PART41 OLD NEW FACE(前編)


真・女神転生クロス

PART41 OLD NEW FACE(前編)




 巨大なトマホークを掲げた機械仕掛の少女、ラビリスは己の前方にいる幾月とメティス達、そして後方にいるアイギスとメアリ・アリサを交互に見る。

「………一体これはどういう事なんや?」
「え?」

 ラビリスの口から出てきた、流暢な京訛りの関西弁に、思わずアリサが間抜けな声を上げる。

「同型機言うには、あまりにそっくりすぎる奴が大勢おるし、幾月博士は生体反応あらへんし、そもそもここ一体どこなんや!」
「冥界です」「俗に言う所のあの世であります」
「あの世!? 何の冗談や! そもそもアンタら誰や! 認識コード出とらんで!」
「彼女達はメアリさんとアリサさん。私の友達です、ラビリス……姉さん」

 状況を飲み込めていないラビリスに、アイギスが簡単に説明し、最後に少し考えてから一言を付け足す。

「コード確認、あんたがウチの妹機のアイギスやな。一応、あんたと仲間達を助けるようにプログラミングされてきてるで」
「ほほう、プログラムに背いて暴走し、封印された機体が、妹機を助けにね………」

 幾月がメティス達を手で制し、ラビリスの様子を観察する。

「正直、さっきまで再起動したてでメモリすっきりしとらんかったんやけど、目的地で妹機らしいのが次々自爆してるの感知したら、イヤでも目覚めたわ。そしてその自爆命令出してるらしい顔見知りと、協力して戦ってる妹機らしき奴、どっちゃに味方しはるかわかりきってるやろ?」
「姉さん………」
「それとも一つ、今死んでるようやから言うんやけど、幾月博士、ウチあんたン事昔から嫌いや」
「なるほど、確かに敵対するには充分だろうね」

 幾月はそう言いながら、薄ら笑いを浮かべつつ、上げていた手を下ろす。
 それを合図に、メティス達は一斉に動き始めた。

「アリアドネ!」『ストリングアーツ!』

 予見していたのか、ラビリスが己のペルソナを発動、ギリシア神話でミノタウロスを倒した英雄テセウスを助けた女神・アリアドネが無数の糸で防壁を形成する。

「姉さん、私も…」
「何言うとるんや。三人そろうてオーバーヒート気味やないか。冷めるまでの時間位は稼いどくさかい、急ぎ」
「ラビリスさん、何故私達まで助けるのですか?」
「………後で答えるさかい」

 自分自身、何故アイギスだけでなくメアリ達を助けるのかは理解出来ぬまま、ラビリスはトマホークを構える。

「オルギア発動」「発動」「発動」

 ラビリスを完全に敵と認識したのか、メティスの数体がオルギアを発動させ、防壁を強引にぶち破って襲いかかってくる。

「せいやぁ!」

 ラビリスは身の丈程もあるトマホーク、その刃に内蔵されたブースターを噴射させ、力任せに襲ってきたメティス数体を弾き飛ばした。

「さすが選抜テストを生き残った機体だ。再稼働したばかりとは思えない性能だね」
「ウチはもうこないな事しとうなかったんやけどな………」

 かつて対シャドウ兵器選抜テストのため、同型機を何体も破壊させられた過去を思い出したラビリスは、苦渋の表情を浮かべる。

「また、うちにこないな事やらすんか! おい、あんたら自分の心って物がないんか?」
「姉さん、その呼びかけは無駄であります」
「そこのオリジナル以外はペルソナを呼び出すだけのメンタルしか存在してない様です」
「………ペルソナ呼び出せるようになったら、他の思考は用済みと考えたって事やな」
「戦ってみてても、この子達の行動は何の揺らぎもないよ。機械として反応してるだけ」

 自分達に襲いかかろうとするメティス達の瞳に、なんの抑揚も無い機械的な反応しか感じない事でラビリスはアイギス達の言葉が真実と感じ取る。

「うちの同型でも、そこまで酷くはなかったで。どうやら、あの幾月博士に言う文句がさらに増えたようやな」

 トマホークを握る手に、更なる力が篭もる。

(可哀想な妹モドキに、心ある妹をやられてたまるかいな)

 だが迷う暇も無く、メティス達は次から次へと襲い掛かってきた。

「効果範囲確認」
「!」

 間近まで来たメティスの呟きに気付いたラビリスが一気に後ろへと下がった直後、そのメティスが自爆し、爆風が吹き抜ける。

「またや! どないなシステム組み込んどるんや! 自己破壊なんてウチらの時は入ってへんはずや!」
「私の中にも入ってません」
「後継機だからね、旧型に入ってない物も色々入っているんだよ」
「そうなん? 性能劣化しとるようにしか見えへんわ」
「それはどうかな?」

 幾月がそう言うと、今度はメティスが時間差を置いてラビリスへと襲い掛かってくる。

「この!」

 最初の一体をトマホークで薙ぎ払うが、その直後に薙ぎ払ったメティスの背後からもう一体が高速で迫る。

「させへん!」

 とっさにトマホークの柄から片手を離し、拳を発射させたラビリスだったが、それを狙っていたのか別の一体が背後から迫る。

「アリアドネ!」『ストリングアーツ・剣!』

 ラビリスはペルソナを発動、糸で攻勢された剣が背後から来た一体を吹き飛ばすが、今度は上空から別の一体が迫ってくる。

(アカン! 攻撃パターン読まれとる!)

 的確に攻撃を誘発し、こちらの隙を創りだそうとしている事にラビリスが驚愕した時、飛来した弾丸が上空の一体を貫く。

「冷却率70%………戦闘は可能です、ラビリス姉さん」
「アイギス………」
「もう少しだけお待ちください」
「私達も、すぐ………」

 援護射撃してきたアイギスだけでなく、メアリとアリサもなんとか立ち上がろうとしている。

(この子ら………)

 幾らアイギスの姉妹機とは言え、いきなり乱入してきた自分を信用する二人に、ラビリスは更なる戸惑いを覚える。

「アテナ!」『ヒートウェイブ!』
「アリアドネ!」『ストリングアーツ・猛獣!』

 姉妹機のペルソナが繰り出す一閃と糸で形成された人身牛頭の一撃が、迫ってきたメティス達を吹き飛ばす。

「アリサ、援護は可能ですか?」
「足はまだ冷えきってないけど、撃つ位なら!」
「行きましょう」

 メアリが手にしたデューク・サイズを杖代わりになんとか立ち上がり、アリサは隣でESガンを構える。

「あんたら………」
「油断は禁物です」
「次来てる!」

 ラビリスがまだ満足に動けないメアリとアリサを見た時、襲ってきたメティスを大鎌の一閃とエレメント弾の弾幕が迎撃する。

「ラビリス姉さん、メアリさんとアリサさんは戦闘用ではありませんが、頼りになります」
「その様やな」

 アイギスに返答しながら、ラビリスは唐突に気付いた。
 他の三人は、自分をすでに仲間だと認識している事に。

「旧型に非戦闘用、さてどこまで持つかな?」
「ウチらを舐めるんやないで!」

 幾月とメティス達を睨みながら、ラビリスは叫ぶ。
 初めて出来た、仲間と共に戦うために。



「ヤアァハアァァ!!」

 気合と共に炎を纏った竜巻が荒れ狂い、爆風を逆に弾き返す。

「フウウゥゥ………」

 深呼吸と共に魔人化を解いたダンテだったが、さすがに軽傷とは言いかねるダメージを負っていた。

「よお無事か」
「まあな、あんたは?」
「仲魔を半分やられた」

 片腕から滴り落ちる血を応急処置で止めながら来たキョウジに、ダンテも額から流れてくる血を拭って舌打ちする。

「ロボットに自爆装置とはセオリーだが、ここで使ってくるとはな」
「オレ達に集中したのは、他の連中にはよかったかもな。ガキ達は一応無事みてえだ」
「いや、あのメガネのオッサンの前、メイドロボ三人が取り残されてるようだ。一人増えてるけど」
「何だそりゃ。さっき飛んできたのか?」

 メティスの自爆攻撃で損傷したのか、エラー表示が幾つか出ているGUMPを確認したキョウジに、ダンテが目をこらそうとした所で、残ったメティス達が立ちはだかってくる。

「どうやら邪魔されたくねえみてえだぜ」
「あのオッサン、そういう趣味か。いかにもそういう面してたな」

 悪態をつきながら、キョウジとダンテは七支刀とリベリオンを構える。

「メイドロボ加虐趣味たぁ、変態が過ぎるぜ!」
「人形遊びの度が過ぎてるぜ!」

 負傷した互いをかばいながら、二人の男が大剣を振りかざし、襲ってくるメティスへと向かっていった。



「順平、大丈夫!?」
「な、なんとか………」

 追ってきた最後の一体の自爆で吹き飛ばされつつ、多少奇妙な体勢で着地した順平が啓人に手を挙げる。

「皆は?」
「ゆかり達はあっち、桐条先輩も一緒だ。真田先輩と荒垣先輩は………」
「ここだ、大分離されたな」
「くそ、幾月さんがあそこまでイカれてたとは………」
「荒垣先輩! ちょっと火付いてる火!」
「砂だ! 水無い時は砂をかけろって消防訓練で聞いたぜ!」

 何をどうしたのか、あちこち焦げてる明彦と真次郎に啓人と順平が仰天しつつ、状況を確認する。

「まずい、アイギス達が孤立してる!」
「何か一人増えてね?」
「理事長め、今際の際の事根に持ってたか………急ぐぞ!」
「その前に先輩は治療を! ゆかり早く来てくれ!」

 窮地を逃れた特別課外活動部メンバー達が、再度集結してアイギス達の救援へと向かおうとする。
 だがそこへ、新たなメティスの一群が立ち塞がった。

「オルギア発動」「発動」「発動」
「くっ、タナトス!」「トリスメギストス!」

 次々とオルギアを発動させるメティス達に、こちらもペルソナを発動させてそれに対抗する。

「一人じゃ押し込まれるぞ! 複数で持ちこたえろ!」
「つっても…横から来たぁ〜!」
「カエサル!」『ジオダイン!』
「カストール!」『ヒートウェイブ!』

 美鶴が駆け寄りながら叫んだ所に、順平を狙ってきた別のメティスを明彦と真次郎がかろうじてペルソナで弾き飛ばす。

「急げゆかり!」
「はい! ってこっちにも来てる!」
「アルテミシア!」『ブフダイン!』

 向ってきたメティスに美鶴は氷結魔法を放つが、オルギアの加速で避けられ、トマホークを振りかざした所にゆかりが放った矢が直撃して体勢を崩す。

「先輩早く!」
「円陣を組め! オルギアが切れるまで防御に徹する!」

 啓人が手招きする中、美鶴は叫びながらある違和感を感じていた。

「明彦」
「ああ、何か変だ」

 互いに背後を預ける形になった二人が、互いに違和感を感じてる事を確認する。

「何がすか先輩!」
「さっきまで自爆してまでこちらを殺そうとしていた連中が、なぜ自爆を止めた?」
『あ!?』

 明彦の言葉に、順平とゆかりが同時に声を上げる。

「多分、時間稼ぎ」
「だろうな」

 その事に気付いていた啓人の呟きに、美鶴も頷く。

「恨みを持って死んだ者は、それに執着する悪霊になる。怪談にはありがちだが、どうやら事実のようだな」
「じゃあ、理事長の狙いは!」
「死因はお父様との銃撃戦だが、起因となったアイギスの破壊こそが最大目標………!」
「アイギス!」

 思わず啓人が叫びながら、召喚器のトリガーを三連射。

『インフィニティ・ヴォイド!』

 タナトス・トランペッター・セトの三体のペルソナを同時召喚、メティス達を取り囲むように三角形を形成し、中央に出現した漆黒のホールから吹き出した闇が、メティス達を飲み込んでいく。

「暗黒属性攻撃、危険度大…」

 言葉の途中で、啓人の必殺ミックスレイドを食らったメティスの一体が闇に完全に侵食され、機能を停止。
 別の二体も大きくダメージを受け、オルギアモードが強制遮断、フリーズ状態へと陥る。

「そこだ!」
「はあっ!」

 そこに飛び出した美鶴と明彦がメティスの胸の中央、アイギス同様、エネルギーコアがある部分をレイピアとナックルで貫き、完全に停止させる。

「や、やった!」
「三体倒すだけでこんなに………」

 順平が喝采を上げるが、ゆかりはむしろどっと疲労感を感じていた。

「急ごう!」

 チューインソウルを口に突っ込みつつ、啓人は我先にアイギスの元へと向かい、皆もそれに続く。
 自分達が倒したメティスの残骸を通りすぎようとした時、ふと美鶴の目に大きく破損したメティスの胸部内にある部品が見える。

(黄昏の羽根、に何か別の部品が…)

 召喚器にも使われている黄昏の羽根の入っていたらしいカプセルの隣に淡く光る何かを見た美鶴が、それをどこかで見た気がした所で、倒したはずのメティスの手が僅かに動く。

(!? 思い出した! 確か業魔殿で!)
「明彦! 荒垣!」
「どうした美鶴?」
「おい、あれ…」

 叫びながら振り返った美鶴が、手にしたレイピアで再度立ち上がろうとしたメティスの胸を貫く。

「複合コア型だ! 内部を完全に破壊しろ!」
「カエサル!」『ソニックパンチ!』
「カストール!」『デスバウンド!』

 美鶴が動きを止めてる間に、明彦と真次郎のペルソナが今度こそメティスのエネルギーコアを完全に破壊した。

「美鶴先輩!?」
「いいから行け! 殿は引き受ける!」

 振り返ろうとしたゆかりを止まらないように叫びながら、美鶴はペルソナを発動させて周囲をアナライズする。

「2、いや3体か。こちらに向かってきている。先程気付いたが、こいつらは黄昏の羽根の小片に、メアリ達と同じマグネタイトリアクターを併設しているようだ。これが量産化の秘密という訳か………」
「理事長の奴、どこでそんな事を覚えたんだ?」
「似たような事やってた奴見つけたんだろ」

 向かってくるメティス達を足止めするべく、明彦がファイティングポーズを取り、真次郎が斧を構える。

「量産型のペルソナが不完全だったのもこれで納得出来る。起動エネルギーに使えても、ペルソナ発動には足らなかったのだろう」
「一体ずつ、落ち着いて対処すれば怖くない、と言う事か」
「三人がかりでな」

 完全にフォーメーションを組んで向かってくるメティス達に、三人は狙いを先頭の一体に定め、構える。

「父の仇討ちは、彼らに任すとしよう」
「こっちが終わったら、絶対殴りに行くぞオレは」
「オレの分も残しとけアキ」

 もっとも長く幾月と関わりを持ち、私怨もある三人だが感情よりも任務を優先させ、メティス達へと相対した。



「ぐふっ……!」
「姉さん!」

 大小二つのトマホークがかち合い、質量的に上と思われたはずの大きいトマホークを構えたラビリスが弾き飛ばされる。

「な、なんちゅうパワーや………」
「邪魔です、ラビリス姉さん」

 アイギス同様、ラビリスを姉と呼ぶが、まったく感情の篭っていないオリジナルメティスの声に、ラビリスはスペック以外の違いを感じ、僅かに嫌悪感と恐怖を覚える。

「ウチやアイギスも、こうしたかったんか? 幾月博士」
「君達に望む物はもう何もないよ。メティスは君達のデータから更に戦闘に特化させた、究極の完成品だからね」
「コピーぎょうさん作っておいて、何が完成品や!」
「そっちは戦力増強も兼ねた、まあテストモデルと言った所だよ。数を出さないと戦力として使いにくいのが難点だけどね」
「アテナ!」『ヒートウェイブ!』「そこです」「発射!」

 オリジナルメティスとラビリスが死闘を繰り広げる背後では、アイギス、メアリ、アリサの三人掛かりで向かってきた量産型メティスの一体をなんとか倒していた。

「こちらはなんとか終わりました!」「加勢致します」「次弾装填するまで待って!」

 ラビリスがオリジナルメティスを相手している間に、多少のダメージ覚悟で量産型メティス一体ずつに集中攻撃をかける事で撃破しいていったが、ラビリスは明らかにオリジナルメティスに押されていた。

「破壊目標三体増加、戦闘に支障無し」
「言ってくれるわ!」「攻撃致します」

 淡々と告げるオリジナルメティスに、右からラビリスのトマホークが左からメアリのデューク・サイズが迫る。
 巨大な斧と鎌の同時攻撃に、オリジナルメティスはその場を動かず、トマホークの一撃をトマホークで、サイズの一撃を何と素手で柄を掴んで止める。

「な、片手やて!?」「これは……」

 さすがに絶句する二人だったが、動きが止まったのを逃さず、アイギスとアリサが同時に銃口を向ける。
 両手の指のマシンガンと両腕にセットされたアームガンから弾丸とエレメント弾が同時に斉射、弾幕でオリジナルメティスを狙う。

「プシュケイ」『ギガンフィスト!』

 両手が塞がったままオリジナルメティスはペルソナを発動、繰り出された拳が弾丸を軒並み弾き飛ばした。

「小口径弾速射、効果少………」
「ウソでしょ!?」
「オルギア発動」
「…しもた!?」「くっ!」

 弾幕を難なく無効化した事に驚く間に、オリジナルメティスはオルギアを発動、片手ずつでラビリスとメアリを投げ飛ばす。

「このぉ!」「姉さん!」

 ラビリスはなんとか空中で体勢を立て直し、メアリはアリサがなんとか受け止める。

「冗談キツイで………四人がかりでこれや?」
「出力が違い過ぎます。私や姉さんの倍近くはあるのでは?」
「あり得ません。アイギスさんの修理の際、ボディサイズの強度上、それ以上の出力は各所に問題が発生するとヴィクトル様より承ってます」
「………それって、継続使用すれば、だよね? 何かで、最初から短期使用目的で、壊れた所を片っ端から交換しながら使うってネタを読んだ事が………」

 アリサの言葉に、四人の表情が同時に強張る。

「幾月博士、アンタ、まさか………」
「大丈夫だよ、君達を壊す間位には持つように造ってある。もっとも君達がラボを半分破壊してくれたので、予備パーツが少なくなってしまったがね」
「……ラビリス、貴方はそれでいいのですか?」
「私は対デビルバスター用人型殲滅兵器。ただそれだけ」

 ペルソナを使うために人間性を持たされた自分達とは真逆、使い捨ての兵器として造られ、兵器としてのみのパーソナリティを持つメティスに、ラビリスとアイギスのみならず、メアリとアリサも沈痛な表情をする。

「そう、思い通りにはさせません」
「その案には賛成や」
「お手伝い致します」
「私も!」

 四人はメティスを止めるべく、一致団結して相対する。

「さて、もうじき邪魔も入りそうだしね。一気に決めた方がいいだろう」
「了解」

 幾月がちらりとこちらに向かってくるペルソナ使い達や残った量産型メティスを次々倒していくダンテとキョウジを確認、オリジナルメティスがトマホークを大きく旋回させてから構える。

(…ラビリス姉さん)
(!? これは、秘匿回線? 使うのは初めてや)
(私もです。メティスを、救えるかもしれない方法が一つだけあります)

 いきなりアイギスから送られてきた通信に、ラビリスは驚きながらも送られてきたデータを確認する。

(こんなん、本当にやるつもりなん?)
(スペック差がこれだけある以上、破壊による機能停止は困難です。ましてや、幾月理事長はオリジナルも自爆させる可能性もあり得ます)
(それはそうやろが…!)

 秘匿回線で通信の結論を出す間も無く、オリジナルメティスがトマホークを振りかざし、ラビリスは己のトマホーク、その柄に内蔵されたブースターを噴射させてそれを受け止める。

「やったるわ!」

 それは先程の秘匿回線への返答だと気付かないオリジナルメティスが、鍔迫り合いに押し勝つべく、更に力を込めてくる。

「まだ出力上がるんか!?」
「ご助勢します」

 大型トマホーク+ブースター噴射というハイパワーな一撃を、押し込もうとしてくるオリジナルメティスにラビリスは驚愕するが、そこにメアリがデューク・サイズを振り上げ、二人がかりでオリジナルメティスのトマホークを受け止め、弾き返そうとする。

「オルギア発動」

 それに対し、オリジナルメティスはオルギアを連続発動、逆に力づくで二人の得物を押し込んでいく。

「そないな事したら…!」

 ラビリスのセンサーが、オリジナルメティスの各所のダメージが明らかに危険域に達しつつあるのを感知、自壊行為とも取れる戦闘に、改めて相手の異様さを思い知る。

「アテナ!」『ヒートウェイブ!』
「食らえっ!」

 そこにアイギスとアリサの攻撃が叩き込まれ、オリジナルメティスは後方に跳んで距離を取ったかと思うと、攻撃を回避した直後に再度跳び込んでくる。

「させへん!」

 ラビリスは右拳を前へと突き出したかと思うと、その拳が射出される。
 オリジナルメティスが射出された拳を無造作にトマホークで弾こうとするが、チェーンの付いた拳が開き、逆にトマホークを掴み取る。

「かかったで! アリアドネ!」『ストリングアーツ!』

 チェーンを一気に引き寄せながら、ラビリスはペルソナを発動。
 オリジナルメティスはトマホークを手放そうとするが、繰り出された糸がその前に左手に絡みつき、動きを封じる。

「足を止めさせてもらいます」

 そこへメアリが体を旋回させながら、オリジナルメティスの足目掛けてデュークサイズを薙ぎ払う。
 だが直前、突如として生じた爆風が周辺にいた者達を吹き飛ばした。

「「姉さん!」」

 訳が分からぬまま吹き飛ばされた二人を、それぞれの妹達がかろうじて受け止める。

「助かったで…」
「今の爆発は一体?」

 ダメージを追いながらも、状況を確かめようとした四人は、同時に何が起きたかを悟る。

「左腕部緊急爆破、拘束破壊」

 オリジナルメティスの左腕、それが文字通り吹き飛んでいた。
 片腕を犠牲にする事で、強引に拘束を脱出したオリジナルメティスだったが、無論自身もただではすまない。
 各所が破損し、オイルが流れ出し、象徴とも言える蝶を模した仮面は半分以上失われ、そこから無表情な瞳が、四人を見据えていた。

「こんな戦闘プログラム知らんで!」
「自身の破壊は私達にとって禁則事項です! なのに!」

 自分達の後継機とは思えない、異常な戦い方にラビリスとアイギスは憤慨する。

「壊れたら交換すればいいだけだからね。君達を壊した後で。メティス、まだいけるかい」
「はい」

 幾月はずっと笑みを浮かべたまま、ただ状況を確認するようにメティスに問いかけ、オリジナルメティスも淡々とそれに答える。

「これ以上の戦闘は、修復可能レベルを超える可能性があります」
「自殺行為よ! 止めさせて!」

 メアリとアリサも叫ぶ中、オリジナルメティスは片手のまま、トマホークを構えて突撃してくる。

「プシュケイ」『ブレイブザッパー!』
「アリアドネ!」『ストリングアーツ・猛獣!』
「アテナ!」『アカシャアーツ!』

 オリジナルメティスの放つペルソナ攻撃に、ラビリスとアイギスもペルソナで対抗する。
 三体のペルソナがせめぎ合い、エネルギーの余波が周辺に吹き荒れる。
 構わずオリジナルメティスが片手でトマホークを振りかざし、ラビリスも爆発で右拳が吹き飛ばされ、こちらも片手でトマホークを振りかざし、大小二つのトマホークが激突する。

(あかん! 片手同士でも向こうの方が上や!)

 ブースターを噴射させてなんとか押し切ろうとするラビリスだったが、それでもオリジナルメティスのトマホークがじわじわと押し込んでくる。

「そのままでお願い致します」

 そこへメアリが飛び上がりながら、デュークサイズのグリップを回し、鎌から斧へと変形、ジャッジメントトマホークを大上段から振り下ろし、オリジナルメティスのトマホーク、その柄へと叩きつける。
 ラビリスとのせめぎ合いをしていたオリジナルメティスのトマホークは、逆方向から叩きつけられた攻撃にとうとう限界が来たのか、柄からへし折れ、刃がラビリスのトマホークに弾き飛ばされて旋回しながら、地面へと突き刺さる。

「やった…」

 援護射撃の体勢のままアリサが喝采をあげようとするが、喝采は最後まで上げられなかった。
 ラビリスの胴を貫いた、トマホークの柄を見た事によって。

「かっ、は………」
「ラビリス姉さん!」

 その場に崩れ落ちるラビリスに、アイギスが駆け寄ろうとするが、オリジナルメティスが素手で追撃を掛けようとしているのに気付き、とっさに弾幕を張ってガードする。

「大丈夫ですか!?」
「あいつ、なんて事を!」

 アイギスがガードしている間、メアリとアリサが駆け寄り、ラビリスの状態を確認する。

「だ、大丈夫や………かろうじて心臓部は外れとる………」

 貫かれた場所が致命傷を外れている事、正確には詠一郎が修理の際、僅かに部品の位置を変えていた場所だという事を確認したラビリスだったが、さすがに損傷は軽くなかった。

「おかしいな、ちゃんと急所を狙うようにプログラミングしておいたはずだけど」
「ツイてたようや、運も実力の内って事やね」
「それはどうかな」

 首を傾げた幾月が、何か意味ありげな表情をした瞬間、ある可能性に気付いたメアリが無造作にラビリスに刺さっていた柄を引き抜く。

「伏せてくださいアリサ」
「姉さん!?」

 姉の忠告に従い、思わずラビリスをかばいながら伏せたアリサだったが、メアリが柄を投げ捨てた直後、柄が爆発を起こす。

「メアリさん!」

 爆発に思わずアイギスが振り返った時、爆炎を避けきれなかったメアリがその場に崩れ落ちる。

「姉さん!」
「大丈夫、です………」

 体の各所からマグネダイトが流れ出し、半擱坐状態になりながらも、最低源の機能は維持しながらメアリは妹に返答する。

「これで残るは二人かな?」
「あなたは………!」

 アイギスが幾月を睨みつけようとするが、そこにオリジナルメティスが襲い掛かってくる。
 その手が振り下ろされようとした時、一本の矢が振り下ろされようとした手を弾いた。





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