クリスマスの変・炒レ分



クリスマスの変・炒レ分



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「メリークリスマス! 順平君!」
「お、おう……」
「仮装パーティーの準備は出来たかい?」
「いや、まだ……」

 前と打って変わって、やたらと親切な人修羅とアンソニーに、順平はそこはかとなく嫌な予感を感じ取っていた。

「さあこの部屋に君達用の仮装を用意しておいたよ」
「遠慮なく使いたまえ」
「達?」

 順平が恐る恐る指差された室内を覗き込む。
 そこにあったのは、黒光りするエネメル調のハイレグアーマーと、その下に置いてある犬用の首輪、ついでに乗馬用の鞭付きだった。

「トリスメギストス!」『アギダイン!』
「あ〜〜!!」「折角アーヴィン班長に頼んで作ってもらったのに!」
「何させる気だ手前ら!!」
「そんな事」「決まっている!」
『盟約に反した同志に屈辱を!』

 同時に同じ事を叫びながら、例の如く嫉妬修羅のマスクを被ろうとした二人の背後に、誰かが気配も無く立った。

「メーディア」『ムドオン』
「はうっ!?」「グハッ!」

 いきなりの呪殺魔法に、二人がその場に崩れ落ちる。
 そんな二人を無視して、背後にいたチドリが順平の方に歩み寄ってくる。

「順平、準備は出来た?」
「ワリ、まだ………」

 頭をかきながら、順平はチドリをまじまじと見る。
 どこから用意したのか、普段のゴスロリドレスとは逆のトーガ風のドレスに、なぜか背中に漆黒の翼(※コスプレ用)が付いている。

「それ、どっから?」
「リサって子が似合いそうだからって貸してくれたの」
「そういや、何かやたらと注文してるって聞いたな」
「用意してないならコレ」

 そう言いながら、チドリはタキシードを手渡す。

「お、いいのか?」
「順平ならこれで十分仮装になる」
「あ、っそ………」

 何か複雑な顔をしながら、順平は着替えるべくその場を後にする。
 なお、その場に放置された二人に天使が向かえに来かけた所で、通りすがった葛葉メンバー達に蘇生される事となった。


「………究極のセレクトです」

 凪は目の前に置かれた二つの衣装の前で、生ぬるい汗を頬に浮かべていた。
 クリスマスパーティーには仮装で参加、と決まったのは聞いていたが、何にすればいいか考えていなかった所で、好きな方を選んでね(by舞耶)と言われて渡されたのは、目の前の二着だった。

「凪〜決まった?」
「迷っているセオリーです………」

 仲魔のハイピクシー(※誰が用意したのか、人形サイズのサンタルック)が悩み続ける凪に声をかけるが、凪の決断は付かない。
 目の前にあるのは、現在なら一般的なミニスカ(無論膝上)サンタルックと、赤い鼻付きのトナカイルック、大正生まれで生真面目な彼女に取っては、どちらも着るのは相当な覚悟が必要だった。

「未来のパーティーは色々理解出来ないセオリーです………」
「さっき見てきたけど、もっとすごい格好の人いたよ? 袖なしシャツで背中にピストル貼り付けてて怒られてる人もいたけど」
「何のコスチュームでしょうか………」

 結局、凪の苦悩は舞耶から話を聞いたうららが別の衣装を持ってきてくれるまで続くのだった。


「ち〜、せっかく渾身のジョン・マクレーンだったのに」
「武器は持ち込み禁止って言われてませんでしたっけ?」
「手近にあったの使っただけなんだがな〜」

 怒られたので眼鏡に神父服に銃剣(※模造)に着替えた八雲が、隣にいる白と茶色の毛並みで耳が大きい奇妙な獣の着ぐるみを着たカチーヤに窘められる。

「物騒過ぎる仮装は確かに容認できないだろう」
「そういうてめえもな………」

 そばで話を聞いていた仁也が頷くが、八雲が仁也の仮装、やたらと古めかしい潜水服に手に金属球の入った奇妙な円筒を持った姿に、そこはかとなく不安を覚える。

「まさか中身詰まってないだろうな?」
「無論形だけだ」
「何なんですか、あれ?」
「………知らない奴も増えたか」

 首を傾げるカチーヤに、八雲は思わず嘆息。

「八雲〜、レイが手伝えだって〜」
「おう今行…」

 ネミッサに声をかけられて振り返った所で、八雲の顔が完全に凍りつく。

「ネミッサ、お前………」
「クリスマスらしいでしょ?」

 ネミッサの仮装、茶色地のチュニックガウンと白地のフード付きローブ、ついでに手には白い布に包まれたQ○人形が抱かれてる姿に、八雲は完全に絶句していた。

「聖母像とは、仮装というか正装というべきでは?」
「こいつなら十分な仮装だよ……悪趣味な」
「八雲ひど〜い! せっかく色々調べて考えたのに!」
「ネミッサさん、似合ってますよ」
「ありがと♪ カチーヤちゃんも似合ってるよ」

 色々と対極的な二人の仮装に、八雲は頭痛を覚えそうになるが、あえて突っ込まずに会場へと向かう。
 更なる混沌が集うパーティーの開催は、それから一時間後の事だった………



A

『メリークリスマス!』

 姦しい掛け声と共に、皆が手に持ったコップを掲げる。
 パーティー会場には《クリスマス&ルッキーニちゃんバースデーパーティー》と書かれた横断幕が掲げられ、よく見ると隅っこの方に《年内更新不可能残念会》と小さく書かれてもいた。

「どれがメインだろうな」
「さあ?」

 一見すると皆にこやかにパーティーを楽しんでいるが、用意された特大ツリーの裏に、《管理人》と書かれてボロボロにされた人形(※刀傷、弾痕、能力攻撃の痕跡あり)を発見してしまった冬后が見なかった事にして給仕をしてるタクミからもらったチキンに齧りつく。

「さあて、それじゃあかくし芸大会行ってみよ〜♪」
「はいはいはい!」

 ユナの司会に、真っ先に《主役》と書かれた特製イスに座っていたルッキーニが手を上げる。

「それじゃあルッキーニちゃんから!」
「うじゅ!」「どいたどいた〜」

 そこへシャーリーが垂直のポールに幾つも段の付いた物、俗に言うキャットタワーを巨大化させた物を運び込んでくる。
 その前でルッキーニが猫耳バンドとシッポ付きベルトを装着、着ていた軍服を脱ぎ捨てると、下からキャットスーツが現れる。

「うにゃあ〜♪」

 そこでネコの鳴き真似をすると、文字通りネコのような敏捷さで次々とキャットタワーを登り、飛び交うキャットアクロバットショーを披露していく。

「ほう、すごいなありゃ」
「素の運動能力でアレみたいですからね。潜在能力なら501一と坂本少佐も言ってましたし」

 冬后が感心する中、側に来たポリリーナも驚異的なショーを楽しそうに観劇している。
 最後に大きくトンボを切りながらタワーの頂点にルッキーニが飛び上がり、ポーズを取ると一斉に皆から拍手が巻き起こる。

「それじゃあ、次の人〜」
「ようしやるぞ桜野!」「はい坂本さん!」

 続けて美緒と音羽の剣舞、エリカ7を中心とした有志によるミニミュージカル、ユーリィとティタによるフードファイト(※途中で強制中断)などが次々と披露されていく。

「これだけ色々なメンバーがいると、出し物も多岐になりますね」
「悪い事ではあるまい」
「しかし、羽目を外しすぎでは………」

 エルナーと門脇艦長の会話に、嶋副長がいささか苦い顔をする。
 ステージ上では、御子神姉妹の漫才が終わり、ルミナーエフとサーニャの伴奏によるクリスマスソングメドレーが始まっていた。

「楽しめる時に楽しんでおきませんと。ハードな闘いが控えてる時は特に」
「そいつはあるな」

 ジオールの呟いた言葉に、冬后も同意する。
 メドレーは最後の曲、定番のクリスマスソング、清しこの夜を乙女達が一斉に歌い始める。
 響いてくる歌声に、冬后は静かに聴きながら手にしたカップの残りを一気にあおった。

(確かに、この時くらいは楽しんだ方がいいだろう。クリスマスくらいはな………)

 賑やかだったパーティーの最後を彩るべく、歌声はどこまでも響いていった………

 聖なる夜に、一時の平穏を………





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