クリスマスの変・銃炉苦



クリスマスの変・銃炉苦



その1

【JAM対抗統合組織結成決起記念クリスマスパーティー】と書かれたノボリが、学園にひらめく。
 その下では、試合の終わった闘技場を急遽パーティー会場にする準備が着々と進められていた。

「確かに許可は出したが、やけに準備が早いな」
「慣れてるんじゃないかしら?」

 やけに手際よく、どこかから持ってきたのか巨大なツリーが飾られ、必要な物資が次々転移装置から運び出されて設置されていく様子に、千冬とどりあは半ば呆れて見ていた。

「どいてくださ〜い!」
「そっちに運ぶですぅ!」

 自分達の眼の前を、巫女装束のような扶桑陸軍ウィッチ制服を来た小柄な少女と、赤髪のアンドロイド少女が前者は身の丈程の、後者はその数倍のコンテナを運んでいくのを見た千冬とどりあは僅かに頬を引きつらせる。

「全ての組織をひとまとめにするには、まず常識を捨てなくてはいけないな………」
「文字通り世界が違いますからね………」
「ちょっとごめんね〜」
「それはあっちだよ!」

 そのすぐ後に、周囲に何の支えも無しにツリーの飾りが浮遊している金髪の少女と、ツリー設計図を手にした少女が連れ立って通り過ぎる。

「………今のもだな」
「ウィッチや華撃団は超能力者みたいな方もいるとは聞いてましたが」
「あら失礼」「あちらにまだ足りないわよ〜」「ちゃんと分配してくださいね」

 千冬とどりあの前を、無駄に華美なサンタコスらしき物をまとい、手にソフトドリンクの箱を担いだ薔薇組が通り過ぎていき、数秒間二人は沈黙する。

「………今更ながら、不安になってきたな」
「………私もです」
「前はあそこまでのイロモノはいなかったな」
「見た範囲では………」

 そこにガランドが景子を伴って現れる。

「確かウィッチの…」
「アドルフィーネ・ガランドだ。ここの責任者はそちらの二人と聞いて、少し確認したい事が有ってな」
「何でしょうか?」
「ウチのエースが酒は出ないのかと騒いでて」

 ガランドの確認の後、景子が少しバツの悪そうな顔でアレな事を聞いてくる。

「残念だが、未成年が多い上にそもそもここは一応学校だ。イベントとはいえアルコールは許可しかねる」
「でしょうね………」
「仕方あるまい。マルセイユには後で私の秘蔵のイエーガー・マイスターでも送っておこう」
「あら、そう言えばウィッチって未成年の方ばかりと聞いたような………」
「私みたいな例外を除いて、大抵は。もっともマルセイユは10代前半から天幕にバーカウンター作ってたんですけど」
「………妙な影響が無いといいのだが」
「………ええ」
「はっはっは、それは無いだろう。一人で前線支えられる程の実力が無いとな」
「ほう、それは一度実力を見てみたい物だな」
「じゃんけんに負けて試合に出られなかった事まだ愚痴ってましたけどね………」

 景子が苦笑するが、千冬は別の事を考えていた。

(やはり、坂本少佐のようなかなりの実力者も混じっているか。クルピンスキー中尉も相当な物だったと聞いている。やはり最前線にいる者達はこちらの生徒達とは段、下手したら桁が違うな)
「織斑先生〜、ちょっとすいませ〜ん」
「どりあ様〜、こっちの方に」

 どりあも似たような事を考えていたのか、思案顔をしていたがそこで双方生徒達に呼ばれる。

「まあ、交流も兼ねているのでアルコールはともかく、少しは多目に見よう」
「少し、ですか」

 声をかけながら呼ばれた方に向かう千冬だったが、景子は果たしてマルセイユが少しで聞くかどうかを悩んでいた。


『みんな〜! メリ〜クリスマス!』
『メリークリスマス!』

 設置された壇上で、サンタルックのユナの挨拶と共に、会場に居る殆どの者達が一斉に返す。

『今日の試合は盛り上がったみたいだけど、このパーティーも盛り上がっちゃおう! 初めて会う人達も、一緒に盛り上がればお友達なんだから!』
『お〜!』

 ユナの声に、皆が賛同するように盛り上がる。

『それじゃあ初めは私から! 私のデビュー曲、行きま〜す!』

 パーティーを盛り上げるべく、ユナが率先して歌い始め、それを皮切りに次々と壇上で持ちネタを披露する者が現れ、それを見る者達も持ち込まれる料理を手にしながら盛り上がっていく。

「意外と能天気な人達が多いようね」
「でも、皆さん結構できますよ?」

【艦娘用テーブル 近づくべからず】と札のついたテーブルで運ばれてくる料理を片っ端から平らげていく加賀の隣で、チキン片手の吹雪が周りを見ながら呟く。

「問題が山積みなのは確かね。補給が受けられるのはありがたいけど」
「確かに補給は大事だな。隣を見るとよく分かるぞ」

 加賀の指摘に、吹雪の肩にいたランサメントが隣のテーブルを指差す。
 隣のテーブルには【危険! 接近絶対禁止!】と札のついたこちらの倍はあるテーブルに、ユーリィが一人で陣取り、こちらの倍のペースで料理を貪っていた。

「ユーリィまだまだ食べられるですぅ!」
「あれも戦艦級かしら………」
「似たような者だな。あれも人間ではない」

 都合何本目か不明のローストチキン片手の加賀の呟きに、その場に訪れたコンゴウが説明してやる。

「本当に色んな人がい………」

 何気に頷きながらコンゴウの方を振り向いた吹雪がそこで硬直する。

「所でそのふざけた格好は?」
「ああ、そちらの金剛と暁達と一緒にチアダンスとかいうのをやる事になってな」

 なぜかチアガール姿のコンゴウに加賀が首を傾げるが、コンゴウは淡々と説明する。

「ああ、去年鎮守府でやった………いつ練習したんです?」
「一度見せてもらったのを記録した。モーション解析、トレースはメンタルモデルなら簡単に出来る」
「ヘ〜イ、ミスト・コンゴウ! そろそろ出番ね!」
「了解した」

 同じくチアガール姿の金剛達に呼ばれ、コンゴウが壇上へと向かっていく。

「あの人も謎ね」
「まあ、変わった人ですけど………」
「メンタルモデルは総じて変わり者ばかりらしいぞ」

 加賀、吹雪、ランサメントが見送る中、壇上に立ったチアガール達に一同が湧く。
 彼女達の出し物は、吹き出した蒼き鋼メンバー以外には、好評だった。

「本当にこんな面子でJAMと戦えるのかしら?」

 パーティーでやたら盛り上がる者達を見ながら、シルフィードは思わずぼやく。

「その割には楽しんでるようだけれど?」
「こ、これは押し付けられたのよ!」
「それで三皿目」

 スーパーシルフがパーティーハットをかぶり、山盛りの料理の乗った皿を手にしたシルフィードに笑みを浮かべ、シルフィードが言い訳するがメイヴが即座に訂正する。

「いいんじゃないの。ツヴァイも言ってたけど、頼りになるお人好しばかりらしいし」
「最初は警戒してたけど、もう私達を警戒してないし」
「全くじゃない」

 シルフィードが半ば呆れるが、メイヴはそれとなくこちらを見ている者がいる事を感知するが、あえてこちらからは何もしない。

「もう仲間と思われているのかもしれないわね。それじゃあ、次私の番だから」
「いつの間に………」

 スーパーシルフがマイク片手に壇上へと向かっていく。
 新たな仲間と共に、パーティーは盛況のまま終わった。



その2

「これは、今までで最大の敵だ………」

  白地に目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被った全身に隈取のような文様の入った少年、嫉妬修羅一号がそれを愕然と見上げる。

「なんという存在………」

 学生服姿に同じようなマスクを被った嫉妬修羅新二号は、ただただ圧倒されていた。

「どう立ち向かえば………」

 同じようなマスクをデモニカの上から被った嫉妬修羅三号は、手にしたスナイパーライフルを向ける事すら忘れていた。
 三人の前に立ちはだかる、全身にクリスマスイルミネーションを灯した超力超神・改に。

「………何がしたいんだろう?」
「………さあ?」
「すごいね〜」

 偵察に来た八雲、カチーヤ、ネミッサも巨大なクリスマスツリーと化した超力超神・改に唖然としていた。

「神取って男はこんな意味不明なジョークする男じゃないと聞いてたんだが」
「克哉さんや尚也さんもそう言ってましたね」
「じゃあ誰か勝手に付けたんじゃない?」

 ネミッサがそんな適当な事を言っていた。


「何だこれは………」

 超力超神・改のブリッジ内で、当の神取も全く覚えの無いイルミネーション機能に困惑していた。
 外からでは分からないが、ブリッジ内ではクリスマスソングが流れ、ブリッジ内での照明もイルミネーション仕様になっていた。

「これは、論理爆弾の類か? システムを上書きしただけでは消しきれなかったか………」

 システムをチェックした神取が、それがどうやら改造前のギガンティック号に何者かが仕込んだたちの悪すぎるジョークらしいという結論にたどり着く。

「ふむ、特に他のシステムに影響は無い。だが煩わしいからブリッジ内だけでも…」

 神取がコンソールを操作するが、そこで外の様子をモニターしている画像に何かが映る。

『クリスマス反た〜い!』
『こんな物許すな!』
『破壊だ破壊!』 

 奇妙なマスクを付けた三人組が、なぜか超力超神・改の電飾だけを攻撃している様に、神取はしばし考えるが、影響無しと考えて作業を再開する。
 そして、神取がシステムを変更するまでの間、巨大過ぎるクリスマスツリーに無謀過ぎる戦いを挑んだ三人の嫉妬修羅は疲労困憊し、イルミネーションの停止と共にぶっ倒れたのを八雲達に回収されていった………


Merry Christmas!!






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