クリスマスの変・重酸



クリスマスの変・重酸




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 家族連れやカップルが集う街の繁華街に、突如として山鹿流陣太鼓(ただしキッズ用小太鼓で)が鳴り響く。
 何事かと振り向く人達の前に、異様な集団が現れた。
 全員が白地に目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被り、揃いの黒地の陣羽織を羽織っている。
 先頭にいるなぜか陣羽織の下が上半身裸で隈取のような模様のある者が、やけに芝居がかった口上を述べ始める。

「己憎しや九李素魔巣!」

 その隣、なぜデモニカの上から陣羽織を羽織って手に小太鼓を持って鳴らしていた者が続く。

「我らが純情が敵、今こそ討たん!」
『討たん〜』

 背後にいる、事情をよく理解してない陣羽織を羽織ったマネカタ達45名が、気合の抜けた気勢を上げる。

「者共、今こそ討ち入りの時ぞ!」
「全ての首魁、酸多苦労洲の首を…」

 周囲の人間があまりの異様さに騒ぎ始めた時、先頭の二人の頭上に影が差した。

『ん?』

 何事かと頭上を見上げた二人の視界に見えたのは、巨大なトマホークを掲げたポニーテール、両手に仕込まれたマシンガンを構えるショートカット、巨大な鎌とアームガンをそれぞれ構えるメイド姉妹だった。

『ぎゃああぁぁ!!』

「街の清掃作業、終ったで」
「一番大きい廃棄物は現在メアリさんとアリサさんが撤去作業中です」

 クリスマスの街頭パーティーイベントに向けて、掃除班になったラビリスとアイギスが、つつがなく作業が終わった事を報告する。
 ちょっぴり返り血が付いたトマホークをラビリスは拭きながら、メアリとアリサが手際よくボコボコにされた嫉妬修羅一号と三号(※残りのマネカタは逃げた)を縛り上げ、透明ゴミ袋へと押し込んでいく。

「これ、毎回やっとるん?」
「普段は八雲さんがやっているのですが、今回は使用機器の調整に駆りだされたとかで」
「クリスマスって、こんな手かかる物なんか………」
「まだまだこれからです」
「会場のセッティングもしないと」

 首を傾げるラビリスに、アイギスが説明し、メアリとアリサがゴミ袋に不燃・産業廃棄物のラベルを張る。

「もう直、啓人さん達も設営の準備に来るでありますので」
「クリスマスって色々大変なんやな〜」
「皆さんでやれば早く終わります」
「さっき逃げたマネカタ達でも捕まえて手伝わせよっか」

 てきぱきと産業廃棄物の搬送準備を整えたメアリとアリサが、次の準備へと取り掛かる。

「それじゃあ姉さん、私達も次の準備に取り掛かるであります」

 そう言われてラビリスは、これから妹や友人と初めてクリスマスを迎える事に、改めて気付く。

「そうやな、手早く終わらせようや」

 生まれて初めて、イベントを待つ楽しみを感じながら、ラビリスは三人の元へと向かっていった………

 なお、搬送された産業廃棄物は、二日後レッドスプライト号ラボのフォルマ倉庫から発見された。



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 大勢の観客が、帝国劇場に列を成している。
《くりすます特別公演》のノボリが掲げられ、老人や子供までもが、開場時間を待っていた。

「イラッシャイマセ、ヨウコソテイコクゲキジョウヘ」

 そこへ、サンタ帽を被って背後に蒸気ユニットのような物を付けた大きなクマのぬいぐるみが、蓄音機のような声を上げながら、列の中に子供を見つけると、小さく包装されたお菓子を配っていく。

「さすが帝国劇場、蒸気カラクリ人形が行列整理やってるぜ」
「すごいすご〜い」

 観客が興味深そうに動くクマのぬいぐるみを見つめる中、別方向から声が掛かる。

「本日はご来場ありがとうございます。もう直開場致しますので、お寒いですがしばしお待ち下さい」
「随分暖かそうな格好してるな姉ちゃん」
「冷え性なので」
「サンタさんだサンタさん」

 サンタ風の赤地だが、体型が見えない程の大きなコートを来た少女が案内をする中、開場の時間が訪れ、並んでいた観客が中へと入っていく。

「前売り券をお持ちの方は右の列へ、当日券は左の売り場でお買い下さい。まだ席に余裕は有ります」
「オナラビクダサイ、オナラビクダサイ」

 コートの少女とクマのぬいぐるみの案内で観客は次々と劇場内へと入っていき、やがていっぱいとなってドアが閉められる。

「………もういいだろう」

 人気が無くなったのを確認して、二人(?)は事務室へと向かう。

「お疲れ様」
「いや、大した事はしてない」
「それにしても、本当にこんな事で誰も疑わんとは………」

 事務室にいた藤井 かすみが二人を言葉をかけると、クマのぬいぐるみは突然流暢な口調になり、背中の偽装蒸気ユニットを外す。

「ハルハル、ヨタロウお帰り〜」

 事務室にいた少女、蒔絵が二人を出迎える。

「いい子にしてたか? 蒔絵」
「うん、二人共外寒くなかった?」
「問題ない」

 ハルハルとヨタロウ、正確には霧のメンタルモデルのハルナとキリシマは、そう言いながら微笑む。

「蒔絵ちゃんに伝票整理手伝ってもらってたんですよ。全部暗算でするんでびっくりしましました」
「あれくらいなら簡単だよ〜」
「それじゃあ、後はいいですから、三人とも公演見てきてください。はいバイト代とチケット」
「ありがたく頂戴する」
(………霧のメンタルモデルともあろう物が、アルバイトして日銭を稼いでいると他の艦に知られたら自爆物だな)

 かすみが差し出した封筒とチケットをハルナが受け取るのを見たキリシマが内心ぼやくが、あえて口に出さない。

「じゃあ行こう! 演劇なんてテレビでしか見た事ないんだ〜」
「演劇、俳優が舞台の上で,脚本に従い,言葉と動作によって表現したものを観客に見せる芸術。俳優の動作・台詞まわし・脚本・音楽・装置・照明など,あらゆる要素が鑑賞の対象となる総合芸術」
「芸術、か。我々には無い概念の一つだな」

 喜々として腕を引っ張る蒔絵に、ハルナとキリシマが後に続く。

「キリシマ、事務所以外ではぬいぐるみのフリをする約束だ」
「ぬ、そうだったな」
「じゃあヨタロウはこっち」

 蒔絵がキリシマを抱き上げ、ドアをこっそり開けてチケットの座席を探す。

「あ、こっちですこっち」
「もう始まるよ〜」

 小声で芳佳と音羽が自分達の間の空席を指差して手招きする。

「よっと」
「そぞろ始まるか」

 キリシマを抱いた蒔絵とハルナが席についた所で、開演を知らせるベルが鳴り響く。

「うわあ、私こういうの見るの初めてです」
「私も」
「二人共、お静かに」

 芳佳と音羽も興奮する中、後ろの席のエリカが注意してき、慌てて二人は口を塞ぐ。

「お、始ま…」

 薄暗くなった劇場で、スポットライトがステージへと向けられる。
 そこで頭を下げていた銀髪の少女が、ゆっくりと頭を上げる。

「皆様、本日はご来場誠にありがとうございます。今日はクリスマス、帝国歌劇団の特別講演を心ゆくまでご堪能ください。それでは、開演いたします」
「イー401!? 何をしてるんだあいつ!」
「ヨタロウ、シッ」
「バイトだそうです」

 なぜかステージで開演挨拶をしているイオナに、キリシマが思わず蒔絵の膝から滑り落ちかける。

「何のために?」
「多分、お二人と同じ理由かと」

 ハルナの疑問に、芳佳が小声で答える。
 そんな中、幕が上がり帝国歌劇団のクリスマス公演が始まった。


「それでは、本日の公演はこれまでです。最後までご鑑賞下さり、誠にありがとうございます。お名残惜しくはありますが、お忘れ物にお気をつけ、ご自宅までお帰り下さい」

 劇場内に割れんばかりの拍手が鳴り響く中、イオナが閉園の挨拶をする。
 見ていた誰もが満足そうな顔をする中、観客達は帰路へ付いて行く。

「面白かったね! ハルハル、ヨタロウ!」
「そうだな蒔絵」「なるほど、これが演劇という物か」
「すごかったです! 感動しました!」
「そうだね!」

 周りの者達も感激を口にする中、観客がいなくなったのを見計ってから、全員で楽屋へと移動する。

「お疲れ様〜」
「楽しませていただきましたわ」
「すごかったです!」

 そこで公演を終えたばかりの花組の隊員達に皆が興奮冷めやらなぬ声を掛け、労をねぎらう。

「みんな、揃ってるかな」
「あ、大神さん」
「花組の皆も、手伝ってくれた皆もお疲れ様。伝えてた通り、打ち上げはクリスマスパーティーも兼ねて明日食堂で、持ち込みその他は自由にという事で」
『は〜い』
「それじゃあ、今の内にご馳走準備しないと」
「パーティーグッズ取り寄せとくね〜」
「ノンアルコールシャンパンの手配を」

 各自がそれぞれ準備に取り掛かるべく解散する中、蒔絵がハルナの手を引く。

「じゃあ行こう、ハルハル!」
「そうだな、蒔絵」
「今年はハルハルがサンタさんだから、蒔絵がハルハルのサンタさんになるから! ちゃんと手伝った分のお小遣いももらったし!」
「よ〜し、行くぞ二人共!」
「だからぬいぐるみのフリをしろ」

 蒔絵に引っ張られ、ハルナはまだ賑わいを失わない、帝都へと繰り出していく。
 蒔絵のために、クリスマスプレゼントを買うために………


 聖なる夜に、共に過ごしたい人は誰ですか?

MERRY X’mas!!





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