PART36 SECRET MANEUVERS


真・女神転生クロス

PART36 SECRET MANEUVERS





「う〜ん、もうちょっと時間あれば細かく復元できるかな?」
「いや、こんなモンでいいかと。独立並列型のシステムか……」
「そうだね、ただ入力が複数で出力が一つって、変な仕組みだけど」
「物が悪魔召喚プログラムなら、それでも問題ないはず。あの大量のアンデッド連中、こやって呼び出されてやがったのか………」

 雅宏と八雲が二人がかりで解析したプログラムから、断片ながらもシステムの概要が割り出されていく。

「ソフト的には割りと単純な造りになってる。けれど………」
「問題はハード、どうやってこれを光学迷彩の無人偵察機に組み込みやがったのか………」

 同じ疑問に、二人のハッカーの手が止まる。

「………心当たり、あるかい?」
「………リーダーも同じ事考えてるかと」
「こんな物を運用できそうな組織を、僕らは知ってる」
「確証は無いが多分当たり、かな?」

 かつて自分達が敵対した組織の事を思い出しながら、八雲はしばし思案する。

「敵の中に、見覚えのある連中は?」
「う〜ん、どうだろうかね。僕じゃここから危なくて出られないし、ゲイリンさんや真次郎君はそれらしい相手は見たらしいけど、なんとも」
「くっそ、いつの間にか冥界支部なんて作りやがったのか。それとも、ここの連中のように………」
「多分ね」

 半ば確信しながらも、あえてその組織の名を口には出さないまま、二人はプログラム解析を一度終了させる。

「こっちじゃ、あの神取がまた蘇ったらしいって話も出てやがるし」
「え? 神取ってあの神取 鷹久? こっちじゃなくてそっちに?」
「もう生きてるか死んでるかは大した問題じゃないのかも………身内にもいるし」
「それって僕?」
「いんや、上司と元相棒」
「う〜ん、なるほどね〜」

 雅宏が苦笑しながら、ポケットからタバコを取り出して火をつける。

「全く、こんな状態どうやって片付けりゃいいんだ? しかもカロンとの契約も時間制限有りだし」
「やれる所からやっていくしかないね。ちょっとこれを」

 キーボードに突っ伏す八雲に視線を送りながら、雅宏があるデータを表示される。

「リーダー、これは……」
「断片過ぎるけど、これってMAPデータじゃないかな? 多分機体の帰投プログラムかか何かじゃないかと思うんだけど、これだけじゃ場所が分からない」
「いや参考にはなるな。転送を」

 八雲はGUMPからコードを伸ばし、その断片データを転送させていく。

「ついでにこっち、集めてもらった分から造った周辺のMAPデータ」
「サンキュー、リーダー」

 双方のデータの一致点が無いか八雲が手早くサーチするのを見ながら、雅宏は紫煙を吐きながら笑みを浮かべる。

「腕を上げたね、色々と」
「色々あったからな……デビルサマナーなんてヤクザな商売やってりゃ、何かと………」
「頼もしくなったよ、僕が覚えてた時と比べると」
「荒んだとも言うような………」
「それは元からじゃないかな、お互いに」
「オレやランチはともかく、リーダーはどうだったかな〜?」

 スプーキーズだった頃の事を八雲は思い出し、思わず作業の手が止まる。

「ま、心配してた程じゃないから、安心したよ」
「リーダーの中のオレのイメージがどうなってるんだか」

 思わず顔をしかめながら、八雲はGUMPのデータ整理を終了させてコードを抜き、懐へと仕舞う。

「さて、と。外身の方は何か分かったかな?」
「ラボに技術担当の人もいるから、何かは分かるかと思うけど」
「そんなのまでいるのか………」
「元は確か………ニュクスとペルソナの研究をしていたとか言ってたな」
「は?」



「ようし、そこだそこに降ろそう」
「よっと」

 仁也が中心となり、複数の男性陣でユニットがラボのテーブルへと置かれる。

「意外とキレイだな、何かに使っているのか」
「ああ、彼が使っているケースだ」

 仁也の問いに、ゲイリンがラボの隅を手で指し示す。
 するとそこに、一体の思念体が浮かび上がった。

「うわ!」
「思念体なんてあっちの東京に大勢いただろうが」

 思わず悲鳴を上げた啓人に小次郎が呆れるが、思念体はぼやけた姿ながらもある一人の痩せた男性の姿を取る。

「おや、随分と大勢来たようだね」
「しかも生者のセオリーだ。タイムリミットはあるが協力してくれるそうだ」
「それは頼もしい。正直人手が足りなくてね」

 そう言いながらその思念体はユニットの方へと向こうとするが、そこで啓人の方、正確にはその腰の召喚器に目が留まる。

「それは………君はペルソナ使いか」
「あ、はい。月光館学園の…あ〜!!」

 そこまで言った所で、啓人は目の前の思念体に見覚えがある事に気付いた。

「あの、ひょっとして、岳羽さん?」
「確かに私は岳羽だけど………ああ、私が残した映像を見てくれたんだね」
「それもあるけど、その………」
「ちょっとそっち終わったらこっちに…」

 何と言えばいいのか分からない啓人だったが、そこに物資の確認作業に行っていたはずのゆかりが姿を現す。

「………ゆ、幽霊!? きゃあああ……ああ!?」

 何気なく顔を覗かせた先にいた思念体にゆかりが思わず悲鳴を上げるが、その悲鳴が途中で疑問に変わる。

「お、お父さん!?」
「ゆかり、か? 大きくなったな」

 その思念体、ゆかりの父親で桐条グループで行われていたニュクスの研究の事故で亡くなった岳羽 詠一郎の姿にゆかりは思わず絶句した。

「え? え? なんでお父さんがこんな所で幽霊になってるの!?」
「ここは冥界、死者がいるのは当然のセオリーだ」
「ゲイリンさん達と違って、体も無いし、なんでかこの部屋からも出られないけどね」
「小岩さんみたいな、特異点なのかな?」
「ちょ、ちょっと待って? え〜とそれってお父さんがあの世で幽霊で研究で特異点で」
「まずはリラックスのセオリーだ。予想外のケースなのは分かる」
「そりゃ、いきなりあの世で肉親の幽霊に会えば誰だって………」
「混乱するのは後にしろ。今はこれの解析が先だ」

 状況を脳が理解しきれないゆかりが上擦った声を上げ、周囲がそれをなだめようとする中で小次郎が一言でそれを遮断させる。

「今我々がやらなければならないのはベースキャンプの設置と敵の情報の解析だ。このユニットから、どんな些細な情報でも根こそぎ集めなくてはならない」
「色々話したい事はあるだろうが、悪いが一段落してからでいいか。お互い落ち着いてからの方がいいだろう」
「う、うん………」

 仁也と小次郎の有無を言わせぬ口調に、ゆかりはかろうじて頷く。

「まともに会話出来るならまだマシな方だ。まだ見れる状態でもあるようだし」
「これよりひどいってどういう事かな?」

 小次郎が思念体の詠一郎を横目で見ながら呟き、当の詠一郎が半透明の自分の手を見ながら思わず突っ込む。

「それでは、各自作業を」
「そ、そうだね。じゃあお父さん、後で!」
「分かった、こちらも急いでやるよ」

 仁也の号令に、何を話したらいいかも決まらないまま、ゆかりはそれだけ言ってラボを後にし、詠一郎は娘の姿を見送る。

「じゃあオレもあっちに」
「あ。ちょっと君」
「はい?」
「娘は、大丈夫かね? 真次郎君からペルソナ使いになったとは聞いていたが、あまり危険な事はしてほしくはないのだが………」
「ゆかりは、主に後方で回復担当ですから、完全にとは言えませんけど、大丈夫だと……」
「自分の見た限り、先程の作戦中での彼らの結束は見事な物だった。それに自分達や他の者達のサポートも有る。過度の心配は無用に思います」

 詠一郎からの問いに自信無さげに答える啓人だったが、仁也がそれに自分なりの訂正を加える。

「そうか、それなら安心だ。それでは仕事に取り掛かろう」
「一任するセオリーだ。手の開いてる者は自分と周囲のパトロールのプロセスだ。恐らく貴殿らがこちらと合流した事は向こうにばれているシチュエーションだ」
「アンソニー、そっちを頼む」
「了解、にしても色気の無い任務ばかりだな……」
「ユーはそんな事をジョブに求めるのか?」

 皆がそれぞれの仕事をする中、敵の手はゆっくりと迫りつつあった。



同時刻 珠阯レ警察署(仮)

「下がおかしい?」
「ええ、下の探索に出てたメンバーから、ヨスガ、シジマ、ムスビ、どこも妙な動きをしてるとの報告が来てるわ」

 冥界の門に飲まれた者達の安全が確認できて一安心したのもつかの間、戻ってきたレイホゥからの報告に克哉は目つきを険しくする。

「ヨスガとシジマは次の動きに向けての準備って線が濃厚ね。ムスビがどこかの勢力と派手にやらかしたって話もあるみたいだけど………」
「アマラ経絡にも探索チームを向けるか? だが現状ではあまり人手を割く訳にもいかん」
「防衛の陣はもう直完成するわ。そこから浮いた手を回せば………」
「だがアマラ経絡の内部はかなり複雑と聞いている。慣れている英草君は今冥界に行ってしまっているし」
「思念体の巣窟で遭難なんてゾッとする話ね。高尾先生に案内でも頼もうかしら」

 一つの問題が解決すればまた次の問題が起きる状況に、二人は首を傾げて唸りを上げそうになる。

「短期決戦を望んでトップクラスの実力者を送り出したのが、裏目に出ているのかもしれんな」
「今更言ってもね。それに残っているのだって結構強いわよ。克哉さんも、私もそれなりにね」
「問題はそれをどう割り振りすれば………」

 考え込む克哉だったが、そこへレッドスプライト号からの直通回線として繋いでおいた電話が鳴る。

「はい周防。アーサーか………ちょっと待ってくれ」

 相手がアーサーだと気付いた克哉が、スピーカーボタンを押してレイホゥにも内容を聞こえるようにする。

『新しいミッションを提案します。現状における防御体制が整い次第、下層世界の勢力に威力偵察を行う事を推奨』
「攻めに出る、という事か」
『敵対組織が明らかに何らかのミッションの準備態勢にあり、通常の諜報手段が使えない以上、他に情報を入手する手段はありません』
「AIって言うから、もっとゴリゴリの理論主義かと思ったら、案外過激な事言うわね」
『あくまで提案です。ですが、最新の情報の入手は急務です』

 レイホゥが思わず漏らした言葉に、アーサーは的確に反論してくる。

「集団的無差別破壊行為の未然防御としてなら可能かもしれんが、どこにどう仕掛けるかの予定は?」
『ヨスガは報告にあったアサクサでの戦闘で疲弊していると推測、ムスビは正確な本拠地が不明、現状でもっとも力を保有していると推測されるシジマへの威力偵察がもっとも効果的と推測できます』
「となると、確かギンザだったな」
「シジマのボスの氷川って男は一度見た事あるけど、油断ならないってああいう奴の事ね」
「実際にやるかどうかはともかく、議論の価値はあるだろう。詳細を詰めたいので、会議の用意を頼みたい」
『了承、一時間後に』
「みんなにはこっちから知らせておくわ。藤堂君達、戻ってきてるかしら? 風花ちゃんと高尾先生も一緒のはずだけど」
「時間通りならそろそろ下から戻ってくるはずだが………」


二時間半後

「すいません、遅れました」
「大丈夫?」

 予定をオーバーして探索から戻ってきたどこかボロけている尚也に、レイホゥが心配そうに声をかける。

「いや、アサクサの様子を見に行ったら、変な馬に乗った骸骨みたいな悪魔に襲われて」
「それはこの受胎東京に稀に現れる《魔人》と呼ばれる上位悪魔の一体だろう。よく無事だった」
「全員掛かりでなんとか………やっぱりまだまだ油断できない状態みたいです。風花ちゃんと高尾先生が教えてくれなかったら危なかったかも」

 フトミミも心配そうに声を掛ける中、尚也が用意された席に座る。

「取り合えず、会議を始めよう」

 克哉とアーサーを議長に、尚也と南条、達哉と風花、サーフとゲイルにロアルド、フトミミに祐子、レイホゥとたまきと杏奈、通信越しにだがヴィクトルにそしてレッドスプライト号の各班のリーダーなどが室内に集合していた。

「まずは冥界からの報告を聞こう」
「はい、一応冥界に突入した人達との連絡はつきました。ただ、双方瘴気の影響か、ベースキャンプと中継機を通さないとラインが確定できないようです。向こうでも調整しているそうですから、完全な通信ライン確立はもう直だと思います」

 克哉に促され、戻ってきたばかりの風花が代表して報告を述べる。

『シュバルツバースの時も似たような状態でした。想定の範囲内です』
「驚いた事に、冥界でも規模はかなり小さいようですが、こちらと似たような現象が起きてるみたいです。確認されただけで私達の仲間で戦死した荒垣先輩や元ストレガでしたが、こちらに味方してくれてたチドリさん、ライドウさんと同時代の十七代目・葛葉ゲイリンさん、その人達を小岩さんの仲間だったスプーキー、じゃなくて桜井さんがまとめてるそうです。それに、レッドスプライト号の同型艦だったブルージェット号をアジトに使ってるとも聞いてます。」

 風花からの報告に、室内がにわかに騒がしくなる。

「冥界もそこまでデタラメになっているのか」
「だが、むしろ協力者がいる事は幸運だろう」
「でも死人が仲間って大丈夫なの?」
「それよりも冥界の詳細情報が」
「そこまで」

 あちこちから色んな意見が飛び交うのを、克哉が一言で止める。

「今ここで議論しても、結果は出ない。彼らを信じて無事を祈るだけだ。ならばこそ、こちらでやれる事はやっておきたい。そのために集まってもらったのだから」
「その通りね。さすがに冥界の門に増援またダイブさせられないし」
「今の所、悪い予知は出ていない。心配はないだろう」

 克哉の言葉に、レイホゥとフトミミがそれぞれ意見をつけたし、皆がそれぞれ納得した顔をする。

『それでは本題です。今回の議題は新たなミッション、シジマへの威力偵察の是非についてとなります』
「威力偵察、つまりはこちらから討って出ると?」
「可能なのか?」

 議題が出されると同時に、ロアルドと南条が同時に疑問を口にする。

「現在、受胎東京の各勢力が次の行動に向けて準備しているらしい情報が下からもたらされている。幸いにも、葛葉とレッドスプライト号双方の技術提供により、この珠阯レ市を覆う防護陣は完成目前まで来ている。
だが、このまま護りに徹したとしても、前回のムスビの例があるように、どんな手で来るかが分からない以上、こちらから行動を起こすべきという事らしい」
『その通りです』
「だとしたら、問題は三つある」

 克哉の説明を聞いたゲイルが口を開く。

「一つは威力偵察の移動手段だ。小規模の探索ならともかく、威力偵察ともなるとかなりの大規模の部隊を動かす事になる。それは相手にこちらの動きを知らせる事にもなる。
二つは人選、いくら防護陣を形成できても、守護の人員は必要となる。どれだけ人手を割り振るかが問題だ。
そして最後、こちらが行動を起こし、人員を割けば、他の勢力が好機と見て攻勢に出る可能性がある。
これらの問題点が解決されない以上、この作戦には賛同できない」
「相変わらず真顔でキツイ事言うわね」
「私も彼と同じ意見だ。冥界に落ちた面子が戻ってきてからじゃダメなのか?」

 的確な問題点の指摘にたまきが呆れるが、仮面党の代表として杏奈もそれに賛同。

『問題点に返答。このミッションに置いてもっとも重要なのは時間です。三大勢力がどれだけの準備を必要としているかは不明。しかし、冥界探索班の帰還を待てば、それが完了する危険性が極めて大となります。よって、当ミッションを強行させる必要性が高くなります。
また、機動力に置いてはヴィクトル氏から業魔殿の使用許可を受諾済み、シバルバーと呼称されるこの珠阯レ市はちょうど受胎東京の球体内を移動しており、目的地上空に達すると同時に業魔殿による降下作戦として発動させます。
そして人員は現状に置いてもっとも戦闘力が高いと認識される喰奴と他実力者からなる小規模にて構成、降下・攻撃・撤退を極めて短期に行う電撃戦とします』
「待て、短期でどうやって情報収集を行う?」
「私がやります」

 アーサーの回答に別の疑問を南条が出すが、そこで風花が手を上げる。

「私のペルソナなら、短時間で多くの情報を集める事が出来ます。皆さんの攻撃の隙に相手の本拠地になるべく近付いて、集められる限りの情報をアナライズすれば」
「つまり、威力偵察は彼女の情報収集のカモフラージュという事か」

 ロアルドが風花の方を見ながら呟くが、アーサーはさらに追加意見を提唱する。

『完全にという訳ではありません。ペルソナにおける情報収集に何らかの障害が発生した場合、物理的に情報を収集する必要が生じます』
「だとしたら、正面攻撃班の他に、諜報班が必要になるな。ちょうどいい人員が要る事だし」


「ぶぇっくし!」
「パオ、少しは周り片付けたら?」
「あ〜そうだな、だがなんか周防がまた面倒持ち込みそうな予感がしやがる」
「普段面倒持ち込んでんのはどっちよ」


「シジマの本拠地のニヒロ機構なら私が案内できるわ」
「なら案内は高尾先生に頼もう。ただ、君が知っている通りのままならばいいのだが………不確定情報だが、シジマが資材を集めているとの情報もあった」
『その情報ならこちらにも上がってきています。何を建造するのかは不明ですが、それが完成する前に詳細情報を入手するのが最重要事項と認識できます』
「時間に余裕が本当に無いのか………だが仮面党からは人員は出せない。あかりが冥界に行っている以上、実質指揮を取れる幹部は私だけだ」
「私も自警団としてここは離れられないわ。陣が発動しても、調整出来るのはレイホゥさんだけだろうから、葛葉からも人員は出せないって事になるわね」
「となると………」

 杏奈とたまきの意見に、レイホゥが残ったメンバーを見る。

「攻撃はエンブリオンに、諜報はペルソナ使いから出すという事か」
『こちらからも多くは有りませんが、機動班からメンバーを選出します』
「連絡とサポート役だけでいい。こちらの戦闘に巻き込みかねん」
「それは一理あるね。ペルソナ使いならなんとか大丈夫かな? こちらからも攻撃班に何人か出した方がバレにくいだろうし」

 ゲイルの淡々とした言葉に周囲が引く中、尚也だけが頷きながら参加を表明する。

「それでは、正面戦闘班はエンブリオンとエルミンペルソナ使い達から、諜報班は山岸君を中心として、少数厳選で」
『防護フィールド完成、発動直後にミッション開始とします』
「術式展開して、不備を確認して、早くて明後日と言った所ね」
「それまでにメンバーの選出と準備を各自進めておくように」
『40時間後に参加メンバーにてミッション詳細のミーティングを行う事とします』

 幾つかの事柄が決められ、参加していたメンバーがそれぞれの準備に取り掛かるためにその場を後にする。

「さて、それじゃこちらも準備しないと」
「あ、はい」

 祐子に促され、考え事をしたままその場から動かなかった風花が慌てて席から立ち上がる。

「そういえば、潜入チームのリーダーって誰になるんですか?」
「それはこれからね。どれだけ人手を割けるか分からないし………危なくなったら一人でもいいから逃げなさい」
「そういう訳には………」
「問題ない、こちらで派手に暴れておく」

 口ごもる風花に、会議中でも無口だったサーフがすれ違い様にそれだけ行って部屋を出て行く。

「だそうよ」
「あまり派手に暴れ過ぎられても困るかと………」
「その分、静かに行きましょう」
「そうですね……」

 他に言いようが無く、風花も準備をするべくその場を後にした。



二日後

「各ポジション、最終確認」
「リンク確認、数値安定」

 珠阯レ市を囲む五芒星の頂点にある場所にそれぞれセットされたフィールド発生装置からの情報を聞きながら、レイホゥは上空で待機している業魔殿へと視線を送る。

「それじゃ、始めるわ」
『こちらでもサーチしている。始めてくれ』

 ヴィクトルからの返信を聞くと、レイホゥは用意した祭壇の前に結跏趺坐し、手を合わせて精神を集中させる。

「タカアマハラニ カムヅマリマス。スメラガムツカムロギ…」

 静かに詠唱が始まり、それに応じてフィールド発生装置にエネルギーが注入されていく。

「リンク係数、上昇。各ポジションの誤差、許容範囲内」
「流入エネルギー、レイホゥ女史にシンクロ」

 観測班からの報告が飛び交う中、詠唱はさらに続く。

「アマノミカゲ ヒノミカゲ トカクリマシテ ヤスクニト タイラケク シロシメ…」
「リンク係数、急上昇! 誤差修正急げ!」
「流入エネルギー、フィールド発生数値まであと26%!」

 機材の調整が大急ぎで行われる中、レイホゥは一心に詠唱を続けていく。

「ケフヨリハジメテ ツミトイフツミハアラジト。キョウノユウヒノ クダチノオオハラヘニ ハラヘタマヒキヨメタマフコトヲ モロモロキコシメセトノル」

 詠唱の終了と同時に、レイホゥは拍手を打ち、ありったけの魔力を注ぎ込む。

「リンク係数、MAX!」
「流入エネルギー量、予定数値に到達! フィールド発生します!」

 観測班の報告と同時に、各所のフィールド発生装置が一斉に発動、珠阯レ市を覆う防護フィールドが完成した。

「ふう、これで一安心ね」
「レッドスプライト号のプラズマ装甲並とはいきませんが、魔術的措置も施したので防護力はかなりの物でしょう」
『こちらでも発生を確認した。観測上、問題点はないようだ』
『私のペルソナでも確認しました。特に穴のような場所は見つかりません』
「出入りはちょっと不便になるけど、これで多少の敵襲は防げるわ」

 ヴィクトルと風花の報告を聞いて、レイホゥは胸を撫で下ろす。

『それでは、次のミッションを開始してください』
「業魔殿、目標に向けて降下を開始する」

 アーサーからの指示を受け、業魔殿がシバルバーの影から一気に真下、ギンザのニヒロ機構へと向かっていく。

「ニヒロ機構はかなり複雑な構造になってるわ。マントラ軍の総攻撃を受けた時も、中枢は無傷だったくらい」
「問題は向こうがこちらの襲撃にどう反応するかだ。篭城されたら、こちらの作戦は全て無駄になる」
「その時は威圧するだけ威圧して帰るだけだ。幾ら中枢が無事でも、外部が廃墟になれば黙ってもいられまい」
「………南条、最近何か妙な影響受けてない?」

 祐子の説明に、ゲイルと南条が作戦の最終確認をするが、内容の過激さに尚也が少し顔を引き攣らせる。

「さて、じゃあ行くか」
「え? まだ作戦高度には…」
「その前にパラシュート…」

 到底安全とは言えない高度から、乗降用ハッチを開けたヒートに何人かが声をかける間も無く、グレネードランチャー片手のヒートがハッチから飛び降りる。

「ちょ……」
「じゃあオレも」
「いや、あんたは飛べるからいいけど……」

 続けてシエロが飛び出し、落下する中でアートマが光り、喰奴へと姿を変化させる。
 シエロが空中で旋回してニヒロ機構の様子を探ろうとするが、すでにそこで複数の爆発が生じていた。

「ヒートの奴、もう始めてるぜ」
『気の短い人だね………』
「オレも始めるとするぜブラザー! マハ・ジオンガ!」

 落下しながらもニヒロ機構周囲にいる悪魔に向かってグレネードを速射するヒートに習い、シエロも一気に近寄ると周辺に電撃魔法を撒き散らかす。

「あの人達、本当に段取り分かってるのかな?」
「そのはず………だよな?」
「我々の目的は威力偵察を兼ねた陽動だ。派手に動けば動く程目的は達成しやすい」
「行くぞ」

 低高度用の小型パラシュートを背負いながら、すでに派手に暴れている二人を見つつ呟くエミルンOBペルソナ使い達だったが、そこへエンブリオンの残ったメンバーが次々とパラシュート無しで降下していく。
 次々とアートマが光り、その姿が喰奴と化して地面へと派手に着陸していく様子に、ペルソナ使い達の顔色が変わる。

「………オレらもやるか?」
「出来ると思うかよ? 生身がブレイクは勘弁だぜ」
「橋頭堡はエンブリオンが築く。我々は戦線の確保が主な仕事となる」
「そろそろあちらの迎撃も本格化してるくだろうしね。もう降りて大丈夫かな?」
「作戦高度に到達しました!」

 マークとブラウンがクレーターを穿った直後に暴れ始める喰奴の姿に顔色を青くするが、南条と尚也が冷静に準備を勧めていく。

「それじゃあ、行くよ」
『お〜』

 サポート役のレッドスプライト号クルーからの報告を聞いた尚也が先頭に立ち、ペルソナ使い達が次々と降下していく。

「3,2,1!」

 教えられた通り、業魔殿からある程度離れるとコードが引かれ、次々とパラシュートが開き、ペルソナ使い達が降下していく。

「よっと」
「うわわ!?」
「こっちに!」

 なんとか無事に着地した尚也が、バランスを崩しそうになった麻希を支える。

「全員無事か!」
「なんとか……」
「う〜ん、これが本当の大鼻ング………」

 南条が声を掛ける中、着地に失敗したのか前のめりで腰だけ上げているマークと、大の字になって顔面を強打したらしいブラウンが情けない声で返答してくる。

「今の内に戦線を確立!」
「資材下ろせ!」

 続けてデモニカ姿の部隊が弾薬やバリケード用の資材と共に次々と降りてくる。

「さて、じゃあ準備が済むまでこちらも頑張るとしようか」
「ええ!」「行くぞ!」「よおし!」「イクぜぇ!」

 尚也の号令と同時に、麻希、南条、マーク、ブラウンの五人は、同時に己のアルカナカードを用いて、ペルソナを発動させた。



「敵襲! 敵襲!」
「敵はあの浮遊都市の連中だ!」
「氷川様に連絡急げ!」
「決して奥に入れるな!」

 外から響いてくる爆音や戦闘音に、シジマの悪魔達が騒ぎ立てながら迎撃のために、続々とニヒロ機構の中から出撃していく。
 出れるだけの悪魔達が出て行ったのを見計らうように、アマラ転輪鼓が置いてある部屋からそっと覗く人影があった。

「よしOK、こそっと行くわよ」

 予め先行してギンザ経由で転移し、機を見計らって部屋からこそこそと出た舞耶が手招きし、その後ろにうらら、祐子、風花(+護衛のデビルバスターバスターズ)、乾とコロマル、エリーにパオフゥと続いた。

「上手い事出て行ったわね」
「予想してなかったのか、備えがあるのか……それと天野さん」
「何、先生?」
「それは外して置いた方が………」
「いや、気分出るかと思って」

 祐子に指摘され、舞耶はどこから用意したのか唐草模様の頬かむりとサングラスを外していく。

「上の方、相当すごい事になってます。エンブリオンの人達、ストレスでもたまってたんでしょうか?」
「食い放題ってのもあるだろうぜ。しばらくまともに食ってなかったろうからな」
「考えたくないSituationですわ………」

 風花がペルソナで周囲の様子を確認し、パオフゥも手持ちの機器を幾つか作動させて周囲を警戒する中、エリーが地下にまで響いてくる振動に僅かに眉を潜める。

「ここから先はニヒロ機構でも心臓部に近付きます。注意してください」
「ヒーホー!」「進軍だホ!」
「シ〜〜〜」

 祐子の案内で更に地下へと向かう前に、騒ぐデビルバスターバスターズを黙らせて一向は下へと向かっていく。

「……妙だな。静か過ぎる」
「全員出撃したんじゃない?」
「それが、反応が本当に無いんです。上とずっと下の方にはあるんですけど………」
「Oh、何かのPlanの準備をしてるというのは本当かもしれません」
「そいつを調べんのがオレらの仕事だ。急ぐぜ」

 やけに静かな地下の様子に、皆が不信感を小声で話しながら、注意に注意を重ねて下へ下へと向かっていく。
 マガツヒ貯蔵庫や宝物庫を抜ける最中、搬入途中と思われる資材や機械部品をチェックしながら、一向は更なる不信感を募らせていった。

「何か作ってやがるのは確かだな」
「Magic SquareかAltarの準備でもしているかと思いましたが、もっとMechanicalな物のようですわね………」
「妙だわ。氷川は確かに多才な男だけど、こんな大掛かりな装置なんて作るような事は………」
「なんかイヤ〜な予感するわね」
「ヤバいのだったらぶち壊しちゃいましょ」
「天野さんって、意外と言う事過激ですね………」
「天田君、人は見た目で判断しない方いいわよ、ペルソナ使いは特にね」
「はあ………」
「もう直最深部よ」

 何があるのか予想も出来ず、一向が警戒を強めていく中、祐子の言葉に全員が緊張を最大限に高める。

「悪魔が5、6体……それと中に何か巨大な機械みたいな物があります」
「やばそうな奴とか、やばそうな物はあるか?」
「いえ、特には………」
「じゃあ中を押さえるぜ。オレらは右、天野と桐島は左。天田とコロマルは出入り口を押さえてろ」
「了解」「OK」「いつでも」「分かりました」「ワン」

 無言でパオフゥは指でカウントし、それが0になると一気に扉を開けて中へと踏み込んだ。

「何者だ!?」「貴様ら…」

 中にいた豹の姿をしたソロモン72柱の悪魔の一人、堕天使 オセと五芒星の姿をした同じくソロモン72柱の一人、堕天使 デカラビアが突如として踏み込んできた人影へと振り向くが、すでに踏み込んだ四人はペルソナカードをかざしていた。

「プロメテウス!」『ワイズマンスナップ!』
「アステリア!」『ツインクルネビュラ!』
「アルテミス!」『クレセントミラー!』
「ガブリエル!」『リリーズジェイル!』

 四体のペルソナから、漆黒の弾丸が、猛烈な竜巻が、煌く月の光が、猛烈な凍気を伴った氷の檻が解き放たれ、その軌道上にいた悪魔達を一瞬にして飲み込み、打ち倒していく。

「いかん! 氷川様に報告を…」
「たあっ!」「アオーン!」『アギダイン!』

 かろうじて攻撃を逃れたデカラビアが逃走を図ろうとするが、入り口で待ち構えていた乾の槍がそれを阻み、コロマルのペルソナから放たれた火炎魔法がその体を室内へと押し返す。

「この、子供と犬風情が!」
「おっと待ちな」

 魔法耐性でダメージが少なかったデカラビアが乾とコロマルに反撃しようとした所で、パオフゥがその肩(っぽい所)に手をかける。
 両脇はすでにエリーとうららが固め、舞耶が素早く天田の前へと立って銃口を向ける。

「ちょっと聞きてえんだが、こいつは何だ? こんな所でこんなデカイ機械造って何してやがった?」
「し、知らぬ………知っていても言う物か………」

 完全に不利と悟ったデカラビアが最後の抵抗とばかりに白を切る。
 が、それを聞いたパオフゥはむしろ笑みを浮かべる。

「知っていてもって事は、こいつが何か氷川から聞いてないって事か? 知っていたならもっと別の事言うだろうしな」
「あ、なるほど」
「信用はしてても信頼はしない、氷川らしい使い方だわ」

 パオフゥの断言に乾は思わず納得し、祐子は小さく吐息を漏らす。

「どうするコイツ? 始末するか?」
「Oh、他に聞きたい事は色々ありますわ」
「取り合えず、ふんじばっとこ」
「手伝うホ!」「大人しくするんだホ!」

 うららが嬉々として出掛けに用意しておいた葛葉特性注連縄でデカラビアを適当な機材に縛り上げ、デビルバスターバスターズもそれを手伝う。

「さってと、それじゃあ自分らで調べるとするか。山岸、アナライズの方頼む。オレは中身を調べてみる」
「分かりました」

 パオフゥは持参したノートPCを広げて謎の機械に接続、風花は自らのペルソナで機械を調べ始める。

「What‘s、このMachine何か見覚えがあるような………」
「エリーさんこっち見てもらえる? なんか妙な魔法陣みたいなのあるんだけど」
「氷川が造ったにしてはどこかおかしいような………」
「え〜と、これ何か書いてあるけど、専門用語だらけで全然意味が………」

 皆がそれぞれその機械を調べる中、乾とコロマルは縛り上げられたデカラビアを監視していた。

「ふん。どうせ貴様らのような下賎な連中に氷川様のやる事なぞ理解出来ぬわ」
「黙ってろ!」「ワンワン!」
「言いたい奴は言わせておけ。相手してたら疲れるだけだぜ。ち、なんて硬いプロテクトだ………」
「す、すいません。複雑過ぎて概要把握に大分かかりそうで………」
「うひゃあ、何これ。カバーの下魔法陣みたいなのビッチリ」
「何と………MachineとMagicのMixですわ」
「……妙ね。氷川にそんな技術は持ってないはず………」
「この状況だぜ、どこに誰が肩入れしてるか分かった物じゃねえ。くそ、またトラップか!」
「う〜ん、これ何語かしら? あら?」

 それぞれが悪戦苦闘する中、舞耶が調べていた書類から何か聞き覚えがあるような単語を見つける。

「これ、この機械の名前かしら?」
「何て書いてある?」
「《Reverse・Deva SYSTEM》?」

 その単語に、エリーの顔色が一瞬にして変わり、そして改めてその装置を凝視した。

「ちょっと待て! Deva SYSTEっつやあ……」
「お、思い出しましたわ………確かに、これとよく似ていました………」

 エリーがかつてのセベク・スキャンダルの元凶となった装置と目の前の物を脳内で比較し、顔どころか全身から血の気を失う。

「……って事は、ここに噛んでやがるのは」
「ワンワンワンワン!」

 そこでコロマルが突然出入り口に向かって猛烈に吠え始める。

「どうしたコロマル?」
「コロちゃん? 誰もいないよ?」
「Personaにも何も……」

 あまりの吠え方に皆が驚く中、コロマルはなおも猛然と吠え続ける。

「そこを避けろ! 何かいやがる!」
「そこぉ!」

 パオフゥが叫びながら指弾を打ち出し、舞耶が何も無い空間へと向かって二丁拳銃を連射する。
 放たれた指弾と弾丸は、何も無い空間で突然何かに弾かれ、明後日の方向へと跳弾した。

「え………そんなまさか………」
「Stealthですわ!」

 全員が一斉に構える中、何も無かった空間に透明な影のような物が浮かび上がり、それの輪郭がはっきりしたかと思うと、やがて色彩が付いて一人の男性と彼を守るように立ちはだかる装甲ユニットX‐3を露にした。

「ふむ、EMCと光学迷彩、隠行術を融合させた完全なステルスのはずだったが、犬の鼻は考えてなかった」
「わざわざそちらから来てくれましたわね、神取 鷹久!」

 エリーがその男の名を呼びながら、レイピアを突きつける。

「周防が大正時代で見たとは言ってたが、まさかこんな所に来てたとはな………」
「ふふ、懐かしい顔もいるな、それに変わったペルソナ使いもいるようだ」

 パオフゥを始めとし、他のペルソナ使いも警戒を最大にする中、神取の視線が風花へと向けられ、乾とコロマル、デビルバスターバスターズがその前に立ちはだかって視線を遮ろうとする。

「あなた、氷川に何を教えたの!? この機械は一体何!? 何をしようとしてるの!?」
「待って祐子先生、聞いても教えてくれるかどうか分からない相手よ」

 矢継ぎ早に質問を投げかける祐子に、舞耶は片手でそれを制しながらも、神取からは一瞬足りとて目を離さない。

「さて、どうするべきか。質問に答えてもいいが………」
「いいぜ別に答えてくれなくてもよ。ここで手前と、この機械をぶっ壊せば済むだけだろ」

 ノートPCを仕舞いこんだパオフゥが、指弾とアルカナカードをいつでも出せる体勢で神取を睨みつける。

「おい! 早く氷川様に知らせるんだ! これはマガツヒを集める重要な物だろう!」
「マガツヒを、集める?」

 縛られたままだったデカラビアがもがきながら神取へと怒鳴るが、その言葉にエリーの脳内でかつてのセベクスキャンダルの時の記憶と、これから起こる可能性が組みあがっていく。

「分かりましたわ! 前はMakiを触媒にして起こした現象のReverse、シバルバーの人間全てを触媒にしてマガツヒEnergyを集めるつもりですわ!」
「ちっ、前に『穢れ』を集めた時と同じ手か!」
「させるか、ンニャロー!」

 うららが即座に振り返ってペルソナの力を相乗させた拳をReverse・Deva SYSTEMに叩き込もうとする。

「ちょっと待ってく…」

 何かに気付いた風花が制止しようとするが間に合わず、必殺の拳は炸裂する直前、障壁のような物に阻まれ、勢い余ってうららは体ごと弾き飛ばされる。

「うぎゃあ!」「うらら!」「だ、大丈夫……」
「いつの間にか火入れてやがったか……!」


 舞耶が慌ててうららを抱き起こそうとするが、うららは手を振ってなんとか立ち上がる。
 鳴動を始めているReverse・Deva SYSTEMを見ながら、パオフゥは舌打ちしながらどちらを優先するかを考える。

「天野」「分かってるって」

 パオフゥと舞耶が左右に分かれて神取を囲むようにし、うららとエリーが正面を陣取って拳とレイピアを構える。

「ふふ、こうしていると、あの海底遺跡を思い出すね」
「前より厄介な物連れてるじゃねえか。てめえ、どこでそんなの造りやがった? このデカブツもここで組み上げただけみてえのようだが………」
「さて、ね………」

 神取の浮かべた笑みを合図にしたかのように、舞耶の二丁拳銃とパオフゥの指弾が同時に放たれる。
 だが]‐3が素早く前に出て攻撃を阻む。

「ガブリエル!」『光の裁き!』

 そこへエリーが神聖魔法を放ち、聖なる光がX‐3ごと神取を襲う。

「この程度…?」

 眩い光に神取は目を腕で覆いながらその一撃を耐えようとするが、そこで隣を何かが通り過ぎていった事に気付く。

「え…!」「ワンワン!」「あの!」「いいから! 高尾先生!」

 エリーの魔法攻撃の隙に神取の脇を通り過ぎたうららが、乾と風花を脇に抱え、出入り口へと向かっていく。
 それの意図に気付いた祐子とコロマルも部屋から外へと出た所で、うららが二人を通路へと投げ捨てるように離し、そのまま振り向いて神取の方へと向かって構える。

「ここはアタシらがどうにかするから、あんた達は逃げなさい!」
「けど………!」
「いいから! この事を早く上の人達に! ほらあんたらも!」
「ヒホ!?」「何するホ!?」

 出遅れたデビルバスターバスターズを半ば蹴り出す様に外に叩き出し、うららは扉を閉める。

「なるほど、非戦闘員の脱出が優先か。彼女のペルソナ、探知能力に優れる分、攻撃力が皆無に等しいという事か?」
「その前に、ここから先はR18だからね。未成年は先生の保護付きで退場してもらったわ」
「あんたにゃ、吐いてもらわない事が山とあるしね〜」
「見た所、まだこいつは本格的に起動してねえようだしな」
「これ以上、悪行を見過ごす事はできません。ここでJudgeさせてもらいます!」

 四人のペルソナ使いに囲まれながらも、神取の顔からは余裕の色が消える様子は無い。

「ニャルラトホテプ!」

 神取が己のペルソナを発動させるのを見た四人も、それぞれペルソナを発動させる。


「ど、どうします!?」
「聞いてたでしょう? 早く彼の事をみんなに知らせるのよ」

 突然の事に慌てる乾を、祐子がたしなめて上へと向かおうとする。

「けど! あの人変なロボット連れてて、すごい強そうでしたよ!」
「強そうじゃなくて、すごい力を感じました………ストレガの人達よりも、もっと深い闇を孕んだような………」

 神取の力を感じた風花が、呆然と呟く。

「じゃあ、尚の事加勢を…」
「そうね。だから早く上に行って加勢を呼んでくるのよ。あの男、氷川とよく似た目をしていたわ。下手な力では、多分敵わない」
「……私もそう思います。急ぎましょう!」
「ワンワン!」「全力で後退だホ!」「戦略的撤退とも言うホ!」

 状況を理解しているのか、コロマルが何度か鳴くと先陣を切って走り出し、デビルバスターバスターズもそれに続く。

「待っててください! 今皆さんを呼んできます!」

 風花は一度だけ背後の扉にそう叫ぶと、上へと向かって走り出した………


 道を切り開くべき行動を開始した糸達の前に、予想外の壁が立ちはだかる。
 その壁の向こう側に待ち構えるは、果たして………





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