PART44 RUN DESPAIR(前編)


真・女神転生クロス

PART44 RUN DESPAIR(前編)




「速度が更に上がっていくぞ!」
「こいつの最大速度と加速度は!」
『知らねえよ! レッドスプライト号とは別物なんだ!』
「この質量だ、最高速度にはまだかかるはず」
「だといいがな!」
『ダメだ、他に追いつけそうな仲魔残ってる奴はいねえ!』
「どこも派手にやらかしたからな」

 互いに己の仲魔のケルベロスにまたがりながら、仁也と八雲が加速していくライトニング号に並走させていた。
 アンソニーからの通信に舌打ちしつつ、手荒に応急処置を済ませた八雲が、左腕の具合を確かめ、かろうじて動く事を確認してからライトニング号を見る。

「プラズマシールドとやらが展開してないのが御の字か」
「船体の加速と召喚プログラムに演算を集中させたのだろう。この巨体なら、下手な攻撃は通じない」
「問題はそこだ、どうやって止める?」
「来ルゾ!」

 攻めあぐねる二人だったが、八雲のケルベロスが叫んだ直後、残っていた砲台が攻撃してき、二人は左右へと散ってこれをかわす。

「クソっ! 防衛システムは生きてやがる!」
「これでは近付く事も…」
「任せろ!」
「残りは全て破壊する」

 そこで上空からスパルナにぶら下がった修二とケルプにぶらさがった小次郎がライトニング号の甲板に降り立ち、残った砲台を破壊していく。

「どんなに大きくても乗り物だ。壊せば止まるだろう」
「そうだな」

 追いついてきたゴウトとパワーに片手でぶら下がっているライドウの言葉に、八雲は少しばかり頬を引きつらせる。

「オレの仲魔でそこまで破壊力ある奴は無い! そっちは!」
「自分もありません!」
「こちらもだいぶやられた!」
「巨大であれば有るほど、動力源が必須なはずだ。超力超神の時はそれを絶った」
「プラズマ融合炉か、だが下手に破壊すれば周辺ごと吹き飛ぶ!」
「原子炉じゃねえだけマシか? じゃあ止めてくるしかないな………」
「動力炉を止めても、予備動力で動く可能性も高い!」
「フェイルセーフ効かせてんじゃねえ!」
「つまり、壊すしかないという事か」
「金に糸目つけないで造った次世代揚陸艦を、オレ達だけでか!? 手持ちの発破は使い果たした! つうかあんなでかいのと正面戦闘は考えてなかった!」
「だが、やるしかない」

 仁也の言葉に、八雲とライドウも顔を見合わせ、頷く。

「八雲! どうにかこいつの足を止めるぞ!」
「タイヤを破壊していけば、速度は落ちるはず」

 ショクインに乗ったキョウジと、アナンタに乗ったアレフが言うや否や、巨大な二体の竜神に攻撃を開始させる。

「キョウジさん! オレは内部から止めてみます!」
「中にはまだ敵がいる! 一人じゃ無理だ! 自分も行こう!」
「止められるのか?」
「最初のハッキングでシステムの癖はつかんだ! いじれるのはこの中じゃオレだけだ! 最悪、召喚プログラムだけでも止める!」
「そっちは任せる! オレ達はなんとか足を止め…」

 キョウジが言いかけた所で、ライトニング号の側面装甲が開き、そこから砲口が見えた事に全員が驚愕する。

「アナンタ!」
「分カッタ!」

 アレフがアナンタを咄嗟に前に出させ、発射されたロケット弾を受け止めさせる。

「アレフ!」
「大丈夫だ! 行け!」

 ロケット弾が直撃し、爆炎が吹き荒れる中、キョウジの呼びかけにアレフが応えるの聞いた八雲は、意を決して破壊されたままの乗降ハッチへと向かう。

「中は閉鎖シャッターが降りていたぞ!」
「リーダーからブルージェットのを元にした解錠ツールはもらってきた! 多少変わってたらその場でどうにかするしかない!」
「無謀過ぎる作戦だが、やるしか…」

 仁也も後に続こうとするが、そこでさらにライトニング号が加速していく。

「くそ、ギアが上がったか!」
「まだ最大戦速にはなっていない! だがこれ以上上がったら、追いつけなくなる!」
「いけるかケルベロス!」
「少シ、キツイ………」
「ヒトナリ、コチラモ………」
「あと少しだけ頑張ってくれ! あと3、32,1…」

 仁也が疲弊しているケルベロスを励ましながら、デモニカにオプションとしてセットしておいたワイヤーアンカーを用意し、開放されたままのハッチに向けて発射。
 アンカーが引っかかると、小型モーターで一気に巻き上げ、ケルベロスの背から跳んでハッチの中へと向かう。

「掴まれ!」
「おう!」

 仁也は八雲の手を掴み、二人で一気にライトニング号へと飛び込む。
 後ろを見ると、疲れ果てた二体のケルベロスがその場で崩れ落ち、二人は慌ててCOMPに帰還させる。

「さて、入ったはいいが………」

 八雲は手持ちの武器を確認、愛用のソーコムピストルと予備弾倉が数本、ナイフが二本とそれに僅かに残ったアイテム群だけなのに舌打ちする。

「派手にドンパチ出来る程じゃないな………そっちは?」
「自分も似たような物だ」

 仁也も予備のハンドガンとナイフくらいしか残っていない状況に、表情を険しくする。
 だが響いてくる破壊音と衝撃に、二人共頷くと、閉鎖しているシャッターに左右に分かれて張り付き、八雲はGUMPから伸ばしたコードを手早くコンソールに繋げ、操作を開始する。

「随分と適当なシステム組んでやがる。動き出せば勝ちだとても思ってたか? これなら一気に開けられそうだ」
「だが、中にはまだ敵が残っている。それはどうする?」
「デモニカ着た死人相手にやらかすには弾も花火も仲魔も足りないときてる………でもって時間も無…」

 そこで一際大きな振動と共に、照明が一瞬消え、再度点灯する。

「派手にやってるな〜」
「だがライトニング号はシュバルツバース調査隊のデータを元に改良されている。悪魔からの直接攻撃に耐えられる可能性も高い」
「無駄に金かけやがって。こっちが毎回の仕事の経費どんだけ苦労してると…」

 再度大きな衝撃と共に、照明が明滅する。

「待てよ………行けるか?」

 それを見た八雲の指が素早くGUMPのキーボードとシャッターのコンソールを交互に叩き、あるウイルスを流し込む。

「システムその物は壊せなくても、これくらいなら…!」

 エンターキーを押すと、照明が明滅を始め、同時に賛美歌のような音楽が艦内スピーカーから流れ始める。

「これは…」
「簡易浄化プログラムをウイルス化して流してやった。浮遊霊くらいならこれで退散できるが、肉体持った死人相手じゃ効果があるかどうかは不明だがな」
「ゼレーニンの歌を聞いたジャック隊を思い出す………」
「それ、絶対やばい術だぞ。さあて、効果を確かめにいくか」

 二人は互いに拳銃を構え、頷くと同時に八雲がシャッターを開放させる。

「召喚システムがあったのは!」
「あっちだ」

 仁也の先導で通路を走る八雲だったが、向こうから現れた黒いデモニカ姿に慌てて曲がり角に身を隠す。

「いたぞ!」「これ以上近付かせるな!」
「効いてないか?」
「いや………」

 艦内に残っていたダークサマナー達が銃撃を開始するが、仁也はそれが先程よりも散発的な事に気付く。

「撹乱する程度の効果はあるようだ」
「それなら、上等だ」

 八雲は空弾倉を一つ取り出し、仁也に向かって頷くと、それを無造作に投じる。

「何だ!?」「爆弾!?」

 ダークサマナー達がそれに気を取られた瞬間、二人は同時に飛び出しながら銃を連射。

「ちっ!」
「その程度!」

 デモニカの防弾性能と死人故の不死身で反撃しようとしたダークサマナー達だったが、八雲はそのままの勢いでスレ違いざまにMVナイフで相手の延髄を斬り裂き、仁也は相手の腕を取りながらゼロ距離でデモニカの首の部分の僅かな非防弾部分に弾丸を叩き込み、脳を破壊する。

「やるな」
「そっちこそ」
「この商売、悪魔の次に多いのは死人相手だからな。身の有る無しに関わらず」

 生身なら即死の状態の相手がまだもがいているの無視して八雲は銃を奪い、向こうから響いてくる足音の方へと向けて連射しつつ、片手で延髄の断面から再度ナイフを振るって完全に首を斬り落とす。

「使える物全部かっぱらうぞ」
「やけに手慣れていないか?」
「戦場でもそうだろ」
「それはそうなんだが………」

 シュバルツバースで死んだ仲間の装備を使う事は有ったが、倒した相手の装備をためらいなく奪う八雲に、仁也はそこはかとなく不安を覚えつつ手榴弾を一つ奪ってピンを抜いて投じ、向こうで悲鳴が上がっている間に銃と残った手榴弾を素早く抜き取る。

「2、1!」

 爆風が吹き抜けてくるのを、八雲はまだ少しもがいているダークサマナーの体を盾にして防ぎ、それを投げ捨てながら銃を乱射して突撃する。

「来るぞ!」「この野郎!」

 至近での手榴弾の爆発にさすがに無傷とはいかなかったダークサマナー達が応戦しようとするが、突然八雲は銃を手にしたままその場で転倒する。

「間抜けが…ぎゃああ!」

 転倒した八雲に向かって銃口を向けようとしたダークサマナーに、八雲の影で仁也が召喚したケルベロスが襲いかかる。

「こいつ…」

 狙いをケルベロスに替えようとした別のダークサマナーだったが、横を向いた隙を逃さず、突撃した仁也の手にしたナイフが延髄を貫いた。

「ナイスタイミング」
「危ない戦い方をするな」
「全部我流なんでね」

 仁也の召喚の隙を作るために無謀とも言える突撃をした八雲に仁也は呆れるが、再度響いてくる足音に身構える。

「そっちの仲魔、どれくらい使える?」
「COMP内で回復させたが、応急処置がいい所だ」
「こっちはそれすら出来るかどうか、だな!」

 足音の聞こえてくる方向に牽制の弾幕を張りながら、八雲は思考を巡らせる。

(召喚プログラムだけでもどうにか止めねえと………艦内に敵はどこまで残ってる? それ以前にこれ以上速度が上がったら、外の連中が止められなくなる………くそ、時間も人手も足りなすぎる………!)
「まずい、敵が集まってきている!」
「言われてなくても分かってる! やっぱ動力炉でも吹っ飛ばすか?」
「そう簡単には壊せない作りになっている! なにより爆薬が残っていない!」
「無駄に頑丈に作りやがって!」
『聞こえる?』

 弾幕を張り続けながら悪態を着く八雲だったが、そこで通信が入る。

「チドリ君か、何かあったか?」
『今上にいる。私のペルソナで全力でジャミングを掛ける。どこまで効くか分からないけど、そっちにまで影響出たらゴメン』
「構わねえ、やれ!」

 仁也が答えるより早く八雲はやけくそ気味に叫びつつ、空になったマガジンを取り替える。

「少しでいい、隙が出来れば………」

 仁也も状況の打開を願わずにいられなかった。



『大丈夫かチドリ!』
「大丈夫順平、どうせもう死んでるから」
『そういう意味じゃなくて!』

 ゲイリンから借りた疾風属 クラマテングの背の上に立ったチドリが、順平からの通信にとんでもない事を返答しつつ、己のペルソナを発動させる。

「メーディア」『インサイン・エスケープ…』

 チドリのペルソナが、己の持つアナライズ能力を逆転させて発動、効果範囲にある全てにジャミングを仕掛けていく。

「これは!」「くっ!」「おわ!」

 COMPに干渉されて小次郎、アレフ、キョウジの召喚プログラムが不安定になり、仲魔が消えかけて小次郎は咄嗟にケルプを帰還させ、アレフとキョウジは仲魔が消える直前にライトニング号のハッチへと飛び込む。

「なんて強力なジャミングだ………」
「あのゴスロリ、ここまでのペルソナ使いだったとはな」

 通信機にまで干渉される状況に、アレフは絶句し、キョウジは半ば呆れる。
 更にライトニング号のシステムも干渉され、突然派手な蛇行運転までし始めた。

「今しかない、内部を制圧しよう」
「同感だ、問題は何秒持つかだが」

 猛スピードで蛇行運転するライトニング号の各所から物が崩れるような音や悲鳴のような声が聞こえてくる中、アレフとキョウジは得物を構えつつ、八雲達の後を追う。

「道案内はいらないな」
「二度もカチコミ喰らえばこうなるだろ」

 一度目の機動班の突入と、二度目の八雲と仁也の突入で発生した戦闘の痕跡を辿り、デモニカの誤作動で混乱しているダークサマナー達にはきっちりトドメを刺しつつ、二人はライトニング号の中を進んでいく。

「死人が完全武装して巨大装甲車に乗って現世を目指す、か。マダムに言っても信じねえだろうな………」
「こんなのはオレも初めてだ。誰が考えついたんだろう、な!」

 キョウジがデモニカをまとったまま本来の躯となっているダークサマナー達を見ながらぼやき、アレフが頷きながらも、分岐通路から姿を表したダークサマナーをヒノカグツチで唐竹に斬り裂く。

「このジャミングが、あと何秒持つか………」
「彼女も死人とはいえ、疲弊はするだろう。ましてや相手が慣れてきたら………」

 蛇行運転がますます激しくなり、通路を走るのも困難になってくる中、意外と近い場所から銃声が響いてくる。

「あっちか!」
「急ぐぞ」

 銃声を頼りに二人がなんとか音源へと向かうと、そこには目的のラボの前で銃撃戦を繰り広げている八雲と仁也の姿が有った。

「キョウジさん! アレフも来てくれたんすか!」
「やっぱり、ここの防御は厚いか」
「目的地はすぐそこなのだが、デモニカのエラーを止める方法を思いついた奴がいたらしい」

 仁也も行っている、全ての機械に影響が出るジャミングの回避する方法、単純にデモニカのシステムを緊急停止してバイザーを上げて戦闘を行う、という事に気付いたダークサマナー達が、残弾全てを使い尽くさんばかりの弾幕を張り、四人は完全に通路の影に張り付けになっていた。

「何が何でも通さないつもりか。こちらも仲魔を呼べない以上、どうにか強行突破するしかないが」
「発破は品切れ、そちらは」
「オレもだ」「残念だが」

 隙を伺うアレフだったが、少しでも顔を出そうとすると集中砲火を浴びる状況に慌てて首を引っ込め、八雲は残った装備を再確認、キョウジ、アレフも首を左右に降る。

「向こうは時間さえ稼げばいい。ここを最終防衛線としているならば、持久戦の準備も完璧だろう」
「死人は飯もトイレも行かなくていいしな。考えれば考える程ドツボに嵌ってきた………」

 明らかに用意周到なダークサマナーに仁也がある仮説を立て、八雲の顔色が暗くなる。

「だが、注意力までは持続しない」
「そうだな」
「………注意を引く方法か。まあ一番簡単な方法で………」

 どうにか向こうの注意を逸らす方法を考えるアレフとキョウジに、八雲は不安定になっているGUMPから、一番単純で入れたはいいが今まで一度も使わなかったソフトを機動させた。
 次の瞬間、銃声を貫くような甲高いエラービープ音が鳴り響いた。

「何!?」
「まさか…」

 突然の事に、ダークサマナーの何人かが思わず背後の大型召喚システムの方を振り返り、そこをアレフと仁也の銃撃が頭部を貫いた。

「馬鹿が!」
「そんな単純な罠に…」

 残ったダークサマナー達が悪態をつくが、それでも僅かに注意が逸れ、そこを飛来した七支刀とナイフが突き刺さる。

「がっ…」
「この程度…」

 七支刀が首へと突き刺さったダークサマナーは一撃で行動不能になるが、ナイフが刺さったダークサマナーは浅かったらしく、反撃を試みるが、一気に間合いを詰めてきたアレフの剣閃の前に、残ったダークサマナー諸共両断される。

「片付いた」
「門番はな!」

 アレフが行動不能な者がいない事を確認する中、八雲はラボの中へと飛び込み、大型召喚システムへと駆け寄ると操作し始める。

「くそ、こいつもハックされた上にジャミング喰らってるはずなのに、しっかり動いてやがる」
「よほど腕の良い技術者がいたようだな。どうにかなりそうか?」
「しなきゃヤバいでしょうが!」

 必死になってコンソールを操作する八雲に、キョウジは任せる事にして先程と反対に自分達が相手の用意していた防衛陣地に陣取る。

「ジャミングが切れて向こうが駆けつけるのが先か、こっちが召喚停止出来るのが先か」
「どちらにしろ、ここからしばらくは動けない。艦内にあとどれだけ敵勢力が残っているか………」
「脱出の手段も考慮しておくべきだろう。コチラ側の住人になるつもりはまだ無い」
「先代みたいになるのはイヤだな〜………」

 手早く散乱していた銃火器を準備していくキョウジ、仁也、アレフだったが、自分達が未だに窮地に居る事だけは確実だった。

「通信機までやられてるからな、無差別もいいとこだ」
「だが、これが続いている間は大丈夫だという事に…」

 通信機から聞こえるノイズに不安と安堵を同時に覚える面々だったが、突然ノイズが消える。

「おい!?」
「限界が来たか、それとも…」
「外はどうなっている!?」



「くっ」

 COMPがエラーを起こし、慌てて小次郎は一時的にシャットダウンさせる。

「なんて強力な………」
「機械に頼ってると大変だな」
「なんかこっちの頭にもちょっと響いてくるんだが」

 自分達の上空からジャミングを掛けているチドリを小次郎、ライドウ、修二が見上げるが、ジャミングの影響でライトニング号が蛇行運転を始め、三人は慌てて振り落とされまいとしゃがみ込む。

「こんな巨大な物まで狂わせるとは、空恐ろしい程だ」
「未来の機械の事は分からないが、彼女には相当な負担がかかっているはず」
「中にいる連中に任せるしかねえ! つうかこっちが振り落とされちまう!」

 ライドウの肩に止まったゴウトが感心する中、ライドウは鋭い視線で上空の様子を観察するが、その隣で修二は必死になって蛇行運転を続けるライトニング号の甲板にしがみつく。

「そっちは仲魔を呼べるんだろう? 一度退避する事を考慮するか」
「それとも、中に入るか。ここを離れるのは得策とは思えん」
「何であんたら平気そうな顔してんだ!」

 更に蛇行運転が激しくなる中、小次郎とライドウが平然とこの後の行動を論議する中、修二はただ叫びながら全身で甲板にしがみついていた。

「中はこの比じゃ無いだろう。デモニカは軒並み使用不可能になってるはずだ」
「機械としては使えなくても、鎧としては使えるだろう。ましてやまとっているのは死人だ」
「キョウジとアレフも中に入っていった。あの四人なら大抵の事はなんとかするだろう」
「その前にオレらをどうすんだ!」

 片手で甲板にしがみつきながら、器用にCOMPの状態を確かめる小次郎に、ライドウの肩でメトロノームが如く揺れてるゴウトと同じく片手で甲板にしがみついてるライドウが端的に内部の情報を推察、修二は甲板にしがみついたまま涙目になっていた。
 だがそんな修二の耳に、暴走音と違う機械音が響いてきた。

「何だ?」

 甲板に耳を押し付け、その音を聞き分けようとした修二だったが、そこで突然金属音が響き渡る。

『!?』

 甲板にいた者達全員が同時に気付き、音源の方へと振り向く。
 そこには、マニュアルで強引に出したらしい予備の機銃座と、同じくマニュアルでそれを構えているダークサマナーの姿が有った。

「やべえ!」
「違う、狙いは!」

 修二が青ざめる中、ゴウトだけが銃口が自分達ではなく、上空を向いている意味を悟っていた。

「あいつか、くたばりやがれ!」

 射手のダークサマナーが上空のチドリに向けてトリガーを引き、銃撃が曳光を伴って放たれる。
 直後、機銃と射手に小次郎とライドウが投じた刀がそれぞれ突き刺さり、銃撃が中断される。

「彼女は…」

 ゴウトが上空を見上げようとするが、その目に最悪の光景が飛び込んでくる。
 銃撃をまともに喰らい、クラマテングの背から落下していくチドリの姿が。

『チドリィィィ!!』

 遠目にそれを見てしまった順平の絶叫が、通信機から響き渡った………



『ジャミング源は始末した! 侵入者を排除しろ!』

 ライトニング号内部に響いた通信に、当の侵入者達も状況を理解する。

「何てこった………」
「チドリ君が………」
「心配するのは後だ。残った戦力が全てここに来るぞ!」

 キョウジと仁也が思わず顔を歪めるが、アレフは即座に臨戦体勢を取る。

「八雲! 時間がねえぞ!」
「分かってます! けど、こいつはまさか………」

 キョウジの催促に八雲は焦りを感じながらも操作する手を早めていく。
 だが、ある事に気付いてむしろそちらの方に愕然としていた。

「ちくしょう! こいつはただの統括システムだ! 召喚プログラム自体は各所で分割制御されてやがる!」
「何だと!?」
「………戦艦のシステムと同じだ。どこか占拠されても、他から指揮が出来るようになっている」
「最後の手段は、この生け贄達を皆殺しにでもするか?」
「ソウルがもう抜かれてます! ここに並んでるのはついでのマグネタイト保管庫にしかすぎねえ! くそったれ!」

 コンソールを力任せに叩き、八雲が絶叫する。

「…なら、脱出するぞ」
「それしかねえな」
「やむをえまい」
「誰だここまで陰険な事考えやがったの!」

 アレフの提案にキョウジと仁也が頷き、八雲は腹いせに、恐らく途中で処理される可能性が高いが、ウイルスをコンソールに仕込んでから撤退準備に入る。

「ラボが占拠されてるぞ!」
「奪い返せ!」
「どうぞご自由に!」

 集結してくるダークサマナー達に吐き捨てながら、八雲はここを守っていたダークサマナー達が用意していた携帯ミサイルを手に取ると、無造作に発射する。

「ぎゃ…」
「じゃあトンズラするか」
「無茶苦茶すぎるぞ………」

 悲鳴が爆発音にかき消される中、八雲はそそくさと撤退に入り、仁也も呆れながら後に続く。

「ソフトで止められないなら、ハードで止めるしかないが………」
「中から出来れば一番いいんだが、手立てが無い。今のマグネタイトだと、仲魔を一度に召喚するだけで終わる」
「こっちもだ。他の連中と一緒に、外からやるしかないか?」
「瀕死の仲魔も多い。それで外部から破壊出来るかどうか………」
「放っといたらあっちの東京がそのままどこぞの邪神のごちそうになるけどな」

 四人が走りながら対策を検討し、取り敢えず動く物全てに向けて弾幕をばら撒きながら来た通路を引き返していく。

「無理やり暴走させてるから、内部セキュリティが働いてないのが御の字だが、元の装甲の厚さだけはどうしようもないな」
「待て、外部から破壊した奴はいた」
「あ」

 八雲が沈黙している内部カメラやガードシステムを見ながら呟くが、ふとアレフがここに来る前に起きたある問題を思い出す。

「あいつは今どこにいる!?」
「負傷者を警備して戦線を離脱したはずだ!」
「運良くそっちに行ってくれてればいいが………」
「まずはここから脱出する事だ」

 最終防衛線になりそうな人物の事を思いついた四人だったが、とにかく銃撃を繰り返しつつ、ライトニング号からの脱出を優先させる。

「急げ! 通常運転に戻ったら大分速度出てきてるぞ!」
「デモニカも無しで飛び降りれるか!?」
「やるしかない!」
「なんでこう次から次へと!」

 四人がそれぞれボヤきながら残弾をばら撒きつつ、ハッチへと辿り着く。

「おい、今何キロ出てる!」
「これはちょっとマズいな」
「今から向こうのデモニカ剥いでくるわけにもいかんだろうし」

 予想以上に速度が出ている事に、キョウジとアレフは顔を曇らせ、八雲はこっちに向かってきている残党達の足音に頬を引きつらせる。

「待て、ひょっとしたら…」

 仁也がハッチの側にあったコンテナを開封し、中身を取り出す。

「緊急脱出用のアブソーバーバルーンだ。なんとか四人分ある」
「見た事無い装備だな、使い方は…」

 八雲が最後の手榴弾を近づいてくる足音の方に放り投げながら、英語の説明書きに目を通す。

「取り敢えず装着してボタン押せばいいのか」
「自動的に体を衝撃吸収バルーンが覆う。シュバルツヴァース調査隊用に開発された新型の脱出装置だ」
「つまりこういう事態も想定してたのか?」
「デモニカまとってるの前提だろうが、無かったら確実に死ぬだろうし」

 四人がなんとか装着し、ためらいなく連続してスイッチを押しながらハッチから飛び出す。
 瞬時に膨らんだバルーンが地面との間に生じ、かろうじて衝撃を吸収する。

「あっ痛! やっぱ生身じゃきつい………」
「だがこれくらいなら問題ない」
「さて次は…」
「頑丈だな、デビルサマナーって………」

 完全に衝撃を吸収は出来なかったのが、多少はダメージを追いながら、八雲、アレフ、キョウジが手早くバルーンを外していく様に仁也は呆れるが、すぐに次の手を考える。

「ダンテ、聞こえてるか!」
『聞こえてるぜ、例のデカイのがこっちに向かってきてるんだが』

 キョウジの慌てた声に、ダンテが相変わらずの余裕のある声で答える。

「完全に暴走してる、中身は大型の召喚装置だ! そいつを壊さないと、何呼び出されるか分かった物じゃねえ!」
『ま、そんな事じゃねえかとは思ってたが………』
「やれるか?」
『少しばかりきついな、そっちは?』
「今暴走特急から逃げ出した所だ。どうにかして先回りしたい所だが…」
『それならいい手があるケースだ』

 どんどん離れていくライトニング号にかろうじて脱出した四人はどうやって先回りするか悩むが、そこでゲイリンの声と共に風が吹き付けてきたかと思うと、体が浮き上がる。

「注意するセオリーだ。自分ですら御すのがやっとのデビルだ」

 程なく四人の体がどんどん強くなっていく風に巻き込まれ、すさまじいスピードで風に乗ってライトニング号へ向かっていく。

「おわあ! 何じゃこりゃ!」
「COMPがすごい反応しているぞ!」
「これは、風自体が悪魔か!」
「亜米利加でのセルフ修行の時に見つけた。名も分からぬが、ただ極めて強力なセオリーだ」
「これなら追いつけそうだが、追いつくまで生きてればな!」

 同じく風に飲まれながらも、なんとか体勢を保っているゲイリンの説明に、八雲が悪態混じりに呟くが、そこでふと吹き付けてくる風と、自分が引っ張られる方向が間逆な事に気付く。

「吹き付けるのに引き寄せられる風………まさか………」
「冗談だろ、ハスターの破片じゃねえか!」
「知っているケースか?」
「風の古代神だ! ファントムが拝んでる神様とどっこいの奴だ!」

 同じく正体に気付いたキョウジが顔を青ざめさせる。

「確かに、ファントムが召喚しようとしていたのを調伏したセオリーだが………」
「さすが葛葉四天王、気つけろ! 油断したら体持ってかれるぞ!」
「さっきの方がマシだったか?」

 何か体の各所に絡みついていくるような風に、デモニカが危険信号を発して仁也の顔色が変わる。
 そこで、ライトニング号の甲板にいた者達も、それぞれ仲魔に捕まって撤退するのが見える。

「あっちも回収だ! もうそぞろ飛行系悪魔でも追いつけなくなるぞ!」
「こっちは追いつく以前の問題が………」
「デモニカの各所にダメージが出始めている! 生身で大丈夫か!?」
「追いつく前に手足付いてればいいが」

 ゲイリンですら制御出来るかどうかの狂える風に絡められ、各所に傷を追っていくのを感じながらも悪魔使い達は疾走するライトニング号の前へと回りこんでいく。

「これが最後だ、これで止められなければあの世もこの世もぶっ壊れる………!」

 八雲は風で裂けた頬を拭いもせず、GUMPを起動させた。





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