クリスマスの変 丹重位置

クリスマスの変 丹重位置






@ディファレンス編


『祝、PixivFANBOX連載開始!』と書かれたノボリの下、ささやかなパーティーの準備が進められていく。

「何でパーティーグッズがこんな有るの?」
「まあ、女の子ばかりいたので………」

 愛香がやけにそろっているパーティーグッズに首を傾げるが、まもりが当時の事を思い出しながら苦笑する。

「何か話聞く分はもっとつつましやかに暮らしてるかと思ってたけど」
「美鳳のお陰です。何か楽しみが無いととても暮らしていけない所でしたから………」
「あ、ごめん………そう言えば権力争いで逃げ出したんだっけ」
「お〜い、チキン焼けたぞ〜」

 言葉を濁すまもりに愛香がどう取り繕うか迷った時、総二の声が響いてくる。

「それにしても丸鶏まであるとはね………」
「そういえばとりのさんが前にパーティーで出してくれた事有りました」
「まあ、ここのが本物かどうかはちょっと不安だけど………」

 あれこれ充実はしているが、どれも模造品の可能性を否定しきれない不安を押し隠しつつ、パーティーの準備は進む。

「シャンメリーも有った!」
「賞味期限大丈夫?」

 どこから見つけたのか、サンタ風コスに身を包んだ倫花と乱花が食糧庫から他にも使える物が無いかと探りを入れていく。

「何故かワインが………恐らくとりのさんの秘蔵かと………」
「皆さん未成年なので止めておきましょう」

 魅零がまずい物を見つけてしまうが、慧理那がにこやかに封印する。

「それでは、準備はいいですね〜」
『メリークリスマス!』

 どこから用意したのか、やたら露出度が高いサンタコスに身を包み、普段より更にハイテンションのトゥアールが音頭を取り、乾杯の音頭が取られる。

「にしても、こんな所でクリスマスパーティーとはな」
「皆さんで楽しめるならいいんじゃないですか?」

 パーティー帽をかぶった総二に、サンタ帽をかぶったまもりがにこやかに答える。

「いつまでここにいるか分からないけど、確かに楽しめる時に楽しむのは賛成ね」
「準備万端だったしね」

 チキン片手の愛香に、シャンメリー入りのカップ片手の乱花が思わず笑いだす。

「プレゼントが用意出来ないのが残念ですけれど」
「お店なんてないし、幾ら自由に使っていいと言われても、勝手に持ち出す訳にもいかないですしね」

 みんなで協力して作ったケーキを取り分けながら慧理那と倫花が呟く。

「大丈夫です! プレゼントならここに用意しました! この強力発情薬・ギンギーンZを皆さんに…」
「何作ってんのよ!」

 トゥアールが手にした極採色の怪しげな液体が入った瓶を、愛香が怒声と共に上段回し蹴りで蹴り飛ばしてゴミ箱へと叩き込む。

「ああ! せっかくありあわせの物で苦労して作ったのに!」
「貴重な物資で何作ってんのよ!」

 同じ事を二度言いながら、愛香の後ろ回し蹴りがトゥアールのボディに突き刺さる。

「お〜い、せっかくのパーティーなんだからそれ位にしとけ………」
「ホコリが立ちますよ〜」
「あ、ゴメン………」

 総二とまもりに促され、愛香はしおらしく頭を下げる。

「ふふ、聖夜だというのにこの蛮族は………けど安心してください。総二さんにはこの超強力発錠薬・ビンビーンZZが…」

 最後まで言わせず、愛香の足が何か光っている蛍光ピンクの液体の入った瓶を縦に踏み潰す。

「うわっ!」
「大丈夫ですか!?」
「スリッパ越しだから大丈夫」

 いきなりの所業に乱花と魅零が思わず声を上げるが、愛香は平然としていた。

「あああ! せっかく今晩のために苦労に苦労を重ねて作ったのに!」
「どうやらあなたの聖夜には牢獄がお似合いのようね………」
「ここには牢屋なんてないですけど………」

 割れた瓶を見て愕然としているトゥアールの襟首を愛香は片手で持ち上げながら睨みつけるが、まもりが眉を寄せながら呟く。

「それ位にしとけ、料理が冷めるぞ」
「じゃあまずこいつをツリーに吊るしてから…」
「幾ら何でも悪趣味です」
「く………」

 総二だけでなく魅零にもたしなめられ、愛香は大人しくトゥアールを掴んでいた手を放す。

「ふふ、私は諦めません………なんとしても総二さんと性の六時間を………」
「もうちょっとみんなでクリスマス楽しもうぜ………」

 まだあきらめていないトゥアールを総二も心底呆れた顔で見るしかなかった………

 なお、後片付けの時にゴミ箱に入ったままだったギンギーンZを見つけたまもりが、密かにしまい込むのはまた別の話だった。



A真・クロス編

 珠間瑠市の一角にある小さな教会に、クリスマスミサを行うべく集まった経験なクリスチャンが聖歌を斉唱していた。
 だが、その中に異様な者達が数名混じっていた。
 目の縁に炎のような文様が描かれ、額に〈しっと〉と刻まれたマスクを被っている者達が、楽譜を手に聖歌を歌う姿は異様としか言い様が無く、周囲のクリスチャンも困惑しつつも聖歌が響く。

「………何をしてる?」

 教会からの連絡で来た八雲が、明らかに異様な風体のまま聖歌を歌う嫉妬修羅を思いっきり胡乱な目で見つめる。

「私達は心を入れ替えたのです」
「そう、聖夜は厳かに迎える物だと」
「だからこうして聖歌を歌っているのです」
「決して下心があるわけではないわ」

 マスク越しなので表情は分からないが、妙に澄んだ声で告げる四人の嫉妬修羅に、八雲の疑念は更に大きくなる。

「ミサに参加しないのなら、お引き取りを…」

 嫉妬修羅四号がそう言いながら八雲を教会から押し出そうとした時、彼女の楽譜から別のレポートのような物が床に落ちる。

「ん?」

 八雲が何気にそれを拾って表紙を見る。
≪天使化ゼレーニンによる聖歌詠唱洗脳について≫と書かれたレポートを流し読みした八雲は、ゆっくりと視線を嫉妬修羅達へと向ける。

「お前達、まさか………」
「ふ、ふふ………つまり聖歌を極めれば、洗脳とはいかなくとカップル破談にくらいまでは持っていけるかもしれない………」
「そう、ただ歌うだけで………」
「これはそのための修行なのだ………」
「まさかこの歌にそんな効能が有ったなんて………」

 先程までの澄んだ声から一転、完全に含みのある声でほくそ笑む四人の嫉妬修羅に、八雲は完全に呆れ果てる。

「まあ、108曲ほども歌っておけ」
「除夜の鐘ではないのですが………」
「じゃあどっかそこらで歌っとけ。むこうの墓地なんてちょうどいいぞ」

 教会の神父が困惑する中、八雲が嫉妬修羅達を教会から連れ出していく。
 なお、翌日ノドが潰れるまで歌ってようやく無理らしい事を悟った嫉妬修羅達が、墓地に倒れているのを発見された………


Merry Christmas!!




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