オーガゲート・キーパーズ

CASE4 SHOOTING



π Whereabouts of the FIGHT



「はあっ!」

 裂帛の気合と共に放たれた居合いが、結界の表面を大きくえぐる。
 だが、結界の表面に無数のブロックが現れると、瞬く間に破損した部分が修復されていった。

「これでもダメか………」
「敬一君!」

 日本刀を手に息を荒げている若い男性が、スレイプニルで近寄ってきながら声をかけたマリーの方に振り向いた。

「マリーさん!」

 その男性、御神渡 敬一が顔に僅かに喜色を浮かべ、再度刀を鞘へと納めた。

「今まで見た事ない形式っす。やけに頑丈な癖に、複層構造で斬った所がすぐ再生する………どんな奴だ、これ張ったの」
「後よ、二人で破るわよ」
「了解!」

 マリーはスレイプニルに乗ったまま、周囲の精霊達に心で語りかける。

(風よ……)

 それに応じ、風が集い、やがて彼女の周囲に旋風が吹き荒れていく。

「今よ!」
「すぅ………はあっ!」

 呼吸を整えた敬一の腰間から、再度居合いが抜き放たれる。

(早い!)

 スレイプニルの副座からそれを見た綾が、敬一の斬撃速度を見て驚く。

「行って!」

 同時に、敬一の居合いが切り裂いた場所へと向かってマリーが旋風を解き放つ。
 唸りを上げて迫る旋風が、結界の切断面を穿ち、広げていく。

「おし、これなら!」
「!?」

 しかし、周囲から別種の結界が派生し、破られる寸前の結界を新たに形成し直していった。

「属性が変わった!?」
「な………どんなイカサマして!?」
「待って……これは」

 マリーは心を沈め、周囲の精神を探っていく。
 人、動物、植物、そして精霊達の数多の心が己に流れ込んでくる中、範囲を大きく広げた所で結界を囲むようにいる者達の存在を捕らえた。

「複合結界! これ、ベースの結界に複数の術を重ねてる!」
「いい!? また手間の掛かるのを……」
「それだけじゃないわ。何人かの能力者が周
囲を囲んでる………」
「いや、それはオレも気付いてんスけど………なんか手出しても来ないし」
「恐らく交戦許可が下りてないのだろう。かなり統率の取れた組織のようだ」

 横から聞こえてきた声に、敬一がスレイプニルの副座にいる綾の方を見た。

「えと、誰ですか?」
「捜査十課専属調査官の剣 綾さん。聞いてるでしょ?」
「ああ、あの……」
「詳しい紹介は後だ。私は魔術に詳しくないが、ベースの上に重ねていると言ったな? それなら、内側からも攻撃してみるのはどうだろうか?」
「それなら破れるかもしれないけど、中はどうやらまだ戦闘中みたい。攻撃は無理かと………」
「いや、中にこちらの捜査官もいるはずだ。特殊装備による攻撃なら効果はあるだろう。先程のテレパシーで、その事を伝えられるか?」
「出来るとは思うけど………その装備にそれだけの威力があるんですか?」
「いや、向こうとこっち、同時に攻撃するってのは?」

 敬一の提案に、綾とマリーが互いの顔を見合わせて悩みこむ。

「場所まで正確に伝えられるかどうか……」
「いや、その点は心配無い。だが、タイミングがあうかどうかの問題がある」
「そっちも問題ないと思うけど……やれる?」
「了解!」

 敬一が力強く答えると、刃を上に、峰を下にする変形の刺突構えを取る。

「それじゃあ手を。あなたの思考を直接送ります」
「……通信装備がいらないな」
「感度上げると混線しますけど」

 苦笑しつつ、マリーが綾の手を取る。
 そして、自分の精神をゆっくりと結界の中へと潜り込ませていった。



「? なんだ?」
「どうかし…うわぁ!」

 尚継が何かを感じて横を向き、敦も釣られてそちらを向こうとするが、上から降ってきたビルの破片に思わず身をすくめる。

「誰かが、こっちを探ってる?」

 何かを感じた尚継が、そちらの方に視線を向ける。
 すると、脳内にいきなり声が響いてきた。

『三浦 尚継さんに白木 敦さんですね?』
「な、何だこりゃ………」
「テレパシー……って奴ですかね………」
『聞こえているなら、説明は後だ』
「って綾さん!?」
『本事件を特異危険物及び特殊能力者関与事件として認定、以後本事件解決まで特殊装備の全面使用を許可する』
「許可っつてもな………オレらには手出し出来るレベル超えてんだが」
『いや、この結界を破壊するのに、内部からの攻撃が必要だそうだ。こちらの位置が分かるか?』
「……大体な」

 尚継は懐から由奈に渡されていた御札を取り出し、なんとなく声が響いてくる方を見た。

『なるほど、あの人も能力者。それなら、なんとかなるかも』
「そんな大した物じゃないさ。オレのはただのカンだ。じゃあ、行くぞ」

 尚継は手にしたネオ・ナンブの弾丸を廃夾、伍式家謹製の特殊弾丸を装填し、御札を空中にかざすとそこに銃口を向ける。
 そして意識を研ぎ澄ませ、《カン》の示す通りの場所を狙うと、トリガーを引いた。
 放たれた特殊弾丸は御札を貫くと光をまとい、その姿を光で構成された剣へと変貌させて突き進み、結界へと深く穿たれた。


「はああぁ!」

 結界の外側、内側からの攻撃が僅かに染みのように浮かび出た一点に向けて敬一は己の刀を全力で突き刺す。

「あああぁぁ!」

 そのまま、真下から峰へと拳を叩き込み、刃を押し上げて結界を一気に斬り裂いていく。
 内外からの攻撃に、結界に生じた破砕点は敬一の斬撃をそのまま延長していくがのように伸びていき、そして限界に達した結界その物が陶器がごとく微塵に粉砕した。


(! 私の結界の上からウォリアー達が強化した結界を破ったか………)

 空と交戦中だったイーシャが一番最初に異変に気付くと、即座に全てのサーチシステムを稼動。
 変化していく現状を全て把握しようと自分のサーチ能力から上空衛星からのデータ、更には周辺の警備システムなどに次々とハッキングしてありとあらゆるデータを収集していく。

(新たに三名、内能力者と思わしき者、二名。一人は現状での個人オーラ量測定値の最大値。もう一名も準セイント級。どれだけの人材を投入してきた?)
「勅!」
「CALL」

 データ解析のためにイーシャの動きが鈍った隙を逃さず、空が無数の呪符を投じてくるが、イーシャは即座に防御用のマーティーを繰り出してそれを阻む。

『イーシャさん! 敵が!』
「分かっている。パターンE―7、順次遅滞戦闘を行いつつ撤退せよ」

 結界を強化していたウォリアー達に指示を出しながら、イーシャも撤退の隙を作るべく、キーボードをタイプした。


「よっしゃあ!」
「突入するわ…」

 結界の消滅を確認した敬一が喝采を上げる中、マリーがユニコーンで突入しようとするが、そこに突然突風と炎が襲い掛かる。

「なんだ!?」

 いきなりの事に綾が座席にしゃがみこんで攻撃をかわそうとするが、直撃を食らったはずのマリーは、なぜか平然としていた。

「どうやら、邪魔したいようね……」

 突風と炎が晴れると、そこには傷一つついてないマリーが攻撃が飛んできた方向を見ていた。

「ちっ、そういう事か!」

 敬一も背後を振り返って刀を構える中、建物の影からグレーのボディスーツにタクティカルベストを羽織った戦闘装束の男女が姿を現していく。

「手を出してこなかったのは合流さえさせなければいいという訳か。だが今のは明確な敵対及び殺傷行為だな」
「でも、突風はともかく火の方は確実に頭狙ってたけどね」
「なんで無傷だてめえ!」

 姿を現した者達の中、短髪の若い男性がマリーを睨み付ける。
 そこに篭るあからさまな殺気に、マリーは顔をしかめた。

「ここは私一人でいいから、あっちの方に行って」
「しかし……」
「この人達なら、私が相手するのが一番だと思うから。それより現物の保守が最優先よ」
「……分かったっス」

 マリーがユニコーンから降り、代わりに敬一が乗り込んでユニコーンは即座に走り出す。

「一人とはなめやがって………」
「好都合よ。幾ら相手がセイント級でも、一斉に攻撃すれば!」
「行くぞ!」

 掛け声と同時に、短髪の若い男性が虚空を睨むとそこから業火が噴出し、長髪の女性が手を前に突き出すと突風が刃となって吹き荒れていく。
 背後にいた男性が地面に手をつくとそこから地面が津波のように破砕しながら迫り、ショートの女性の周囲に水球が出現したかと思うと、小型の濁流となって襲い掛かる。

「やっぱり、全員精霊使いね。だとしたら、相手が悪かったというべきか………」

 自然現象を操作する能力者達の一斉攻撃を前に、マリーは何もせずに苦笑を浮かべただけだった。
 風火水土がマリーへと直撃したかと思われた時、とつぜんそれらが放った精霊使い達の操作を外れ、マリーの前で停止する。

「なんだ!?」
「この!」

 他の者がたじろぐ中、火使いの男が次々と炎を放つ。
 だがどれもがマリーの前で停止し、まったく当たらない。

「止めろダイス!」
「何の能力だ!?」
「簡単、私もあなた達と同じ精霊使いよ」

 マリーがにこやかに微笑むと、周囲に停止していた風火水土が、マリーの周囲を舞うがごとく旋回していく。

「ただ、あなた達と扱える精霊の総量が違うだけ」
「ウソ!?」
「四元全てを従える精霊使いなんて………」
「ひるむな! 合わせろ!」

 土使いの男性がたじろぐ他の者達を一括すると、先ほどよりも更に大量の土砂を地面から巻き起こし、マリーへと繰り出す。

「悪いけど、全然ダメね」

 迫る土砂、そこに宿る土の精霊をいとも簡単に己の指示で大人しくさせ、地面へと戻したマリーだったが、そこに水と風の混合した小型の暴風雨が迫ってくる。

「決まった!」

 確実に直撃したのを見た水使いの女性が声を上げるが、程なくして異常に気付いた。
 制御を離しても暴風雨が消えず、しかも直撃したはずのマリーが微動だにもしていない。
 どころか、暴風雨がどんどん大きくなっていく事にようやく精霊使い達が気付いた。

「センスは悪くないわ。だけど、本当に相手が悪かったわ」

 マリーが平然とした口調でそう言う中も、暴風雨はどんどん大きくなっていき、やがてそれは濁流と竜巻を合わせたような巨大な渦へと変貌してマリーの周囲に渦巻いていく。

「どんなイカサマ!?」
「これじゃあ本物の天変地異よ!」
「いかん、まるで相手にならん!」

 マリーの圧倒的過ぎる力に、精霊使い達が吹き飛ばされそうになりながら愕然とする。
 そこでマリーが渦の中で指を一つ鳴らすと、ほんの数秒を持って渦は掻き消える。
 後には、まるで台風一過のような晴天が広がっていた。

「分かったら、退いてくれるかしら? 互いに無駄な被害は出したくないでしょう?」
「あ、あはははは………」
「やっぱセイントを誰か連れてこないとダメ!」
「ぬう………」

 乾いた笑いを浮かべる者、呆然としている者、顔をしかめて唸りを上げる者達の中、一人だけ違う反応をした者がいた。

「ふざけるなよ、このアマ………」

 憤怒の表情を浮かべた男が、その足先に炎をともすと、まるで小型のジェットエンジンでもつけたかのような勢いで滑走を始める。

「止せダイス!」
「無茶はするなって言われてるでしょ!」

 ダイスと呼ばれた火使いが、怨嗟を呟きながら仲間の制止を振り切り、マリーへと高速で迫る。

「臓物から焼いてやる! 死ねぇ!」
「止めろ!!」

 制止か警告か、かけられる声を無視してダイスはマリーの肩を掴み、己の力を直接マリーへと叩き付けた。
 しかし、マリーの顔には苦悶は全く無く、逆に憐憫の表情が浮かんでいた。
 直後、吹き出した炎が、他ならぬダイスの体を焼いた。

「ギ、ギャアアアアアアァ!」
「いけない!」

 互いの力の総量の桁が違うのが、期せずして力をそのまま反射した事に繋がったマリーが、慌ててダイスの火を消していく。

「くそ、どうしてだ……」
「……そんな歪んだ心で火の精霊を使えば、自分を焼くのは当たり前よ」

 自分に向けられる憎悪と殺気の入り混じった視線を受けながらも、マリーはダイスに手をかざし、体内の精霊力を活性化させて火傷を治癒させていく。

「止めろ!」

 だがダイスはその手を振り払い、マリーを睨みつけると、その体が一瞬炎に包まれたかと思うとその場から消え失せる。

「あの馬鹿………」
「早く帰って彼の手当てをしてあげて。それと、これ以上前線に出さない方いいわね。あのままだと、自分の炎に焼かれるわよ」
「あの、すいません……」

 最早完全に戦闘意欲を失った精霊使い達が、ダイスの悪態をつきながらマリーを頭を下げてその場を立ち去っていく。

「さて、あっちはどうなったかしら……」

 何もせずにそれを見送ったマリーだったが、気を取り直して空達の方へと向かった。



「我、八門の法を持ちて閉門にて汝を閉ざす! 急々如律令!」
「CALL《VARIANT》」

 空が呪符を投じて結界内にイーシャを閉じ込めようとするが、イーシャは無数の棘が生えたアメーバのような奇妙なマーティーを召喚、それを足にまとわりつかせ、足を一閃。
 完全に結界が完成する前に呪符ごと結界を破壊していく。

(一体どれだけの対抗術式を持っている? 残った呪符で対処出来るか?)
(やはり発動が桁違いに早い。使えるマーティーも残り僅かか……)

 互いに顔には全く出さないまま、手持ちが少なくなってきている事に僅かな焦りを覚えていた。
 その両者の間を、一枚の羽が落ちてくる。
 よく見ればその羽には呪符と同じ呪式が描かれており、それが落ちてきた先では、ダイダロスがマーティーとの壮絶な空中戦に終止符を打とうとしていた。

「グレムリンタイプ相手に荷物を持ってここまで戦うとは。いいファミリアを飼っているな」
「………」

 羽に仕込まれた呪符と、トランクを放した僅かな隙の攻撃でマーティーをほふっていくダイダロスに素直に感心したイーシャだったが、空は無言のまま呪符をかざす。
 その状態のまま、しばし両者がにらみ合うが、そこに突然割り込みが入ってきた。

「オン アビラウンケン! 招鬼顕現!」

 敬一の呪文と共に、無数の鳥がイーシャに襲い掛かる。

「式神! 陰陽師か!」

 襲い掛かる式神を、イーシャはVARIANTをまとわせたままの足を振り回し、破壊していく。
 だがその隙を逃さず、空が正面から突っ込んできた。
 そちらへと向け、イーシャは間合いが詰まるよりも早く蹴りを繰り出す。

「REMOVE」

 蹴り足が振りぬかれる半ばで、イーシャが呟きながらエンターキーをタイプ。
 すると足にまとわりついていたVARIANTがはがれ、そのままの勢いで空へと襲い掛かる。
 避ける間も無く、VARIANTが直撃した空だったが、命中した次の瞬間にはそこに一枚の呪符を残してその姿が掻き消える。

(フェイク! どこだ!?)

 いっぱい食わされた事を気に病む暇も無く、イーシャは奇襲を警戒して全方位を捜索する。

(反応が、無い? 隠行型の術式でもここまで完全には……!?)

 空の反応が全く無い事に、イーシャが直感的に短縮キーを叩いた。
 OIUユニットからこぼれ出た、体色を絶えず変化させ続ける発光体がイーシャの体を結界に包み込む。
 その結界に阻まれ、背後からイーシャに突き立てられようとした双縄鏢の刃が、中ごろで強引に停止させられた。
 完全に直感とでも言うべき反応が正しかった事をイーシャは認識しつつ、背中を冷たい汗が流れ出すのを感じていた。

(サーチに全く反応は無かった! 気配どころか、生体反応まで極限に抑え、完全に己の存在を秘匿する……これはまるでアサシンの闘い、いや殺し方だ………)

 結界の向こうにすでに空の姿は無く、半ばから折れた双縄?だけがその場に転がる。
 位置的に見て急所は外してあったらしいが、もしこれが本気だったら、そして自分の反応が一瞬遅れていたら。

「お前、本当に何者だ?」

 イーシャの問いに、空が虚空から揺らぐように姿を現す。
 そして無言のまま、呪符を構えた。

(いい反応をしている。防がれたのは師匠以来か)

 確実に相手を行動不能にするつもりの攻撃が防がれた事に、空は素直に感心していた。

(どうする……殺さない程度で決着をつけられるような相手ではない……だがこれ以上戦えば)
((どちらかが、死ぬ))

 同じ結論に両者が辿り着いた瞬間、突然巨大な影が二人が戦うビルの屋上へと躍りこんでくる。

(式神!? かなりの大型!)

 ビルの壁面の中を泳ぐその巨大な影が、イーシャへと襲い掛かる。
 横に飛んで攻撃をかわすイーシャだったが、衝撃の余波で頭部に装着していた大型HMDが弾き飛ばされる。
 今まで隠れていた紅瞳が晒される中、イーシャは襲ってきた影と空とを素早く見据えた。

(今のは、シャチか! そんな物を使役する陰陽師は御神渡流の実力者! やはり限度か………)

 形勢が一気に不利になった事を悟ったイーシャが撤退のタイミングを計ろうとするが、そこに呪符の突き刺さった無数の双縄鏢が飛んでくる。
 それに合わせるように、横手からまた漆黒のシャチの式神が襲ってくる。

「CAL…」

 迎撃用のマーティーを召喚しようとした時、双縄鏢の刃の間から、別の陰が飛び出してきた。
 己の投じた刃を追い越す高速で空は一気にイーシャの間近へと迫ると、両手でイーシャの両腕のOIUユニットに呪符を貼り付けた。

「汝が力を禁ず! 急々如律令!」

 予想外の攻撃にイーシャが反応する間も無く、空の禁呪が発動、OIUユニットが双方同時にダウンする。
 さらにそこへシャチの式神が漆黒の口腔を開いて襲い掛かり、双方が背後へと飛んで攻撃を避ける。

(これで召喚術は使えない。あとは動きを封じれば………)

 空がイーシャの動きを封じようと、内気を練り始めた時、イーシャの口が微かに笑みを浮かべたのを空の浄眼が捕らえる。
 そして、浄眼は彼女の指が何も無い虚空をタイプし、それに応じて彼女の内気が目まぐるしく変化するのを見た。
 空のもう片方の目は、タイピングと同時にイーシャの紅瞳にプログラム列が浮かびあがっていくのを見た。

「CALL《SKYCLAW》」
「八門の法にて祖を拒む!」

 イーシャが存在しないエンターキーをタイプすると、その紅瞳から無数のモザイクブロックで構成されたようなマーティーが飛び出す。
 自らを崩壊させながら、それに伴った進路上のエーテルまでもに分解を巻き起こしながら迫るマーティーに、空は残った呪符をかざして何とか防ぐ。
 空が防御している隙に迫ったシャチの式神に、イーシャは無造作に手を当てる。

「BREAK」

 直接入力された魔術停止プログラムに、シャチの式神が大きく揺らぐ。
 一瞬その形が朧になり、動かなくなった相手に目もくれず、イーシャは素早く逃走を図った。

「くっ!」

 空が後を追おうとするが、イーシャは驚異的な身軽さで数件離れたビルの上に隠しておいた奇妙な機械に手をかざす。

「SHIFT」

 コマンドを唱えると同時に、その姿が掻き消える。
 直後、その場にあった機械も爆発して跡形も無く吹き飛んだ。

「……逃げたか」

 浄眼を持ってしても周囲に反応が無いのを確認した空は、ビルの端に寄って真下を覗き込んだ。

「大丈夫っすか〜? こっちはもう提携完了してますよ〜」

 下から敬一が手を振ってるのを見た空は、緊張を解くと懐から眼鏡を取り出し、それをかける。
 浄眼がその蒼い輝きを失うと、空の顔には普段の温和な顔が浮かんでいた。
 そこで空は指笛を吹き鳴らすと、上空からダイダロスが降りてきて、持っていたトランクを空へと渡してその肩に止まる。

「色々あったけど、任務は完了と」

 下に降りようかとした空だったが、そこで頭上を影が覆ったのに気付いて上を見る。
 そこには、巨大な機影があった。


「なんだありゃ………」
「オレらの母艦、デュポンです」
「あれって、ひょっとしてこの間軌道エレベーターふっ飛ばした空中戦艦の系列艦じゃ?」

 デュポンの大きさに、尚継と敦が絶句するのを敬一が苦笑する。

『全員、生きてるか? 今収容する』
「UFOにアブダクションされるみてえだな……」
「確かに」

 皮肉しか出てこない尚継と淳だったが、綾だけは別の認識でデュポンを見ていた。

「相変わらず行動が派手だな、陸………」








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