PART5 NET CONNECT(後編)


真・女神転生クロス

PART5 NET CONNECT(後編))



一時間後 タルタロス エントランス

「こんばんは」
「来たか」

 訪れた特別課外活動部の部員達に、準備を整えていた八雲とカチーヤが立ち上がる。
 だがそこで、相手が先程よりも増して怪我だらけなのに気付いた。

「また出たのか」
「あの後一体、別口のを真田先輩が一人で倒して、昨日は二体、今日は三体………」
「そんな強くない奴だったから良かったけど、今日のなんか授業中に屋上ぶっ壊してたのよ………」
「竜巻の余波で倒壊、確認の際に巻き込まれたという事にしておいたが、傷までは誤魔化せなくてな………」
「ま、ペルソナで治したの誤魔化してるってのもあっけど」

 包帯やバンソウコを外すと、その下にまだ完治しきってない傷があるのに八雲が顔をしかめる。

「本当に大丈夫か? どちらにしろ、もう時間の余裕は無さそうだが」
「今晩中に片をつけよう。でないとこちらが持たん」
「そうですね。不眠不休って言葉の意味が最近よく分かります」
「クゥ〜ン」

 疲労はあるようだが、闘志は衰えていないペルソナ使い達が、手に手に得物と召喚器を構える。

「じゃあ行くか」
「ええ、行きましょう」

 八雲がGUMPを操作し、あらかじめ呼び出しておいたジャンヌ・ダルクに続いてケルベロス、蝶の羽根を持った老人の姿をした妖精 オベロン、六つの腕を持ち、無数の頭蓋骨をアクセサリー代わりに身につけているインド神話の猛々しい女神、地母神 カーリーを呼び出す。
 八雲と啓人が先頭に立ち、その後ろにカチーヤとペルソナ使い、仲魔達が並ぶ。

「最強の二人を最前と最後に、サポート役は中央に。特にサーチと回復は両脇も固めろ」
「じゃあオレが後ろに立とう」
「私も」

 明彦と美鶴の二人が最後尾に立ち、中央の風花の両脇をアイギスとカチーヤが固める。

「雑魚は無視、一気に行くぞ!」
『おう!』

 全員がワープポイントに立ち、一気にタルタロスの228階へと跳んだ。

「! 上に居ます。かなりの数が………」
「ジャンヌ、ありったけのサポート魔法を」
「心得ました、召喚士殿。『ラクカジャ!』」
「アイギス、こっちも」
「了解です。アテナ!」『マハ・スクカジャ!』

 ジャンヌ・ダルクとアイギスのサポート魔法が全員を覆うと、皆で一斉に階段へと駆け出す。
 階層が変わると同時に、周囲に一斉にシャドウが現れた。

「目を閉じろ!」

 八雲が叫びながら、かかとを強く踏み込んでずらし、そこにセットされていた物をシャドウへと向かって放り投げる。
 理由も問わずに皆が目を閉じた(コロマルのは天田が手で塞いだが)直後、それは眩いばかりの閃光と共に炸裂し、シャドウ達を眩ませる。

「突破しよう!」

 閃光が晴れていく中、啓人が長剣を振るいながら突撃し、他の者達も後に続いてシャドウの包囲を一気に抜ける。

「オベロン! 一発かましておけ!」
「明彦先輩も!」
「まかせい!『マハ・ラギオン!』」
「カエサル!」『マハジオンガ!』

 最後尾にいたオベロンが火炎魔法を、明彦が電撃魔法を食らわし、そのまま逃走する。

「こっちだ召喚士!」

 通路の向こうから、先行させておいた全身から水を滴らせる大蛇の龍王 ミズチが階段の場所を示す。

「追ってきやがるぜ!」
「無視するんだ!」
「ミズチ! 先行して上階の階段確保!」
「了解!」

 もつれるように皆が階段に飛び込み、上階へと移動する。

「階段はどっちだ!」
「わあ、そっちから来たぁ!」
「こっちもだぜ!」
「このままじゃ挟み撃ちですよ!」
「右だ!」

 八雲が右手でソーコムピストルを乱射しつつ、左手でHVナイフを振るってシャドウを倒していく。

「くそ、追いつかれる! トリトメギ…」
「待て! カチーヤ、オベロン、後ろを塞げ!」
「はい!『マハ・ブフーラ!』」

 カチーヤとオベロンがその場に留まり、床へと手をついて氷結魔法を放つ。
 放たれた冷気が周囲を一気に氷結させ、氷で通路を閉ざしていく。

「なるほどな。アルテミシア!」『ブフダイン!』

 それを見た美鶴が己のペルソナを発動、三人の氷結魔法が完全に通路を氷結させ、封鎖した。

「すげ………」
「こんな方法もあるんだ………」
「自分らの能力の可能性くらい把握しとけ!」

 感心してる面々に呆れながらも一喝し、見えてきた階段に八雲が飛び込む。
 次々と包囲を突破し、上階へと目指していた一行の前に、エリアボスのシャドウが現れる。

「ユノ!」『ハイ・アナライズ!』
「SCAN!」

 風花が己のペルソナを呼び出し、八雲が叫びながらGUMPを操作、それぞれが相手の情報を読み取っていく。

「”刑死者”タイプ……ここの番人です!」
「電撃と火炎は効かない!」
「じゃあスピードで! イシス!」『ガルダイン!』
「カーラ・ネミ!」『マッドアサルト!』

 ゆかりのペルソナが疾風魔法を放ち、乾のペルソナ、時の星の車輪の女神にして、黄道を這う世界蛇 カーラ・ネミが突撃攻撃を食らわす。

「さっきと同じ手で足を止めろ!」
「分かった……!」

 氷結魔法で足を止めようとした美鶴とカチーヤだったが、エリアボスの振るう巨腕が、接近を許さなかった。

「ちっ!」

 八雲が舌打ちしながらソーコムピストルのマガジンをイジェクト、懐から別のマガジンを取り出して装填、スライドを引いてエリアボスへと乱射する。
 着弾したポイントから周囲が凍っていき、相手の動きが若干鈍る。

「カチーヤの余剰魔力を込めた冷気弾だ! そう簡単には砕けねえぞ!」

 そう言いながらも、八雲は余波でこちらも凍りつつあるソーコムピストルをホルスターへと仕舞う。

「掃射!」
「はっ!」

 そこにアイギスが両手のマシンガンを連射し、ゆかりの矢がエリアボスを狙い打つ。
 しかし、それでもなおエリアボスが動いたかと思うと、その動きが一気に加速した。

「がっ!」
「うわっ!」
「ぐはぁっ!」
「あっ!」

 高速で動きまくるエリアボスの空間殺法を食らい、何人かが吹き飛ばされる。

「ジャンヌ!」
「心得てます!『メ・ディアラマ!』」

 叩きつけられながら八雲が出した指示に従い、ジャンヌ・ダルクが回復魔法を皆にかける。

「皆さん!」
「大丈夫、それよりも!」
「ああ!」
「分かってます!」

 エリアボスの動きが止まった瞬間、啓人を先頭に残っていた者達が一斉攻撃を仕掛ける。

「タナトス!」『メギドラ!』
「アルテミシア!」『ブフダイン!』
「イシス!」『ガルダイン!』

 三体のペルソナが一斉に魔法攻撃を放ち、相手の体勢を大きく揺るがせる。

「今こそ、総攻撃であります!」
「行こう!」

 啓人の号令と共に、ペルソナ使い達が一斉にエリアボスへと襲い掛かる。

「おりゃっ!」
「ふっ!」
「でゃぁっ!」

 順平の大剣がエリアボスを薙ぎ、明彦のワンツーパンチと美鶴の突きが突き刺さる。

「はっ!」
「ワンッ!」

 乾の槍が突き刺さり、コロマルの短剣が斬り裂き、エリアボスの体が大きく傾く。

「当てる!」
「掃射!」
「いやぁっ!」

 ゆかりの矢とアイギスの弾丸が連射される中、啓人が突撃してエリアボスの体に深々と長剣を突き刺した。

「これで…」
「まだです! まだ倒せてません!」

 風花が叫ぶ中、エリアボスが立ち上がるとその巨腕で啓人を掴み上げる。

「しまった……」
「啓人さん!」
「詰めがあまいな。スタンビート!」
『オオッ!』

 八雲の号令と共に、八雲とカチーヤ、それに仲魔達が一斉に突撃を開始する。

「はあっ!」
「アアァァ!」

 ジャンヌ・ダルクの剣と、カーリーの六刀がエリアボスを斬り裂く。

「ゴガアアァッ!」
『マハ・ブフーラ!』

 ケルベロスが牙を突き立て、オベロンの氷結魔法がエリアボスを覆っていく。

「イヤアアァッ!」

 カチーヤの手にした方天戟、女性の守護を司る天仙娘々のソウルを宿した空碧双月(くうへきそうげつ)が深々と突き刺さり、それを足場にして八雲が跳ね上がる。

「いい加減、くたばりな!」

 八雲がエリアボスに手を当て、軽く捻ると袖口に仕込んでいたトラッパーガンが作動、突き出された銃口から、ゼロ距離でコロナシェルが放たれ、閃光と共にエリアボスの頭部が爆散した。

「やった!」
「うげ………」
「いったい幾つ危険物持ちあるってんのかしら………」
「奥の手の一つだよ。使いたかなかったが………」

 硝煙と陽炎の漂うトラッパーガンを外した八雲が、バックファイアで赤くなった手首に涙目で息を吹きかける。

「いま回復魔法を」
「この程度で使うな。まだ先がある」

 その言葉に、全員の顔からエリアボス撃破の余韻が消える。

「強行突破するぞ。残りはとっておきたいしな」
「………普段から持ち歩いているんですか?」
「いや、作戦中だったから」
「普段は半分くらいですよ」
「テロリスト顔負けですね………」
「相手が人間か悪魔かの違いだけだ。後は左程変わらん」

 今更ながら何か危険すぎる人物と共にいる事に恐怖する特別課外活動部の面々だったが、彼の力無しでは事態の把握すら出来ない状態だった事に、とりあえず妥協する事にする。

「一体、この上に何があるんだ?」
「さあな。さすがにそればかりは行ってみないと分からん」
「まさか、もうニュクスが降りてきてるなんて事は……ないよな?」
「最悪の事態は考えても口にしない方が身のためだぞ。口にすると大抵当たっからな」

 全員の視線が失言した順平に突き刺さる中、一行は階を登っていく。
 シャドウ達の攻撃は苛烈さを増し、それらを辛くも切り抜け、ようやく249階にまで到達する。

「あ、れ?」
「どうした山岸」
「それが………上から何も感じないんです」
「え? それってどういう事?」
「……ペルソナが阻害? いえ違う……これは………」

 己のペルソナでさらに詳しくアナライズする風花が、それでも何も感じない事に首を傾げる。

「空間が完全に断絶されてるのかもな。まあ登ってみりゃ分かる」
「ポジティブですね」
「お前もあと何年かやってりゃこうなる」
「そんなにやってないと思いますが………」

 誉めてるのか忠告だか分からない八雲の言葉に啓人は首を傾げつつ、見つけた階段へと足を踏み出す。

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
「どっちも見飽きてるな」
「……オレ、ニュクス倒したら平凡な人生送る事にした」
「あたしも……」
「できればいいですね」

 カチーヤの何か含みのある言葉に気を取られつつ、一行は階段を駆け上がる。
 そして上の階に入った途端、一斉に体を違和感が通り抜けた。

(!? この感覚、どこかで?)

 体の細胞一つ一つが、何かを通り抜けていくような感覚に、八雲が首を傾げる。
 そしてそれを通り抜けた時、周囲の景色は一変していた。

「な、なんだこれは………」
「これは一体!?」
「どこだよここ!?」
「タルタロス内とは思えません」
「ワンワン!」

 それを見た全員が驚愕する。
 250階に広がっていた物、それは〈街〉だった。
 石畳の敷かれたどこかレトロな道路を中心に、やや中世じみた建物が立ち並ぶ。
 だが、そのどれもが色あせ、ひび割れ、廃墟の様相を呈し始めていた。

「これが、特異点?」
「でも、何かおかしいです。この街は…………」

 全く予想外の事に皆が困惑する中、一人だけ別の困惑をしている人間がいた。

「八雲さん?」
「馬鹿な、なんでこれがここに………」

 廃れ始めている街並みに、八雲は呆然とそれを眺めていく。

「知っているんですか?」
「知っているも何も、オレはここでサマナーになったんだ………」
「! じゃあここはあんたのいた世界!?」
「でも、何かおかしいであります」
「当たり前だ。ここは、電子世界《パラダイムX》だ」
「電子世界!?」

 慌てて皆が周囲を注意深く観察する。
 ひび割れた場所や朽ちた個所が、よく見ればノイズでもかかったのように不鮮明になったり、消えかけたりしている場所が存在している。

「! います! 何か巨大な力を持った存在が向こうに!」

 風花が叫ぶと同時に、八雲のGUMPも甲高い警告音を立てる。

「いいぜ。何が出てきてももう驚かねえ……」

 頬を一筋の汗が流れる中、八雲は反応のある裏通りの方へと走り出す。

「電子世界か……とても信じられんな」
「ここの主を倒せばいいんだろ? ならば簡単だ」

 美鶴と明彦がその後に続き、他のペルソナ使いと仲魔達もそれに習う。

「? 今、誰かが………」

 カチーヤが何者かの視線を感じたのもつかの間、慌てて皆の後に続く。

(ようやく辿りつけたか………強きソウルを持つ者達よ………)

 その場に漂う、微かな〈意識〉に気が付く者はいなかった。


(変わってない………あの占い屋も、ペットショップも………)

 裏通りを駆け抜けながら、八雲は懐かしい光景に思いを寄せる。

(だが、なぜ? サーバーシステムは破壊され、マニトゥもあいつと共に滅んだ……なぜこの街が存在するんだ?)

 思案を巡らせつつ、裏通りを走り抜けた所で、八雲は足を止める。
 かつてはエアビジョンが宙に浮かび、様々な情報を流していた広場の中央に、不釣合いな物が存在していた。

「あれは………」
「そうか、やっと分かった。オレがここに呼ばれた理由がな………」

 それを見ながら、八雲がナイフを構える。
 それは、一台のスーパーコンピューターだった。
 高度な電算処理等に使われるはずの物が、電源やコードの類が一切取り付けられないまま、それでもなお稼動しながらその場に鎮座している。

「ここはかつて研究所だったそうだな。あれは使ってたか?」
「あ、ああ。最新型のを幾つも設置していたはずだ」

 美鶴が答える中、スーパーコンピューターが突然不快な音を立て始める。

「覚えておけ。プログラムを使って制御できるように、悪魔はある種の情報体に置換できる」
「なんですか? いきなり………」
「だから、巨大な力を持った存在の力をプログラムを使って変質・制御し、己の意のままに扱おうとした連中が存在した。だが、変質に抵抗した存在は、己の分身とも言える〈バグ〉を幾つも生み出した。その〈バグ〉は悪魔の力と、プログラムの特性を両方持った今までにない存在となった」

 異音を立て、目まぐるしく動くスーパーコンピューターから何か闇のような物が漏れ出し、段々と形を成していく。

「その存在の名は《電霊》。かつて、オレとオレの仲間達が全力を上げて戦った連中だ」

 形を成したそれは、闇で造り上げたかのような体に仮面をはめ、無数の手を持つシャドウの姿その物だったが、その体はエレメント級に匹敵する程巨大で、その体のあちこちをスパークが走り、プログラムのような物が駆け巡っている。

「じゃあこれは、電霊化したシャドウ!?」
(ワレ……は………)

 電霊シャドウから発せられたあまりに重く強い思念に、全員の体が硬直する。

(ワレ……は………新たな……チカラを……得た……者…………)
「しゃ、喋りやがった!」
「今日日、携帯ゲームだって音声付だろ。驚く程の事でもねえ」
「ああ、そうだな」

 ナイフを構える八雲の隣に啓人も立ち、召喚器をコメカミに当てる。

「やるか」
「ええ」
「行け!」
「タナトス!」

 八雲の仲魔への号令と、啓人が召喚器のトリガーを引くのは同時。
 仲魔のケルベロスが業火を吐き出し、呼び出されたタナトスが剣を振るう。

「このシャドウ、とてつもなく強敵です!」
「とっとと倒して今晩はたっぷり寝るぜ!」
「その案賛成!」

 風花が叫ぶ中、順平が大剣を振りかざし、ゆかりが矢をつがえる。

「元の世界に帰らせてもらいます!『マハ・ブフーラ!』」
「お手伝いするであります!」

 カチーヤが氷結魔法を放ち、アイギスの両手から無数の弾丸が撃ち出される。
 無数の攻撃を食らった電霊シャドウが、僅かに怯んだかと思った時、突然その体が旋回を始め、触手のような腕が嵐のように薙ぎ払われる。

「はあっ!」
「アアアァァッ!」

 ジャンヌ・ダルクの剣とカーリーの六刀が振るわれ、何本かの腕の先端部分が切り飛ばされるが、残った部分がその場にいる者達を無差別に吹き飛ばす。

「そんなヤワなパンチが効くが!」
「ワン!」

 何人かが倒れる中、耐え抜いた明彦と合間を潜りぬけたコロマルが一気に電霊シャドウへと近付くと、コンビネーションパンチとナイフの連撃をお見舞いし、駄目押しでペルソナを発動。

「カエサル!」『ジオダイン!』
「ワオーン!」『アギダイン!』

 至近で放たれた電撃魔法と火炎魔法が電霊シャドウに炸裂するが、雷光と業火が晴れた向こうには、僅かに傷ついただけの姿があった。

「くっ、魔法耐性か?」
「違います! 魔法を食らう寸前だけ属性が変わってるんです!」
「何だと………!」
「有りかそんなの!」
「有りだぞ。こいつはこのタルタロス自体にネットワークを構成してやがったんだ! 特異点が発生してからのデータは全て、こいつに収拾され、対抗策が講じられてる!」
「何よそれ! イカサマもいいとこじゃない!」
「それが電霊の特性だ! 早く倒さないと、こいつは更に進化するぞ!」
「じゃあどうすれば!」
「……オレと仲魔が時間を稼ぐ! 切り札の一つ二つ持ってるだろ! そいつをぶち込め!」
「分かった!」
「ワオーン!」
「他のみんなはサポートを!」

 明彦とコロマルが己のペルソナに全精神力を込めて召喚器を発動させ、啓人の指示で各々が自分の得物を構える。

「ロンド! 注意をひきつけろ!」
「心得ました!」
「ガアアァ!」
「アアアァァ!」
「行くぞ!」

 八雲がナイフ片手に突撃し、電霊シャドウにナイフを突き刺すと、反対側へと回り込んだジャンヌ・ダルクが剣で斬り裂く。
 その隣でケルベロスが業火を吐き出し、反対側でカーリーが六刀を振るう。
 宙からオベロンが魔法攻撃を繰り出し、そのまま八雲と仲魔達が電霊シャドウの周りを円舞がごとく旋回しながら、攻撃を加えていく。

「いけない! 何か来ます!」
「させるか! カエサル!」『カイザー・フィスト!』
「ワオオーン!」『ヘルズゲート!』

 カエサルの拳に無数の雷が降り注ぎ、雷光を帯びた拳が電霊シャドウに突き刺さる。
 そこに漆黒の炎を帯びたケルベロスが突撃し、電霊シャドウに激突すると漆黒の炎で被い尽くす。

「こいつぁ強烈………」

 仲魔を下がらせ、明彦とコロマルの切り札的攻撃を食らった電霊シャドウを八雲は観察する。
 電光を帯びた拳で大きく陥没した部分には今だ電撃が走り、全身を被う炎は更に勢いを増していく。

「今の内にやっちまおうぜ!」
「ああ! 総攻撃を!」

 ペルソナ使い達が、一斉に周囲を取り囲んで攻撃を加えようとした時だった。
 突然電霊シャドウの体が淡く光り始めたかと思うと、突然その表面を無数のスクエア上の模様が走り、その姿が掻き消える。

「消えた……だと?」
「まずい! シフトだ!」
「風花! すぐに周辺を…」

 啓人が風花に指示を出そうとそちらを見て、愕然とした。
 今目の前で消えたはずの電霊シャドウが、風花の真上に出現していた。

「え………」
「風花〜!」
「逃げるんだ山岸!」

 全く予想外の事態に、風花が硬直している所へ、電霊シャドウが襲い掛かる。
 皆が絶叫する中、迅速に動いた影が有った。

『フリーズ・ウォール!』
「退避します」

 カチーヤが襲い掛かろうとする電霊シャドウの前に立ち塞がり、空碧双月を両手で持ったまま前へと突き出し、己の魔力で氷壁を構築して攻撃を阻み、その隙にアイギスが風花を抱えて相手の攻撃圏から離脱する。

「〈目〉を潰しに来やがったか………」
「なんなんだ、さっきの!」
「存在座標をシフトさせたんだ! 電霊の得意技だ!」
「卑怯ですよそんなの!」
「違うページに行かないだけマシだ!」

 氷の障壁に阻まれていた電霊シャドウの姿が、また突如として消える。

「またぁ!?」
「2マン・セルか3マン・セルで組んで動き続けろ! 奴は恐らくこの階から移動できない!」
「根拠は!」
「こんな能力あるなら、とっとと襲ってくるだろうが!」
「あ、そっか」

 思わず動きを止めて手を叩いた順平の背後に、電霊シャドウが出現する。

『危ない!』

 それに気付いたゆかりが素早く矢を番え、カチーヤが懐からグロッグ18Cを抜き、同時に放たれた矢と銃弾が順平の両コメカミをかすって電霊シャドウに突き刺さる。

「また飛んだぞ!」
「今度はどこだ!」
「あの、今かすったんだけど………」

 涙目で訴える順平を無視して、全員が周囲を警戒する。

「! 上です!」

 風花が叫んだ時、虚空に浮かぶような形で出現した電霊シャドウがその体表にプログラムのような数字を光らせる。

『サイレント・ノイズ』

 突然その数字が虚空へと放たれ、下にいた者達へと降り注ぐ。

「これは!」

 それを浴びたペルソナ使い達の召喚していたペルソナが霧散し、仲魔が光となってGUMPへと戻っていく。

「な、ペルソナが!」
「だせねぇ!」
「強力な封魔術だ! 長続きはしない!」

 GUMPを操作して現状を確認した八雲が、召喚不能状態を示すビープ音に舌打ちする。

「ペルソナが使えなくても、物理攻撃なら…」

 啓人が長剣を構えた時、電霊シャドウの体表がまた明滅する。

「避けろ!」
『ボイステラス・ノイズ』

 電霊シャドウの全身から、赤・白・青・黒の四色の雷が無数に降り注ぎ、全員を襲った。

「がっは!」
「うっ!」
「ぐはぁっ!」
「あっ!」
「きゃあっ!」
「ぐっ!」

 四色の雷は周辺に満遍なく降り注ぎ、それれぞれが違う属性を持って襲い掛かる。
 雷が晴れた後には、ある者は倒れ、ある者は地に膝をつき、立ち上がっているものはいなかった。

「複数属性攻撃………強い………」

 啓人がふらつきながらも立ち上がり、長剣を構える。

「くそ、素でも強ぇのに、からめ手まで使いやがって………」

 八雲も立ち上がると、GUMPを操作しようとするが、その二人の元に電霊シャドウが襲い掛かる。

「オルギア、発動!」

 そこに、リミッターを解除したアイギスが割り込み、電霊シャドウを強引に押し飛ばすと、ゼロ距離で両手のマシンガンを速射する。
 だが全弾を叩き込む前に電霊シャドウの姿がまた消える。

「また…!」
「どっちだ!」
(……そういや、前はあいつが居場所突き止めてくれたな)

 八雲が電霊シャドウにてこずる理由を何気なく思い出しつつ、背中の切り札へと手を伸ばした。

「封魔は解けている。お前の最高の切り札は使えるか?」
「え、多分………」
「オレがあいつの動きを止める。その隙にそいつをぶち込め。一回きりだから、オレが死ぬ前にな!」

 そう言った八雲は、電霊シャドウの注意を引くために啓人のそばから一気に走り出す。

(来い、獲物が逃げるぞ)

 念じながら、八雲は背中から取り出した物を起動させていく。
 それは白地のボディを持つライフルのような物だったが、銃口に当たるはずの場所にはレンズのような物が取り付けられ、マガジンらしき場所にHDが取り付けられている。
 スイッチを入れ、動作に問題が無い事を確かめた八雲は、愛用のサングラス内に投射されているGUMPからのサーチデータをチェックする。

(どっちから来る? 外せば次は無い……)

 GUMPからの警告音が響くと同時に、八雲はそれを構えた。
 相手の姿が確認できた瞬間、八雲はそれのトリガーを引いた。
 一瞬だけ〈銃口〉が光り、放たれた物―悪魔召喚プログラムを解析して反転させた、強制悪魔退去プログラムをレーザー信号化させた物が電霊シャドウに強制入力される。

「どうだ《ダインスレイフ》の一撃は!」

 一度抜けば必ず人命を奪う魔剣の名を関した強制悪魔退去プログラム入力用デバイスが、プログラムの強力さ故の不安定さに耐え切れずスパークを上げて煙を噴く中、八雲は電霊シャドウの体が不安定な明滅を繰り返し、悶え苦しんでいるのを見てほくそ笑む。

「今だ!」
「うおおぉぉ!」

 啓人が己のこめかみに召喚器を当て、トリガーを三連射。

『インフィニティ・ヴォイド!』

 召喚されたタナトス、ヨハネ黙示録に予言されるラッパを持つ神の遣い―トランペッター、エジプト神話の悪神―セトがまとめて召喚されると、それぞれが電霊シャドウを取り囲む頂点となって三角形を形勢。
 中央部分に現れた漆黒のホールから闇が噴き出し、電霊シャドウを飲み込んでいく。

「うぉぉぉぉぉっ!!」

 啓人は更に召喚器のトリガーを引き続け、ありったけの精神力をペルソナへと注ぎ込む。
 悶え苦しむ電霊シャドウが、己を飲み込もうとする闇から抜け出そうとするが、そこへオルギアモードのアイギスが高々と跳躍し、直上を取った。

「止めであります! アテナ!」『デッドエンド!』

 真上から突撃したアテナが、電霊シャドウを貫き、闇へと突き落とす。

『我……は……ワ……レの……』

 何かを言おうとする電霊シャドウに、アイギスは残弾全てを叩き込んだ。

「やったか!?」

 八雲が呟いた時、いきなり周囲を眩いばかりの閃光が包み込む。

「何これ!?」
「何が起きたのだ!」
「! そばにいる奴を掴め! 飛ばされ…」

 その閃光が、自分がここに飛ばされた時と同じ現象だという事に気付いた八雲が叫ぶ途中で、全員の存在が、その場から消えた。



 啓人が覚醒した時、自分が不思議な空間にいる事に気付いた。
 まるで夢のように不確かな場所に、自分が浮かんでいる。
 いや浮かんでいるというのも比喩で、自分自身もその不確かな物の一つのようで、なぜそこにいるのかが分からない。

(……ここは?)
(さあな)

 すぐそばから聞こえた声に驚くと、八雲の姿がそこにあった。
 だが見える姿はどこかおぼろげで、自分同様不確かな存在になっているようだった。

(ひょっとして、あの世?)
(だったらすぐオレあてに迎えが来るだろ。てぐすね引いてる連中がな)
「来たか。強きソウルを持つ者達よ」

 いきなり響いてきた強い意志のこもった声に、二人はそちらを見る。
 そこに、淡い光の固まりが浮かんでいた。

(なるほど、オレをあそこに飛ばしたのはアンタだったか。レッドマン)

 八雲がそう言うと、光の固まりは徐々に形を成していき、そしてそれはネィティブアメリカンの男性シャーマンの姿へとなった。

「久しいな。強きソウルを持つ者」
(そうだな。てっきりあの時、あいつと一緒に消滅したと思ってたんだが………)
(知ってる人なんですか?)
(オレをサマナーにした張本人だ。今回は何が狙いだ?)

 八雲の問いに、レッドマンは僅かに首を左右に振る。

「まず誤解がある。私は、時空の狭間に飛ばされていくお前を、あの塔へと導いただけだ。あの時、お前とお前の仲間を時空の狭間に飛ばしたのは別の〈何か〉だ」
(何か? あの実験が原因じゃないのか?)
「あれ自体は起因の一つにすぎない。私にとっても計り知れない、とてつもなく巨大な力を持った者が、それを利用しただけだ」
(待ってください! じゃあこちらで起きた変異は?)
「その者が、こちらの因子を持ち込んだ結果に起きた物だ。恐らくは、実験の一つだろう………」
(実験!? 何の………)
「分からぬ………」
(なるほど、周防の奴も別の一つに巻き込まれた訳か)
「最早、影響は一つに留まらぬ。数多の可能性の世界で、異変が起き続けている」
(タルタロスだけじゃない? 一体何が……)
「分からぬ。だが、このままでは幾つもの可能性の世界が、滅亡へと向かうだろう」
(つまり、それをオレらにどうにかしろって訳か)

 レッドマンは頷くと、二人の背後を指差す。

「すでに異変は暴走とも言える段階にまで達しつつある。我以外の導き手達も動き始めた。これから何が起き、どう動くべきか。それは自らの目で確かめ、決めるがいいだろう………」
(結局、押し付けてるだけだろうが。まあ世界が滅んじまったら、ギャラもないしな)
(そうだ! 他のみんなは?)
「ご安心ください」

 また別の声が聞こえ、そちらの方向を見た二人は、長椅子に座る奇妙なまでに巨大な鼻を持った男と、その隣に控える青い装束を着た少女を発見した。

(イゴール! エリザベスも!)

 それがペルソナを融合させる力を持つイゴールと、融合させたペルソナを管理するエリザベスだという事に気付いた啓人が声を上げる。

「いやはや、大変な事になりましたな」
「あなたの仲間は、私達が次の目的地へと送り届けます」
(でも、ニュクスは? もう時間が……)
「それなのですが、どうやらタルタロスも、ニュクスもその因子の一つとして取り込まれていくようなのです」
(そんな! これから何が……)
「それこそ、ご自分の目でお確かめ下さい。我々にできるのは、この時空の狭間のご案内くらいですから………」
「頼んだぞ、強きソウルを持つ者達よ」
(いい加減、世界は救い飽きてきたぞ………)

 八雲のぼやきを最後に、二人の意識は、また途絶えた。



『ぶはっ!』

 八雲と啓人の二人が、同時に覚醒する。

「どこだここは」
「タルタロスじゃないみたいですけど………」

 そこは、錆びた鉄の匂いがする荒野で、間近にインド風とも取れる奇妙な建物があるのが見えた。

「見た事もないな」
「そうですか………」

 そう言いながら、お互い片手に掴んでいた物を引っ張る。
 八雲の手には目を回したカチーヤの襟首が、啓人の手には伸びている順平の足首が掴まれていた。

「大丈夫かカチーヤ」
「順平生きてる?」
「ん……」
「あ………?」

 目を覚ました二人が、ホコリを払いつつ起き上がる。

「ここは……」
「さあな」
「そうだ他の連中は…」

 順平がとっさに掴んでいた物を見る。
 その手には、ゆかりのスカートだけが握られていた。

「…………やべ」
「あの、それ………」
「当人が近くにいないのが幸か不幸か」
「……どこにいるのやら?」

 何気なく周囲を見回した啓人が、何かに気付いて視線を上へと向けていく。

「な、なんだこれ………」
「ん? 何が………!!!」

 吊られて上を見た順平も、それに気付いて仰天する。

「な、なんですかここ!?」
「……随分と愉快な所みたいだな」

 真上を見た一行が見た物、それは真上にも広がる街並みだった。
 よく見ると荒野の地平の向こうは盛り上がり、そのまま巨大な孤を描いて真上を通って一周している。
 それは、この世界が巨大な球体の内部に形勢されているという事だった。
 さすがに予想外の世界に、八雲の頬を冷たい汗が流れ落ちる。
 その時、異音と共に何か間近へと落ちてきた。

「今度はなんだ!?」
「あれは!」

 その落ちてきた物が、電霊シャドウが巣食っていたスーパーコンピューターだという事に気付いた八雲が、GUMPに手を伸ばす。

「まずい、媒体があるという事は、まだ奴が入ってるかもしれん」
「な、マジかよ!?」

 大慌てで順平が召喚器を取り出し、カチーヤが空碧双月を構えた瞬間、そのスーパーコンピューターから突然テニスボールよりは一回り大きい光の玉が飛び出す。

「あいつか!」
「小さいですけど?」
「くそ、先制攻撃を」

 攻撃をしかける前に、その光の玉はすさまじいスピードを周辺を飛び交いまくる。

「おわ!」
「なんだ!?」
「!?」

 その光景に見覚えがあった八雲が硬直した時、光の玉が地面へと着地する。
 そして光の玉は明滅したかと思うと、突然その大きさと形を変えていく。
 形がはっきりしていくと段々光は薄れ、その輪郭を露にしていく。

「……女性?」

 カチーヤが呟いた時、輪郭は完全に固定され、光が消えていく。
 後に残ったのは、長い銀髪と白い肌、そして黒いルージュを指した成人間近の女性の姿だった。

「ハァー、やぁっと出れた!」
「ネ、ネミッサ!?」

 GUMPを取り落とした八雲は、驚愕と共に、その女性の名を呼んだ………



 手繰り寄せた糸の端には、新たな困難と、古き因縁が結び付けられていた。
 その二つが絡んだ先に待ち受けるのは、果たして………






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