クリスマスの変・負王貞



クリスマスの変・負王貞





《新規参戦記念クリスマスパーティー》と描かれた横断幕の下で、大勢の人間がパーティーの準備を進めていた。

「大神さ〜ん、そっち持っててください」
「新次郎、ツリー飾り追加どこだっけ?」
「群像、こっち手伝って欲しいって」
「一夏! それはこっちだ!」

 複数の女性からあれこれ声を掛けられている数人の男性を、物陰から凝視している者達がいた。

「なんという事だ、まさかこれほど………」
「可愛い子ばかりを侍らせおって………」
「不公平だ………」

 白地に目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被った全身に隈取のような文様の入った少年と、同じマスクを被ったデモニカを着た男と共に、勧誘された陽介が何かほの暗い光を瞳に宿していた。

「理解してくれるか、同士よ」
「ああ、こんな事は許されねえ」
「そうか、ならばこれを受け取るがいい!」

 そう言って差し出された二人と同じマスクを、陽介は生唾を飲み込みながら受け取ると、それをかぶっていく。

「これより、君は我らと共に神聖な夜に淫行にふけようとするカップル達を打破する嫉妬修羅となるのだ!」
「共に行こうぞ、嫉妬修羅・新二号よ!」
「おお!」

 陽介、いや嫉妬修羅新二号が一号、三号と共に妙なポージングを決める。

「さて、まず今回の策だが、あの巨大ツリーにこのクリスマス反対オーナメントを…」
「目標発見!」

 どこから用意したのか怪しげな品を広げる三人の背後から響いてきた声に、思わず三人は振り返り、そこにいる小さな影に気付く。

「警報! 警報!」
「手配されていた要注意人物発見!」
「全員集合!」
「えと、しゃべるフイギュア?」
「やば、武装神姫だ!」
「しかもフル武装してる!?」

 初めて見る武装神姫に新二号が唖然とするが、集合してくる武装神姫が完全武装している事、なによりその数に一号と三号の顔色(マスクで見えないが)が変わる。

「攻撃用意!」
「ま、待て話せば分かる!」
「マスターから危険人物は問答無用と言われてます!」

 先頭に立つアーンヴァルが砲口を向け、他の武装神姫達も一斉に攻撃態勢に入る。

「なんの!」

 とっさに嫉妬修羅三号がスタングレネードを投じ、閃光がその場を染め上げる。

「しまった!」
「目が…!」
「今の内だ!」

 目くらましに武装神姫達が怯んだ隙に嫉妬修羅達は一斉に逃げ出す。

「一体何したんだ、あんたら!」
「誤解だ! ただ前回、目の間に幼女がいただけだ!」
「やましい事はなにもしていない!」
「その格好で幼女の前にいりゃ、ポリスメンが飛んでくるだろ!」
「ポリスメンどころか、ポン刀持った軍人に追い回された………」
「アニメみたいなコスプレした子からもな。いきなり目の前にテレポートした時はやばかった………」
「………やっぱ辞めていい?」

 何かものすごく危険な事に足を突っ込んだ気がしてきた陽…嫉妬修羅新二号だったが、そこで向こうの通路から妙な機械音が響いてくる。

「な、何だ?」
「動体反応有り、だがこれは………」

 通路の角から、体の各所から蒸気を噴出させながら、神崎重工製・作業用人形蒸機《向日葵》が姿を現す。

「え、えと………」
『見つけたわよ!』

 思わず動きが止まる三人だったが、人形蒸機に後付されたと思われる画面にタカオが表示される。

『バレンタインの時は逃したけど、今度は逃さないわよ………これしか使えそうなボディは無かったけど!』

 タカオがそう言うなり、突然の蒸気を噴出しながら各所からむりやり装備したらしい武装の数々が姿を現す。

「ぎょげ!?」
「に、逃げ…」
「向こうにいました!」
「今度こそ逃がすな!」

 仰天する嫉妬修羅達だったが、背後から武装神姫達の声も響いてき、完全に進退極まろうとしていた。

「ええい、ジライヤ!」『マハガルーラ!』
「きゃああ!?」
「突風!?」
「これくらい…」
「死亡遊戯!」

 新二号が疾風魔法で武装神姫達を牽制し、その間に一号が魔力の剣で人形蒸機の武装を全部切り落とし、そのまま三人で一気に逃走する。

『待て〜!』
『誰が待つか!』


「申し訳ありませんマスター、不審者逃してしまいました………」
「構わん、どうせ懲りてもう二度と来ないだろう」

 申し訳なさそうに頭を下げるアーンヴァルに、美緒は完全武装している武装神姫達の威圧効果は充分と見て、警備を切り上げさせる。

「それよりもパーティーの準備だよ準備♪」
「色々用意したから、好きなの着ていいよ♪」
『は〜い』

 音羽とジェミニが各所から集めた人形用クリスマス衣装を用意し、武装神姫達はいそいそとお気に入りを探して手に取っていく。

「もう直パーティー始まりますから、急いでくださいね〜」
「更衣室はこちらで〜す」
「もおそんな時間か」
「急ごう!」

 料理を運んでいたさくらとシスターエリカに促され、武装神姫達は慌てて衣装を手に更衣室用のスペースへと飛び込んでいく。


「メリ〜クリスマス!」
『メリ〜クリスマス!』

 司会役のユナの号令と共に、パーティー海上の各所で一斉にクラッカーが鳴らされる。

「それじゃあ今日は新しく参加した人達と一緒に楽しく過ごそう♪ それじゃあ、かんぱ〜い!」

 各々が杯(半数以上がノンアルコール)が掲げられ、パーティーが始まる。

「また更に増えたな」
「収拾が付くのかはしらんがな」

 明らかに新顔が増えているのに八雲がコーラ片手に苦笑するのに、美緒もサイダー片手に苦笑し返す。

「そう言えば、例の覆面集団、武装神姫達が追い払ったそうだが、よかったか?」
「構わん、どうせつまらん事しかしない連中だ。そぞろ懲りてくれればいいんだが」
「八雲〜、これおいしいよ〜」
「ネミッサさん、取りすぎですって」
「坂本さ〜ん、早くしないと無くなっちゃいそうです!」
「………賑やかさに事欠きそうに無いが」
「全くだ」

 並んだパーティー料理が一部の人間に食い尽くされる前に賞味しようと、二人はテーブルへと向かった。

「随分と色々な方がいますのね」
「何割か人間ですらないらしいが………」

 シャンパンの入ったグラスを手にしたどりあと千冬が、居並ぶ面々を見ながら(※奥の方で肉料理を貪っている仲魔と喰奴は見なかった事にした)微妙な顔をする。

「これから、色々と大変そうですわね」
「それだけは間違いないな」

 二人がグラスを飲み干す中、壇上では希望者による余興が催され、どこかから持ち込まれた瓦を連続で何枚割れるかの実演が行われていた。

「てりゃああ!」
「たぁあぁ!」

 どりすがカイザードリルで、一夏が雪片弐型で投じられる瓦を競って破壊するのを、双方の姉がシャンパンのお代わりをもらいつつ見守る。

「あらあら、どりすちゃんはどうしても弟さんと決着付けたいみたいね」
「構わん。少しは普通に勝負を持ちかける奴がいれば、一夏も励みになるだろう」
「弟さん、モてるわね〜」

 そう言いながらグラスを重ねる二人だったが、脇のテーブルに空のグラスが山と重ねられているのに気付いた者達の顔が引きつる。
 なお、壇上では最後の一枚を同時に貫いたどりすと一夏が、どっちが先かで揉めていた。

「あらあら、どっちが先だったかしら」
「さあな」

 僅かに酔っているようにも見えるどりあと千冬だが、杯を重ねる速度は変わらない。
 最早互いに手酌で注ぎ合いながら、空瓶を重ねていく二人を止める勇気のある者はいなかった。
 なお、その頃奥の肉料理スペースにユーリィやカンナらも加わり、厨房からバケツリレーがごとく運ばれる各種丸焼きの供給が消費に追いつかないという事態に陥っていた………



「え、えらい目にあった………」
「く、リア充共が………」
「まさか特別警戒体勢が敷かれてるとは………」

 方方の訂で逃げ出した嫉妬修羅達だったが、その目には今だほの暗い何かが宿っている。

「負けぬ、この程度では負けぬぞ!」
「そうだ!」
「次こそは絶対…」
「おんや〜、何か妙な人達がいるね」
「そのようです、束様」

 懲りない嫉妬修羅達だったが、そこにどこからともなくうさぎ耳のようなアクセサリーパーツを付けたエプロンドレス姿の女性と、銀髪の少女が姿を現す。

「君達もパラレルワールドから来たのかな?」
「束様、この人達に要注意人物指定が出ています」
「へ〜………実は今パラレルワールドについて調べてるんだ♪ 協力してくれるとうれしいな♪」

 そう言いながら、エプロンドレス姿の女性の両手と、背後から出現したアームに無数の工具が現れる。

『え………』
「ちょっと調べていい?」
「ちょ…」
「ま…」
『ぎゃあああああ!!』



 パーティーが終わり、自室に戻った箒は目の前にある物を凝視する。
《箒ちゃんへ 束サンタより メリークリスマス!》とクリスマスカードが付けられたプレゼントの箱に、どう扱うべきか迷う。

「今度は何を………」

 色々と嫌な予感がしながら慎重に箱を開けた箒だったが、中からは小さなサンタ人形と、それが抱いているデータメモリが出てきた。

《前回の戦闘データから組んだ紅椿と白式の新コンビネーションシュミレーションだよ♪ いっ君と二人で練習してね♪》

「二人で、か。一応ありがとう、姉さん」

 データメモリを手にした箒は、サンタ人形をしばし迷うと、枕元へと置いた………


 聖なる夜に、大切な人へ………


Merry Christmas!!





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