PART3 TASK READ


真・女神転生クロス

PART3 TASK READ



大正二十一年 志乃田 名も無き神社

「ここは?」
「ヤタガラスの分社だ。ここから異界送りを受ける」

 静けさと精錬さが漂う人気の無い神社を、ライドウに連れられた克哉は訪れていた。

「一応お参りしておくべきか?」

 財布から五円玉を取り出した克哉が、製造年月日が平成になっているのに気付いてそれを戻す。

「余計な気遣いは無用だ。それに些細な事が影響をおよぼす事もある」
「それもそうか………」

 頷く克哉を置いて、ライドウが鈴鐘を鳴らす。
 澄んだ音が響くと、程なく口元以外を頭巾で覆った女性―ヤタガラスの使者が姿を現す。

「何用でしょうか、十四代目」
「ゆゆしい事態だ。〈こことは異なる世界〉の来訪者が現れた」
「! それは本当ですか?」
「僕がそうだ。僕はこの時代から77年後の世界の人間だ」

 克哉が一歩前に進み出て宣言する。

「彼の仲間が異界の銀座にいるらしい。そこまで異界送りを頼みたい」
「……なんとも異な事。〈来訪者〉が複数も?」
「僕にも原因は分からない。だが、なんらかの特異点がある可能性が高い」
「分かりました。至急異界・銀座にあなた方を送ります。こちらでも影響の有無を調べますので、目立った行動を控えるように」
「心得た」
「分かりました」
「それでは、目を閉じ心を静めてください」

 ライドウが目を閉じたのを見て克哉もそれに習う。
 やがて耳に何か耳鳴りのような音が響き、動いてもいないのに体が動かされるような感覚が襲う。
 だがそれはすぐに止み、克哉の体はどこかに投げ出された。

「うわっ!」

 とっさの事で尻餅をつく克哉の前で、ライドウが滑らかに着地する。

「ここが………」
「異界の銀座、人ではなく魔が住む場所だ」

 古めかしい町並みを、夜明けとも夕焼けとも取れる独特の色合いの空気が覆う。
 遠くには確かに悪魔の姿も見えたが、何事かとこちらを見た後、ライドウの姿を確認してまた向こうを向いた。

「ここのどこかに達哉が……」
「離れるな。不慣れな人間には危険な所だ」
「不慣れ……と言うには少し違うだろうけど」

 ホルスターからザウエルP229を取り出した構える克哉に、ライドウはマントの下から管を取り出して封印していた悪魔を召喚する。
 呼び出された仲魔、象の顔を持つインド神話の神の仏格化した蛮属 ショウテンがその太い体を振るわせる。

「何用ぞ召喚士」
「この場にあってはならない物が流れ着いた可能性がある。それを探すのを手伝ってくれ」
「心得た」

 巨体を震わせ、ライドウの後ろに続くショウテンに克哉も続く。

「なるほど、管とはそう使う物なのか………基本は変わらない物だな」
「未来の事なぞ知らぬが、仲魔の使役がそうそう変わるとも思えぬ」
「そうかもな……」

 街角や物陰からこちらを見ている悪魔の姿はあるが、どれもライドウの姿を見ると姿を隠す。

「随分と顔が売れているようだな………」
「全てが大人しい訳でもない。来るぞ」

 ライドウがそう言いながらもマントをひるがえし、その下から刀を抜いた。
 そこへ、宙を舞いながら襲ってくる奇怪なドクロ―殺された怨念がその骸骨に憑いた怪異、外法属 ウタイガイコツが襲ってくる。

「石化を使ってくる。気をつけろ」
「了解した。ヒューペリオン!」

 克哉がP229を連射しながら、懐から取り出したカードをかざして叫ぶと、カードは瞬時にして光の粒子となって霧散し、克哉の周囲を取り囲む。
 そして、それが克哉の体内からさらなる光の粒子を導き出し、そしてそれはカードに描かれていた黒衣に身を包んだギリシア神話の古代神の一人、ヒューペリオンの姿となって克哉の背後に現れた。

『トリプルダウン!』

 ヒューペリオンの手から光の弾丸が三連射され、迫るウタイガイコツを撃ち砕く。

「なるほど、確かに出来る」
「オォー!」

 別のウタイガイコツにショウテンが雄たけびと共に戦鎚を振るい、そこにライドウが刀を突き刺して止めを刺した。

「ここはこういう連中の巣窟だ。お前の仲間は大丈夫だと思うか?」
「達哉なら、恐らく大丈夫だ。君のとも僕のとも少し違う力を持っている」
「だといいが………」

 刀を鞘に収めた所で、別の悪魔が姿を現す。

「おや、ライドウはんでありんすえ?」

 それは年経た猫がニ尾となって妖力を持ったとされる技芸属 ネコマタだったが、敵対意思を持ってないのか、にこやかにライドウの方へとよってきた。

「ちょうどよかんす。あんさんに話しておきたい事が……」
「奇怪な鎧の事か?」
「そうでありんす」
「それは赤い機体か!?」

 克哉が身を乗り出して聞くと、ネコマタは頷いた。

「それと、桃色のもありんした」
「《rosa》機! シルバーマン君も来ていたのか!」
「それが……桃色のは動かないようで、赤い鎧がそれと異人さんの娘を守ってありんした」
「それはどこでだ!?」
「あちら、五丁目の方でありんす」
「ありがとう!」
「取っておいてくれ」
「ちょっとお待ちやす」

 ネコマタが指差した方向に克哉が走り出し、ライドウが懐からチャクラドロップを取り出してネコマタに渡して後に続こうとするのをネコマタが止めた。

「その鎧、奇怪な物と戦っておりんした」
「それはどのような?」
「機械のような………妖のような………そのどちらともつかない物でありんした。少なくても、あちきらのような悪魔とは違いやす」
「機械のような、妖のような?」

 その言葉に克哉も首を捻るが、その時ネコマタが指差した方向から何か戦闘音のような物が響く。

「達哉か!?」
「直に見た方が速いようだ。よく知らせてくれた」
「いえいえ、ライドウはんもお気をつけて」

 ネコマタに手を振られながら、克哉とライドウ、ショウテンが音の響いてくる方向へと走る。

「まただ! やはり何かと交戦している!」
「銃声だ。そちらの物か?」
「いや、《Rot》機にも《rosa》機にも火器は付いていない!」
「じゃあ、何と戦っているんだ?」

 段々とはっきりとしてくる音に、爆発音まで混じってくる。
 その爆発音の直後、赤い機体が建物の影から弾き飛ばされてきた。

「達哉!」
「兄さん!?」

 その機体、XX―1《Rot》機から克哉の弟、達哉の声が響く。
 だが、状況の説明をする前に《Rot》機を追って巨大な影が姿を現した。

「なんだアレは!?」

 克哉が叫んだ時、ふとそれが見覚えのある物で有る事に気付いた。
 四角い箱のような胴体に、人に似た手足がつけられ、両手にはそれぞれ剣と重火器が取り付けれた凶悪な機動兵器、人型戦車《X―1》だった。
 しかしそれはかつて克哉が戦った物とは異なり、各所に血管や筋肉のような物が走り、脈動している。
 まるで〈生きている〉ようなそれに、克哉が困惑している間にライドウが懐から一丁のリボルバー拳銃を抜いた。

「倒して構わないな?」
「ああ、搭乗者が乗っているようには見えないしな」

 こちらに気付いたのか、振り向くように体をこちらに向けたX―1に、ライドウはその拳銃、コルトM1817ライトニングカスタムのトリガーを引いた。
 かのビリー・ザ・キッドの愛銃としても知られるダブルアクションリボルバーが三連射されるが、放たれた弾丸はX―1の表面装甲にあっさり弾かれた。

「オオ!」

 ショウテンが気合と共に戦鎚を振り抜くが、表面装甲が僅かにひしゃげただけで動きが止まる。
 そこへカウンターのようにX―1の手にした剣が突き立てられると、ショウテンの体が光の粒子となって霧散した。

「封魔の剣か」
「そうだ、アレを食らえば僕の力も封じられる。気をつけろ」

 封じられたショウテンを管に戻したライドウが、スイングラッチ式にカスタムされたシリンダーをスライド、空薬莢と残った弾丸を排莢すると別種の弾丸をクイックローダーで装填する。

「電撃なら効くか?」
「本来のならな。だがアレは前に戦ったのとは似て非なる物だ。だがやってみるまで! ヴリトラ!」『ジオダイン!』

 克哉が《STREGTH》と振られたカードをかざすと、その背後にインド神話で旱魃をもたらす竜の姿が現れ、強力な電撃魔法を放つ。
 直撃を食らったX―1の動きが一時鈍り、そこに達哉の《Rot》機が手にした大剣を振り下ろした。

「セイッ!」

 大剣が装甲の一部を破壊し、そこから赤黒い物が噴き出す。
 それからは、オイルの匂いと血の匂いが入り混じっていた。

「何だこれは………」
「付喪神(つくもがみ)、いや変化か?」
「さっきからずっとコレだ。幾ら斬っても傷が塞がっていくんだ………」

 達哉の言葉通り、破壊された装甲が見る間に塞がっていき、数秒と経たずに元通りになっていく。
 即座にX―1は左手に装備された機関銃をこちらへと向けてくる。

「散れ!」

 ライドウの指示で三人は別々の方向へ飛び、その隙間を銃弾の嵐が過ぎ去っていく。

「堅くなおかつ回復する、厄介だが倒せない相手ではない」
「無論だ。少し時間を稼いでくれ」
「分かった」

 ライドウがライトニングカスタムを連射、電撃効果を付与していた電撃弾が続けて命中し、X―1の動きが鈍る。

「フンッ!」

 そこへ《Rot》機が大剣を横薙ぎに振るい、X―1の足を破壊する。

「今だ、ヒューペリオン!」『Crime And Punishment!(罪と罰!)』

 克哉がありったけの精神力を己のペルソナに送り込むと、ヒューペリオンの両手から機関砲のような勢いで無数の光の弾丸が発射される。
 光の弾丸はX―1の装甲を次々と穿ち、吹き飛ばす。
 装甲が剥がれていく中、その下にある機械の関節と生身の筋肉のような物が露となっていった。

「なんなんだこれは………」

 最後の光の弾丸が、コクピット部の装甲を弾き飛ばし、その中にある物をさらけ出す。
 それは、赤黒いタールのような固まりだったが、その表面には人の顔のような物が浮かび、蠢いていた。

「これは、穢れ!?」

 それが見覚えのある物に似ている事に克哉が驚く中、ライドウの振り下ろした白刃がそれを両断した。
 それは奇怪な怨嗟を上げながら、虚空へと霧散していく。
 力を失ったX―1が、スクラップとなってその場に擱座した。

「これは………」
「何か変化はあるか?」

 ライドウの問いに克哉は自分の手や達哉の《Rot》機を見たが、特に変化は感じられない。

「これが特異点ではないと言うのか?」

 克哉が自問する中、《Rot》機がオーバーヒートの警告音を立てながら停止する。

「限度か………」

 ハッチを開放してボディスーツ姿の達哉が外へと出る。

「達哉、怪我はないか?」
「ああ、大丈夫だ。その人は?」
「彼は十四代目 葛葉 ライドウ氏。この時代のサマナーだ」
「周防 達哉。対悪魔犯罪対策課 機動班のメンバーで巡査だ」

 達也が自己紹介しながら右手を差し出すと、ライドウは愛刀を鞘に収めてその手を握った。

「達哉、シルバーマン君は一緒じゃないのか?」
「リサの《rosa》機は故障して動けない所に、あいつがいきなり襲ってきた。向こうに隠れているはずだが………」
「情人(チンヤン)〜」

 向こう側からの聞こえてきた声に三人が振り向くと、そこには先程のネコマタにおぶわれた、金髪碧眼の女性が手を振っていた。

「シルバーマン君! 怪我をしているのか!?」
「あ、克哉さん。いや、ちょっと機体から出る時に足捻っちゃって………」
「向こうに隠れていたのを見つけたので、連れてきんした。危なく他の悪魔に見つかる所でありんした」
「それはすまない」
「手間をかけさせたな」
「ライドウはんには馴染みやありんすから」

 ネコマタがその白人の女性、達哉と同じ機動班の隊員、リサ・シルバーマンを降ろして達哉へと引き渡す。

「今回復ができる仲魔を呼ぶ」
「あの〜、このレトロだけとイケてる人は誰?」
「十四代目 葛葉 ライドウ氏。小岩のずっと昔の先輩だそうだ」
「え? じゃあやっぱここ過去の世界なの!?」
「大正二十一年だそうだ」
「………それって何年前?」
「……77年前、もっとも僕らの時代だとすでに昭和のはずだけどね」

 ライドウがショウテンを管へと戻し、代わりに呼び出した人頭牛身の凶兆を知らせるとされる技芸属 クダンがリサの足を癒していく中、四人はスクラップと化したX―1を見た。

「さて、これをどうするか………」
「捨ててたら怒られるかな〜?」
「できれば、どこか調べてくれる所があれば………」
「機体の整備も必要だ。だが、77年も前では………」

 周防兄妹とリサが考えこむ中、ライドウは双方の機体を交互に観察した。

「一人、どうにかできるかもしれない人物なら心当たりがある」
「本当か!?」
「探偵社のすぐ近所だが、そこまでこれを運ばなくてはな」
「弱った〜、誰とも連絡全然取れないし……」

 リサが自分の携帯電話を取り出して見るが、無論、電波なぞ届く訳が無い。

「小岩や音葉君は無事だろうか?」

 思わず自分の携帯電話を取り出した克哉が、それが辛うじて電波が届いているアンテナサインが出ている事に気付いた。

「まさか…………」

 まさかと思いつつ登録しておいた番号に掛けてみると、コール音が響く。

「通じた!?」



2009年 タルタロス メインエントランス

 重苦しい雰囲気で集まっていた特別課外活動部の部員達の耳に、電子音が鳴り響く。

「オレか」

 八雲が何気ない調子で懐から己の携帯電話を取り出し、指定着メロで特捜最前線のBGMを鳴り響かせる相手に応じた。

「おう、周防か」
『小岩! 今どこにいる!?』
「タルタロスとかいう異界化したダンジョンの中だ。何かに括られてるのか、出られん。そっちは?」
『……大正二十一年の東京・銀座だ』
「こっちは2009年だが、明らかにオレがいた世界じゃない」
『それぞれ違う世界に飛ばされたのか!?』
「多分な。そっちにカチーヤはいるか?」
『いや、達哉とシ……ーマン君は…』

 通話の間にノイズが混じる。八雲は耳に当てていた携帯電話の状態を確かめると、電波状況が圏外になりかかっていた。

「こっちにはこちらのペルソナ使い達がいる。こちらはどうにかする」
『な………ソナ使いが………こち……十四代目……ライドウ………』

 そこで通話は途切れ、電波は完全に圏外となった。

「……切れたか」
「ちょっと待てよ!」
「なんでここで携帯使えるわけ!?」

 順平とゆかりが驚きながら八雲の携帯電話を見た。
 PDA機能も内蔵した、多機能携帯電話ではあるが、それ自体は市販品と変わらない。

「さっきお前らが来る前に、掛けられるだけに掛けたんだが、どこにも通じなかったんだよな………」
「当たり前だ。影時間の中では普通の電子機器は完全に停止する。動くだけでも驚きに値するが、まさか通話もできるとは………」

 美鶴も驚きながら八雲の携帯電話を見てみるが、確かに普通の品だった。

「向こうも面白い事を言ってたぜ。大正二十一年にいるだとよ」
「大正!? ………で、それって何年前?」
「77年だ。だが、大正は15年までだぞ?」
「つまり、電話の相手はそういう世界にいる訳か………」

 啓人が頷きながら納得するが、他の者達は半信半疑だった。

「とりあえず、まずこちらをどうするかだ」
「そうですよ。シャドウの戦い方が変わってきてるなんて………」

 明彦と乾の言葉に、また全員が重苦しい顔で向き合う。

「また、同じような事が起きる可能性はあるのだろうか?」
「特異点がもたらす変化は、徐々に大きくなっていくらしい。可能性じゃなく、必然で事態は変化していくだろうな」
「どうしよう、タルタロスの探索も進めなきゃいけないってのに………」
「二手に分かれるってはのどうだ?」
「いや、広範囲をナビゲートできるのは山岸だけだ。向こうにもこちらにも必要になってしまう」
「先にこの上の方に何かあるかとか分からないのか?」
「いえ、詳しい場所までは仲介点となる人が誰かいないと…………」
「だったら、その場でやっても問題はないな」

 八雲がGUMPを手にして操作していく。

「現状で使用しそうにないソフトを幾つか停止させてその分エネミーソナーに処理を優先させる。階層ごとが限度だが、なんとかなるだろう」
「しかし、大丈夫でありますか? 影時間内では疲労の蓄積が通常より多いです。しかもあなたはここから出られない。風花さん以上のオーバーワークになると思います」
「じゃあ、他に手があるか?」

 全員が押し黙り、沈黙する。
 だがそこで、風花のノートPCがアラームを響かせた。

「あ……タイムアップです」
「もうそんな時間か」
「やべ、早く出ねえと」
「一時間だけってのも不便だな」
「いようと思えばいれるんだが、外では一日経つからな………前にそれで山岸が失踪騒ぎになった事がある」
「今頃、オレもそうなってるかもな……」

 八雲がボヤきながら、階段の外壁に背を預けて座り込む。

「じゃ、悪いが少し休ませてくれ」
「少し空けますよ。こっちも色々と調べたいんで」
「そうしてくれ」

 啓人に生返事を返した直後、八雲の口から寝息が漏れ始める。

「すげぇ寝入りの良さ………」
「疲れてたんじゃないですか?」
「かもしれんな」
「それにしても、どうしたらいいんだか……」
「今日の放課後にでも話し合おう」
「ワン」

 特別海外活動部の部員達ががやがやと言いながらタルタロスを出、静寂の中八雲の寝息だけが響いていた。

「彼ですか」
「そのようやな」

 だが程なくして、そこに二人の少年が現れた。

「……寝てるで」
「大胆ですね」

 その二人、病的な白い肌に危険な光を宿した瞳を持った上半身裸の少年に、関西弁をしゃべりながら、左手にアタッシュケースを持ち、右手で手榴弾を弄ぶ眼鏡をかけた少年が、タルタロスの中へと入ってきた。

「うるさいな。少し寝かせてくれ」
「起きましたか」

 不機嫌そうに目を開ける八雲に、色白の少年が笑みを浮かべる。

「タルタロスに現れた《異物》とは貴方ですね」
「《異物》、か。確かに正しい表現だろうな」

 懐の銃に手をかけながら、八雲が謎の侵入者の方を見た。

「それで、オレに用か?」
「ええ。我々としては、この大事な時期に不確定な因子を持ち込まれたくないのですよ」

 そう言いながら、色白の少年は腰から巨大なリボルバー拳銃、史上最強のハンドガンS&W M500を抜いて八雲へと突きつける。

「そんなにオレが邪魔か。《ストレガ》」
「我々の事を聞いてましたか」
「一応な。滅びを欲しがるイカれた連中だそうだな」
「そう、その滅びのためには貴方が邪魔なのですよ」

 言葉が終わると同時に色白の少年、ストレガのリーダー、タカヤはトリガーを引いた。
 轟音が響き、八雲がその場に倒れ込む。

「なんや、終わりか」
「あっけない」

 ストレガのNo2、ジンが何もしない内に撃たれた八雲に近寄ろうとする。
 だがそこで、階段の影に隠れていたケルベロスが襲い掛かった。

「しもた!」

 ケルベロスの牙をとっさにアタッシュケースで防いだジンだったが、その肩を銃弾がかすめる。

「なんやと!?」
「下がりなさいジン! ヒュプノス!」『ジオダイン!』

 タカヤが己のペルソナ、ギリシア神話で眠りを司る神ヒュプノスを呼び出し、電撃魔法をケルベロスに放つが、ケルベロスはからくもそれをかわす。

「しとめ損ねたか」

 硝煙を上げるソーコムピストルを手に、倒れていたはずの八雲が体を起こす。

「おはん、なんで生きて…!」

 ジンが八雲の胸に開いた弾痕の下、服の下に着込まれたボディアーマーに気付いて舌打ちした。

「なるほど、わざと撃たれて油断した隙に、という訳ですか」
「さすがにM500止められるかは賭けだったがな」

 口の端から伝っている血を拭いながら、八雲はソーコムピストルをタカヤに向け、その隣でケルベロスが唸り声を上げる。
 のみならず、転送用ポートが作動したかと思うと、そこから上階に待機させておいた仲魔達が続々と姿を現した。

「な、こんなに手駒隠しとったんか!」
「小心者でね」
「ふ、ふふふふ、目的のためには手段を選ばず、騙まし討ちを平然と行う。あなたは彼らよりも我々の方に近いかもしれませんね」
「そうかもな。だが、お前らと一緒にされるのは迷惑だ。疲れてんだからとっとと失せろ」

 銃口を向けたまま、八雲がアゴでストレガの二人を払う。
 それに応じたのか、仲魔達が二人を包囲していった。

「やる気はない、ってわけか?」

 銃弾がかすめた傷口をそのままに、ジンが八雲を睨む。

「簡単ですよ。彼はここから出られないという事は、消耗した物の補充や救護を受けにくい。無駄な消費はしたくないという事ですよ」
「……分かってるじゃねえか。それとも、ここでオレの仲魔とやるか?」
「……それはこちらも同じです。今日の所は退きましょう」
「そのまま二度と来るな」
「その期待には添えそうにありませんね」

 八雲の方を睨みながら、ストレガの二人は姿を消す。
 重いため息を吐き出しながら、八雲は銃口を下ろした。

「召喚士殿、傷の回復を」
「頼む」

 ジャンヌ・ダルクが回復魔法をかける中、八雲はぼうっとタルタロスの入り口を見ていた。

「早いとこ、どうにかしねえとな…………」



大正二十一年 筑土町

 人が行き交う通りを、一際目立つ一団が通り過ぎていた。
 それは何か大きな物を乗せた大八車の三台連れで、ムシロで覆われた荷物の中身は見えない。
 それだけなら引越しの途中にも見えたが、それを引いているのがマント姿の学生、色眼鏡をかけた男、体に密着する奇妙な服を来た男と異人の女性ともなれば、どう見ても引越し最中には見えなかった。

「………目立ってるな」
「……そうだね、兄さん」
「うう、恥ずかしい………」
「すぐそこだ」

 先頭に立つライドウに、周防兄弟とリサが赤面しながらも大八車を動かす。
 常人の目には見えないが、ライドウと克哉の引く大八車の後ろを仲魔が押していた。

「トラックとかなかった?」
「生憎と用立てられなかった」
「悪魔に直接運ばせるというのは?」
「見える人間にも見えない人間にも大騒ぎになる。」
「……こうするしかないか」
「ついたぞ」

《金王屋》と描かれたノボリをライドウが潜ると、目つきの悪い老主人がじろりとこちらを見た。

「客かい? 随分と大荷物だが」
「客は客だが、下の方のだ」
「なんだヴィクトルのかい。どうりで変わった連中ばかりだ」
「失礼します」
「邪魔する」
「どうも〜」
「商品壊さないでおくれよ」

 世界中の骨董品や珍品が並ぶ店の端を通り、その先にあるドアをライドウは開けた。

「一つずつだ」
「これはエレベーターか」
「業魔殿への物資搬送用だ」
「業魔殿だって!? 先程ヴィクトルと言ってたが、まさか悪魔研究家のヴィクトル氏がこの時代に!?」
「77年後にもいるようだな」

 ドアの間に鉄柵が降りたかと思うと、部屋が下へと移動していく。
 程なくして空荷で戻ってきたエレベーターに克哉が乗り込み、次に達哉とリサも乗り込んだ。
 地下へと降りた一行が見たのは、種々の機械が並ぶ研究所と、その中にいる白衣姿の見覚えのある男だった。

「ほほう、これは興味深い! また面白い物を持ってきたな十四代目!」
「こちらにもある。こっちの方は修理も頼みたいのだが………」
「どれどれ、まずは調べてみねば!」

 楽しそうに持ち込まれたX―1の残骸と故障したXX―1を調べるその男、稀代の悪魔研究家、ヴィクトルの姿を見た周防兄弟とリサは互いの顔を見合わせる。

「あれ、本当にヴィクトルさん?」
「何か、雰囲気が………」
「我々の世界とは違う世界だからな。雰囲気が変わっていてもおかしくはないだろう」
「違う世界? 違う世界とはどういう意味だ?」

 目ざとく会話を聞いたヴィクトルがこちらの方を向いた。

「彼らは、この世界とは違う世界の未来からきた人間だ」
「次元転移と時空転移を同時に行ったと!?」
「いや、巻き込まれた、というが正しいか………」

 ライドウの説明に驚いたヴィクトルに、克哉がここに来るまでの経緯を説明していく。

「むう、それは不可解な………」
「ああ、どうにか元の世界に戻りたいのだが……」
「そちらではない」
「え?」

 ヴィクトルはしばし考えながら、未来の三人を見た。

「転移というのは、高位の術者なら可能な現象だ。悪魔の中にも使える者も多い。だが、次元間転移ともなれば相当の難度だ。これは高位の悪魔ですら、儀式なくしては不可能な事。だが、《似て非なる可能性の世界》からそれだけの人数をまとめて転移させるとなると、簡単な事ではない。ましてや、五体満足でともなると、〈事故〉で済ますには出来すぎだ」

 言われた三人は自分の手足や体を確かめるが、どこにも異常は見当たらない。

「では、我々は何かの事件に巻き込まれたと?」
「分からん。これを調べてみれば何か分かるかもしれん」
「お願いします。我々も調査を進めておきます」
「さすがに三機ともなると、時間が掛かるやもしれん」
「手伝える事があれば。少しは整備できる」
「そうか、なら手伝ってもらおう」
「それじゃ私も」
「じゃあボクはライドウ氏と捜査を進めておく」
「気をつける事だな。もしかしたら、これは飛ばされた物ではないかもしれん」

 克哉がその一言に振り返ろうとしてた足が止まる。

「なぜ?」
「よく見てみろ。こちらの二機は転移の際と思われる損傷が各所にある。だが、こちらのには戦闘の物以外には見当たらん」
「! しかしこれの元は確かに僕達の時代にあった物だ!」
「………分からん。私の予想を越える何かが、起きているのやもしれん。注意しろ十四代目」
「………心得た」

 ヴィクトルの深刻な忠告に、ライドウは一度だけ頷くと、克哉と共に探偵社へと向かった。



「おやお帰り。弟さんはいたかい?」
「ええ、今ヴィクトル氏の元に」

 イスにふんぞり返っていた鳴海に、克哉は笑顔で答える。

「あっそ、そりゃ良かった。何か分かった事は?」
「この時代に存在しないはずの物に襲われた」
「……どういう事だい?」
「少し違っていたが、こちらの世界にあった〈兵器〉が襲ってきたんだ。ヴィクトル氏が解析してるが、まだいるかもしれない」
「……そいつはヤバいな。どんな奴だ?」
「人型の戦車だ。しかも対悪魔用武装を施している。この時代の装備では戦えないだろう」
「そんなのが出たら大騒ぎだな。少しこちらも情報を集めてみよう」

 鳴海が電話に手を伸ばした所で、探偵事務所の扉が開く。

「ライドウさん帰ってたんだ。ちょうどよかった」

 入ってきた伽耶の後ろに、友人のリンの姿がある事に鳴海が片眉を僅かに上げる。

「おやおや、二人そろって何の御用?」
「あの、ライドウさんに頼みたい事があって………」

 リンがおずおずと口を開く。

「ん〜、今忙しいんだよね………」
「あ、そうなんですか………まあつまらない事ですし………」
「ここに頼みに来るという事は怪奇な事だという事か?」
「そう、いう事になるんだと………」

 やけに歯切れの悪いリンの態度に、鳴海が首を傾げる。

「最近富士子パーラーで起こっている事件、知ってますか?」
「事件? そういや妙なつまみ食いが多いって噂があったっけ」
「私見ちゃったんです。見えない何かが、ショーケースのケーキを食べるの………」
「見えない何か?」

 思わず顔を見合わせた克哉とライドウが、同時に答えに辿り着いて頷く。

「多分、ケーキに連れられた〈者〉がうろついているのかもしれん。それくらいなら、少し祈祷を上げればいいだろう」
「あの、それって祈祷代はいかほど………」
「お代はいらないから、ケーキの引換券でももらってきて。あそこのケーキ土産にすると、情報聞き出し安いから」

 鳴海が勝手に決める中、ライドウが克哉と共に席を立つ。

「早い方がいいだろう。妙な影響が出る前に」
「今ですか?」
「その方がいい。この後忙しくなるかもしれなくてね」

 克哉が誤魔化しながらも、伽耶とリン、ライドウと克哉の四人はケーキ店富士子パーラーへと向かった。

「いらっしゃい……あらライドウさん」

 顔見知りの店員が、店の中に入ってきたライドウの姿を見つけて声を掛けてくる。

「珍しいですね。お買い物ですか?」
「仕事だ」
「あの、ライドウさんが例の件を解決してくれるって言うんで」

 リンの言葉に、店員の顔色が変わる。

「ちょっとこちらへ………」

 四人は店員に手招きされて店の奥へと進む。

「私も見たんですよ、ケーキが勝手に減っていくの…………」
「やはり」
「その、妖怪か何かの仕業なんですか?」
「大丈夫。すぐに済みます」

 ライドウは店の客に見られないように影から小さく拍手を打つと、祈祷に入る。
 その途中で、何かに気付いた店員が、恐る恐る指を指した。

「あ、あそこ………」
「また……!」

 その指差した先には、ショーケースに並んでいるケーキが、確かに減っていく所だった。

『あ…………』

 しかし、伽耶と克哉の目には、そのつまみ食いをしている者、小さな有翼の少女の姿をした妖精 ピクシーの姿が見えていた。

「あ、克哉だ〜!」

 口の周りを生クリームだらけにしたピクシーが克哉の方へと飛んでくる。

「やっと見つけた〜♪」
「な、なぜここに?」
「だって、今週のお給料まだだもん! お腹すいたし〜」
「だけど無銭飲食はダメだって」
「……あの、誰と話してるんです?」

 悪魔の姿が見えないリンと店員の目には、克哉が何か独り言を言ってるようにしか見えない事に気付いた克哉が、ピクシーを掴んで慌ててトイレへと飛び込む。
 中に入ってカギを閉めた所で、克哉はピクシーを放した。

「無銭飲食は後で払うとして………あの時、他の人はどうなったか分からないか?」
「分かんない。ピカッて光って、気付いたらこの見た事もない所にいて、探したんだけど誰も見当たらないし。お腹すいたからここにしばらくいたの。ここってどこ〜?」
「その件は後だ。今はこの世界の異常を修正しないと」
「その前にお給料!」
「………分かったよ」

30分後

「ここでアーモンドパウダーを混ぜるのがポイントです。こうする事によって生地に香ばしさが出ます」
「ほうほう、なるほど」

 厨房を借りてケーキを作る克哉の手並みに、富士パーラーの職人達もしきりに関心していた。

「クリームは少し砂糖を控えて、メレンゲでコーティングしてフランベすれば…」
「あんた、ウチで働く気はないか? 給料は弾むよ」
「いえ、その残念ですが………」

 真顔で問うて来る店長に、克哉は苦笑いを浮かべて首を横に振る。

「ケーキ作りが趣味なんて、変わってますね」
「知り合いの女性はボクシングが趣味だったよ。別に趣味に男女差はいらないだろう?」
「斬新な事言う方ですね」

 言った後でこの時代ではそうなのか、と思いつつ、克哉が仕上げに入る。

「これで完成。レシピはこうです」
「ほほう、これはすばらしい」
「では一部を捧げてくれ。これでもう怪現象は起こらない」

 ライドウの指示で、出来上がったケーキが事務所にあった神棚へと捧げられる。
 ちなみに、見えないように影の位置から、ピクシーがそのケーキをつまんでいた。

「本当にこれで大丈夫なんですね!?」
「大丈夫だ。満足して去ったようだ」

 ライドウが太鼓判を押す中、満足したピクシーが克哉の肩に止まる。

「一応、これはお礼です」
「いや、こんなにはいい」

 渡された引換券を半分だけ受け取り、ライドウ達は富士子パーラーを去る。

「やっぱり、ライドウさんって頼りになりますね」
「別に難しい事をしたわけじゃない」
「……身内の犯行だったからな」

 喜んでいるリンに聞こえないように克哉が呟き、肩に止まっているピクシーを見た。

「それじゃあ、私はこれで」
「また何かあったら知らせてくれ」
「もちろん!」

 リンが去った後で、ライドウは克哉の肩のピクシーを見た。

「それはお前の仲魔か?」
「ああ。週ケーキ1ピースで契約している」
「悪魔ってケーキで契約できるんですね………」
「ところで、ここどこ?」
「分かりやすく言えば77年前だ」
「ふ〜ん………って77年前!?」

 驚いた拍子に克哉の肩から落っこちたピクシーが、自分の羽根で飛び上がりながら、周囲を見回す。

「映画か何かのセットだと思ってた………」
「だったら良かったんだけどね………」
「予想以上に飛ばされた者が多いようだな。他に飛ばされた時、一緒にいたのは?」
「影響がどこまで出たのか分からないが、ビル内にいた人間は13名のはず。小岩は他の世界にいるらしいし、他のメンバーはどこにいるのかすら」
「………一人そういう事に詳しいかもしれない者がいる。会いに行こう」
「本当か? どこに?」
「深川だ」

 伽耶と分かれた二人は、ライドウの指示で深川の目的地へと向かう。
 だが克哉は、その場所の手前で硬直する。
 そこは独特の雰囲気が漂い、あでやかな女性達が赤い格子の向こう側からこちらを手招きしている。

「こ、ここはまさか遊郭か!?」
「それ以外に何に見える」
「ユウカクって?」
「いやその……」

 ピクシーへの説明に困る克哉を無視して、ライドウは平然と遊郭が建ち並ぶ路地の中へと進んでいく。

「本当にこんな所に?」
「ああ、最中でなければいいが」
「何の?」
「まあアレだ………」
「そこのモダンなお兄さん、寄ってかない?」
「いや、結構だ」
「そう言わないでさ。安くしとくよ」
「残念だが、仕事でね」

 客引きの女中達を振り払い、克哉がライドウの後を追う。

「普段からこんな所に来ているのか?」
「大抵仕事だ。色んな人間が出入りする分、情報も入りやすい」
「どうにも僕はこういう所は苦手だ」
「見るからにそうだからな」

 路地の半ばまで進んだ所で、突然向こう側から悲鳴が響いた。

「! 今のは!?」

 二人は同時に走り出し、すでに人が集まり始めている悲鳴の発生源へと飛び込む。

「く、来るな……! この女をこ、殺す!」
「ひっ………」

 そこには、目の焦点のあってない男が、短刀を片手に女中を羽交い絞めにしていた。

「やめろ! その人を放すんだ!」

 叫びながら克哉がホルスターに手を伸ばそうとした所、ライドウがそれを止める。

「まずいぞ、薬物か何かを使用している………」
「問題ない。そろそろ来るはずだ」

 ライドウがそう言った時、人垣を掻き分けて奇妙な男が入ってきた。

「いケませン。いケませ〜ンね」
「な、なんだてめえ!」
「プーさん!」

 それは、外国語訛りで喋る、神父服を着た痩せた男だった。

「レディにランボウはいケませ〜ン。レディとは愛し合うモノで〜ス」
「それ以上近寄ると、この女…」

 口から泡を拭きながらがなる男に、その奇妙な男は無造作に右手をかざし、何かを口の中で呟く。

「が、は!?」

 すると、男が突然苦しみだしたかと思うと、白目を剥いてその場で昏倒する。

「プーさん!」
「オウ、もうダイジョブで〜す。お礼はいつものヨウに」

 人質にされていた女中が駆け寄るのを抱きしめた痩せた男は、そのまま遊郭の中へと入っていこうとする。

「悪いが後にしてくれ、ラスプーチン」
「おお、ライドウさんじゃア〜りませンか」

 ライドウの姿を見た痩せた男、ラスプーチンは女性を片手で抱いたまま、にこやかにあいさつしてくる。

「お前に急用があって来た」
「トいう事は、ソチラの方ですか……すいマせ〜ン、また後で必ず」

 助けた女中にキスをすると、ラスプーチンはライドウと克哉の元へと来る。

「そちらさンは?」
「周防 克哉、一応警官だ」
「77年後のな」
「ホウ………」

 興味深げに顔を歪めたラスプーチンは、二人を伴って手近の茶屋の奥座敷へと入る。

「私はラスプーチン。ここのレディ達のボディガートしてマ〜す」
「つまり用心棒だ」
「魔術師がか?」
「分かりマしたか」

 克哉の指摘に、ラスプーチンは笑みを浮かべる。

「元はダークサマナーやってマ〜した」
「なるほど、それが今や遊郭の用心棒か………校正したと言うべきなのかな?」
「さあな。それで、肝心の用件なのだが………」
「77年後、とイってましたね」
「お前が来た時よりは前のはずだ」
「!? じゃあ彼も!」
「よくは分からないが、彼はあの怪僧ラスプーチン当人じゃない。時間を正すために、ラスプーチンの人格をコピーした修正者だそうだ」
「な………」
「生憎と、私モ必要ないデータ、与えラれてマせん……しかし、参考にはナルかも」
「知っている限りでいい。教えてくれないか?」
「フム……本来はヨロしくないのですが、ライドウさんに免じて教えマす」

 運ばれてきた団子に手を伸ばしつつ、ラスプーチンは語り始める。

「ソモソモ、時間の移動は極めて危険を伴いマ〜す」
「ヴィクトル氏もそんな事を言っていたな」
「そノため、時間移動技術ガ確立された未来でも、時間旅行は精神のコピーを送るノが普通で〜ス。そのコピー体の得た情報を本体に共有サせて、楽しむのデ〜す」
「つまり、移動のはずみで消失する事も考慮の内なのか………」
「そノ通り! 前にライドウさんが時空をつなげるアカラナ回廊ニ生身で行き、戦って帰ってコれたのは奇跡と言えるクらいで〜ス」
「だが、下手したら10名以上の人間が同時に時空のかなたに飛ばされた可能性がある」
「……そレは最早、人間ノ技術ではアりまセ〜ん」
「何かが、関与しているのか。とてつもない力を持った、何かが…………」



 絡んだ糸の先に、解き放ちし者の影が揺らめく。
 無数の糸を解き放ちし狙いは、果たして………





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