クリスマスの変 亡員邸陰



クリスマスの変 亡員邸陰




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「じゃあこれそっちに」
「これでいいのかな?」
「材料足りるよね?」
「計算上は」

 ブルーアイランドの食堂の厨房を借り、パレットチームが何か作業を行っていた。

「あれ、何してるの?」

 そこへ通りがかった音羽が覗くと、お菓子の材料と思われる物を準備しているのに気付く。

「ああ、NORNのクリスマスパーティーにこっちも招待されたからね」
「何か手土産を用意しましょうって」
「だからジンジャークッキーでも」
「焼き菓子なら数も作れるので」
「というか予算の都合」

 FAG達も手伝うのを、音羽は興味深そうに見る。

「まあお菓子ならみんな喜ぶし」
「前にブッカー少佐がヴィンテージアルコール持ち込んだ時は飲兵衛達が奪い合いしてたしね〜」

 音羽が頷く中、頭上のヴァローナが余計な事を思い出す。

「それじゃあ、準備を」
「並んで並んで」

 そこでシロとクロが消毒用アルコールスプレーと食品用エポキシ型を用意する。

「………何するの?」
「さあ?」

 何故か互いに消毒を始めたFAG達を見た音羽とヴァローナが首を傾げる。
 そしてそこで自らエポキシ型にダイブするFAGに更に違和感を覚える。

「………何してるの?」
「こうやって型造って、ここに生地を入れるんだって」
「そうして作ったのが人気なんだそうです」
「まあそれなら作ってみようかなって」
「そうらしい」

 バカ正直にFAGの指示に従って生地の準備をすすめるパレットチームに、音羽が内心焦りを感じる。

(どうしよう、この子達多分騙されてる………!)
(根が純朴過ぎるね………どうしよ?)

音羽とヴァローナが小声で呟く中、準備が終わったFAG型に生地が詰められていく。

「色も合わせるのが評価高いわよ」
「間違えてこっちが食べられないといいのだけど」
「そこまで立派に作れるかな〜?」
「難しいと思うよ?」

 どこか含みの有るマテリア姉妹の言う事を素直に聞きながら、あかねとあおいが生地を型に詰めていく。

「え〜と温度がこうで」
「あとは時間通り入れるだけ」

 あおばとひまわりが教えられたレシピ通りにオーブンをセットして生地を入れていく。

「ただのクッキー………だよね?」
「人によるんじゃな〜い?」

 段々クッキーが焼けていく香ばしい匂いが漂い、音羽は色々見なかった事にしてその場を離れる。
 なお、出来上がったFAG型ジンジャークッキーはマテリア姉妹の手により〈時価〉の札がつけられたが、後で事情を知ったあおの手により、つつがなく各組織に配られ型は完膚なきまでに破壊される事になった。



A

 その場を、重い空気が覆っていた。
 それほど広くない室内にいる4つの人影、その全員が白地に目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被っているだけでも異様だったが、そのうちの一人だけが椅子に座り、他の三人は床に正座させられていた。
 全身に隈取のような文様の入った少年、嫉妬修羅一号(HDリマスター)、学生服姿に同じようなマスクを被った嫉妬修羅新二号と同じくマスクをデモニカの上から被った嫉妬修羅三号は、突如として現れた謎の四人目を前に震え上がっていた。

「そう、この程度でカップルを妨害してたつもり?」

 緩やかにウェーブのかかったロングヘアに、スレンダーな体をした謎の女性から、他の三人とは比べ物にならない、凄まじい嫉妬の力が溢れ出す。

(な、何者だ!?)(オレ達とは比べ物にならねえ………)(凄まじい嫉妬力!)

 謎の女性、嫉妬修羅四号の迫力に他の三人はただただ平伏するしかなかった。
 その飢えた狼のような気配を持つ嫉妬修羅四号は、手にしていた今までの嫉妬修羅達の活動報告(というか被害報告書)を無造作に投げ捨てるとおもむろに立ち上がる。

「ならば私がみせてあげましょう! 本当の嫉妬という物を…」
「あ、いました」「おい何をしている」「探しましたよ姉さん」
「んにゃあぁ!」

 宣言の途中で、室内を覗き込んだ妙高型姉妹に声をかけられ、嫉妬修羅四号は先程とはまるで違う情けない悲鳴を上げる。

「足柄、みんなでクリスマスパーティーの買い出しに行く予定でしたでしょ?」
「ち、違う! 私は嫉妬修羅四号! あなたの妹では…」
「何を言っている、パーティーの余興か?」
「この間のクリスマス合コンの失敗、
まだ気にしてるんですか?」

 喚いて否定する妙高型3番艦足g…嫉妬修羅四号が他の妙高型達に強引に引きずられていく。

「クリスマスなんて、クリスマスなんて〜〜〜〜〜………」

 引きずられながら絶叫する嫉妬修羅四号の姿が見えなくなってから、他の嫉妬修羅達は顔を見合わせる。

「一体、さっきのは………」
「さあ………だがオレ達よりも遥かに上を行ってる………」
「いや、前に似たようなのを見た事が有る。前の部隊の上司の女性士官があんな感じだった。あそこまでじゃねえが………」

 呆然とする一号と新二号に、三号がある事を思い出す。

「覚えておけ、あれが女性がもっとも強く持つとされる嫉妬、〈婚期への焦り〉だ」
「あれが………」
「未成年には分からねえ………」
「理解するな、したらその焦りに飲み込まれるぞ………同僚は逃げられなかった………」

 沈痛そうに語る嫉妬修羅三号に、その場を更なる重苦しい空気が支配する。

「………通夜でもやってるのか?」

 そこへ毎度毎度のトラブルの警戒に来た八雲が、普段と打って変わって行動すら起こせそうない位にうなだれている面々に逆に面食らう。

「………婚期ってなんだろう」
「オレが知るか。たまきさんにでも聞け」

 嫉妬修羅一号がぽつりと漏らした言葉に、八雲の方が呆れ果てる。

「この様子ならこれの出番はないか」

 八雲が吹き飛んだ左手に代わりにはめられている、どう見てもサ○コガンを見て呟く。

「どっからそんな物………」
「間に合せだ、カチーヤ達がオレへのクリスマスプレゼントで義手を作ってほしいとレッド・スプライト号の資材班に頼んだらこれが出てきたそうだ」
「便利なような不便なような………」
「ともあれ、やる気が無いならパーティーの準備手伝え、手が足りない。オレは特に」
「笑えねえぞ、そのネタ………」

 八雲に追い立てられ、やる気が霧散していた三人はのろのろとパーティーの準備へと向かう。
 なお、パーティー最中に泥酔して大虎となった嫉妬修羅四号に引きずられ、パーティーに乱入した嫉妬修羅達相手に八雲は左手の試射をする事となった………



Merry Christmas!!





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