PART47 PARTICIPATION ON THE WAY


真・女神転生クロス

PART47 PARTICIPATION ON THE WAY





(何だ!?)

 それはまず違和感から始まった。
 いつものように現実のテレビ画面を突き抜ける感触までは同じだった。普段なら幾つもの画面を通り抜けるような感触が続くはずが、今回は無理やり何かを通り抜けるような圧迫感とフラッシュを連続で焚かれたような灯りが周辺で幾つも起きている。


「おい、なんかいつもと違うぞ!」
「なんか眩しい…」
「絶対変クマ!」
「何? 何が起こってるの!?」

 そばから仲間達の声が聞こえる中、周辺を閃光が染め上げた。

「おやおや、これは困った事になったようですな」

 目を開けると、そこには異様に長い鼻を持つ男、イゴールの姿が有った。

「何らかのイレギュラーが発生した模様です」

 その隣、イゴールに仕える女性、マーガレットが淡々とした声で告げる。

「これから貴方方が行くのは、普段とは少しばかり違う場所になるでしょう。色々ご苦労なさるかもしれません。ただ忘れてはなりません。全ては、貴方の心の形のままだという事を………」



「うわあ!」
「どひゃあ!」
「ちょっと!?」
「きゃあっ!」
「おわあ!」
「ふぎゃ!」
「きゃああ!」
「何だ!?」

 突然どこかに放り出された彼らは、床の上に折り重なっていく。

「お、重いっす………」
「え? 雪子ひょっとして体重増えた?」
「千枝の方こそ」
「つ、潰れるクマ………」
「おわあ! 完二とクマが下敷きに!」

 訳の分からないまま、段重ねになった仲間達が騒ぐ中、素早く動いた者がいた。
 どこか冷めた目を持つ独特の雰囲気の持つ少年と、小柄で男装した少女の二人が素早く体勢を立て直し、周囲を見て愕然とする。

「これは………」
「どうやら、テレビの中ではないのは確かです」

 冷めた目の少年、鳴神 悠は謎の機械とその周りにいる人影を見て絶句し、男装の少女、白鐘 直斗はその中に明らかに人間でない者達が混じっている事に危機感を覚える。

「ほう、これは………」
「どんな連中が来るかと思えば………」

 その中でも特に目立つ二人、白いコート姿の女性と異形の腕を持つ少女がこちらを値踏みするような視線を向けてきた。

「な、なあこれってやばくね?」
「あ、あのここどこですか? テレビの中じゃなさそうですが………」

 どこか軽い雰囲気を持った少年、花村 陽介が周囲のただならぬ雰囲気に冷や汗をかき、古風な容姿な少女、天城 雪子がそばにいる科学者らしき者に問うが、返答は無い。

「こ、こっちなんかすごいリアルなお化けいるんだけど!?」
「考えたくないけど、どう見ても本物っすよ、里中先輩」

 ボーイッシュな少女、里中 千枝が悪魔の姿に仰天するが、いかにも不良じみた少年、巽 完二が身構える。

「ま、待って今調べる!」
「りせちゃん、そんな暇無さそうクマよ!」

 どこか華やいだ雰囲気の少女、久慈川 りせがペルソナを発動させようとするが、まるできぐるみのような奇妙な存在、クマが危険を察してりせの前に立つ。

「生きはよさそうね、いいマガツヒが取れそうよ」
「最近、少々食料に困っているしな」

 目の前にいた二人の言葉に、何か引っかかる物を感じた悠だったが、その疑問は即座に解ける事になる。

「好きにしていいわ」
「好きにしていいぞ」

 二人の言葉に、周辺にいた悪魔と喰奴達が一斉に襲い掛かってくる。

「え…」
「ちょっと…」

 今だ事態が理解出来ない仲間達より早く、悠の手の中に愚者のアルカナカードが現れ、それを握り潰す。

「イザナギ!」

 粉砕されたカードは光の粒子となり、それは悠の背後に日本神話の創世の男神、イザナギと変化する。
 イザナギは手にした鉾で、押し寄せてきた敵を一気に薙ぎ払った。

「皆! 迎撃態勢を取るんだ! こいつら全員敵だ!」
「今のでイヤでもわかったぜ相棒! ジライヤ!」『マハガルーラ!』
「何が何だか分からないけど! トモエ!」『ヒートウェイブ!』

 取り敢えず自分達がとんでもない修羅場に来た事だけは理解出来た陽介と千枝がガマ使いの義賊、ジライヤと伝説の女武者、トモエのペルソナを発動、疾風魔法とナギナタの一閃で近寄ってきた者達を牽制する。

「ペルソナ使いね」
「ああ、中々出来る」

 部下達相手に応戦する者達に、千晶とエンジェルはただ淡々とその戦い方を観察していた。

「今、食料って聞こえたんだけど………聞き間違いかしら?」
「だとよかったんスけど、どう見ても食う気満々に見えるっスよ」

 引きつった顔で雪子が愛用の扇を構え、完二がこちらを見ながらよだれを垂らしている喰奴達にガンを飛ばしながら、拳を鳴らす。

「状況がまったく分かりませんが、今優先すべき事は分かりました」
「それって何クマ?」
「どうやって逃げるかよ!」

 直斗が周囲を観察しながら拳銃を抜き、クマもやる気になってる中、りせが悲鳴じみた声を上げながら己のペルソナ、伝説の巫女、ヒミコを発動させて周辺をアナライズする。
 そしてりせの顔色が一気に変わった。

「この建物の中、まともな人間いないわよ!?」
「何だと?」
「しかもその二人、超ゲキヤバ!」

 りせが千晶とエンジェルを指差すが、そこで二人が笑っている事に気付いた。

「へえ、そのペルソナ、そんな事出来るの………」
「アナライズ能力か、使えそうだな」
「あ………」

 あちらに自分の能力をばらしてしまった事に気付いたりせだったが、時すでに遅かった。

「バイアスが今一使い勝手が悪いからな。スペアに使えるかもしれん」
「ならそれは取っておかないとね」
「な、何の話…」

 りせが焦る中、先程アナライズした時に感じたある違和感の先を探る。
 そこには、奇妙な装置に繋がれた人影があり、アナライズ結果からひどく衰弱している事も分かっていた。

(何? 一体何が起きてどうなってるの!?)
(そこのペルソナ使いの貴方………聞こえる?)
「!?」

 困惑するりせに、突然誰かが脳内に直接語りかけてくる。
 それが、装置に繋がれた女性がペルソナを共鳴させている事にすぐに気付いたりせは、アナライズを彼女へと集中させる。

(は、はい! 大丈夫ですか!?)
(ここは危険………セラを、奥のベッドに繋がれた子を連れて逃げて………)
(あ、貴方は!?)
(最後の力で………なんとか隙を作って………)
「だ、ダメ!」

 思わず叫んだ所で、りせは周囲全ての視線がこちらに向けられた事に気付く。

「りせちゃん、どうしたクマ?」
「皆! あの装置に繋がれた二人を助けて!」

 有無を言わさず、りせが千晶とエンジェルの背後にある装置を指差し、そこで他の者達もそこに人がいる事に気付いた。

「どう見たって、やばい事やってるって状況だよな」
「だったら、やる事は一つ!」

 陽介が頷く中、千枝がいきなり飛び出すと自慢の蹴りを千晶の側頭部へと叩き込む。

「なるほど、ペルソナ使いってのは体にもペルソナの力がフィードバックするのね」
「え………」

 微動だにせず蹴りの直撃を受けた千晶が、わずかに首を捻るだけで平然としている事に千枝が仰天する。

「離れて千枝! コノハナサクヤ!」『アギダイン!』

 援護しようと雪子が日本神話の美しい姫神、コノハナサクヤを発動、強烈な火炎魔法が千晶へと直撃するが、それでも千晶は平然としていた。

「う、うそ!?」
「それで終わりかしら」

 異形の口元を歪める千晶の笑みに、雪子と千枝の背中に寒気が走る。

「マトモに相手しちゃだめ!」
「で、でも!」
「そうも言ってられねえっすよ! タケミカヅチ!」『マハジオンガ!』
「スクナヒコナ!」『デスバウンド!』

 注意するりせのそばで、完二が漆黒の巨体を持つ日本神話の雷神を、直斗が対照的に小柄な日本神話の来訪神をペルソナとして発動、押し寄せてくるヨスガの悪魔達を迎え撃つ。

「周辺全部、敵しかいないクマ!」
「あの奥の二人以外は、だろうけど。クマ、りせから離れるな」
「先生分かったクマ! キントキドウジ!」『マハブフーラ!』

 次々と来る敵に、クマが鼻を鳴らしながらやけに丸みを帯びた、昔話で金太郎の名で有名なペルソナを発動させて喰奴達を牽制する。

「ふむ、機材を壊されるのは困るな」

 傍観していたエンジェルがそう言いながら胸元を広げ、そこにあるアートマをさらけ出す。

「何だ!?」

 叫びながら思わずその胸元を凝視した陽介だったが、アートマが光ったかと思うとエンジェルの姿が陰陽神 ハリ・ハラへと変貌する。

「変身したぁ!?」
「ヤバさ激増! ど、どうしたら………!」
「イザナギ!」

 まさかの事態に皆が仰天する中、悠がペルソナでエンジェルへと斬りかかる。
 だが振り下ろされた鉾は、いともたやすくエンジェルの四本と化した腕の一本で止められる。

「え………」
「単調な攻撃だ」

 別の腕がイザナギの腹を凄まじい力で殴りつけ、影響を受けた悠諸共吹っ飛ぶ。

「がは………」
「悠!」「先輩!」
「気をつけろ………こいつは、桁違い………」
「きゃあっ!」「うわぁっ!」

 陽介とりせが心配するが、そこへ同じく吹き飛ばされた雪子と千枝も倒れ込んでくる。

「雪子ちゃん! 千枝ちゃん!」
「だ、大丈夫………」
「強すぎる………私達のペルソナが効かない………」
「そう力こそ全て、力こそがヨスガの絶対のコトワリ。どうやら、貴方達はヨスガのコトワリに従えないようね」
「生憎、ボク達は法治国家の生まれですからね………」

 見下すような視線の千晶に、直斗は虚勢を張りながらも、探偵王子の異名を持つ頭脳を駆使して状況を解析、打開策を模索していく。

(周辺状況から、何らかの人体実験の最中、しかも実行者は人間ではなさそうだ。被験体は二名、どちらもほとんど動かないから衰弱していると思われる。そして周りはこちらに敵対心を持った者達ばかり、特にこの二名はこちらのペルソナを圧倒的に上回る力を持っている)
「ジライヤ!」
「タケミカヅチ!」

 直斗の思考がまとまるより早く、陽介と完二が攻撃を仕掛けるが、それも一蹴される。

「ふ、マガツヒを取るにはこれくらい活きがいい方が多く絞れる」
「こちらの分も残しておいてほしいな。私もいささか空腹を感じてきた所だ」
「…直斗」

 明らかに物騒らしい事を言っている千晶とエンジェルに、悠はそれとなく直斗に目配せするが直斗は苦渋の表情をしている。

(直斗でも打開策は思いつかないか。だったら、やれるだけやるだけだ!)
「タムリン!」『デスバウンド!』

 何とか打開策を見つけるべく、悠はペルソナをチェンジ、スコットランドの妖精の騎士が手にした槍を大きく振り回す。

「何とかして、チャンスを作るんだ!」

 悠の声に、仲間達は闘志を振り絞り、戦闘を続行させた。



「ん? こいつは………」
「ちょっとパオ! また新手来てるわよ!」

 特殊集音器から聞こえてきた異音に、パオフゥは違和感を覚えて機器を操作する。
 うららは怒鳴りつつも襲ってくる敵に応戦していたが、やがてパオフゥはある反応を突き止めた。

「建物の中から戦闘音が響いてやがる! 中で誰かおっ始めやがった!」
「え? 何それ! 仲間割れ!?」
「こちらでも確認した! 間違いない、建物内で戦闘が起きている!」

 同行していた情報班も同じ結論に達し、慌てて音源を探し出す。

「場所が分かったら山岸に送れ! あいつのペルソナなら何か分かるかもしれねえ!」
「その前にこっちも何とかしないと!」
「分かってる」

パオフゥは指弾を次々飛ばし、こちらに銃口を向けていたカルマ兵の手から銃を弾き飛ばす。

(僅かだが、ペルソナが疼いてやがる………中にいるのは、ペルソナ使いか? 他にも誰かいたか?)

 疑問を感じつつ、パオフゥはアルカナカードをかざす。

「こっちの味方だといいんだがな! プロメテウス!」『ワイズマンスナップ!』



「ぐっ!」
「先輩!」
「だ、大丈夫………」
「どうやら、貴方は他のと少し違うようね」

 千晶の異形の腕の一撃をまともに食らい、壁際まで吹き飛ばされた悠がかろうじてペルソナでの防御が間に合った事を悟りながら、りせに返事を返す。

(ど、どうしよう………このままじゃみんなやられちゃう! どうしたら………)
(き……ますか………聞こえますか?)
(だ、誰!?)

 突然ペルソナに響いてきた声に、りせは驚愕する。

(通…た! しかも…れは!)
(これって、私と同じタイプのペルソナ!?)

 声と共に感応してきた存在に、りせは更に驚愕する。

(私は…岸 風花。そちらは…)
(久慈川 りせ! そっちは今どこにいるの!?)
(その建物の外、…闘中……)
(待って! こっちの情報送るわ!)

 相手が同じタイプだという事を利用し、初めてだがりせは自分の持っている情報を風花へと送信を試みる。

(来…した! こちらも…)

 何の影響か、多少ノイズが交じる中、りせにも風花の情報が送られてくる。

「! 皆! 外でこいつらと戦ってる人達がいる!」
「何っ!?」
「それ本当!?」

 りせが思わず叫び、仲間達も一斉にその言葉に反応した。

「その人達になんとか助けに来てもらう事って………」
「外は凄い激戦になってるって! 建物に近寄る事すら出来てないみたい!」
「意味ねえじゃねえか!」

 千枝が恐る恐る聞いた事へのりせの返答がに、陽介は思わず怒鳴る。

「ここは完全に情報封鎖したはずだが、どうやってその事を知った?」
「あ、いや………」

 ハリ・ハラの姿のエンジェルに凝視され、りせは思わずたじろぐ。

(どう…か、麻希さんとセラ…ゃんを救出…て…そうしたら私の…ルソナ…脱出…)
(出来るの!?)

 脱出の可能性を知ったりせが、思わず喜色を浮かべるが、それをエンジェルに見られてしまう。

「そうか、お前と同じ力を持った者が外にいるのか」
「やば………!」
「ますます欲しくなった。もっとも、協力する気が無いのなら、取り込むまでだが」

 そう言いながら口元を歪めるエンジェルに、りせの背筋を今まで感じた事の無い寒気がほとばしる。

「この白黒、りせちゃんに何するつもりクマ!」
「言ったはずだ。空腹を覚えてきた、と」
「ほ、本気で食べるつもりクマ!? させないクマ! キントキドウジ!」『ブフダイン!』

 クマのペルソナが氷結魔法を放つが、エンジェルは無造作にそれを四本の腕で薙ぎ払う。

「クマ!?」
「奇妙な存在だな。お前は悪魔か、それとももっと違う何かか?」

 喋るきぐるみにしか見えないクマにもエンジェルは興味を持ったのか、腕を伸ばそうとした所で、白刃の一閃がそれを遮る。

「先生!」
「クマ、下がるんだ! こいつはオレがなんとかする!」

 二人を守るように剣を手にエンジェルの前に立ちはだかった悠だったが、イヤでも双方の実力差は感じていた。

(こいつ、今まで戦ってきたシャドウとはレベルが違い過ぎる! でもどうにかして脱出のチャンスを作らないと!)

 悠はありったけのアルカナカードを呼び出し、その一つを握り潰す。

「アバドン!」『アローシャワー!』「ゲンブ!」『マハブフーラ!』「リャナンシー!」『テンタラフー!』

 次々とペルソナをチェンジしながら悠は連続で発動、ありとあらゆる攻撃をエンジェルへと叩き込んでいく。

「これは………!」

 予想外の悠の連続ペルソナチェンジ攻撃に、エンジェルが僅かに怯む。

「今の内に…」
「何をするつもりかしら?」

 エンジェルの背後から突然伸びてきた触手が悠のみぞおちに叩き込まれ、悠は思わずその場に崩れ落ちそうになる。

「がっ…」
「先輩!」「先生!」
「そっちのおさげときぐるみは貴方にあげるわ。私はこっちのをもらおうかしら」

 異形の腕から伸ばした触手を戻しながら、千晶が邪悪な笑みを浮かべる。

「相棒はてめえみてえなドS、趣味じゃねえぞ!」
「私達を無視しないでもらえる?」

 陽介と雪子が即座に悠を守るように立ちはだかるが、その表情は明らかにこわばっていた。

(どうする? やはりこの二人には勝てない! どうにかしてあの二人の背後にいる人達を救出して、脱出しないと! でも、どうやって………)

 痛むみぞおちをおさえながら、悠は必死になって考えるが、いいアイデアは浮かんでこない。

「先生! クマに任せるクマ! 今こそとっておきの切り札を出す時クマ!」
「何!?」
「大丈夫なの、それ………」

 切り札という言葉に陽介が過敏に反応するが、雪子はそこはかとなく不安な表情を浮かべる。

「食らうクマ〜!」
「オイ!?」
「クマくん待った…」

 突然千晶とエンジェルに向かって突撃していくクマを完二と千枝が止めようとするが、向こうの方の反応が早かった。
 異形の腕と四腕が同時にクマへと繰り出されるが、そこで突然バランスを崩したクマが転倒する。

『?』

 不自然さを感じた二人はそのまま攻撃を繰り出すが、直撃を食らったクマの空っぽの胴体と取れた首が宙を舞う。

『!?』

 直撃の寸前、中から何かが飛び出して自分達の間をすり抜けていった事に気付いた二人が同時に振り向くと、そこには床を転がりながら何かを放り投げる金髪の美少年の姿が有った。
 直後、投じられた物、雷属性の攻撃アイテム、テスラコイルが周辺に電撃を撒き散らし、装置とそれを操作していた者達へと直撃する。

「ぎゃあぁ!」
「し、しまった!」

 悲鳴が飛び交うが、それよりも装置が電撃をマトモに喰らって火を噴く方が深刻なダメージとなり、装置が完全に停止する。

「これが先生のためにクマが一生懸命考えた切り札、中の毛アタッククマ!」

 成功した事を喜ぶクマ(中身)が、まずイスに固定されていた麻希を助けようとするが、そこで別の問題が発生する。

「こ、これどうやったら外れるクマ!?」
「貴様ぁ!」

 背後から響いてくる咆哮のような怒声と凄まじい殺気にクマが振り返ると、そこには憤怒の形相の千晶がいた。

「お前のマガツヒはいらない! くたば…」
「タケミカヅチ!」

 クマに襲いかかろうとする千晶を、背後から完二のペルソナが押さえ込む。

「離せ!」
「誰が離すか! 今の内っす!」
「それはどうか…」
「コノハナサクヤ!」「トモエ!」

 もがく千晶をなんとか押さえ込む完二だったが、そこでエンジェルも襲いかかろうとするのを雪子と千枝のペルソナがかろうじて抑える。

「い、急いで!」
「あんまり持たない!」
「はい! スクナヒコナ!」
「相棒! そっち頼む!」
「分かった!」

 その隙に直斗のペルソナが麻希とセラの拘束を切り払い、陽介と悠が二人を救出する。

「救出成功! 後は脱出を…」

 りせが成功の報を入れようとした時、彼女のペルソナが凄まじい警報を響かせた。

「な、何だ!?」
「………やばい」

 麻希を抱えた陽介が思わず周囲を見回すが、セラを抱えた悠がその原因に気付いていた。

「貴様ら………」
「ここから逃げられると思っていたか?」

 双方、憤怒した千晶とエンジェルが、一撃で押さえ込んでいたペルソナを弾き飛ばす。

「うぐっ!」
「きゃあ!」
「うわあ!」

 共に吹き飛ばされるペルソナ使いだったが、何とか身を起こした彼らの目に入ったのは、すさまじい魔力をほとばしらせている千晶と、最終形態と化したエンジェルだった。

(まずい! このままじゃ、本当に殺されちゃう!)

 りせの脳裏には、今までの人生で一番濃厚な、死への予感が覆っていた。



「い、いけない! あの救出には成功しましたけど、あの二人を怒らせたみたいです! アクセス装置の破壊によるカグツチへの交神途絶が原因見たいですが………」
「分かるわよ、ここからでも………」

 焦る風花に、レイホゥの視線の先には先程まで建物の外部に取り付けられた装置からカグツチへ向けて放たれていた光線が急に途切れた途端、その建物の内部、そこに張られていたと思われる結界から漏れ出した憤怒の魔力に、冷たい汗を感じていた。

「早くこっちに飛ばせないか!?」
「そ、それがまだ結界か何かが邪魔してる上に、中の魔力がすごくて、個人座標固定が出来ません! これじゃ中の人達が!」
「つまり、中の二人をどうにかすればいいのか」
「そ、そうですけど」

 己達のペルソナにまで響いてくる憤怒に、尚也と達哉が互いに顔を見合わせ、頷く。

「向こうから呼べないなら、こちらから飛ばせるか?」
「え………」
「あちらに同じタイプのペルソナがいるなら、出来るはずだ」
「ま、待ってください! スキルが全て同じとは…」
「サポートするわ。生霊送りの秘術を応用する」
「それなら、なんとかなると思う」

 尚也と達哉の提案に、レイホゥと祐子も賛同する。

「待って、回復役も必要ね? 私も行くわ!」
「三人、行けるか?」
「な、なんとか!」

 舞耶も立候補する中、尚也が風花に問うが風花はかろうじて頷く。

「皆は周囲を囲んでくれ!」
「始めるわよ」
「トホカミ ヱミタマ トホカミ ヱミタマ アリハヤ…」 

 レイホゥと祐子が合掌して詠唱を始め、風花はそれに合わせて三人の転移準備に入る。

「久慈川さん! こちらに合わせてください!」
『今、やってる! こっちマジヤバ…』
「間に合って! 行きます!」

 祈りながら、風花は普段と逆の要領で三人を中へと転移させた。



「選民の腕(かいな)!」
「三界輪廻!」

 千晶の異形の右腕が幾つにも分裂して蠢く槍と化し、エンジェルは呼び出したプルパとの合体魔法を解き放つ。

「うわぁっ!」「がはっ!」「きゃああぁ!」

 その場を蠢く槍と万能魔法が荒れ狂い、放った二人を除く全ての者達が飲み込まれる。

「く、クマ君!」
「りせちゃん、怪我は無いクマ………」

 とっさに元の体に戻って盾となったクマがりせを心配するが、ダメージは深刻だった。

「その人、生きてるか相棒………」
「一応………」

 同じく自らとペルソナを盾にした陽介と悠が、自分達よりも救出した麻希とセラの状態を確認する。

「千枝………」
「私は大丈夫………雪子は?」
「かろうじて………」

 直撃こそかろうじて避けた物の、かなりダメージを負った雪子と千枝が、互いをかばうように立ち上がろうとする。

「巽くん! なんて無茶を!」
「へ、オレのガタイがデカかっただけだ………」

 直斗をかばうようにして直撃を食らった完二が、傷口から鮮血を滴らせながら、片膝をついて荒い呼吸をしていた。

「あら、まだ生きてるようね」
「即死する程貧弱では無かったようだ」

 全員が生きている事を意外そうにしながら、千晶とエンジェルは再度攻撃体勢に入る。

「お願い、間に合って!」

 半ば叫びながら、りせは風花のペルソナと同調、向こうから送られてくる物を何とか受け取る。
 それは彼女の正面に、三人の人影として出現する。その姿をりせが確認するよりも早く、人影は力を解き放った。

「アメンラー!」『集雷撃!』
「アポロ!」『マハラギダイン!』
「アルテミス!」『グラダイン!』

 転移に成功した三人が、その場に現れると同時にペルソナを発動、強烈な攻撃呪文が今しもトドメを刺そうとしていた千晶とエンジェルに直撃する。

「何っ!」
「お前達は!」

 突如として現れた三人のペルソナ使いに、その場にいた者達は呆然とする。

「貴方達、怪我は大丈夫? 麻希さんとセラちゃんの状態は!?」
「な、なんとか! でもその二人はすぐに病院連れてかないとヤバいかも!」
「取り敢えず治療を! ナンナル!」『メディアラハン!』

 舞耶が慌てて回復魔法を全員に掛ける。

「この人達もペルソナ使い!」
「何だお前らは!」
「アポロ!」『ギガンフィスト!』

 直斗が三人の正体に気付く中、逆上した千晶が異形の右腕を振りかざすが、達哉が前へと出て己のペルソナの拳を繰り出し、ぶつかりあった双方の拳が凄まじい音を立てる。

「くっ!」
「達哉君!」
「こいつ………!」

 千晶の凄まじい力に、流石に無傷とはいかないが、それでも拮抗状態にしている達哉に千晶は更に憤怒の形相を激しくする。

「す、すごい………」
「オレらと全然レベルが違う………」

 舞耶の回復魔法で一応傷は塞がった悠と陽介が、一人で千晶と戦う達也を見て呆然とする。

「また学生ばかりか………これで全員か? 一箇所にまとまるんだ! すぐに撤退する!」
「させると思うか?」

 尚也が即座に撤退を促すが、それを防がんとエンジェルが立ちふさがる。

「今回の件、仕掛けたのはお前か?」
「ああ。まだ実験の途中なのでな。それを持っていかれると困る」
「それ、だと?」

 エンジェルが四腕の一つで尚也の背後を指差し、それを見た尚也の表情が険しくなる。

「特にそちらの女は拾い物だ。それだけのスペックがあれば、こちらの交神実験ももっと楽に進んだろうがな」
「………」

 エンジェルの更なる言葉に、尚也は無言。
 だが、その視線は僅かに後ろの麻希へと向けられる。
 明らかに疲弊し、顔色も悪い麻希の姿を確認した尚也は視線を再度エンジェルへと向ける。

「断る、と言ったら?」
「無論力尽く、という事になるな」

 脅すでもなく、むしろ淡々とした口調で告げながらにじり寄ってくるエンジェルに、尚也は一歩も引かずに対峙する。

「あ、あの人一人だけじゃ…!」
「助太刀だけでも…!」
「ダメよ、それに彼なら大丈夫」

 加勢しようとする悠と完二を、舞耶がむしろ引き止める。

「このっ!」
「くっ!」

 その隣では、力任せに押し込んできた千晶に、達哉がとっさに引いて距離を取る。

「中々やるようね。ヨスガに協力するなら、生かしておいてあげるわよ」
「オレは道を違える事は二度としないと誓った。例え、何を敵に回そうとも」
「ならば、死に…」

 追撃しようとする千晶と迎え撃とうとする達哉の間に、尚也がいきなり割って入る。

「アメンラー」『終焉の蒼!』
「ちっ!」

 火炎魔法で千晶を押し留めた尚也だったが、ふとそこで達哉は彼の雰囲気が少し変わっている事に気付く。

「尚也さ…」
「悪いけど、今のオレ達のすべき事は捕らわれていた二人と、それを助けてくれた彼らを無事ここから脱出させる事。お前達の相手をしてる暇は無い」

 先程と違い、無感情な声で喋る尚也にただならぬ物をその場にいる者達が感じ始めるが、尚也の言葉は続く。

「それに今、オレは少しだけ怒っている。仲間をさらわれた挙句に、訳の分からない実験に使われ、傷つけられた。あの時と同じように………」

 学生時代の事を思い出しながら告げる尚也だったが、その全身から凄まじい殺気がペルソナ反応と共に漏れてくる。

「え、ちょ、なにこの反応!?」
「あれって、キレてるって言うのかな………」
「というか、何かヤバい予感が………」
『伏せて!』

 女性陣がそこはかとなく危険な空気を悟り始めた時、直斗と舞耶が同時に叫ぶ。

「だから少しだけ、仕返しをさせてもらう。アメンラー!」『ヒエロスグリュペイン!』

 尚也のペルソナがすさまじいまでの閃光を放ち、それが千晶とエンジェルへと襲いかかる。

「これは!?」
「まずい!」

 閃光は二人を中心に一度収束したかと思ったがそのまま膨張、そして限界に達したのか無数の光球をばら撒きながら盛大な爆発を引き起こす。

「くぅ………」
「何じゃこりゃああ!!」
「ひっ………」
「んわああああ!」
「喋るな! 舌を噛むぞ」

 あまりに凄まじい爆発に、誰もが悲鳴を上げるのを達哉が制する。
 光の爆発は室内に留まらず、そのまま周囲の壁をも破砕していった。



「おい、あれは何だ!?」

 機動班の一人が、突如として無数の光球と共に壁が吹き飛んだ一角を指差す。

「藤堂の奴、やったか………」
「ありゃあナオ、キレてやがるぜ」
「Makiに何か!?」
「だったらもっとすげえ事になってるぜ………」

 ペルソナ反応と見覚えのある光景に、元エミルン学園ペルソナ使い達が口々に呟く。

「す、すごい………あそこまでの力を持ってたなんて………」
「情人もすごかったけど、あの人も大概だったみたいね………」
「そりゃゆきのさんや南条さん達まとめてた人だからな………」
「あれ、中の人達は無事なんだよね?」

 反応が振り切れるかと思う程のペルソナ攻撃に、風花が絶句し、リサ、ミッシェル、淳も唖然とする。

「フーカ! 今の内ホ!」
「皆逃がすホ!」
「そうでした! 久慈川さん!」

 そこで護衛(という事に)なっているデビルバスターバスターズに促され、風花は慌ててエスケープロードの準備に入る。

「今ので、アナライズを邪魔していた物も無くなったみたいです! これなら!」
「そりゃ、吹っ飛んだでしょうね………」
「結界を力任せに吹き飛ばすなんて………」

 レイホゥと祐子も呆れる中、風花を手伝うべく合掌して精神を集中させる。

『こっちは皆大丈夫! 位置データ送るね!』
「さっきと逆で同調させてください!」
『クマも手伝うクマ!』
「行きます! ユノ!」『エスケープロード!』

 りせとクマのペルソナと同調させ、風花がエスケープロードを発動。
 光と共に、救出された二人とペルソナ使い達がその場に現れる。

「全員無事か!?」
「な、なんとか全員そろってるよ!」
「うわ、なんじゃこりゃああ!?」
「戦争!?」

 尚也の問いにりせが全員の反応を確認、だが仲間達は目の前に広がっている光景に絶句していた。

「また若いのばかり来たわね、学生みたいだけど」
「あ、はい八十神高校の学生です」
「私達も高校生ですから、一緒ですね」
「あ、貴方が風花さん?」
「はい、あなたが久慈川さんですね?」
「りせでいいよ。助けてくれてありがとう」
「こちらこそ」

 レイホゥが予想以上に若い面子に少し顔をしかめるが、悠も周囲に武装した者達ばかりなのを見てたじろいでいた。

「救出成功だ! 撤退を!」
「分かった!」

 尚也の声に応じ、機動班が用意していた信号弾を上げる。
 作戦成功を知らせる信号弾に、戦闘を行っていた者達が一斉に撤退を始める。

「喰奴達の撤退を援護しろ!」
「敵も混乱している! 援護砲撃用意!」
「上杉! 稲葉! 広範囲で弾幕を張るぞ!」
「MakiとSeraをこちらに! Dr.が後方に待機してますわ!」
「急いで!」
「何がどうなって………」
「話は後です!」

 デモニカ姿の機動班が重火器を発射し、ペルソナ使い達が攻撃魔法を放っていく。
 その中でエリーと乾に先導され、悠達は一足先に撤退を開始する。

「えっと、この子もペルソナ使い?」
「はい、天田 乾です。そちらも?」
「そうだよ」
「ワンワン!」
「こっちはコロマル、同じくペルソナ使いです」
「ワンちゃんのペルソナ使いっているんだ………」

 何か状況がますます理解できなくなる中、後方にいた装甲車に促され、慌てて乗り込む。

「患者をこっちに!」
「は、はい!」
「うわ、すげえハイテクカー………」
「男性陣はあと出てく!」

 車内で待機していたゾイが診察準備を進める中、男性陣は文字通り治療室から蹴り出される。

「え〜と、この後オレら、どうしたらいいんだ?」
「どうしたらって言われても………」
「戻って助太刀ってのは?」
「止めた方いいと思いますよ、巻き込まれますから」

 顔を見合わせる陽介と悠に、完二が向こうへ戻ろうとするが、乾がそれを止める。
 何気に向こうの様子を伺った皆が見たのは、ありったけの重火器をばらまく機動班やダメ押しの魔法を放つペルソナ使い、そして殿を務める白と赤の喰奴が凄まじい吹雪と業火を吐き出す様だった。

「………なあ、今オレらドコにいるんだ?」
「B級ホラー映画の世界にでも入っちまったんじゃないっすか?」
「全然楽しくないクマ!」
「認めたくないのは分かりますけど、一応現実です………ボクも今だに信じられませんけど」
「問題は、これからどうするかの方かな………」

 呆然とする陽介と完二、むしろ激高するクマだったが、乾はここに来たばかりの頃を思い出し、悠も今後を考えてうなだれる。

「ワンワン!」
「そうかクマ、君達も突然ここに来たのかクマ」
「ワン、ワワン!」
「そうなのかクマ? 確かにあのお兄さん達は助けてくれたクマけど………」
「ワン!」
「分かったクマ、少なくとも君と彼はペルソナ仲間クマ」
「………クマは犬と話してるし」
「クマ、お前そんな特技あったのか?」
「この子の言う事はなんとなく分かるクマ」
「ペルソナの感応って奴ですね。ボクの仲間にもコロマルと話せる人いますし」
「もう何でもありに思えてきた………」
「実際、なんでもありですよ。しかも、どうやっても無関係じゃいられません。ペルソナ使いである限り」
「君、小さい割に達観してるね………」
「この事教えてくれた人はもっとすごかったですけどね………」

 乾の言葉に、悠は思わずため息を漏らす。
 そんな中、撤退してきた者達が続々と後方待機していた車両に乗り込んでいく。

「そこの人達! メンバー全員そろってる!?」
「は、はい!」
「じゃあ戻るわよ!」

 レイホゥの号令を合図に、車両が一斉に動き出す。

「これからどうなるんだろう………」

 状況も何もかも理解出来ぬまま、悠はただ疲労感に任せて目を閉じた………



 新たに交わりし糸は、何も分からぬままにただ己達の心粋に従う。
 彼らとの邂逅がもたらす物は、果たして………





感想、その他あればお願いします。


NEXT
小説トップへ
INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.