PART51 COUNTDOWN OF THE END(後編)


真・女神転生クロス

PART51 COUNTDOWN OF THE END(後編)





「な、何あれ………」

 何気に外を見たゴーグルをかけた少女、アサヒがこちらに向かって文字通り《爆走》してくるバイクに絶句する。

「あれは、一体?」

 タトゥの少年、ナナシもありとあらゆる火器を撒き散らし、物理法則を無視したかのようなアクロバット走行をするバイクに二の句が告げない。

「おい、あれは救援か!?」
「知らねえよ! けど、なんかやばい奴なのは確かだ!」

 槍を持った白い装束の男、ガストンが声を荒らげるが、ジャンパーの少年、ハレルヤも声を荒げて返す。

「敵か味方かは今に分かる。迎撃の準備を」
「誰かフリンを呼んできて! 私達の手に余るかも!」

 黒尽くめの仮面を付けた少女、トキが両手に愛用の鉈を構え、カラーサングラスの女性、ノゾミもショットガンのセーフティを外す。

「おい、あいつ乗り物を武器として振り回してるぞ!」

 緑色の自称幽霊、ナバールがこちらに近付けば近付く程、とんでもない事をしている相手に絶句する。

「来たぁ!」
「く、防げるか!?」
「馬鹿避けろ!」
「きゃあ!」

 怒声や悲鳴が響く中、入り口付近にいた者達は一斉に飛び退き、そこにボロボロのバイクが突っ込んでくる。
 バイクはそのままリアをドリフトさせながらエントランス内に停止、搭乗者が降りてくる。

「よお、あんたらか信号弾を上げたのは?」
「た、確かに私達ですけど………」

 片手を上げて挨拶してくるダンテに、アサヒはどこか引きつった顔で応じる。
 ダンテの隣では無表情となった修二もバイクを降りてくるが、少し離れた所でとうとう限界が来たバイクが爆発四散する。

「うわあ!」
「くっ!」
「大丈夫!?」

 誰もが予想外過ぎる展開に思わず顔をかばったり伏せたりするが、ダンテは背後からの爆風を気にもせず、逆に修二は爆風に押されてその場に前のめりに倒れる。

「だ、大丈夫?」

 爆風が落ち着いた所で、恐る恐るノゾミが声を掛けるが、のろのろとした動きで修二は半身を起こす、が。

「う、おぼえええええぇぇぇ!!」
「ちょ!」
「嘔吐したぞこいつ!」
「そう言えば、この人一緒に振り回されてたような………」

 突然リバースした修二に、皆が違う意味で仰天する。

「大丈夫? 少しなら水あるけど」
「す、すいません………」

 何が何やら分からないが、取り敢えずノゾミは修二の背をさすってやりながらボトルを差し出した、出撃前に食った食事を軒並み吐き出してしまった修二は礼を言いつつ、ボトルを受け取る。

「待て! 気付かないのか! こいつらは両方悪魔だぞ!」
「気付かないわけないでしょ、特にこっちの彼は」

 ガストンが怒声を上げるが、ノゾミは水を飲む修二の後頭部の角を見ながら適当に返答する。

「何だ、酔い止め忘れたか?」
「そういうレベルじゃな…う!?」

 自分のした事を棚に上げて笑うダンテに、修二は思わず怒鳴り返すが、そこで再度嘔吐感に襲われ、今度は壁際まで走っていくと先程飲んだ水と胃液を吐き出してしまう。

「さあて、とにかくここで一番偉い奴か一番強い奴に話が有るんだが」
「その前に、貴方達は何をしにきたの?」

 気さくに聞いてくるダンテだったが、トキは警戒心を露わに、鉈を構えながら問い返す。

「気をつけろ、そっちの嘔吐悪魔はともかく、こいつは…」
「分かってるさ。多分オレらじゃ…」

 ガストンとハレルヤも構えるが、先程の悪魔の大軍を平然と突っ切ってきたダンテの実力に、畏怖を覚えない訳にはいかなかった。

「歓迎してくれるってんなら、こちらもそれなりにやらせてもらうぜ?」

 ダンテは周りが臨戦態勢に入るのをむしろ喜びながら、背負っていたリベリオンを引き抜く。

「要件ならこちらで聞こう」

 そこで、エントランスのワープポイントからフリンが姿を現す。
 それを見たダンテが小さく口笛を吹いた。

「あんたがここのリーダーかい?」
「元ミカド国のサムライ、フリンだ。君は?」
「ダンテ、デビル・メイ・クライのダンテだ」
『悪魔も泣き出す、て意味ね』

 フリンの腕にあるガントレットから、女性の電子音声が響くが、それを聞くまでもなく、互いに只者ではない事は感じていた。

「フリンさん、気をつけて! この人、外の悪魔の大軍、ほとんど一人で突っ切ってきました!」
「なるほど、悪魔も泣き出す、か………」

 アサヒが警告の声を上げる中、フリンはゆっくりと大振りな刀を引き抜き、ダンテはそれに応じるようにリベリオンを構える。

「それじゃあ、自己紹介の後はPRタイムといこうか!」
「いいだろう」

 互いに間合いを詰めるのは同時、瞬時にして両者の白刃がかちあい、甲高い金属音を立てる。

「やはり、出来る………」
「オレ、見えなかった………」

 ガストンがたった一度の両者の激突に、圧倒的な力量を感じ、ハレルヤに至っては目視する事すら出来なかった事に頬を汗がつたう。

「なるほどな、ここはシャドゥの巣窟と聞いていたが、あんたみたいのがいるなら、なんとかやっていけただろうな」
「ここの事を知っているのか?」
「又聞き、だがな!」

 フリンの実力を確認したダンテの顔に笑みが浮かび、ダンテの言葉にフリンが僅かに眉を動かす。

「質問するなら、もっと自己アピールしてからじゃないとな!」
「いいだろう」

 互いに刃を弾いて離れたかと思った瞬間、フリンの白刃が横薙ぎに振るわれる。
 ダンテが鋭い一撃を己の刃で弾くが、フリンのそのまま体を旋回、コマがごとく回りながらの連撃がその度に軌道を次々と変えて繰り出される。

「さすが………」
「どっちもね」

 トキが素直にフリンの剣術に感心し、ノゾミがそれを防ぐダンテの方にも感心していた。

「なかなか激しいアピールだな! こっちもいくぜ!」

 ダンテが心底楽しそうにしながら、力任せにリベリオンを一閃。刀ごと、フリンを強引に弾き飛ばす。

「くっ!」

 文字通り人間離れしたダンテの膂力にフリンは堪えきれない中、ダンテの追撃が迫る。
 リベリオンを再度一閃させようとしたダンテの目前に、コルト・ガバメントの銃口が出現した。
 体勢を立て直すよりも早くフリンが抜いた銃口が火を噴く直前、ダンテは驚異的な反射でかわし、放たれた弾丸は壁へと当たって鈍い音を立てる。

「そっちもありか! なら…」
「ちょっと待てぇ!」

 ダンテがリベリオンを背負って素早くエボニー&アイボリーを抜くが、そこで修二が慌てて声を上げる。

「オレ達の目的はここにいる連中とコンタクトを取って、外との連絡を付けさせる事だろうが! なんでいきなり戦闘になってんだよ!」
『え?』
「なあに、ちょっとした交流さ」
「じゃあその手を止めろ!」

 修二の言葉に、皆が一斉にそちらを見るが、ダンテはエボニー&アイボリーを速射しながら手を止めようとせず、フリンはそれを避けながらこちらもコルト・ガバメントを速射する。

「いい加減に、しろぉ!!」

 戦いを止めない両者に、修二は魔力を手に収束、生じた魔力の刃を一気に解き放ち、ちょうど両者の間を分断、強引に戦闘を中断させる。

「な、何今の!?」
「………あいつも相当な使い手だったようだ」

 修二の予想外の実力に、アサヒは驚愕し、ガストンは己の見解違いを認めざるを得なかった。

「そろそろ、本題に入りたいんだが」
「ちっ、いい所だったのに………」
「そちらの力は分かった。その本題とやらに入らせてもらおう」

 怒っている修二に、ダンテは舌打ちしつつ、フリンはある程度納得しつつ、得物を仕舞う。

「それに、そろそろ外が騒がしくなってきそうだ」
「げ!? 外の連中が押し寄せてきてんぞ!?」

 ダンテの言葉に、何気に外を見たハレルヤが仰天する。

「やばい、オレらのせいか?」
「ま、牽制しあってたのに派手にちょっかい掛けたからな」
「のんきに言ってる場合?!」
「本当に何しに来たんだお前ら!」

 ダンテと修二の会話に、他の面子が怒声を上げる。

「ま、想定の範囲内だ」

 ダンテの言葉に、フリンが怒声を上げるでもなく、押し寄せてくる悪魔達へと視線を向ける。

「まずはそちらが先か」
「まあ待ちな」

 フリンが外に出ようとするのを、ダンテが止めると背中から巨大なトランクケースを取り出して無造作に出入り口から外へと放り投げる。

「ケルベロス、アグニ&ルドラ、ネヴァン」

 ダンテが呼ぶと、トランクケースから三節のヌンチャク、炎と風の双刀、雷の鎌が飛び出し、それぞれが本来の悪魔の姿へと変貌する。

「しばらく門番やってろ。セールスお断りだ」
「いいだろう」
「かなりの数だ」「加減は不要だな」
「派手に行くわよ」

 言うや否や、迫り来る複数の軍勢に、ケルベロスが吐き出す吹雪が、アグニ&ルドラの豪炎と竜巻が、ネヴァンの電撃が周囲を染め上げ、それらを食らった者達の悲鳴が響き渡る

「これでいいだろ」
「あんた、すげえ仲魔連れてんな………」
「………ともあれ、やっと本題に入れる」

 平然と言い放つダンテに、外の様子を確認したハレルヤが愕然とし、修二は咳払いしつつ、口を開く。

「で、まずはこのタルタロスに来たのはあんた達だけか?」
「この建物はタルタロスと言うのか? 上の階層にもっと多くの者達がいる」
「正確には、街が一区画まるごと」
「まとめて転移か………まあ小さい方か?」

 修二の質問にフリンが答え、アサヒが補足するのを聞いた修二が小さく唸る。

「小さいって、やっぱ空に浮いてたアレ?」
「そもそも、ここは一体どこなんだ?」
「一体何がどうなっている!?」
「悪いが、いっぺんに聞かないでくれ………学校の成績は中の下だったんだ………」

 矢継ぎ早の質問に、修二は思わず頭を抱えそうになる。

「ま、聞きたい事は色々あるだろうな」
「頼むからあんたはしばらく大人しくしててくれ………」

 その様子を見て笑っているダンテに修二は更に頭を抱え込むが、ダンテは周囲を見ながら口を開く。

「ここで一番話をまとめられる奴はどいつだ?」
「話をまとめられる人物………」
「私が代表で伺いましょう」

 皆が互いの顔を見た所で、新たに声が上がる。
 そこには、上階から降りてきたイザボーの姿が有った。

「元ミカド国のサムライ、イザボーよ」
「英草 修二、ここじゃ人修羅って呼ばれてる」

 イザボーに自己紹介しつつ、手を差し出した修二に、イザボーが僅かに驚くがその手を握り返す。

「あなた………悪魔よね?」
「まあ、一応」
「挨拶して握手求めてきた悪魔は初めてだわ」
「いやまあ………ちゃんと話は通じそうだったんで。それに元は人間なんで」

 不思議そうに自分を見るイザボーに、修二は頬をかきながら呟く。
 それを見ていたフリンも首を傾げた。

「………人間から悪魔に堕ちた者達は何人も見てきた。だが、君は何か違う」
「そいつは特別さ。何をどうしたかは知らないが、心も魂も人間のまま、体だけ悪魔になっちまってる」

 ダンテの説明に、皆の視線が修二に集中する。

「あの、その件はオレにもよく分かんないんで、後回しで」
「それもそうね。とにかく、一番最初に聞きたい事、ここはどこなのかしら?」
「東京だよ、まあ原型留めてないけど」
「東京!? ここが!?」
「天井どころか、横にも真上にまで地面広がってたの見たぜ!?」
「だとしたら、ミカド国はどこにあるのだ!?」
「ああうん、まあ予想通りの反応だな」

 その場にいた者達が一斉に声を上げるのを、修二はどう言うべきかで悩む。

「そうか、ここは可能性世界か」
「どういう事、フリン?」
「前に無限発電炉ヤマトから違う世界の東京に行った事がある。恐らくとは思っていたが、やはりここはオレ達のいた世界とは別の東京なのか」
「あ、経験済み? なら話が早い」

 フリンの意外な言葉に、修二は少し胸を撫で下ろす。

「違う世界なんて………」
「まずは話を聞きましょう」

 困惑するアサヒをなだめつつ、イザボーは修二に続きを促す。

「色々端折るが、ここは氷川って男が、新しい世界の創生とやらのために、東京その物を受胎とかさせてこうなったらしい。で、この塔の真上にあるカグツチに、コトワリとかいう新たな世界の希望を持って開放すれば、その新しい世界とやらが出来るはずだった、んだけど………」
「何でか、そこにそちらのいう可能性世界から敵も味方も色々な連中が押し寄せてな。このタルタロスも、その内の一つだ」

 修二の説明に、ダンテも続ける。

「で、ハッキリ言えば何が何だか分からないが、悪魔と戦える連中が集まって何とかしようとしてる、オレらはその何とかしようとしてる連中の一員として、ここに状況の説明と交渉に来たって訳だ」
「もしそれが本当なら、何故君達のような者を送ってきた? 人間はいないのか」

 修二の説明に、フリンが率直な疑問を呈する。

「そう来るよな………これには別の理由があって」
「あんたらは運がいい。ここから出られなかったんだからな」
『?』
「実はこのタルタロスが…」

 修二とダンテが説明しようとした時、突然甲高い電子音が鳴り響く。

「何だ!?」
「何事!?」
「そこからだ!」

 皆が一斉に驚く中、ナバールがその音源、修二の背中に背負われた箱を指差す。

「これって、確か緊急用のアラーム…」

 修二が背負っていた箱、タルタロス対応通信機のケースを開けると、即座に通信が届く。

『緊急警報、カグツチにエネルギー変動を感知。フトミミ氏からの予言も確認。30分以内に異常変質が発生する可能性あり。キュヴィエ症候群回避のため、屋内に退避してください』

 アーサーからの緊急通信に、修二の顔が一気に険しくなる。

「おい、誰か外に出てる奴はいるか!?」
「いえ、誰も………そもそも出ようにもこれでは」

 外からはまだ聞こえてくる戦闘音に、イザボーは首を左右に振る。

「用心して入り口から離れ、いや上の階に逃げろ! 窓とか無いよな、ここ!」
「先程から何を言っている!」
「オレ達しか来れなかった理由さ。いいから日の当たらない所にバックレな」
「あ」「何を!?」

 慌てる修二にガストンが声を荒げるが、ダンテがウインクしつつ、手近にいたアサヒとトキを小脇に抱えて一気に階段を五段飛ばしで登っていく。

「あんたらも急げ! 黒くなったカグツチの光を浴びると、石像になっちまうぞ!」
「何ですって!?」
「悪魔化してる奴には効かないが、そうでなかったら一撃だ! だからオレ達が来たんだよ!」
「全員上階に退避!」

 修二の説明にイザボーが目を見開き、フリンが即座に全員に指示を出す。

「アーサー! そっちは大丈夫なのか!?」
『シールド装置は順調に起動中、問題はありません』
「裕子先生が頑張ってくれたか!」
「おいお前! その黒い光ってのは幽霊にも効くのか!?」
「幽霊にはどうかな……って変なのがいると思ったら、思念体か」
「幽霊だ! ってお前私が見えるのか!?」
「あんたと似たようなのならここにいっぱいいるよ。ムスビに入るなよ?」
「何の話だ!」

 最後になった修二とナバールが色々怒鳴りつつ、階段を駆け上がる。
 だが駆け上がった両者の耳には、戦闘音が響いてきた。

「シャドゥか!」
「しかもかなりいるぞ!」

 修二は両手に魔力を込めてシャドゥに向かっていき、ナバールは補助魔法を皆に掛けてやる。

「ここにこんなに現れるなんて今まで無かったのに!」
「変質って奴だ! もう何が起きてもおかしくないぞ!」
「後で詳しく聞かせてもらおう」

 手にしたスマートホンで悪魔召喚プログラムを起動させながらアサヒが叫び、修二がシャドゥを殴り倒しながら説明してやるが、トキが両手の鉈を振りかざしながら追加説明を要求する。

「こちらの変質か、それとも外からの影響か………」
「両方かもしれないぜ」

 刀を手に次々とシャドゥを斬り捨てるフリンの問いに、ダンテがおどけながらリベリオンで同じようにシャドゥを次々屠っていく。

「すごいな、あのフリンと同格か………」
「いえ、多分彼全然本気じゃないわ。何かは分からないけど、凄まじい力を秘めてる………」

 槍を振るうガストンが、桁違いの二人の奮戦に絶句するが、ショットガンを速射しながらノゾミが更に空恐ろしい事を言う。

「けど、これならなんとか…」
「キケン! キケン!」

 順当にシャドゥを皆で駆逐していく様にハレルヤが安堵しかけた時、彼の仲魔である小狐の姿をしたアイヌ神話の神獣、聖獣 チロンヌプが警告を発し、それに続くように金属をすり合わせるような奇妙な音が響いてくる。

「何だ!?」
「これは、まずいぞ!」
「なんでこんなすぐに!?」

 その音を聞いた者達が過敏に反応する。
 そして、向こう側からボロボロのコートをまとい、全身を覆う鎖を鳴らしながら布袋のマスクに両手に巨大な拳銃を持った、異形のシャドゥが姿を現す。

「! こいつ、《刈り取る者》か!」
「知ってるのか!」
「要注意シャドゥって聞いてた! 逃げろ!」

 その姿と、凄まじい威圧感に修二が即座に風花から聞いていた存在だと確信、ガストンの問いかけに叫び返す。

「言われなくても!」
「合うのは二度目!」
「撤退!」

 皆が一斉に逃走を開始する中、その場を動かない者がいた。

「おい、まさか!」
「歓迎パーティーのメインイベントらしいな」
「オレ一人だと手に余っていた所だ」

 ダンテとフリンが向かってくる刈り取る者に対峙し、ダンテはエボニー&アイボリーを構え、フリンはガントレットを操作して仲魔を呼び出す。
 刈り取る者とダンテが同時に両手の銃から弾丸を速射するのを合図とし、フリンは頭部のみでも凄まじい妖気を放つ東京の守護神、破壊神 マサカド、日本神話の太陽神である女神 天津神 アマテラス、屈強な僧兵の姿をした怪僧 英傑 テンカイを呼び出す。
 凄まじい弾丸の押収に、上階に退避しようとしていた者達は悲鳴を上げる。

「きゃあ!」
「こっち飛んできてるぞ!」
「やはり加勢すべきか!?」
「無理、足手まといになる」
「早く上登れ! あんなのに付き合ってたら、ぐがっ!」

 殿を勤めて退避を急がせる修二だったが、そこで流れ弾が肩に直撃する。

「大丈夫!?」
「い、痛ぇけど大丈夫………一応悪魔なんで」

 アサヒが慌てて駆け寄るが、修二が傷口をおさえて強がる。

「急いで離れろ。周囲を気にして戦える相手じゃない」
「任せたわ!」

 フリンも退避を促し、イザボーが修二に回復魔法を掛けながら上階に退避する。

「R指定は見せられないってか」
「意味は分からないが、確かに見せられる戦いではなさそうだな」

 ダンテの銃撃を食らったにも関わらず、深刻なダメージになっていない刈り取る者にフリンは警戒を最大にする。

「威嚇攻撃!」
「刹那五月雨撃!」「アギダイン!」「メギドラ!」

 フリンの指示で、仲魔達が一斉に刈り取る者へと攻撃する。
 マサカドの放つ銃撃が、アマテラスの放つ火炎魔法が、テンカイの放つ万能魔法が刈り取る者へと全て直撃するが、向こうは構わずこちらへと向かってくる。

「効いてない、いや恐ろしい程耐久力が高いのか!」
「離れい、フリン! ジャッジメント!」

 驚異的な耐久力にフリンが驚くが、そこでマサカドが強力な万能魔法を放つ。
 凄まじい魔力の波動が刈り取る者を飲み込むが、それでもなお刈り取る者は動きを止めない。

「来るぞ!」
『空間殺法!』

 ダンテが言葉が終わるかどうかの内に、刈り取る者の動きが一気に加速。高速の動きで周辺をまとめて薙ぎ払う。

「くっ!」「ぐう!」「ああっ!」「がっ!」

 フリンと仲魔達が吹き飛ばされるが、かろうじて持ちこたえる。

「は! 随分とタフでクレイジーな奴だな!」

 動きを止めたのを逃さず、ダンテが刈り取る者へとリベリオンで斬りかかる。
 刈り取る者は長大な拳銃でその一撃を受け止めるが、ダンテは即座に刃を引くと別方向からの斬撃へと変える。連続。
 次々と放たれるダンテの高速にして強烈な斬撃を、刈り取る者は驚異的な速度で拳銃で受け止め、弾くが、徐々にその攻防に変化が生じ始める。
 斬撃を放ち続けるダンテの両腕に、少しずつ雷光がまとい始め、それがどんどん両腕から全身へと広がっていく。

「ヤアッ、ハアァァー!!」

 一際大きな声と共に、ダンテの一撃がとうとう刈り取る者を弾き飛ばす。
 同時に、その全身が漆黒の翼を持ち、同じく漆黒の体を赤い燐光が覆う魔人の姿へと変貌した。

「それは!?」
「奥の手って奴さ、R指定のな!」

 フリンが驚く中、ダンテは口調だけは変わらず、刈り取る者へと異形に変貌した剣を構える。

「一気に行くぜ。セッションするかい?」
「意味は分からないが、言いたい事は分かった」

 フリンも剣を構えると、二人は同時に動く。

『メギドラオン!』
「ヤアハアァ!!」

 刈り取る者が放った凄まじい魔力の爆風を、魔人ダンテは魔力を帯びた大剣の一閃で強引に弾き飛ばし、その背後から飛び出したフリンの斬撃が、連続で刈り取る者へと叩き込まれる。
 刈り取る者は両手の拳銃で斬撃をさばこうとするが、そこに魔人ダンテの斬撃も加わる。

「後ろに回れ!」
「心得た」「分かりましたわ」「承知!」

 二人がかりの連続攻撃の隙きを突いて、フリンの仲魔が背後から奇襲を掛ける。

「奥義一閃!」「トリスアギオン!」「ティタノマキア!」

 マサカドの強烈な一撃が、アマテラスの火炎魔法が、テンカイのダメ押しの一撃が次々と刈り取る者に叩き込まれ、そこにダンテとフリンの攻撃が更に激しくなっていく。

「フウ、ハア!」

 魔人ダンテの体を旋回させながらの強烈な斬撃が、とうとう刈り取る者の拳銃を双方まとめて破壊、刈り取る者の胴体に大きな裂傷が走る。

「逃さん!」

 更にその傷口にフリンが深々と刀を突き刺し、全身の力を込めてえぐりながら上へと斬り上げる。
 刈り取る者から、悲鳴とも異音とも思える絶叫のような物が上がるが、二人の攻撃は止まらない。
 剣同様に変貌したダンテの二丁拳銃から、弾丸ではなく雷光が矢継ぎ早に刈り取る者へと叩き込まれ、フリンの斬撃は容赦なく刈り取る者の四肢を斬り落とさんとする。

「まだ固いか! アマテラス!」
「ランダマイザ!」

 更にフリンが命じてアマテラスがステータス低下魔法を掛け、フリンの渾身の唐竹割りが刈り取る者の片腕を斬り飛ばした。

「フィナーレと行こうか!」
「トドメだな」

 魔人ダンテは大きくジャンプし、フリンは体を旋回させ、縦方向と横方向、渾身の一撃が刈り取る者へとほぼ同時に叩き込まれ、その体が四つに分断される。
 耳をつんざくような断末魔を上げながら、刈り取る者の体が崩壊していく。
 それを見ながら、ダンテが元の姿へと戻っていった。

「さて、ネゴシエートの続きと行くか」
「先程から思ってるんだが、本当に君は話し合うつもりがあるのか?」

 リベリオンを背負いつつ呟くダンテに、仲魔をガントレットに帰還させながらフリンは胡乱な目を向ける。

「元々オレらの仕事はナシを付ける事だからな。あとは人修羅が持ってる通信機で話し合ってくれ」
「そうしよう」

 二人はそう言いつつ、他の者達がいる上階へと向かった。



「あ、来た」
「まさか、倒したのか!?」
「まあな」
「苦戦したがな」

 姿を見せたダンテとフリンの言葉に、他の者達は驚く。

「そっちのポニーテールも、結構やるな」
「フリンは、こちらでは希望の星って言われてるの」
「希望の星、ね〜」
「あ、あのフリンさん、ナナシの姿が見えないんですけど………」

 修二がフリンの事を繁々と見つめ、イザボーが説明してやる中、アサヒがおずおずと口を開く。

「まさか、まだ一階に!?」
「やべ、戻ろう!」
「いや、多分大丈夫だ」

 フリンと修二が慌てる中、ダンテは落ち着いていた。

「どうして!? 外に出たら危ないってさっき…」
「死人には効かないかもな」
「え…」

 ダンテの一言に、アサヒは言葉を失った………



「こいつは………」

 カグツチが漆黒へとその姿を変貌させる様を、ナナシは見上げていた。
 その光を浴びた悪魔達は、やがて敵も味方も分からないような乱戦へと陥っていく。
 門番をしていた悪魔達はかろうじてその場を動かないが、その顔には先程には無かった異常な殺気が満ちていた。

『ほう、これがそうか………確かにこれは人には絶えられまい。悪魔ですら暴走させるこの光にはな』

 ナナシの腕のスマホに現れた者、死と再生を司るケルト神話の魔神、ダグザがほくそ笑む。

「なぜ、オレは平気なんだ?」
『忘れたのか? お前はすでに死んでいるのを、オレの加護で存在しているに過ぎない。お前は、オレの神殺しなのだから………』

 そう言いながら笑うダグザの声が、狂乱の戦場に響き渡っていた………

 伸ばした糸の先に、新たな糸が絡まり、結ばれようとする。
 その糸に在りしほつれが、もたらす物は果たして………





感想、その他あればお願いします。


NEXT
小説トップへ
INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.