クリスマスの変・吐獲流武



クリスマスの変・吐獲流武



その1

「………どういう事だこりゃ」
「………さあ?」

 例年通りのクリスマス(妨害)行事を執り行なおうとしているらしい修二とアンソニーを事前に取り締まろうと二人を探した八雲とカチーヤは、大きな袋(中身はどこから用意したのか縁切り神社のお守り満載)を担いだまま、床に倒れ伏している二人を見つける。

「あの、大丈夫でしょうか?」
「息はしてるし、脈も問題無い。だがこれは?」

 完全に失神している二人を観察した八雲が、それぞれ流れだした血(※出血元は鼻)で、『斧の峰打ちって何?』『関西弁のポニーテールが…』とダイイングメッセージ(※死んでない)が書かれているのを発見する。

「八雲さん、これ………」

 更にカチーヤが、そばの壁に巨大な刃物でえぐりとったような傷で『デバンマダ?』と刻まれているのを発見する。

「………見なかった事にしよう」
「………そうですね」

 何か見てはいけない闇の縁を見た気がした八雲とカチーヤは無言で惨劇の間の扉を閉じる。

「あれ八雲、馬鹿コンビ絞めてくるんじゃなかったの?」
「もう誰かに絞められてた。しかも私怨で」

 クリスマスパーティーの準備(と称してつまみ食い)をしていたネミッサからの問に、八雲が遠い目をしながら先程の光景を脳内から消去していく。

「誰か知らないけど、面倒な手間はぶけてよかったじゃん。みんな警戒してたし」
「みんな?」

 ネミッサに言われて準備中のパーティー会場を八雲はまじまじと観察する。
 一見皆でなごやかにテーブルをセットしたりツリーを飾ったり料理を運んだりしている。
 だが、なぜか一部の女性陣は武装してそれぞれの仕事を受け持ち、中には楽しげにツリーを飾りながら、ときたま周囲に鋭い殺気を飛ばしてる者すら混じっていた。

「完全に嫌われてるな、ありゃ………」
「八雲〜! 放送機器担当でしょ、早くセットして!」
「へ〜い」

 レイホゥに促され、八雲はステージに向かいながら武装解除だけでも進言しようかと悩むが、逆にトドメを刺しに行く可能性に行き当たり、とりあえずそのままにしておく事にする。

(それにしても、どこの誰がやったんだ? 斧で関西弁でポニーテールなんていなかったよな?)

 通信機器を接続しながら、八雲はパーティー会場にいるメンバーを見渡し、首を傾げる。

「ま、いいか。それこそ手間が省けた」

 あっさりと疑問をスルーして、八雲は手早く準備を進めていく。
 結局、何者かに絞められた二人は放置されたままパーティーは始まり、途中仲魔と喰奴(それと少数の人間)含む肉の奪い合いや無駄にデカいクラッカーの暴発、抽選プレゼントをアナライズによるカンニング行為(未遂)などがあったが、無事にパーティーはお開きとなる。

「いや〜、今回は無事終わったね〜」
「無事というべきかどうか………」
「多少の混乱は日常茶飯事となっているのであります」
「それはそれで問題だな………」

 片付けを手伝っていた特別課外活動部の女性陣が、口々にパーティーの感想を呟きながら大体を片付け終え、私室へと向う。

「所で、あのお騒がせコンビ、何もしてこなかったよね?」
「隔離されたとか聞いたが、違うのか?」
「そう言えば、別室になにか反応があったような………」
「あれ、何か有るであります」

 アイギスがドアを開いた所で、ふとベッド脇のテーブルに何かが有るのに気付く。
 手にとって見るとそれはクリスマスカードで、短いメッセージだけが記されていた。

『もう直だから、待っててや。 To L』
「L? それにこれは………」

 アイギスはそのカードをしばらく見つめていたが、それを大事に仕舞いこむ事にする。

「誰から?」
「さあ………けど、私を大事に思っていてくれる人からです」

 アイギスはそうとだけ答えると、静かに微笑んだ。

 なお、己の(鼻)血だまりに倒れこんだ二人は、まだ放置されたままだった。



その2

《祝! 強敵撃破! 記念くりすます夜会》

 見事な楷書体で描かれたノボリが主砲の下に吊るされ、複数言語でそれぞれ同じ内容で描かれたノボリがその下に続けて吊るされている。

「ウィッチの方々は本当にタフですね………」
「全くだ」

 まだ激戦の疲れで寝入っている者も多い中、目を覚ましたウィッチ達が日付を思い出し、あちこちの船から物資を半ば強制徴収してクリスマスパーティーの準備を始めており、今だ後処理に奔走しているエルナーと冬后はそれを生ぬるい目で見つめていた。

「戦場のメリークリスマスってこういう事を言うんだろうか?」
「大分違うと思いますが………あ、こちらでも何人か手伝い始めました」
「できればこっちを手伝ってほしい、と言いたい所だが、あれだけやらかした後だ。パーティー位やらせとけばいいだろ。艦長にはこっちから言っておく」
「すいませんね。皆さん頑張ってくれましたし、確かに多めに見ましょう。しかし、問題はこちら側の将校の方々の許可が出るかどうかですが」
「それは問題無い。今頃司令部の連中も後始末でこちらにまで手は回らんからな」

 聞こえてきた声に二人が振り向くと、そこには起きてきたばかりらしいガランドが、あくびを噛み殺しながらパーティー準備の様子を見ていた。

「あれだけの大艦隊が半壊だ、上層部は戦力の立て直しにやっきで現場の事なんて頭から吹き飛んでる。ついでにウィッチは負傷者多数、現地にて治癒ウィッチによる治療中でしばらく動かせんと大嘘を送っておいた」
「あんた、結構いい性格してるな………」
「ウィッチの指揮官なぞ、これくらいでないとやってられんからな。そうだ、沈みかけた船からありったけの物資を運び出してる最中だが、好きなように使っても構わん。沈んだ事にしとけば問題無い」
「それは体の良い物資横領では………」
「私が前線に出てた時はそんなの日常茶飯事だったぞ。手持ちの物資が切れて当主の逃げ出した貴族の屋敷漁ったり、博物館の展示武器引っ張りだしたりした物だ」
「………まあ、オレらも似たような事してたしな」
「それと調理器具が足りんらしい、そっちから貸し出してほしいのだが」
「こっちの料理長もパーティー好きだ、喜んで協力してくれるだろう」
「………気のせいか、随分と手慣れてませんか?」
「さてな」

 やけに手際よくパーティーの準備を進めていくガランドに、冬后とエルナーは何か不信の視線を投げかけつつも、一応協力出来る分は協力しつつ、後処理を続ける。
 やがて各部隊の料理自慢達の作るパーティー料理やお菓子が完成し始めると、匂いに釣られたのか寝ていた者達が次々と起き始める。
 空腹のあまり、ゾンビがごとく料理に群がろうとする者達を、調理や配膳を行っていた者達が必死になって防衛し、数の多いお菓子や余り物を撒き餌がごとくばら撒いてなんとかパーティー開始までの時間を稼ごうとしていた。

「ごはん〜〜〜!」「お菓子食べる〜〜〜!」「お腹空いた〜〜〜!」
「もうちょっとですから待ってて下さい!」「こらそこかじりつくな!」「誰か抑えるの手伝ってください!」

 ホラー映画の1シーンのような空腹の怨嗟がパーティー会場となってる戦艦の周囲に響き渡り、後処理作業を行っていた者達が思わず顔を見合わせる。

「誰かガランド少将に連絡、このままだとパーティーが始まる前に料理が全部消え失せると」
「皆さんお腹空きすぎておかしくなってますね………」

 怨嗟と怒声に微妙に戦闘音も混じり始めた所で、冬后とエルナーは一度緊急以外の後処理を中止、パーティーの準備を総員で急ピッチで取り掛からせる。

『それでは諸君、今回は強敵を相手に奮戦、非常にご苦労だった。十分に労をねぎらってほしい。それでは、メリークリスマス!』
『メリークリスマス!』

 かじりかけのターキーレッグ片手のガランドの挨拶と同時に、パーティ会場の半数が手にした杯を掲げ、残る半数が待ってましたとばかりに料理へと襲いかかる。

「こら、独り占めするな!」「早い者勝ち〜♪」「あの、まだたくさんありますから」「ああ、それ食べようと思ってたのに!」「こっちまだあるぞ〜」

 疲労と空腹のためか、最早所属無関係のサバト状態となりつつあるパーティー会場に、無数の怒号が飛び交い始める。

「オレも現役時代、あんな感じだったな」
「最早皆さんパーティーとかどうでもよくなってるような気もしますが」

 どこから用意されたのか、やたらと豊富な酒類からスコッチを選んだ冬后が、笑いながら栄養補給に余念が無い少女達を見つめ、エルナーは完全に呆れ果てていた。

「英気ってのは養える時に養っておくもんだからな」
「違いない」

 冬后の呟きに、片手にターキーレッグ、もう片手にワイン(瓶で)を手にしたガランドが賛同しつつ、ワインをラッパでノドに流し込む。

「そう言えば、捕虜にしたアレはどうなっている?」
「厳重に隔離してある。エースクラスの腕利きが監視してるはずだ」
「厳重に拘束しておきましたから、暴れる事は無いはずです」
「そうか、監視の者達には悪い事をしたな」
「いえ、先程料理は一部持っていったそうです」
「もっとも、監視してるのはほとんど機械人らしいが」
「今どうなっている事やら」


「で、これはどういう事」
「さあてね」

 ベッドに厳重に拘束されたフェインティア・イミテイトの鼻先に、紐で骨を結ばれたターキーレッグが吊るされ、かじりつくに付けない微妙な距離が保たれていた。
 それを見ながら、フェインティアは先程運ばれたターキーとケーキをベッドの脇でさも美味しそうに貪っている。

「やる事が低レベル過ぎないかしら」
「あれだけ暴れて、まだその程度で済ませてあげてるんだから、感謝しなさい」
「そういう意味では無いと思うのだが………」
「美味しいわよこれ〜」

 同じく監視にあたっていた剣鳳も微妙な顔をするが、フェインティアはイミテイトにさも見せ付けるように料理を貪り続ける。

「マイスター、捕虜への拷問行為にあたる可能性がある。このような行為は推奨できない」
「推奨も結晶も知らないわ、やりたいからやってるだけ」

 ムルメルティアも止めようとするが、結局交代の人員が来るまで、ターキーレッグはフィンティア・イミテイトの鼻先にぶら下がり続けていた。


「それじゃあ、神楽坂ユナ、一曲歌います!」
『おお〜』

 ある程度ひとごこち付いたのか、会場のあちこちで余興が始まる。
 準備をする時間もなかったが、有り合わせの物で皆が得意な物を披露し、パーティーを盛り上げていく。
 少女達の嬌声が、つい半日前までは激戦地だった海上に響いていく。
 戦場の穢れを、少女達の明るさで吹き飛ばすように………

 聖なる夜に、清らかな一時を………

Merry Christmas!!





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