クリスマスの変・背文帝陰



クリスマスの変・背文帝陰




その@


『NORN主催クリスマスパーティー会場』のノボリが掛かった学園の特設会場で、手に手にイベントアイテムや料理を持った少女達が右往左往していた。

「意外とこういうのはどこも変わらないモンだな」
「そうですね〜」
「はしゃぎすぎの気もするけど」
「お前らもな」

 招待を受けて訪れたブッカーは、忙しくも楽しそうに準備を進めている様子を見て呟くが、なぜか完全なクリスマスコスで同伴したあおと同じくクリマスコスのイノセンティアが楽しそうに周囲を見回していた。

「ま、年頃の女の子ばかりだからな。お前達もあまり羽目を外さないように」
「はい、源内曹長羽目を外さない程度に楽しんできます!」
「きます!」

 ブッカーの警告をちゃんと聞いてるのかどうか、敬礼したあおとイノセンティアがパーティー会場へと突撃していく。

「レイとはまるで逆だな………」

 呆れ顔でそれを見送ったブッカーは改めて来賓受付を探す。

「あ、ブッカー少佐」
「受付はここか。御招待に預かったのでジェイムズ・ブッカーと源内 あおの二名で来させてもらった」
「その二名ですね。クーリィ准将は?」
「こっちの仕事が忙しくてな。すまないが来れないそうだ」

 受付をしていた楯無が来賓リストを確認するが、そこでブッカーが手にしている荷物に気付く。

「そちらは?」
「准将から来れない詫びにと預かってきたんだが、未成年ばかりだとまずいか?」

 そう言いながらブッカーは手にした荷物の包みをほどき、そこからシャンパンとワインが出てくる。

「あ〜、すいませんがパーティー会場はアルコール禁止で…」
「だよな。どこかで預かってもらって」
「ちょっと待った!」

 そこで横手から掛かった声に二人の動きが止まる。
 どこからともなくすっ飛んできたマルセイユが、ブッカーの手にした瓶を見て愕然とする。

「クリュッグにトロツケンベーレンアウスレーゼだと!? どちらもヴィンテージだぞ!」
「准将も気張ったな。オレだってこんなの飲ませてもらった事ないな」
「会場内に持ち込み禁止なら、私の天幕に…」
「ティナ」

 二つの酒瓶を手に危険な笑みを浮かべるマルセイユだったが、背後から聞こえてきた声にその笑みが凍りつく。
 ゆっくり振り向くと、笑顔だが眉間に青筋が見えそうな圭子の姿があった。

「け、ケイ。お前も飲むか?」
「皆さんにともらった物でしょ? 後で将校の人達で分けましょう」
「せ、せめて毒味だけでも」
「そんな事言って独り占めする気でしょう! 全くお酒と来たら見境無いんだから」
「ヴィンテージ〜〜………」

 わめきながら圭子に首根っこを掴まれて引きずられていくマルセイユを、ブッカーと楯無が引きつった顔で見送る。

「酒好きな方も結構いるようですね………」
「そのようだ。どっかに隠しておいた方いいか?」
「う〜ん、織斑先生も結構お好きだそうですから、そこも無理ですし、他に預けられそうなのは…」
「ほう、珍しい物を持っているな」

 さらにそこへ今度はラルが通りがかり、目ざとくブッカーの手にした酒瓶に気付く。

「FAFのクーリィ准将からの贈答品だそうです」
「ほう………だが残念な事に今回のパーティーはアルコール禁止だからな。なんなら私が預かって…」

 そう言いながら手を伸ばすラルだったが、楯無がそれを遮る。

「坂本少佐経由で聞いてますよ。502のラル隊長は物資横領の名人だって」
「はっはっは、そんな事を言ってるのはミーナか? 別に名人というわけではない。501に届くはずの荷物がなぜかこちらに届くだけだ」
「それを横領って言うんじゃ………」
「変にたくましいのが多いな。見た目によらず………」

 先程のマルセイユといい、ラルといいどさくさ紛れにヴィンテージ物を狙ってくる事に、ブッカーは半分感心し、半分呆れていた。

「あら、それは大変ですわね」

 揉めている背後に、余興用なのかダンサー衣装のロベリアが通りかかる。

「………またすごい格好だな」
「サフィーネと言います。以後お見知りおきを。何ならお荷物お持ちしましょうか?」
「そうだな、これ持ってうろつくのマズいか…」

 にこやかに芸名で話しかけてくるロベリアに、ブッカーが思わず酒瓶を渡しかけた所で、楯無がタブレットで何かを確認する。

「ちょっと待ってください。巴里華撃団のロベリア・カルリーニさんですね? 要注意者リストトップの」
「トップ?」
「ほう、何をした?」

 楯無の確認にブッカーとラルが笑みを浮かべたままのロベリアを凝視する。

「え〜と、スリにサギに泥棒、放火に傷害、懲役1000年?」

 読み上げている最中に流石に楯無も頬が引きつり始める。
 そこまで読んだ所で、ロベリアの顔から笑みが消えて舌打ちする。

「ちっ、もう話が回ってんのかい。せっかくカモが来たかと思ったのに」
「まさかそこまでとはな。華撃団に飽きたら502に来ないか?」
「片棒担がせる気だろ………」

先程までの媚びた態度とは真逆の本性を晒すロベリアだったが、ラルに至ってはむしろ関心し、ブッカーは完全に呆れていた。

「あ、いた! ロベリアさ〜ん、リハーサルしますよ〜」
「ウチの隊長が来やがった………つうわけで少しはこっちにも回せよ?」

 シスター・エリカに半ば引きずられていくロベリアがそれでもヴィンテージを凝視している。

「………ハイエナみたいなのが多いな」
「ウチの生徒にはいませんよ、多分………」
「生き残るためならハイエナにでも何でもなってやるような連中が多いからな」

 ブッカーの素直な意見に楯無が頬を引きつらせるが、ラルの言葉がそれをぶち壊す。

「その点は賛同だな。オレ、というかFAFも惑星フェアリィじゃ色々とひどい目に有った」
「ほう、詳しく聞きたい物だな。出来ればそれを頂きながら」
「………どこかしまっておける所ないか? どうやら猛獣の檻に肉を持ってきちまったようだ」
「転移装置が動く前のバレンタインの時なんかはこんな物じゃありませんでしたよ?」
「聞いてるぞ、材料の奪い合いだろ?」
「年頃の子は誰もがハイエナか………」

 考慮の結果、結局寄贈されたヴィンテージ品はパーティー終了までコンゴウの艦内に保管され、噂を聞きつけた者が侵入を試みては撃退されていた………



そのA

 イルミネーションに飾られてはいたが、どこか活気に欠ける市街地に、鈴の音が鳴り響く。

「メリークリスマス!」
『メリークリスマス!』

 どこから用意したのか、有り合わせの資材で造られたソリを仲魔にひかせ、白地に目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被った三人の男達が騒ぎながら街を駆け抜けていく。

「こんな状況でも懲りない連中だな………」

 フトミミの予言で回避出来るとは言え、キュヴィエ症候群の影響で人影もまばらな街中を爆走するいつもの面子に、八雲は心底呆れ果てる。

「それで、どうするの?」
「ネミッサ、とりあえずそれを仕舞え」

 ネミッサがにこやかにレッド・スプライト号から持ち出してきたRPG・7ランチャーを向けようとするが、さすがに止める。

「ほっておいていいんでしょうか?」
「この状況じゃ邪魔出来るカップルもおらんだろ。ちょっと奇妙なパトロールという事にしとけ」
「なるんでしょうか?」

 カチーヤが無駄に騒がしい一行を軍用双眼鏡で監視しながら小首をかしげるが、八雲はすでに興味を失いつつあった。

「そういや、あいつらどこに向かってる?」
「あの方向は、蓮華台ですね」
「蓮華台? レッド・スプライト号がいる所に向かってるのか?」
「あ」

 そこでネミッサが手を一つ叩くと、ポケットから一枚のチラシを取り出す。

「こんなのもらってた」
「何々…」

 そこでは有志が結集して七姉妹学園で行われるクリスマスパーティーのお知らせで、端の方にカップル歓迎、特別プレゼントありますと書かれていた。

「………ネミッサ」
「なに八雲?」
「撃て」
「OK!」

 返答するや否や、ネミッサは担いだRPGを発射。
 噴煙を上げなら飛ぶロケット弾がソリの走っていた方向へと向かい、やがて爆発音に男三人の悲鳴が重なる。

「あの、大丈夫でしょうか?」
「あれくらい対処出来るだろ。とりあえず回収に行くか」

 さすがに焦るカチーヤだったが、八雲は平然とした顔で爆発地点へと向かう。

「く、もう少しだったのに………」「いきなりあんなモン撃ってこなくても………」「おのれ、口惜しや………」
「よし、生きてるな」
「確かに対処出来てたみたいですね………」

 バラバラになったソリの残骸と共に、一応五体満足で倒れた三人が怨嗟の声を上げているのを確認した八雲は、残骸と共に受胎東京の各所からかき集めたと思われる縁切り神社の護符やどこから用意したのかワラ人形などの呪詛アイテムが転がっている事に半目になる。

「お前らもそろそろこりたらどうだ?」
「負けぬ、媚びぬ、退かぬ! いつかカグツチにリア充爆発しろのコトワリを開放するまで!」
「向こうから断れるだろ、そんなアホなコトワリ………」
「ですよね………」

 全身から焦げ臭い匂いを漂わせつつ、嫉妬修羅一号がそれでもなお気概を見せ、八雲は冷めきった視線を送る。

「八雲〜、もう一発打ち込む?」
「さすがに止めとけ」
「一応回復させときましょうか?」
「命に別状は無さそうだからしばらくほっとけ。周防とアーサーに連絡しとけば、その内回収されるだろ」
「それじゃあ、パトロール終わりって事で、これ行こ♪」

 そこでネミッサが先程のクリスマスパーティーのチラシを取り出し嬉々とする。

「カップルにプレゼントって、何くばってるんでしょうか?」
「行けば分かるって。八雲1にネミッサとカチーヤちゃん2で」
「そんなの認められるのか?」
「さあ………」
「それじゃあ行こう!」

 ネミッサに半ば引きずられ、八雲は呆れ顔、ネミッサは困り顔で七姉妹学園へと向かっていく。
 遠くから、パーティー開始を告げる鐘の音が鳴り響いてきた………



Merry Christmas!!






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