど」
「まさか一人で?」
「いや、職場のみんなと。トモエちゃんと二人で半分以上食べたけど………」

 母親のインファが苦笑するが、そこで父親のレオンが何かじっとファミリーセットを見つめているのに気付いた。

「え〜と、父さんひょっとしてこういうの嫌い?」

 恐る恐る聞いてきたリンルゥに、レオンはかけていたサングラスの位置を少し指で直しながら極僅かだが笑みを浮かべる。

「いや、懐かしいなと思っていた。30年近く前、一度ここでこれを食った事があった」
「え? そうなんだ?」
「まだCIAにいた頃ね」
「ああ、機会が会ったらまた食いに来ようかと思っていたが、ようやく来れた」
「よかったね♪ じゃあいただきま〜す」

 そうやって、どこかぎこちないが、家族三人でファミリーセットをなごやかに食しているのを、見つめる瞳が有った。

「おのれ、イーグルハート………」

 ハンバーガーショップの向かいの通り、そこに路上駐車されたバンの中から、怨嗟の瞳でレオンを睨みつける、中東系らしい中年男がいた。
 その顔はやせこけ、体から滲み出す怨念から幽鬼がごとき雰囲気をかもし出している。

「我らが聖戦を潰した怨念、ここで晴らさせてもらう………」

 男はそういいながら、傍らのケースを開ける。
 その中には、対パワードスーツ戦に用いられる、携帯型小型ミサイルランチャーが収められていた。
 あまりにも過激な思想と無差別としか言いようの無い活動から、どのセクトからも放逐され、そしてSTARSによって壊滅状態にされたテロ集団の生き残りの男は、血走った目でミサイルランチャーの発射準備を整え、それをバンの窓を開けてハンバーガーショップへと向ける。

「家族諸共死ね! イーグルハー…」

 呪詛を吐き出しながらトリガーを引こうとした瞬間、突然車内へと飛び込んできた銀色の輝きが男の指諸共、トリガーを斬り飛ばす。

「ひ、ぎゃあああぁ!」

 一瞬何が起きたか分からなかった男だったが、車の中に落ちたトリガーと指を見て、ようやく事態が飲み込めたのか、男の口から絶叫が洩れる。

「く、くそ!」

 指の切断面から徐々に血が噴き出すのをとめもせず、男が懐から拳銃を取り出そうとした時、一度引っ込んだ銀色の輝きが再度飛び込んできて今度は拳銃を男の服ごと車のシートへと縫い止めた。
 そこで、ようやく男はそれが鈍い輝きを放つ、細長い刃だという事に気付いた。
 そして、車の外に、いつの間にか一人の男が立っている事に。

「初めての一家団欒だ。あまり無粋な事をするな」

 スーツ姿で、白刃を繰り出してきた男の顔をしばらく見つめた所で、テロリストの男はそれが誰かようやく気付いた。

「おお、お前、ブラックサムライ!」
「分かっているなら大人しくしろ。無差別破壊未遂及び殺人未遂の現行犯で逮捕する」

 普段の黒装束とは違う、スーツ姿のレンにテロリストの男は、一切の抵抗が無駄と悟り、力なく頭を垂れた。

「一名確保」
「これで何人目だった?」

 手錠をかけ、指に簡易的な止血処置を施した男が偽装パトカーへと連行されていくのを、レンと同僚のシルモンドが見送る。

「これで確か四人目…」
「いや、五人だな」

 シルモンドが右手のグローブ、瞳を模した水晶の嵌められた物をかざすと、ハンバーガーショップに不自然に向かっていたかげりが突然晴れる。

「とうとう呪術師まで出てきたぞ」
「いや、その前に……」

 ハンバーガーショップに向かい、何か妙な着膨れをして手にスイッチを持った男が突撃しようとするが、不意に道路へと倒れこむ。
 その首筋には、一見見えないが特殊な硬化ガラス製の手裏剣が突き刺さっていた。

『こちらジョシュ、自爆テロ犯を退治したでゴザルよ』
「偽装爆破物処理班をよこしてくれ」
『こちらリズ、向かいのビルにスナイパー。あ、今誰かに撃たれた』
「状態確認頼む」

 別の課からの応援捜査官―実態は日本の内閣調査室の草(潜入スパイ)のジョシュと、そばのビルから監視を行っていた同僚のリズからの報告にシルモンドがあれこれと指示を送る。

「全く、とんでもない事態だな………」
「レオン長官が家族とクリスマス休暇を過ごすという情報が流れただけで、年末テロの7割がここに集中するとは……」

 シルモンドとレンはため息をもらすが、次の瞬間はそれぞれ別の方向を向いて懐からそれぞれの愛銃(※サイレンサー付き)を抜き放ち、ハンバーガーショップに向かおうとしていたマシンガンを持った男とトマホークを持ったフード姿を撃ち抜く。

「まあ、どこにいるかを探すとこから始めるよりはマシかもしれんが」
「あのハンバーガーショップ、周りがエージェントとテロリストばかりという異常事態だという点を除けば、だが………」

 レンは自分同様、スーツ姿や物売り、光学迷彩などで変装したエージェントの姿を確認していく。

「FBIにSTARS、CIAからフリーメーソン、ここまで一致団結するのは初めてか。普段からこんだけ連携できれば、こっちも楽なんだがな………」
「レオン長官に毎年休暇でも取ってもらいます? もっともクリスマス休暇取ったのは今回が初めてと聞いてますけど」
「初めての家族サービスか。だが……気付いてるか?」
「レオン長官の片手、ずっと懐の中。しかも何か起こる前に必ず中の物がそっちの方向に向いてる」
「女房のハンドバッグも開きっ放し、ちょくちょくそこに手が突っ込まれてるが。ありゃ、二人とも気付いてるな」
「……リンルゥは幸せそうにハンバーガーかじってるな」
「ありゃ全然気付いてないな」

 にこやかに食事しつつ臨戦態勢の両親と、まったく気付かないで美味しそうにハンバーガーにかじりついている娘、あまりの落差に二人は再度ため息を漏らす。

「両親のようなエージェントになりたいと言ってたが、何年かかる事やら……」
「まあ、向こうの連中みたくなっても問題あるだろ」

 そう言いながらシルモンドはちらりと数軒隣のブロックに視線を投げかけた。


2ブロック隣

「ロットブリーカー! 死ねえ!!」
「ギイヤアアアアァァァ!」
「降伏! 降伏する! た、助けてくれえええ!」

 ブラックマーケットの流通品らしい、数世代前、しかもデタラメかつ強力な銃火器を装備した二体のパワードスーツが、一切火器を装備していない一体のパワードスーツにホールドされていた。
 継ぎ接ぎだが、異常なまでに装甲を厚くしてある違法パワードスーツが、二体まとめてその装甲をひしゃげさせていく。
 まるで巨人にでも握り締められたかのように、違法パワードスーツは胴の半ばから変形していき、その中身である搭乗者は片方は絶叫を上げ、もう片方は半狂乱になりながら、己達を絞め殺そうとしているパワードスーツの装甲を叩いてタップ(降参)のサインを送る。

「アアアアァァ………」
「し、死ぬ………」

 胴体の中央部が限界まで細くなり、同時に中身の声も細くなってから、ようやくその二体が離される。

「根性無しが」
「いや、誰だって半狂乱になると思うが……」

 圧倒的なパワーを見せ付けたSTARS第七小隊隊長用重装甲非武装スーツ《ウェアウルフ3》とその搭乗者STARS第七小隊隊長、ロット・クラインが完全に動かなくなった違法パワードスーツを一瞥し、隣にいたSTARS第五小隊隊長、フレクスター・レッドフィールドがその二体を含めた周辺の惨状を見回す。
 周辺には、先の二体と同じような違法改造のパワードスーツが、全て同じように原型を留めない形で変形、無力化されていた。

「長官の休暇を邪魔するなって話だから、ちゃんと静かにやったぜ」
「中身大丈夫か? 色々聞きたいんだが………」
「たぶんな。千切れてはいないと思うぜ」

 通常手順では絶対開かないであろう程にひしゃげてる違法パワードスーツの搭乗ハッチを見ながら、フレックはどうするべきかを悩んでいた。


数km先 民間飛行場

「敵襲! 敵襲!」
「応戦しろ!」

 レオン・S・ケネディ襲撃のため、複数のセクトが協力して飛行場を占拠、襲撃の準備を進めていたはずの場所を、爆発と号令が交互に響き渡る。

「どこの連中だ! 警察か! 軍か!」
「あそこだ!」

 指揮を取るはずだった年配のテロリストが叫ぶ中、誰かが爆発したヘリの方向を指差す。
 そこには、シカゴ警察のエンブレムが刻まれた新型警察用軽装甲高機動ユニット《オルトロス》の姿が有った。

「オルトロスだと!? あれはまだ量産が出来てないはずだ!」
「確か、配備されたのは大隊長用の一機だけ、……大隊長用?」

 予め調べ上げておいたアメリカの軍・警察双方の特殊部隊の情報からある事を思い出したテロリストの一人が、ゆっくりと青ざめた顔をオルトロスの方へと向ける。
 次の瞬間、別のヘリが突然半ばから両断、そこから両手にそれぞれ日本刀を持った人影が歩み出し、ヘリから漏れ出した燃料に引火、炎がその人影を照らし出す。

「光背双刃流、双  陽  斬Double Sun slash

 さらに、応戦しようと部隊を展開していたテロリスト達が、凄まじいまでの連射、しかもその全てが確実に両腕、しかも肘だけを狙い打つという恐ろしい早撃ちを食らって次々と倒れこむ。

「ぎゃああぁぁ!」
「う、腕が! 腕が!」
「何だ! 何が起きている!」
「襲撃です! 恐ろしいまでの凄腕の……」
「あいつだ!」

 テロリストの一人が、両手にそれぞれシングルアクションリボルバーを持った人影を指差す。

「シカゴ警察モビルポリスチーム大隊長に、二刀流のサムライと二丁拳銃のカウガール………」
「ま、まさか《アイアン・フィスト》に《デンジャラス・ツインズ》!?」

 世界を震撼させた大規模生物テロ事件で活躍した、ある親子の話を思い出したテロリスト達が、震える手で三人をそれぞれ指差す。

「さて、どうせ投降なんてしねえだろ?」

 オルトロスを駆る、スミス・ケンドがその手にSPAS21ダブルバレルショットガンに新しいマガジンを叩き込む。

「ものすごく久しぶりに家族全員がクリスマスにそろいそうだから、お袋が張り切ってるんでな」

 両手にそれぞれ一振りずつの刀を握ったSTARS第五小隊アタッカー、ムサシ・ケンドが右の刀を正眼に、左手の刀をその右の刀の峰に添える彼独自の光背双刃流の構えを取る。

「だから、手早く終わらせたいの」

 両手にコルト・ドラグーンSTARSカスタム《ワイルダネス・ハウル》を持った同じくSTARS第五小隊アタッカー、アニーケンドが銃口で愛用のカウボーイハットを少し持ち上げる。

「撃て! 相手はたった三人だ!」
「殺せぇ!」
「じゃあ、チキンが焼けるまでに片付けるぞ!」
「OK!」
「SHOOT!」

 テロリスト達が一斉に銃を構える中、ケンド親子はそれぞれ顔に不敵な笑みを浮かべ、テロリストへと突撃していく。
 ………なお、この世界有数の凶暴な親子の前に、その飛行場が奪還されるまで左程の時間は必要なかった。


「あ、これ父さんと母さんにクリスマスプレゼント!」
「……ありがとう」
「あら」

 リンルゥが差し出してきたラッピングされた箱を、レオンとインファはそれぞれ受け取る。

「アークおじさんに父さんにプレゼントしたいけど何がいいかなって聞いたんだけど、分かんないって言われてさ。選ぶのに随分と手間取っちゃった」
「大丈夫、女の子からプレゼントなんてもらった事ない人だから、何送っても喜ぶわよ」
「………」

 インファが笑いながらそう言うのを、レオンは否定も肯定もせずにプレゼントを開けてみる。
 中には、ニューモデルのサングラスが入っていた。

「似合うと思うよ。かけてみて!」
「そうだな」

 レオンは静かに今かけていたサングラスを外し、娘からの初めてのクリスマスプレゼントをかけてみる。
 そこには、静かなクリスマスの家族の姿が有った………



その2

「よく集まってくれた、同志諸君」

 珠阯レ市、蓮華台の本丸公園の中央に、異様な格好をした三名がいた。
 白地に目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被った、全身に隈取のような模様の入った少年の姿をした悪魔が、他の二名に宣誓する。

「今日この日、我々はもっとも恐ろしき魔人と対決する事になるだろう」
「問題ねえ! 返り討ちだ!」

 同じマスクを被った、月光館学円の制服を着てマスクの上から帽子を被った男子生徒が気勢を上げる。

「リア住にだけ加護を与えるという邪悪な存在、ほおっておくわけにはいかない……」

 デモニカスーツのバイザーメットの上から同様のマスクを無理やり被り、手にスナイパーライフルを持った兵士が、怨嗟の声を上げてライフルを握り締める。

「オレこそはこの聖夜にかこつけていちゃついてる者達と、それに加護を与える魔人を討たんとする嫉妬修羅一号!」
「同じく、その恐るべき魔人と雌雄を決さんために参上した嫉妬修羅二号!」
「これ以上、カップルばかりに恩恵を与えられるのを破壊するための嫉妬修羅三号!」

 三人の嫉妬修羅がそれぞれものすごく自分勝手な事を宣言しつつ、ポーズを取る。
 あまりにも異様な光景に、公園にいた人々(※ほとんどがカップル)は何も言わずにそそくさとその場から立ち去っていく。
 最後に残っていた、こちらを不思議そうに指差していた子供を親が慌てて連れ出し、人気がなくなった公園で三人の嫉妬修羅は空を見上げる。

「今宵、一つの噂が現実化する」
「聖夜に全てのリア充に祝福を与える者が出現するという噂が」
「つまり、それを倒せば、全てのカップルに祝福が届かなくなるという事だ」

 三人は申し合わせたように頷くと、手にマガタマを、召喚器を、ライフルを構える。
 ふとそこで、遠くからある音が聞こえてきた。
 最初は小さく、だが定期的に音は響いてくる。
 やがてその音は大きくなってくると、獣の駆ける足音も混じり始める。
 その音、滑空するソリに取り付けられた鈴が鳴り響く音と、それを引く四足獣達の足音がはっきりと聞こえるようになると、その音の主の姿が夜空に見え始める。
 そう、空を駆ける九頭のトナカイと、それが引くソリ、そしてそれに乗る赤い服をまとった太った老人の姿が。

「来い、魔人サンタクローs…」

 嫉妬修羅一号がマガタマを飲み込んでソリへと向かって攻撃しようとした瞬間、背後からの一撃が彼を地面へと叩きつける。

「おぶげ!?」
「何だ!?」
「まさか伏兵か!」
「……何やってんだお前ら」

 二号と三号が同時に振り向くと、そこには呆れた顔で金属バットを構える八雲と、困った顔をしている啓人の姿が有った。

「順平、パーティーの準備サボったから、美鶴先輩すごい怒ってるんだけど………」
「や、やべえ………」
『やっと繋がった。アンソニー、会場の設置に来ないから、ゾイ先生が探してるんだが』
「う!?」

 啓人からの苦言と、仁也からの通信に二号と三号の頬に生ぬるい汗が生じる。

「ふ、ふふふふふ……これしきでこの嫉妬修羅一号は負けぬ………」
「うらやましいくらい頑丈だな」

 ゆらりとした動きで嫉妬修羅一号が立ち上がる。
 八雲は更に呆れながら、上空、こちらへと向かってくる獣とソリと太った老人の姿を認識。

「妙な噂が街に流れてると思えば、お前らが流したのか………」
「ふふふ、苦労した。血涙を流す思いでカップルがいちゃつく場所でわざと大声でしゃべり」
「市内のネットに情報書き込んだり」
「無意味に飲食店に出入りしてマスターに吹き込んだり」
「………その努力を別の方向に使えないのかな?」
『否!』

 啓人の言葉を、三人の嫉妬修羅が同時に否定。
 八雲と啓人の肩が思わず力を失って落ちそうになる。
 そしてすでに夜空を駆けるソリはすぐ間近にまで迫ってきていた。

「最早時間が無い」
「オレ達の悲願、全てのリア充へ嫌がらせを!」
「邪魔はさせぬ!」
「………あ〜………」

 異様なまで気合の入った三人を前に、八雲は手にしたバットを杖のように地面につき、気合の抜け切った息を漏らす。

「一ついいか?」
「この闘いを止めろというのは却下」
「あのな、噂ってのは大勢の人間の耳に入って口から出て初めて成立する。つまり」
「他にもこの事を知ってる人達がいるわけで………」

 啓人がちらりと後ろを見る。
 つられて三人の嫉妬修羅もそちらを見た所で、そこにこちらへと向かってくる女性陣の姿を。

「サンタが現れてカップルに祝福を与える。女連中は喜びそうな噂だわな」
「あの、出来れば逃げた方が………」

 それぞれの手に得物やアルカナカードなどを構える殺気だった、というか殺気しかない女性陣に、三人の嫉妬修羅の背を凍りつくような冷たさの汗が流れ出す。

「あの距離だと、あと五分って所か」
「つまり、五分以内にこいつらを倒しちゃえばいいのね」

 何か凶悪なトゲの付いたナックルを装備したリサがそう言いながら、拳を付き合わせる。
 響き渡る剣呑な音に。嫉妬修羅一号が生唾を飲み込んだ。

「Oh、Santa Clausの邪魔はさせませんわ」

 エリーが顔だけはおだやかに、レイピアを鞘からゆっくりと抜き放ち、嫉妬修羅二号の手が小刻みに震え始める。

「つまり、こいつら倒せばサンタのおじさんが願い聞いてくれるんだよね?」

 顔だけはにこやかなあかりが、ペルソナを発動させながら軽金属製の大剣を構え、嫉妬修羅三号が思わずあとずさる。
 何故か地響きのような音が響いてくるような気がしたが、八雲は構わずサンタとの距離と腕時計を見る。

「あと四分ってとこか」
『どけ〜〜〜!』
『ぎゃああああ!』

四分後

「ホゥホゥホウ! メリークリスマ〜ス!」
『メリークリスマース!』

 降りたったサンタクロースに、女性陣がにこやかに挨拶を返す。
 足元に転がっている嫉妬修羅(だった物)は無視して、返り血の付いた顔も拭わずに純真(かなり怪しいが)な笑顔を女性陣はサンタクロースへと向ける。

「どうれ、それじゃあ約束の物を」

 そう言いながら、サンタクロースはソリの後ろの袋を漁り、取り出したプレゼントを女性陣へと渡す。

「お望み通り、恋人達へのプレゼント、相手が一番望んでいるプレゼントだ」
「ありがと! さっそく情人に!」
「Thank YOUですわ」
「ありがとうおじさん!」

 お礼もそこそこに、女性陣が猛ダッシュでプレゼントを相手に渡すべく去っていく。

「なるほど、最終的にそういう噂になってたのか………」
「何入ってるんだろう」
「ほら君達も」

 去っていく女性陣を見送っていた八雲と啓人にも、サンタクロースはプレゼントを何故かそれぞれ四つも渡す。

「おい、オレらは………」
「しかも四つずつ?」
「ホゥホゥホゥ! それを待っている人達が君達にもいるはずだよ。早く渡してくるといい。特別だよ。それじゃあ、本業に戻るとしようか」

 そう言いながら、サンタクロースはトナカイの手綱を握る。

「本業? まさかあんた、噂で発生した存在じゃなくて………」
「ホゥホゥホゥ! メリークリスマス!」

 八雲の問いかけに、サンタクロースは笑い声だけ返してソリは市街へと向かっていく。

「ひょっとして……本物?」
「さて、な。聖夜の奇跡って事にしとこうや。パーティーもそろそろ始まってるから、戻るとしようか」
「………そうですね」

 プレゼントを手に、二人はパーティー会場へと向かっていく。
 後には、倒れたままの嫉妬修羅(だった物)と、彼らの傍らにも置かれたプレゼントの箱が有った。
 ちなみに、中身はそれぞれ《頼れる男の肉体改造術》《ゴスロリ解析読本》《レディーファースト会話大全》だった。


 聖なる夜を、大切な人達と共に………

Merry Christmas!!






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