余章


余章




 首都消滅から三年後――――
 新たなる首都大阪で発足された新内閣の懸命の努力と世界各国からの様々な面での援助のおかげで日本の機能は以前にも増して円満に機能していた。
 もちろん援助した国々の中にはアメリカの名前は無い……
 少し肌寒い中、巨大な慰霊碑の前にはたくさんの若者が集い、思い思いに友人達と会話をしている。
 あの事件に巻き込まれ故郷を失った新成人達がこの場所で成人を向かえ新たなる日本を作り出すための原動力となるべく成人式が開かれるのだ。
 近代的なスーツやカジュアルな服装で洒落込んだ若者達の中へと古風な紋付袴を着込んだ清廉な顔つきの若者が歩み寄る。
 腰には刀が収めてある。
 若者達は変なコスプレ野郎が来たと騒ぎ立てるが周りに居た警備員が彼を咎める様子は無い。
 少年は慰霊碑の前へと立つと、胸に十字架を描き黙祷をささげる。
 その遥か後方で黒塗りの高級外車が停車し、中からスーツを着込み、メガネをかけた青年が降りてくる。
 共に降りた執事から荷物を受け取ると青年はゆっくりと若者の群れへと近付いていく。
 その顔立ちはとても中性的で女性ならば誰もが虜になるような雰囲気を出していた。
 そしてそれを見つけた女性達は当然のごとく眼を奪われ、数人は駆け寄り声をかける。
 しかし、青年は軽く会釈をしながら誘いを断り黙祷を捧げている若者の隣に立つ。

「あれからもう三年も経つんだね……」

 青年に語りかけられた若者はゆっくりと眼を開け、抱えていた花束を慰霊碑に捧げながら口を開く。

「そうだな、三年……俺達も成人か」

 ゆっくりと顔を上げ青年の顔を見た若者は腹を抱えて笑いだす。

「なんだそのメガネは!似合ってねぇぞ貴史!」
「翔平こそそんな古臭い格好してるくせに!」

 松永言うと細井が負けじと松永にいいながら笑い出す。
 自然と回りの若者達も一歩引き、その光景を眺めている。
 その時、上空から冷たい突風が吹きつける。
 二人が見上げるとそこには一機のヘリがホバリングしていた。
 内部からロープが垂れ下がり、軍服を来た若い男がロープを使い慰霊碑の前へと舞い降りる。
 男を下ろしたヘリは素早くその場から離れていった……
 男は慰霊碑の前へと立ち自分の父親の名前を見つけると帽子を取り、右手を構えながら敬礼し口を開く。

「どうだ?俺も成長したもんだろ今じゃ立派な隊長だぜ」

 それを見た二人は駆け寄り声をかける。

「布施ぇ!未だに丸刈りかぁ!」
「右腕の調子はどう?」
「うるせぇよ、お前こそ着物なんか着てよ、調子はいいぜこの通り」

 布施は松永に皮肉を言うと細井に右腕を振ってみせる。

「これは着物じゃなくて袴だよ」
「うるせぇ!」

 布施が松永に右ストレートを放つが、松永はバックステップ、それをかわす――――
 はずだったが、布施の右腕が急に射程を伸ばし松永の額にでこぴんを放つ。
 松永はそんなインチキはないだろうと呟き笑いだす。
 それにつられ二人も笑いだす。
 そして三人でそれぞれの近況報告を始めた。
 松永はあの後母親の下で一年間みっちりと特訓を受け、《S.T.A.R.S.》に入隊しここ二年間はディックと共に任務を完遂していた。
 ディックは急な任務のためにこの場にはこれないがルナと共に三人を祝っているらしい。
 細井は両親と共に政府に援助を受け研究所を設立、ワクチンを開発。
 抜け目も無くそれで金儲けをし一躍御曹司になっていた。
 布施は自衛隊に入る為に自らを鍛えようとしていた所を《S.T.A.R.S.》からの推薦と国の計らいですぐに自衛隊へと入隊。
 バイオハザード対策部隊を設立させ、自身が隊長に就任し隔離された東京や石川への調査任務などをずっと行っており、久しぶりの休暇を使って成人式に来たそうだ。

「これからお偉いさんの有難い話を延々と聞かされるのか」
「仕方ないじゃん」
「じゃあ景気づけに一杯やりますか?」

 布施が愚痴をこぼし細井がなだめると松永が何処からか一升瓶を取り出し二人に尋ねる。
 布施は大喜びで杯を松永から受け取り、細井はワイン以外は飲めないんだよねと呟きながらも杯を受けとる。
 松永も杯を持ちゆっくりと酒を注ぎ、余った酒は全て慰霊碑に捧げ杯を高らかと天にかざす。
 それに続いて布施と細井が杯を天にかざす。

「それでは貴史お坊ちゃま乾杯の音頭を」
「翔平、からかわないでよ、それじゃあ、俺達の出会いに」
「友情に……」
「そして未来に」
「「乾杯!!」」

 松永が細井をからかいながら言い、細井が照れながら言うと布施が続けて言い松永が一言付け加えると、最後は三人声を揃えて言うと、一気に酒を飲み干した…………



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