クリスマスの変・重誤



クリスマスの変・重誤





@
「ぬ〜ん………」
「やはり、問題は往復の航続距離だね」
「武装や装甲を外してみるというのは?」
「二機一組で交互にデサントするというのは可能ですけれど、そうなると………」
「何してるの?」

 専用機持ち達がホワイトボードやタブレットPCを手に何かの相談をしているのを見かけたどりすが、何事かと覗き込んでくる。

「あ、ちょっとね」
「………クリスマスプレゼント買い出し計画?」

 タブレットPCに表示されているロゴに、どりすの頭の上にいたマオチャオが首を傾げる。

「いや、どうにかしてISで東京まで行けないかな〜って、思って」
「で、皆で試算してみてた所ですの。一応理論上は問題無いはずですし」
「ISの長距離運用のテストにもなるしな」
「ここから帝都まではものすごく遠いのだ………」
「だから潜水艦で物資運んだんだよね?」

 シャルロットとセシリアの説明に、ラウラがなぜか胸を張って言うのをマオチャオが呆れ、どりすがマオチャオの方を見ながら呟く。

「あの転移装置とかいうの、まだ設置にかかるって話だし」
「それなら自分達でどうにか買い出ししてこようかと」

 鈴音とシャルロットがそれぞれの専用機の航続距離その他をにらめっこしながら考える中、どりすが少し考える。

「そう言えば、皆もあれこれ言ってたな〜」
「どうにかケーキとツリーだけでも用意出来ないか、エグゼリカに頼んでたのだ」
「え、そうなの?」
「安全に運ぶ方法が無いからって断られてのだ。トリガーハートの最高速だと、全部潰れるのだ」

 マオチャオの一言に、専用機持ち達が止まる。

「………そう言えば、それを忘れてたわね」
「あ〜、でも量子化してしまえば」
「変換器まで持ってく事になりますわよ?」
「その前に、この時代のお金どうするのだ?」
「東京にも貴金属店くらいあるでしょう? そこに私のアクセサリーを持ち込もうかと」
「ニューヨークにいい店あるらしいけど、流石にISで太平洋横断はちょっと………」
「流石にそこまでは想定してないだろうしな」
「箒あたり、お姉さんに頼んで出来るようにしてるんじゃない?」
「まさか〜」
「クリスマスプレゼントか〜」

 どりすが前に友人達としたクリスマスのミニパーティーを思い出してた頃………


「出来たよ箒ちゃん! 紅椿お買い物用長距離飛行用パック! 生体保護を強化して、成層圏までの上昇及び長距離飛行機能を追加! 拡張領域も追加、簡易量子化も可能でいっぱいお買い物出来るよ♪」
「あの、姉さん………」
「あ、お金だよね。私からのお小遣いって事で、これで大丈夫だと思うよ♪ お姉さんの分も買ってきてほしいな♪」

 ただ紅椿で東京まで行けるかを束に聞きに来た箒だったが、あれよあれよと言う間に紅椿に改造が施され、更には手渡された金の延べ板に完全に凍りつく。

「通信機に万能翻訳機能も付いてるから、世界中どこにでもお買い物に行けるよ♪」
「私くらいの年齢で、こんな物持ってたら警察呼ばれかねませんが………」
「そっか、じゃあ待って! 良家のお嬢さん風にしてあげる♪」

 そう言いながら、束はどこから用意したのか種々の衣装(※大正風袴装束ややたらファンシーなドレス)を取り出し始めた所で、箒は脱兎のごとくその場を逃げ出す。

「あ、待って箒ちゃ〜ん………」


「あれ、篠ノ之さん?」
「何しとるんや?」

 学園主催のクリスマスパーティーの備品をなんとかかき集めていたつばさとのぞみが、息を荒げている箒に気付いて声をかけてくる。

「あ、プリンセスのルームメイトの」
「やけに慌ててどないし…その手の、本物?」
「あ!?」

 思わず逃げてきた箒だったが、そこで手に渡された金の延べ板を持ったままだった事に気付く。

「それ、プレゼントですか?」
「あ、いや姉さんにISで買い物に行けるかと聞いたら、小遣いだって………」
「は〜、篠ノ之博士ってお金持ってるんやな〜」
「まあ、ISの開発者だから、色々なパテントは持ってるらしいけど………」
「いっそ、それそのまま送ったらどうや? 喜ばれるで?」
「そんな事出来るか!」
「流石にそれはちょっとムードの欠片も無いし」
「なら表面に愛を込めてとでも彫っとけばいいんや」
「幾ら何でも俗物過ぎる………」

 のぞみの提案に箒が流石に呆れ返る。
 そこで、校内放送を示すチャイムが鳴り響く。

『こちら織斑、一部の生徒達から自力で東京まで行きたいとの提案が有ったが、安全上その他の問題により、これらの提案を却下する事になった。そういう訳だから、くれぐれも無茶をしないように。特に篠ノ之と織斑、以上』

 千冬からの校内放送に、校内のあちこちから悲鳴や絶叫が響く。

「だ、そうや」
「えと、それお姉さんに返してくるとか………」
「それがいいかも…」
「あ、箒」

 のぞみと翼の指摘に、手にした延べ板をどうするか悩む箒だったが、いきなり背後から聞こえてきた一夏の声に思わずそれをポケットに仕舞う。

「ああ、一夏か」
「どうかしたか箒? あ、さっきのか。皆に買い出し頼まれてたんだけどな〜」
「ホンマにISで東京まで行く気やったんか?」
「束さんが専用パック作ってくれてさ。その事クラスの皆に言ったら、あれこれ頼まれて………」
「随分なパシリだよね………」
「ちゃんと代金は預かってるけど」
「両替、出来るんやろか………」
「だが行けなくなった以上、返した方がいいぞ」
「そうだな。え〜と、誰から幾らだったか………」

 メモと紙幣を見たつばさとのぞみが思わず顔を見合わせるが、箒にうながされ、一夏がメモをチェックし直す。

「あ、いたいた。マスター、カルナダインが追加でクリスマス用物資運んでくれるって〜」

 誰よりも張り切って文字通り飛び回っているツガルからの報告に、四人はしばし考える。

「プレゼントは無理でも、ごちそうはなんとかなりそうですね」
「流石にクリスマスに魚料理ばかりというわけにもいかんだろうしな」
「向こうも案外気前ええんやな〜」
「代わりに戦力提供する事になるかもしれんって千冬姉が………」
「それじゃあ準備手伝って!」

 口々にあれこれ言う中、ツガルに促されて四人はなし崩し的に生徒主催のパーティー会場準備に動員されていく。
 忙しのあまり、箒がポケットに入れてた延べ板の事を思い出したのは、パーティーが終わり、片付けをしていた最中だった。

「………どうしよう」
「それ本物?」
「いや、まあ………」
「ピカピカなのだ」

 使用済みのクラッカーを抱えているツガルが覗き込んできた事に、箒は言葉を濁し、テーブルでナイフフォークを集めていたマオチャオもこちらを見てくる。

「姉さんからプレゼント用に渡されたのだが………」
「それツガルのご主人様にあげるのだ?」
「いや、さすがにそれは」
「それなら、いい手があるよ」
「え?」


 数時間後、パーティーの疲れからか、熟睡している一夏の枕元に、プレゼントの箱を抱えたツガルがひょっこりと現れる。

「マスター、プレゼントだよ」

 プレゼントを一夏の枕元に置いたツガルが、その上に一夏へ、箒&ツガルと書かれたカードを添える。

「さあて、次は篠ノ之博士だけど、どこで寝てるか誰も知らないんだよな〜」

 もう一つのプレゼントを抱え、ツガルはその場を離れる。
 なお、学生寮のロビーで何故か寝袋で枕元に無駄にデカい靴下を吊るして熟睡している束の姿をツガルが発見したのは一時間後の事だった。


「見て見てクーちゃん! 箒ちゃんからのクリスマスプレゼント!」
「それは良かったですね、束様」

 学園内に密かに造られた束のアジトで、束が扇を模した金のアクセサリーをクロエに見せびらかす。

「紅椿のお礼と、ちょっと使ったお詫びとかカードに書いてたけどね」
「なるほど」

 プレゼントの箱に同封されていた、端っこが削れている金の延べ板にクロエが眉根を寄せる。

「使用量と削れた量が合わない気がしますけど」
「ん〜? いっ君にもあげたみたいだよ。刀みたいなアクセサリー持ってるの見たし。あ、武装神姫の子が手伝ったみたいだから、プリンセスにもあげたみたい。あ、クーちゃんの分は私が作ってあげようか?」
「いえ、そこまで気を使ってもらわなくても」

 妹からのプレゼントが嬉しいのか、普段以上にはしゃいでいる束にクロエは少しばかり羨望を感じていた。

「そうだ、クーちゃんも妹に何か送ったの?」
「いえ、そういう事は………」
「必要だったら言ってね♪ せっかくの姉妹なんだし」
「しかし………」
「いいからいいから」

 その日の夕方、自室に戻ってきたラウラが、差出人不明の新品のナイフが机の上に置いてある事に首を傾げる。
 それが、存在すら知らない姉に送られた新品の仕込杖と同じデザインだと、知る由は無かった………



A

「そういう訳だ、我々は同士を求めている。いざ我らと共に!」
「断る!」

 白地に目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被った全身に隈取のような文様の入った少年が、熱心に交渉するが、相手からは完全に拒絶される。

「ダメか? つうかあんたらの面子で他に同調してくれそうな奴がいなくてさ………」
「これでも元ラグジュアリーズのサムライ! そのような僻みに付き合うつもりは毛頭無い!」

 嫉妬修羅一号がスカウトしようとした相手、ナバールがあまりにガンとして断るので、がっくりと肩を落とす。

「………話してる途中で悪いんだけど」
「本当にそこにいるのか?」

 学生服姿に同じようなマスクを被った嫉妬修羅新二号と、同じようなマスクをデモニカの上から被った三号が、恐る恐る一号に声を掛ける。

「あ、見えないか?」
「オレには全然」
「エネミーサーチで何かいるらしい事は………」
「………いい、慣れている」

 元は誰にも見られなかった事を思い出したナバールが、がっくりと小さな肩を落とす。

「やっぱ幾らなんでも幽霊は無理じゃね?」
「いや、意外と行けるかもしれんが、当人にやる気が無いのでは………」
「ぬう、今我らに必要なのは理不尽な敵対勢力に抗せるだけの戦力だ」
「………お前達、そんなに男女が交際してるのが嫌いか?」

 真剣にクリスマス妨害について話し合う嫉妬修羅達に、ナバールは完全に愛想を尽かす。

「やはり、ここは最後の手段を取るか」
「リア充爆発しろのコトワリを持ってカグツチを開放するアレか」
「だがこれだけの戦力では…」
「へー」

 そこで静かに響いた声に、三人の嫉妬修羅がそちらを振り向く。
 いつからいたのか、そこには般若の面を被った、黒装束の少女がいた。

「おわあ! いつからいた!?」
「さっきから」
「なんだこの子!? クリスマスらしからぬコスプレしてっけど………」
「コスプレか、これ?」
「そいつはガイア教団の暗殺者だぞ」
「へ?」

 あまりに異質な格好をした少女、トキが何者かをナバールが説明してやる。
 当のトキは、懐から年代物のPDAを取り出し、何かを見る。

「提供された情報にある要注意人物三名発見。発見時は速排除との事項あり」
『え?』

 データをチェックしたトキの両手に、鋭いナタが握られたのを見た嫉妬修羅三人が身をすくめる。

「排除」
『ぎゃああぁぁ!』

 ためらいなく襲ってくるトキ相手に、三人は全力で逃げる事となった………


「何かにぎやかですのね」
「誰かはしゃいでるんでしょうか?」
「状況分かってるのかしら………」

 何か聞こえてくる声にイザボーとアサヒが首を傾げ、ノゾミが呆れる。

「それにしても、ツリーだけでも有って良かったですね」
「ミカド国だと、クリスマスというのは厳粛に行う物なのですけれどね」
「ま、いいんじゃない? 東京がああなる前はすごい派手だったって聞いた事あるわ」

 転移してきた物資の中から、小さなクリスマスツリーを見つけたアサヒがなんとか飾りを工面して飾り付けるのを手伝っていた二人だったが、ようやく完成したそれを見て笑みを浮かべる。

「ニッカリさんが教えてくれたんだけど、昔はクリスマスにサンタクロースって太ったおじさんがプレゼントをくれたって」
「へえ〜、そういう時代も有ったという事ですのね」
「この状況じゃ絶対無理かもしれ…」

 アサヒが昔聞いたのを思い出し、イザボーとノゾミがそれぞれ意見を述べていた時、突然凄まじい爆音が響き渡る。

「な、何事!?」

 凄まじいスピン音を響かせながら、階段を登ってきた真っ赤なバイクが三人の前でドリフトしながら急停止する。

「よお、ダンテサンタがプレゼント代わりに食料運んできたぜ」

 背に何か巨大な袋を担いだ、赤いコートにサンタ帽姿のダンテがハンドサインを送りながらバイクから降りる。
 なお、バイクは例のごとくダンテが降りてしばし後、爆散する。

「あなたは、もう少し静かに来れませんの?」
「よく言われれるぜ。勝手に周りが騒がしくなるんだ」
「まあ、なんとなく原因は分かるけれど」

 イザボーの指摘に相変わらずダンテが不敵に笑い、ノゾミが呆れ返る。

「おっと、これを皆に渡してくれってウチの警察署長からだ」
「何ですかこれ?」

 ダンテは袋から取り出したラッピングされた小さな包みに、アサヒが首を傾げる。

「ドライフルーツケーキって奴さ。旨いぞ」
「あ、ありがとうございます!」
「例なら後で署長と有志調理陣に言ってくれ。皆で送ろうって頑張って作ったらしい」
「あの、ナナシの分も」
「ほらよ」

 もう一つのケーキをもらったアサヒが、急ぎ足でナナシの所へと向かっていく。

「ま、今日くらいはいいさ」

 色々考える事が有るダンテだったが、クリスマスくらいはヤボは言わない事にして、他の者達にも渡すべく歩いて行く。
 少しだけ賑やかな聖夜が、訪れようとしていた………


 聖なる夜に、共にいたい人のために………

Merry Christmas!!






感想、その他あればお願いします。


小説トップへ
INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.