BIO HAZRD
街消えゆく時………




第八章「真実」 後編


ウェンはノート型PCの画面を見たまま固まっていた。その画面にはあの赤いゴリラのような化け物が映っていた。

”ハンターβ”

それがその赤いゴリラのような化け物の名前のようだ。隣でそれを見たトオルが大声を上げていたが、ウェンはまだ冷静でいることが出来た。
先程新たに開いた項目は『B.O.W』、生物兵器の項目だ。そして一番初めに載っていたのがハンターβだった。
ロイの話を聞き、これを見た時からこのハンターβなるものが載っているのではと半ば予想していたのだ。そしてそれが現実となっただけだった。
だがそれだけならばウェンは固まらなかった。そのハンターβに関する情報文で見つけた言葉を見て固まったのだ。

”コードNo.MA−121ハンター(以後これをハンターαと称する)を更に遺伝子改造し、改良したものである(以後これをハンターβと称する)。ハンターβはハンターαに比べると攻撃力は多少衰えたものの、それと引き換えにハンターαより高い俊敏性を獲る事に成功した。その俊敏性は銃弾でさえ避けてしまうほどだ。またハンターαにも見られた現象だが、ハンターβも素材となった人間の肉体が身体能力に大きく影響しているようだ。特に……”

(素材となった人間!?)

ウェンはハンターβなるものは見た目からゴリラ辺りをベースとしているのではと考えていたが、その情報文から考えると人間をベースとしていると書かれているようだ。正直信じられなかったが、ウェンはロイの言葉を思い出した。

『遺伝子レベルでTーウィルスとの相性がよく、その遺伝子を持った者が見つかった場合はB.O.Wの素体にされる』

人間を人体実験に使っているとは思ってもいなかったウェンにとってはあまりにも衝撃的だった。
と、リックがノート型PCの向きを変えてシェイルにも見せた。その瞬間シェイルの表情が驚愕に染まったが、それも一瞬のことですぐに元の表情に戻った。そして血を採り終わったロイの腕から注射器の針を抜き取った。

「なるほどね。ロイさんがアレを知っていたのはこれを見たからなのね」
「そういうことだ」

針が刺さっていた所を軽く揉み解しながら袖を元に戻すロイ。シェイルは抜き取った血を小さな試験管のような容器に入れて何かの薬品を入れ、割れないように周りをタオルで包んでバッグの中に入れる。

「シェイルさんは随分と冷静っすね」
「こんな状況なんだから今更よ。今の私なら並大抵の事じゃ驚かないんじゃないかしら?ウェンもその内そうなるんじゃない?」
「まぁ、確かにそうかもしれないっすね」

シェイルに言われてそうかもしれないとも思ったが、ウェン自身は例えどんな小さなことでもシェイルみたく平然と出来ずにいちいち驚くだろうと思っていた。

「……俺達が相手にしていたのは元は人間だったってことか」
「そういうことだ。投入されている数は正確にはわからないが、あと最低でも3種が投入されている」

呟くような小さな声で発したハワードの言葉にロイが答え、ノート型PCのキーを操作した。すると画面が4分割で表示され、ハンターβ以外のB.O.W.が表示された。

”ハンターγ”

”タイラント 量産型”

”ネメシスーT型”

ハンターγは人間が素体ではなく造られる過程で人間の遺伝子を加えるという手段で造られていたが、その他の3体はいずれもが人間を素体として遺伝子改造にウィルスを加えたりして造られたものだというのが情報文として載っていた。

「このネメシスーT型っていうのは、あの時に見た黒服のことなんっすね」

ウェンはロイと会った時に見た黒服と、今画面にネメシスーT型と表示されている黒服は全てが同じものだった。
もしあの時ロイが暗闇に引っ張り込んでくれなければ自分は間違いなく死んでいただろう。そう思うと背中に冷たい汗が流れる。

「……ここに載っているのが元人間だとは信じられん。まさしく狂気が生み出したものだな」

冷静なハワードも多少は驚いていたが、今はしっかりと事実を受け止めていた。

「そうだな。こんな事を行っているアンブレラは許せない。俺の記者生命に賭けて必ずこの事を公表してやる」

先程までは何事にも冷静でいたリックもこの事実を知り、真実を公表するという記者魂が刺激されたらしい。
だがウェンはリックのこの言葉に若干の違和感を感じた。普段のリックなら違和感を感じなかっただろうが、今のリックの言葉は感情が篭っていない。予め用意されてたセリフを言うような感じなのだ。

「あのリック先ぱー」
「ロイ隊長、聞きたいことがある」

疑問に思ったウェンがリックに声を掛けようとすると、それより大きく強めの声でトオルがロイに言葉を掛けた。
リックに声を掛けられなかったウェンは、再度リックに声を掛けようとせずにトオルの言葉に耳を傾けるようにした。

「なんだ?」
「俺の経歴のことは知ってるんだよな?UBSCに入隊するキッカケを含めて」
「ああ、最低限自分の部下の者の経歴は知っている」
「なら、あの時現れた”ヤツら”は間違いなくアンブレラの仕業なんだな」
「……そうだ。アンブレラが意図的に行った事だ」
「くそっ!」

白くなるほど力強く握った拳を机に叩きつけるトオル。その拳の内側からは血が流れ出ていた。
そんなトオルの姿を見たウェンやシェイル、ハワードは戸惑いを感じていた。

「あの、ロイさん?」

問いかけるように言葉を発するウェン。
何を言わんとしているのか理解したロイは、少しだけトオルを見た後に話し始めた。

「約1ヶ月前に極秘ではあるが、日本の自衛隊がある無人島で実弾を使った訓練を行っていた。だが、ここである事件が発生した」
「ある事件?」
「その無人島が正体不明の化け物に奇襲され、訓練を行っていたほぼ全ての人間が惨殺された」
「そんな大事件が……」

極秘の演習や作戦等は多々あるが、まさか極秘で訓練をして更に参加した兵達のほとんどが惨殺されたとは大事件もいいところだ。

「でも、その話とトオルさんとどんな関係があるんっすか?」
「わからんか?トオルもその訓練に参加していたんだ。そして……」

ロイは言葉を区切ってトオルに視線を移す。それに釣られて全員の視線がトオルに集まる。トオルはその視線を受け、ロイの言葉を引き継ぐ。

「正体不明の化け物、いや、ハンターβってヤツと交戦して生き残った唯一の人物ってことだ」
「唯一ってことはトオルさん1人だけってことっすか?」
「……ああ。俺以外、皆死んじまったよ。リョウ、エイジ、マサキ、タカマサ、皆良い奴ばっかりだった。だから俺はアンブレラに助けられた時、死んでいった皆に誓ったんだ。こんな事態を引き起こした奴を見つけ出して仇を取ってやるって。なのに!」

トオルは握っていた拳から更に多くの血が流れ出るのも構わずに、更に力を込めて握り机に叩きつけ少量の血が辺りに飛び散った。

「なのに!俺はその仇のすぐ近くにいながら気づかなかった!それどころか奴らの手駒として動いていたなんて!くそっ!くそっ!くそっ!」
「ちょっ、ちょっとトオルさん!」

トオルはそのまま血が飛び散るのも構わずに拳を机に何度も何度も叩きつける。隣にいたウェンが止めようとしたが、勢いに押されて声を掛けるだけで見ていることしか出来なかった。他のメンバーもウェンと同じくただ見ているだけしか出来なかった。
ただ1人だけ、そんなトオルに近づいて叩きつけていた拳を振り上げたところで止めた者がいた。

「ロイ隊長……」
「落ち着けトオル。その怒りはアンブレラにぶつけるまで取っておけ。それに利用されていたのは何もお前だけじゃない。UBCSに所属していたほとんどがそうだ」
「俺以外の、奴等も?」

トオルは視線をロイに向け、振り上げていた拳から力を抜いた。ロイはそれを確認すると掴んでいたトオルの拳を離した。

「ああ。お前はアンブレラによって偽の情報を伝えられていたからよく知らんだろうが、UBCSの隊員のほとんどは戦争犯罪人や亡命軍人、もしくは死刑・無期懲役を宣告された軍隊経験者で占められている。そういった連中は刑を免除してもらう変わりに入隊している」

ロイはゆっくりと部屋にある唯一の窓に近づき、外を眺めながら話を続ける。

「もっともトオルのように特殊な事情がある者や、グレンのように元SWAT隊員だった者だっている。中には家族や仲間を人質にされて入隊した者さえいるのだからな」
「人質まで取ってまで入隊させるなんて酷すぎるっす……」
「それが奴等のやり方だ。前者の理由で入隊した者は正しい情報を、後者の理由で入隊した者はトオルのように偽の情報を与えられる。そしてUBCSに集められた人員はT―ウィルスによって災害が起きた場所に真っ先に派遣され、要人・民間人の保護を行う。表向きはな」
「表向きねぇ。じゃあ、当然裏があるわね。とびっきり黒い思惑の」

ここでシェイルが質問を挟む。人体実験などをやる非道な会社が、ただの慈善で動く事はないと思っての質問だった。

「ああ。UBCSの正式名称は“Umbrella Biohazard Countermeasures Service(アンブレラ・バイオハザード対策部隊)”となっているが、実際にはT−ウィルスによって発生するゾンビという存在やB.O.Wとの戦闘データを収集するためのモルモット部隊だ。ちなみにそして、この部分だけは一部の隊員を除いて一切知らされてない」
「……元が犯罪者だから死んでも一行に構わない捨て駒か」
「犯罪者だって同じ人間じゃないっすか!それを物か何かのように扱うなんて…」
「さっきも言ったが、それが奴等のやり方だ」

暗く重たい雰囲気が更に深まる。そして窓の外もその雰囲気に合わせるかのように、曇って暗かった空が更に暗くなり始めていた。壁際にある年代物の柱時計では、時刻は既に日没の時間を示している。

「今日はもう出歩くのは危険だな。移動は夜が明けてからだ。その間に休憩と今後の方針を決めておきたい」
「今後の方針って言っても、この街から脱出する事以外にないでしょ?」
「何か他にやることがあるのか?」

何を今更と言った感じでシェイルが眉を顰め、リックがロイに理由を尋ねる。

「今後の方針と言っても、街から脱出した後の事だ。お前達、脱出した後はどうするんだ?」
「どうするも何も、この街で起った事を公表するに決まってるじゃないか。ていうか、さっき俺はそう言ったぞ」
「………。ああ、確かそんな事を言っていたな」
「忘れないでくれよ」
「リ、リック先輩!自分は覚えてたから大丈夫っす!」

ロイは数秒の時間を掛けてリックの言葉を思い出し、リックは自分の決意が忘れられていたのに少しばかりのショックを受けていた。
ウェンはそんなリックの姿を見て慌ててフォローを入れ、それを見たハワードとトオルは苦笑を漏らし、シェイルは軽く呆れ、暗かったその場の雰囲気が少しばかり緩む。
だが次のロイの言葉で緩み始めた暗い雰囲気は、一瞬で緊張した雰囲気に変わった。

「率直に言おうリック。そんな事をしても無駄だ」
「何だと?」

全員がその言葉に硬直する。
その硬直はロイの言葉にでもあるが、それ以上にリックの意外な程の冷たい声を発したからでもあった。
リックの表情は仮面を付けているかのように無表情になり、その目は冷たい光を宿していた。
だがロイはリックの変化に少しも動じずに言葉を続ける。

「アンブレラの影響力は思いのほか強い。少なくとも各国政府の上層部と繋がりがある。仮にお前がそれを公表したところで、すぐにもみ消されてしまう。それどころか、公表したお前はすぐに消されてしまう。いや、公表前に消されるかもしれんな」
「そんなの、やってみなくてはわからないだろう」
「いや、無駄だ。記者とはいえ、一般人のお前ではな」

リックとロイはそのまま睨み合い、他のメンバーは黙って成り行きを見守っていた。
緊迫した空気が漂う中、ふとウェンが何かに気が付いたように呟いた。

「あれ?一般人が無理なら、一般人でなければ可能って事っすか?」
「あん?どういう事だ?」

小さな呟きだったが隣にいたトオルには聞こえたらしく、トオルがウェンに視線を向ける。それに釣られてか全員の視線がウェン1人に集まる。
ウェンは突然全員の視線が自分に向けられたことに驚き、オドオドしながら思った事を口にした。

「え、えっと、あの、その、い、一般人では駄目なんっすよね?だ、だったら一般人じゃなくなればいいんじゃないかなって思ったんっすよ」
「一般人じゃなくなるって、例えば何よ?」

ウェンの言葉にシェイルが怪訝な顔になって聞く。単に一般人じゃなくなると言ってもそう簡単なことではなく、また一般人ではないカテゴリは沢山あるのだ。

「そうっすねぇ、政治家とか軍人っすかね?」
「馬鹿。政治家や軍人にそう簡単になれる訳ないじゃない。そもそもなったところで、さっきロイさんが言ってたようにすぐにもみ消されちゃうわよ」
「そっ、それもそうっすね。でも、そうなると一体どうしたら?」

それ以外の事は思いつかなかったウェンは頭を悩ませる。またロイ以外のメンバーもどうすればいいのか、それぞれが思考していく。だが、まったく考えが浮かばずに時間だけが過ぎていく。

「そうだ、反抗組織」

そんな中、シェイルがポツリとそんな言葉を漏らしながら立ち上がり、何かを呟きながら室内を歩き始める。

「アンブレラはそれなりに古い会社だわ。もし、設立された当初から人体実験をやっていたら?それを知った人達が居たら?そもそも、何故ロイさんは危険を犯してまでアンブレラの機密データを奪ってきたの?公開する事が出来ないんじゃ意味がない。なら、それを公開する手段があるはず。あり得ない話じゃないわね」

1人考えに没頭していたシェイルだが、考えがまとまったのか大きく頷くとロイの前まで歩いていき、ロイの瞳を真っ直ぐに見ながら自身の考えを言葉にしていく。

「ロイさん、あなたはこう言ったわよね?リックさんがラクーンシティで起った事を公表するのは無理だと。でも、あなたはアンブレラの機密データを持ち出してきた。公表する事が無理だと言っていたにも関わらずに。それは何故かしら?まさか、そのデータを使って強請ってお金を取ろうって訳でもないでしょ?」
「………」

シェイルの言葉にロイはただその瞳を見つめ返すだけで何も喋ろうとはしない。ただ、その瞳はシェイルに話の続きを促しているように見えた。
シェイル自身もロイの返事を聞こうとは思っていなかったようで、そのまま話を続けていく。

「ここで重要なのは、いくらアンブレラの機密データがあっても事実を公表出来ない事。何故なら、アンブレラがその全てを簡単に揉み消せる位に国の中枢にパイプを持っているから。そうなると正規の手続きを踏んだものは全て駄目。なら、残された手段は正規の手続きを踏まない方法だけ」
「……ゲリラ放送の類ってことか」
「あっ!」

シェイルの言葉をハワードが引き継ぐ形で発言し、その方法なら可能だとウェンも声を上げる。
正規の手続きを踏まず突発的に行えば、いくら権力を持っていようが防ぎようがないのだ。

「無論、それを個人でやるには限界があるわ。けど、それが組織ぐるみなら?その組織がそれを行うのに適していれば、なおいいわね。そしてロイさんは危険を犯してまでデータを持ってきた。ならそういった組織があり、且つロイさんが信じるに足る組織って判断した訳だわ。違うかしら?」
「キミはすごいな。僅かな情報だけでそこまで推理してしまうとは」

ロイはそう言いながら左手に付けていたプロテクター付グローブを外し、その手の甲に描かれているものを見せた。そこにはアンブレラの象徴である傘をモチーフにしたマークと、それを突き破るように無数の線のようなものが描かれていた。

「この刺青はな、反アンブレラ組織“アイアン・レイン”のマークだ。この組織は主に情報関係に力を入れていてな、かなり昔から反アンブレラ活動をしている。結構デカイ組織でな、人員や装備も充実している」
「アイアン・レイン…」
「鉄の雨か。なるほど、反組織には相応しい名前ね。それで、私達をその組織に勧誘しようって訳?」
「そうだ。もっとも私自身が最近組織と接触して入ったばかりだから、あくまでも組織上部への紹介という形で、入れるかはお前達次第だ。無論、無理に入れようとも思ってはいない。その判断は任せる」

グローブを付け直しながら一人一人の表情を見ていくロイ。表情は様々だが、その瞳は皆決意に溢れていた。

「どうやら全員参加でいいんだな?一応確認しておくが、組織に入ったらもう後戻りは出来ないぞ?」
「聞くまでもないと思うけどね。勿論、私は参加させてもらうわ」
「そうだぜ隊長!アンブレラをぶっ潰せるなら俺は何だってやってやるぜ!」
「自分もっす!自分もあの人達を許すことは出来ないっす!だから参加するっす!」

シェイル、トオル、ウェンがロイの問いに決意を声に出す。ハワードも声には出していないが、賛成しているのが表情からわかる。

「わかった。なら、この街を脱出する際に合わせてもらうように頼んでみよう」
「脱出する時にっすか?」
「ああ。ここから脱出する際にアイアン・レインのメンバーと合流する手筈になっている」
「場所は何処なの?」
「このまま南に進んだ先にある郊外だ」

ロイは地図を広げて南側の一画を指差す。
その区画は開発区画となっており、街の拡大の為の新しい住宅街やショッピングモールが建てられる予定の場所になっている。

「確かに、ここからなら脱出しやすいわね。ちょっと距離があって危険だけど」
「へっ、安心しろ!俺らがきっちり守ってやんよ!」
「そういうことだ。さて、大体の事は決まった。夜明けに出発するとして、今のうちに食事と睡眠を取っておこう」

その一声で一行はこの日はほぼ何も口にしてないのを思い出し、調達してきた食料を食べることにした。
調達してきた長期保存食を、ウェンは水で半ば流し込むようにして食べ始める。隣を見てみるとシェイルが同じように食料を食べているはずだが、口を付けた様子がみられなかった。
こんな状況では食欲旺盛とはいかないだろうが、まったく食べないのも今後の行動に支障がある。心配になったウェンは声を掛けてみることにした。

「食欲がないんっすか、シェイルさん?一応、無理にでも食べておいたほうがいいっすよ」
「……食欲が無い訳じゃないわ。ただ、ちょっと考え事を、ね」

そう言うとゆっくりではあるものの、食料を食べ始めるシェイル。
急に元気がなくなったシェイルを気にしつつも、ウェンも残りの食料を食べ始めた。


全員が食事を終え一息ついたところで、その日は休むこととなった。
部屋に通ずる廊下の途中に椅子等でバリケードを構築し、念の為にロイ、トオル、ハワードが見張りを行うことになり、部屋ではウェン、シェイルがソファを使って休み、リックはウェン側の床に寝ることにした。



9月29日
何事もなく翌朝を迎えた一行は、朝食を摂って出発の準備を整えていた。

「各自、準備はいいか?」
「こっちはオッケーだぜ隊長」
「こちらも問題ない」

ロイの問いに即座にトオルとハワードが答え、ウェンとリックは言葉に出さず頷くことによって答える。
が、唯一シェイルだけが何の反応もしなかった。

「どうしたシェイル。何か問題があるか?」
「……問題というわけじゃないのだけれど、ダンの遺体の所に行かせて欲しいの」
「ダンの?」
「ええ、彼の持っていた医療品を念の為に回収しておきたいの。この先何があるか分からないから、多いに超したことはないわ」

ロイにもう一度問われ、ようやく反応したシェイルはダンの遺体の所に行くことを提案してきた。

「そういえば隊長、ダンの持っていた装備を回収していないから調度いいんじゃないか?」
「確かにな。では行こう」

一向は出発前にダンの遺体の所に行くことにし、ロイを先頭に次々と部屋を出て行くメンバー。

「それに確かめたい事もあるしね。思い過ごしであってほしいけど……」

そして、最後に部屋を出たシェイルの悲しい響きの呟きに気付くものはいなかった。





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