hyousi.jpg



※どうも皆様、管理人兄の岩手のボケ熊です。
今回、掲載しました小説は自分の友人である、りおんさんのサイト「白詞都市 北海」にてりおんさんがイラストとして描きました双子エルフメイド・マナとカナを元に(勝手に)設定を付けて文章化した物です。
この小説は寄贈作品であり、これを元にりおんさんがコミティアにてイラストノベル同人誌「エルフメイドストーリー」を発表しております。今回の掲載にはりおんさんの了承をいただき、同人誌内のイラストを挿絵として使わせていただき、感謝の限りです。
自分趣味が暴走した小説、皆様も御笑読ください。


長耳メイド・ストーリー



 部屋の室温が上がってきた。
 私のようなエルフ族は温度の変化を、その耳で感じ取る。
 夜の温度から朝の温度へと変化を感じとった私は、それを毎朝の目覚めの合図とする。
 確認の為に目を閉じたまま耳先だけを少し動かしてみる。傍目から見ると寝ぼけてるとよく言われる行動だけど、クセなので仕方ない。
 第一ここは自分の部屋、見る他人もいない筈なので気にしない。
 耳先が部屋の空気を攪拌して、朝の暖かさを教えてくれる。この感じは夜明け直後、いつもの起きる時間。
 意識を一辺に覚醒させ、ベッドから上半身を起こす。

「んっ!」

 ノビを一発。気持ちがすっきりした所で、寝ぼけてた目をしっかりと開く。
 そこで部屋の向かいの視線と目が会った。

「よ、カナちゃんは相変わらず寝起きが可愛い事」

 堂々と乙女の寝室で私の寝顔を観察してたらしいそいつに向かって、私は枕を全力で投げつけた。

「あぶないあぶない」

 そいつはヒラリと三本の尻尾を翻しながら、あっさりと枕を回避。無駄だと分かってるけど子憎たらしい。

「ラス、人の部屋に勝手に入るなって言ってるでしょ!」

 私が怒りつけた当人、というか当猫であるラスはその茶色の毛並みを自分の前足で撫で付けながら平然としている。

「先住である先輩に、その態度はヒデエんじゃねーの」

 見た目は普通の猫っぽいが、額の小さな魔力結晶と三本の尻尾、それに猫そのもの顔から平然と人の言葉が出てくる。こいつは使い魔として作られた人造生物なのだ。

「それとこれは別」

 確かに同じ職場で働く立場上、先輩後輩の関係ではある。が、オッサン同然の口調で言われると納得できない。

「とりあえず昨夜も何も無かったぜ。まぁ有ったらノンビリとカナの寝顔見物しないが」

 後半の言葉に私は殺気のこもった視線を、ラスに向ける。

「おお怖い。それじゃ朝飯出来るまで少し見回りしてくるわ」

 こちらの嫌味も聞かずに魔力で鍵のかけられた窓を一瞬で開錠して出て行こうとするが、その足が半分まで外に出た所で止まった。

「あいつなら寝顔見せていいのか?」
「な?!」

 顔の熱が一瞬で高まる。鼓動が大きくなるのが分かる。返答に窮する様子を見たのが嬉しいのか、ラスは意地の悪い笑みを浮かべて出て行った。

「馬鹿言ってるんじゃなーい!」

 私の絶叫は届いたのかどうか。


「まったく、毎度毎度」

 着慣れたメイド服に着替え終わった私は隣室へと向かう。着替えている間中、ラスに対する文句は途切れなかったが吹っ切って仕事を始めないと。
 隣室のドアの前へと立った私は、軽くノック。

「マナ、もう起きる時間よ」

 ドアの向こうへ声をかける。が、しばらく待っても返事が無い。念のためもう一回ノック。

「マナー、起きてないの?」

 またしても返答なし。溜息一つで決断。

「入るよ」

 一応、断りながら先ほどのラスよろしくドアを開錠しながら室内へと入っていく。
 部屋の主は想像とは違って既にメイド服へと着替え終わって立っていた。

「なんだ起きて・・って」

 よく見ると突っ立ったまま動いてない。どころかその私とよく似た顔の表情は幸せそうな表情で、口からは寝息が漏れている。オマケにそのエルフ耳は弛緩しきって肩に触れんがばかりに垂れ下がっていた。

「今朝はまた随分と器用に寝ぼけて」

 双子の姉妹である私とマナはコンビでメイドをやって随分と長い。いつの頃から先に起きるのが私で、マナをきちんと起こしてやるのが決まりになっていた。

「起―きーなーさーい。マナ。朝よ、仕事始めなさいと」

 マナの肩を掴んで揺さぶるが、反応なし。今朝は随分としぶとい。更に強く揺さぶって、やっとうっすらと目を開けた。

「うーん、ご主人様。今夜はカナちゃんOKだそうですよ」

 とんでもない寝言を言うマナに、私は無言で両耳の先端を強く掴む。

「痛い痛い痛いー!」

 流石にこれは強烈だったのか、一発で目が覚めて喚くマナの両耳をすぐに離してやる。

「カナちゃん、今日は起こし方キツイよー。本当に痛かったよー」

 目が覚めた割には少し間延びした口調。
 マナはこれで普通。少しノンビリで人当たりが柔らかい。
 少しキツイと自分でもわかってる私の性格とは反対に育ってしまった。
『二人足して半分に割れば良かったね』と言ったのは前々に使えたご主人様。
『二人ともカナちゃんと同じ性格でもう少しキツイ方が良かったね』といったのは前に使えたご主人様。前者は円満に勤め上げたが、後者は大変な事になった。
まぁそれは今は関係ない。

「馬鹿な寝言を言ってるからでしょ。目が覚めたなら早く仕事始める」

パンパンと手を叩いてマナを促して、私は率先して仕事へと向かう。

「ぶー、カナちゃんのツンデレー」

 また妙な本から仕入れた妙な造語を使ってる。意味はよく知らないが、たぶん知らなくて良いと思うので追求はしていない。


 石造りの廊下を簡単な掃除をしていく。今のこの職場は人は少ないが、むやみに広い。日付ごとに場所を分けて掃除しているが、元から汚れにくくなるような防護魔法がかかっているらしく、余り目立つ汚れが出来ないのが救い。
厨房からは朝食の準備をしているマナの鼻歌が聞こえている。調子が良いのか、調理に使っている精霊魔法が時折、廊下に漏れてくる。

「マナー、炎魔法だけは加減してね?」
「分かってるー」

 返事はいいがマナの単独調理の様子は精霊魔法のオンパレードとなる。風と水と炎が踊りまわる調理風景は、見世物にしても金が充分取れるだろう。
 当人にその気は無いそうだけど。

「カナー、お湯沸いたからご主人様にお茶お願い」

 その声と同時に、ティーセットを乗せた銀のお盆が石で作られたミニゴーレムの手で廊下へと運ばれてくる。
 こちらもちょうど掃除が一区切り付いた所だが・・・

「また私?今週の調理当番はマナじゃ・・」
「今、手が離せないー」

 この問答も何度も繰り返してるが、まったく答えは変わらない。
 何時の頃からか、調理当番に関わらずお茶の当番は私と決まっている。理由を聞くがマナは笑うばかりで答えてくれない。ラスは意地の悪い笑みで答えてくれない。何の策謀だか。
 ティーセットをゴーレムから受け取ると、ゴーレムは厨房へと戻っていく。ちょうど出来上がったらしい料理をマナから受け取るとそれを食堂のテーブルへと配膳し始めてい。
 ティーセットを手に大人しくご主人様の部屋へと向かった。


 4代ほど前の王宮筆頭魔術師が引退した後に隠遁生活をするために山奥に作ったこの石塔は、その大半を蔵書マニアだったその魔術師の書庫として使われているらしい。
 らしい、というのはその魔術師当人は既に亡くなっており、当時の使用人たちは書庫への出入りを禁じられていて内容を把握していなかったそうである。
 塔の主人であった魔術師無き後、遺品の整理の為に弟子が書庫に踏み込んだが、中に仕掛けられていた泥棒対策のトラップと防護魔法で大変な目にあい、それ以降は長い間『王宮管理』の名目の元で放置されていた。極度に重要な物は無い、とのその魔術師の言葉から無理して調査の必要なしと判断されたからだ。
 その塔に蔵書整理役として、今のご主人と私達がこの石塔に住み始めて早一年。
 石塔の下層5階までを居住用として整理しなおしたが、そこから上層に広がる書庫には元・王宮筆頭魔術師だった今のご主人様しか出入りできない。
 いや頑張れば私とマナの二人がかりで書庫の3階までは上がれるが、そこで挫折して以来近寄っていない。
 そして、そのご主人様は書庫の入り口のすぐ手前の部屋を自室としていた。
 その部屋の前、私はティーセットを片手に本日3度目のノック。

「失礼します。ご主人様」

 声をかけるが、先程と同じように返事が無い。
 もう一度ノックをしてみる。

「あ、開いてるよ」

 今度は直に返事が来た。既に起きているらしい。

「それでは入らせていただきます」

 断ってから、ドアを開ける。
 部屋の中に踏み込んだ途端に、書物の山が私を出迎えた。
 広いはずの部屋のアチコチに無造作に積み上げられた書物の山、足元にも転がるそれらを避けながら歩を進めていく。

「お早うございます。ご主人様」
「や、お早う」

 部屋の主はベッドの上に胡坐をかきながら、書物の一つを広げていた。
 元・王宮筆頭魔術師とは思えない、茫洋とした雰囲気。場所が場所なら古本を扱う店のカウンターに座っていそうな青年が今の私達のご主人様。
 無造作に伸びた髪で、その表情はいまいち読み取れない。

「朝から随分と熱心ですね」

 ベッド側のティーテーブルへと持ってきたティーセットを降ろしながら声をかける。

「昨日見つけた書物が面白くてね、まさかタマネギの芽にこんな魔力的要素があるとは」

 会話をしながらも、その手はページをめくっていく。その手にはインクの染みが付いていた。

「へー、そうですか」

 その手に気づいた私は心の中に込み上げてくる感情を抑えながら、ティーポットをテーブルに置く。
 そして空になった銀のお盆を右手に持ち帰ると、それを思い切りご主人様の頭へと振り下ろす。
 パカァン!と快音が響く。
 
「おぶっ!」

 書物を抱えたまま、叩かれた当人はベッドへと顔を埋める。

「何、何すんの?」

 すぐに復帰したご主人様は、顔を上げた視線の先に憤怒の表情を浮かべた私に気づいた。

「カ、カナさん。何で起こってるの?」

 どもってるから、既に心当たりはあるのだろう。だが、あえて指摘する。

「徹夜は厳禁だと言っておいたはずですが?」

 私の言葉に、ご主人様は視線をそらす。

「て、徹夜して無いよ。今朝たまたま早く起きただけで」

 なんと空々しい。

「その手のインクは数時間は連続で読み続けたようですが。おまけにそのベッドは昨日に片付けて綺麗にした筈なのに、なんで書物の山が出来てるんです?」

 私の追及にご主人様は更に顔を背ける。

「ほ、ほら寝る前に少しと思って引っ張っちゃう事ってあるよね」

 その言葉に私は二撃目のお盆をお見舞いした。

「俺、君達の雇用主なんだけどな」

 少し涙目になったご主人様に少し同情しそうになるが、ここは厳しくいかないと。

「ご主人様の健康管理は私達が国王から命じられた王命です。来たばかりの時に連続徹夜で倒れたの忘れたとは言わせませんよ」

 私の詰問に、ご主人様は乾いた笑いを浮かべる。

「ま、まぁたまにはそんな事も」
「たまに?これで何度目の説教だと思うんですか?」

 観念したのか、ご主人様は読んでた書物を脇に避けるとベッド上で正座。

「御免なさい、以後注意いたします」

 私に向かって深々と土下座する。
 まったく、どちらが立場が上なんだか分からなくなりそうになる。

「それでは手と顔を洗って・・・」

 そこまで言った所で、ご主人様の寝巻きに薄く埃が付いているのが気になった。
 部屋の中が古い書物だらけで気が付かなかったけど、注意して匂いをかいでみると洗濯したての物を用意した筈の寝巻きから埃と古紙とインクの匂いがしっかり染み付いていた。
 私は口より早く3撃目のお盆を振り下ろしていた。

「のふっ!」

 土下座していた頭を更にベッドに埋め込まれ、ご主人様は意味不明の悲鳴を上げる。

「寝巻きに着替えた後の書庫への出入りも禁止しましたよね。徹夜防止と汚した寝巻きと寝具の掃除・洗濯が大変なので」
「お、思い出しました。魔術染料で書かれた書物で寝巻きを駄目にした事も」

 土下座姿勢のまま、少し私から距離を取ろうと器用に後退を始めたご主人様の襟首をがっしりと掴む。

「反省しているなら、行動にうつしてください。とりあえず朝食前にお湯を沸かしますので埃を落としてください。それと今日はその寝巻きと寝具を洗いますので、よろしくお願いします」

 わざと抑揚無く告げる私の口調に、土下座したまま頷くご主人様。
 なんだか月に2〜3回はこんな事を繰り返している気がする。掴んでた襟首を引っ張りあげて、その顔を自分の前に起こす。

「ご、ゴメンね毎度毎度」

乾いた笑いを浮かべる、その額に4撃目の今度は軽く小突く程度のお盆を見舞う。
www5d.biglobe.ne.jp/public_html/obon.jpg 
「これが私の仕事ですので」

 襟首を掴んでいた手を、先ほど自分で叩いた場所へと動かすと予想通りのコブが出来ていた。

「万物の精霊よ、かの者に新なる加護を」

 私の唱えた呪文に応じて、周辺の精霊達が集まってきてコブを治療していく。

「少しの間、動かさないでくださいね」
「分かってるよ」

 手を離した後も、精霊たちが光の粒子となって飛び続けているのを確認して放置したままだったティーセットでお茶を炒れる。
 充分に蒸らしたお茶をカップに注ぐのと、治療が終わった精霊達が散っていくのは同時だった。

「それでは遅くなりましたが、朝のお茶をどうぞ」

 手渡されたカップのお茶を一口飲んでから、ご主人様はさっきまでコブのあった辺りをさすっている。

「わざわざ治すぐらいなら叩かなくても」
「言葉で分かっていただければ苦労しませんので」

 文句を一発で黙らせて私はティーセットを片付け始める。
 それを見ていたご主人様は、残りのお茶を一度に飲み干してカップを私に手渡してくる。

「ありがとうございます。それでは私はお風呂の準備をしてまいりますので、少々お待ちを」
「頼むよ。マナには少し悪い事するけど」
「朝食の準備ならばご心配なさらず結構です」
「それとカナ」
「はい?何でしょう」

 ご主人様は目を隠すかの用に伸ばしている前髪の隙間から、少しだけ困ったような、期待しているような表情で。

「この前のお願い。君の方はいつ聞いてもらえるのかな?」
「え?!」

 ドキン、と心臓が高鳴るのが分かる。困る、本当に困る。このタイミングで切り出されるとは思ってなかった質問だった。

「そ、それは二人きりの時という話で・・・」
「今ここは二入きりだけど?」
「建物の中にマナもラスも居ます!」

 割れながら無茶な物言いだ。でも。

「その考えだと、ずっと無理なんじゃない?」

 ご主人様の視線に少し失望の色が浮かぶ。さっきまで説教していた時には感じてなかった罪悪感が沸いてくる。
 べ、別に何か悪い事した訳ではないと分かってはいるんだけど。
 視線を素早く部屋の周囲に巡らす。
 室内にも窓際にもドアの側にも三本尻尾が見えてる様子は無し。
 耳に意識を集中させる。エルフ族特有の聴力が厨房から聞こえてくる鼻歌を聞き取る。
 周囲に他にギャラリーは居ない。そう確信。
 後は私の気持ち一つ。
 クルリと踵を返してドアへと向かう。

「あの・・・」

 ご主人様が声をかけてくるのを少しだけ無視して、ドアの直前でターン。
 落ち着け、大丈夫。何でもない事だ、と自分に言い聞かして。

「それでは失礼いたしました。・・リィオ様」

 それだけ言って、返事も聞かずにドアを閉めた。

「何で名前で呼ぶのに、そこまで遠慮するかね」

 ドアの向こうから、そんな呟きが聞こえる。
 当然、私は遠慮する。今はまだ主と従の関係で誤魔化している自分の感情から。

「約束は守りましたからね」

 小さな呟きと共に、ドアに軽く額を押し当てみる。そのドア一枚向こうに追いやった自分の感情を押し込むように。





感想、その他あればお願いします。


小説トップへ
INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.