PART53 EVERLASTING BREAK


真・女神転生クロス

PART53 EVERLASTING BREAK





「状況は?」
「良くないわね」
「結界の影響か、思っていた程流出速度はでていない」
「だが、市街全域からとなると楽観視は出来ない」

 業魔殿に集合した面々が、重苦しい表情で現在起きているマガツヒ流出現象について協議していた。

「前にムスビだっけ? が似たような事やったけど、あれは達也君が止めてくれたんだっけ」

 たまきが前に起きた類似現象の事を思い出すが、皆の表情は重苦しいままだった。

「あの時は術者が近くにいたから何とかなったけれど、今回はかなり遠方からの遠隔収拾らしい」
『マガツヒエネルギーの収束先を観測した所、ギンザ・ニヒロ機構と判明しました』
「だとしたらシジマ、氷川がやってるのね」

 克哉、アーサー(通信参加)、裕子の会話に、誰かの唸る声が重なる。

「質問だが、マガツヒとはこんな遠距離からでも収拾出来る物なのか?」
「いえ、何か手段を構築したのだと思うけれど、それが何かまでは………」
「多分地下にあったアレね」

 ゲイルの質問に裕子は首を左右に降るが、そこで舞耶は前にニヒロ機構に強行偵察した時に見た謎の装置を思い出す。

「Reverse・Deva SYSTEM、だったか」
「何かと思えば、遠距離からのマガツヒ収拾装置だったとは………」

 キョウジと尚也も聞いていた情報を思い出し、苦々しい表情を浮かべていた。

「今、この街の住民にはかなりのストレスが掛かっているわ。収拾方法さえ確立出来れば、後は勝手にマガツヒが集まってくる………」
「しかも、下手したらその方法は他の連中にも伝わるわね」

 裕子がうなだれる中、レイホゥは腕組みして考え込む。

「どうにか中断させる方法は?」
「その装置其の物を停止、もしくは破壊するしかないだろう」

 美鶴の問いに、ゲイルが即答。
 今、キュヴィエ症候群の問題がある以上、それはかなり難しい選択でも有った。

「氷川は用意周到な男よ。間違いなく襲撃に備えているはず」
「前回の強行偵察も大分苦戦したからな………」
「ましてや、あの神取も一緒だ。これを仕込んだのはアイツに間違いない」

 裕子、ロアルド、南条の意見に、誰もが唸りを上げそうになる。

『問題点を提起します。キュヴィエ症候群の危険性がある以上、通常の移動手段は使えません。そして、現在開発中の遮蔽型装甲車では、送れる人員に限度があり、厳重な警戒態勢を敷いているニヒロ機構への突入に必要な人員を輸送出来ません』

 アーサーの出した問題点に全員が頭を抱え込みそうになる。

「ダンテと人修羅をタルタロスに向けたのが、裏目に出るとはな………」
「いや、タルタロスの方も急務だった。裏目とは言い切れない」
「セラが復帰出来ない現状では、エンブリオンから人手を割くのはリスクが高い」

 キョウジ、克哉、ゲイルが深刻過ぎる状況を互いに解析し、本当に唸りを上げて黙り込む。

「前に使った手段は確実に対策されているだろう」
「転移装置その物を破壊するか、逆に待ち構えているか。どちらにしろ、使えない事は確かだ」
「ならばどうする? 外が固められている以上、どうにかして侵入するしかない」

 小次郎、アレフ、ライドウのトップクラスの実力者達ですら、打開策が見いだせず、会議は完全に膠着状態となっていた。

(とんでもない所に来てしまった………)

 特別捜査隊のリーダーという事で会議に参加していた悠は、会議内容のあまりの深刻さに隅で小さくなるしか出来ないでいた。

(街への襲撃だの、街全体が生贄だの、オレ達がやってた事って、実はすごい小さい事だったんじゃ?)

 何か色々と場違いな感じを覚えつつ有った悠が、ふとそばに座っている人物の様子がおかしい事に気付く。
 うつむいたまま、額に指を当てて唸っているようにも見える相手に、悠は思わず声を掛ける。

「あの、大丈夫ですか?」
「待ってくれ………もう少しで何かが見えそうだ………」
「はい?」

 具合でも悪いのかと思ったその相手、フトミミの予想外の言葉に、悠は思わずマヌケな声を上げた。
 その声にそちらを見たキョウジが、それがフトミミの予言の前兆だと気付く。

「何か見えたのか?」
「これは………何だ? 雨、降り注ぐ雨だ。そして何だろう、何かの影が写っている画面が………」
「マヨナカテレビ!?」

 フトミミの言葉に、悠が思わず叫びながら立ち上がる。

「何だそりゃ?」
「あ、オレ達が調査してたのは、マヨナカテレビっていう奴で、雨の降る夜にだけ現れるテレビの中の世界、という物で………」
「暗い中の雨、フトミミの見た物と一致するな」
「という事は、ここでもそのマヨナカテレビが発生する?」

 キョウジの問いに悠が説明すると、それを聞いたゲイルと克哉が顔を見合わせる。

「まさか、今以上に状態が悪化する?」
「ちょっと、勘弁してよね」

 裕子の呟きに、レイホゥがうんざりした声を上げるが、別の解釈をした者がいた。

「待ってくれ。確か君達は、カルマ協会の実験装置に有ったディスプレイから来たと言ってたな?」
「あ、はい」

 尚也の確認に、悠は頷く。

「ニヒロ機構の、Reverse・Deva SYSTEMの所には有ったか?」
「有ったわ! 何か大きいのが!」

 続けての尚也の確認に、舞耶が前に行った時の事を思い出して声を上げる。

「だったら、行けるんじゃないか? そのマヨナカテレビを経由して、直接Reverse・Deva SYSTEMの所に」
『あ………』

 全員が声を上げ、一斉に悠を見る。

「いや、その、クマやりせに聞いてみないと………」
「だが、可能性は有る」

 たじろぐ悠に、小次郎の一言が決定打となった。

『マヨナカテレビの詳細情報の提供を打診します。受け取り次第、ミッションの立案に入ります』
「手練が待ち構えている。こちらも手練を用意する必要が有る」
「そうだな」

 アーサーの提案に、小次郎とアレフが立候補するように立ち上がる。

「前回同様、陽動が必要だ」
「オレ達が行くしか無い。最悪、暴走すらも陽動に使える」
「…そうだな」

 ロアルドとゲイルの提案に、サーフが賛同する。
 だが克哉を含め反対意見も出始める。

「しかし、それでは下手したら双方特攻になる。そんな作戦は…」
「いや、前回同様、山岸と久慈川のペルソナでこちらは撤退はなんとかなるかもしれん。問題は…」
「鎮静不可能な喰奴を敵陣真ん前に放り出すってのはな………」

 美鶴とキョウジの意見に誰もが唸りを上げる。

「あの、その喰奴って人達の暴走って、放っておくとどうなるんです?」
「簡単だ。暴走したまま、最悪理性も見境も無くなり、敵味方問わず食い殺すだけの存在になる」
「え………」

 悠の疑問にロアルドが答えてやるが、悠の顔が更に引きつる。

「セラがまだ入院してる以上、喰奴による陽動作戦は却下せざるをえないな」
「じゃあどうする? 無人機の類じゃいい的だぜ」
『それ以前に無人機のこれ以上の損失は容認出来ません』
「だがキュヴィエ症候群の危険が払拭出来なければ、不用意な攻撃も出来ない」
「潜入だけに特化するか? だが最悪挟撃の可能性も…」

 喧々諤々の協議は、妥協点を見つけられずに再度膠着状態に陥っていた。
 だが、その膠着を破ったのは予想外の事象だった。
 突然、会議を中断させるがごとき轟音が鳴り響く。

「うわっ!」
「今のは…」
「外から!?」
「まさか………」

 誰もが驚き、会議室から飛び出し、陽光遮断用の分厚いカーテンが引かれた窓から外を見る。
 そこには、カグツチを覆い、周辺を暗くしていく雷雲が有った。

「そんな、ここで天候変化なんて………」
「どうやら、変質はここまで進んでいたようだぜ………」

 祐子が受胎東京に有り得ない現象に愕然とするが、キョウジはむしろ笑みを浮かべる。
 程なくして、雷雲はカグツチを完全に覆い隠し、受胎東京に雷鳴を轟かせながら、雨が降り始めた。

「今しかない」
「ああ」
「この雨が止む前に、片を付ける」

 珍しくサーフが最初に口を開き、そばにいた小次郎やライドウも賛同する。

「アーサー! すぐにミッションを発動させてほしい! この雨が降っている間に、マガツヒ収集装置を破壊せねばならん!」
『了解です。すぐにReverse・Deva SYSTEM破壊ミッションを提案。機動班に緊急出動を要請します』

 克哉とアーサーの言葉を機に、全員が一斉に動き出す。

「マヨナカテレビの発生時刻は!?」
「深夜0時、のハズなんですが………」
「こちらでは真昼からシャドウが出る程変質が進んでいた! 時間はアテにできない!」
「逆に他の勢力の敵襲も考えられる! 防衛班と強襲班に分けて編成を!」
「タルタロスへの人員もすぐに出発させて! 向こうの人手も必要になるかも!」
「時間が勝負だ! 雷雲が晴れたら、すぐに撤退させる!」

 誰もが大急ぎで部屋を飛び出す中、その場に残った業魔殿の主であるヴィクトルは、室内に設置されていた会議用の大型画面を見る。
 そこには、電源が入っていないはずなのに僅かに砂嵐のようなノイズが写り始めていた。

「世界の変質が加速している。最早この先どうなるか、誰にも分からないだろう。私は研究者として、ただその結果を見届けよう………」



「すげえ空模様だな………」
「雨、降るんですね」
「雨が降ったからオヤスミしよう〜」

 業魔殿の自室で準備をしていた八雲が、窓から見える突然の雷雨に顔をしかめ、カチーヤが驚く中、ネミッサはベッドに横になろうとして八雲に首根っこを掴まれる。

「この雨がキュヴィエ症候群を防いでくれる、が止んじまったらアウトだな」
「私達もそっちに行かなくていいんでしょうか?」
「こっちも急務だ。放置して共食いでも始められたら困る」
「とも…」
「喰奴ってたまに共食いするらしいしね〜」
「人間でも追い詰められたら何するか分からないからな。この商売してるとよく見るが」
「はあ………」
「そっちはそっちに任しておけ。あの新入り連中だと少しばかり不安だが」
「あくまで案内役で、潜入破壊は他の人がやるそうですが」
「発破はまだ残ってたかな。念の為こっちにも回してほしい所だが」
「タルタロスごと吹っ飛ばす?」
「一応こっちが終わったらあれを登らなきゃいかんらしいしな。それは最後の手段だ。普通の発破じゃ壊せそうにねえし」
「何しに行くか覚えてますよね?」

 何か危険な事を言っている八雲とネミッサにカチーヤがそこはかとなく問うが、二人が答えるより早く備え付けの電話が鳴る。

「はい八雲、今準備中…は? 大至急?………ええ、分かりました。すぐ行きます」
「誰からですか?」
「レイホゥさんから。雨降り始めると同時に、タルタロス内部でも異変が起き始めたから、すぐ行けだそうだ」
「異変って?」
「タルタロスの中に霧が発生し始めたらしい。新入り達の世界でも起きてた現象だそうだ。それに応じてシャドウも活性化の予兆があるらしい」
「急ぎましょう」
「濡れるのやだしね〜」

 状況が更なる変化を見せる中、己達の仕事をするべく、三人は急いで部屋を出ていった。



「準備出来次第降下! 急げ!」
「火力よりは機動性重視だ! 重火器は最小限に!」
「こっちに並んで! 気休めだけど、護身呪を刻むわ!」

 シバルバーの端、降下準備ポイントでは雨の降る中、急ピッチで準備を進める者達でごった返していた。

「スピードが勝負だ。雨がカグツチを隠している間、いかにも焦って攻撃を仕掛けてきたように見せかけなくてはならない」

 仁也が降下予定の機動班員達に作戦内容を指示するのを、同じく降下予定のペルソナ使い達が横目で見つつ、自分達も準備する。

「あれ、見た目ダサいけど濡れなくていいな〜」
「一応短い間ならキュヴィエ症候群も防げるそうだ。あとはペルソナ使いも短時間ならペルソナが防いでくれるらしい」
「雨は防いでくれえねえけどな………」

 雨具姿のマークがぼそりと言ったのを、同じく雨具姿の南条とブラウンが呟き返す。

「Makiが出れない分、私が頑張らせてもらいますわ」
「無理はするんじゃないよ。園村はこっちで見とくから」

 同じく雨具姿で闘志に満ちているエリーに、見送りに来たゆきのが傘を指しながら心配そうに見守る。

「シジマって悪魔オンリーで構成されてるんだっけ?」
「らしいぜ」
「悪魔なのに静寂?」
「あくまで陽動である事を忘れるな。我々の任務は山岸の代わりにナビゲートするチドリの護衛だ」

 雨具を目深に被っているゆかりが聞いていた情報を確認し、バカでかい傘を指している純平がうなずき、その傘の下にいるチドリがぽつりと呟くが、美鶴が作戦内容を確認する。

「本当にオレも行かなくて大丈夫か?」
「そちらが本命だからな。天田達と一緒に山岸の護衛の方、頼むぞ」

 突入班の護衛に回る明彦が美鶴に確認するが、美鶴は頷いてそちらを任せる。

「不破の奴はまだ入院してるしな」
「数日中には退院出来るそうだ。その前に片付け無くてはならん」
「降下予定の人員はこちらに!」
「今行きます」

 美鶴を先導に特別課外活動部が降下用のヘリに向かった時、明彦の携帯が鳴る。

「はい真田」
『真田さん、すぐ業魔殿に来てください! こっちも始まりました! もう直突入するそうです!』
「分かった、すぐ戻る」

 乾からの慌てた電話に、明彦は即座に業魔殿へと向かって走り出す。

「やれやれ、ゆっくり見送りしている暇も無いか………」



「なるほど、これがマヨナカテレビとやらか………」
「前にVR空間に行った時の事を思い出すな」

 業魔殿の大型画面に砂嵐のような画面、更にその中に映るダンジョンの光景に突入班の先鋒となる小次郎とアレフが呟く。

「うわ、ホントに入れる………」
「ワンワン」

 こちらでナビゲートする風花の護衛を担う乾が手にした槍をそっと画面に向けると、先端がまるで水面に潜り込むように入っていき、コロマルが警戒して吠える。

「これなら、全員で一斉に入れるな」
「でも、大きいという事は他の問題の可能性も」

 悠が頷く中、直斗が別の懸念を口にする。

「それって、これ?」

 りせが大画面から僅かにだが漏れてきている霧を指差し、直斗が頷く。

「それとここにマヨナカテレビが映るという事は、市街地も?」
「そうみたいです。今警察と仮面党の方達が注意喚起してるそうです」

 直斗の懸念をナビゲート準備をしていた風花が応える。

「なんか不気味だホ」
「オイラ達は入りたくないホ」
「これ、何?」
「私の護衛です、一応………」

 風花の足元で勝手な事言っているデビルバスターバスターズを奇妙な物を見る目で見るりせに風花は苦笑しつつ、双方のデータリンクを再確認する。

「今戻りました」
「これでメンツは揃ったな」

 明彦が戻って来たのを見た小次郎が、作戦を確認する。

「これから、このマヨナカテレビを使ってニヒロ機構に潜入、Reverse・Deva SYSTEMを破壊する」
「ちゃんと繋がってるか?」
「はい、りせちゃんと同期してアナライズした所、ニヒロ機構に繋がっているらしきポイントを発見しました」
「なんか、前の時並のヤバい反応が二つほど有るんだけど………」

 小次郎に続けてアレフが確認した所で風花は頷き、りせは目的地から感じた反応に若干ビビる。

「突入はこちらでやる。君達の任務は、内部の案内及び警戒だ」
「間違ってもニヒロ機構内には入らないように、悪魔の巣だ」
「シャドウだけでも手一杯っす………」
「最悪、シジマのボスの氷川と、Reverse・Deva SYSTEMの製作者の神取との戦闘も予想されるわ。あなた達の手に終える相手じゃないと思うから」
「危険だと判断したら、ナビの二人で全員強制帰還、いいわね?」

 咲とヒロコの確認に、全員が頷く。

「じゃあ行こうぜ」
「気負いすぎるなよ」

 突入班に志願したレイジが我先にマヨナカテレビに入ろうとするのを、小次郎がひと声かけてから同時に入っていく。

「何かあの人、様子がおかしくありませんか?」
「その、玲司さんって、神取って人の異母弟だそうです………」

 不安を覚えた直斗がそれとなく風花に確認するが、風花の小さな声での情報に僅かに頬が引きつる。

「…大丈夫なんですか?」
「あ、前に比べたら大丈夫らしいです。今回は妻子のために行くとか言ってたたとか」
「それはそれで…」
「直斗くん、早く」
「置いてくよ〜」

 色々不安要素を感じつつ、仲間に促されて直斗もマヨナカテレビの中へと入っていく。

「うわっ!」
「これは………」
「あ、忘れてたクマ」

 中に入ると同時に、咲とヒロコが声を上げ、クマがどこかからメガネを取り出す。
 マヨナカテレビの中は先が見えない程の濃霧が立ち込めていた。

「これ掛けてないと、マヨナカテレビの中は活動出来ないんですよ」
「それで皆メガネ掛けてたのか」

 レイジも受け取ったメガネを掛けつつ、周囲を確認しようとした時だった。

「シャドウ接近! 上!?」

 りせのナビゲートに全員が同時に上を見る。

「危な…」

 シャドウの狙いが、まだメガネを受け取ってない小次郎とアレフだと気付いた悠がペルソナを呼び出そうとするが、それよりも二人が剣を抜く方が遥かに早かった。
 将門の刀とヒノカグツチが一閃し、奇襲を掛けてきたシャドウが一瞬にして両断される。

「………え?」
「すげえ………」

 文字通り瞬く間の出来事に、陽介が唖然とし、完二は絶句する。

「あの、ひょっとしてメガネ無くても見えてます?」
「いや、ひどい霧で眼の前すら分からない」
「じゃあ、今のは………」
「気配の消し方が露骨だった。確かに知性は高くないようだな」

 気配だけであっさりシャドウを迎撃した最強クラスの悪魔使い二人に、特別捜査隊メンバー達はレベルの差を感じ取らずにいられなかった。

「確かに、目的地付いたらあの人達に任せた方がいいみたい………」
「そうしろ。ありゃあレベルが違いすぎる」

 りせも呆然とする中、レイジの言葉に頷きつつ一行は進軍を開始する。

『そのまままっすぐ、突き当りを右です』
「階層あるね、ちょっと迂回するよ」
「接敵はなるべく避けた方がいい。消耗を抑える必要がある」
「殿は私とアレフでするから、気にしないで」
「ナビの子から絶対離れないように。狙われるかもしれないわ」

 小次郎とレイジを先頭、アレフとヒロコを殿に一行は進み、途中現れるシャドウはほとんど小次郎とアレフが一撃で片付けていく。

「ここは普段からこんな感じか?」
「まあ、一応………」
「でも何か普段と違うような………」

 シャドウの襲撃に警戒しながらのレイジの確認に悠が頷くが、りせは違和感を感じていた。

「そっか? まあ普段こんな大勢で来ないしな」
「強い人と一緒だと楽でいいけど」

 陽介と千枝が出てくるシャドウがすぐに倒される状況にむしろ気楽さを感じていた時だった。

『きゃあ!』
「風花ちゃん!?」
『だ、大丈夫です!』
「何が有った?」
『マヨナカテレビから、シャドウがこちらに!』
「「えっ!?」」

 風花の悲鳴に思わず小次郎が確認すると、返ってきた予想外の言葉に調査隊全員が声を上げる。

「それ本当!?」
『はい、でもすぐ真田先輩が倒してくれました』
「シャドウがそちら側に出てくるなんて事、今まで無かったクマ!」
『これが、変質です。こちらでも有りました………』
「市街地には?」
『そちらは警察と自警団で警戒してます。テレビの電源さえ入れなければ、大丈夫みたいです』
「でも、危ないからそっちも切ったら…」
『それは出来ません。そちらとのリンクが切れたら、いざという時皆さんを戻せません』

 心配するりせに、風花が毅然とした声で返す。

『こちらは気にしないで、目的地に向かってください』
「分かった、気をつけてね」

 りせは風花の事を心配しつつも、こちらのナビに専念する。

「こうなるって、分かってたんですか? あちらに護衛を置くって変だと思ってたんですけど………」
「活動部の子達から、変質の事は聞いてたし、八雲って人からも指摘されててね」

 雪子の問に、ヒロコが応える。

「あの人、すげえ変わりモンだけど、頭切れるんすネ………」
「今いる面子の中でも有数の変わり者なのは確かだな。他にも色々いるが」
「オレ今、すっげえ元の世界に戻りたくなってきた………」
「同感クマ」

 完二が模擬戦の後の事を思い出し、レイジは思わず苦笑するが、陽介とクマは露骨に嫌な顔をしていた。

「急ごう。タルタロス出現以降、変質が加速している」
「この状態で守護を呼んだら、何を呼び出すか分かった物じゃない」

 小次郎とアレフが急かす中、レイジは違和感を感じる。

(何を呼び出すか分からない? あの神取がそんな事をするか?)
「あっ!」

 レイジの違和感は、背後から聞こえた声に中断される。
 皆が振り向くと、そこには足をもつれさせたりせの姿が有った。

「大丈夫か?」
「ちょっと早すぎ………」
「そうだな」

 仲間達が心配そうに声を掛けるが、小次郎はアームターミナルを操作してケルベロスを召喚する。

「乗るといい」
「………これに?」
「ダイジョウブダ」
「喋ったぞオイ!」
「噛みつかない?」
「オレの愛犬だ、問題ない。ナビに集中してくれ」

 ビビりながらもりせは恐る恐るケルベロスの背に乗り、一行は再度進み始める。

『聞こえますか? 奇襲部隊が攻撃を始めた模様、すごい乱戦のようです』
「こっちも急がないと………」
「長引く程、こちらが不利になるわ。あとどれくらい?」
「もう少しです」

 風花からの通信を聞きながら、咲とヒロコが急かす。
 だがそこで、甲高い電子音が鳴り響き、それに合わせるように、金属をすり合わせるような音がどこからともなく聞こえ始める。

「エネミーソナーが反応しているな」
「この音は!?」
「やべえ、あいつだ! どこに!?」

 小次郎が足を止めると、他の者達も一斉に停止、そして調査隊メンバー達が周囲を探し始める。

「気をつけて! 刈り取る者がどこかにいる!」
「刈り取る者?」
「むっちゃ強いシャドウ! やべえ!」

 りせの警告にレイジが首を傾げ、陽介が端的に説明する。

「確か、ダンテがタルタロスで戦ったシャドウだな」
「宝箱開けなければ、襲ってはきません!」
「多分あれ?」

 アレフが聞いていた事を思い出すが、悠が説明した所で千枝が目前にこれ見よがしに置いてある宝箱を指差す。

「間違いない、それだよ!」
「じゃあ無視しましょう」

 りせが確認した所で、雪子がそっぽを向いて明後日の方向を指差す。

「それがいいでしょう、時間も有りません」
「つうかオレらじゃ勝てないっす」

 直斗と完二もそれに同調し、一行は宝箱を無視して進もうとするが、そこで殿のアレフがその場に留まっているのに気付く。

「何を…」
「行け、ここは任せろ」
「え?」

 悠と陽介が首を傾げた時だった。
 金属をすり合わせる音が急激的に大きくなり、それに応じるように宝箱が突然鳴動を始めたかと思うと、宝箱を粉砕して中から異様にバレルの長いリボルバーを二丁持った、異形のシャドウが現れる。

「そんな!? 開けてないのに!?」
「そうか、これも変質の一つです!」
「ど、どうしたら?」
「行くぞ」

 悠が驚愕し、直斗が納得するがりせは一際慌てていた。
 が、小次郎は冷静に先を急ごうとする。

「助太刀しなくていいんスか!?」
「時間が無いわ」
「けど!」

 完二が思わず声を上げるが、咲も冷静に先を急ぎ、千枝はどうすべきか迷う。

「あいつは神殺しだ。オレと同じな」
「へ? 神って神様?」
「はっきり言うけど、貴方達がいると邪魔になるわ」

 小次郎の言葉に、悠が間抜けな返答をするが、咲がきっぱり断言して先を急がせる。
 背後では、同様に残ったヒロコが槍を構え、アレフが仲魔を召喚するのが見える中、一行は任せてその場を離れる。
 直後、凄まじい戦闘音が背後から響いてきた。

「すっげえ………」
「確かにあれはボク達じゃ足手まといです」
「振り向いている暇無いわよ」

 陽介と直斗が思わず振り向いて刈り取る者と激戦を繰り広げるアレフ達に足が鈍りそうになるが、咲に促されて後ろを任せる事にする。

「どうやら、ここの変質も大分進んでいるようだ」
「こちらから手を出さない限り、刈り取る者が襲ってくるなんてなかったんですけど………」
「急ぐぞ、これ以上おかしくなったらたまらん」

 先頭を行く小次郎の呟きに、悠が困惑するが、アレフの代わりに殿に立ったレイジが急かす。

『その先、目的の場所です!』
「確かに、でっかい画面のような物確認!」
「全員止まれ」

 風花とりせがそろって指示した手前で、小次郎は全員を停止、画面に近寄らずに物陰から確認する。

「どうしたクマ?」
「僅かだが、向こうが見える。つまりこちらも見られる可能性が有る」
「そうですね、奇襲するにはまず見つからないようにしないと」

 クマが不思議がる中、小次郎は画面を注視し、直斗もそれに続く。
 画面にはノイズ混じりだが、何人かの人影が何か騒いでいるように見えた。

「間違いねえ、神取だ」
「どうやら、マヨナカテレビの影響が出ているみたいね」
『マガツヒの流出は収まってません。深刻な影響では無いみたいで………』

 レイジが神取の顔を確認した所で、咲が向こうの混乱の原因を予測するが、風花からの報告に渋い顔をする。

「それじゃ、突入を?」
「援護ってどうすれば…」
「そうだな、この中で野球が得意な奴はいるか?」
「「え?」」

 雪子と千枝が臨戦態勢を取ろうとするが、小次郎からの唐突な問に思わず首を傾げる。

「いないならいい。そもそも普通のピッチングじゃ難しいだろう」
「あの、何を…」
「はい小次郎」

 悠も思わず問う中、咲が手荷物から取り出した何かを手渡す。

「総員、物理防護を最大。ペルソナを出して備えろ」
「何に?」

 そこはかとなくイヤな予感に陽介がたじろぐが、小次郎が手にしている物が何となく何かで見たような気がして、誰もがその予感が最大になる。

「C4………まさか爆弾!?」
「そうだ」

 唯一、それの正体に気付いた直斗が顔色を青ざめさせる中、小次郎がスイッチを入れ、カウントダウンの音が鳴り響く。

「わ〜〜〜!!」
「ペルソナ! ペルソナで防御!」
「キントキドウジ!」『マハラクカジャ!』
「スクナヒコナ!」『テトラカーン!』
「姿勢を低くしてろ」

 特別捜査隊が慌ててペルソナで防御する中、小次郎はカウントダウンを冷静に待ち、寸前になってからそれを投擲して伏せる。
 爆弾はニヒロ機構に繋がっている画面へと吸い込まれ、直後に凄まじい爆風が画面から吹き込んでくる。

「うわあぁ!」
「マジで爆弾だった!」
「当たり前だろうが」
「ここまでする!?」
「これで済めば楽なんだけど………」

 悲鳴を上げ仰天する捜査隊をさておき、レイジや咲は冷静に爆風を物陰で回避していた。

「効果を確認してくれ」
「は、はい! あれ? なんかまだ反応が…」

 爆風が一段落した所で、小次郎からの確認にりせが慌ててアナライズするが、言葉の途中で小次郎が抜刀しながら画面へと突撃していく。

「ちょ、まだちゃんと確かめて…」
「画面、壊れてないわ」
「そうだな」

 小次郎に続いて、咲とレイジも突撃していく。
 唖然としていた捜査隊メンバーだったが、いち早く直斗が周辺を警戒する。

「爆破は失敗です。画面が壊れてないという事は、何らかの方法で爆発を抑えられ、装置を破壊出来なかったという事です」
「あ、そっか!」
「でも、本当の予定じゃ、あのアレフって人達も一緒に突入する予定だったんじゃ…」
「止めた方いいよ………あの画面の向こう、ここに来た時のあの二人並のヤバい反応が二つ………」
「マジか!?」
「オレ達の任務は、マヨナカテレビの中の案内と退路の確保だ。それに、突入してる暇は無いみたいだ………」

 悠が動揺する皆をなだめながら、周囲を見て顔を険しくする。

「シャドウ反応多数! さっきの爆発でおびき寄せちゃったかも!」
「オイオイ………」
「すごい音したからね〜」
「確かに、突入してる暇無いね」
「行くぞ! ナルカミ!」「ジライヤ!」「トモエ!」「コノハナサクヤ!」「タケミカツヂ!」「キントキドウジ!」「スクナヒコナ!」

 向かってくるシャドウに向けて、特別捜査隊は己のペルソナを発動させた。


 画面をくぐり抜けると同時に、小次郎は未だ煙塵が漂う室内にいた影にためらいもなく斬りかかる。

「ぎゃあっ!」

 短い断末魔と共に、堕天使 エリゴールが倒れ伏す。
 その全身に、爆破の物と思われる負傷が有るのと、その背後から粉塵越しに見える影に小次郎は横へと飛び退り、その場を攻撃魔法が薙ぎ払った。

「小次郎!」
「爆破は失敗、敵は健在だ」
「ちっ」

 続けて飛び込んできた咲とレイジも、小次郎の言葉に緊張を高める。

「やれやれ、まさか画面の中からとはね」
「何が起きていたのかは不明だが、そういう事も有るのか」

 聞こえてくる二人の男の声、少なくてもダメージすら感じられないその口調に、三人は爆破は完全に失敗だった事を悟る。

「危うく、こちらの計画が台無しだ」
「おかげで新型のX―3が台無しだ」

 スーツのホコリを落とす氷川の隣で、神取が足元に転がっている真新しい残骸に目を移していた。

「なるほど、それで爆発を抑え込んだのね」
「随分と頑丈なオモチャだな」
「ほう、お前が来たか。不肖の弟よ」

 咲とレイジが爆破の失敗原因に気付く中、神取が意外そうな顔でレイジを見る。

「おや、兄弟喧嘩かね」
「まあな。前も派手にやらかした物だ」
「そうだな。だが、前のようにはいかねえ。これ以上、オレの家族に手出しはさせない」

 氷川が少し驚くが、神取は苦笑を浮かべただけで、対してレイジはその目に闘志をみなぎらせていた。

「変わったな。復讐心で襲ってきた前とは別人だ」
「お前には分からないだろうな。護る物がある男の気持ちはよ………」
「護る物、か」

 神取の顔に、何か一瞬影のような物が刺した気がしたレイジだったが、次の瞬間には互いにペルソナを発動させる。

「久しぶりに相手をしてやろう、弟よ」
「死んでも直ってないな、その上から目線はよ………」

 神取のペルソナ・ニャルラトホテプとレイジのペルソナ・モトが激しくぶつかりあった。

「なるほど、原理は不明だが、外の襲撃はこれのカモフラージュか」

 小次郎と対峙しながら、氷川はちらりと脇のマヨナカテレビとは違う画面、外の光景らしい、豪雨の中で戦っている者達を見る。

「能書きは不要だ。その背後の装置、止めさせてもらう」
「貴方の創ろうとしている世界になんて、何の興味も無いしね」

 臨戦態勢のまま、アームターミナルに手を伸ばしてすぐに仲魔を呼び出す態勢の小次郎に、咲もいつでも攻撃魔法を放てるように構える。

「君達のような者達が、世界の有り様に疑問を持たない者達がいるからこそ、世界は変わらなければならないのだ」
「世界の有り様? そんな物は、見飽きた」

 断言する氷川に、毅然とした態度のまま、小次郎は一斉召喚プログラムを発動、仲魔をありったけ呼び出す。

「邪魔はさせない、シジマの世界はすぐそこまで来てるのだ!」

 対して氷川も強力な悪魔を召喚する。
 Reverse・Deva SYSEMを前にして、壮絶な激戦の火蓋が切って落とされた。



「山岸から連絡! 爆破に失敗、突入して今交戦中だそうだ!」
「やっぱり、備えていたか………」

 美鶴からの報告に、そばにいた南条が呟く。

「やっぱりってバレてたって事か!?」
「警戒はしてたと思う。外も中も」

 純平が思わず怒鳴るが、チドリは冷静に周辺をアナライズして応える。
 彼らの周囲では、シジマの悪魔達と陽動部隊との壮絶な激戦が繰り広げられていた。
 雨が降りしきり、ときたま雷鳴も交じる中、デモニカ姿の機動班員達とペルソナ使い達が、シジマの悪魔達と一進一退の攻防を繰り広げ、余波が最後尾にいるチドリの元にまで届く事も有る。

「前回ほどの攻勢は無い! やはり向こうも疲弊してるぞ!」
「場合によっては、こちらも内部に突入する! なんとしてもマガツヒの収集を止めるんだ!」

 前回のシジマとの戦闘にも参加していた機動班員が叫ぶのを聞いた尚也が、自ら前線で剣を振るいながら叫ぶ。

「させるか!」
「シジマの世はすぐそこまで来てるぞ!」

 堕天使達を中心としたシジマの悪魔達が、それを押し返すべく、猛攻を仕掛けてくる。

「向こうも必死だ。戦力は疲弊してるが、士気は高い」
「悪魔がやる気になってんじゃねえ!」

 弾幕を張る仁也の隣で、アンソニーが半ば絶叫しながら、狙撃を繰り返す。
 内部での初期の作戦が失敗したにも関わらず、シジマの軍勢に変化が無い事に仁也がチドリに確認をする。

「戦況は?」
『内部でも戦闘が起きてるけど、こっちのが引っ込む様子は無い。気付いてないのか、知らせが届いてないのか、必要ないのか』
「最後は考えたくないが、可能性は高いか」

 有数の実力者を突入させたとはいえ、向こうも相当な実力者だけに、苦戦の可能性は十二分は有り得、仁也は残弾を計算しつつ、進退を考える。

「どちらにしろ、しばらくは時間を稼ぐ必要が有る」
「失敗したら、守護とかいう神様が降りてくんだろ? 悪魔の相手だけで手一杯だってのに、神様の相手までしてられるか!」
「最悪、相手する事になるぞ」

 悪態をつくアンソニーに仁也は冷静に返した所で、ふとある違和感に気付く。

(守護の召喚、それを神取という男が望んでいるのか? いや、彼の暗躍はシジマと合流する前からだという。彼の目的は?)
「危ないヒトナリ!」

 思わず考えていた中、仲魔のハヌマーンが間近まで迫っていた夜魔 インキュバスを殴り返しながら警告する。

「アーサーに緊急連絡、神取という男のこれまでの行動から、考えられる彼の最終目標をシミュレートしてほしい」
「は? ヒトナリ何を…」
「何かがおかしい。それは何だ?」

 芽生えた違和感を拭う事が出来ないまま、仁也は再度銃を構えた。



『小次郎さん達も奮戦してますけど、苦戦してるみたいです! アレフさんもすぐには突入出来ません!』
『なんかこっちもすごい数のシャドウが! いつまで持ちこたえたらいいの!?』
『奇襲部隊は拮抗状態、作戦は継続中』

 風花、りせ、アーサーからそれぞれ送られてくる戦況報告を、克哉は署長室で苦い顔で聞いていた。

「やはり、うまくはいかんか………」
「助っ人に行くのは?」
「ダメだ、今ここの守りを薄くすれば…」

 仲魔のピクシーが克哉に助言するが、厳しい状況だけに人手を割くわけにはいかない状況を誰より理解している克哉だったが、そこで市内からの緊急報告のアラームが鳴る。

「何事だ!」
『こちらたまき! やっぱ来たわ! 思念体の群れ、ムスビが火事場ドロに向かってきてる!』
「やはりか! 守備態勢は!?」
『今喰奴達が向かっていったわ! 暴走したら見捨てて構わないって!』
「思念体では、通常攻撃は効かない! こちらも出る!」
『お願い!』
『お待ち下さい』

 克哉も自ら出撃しようとするが、そこでアーサーからある報告が届く。

『タダノ隊員からの要請により、シミュレートした神取という人物の最終目標のシミュレート結果です』
「何だこの忙しい、時…」

 克哉は思わず怒鳴り返しそうになるが、そのシミュレート結果に大きく目を見開く。

「そうか、しまった………! あいつは、もう!」



「ぐはっ!」

 弾き飛ばされ、壁に激突する寸前にペルソナでかろうじて衝撃を緩和したレイジだったが、膝から崩れ落ちそうになるのをかろうじてこらえる。

「回復を!」
「メディアラハン!」

 小次郎が即座に仲魔のラクシュミに回復魔法を掛けさせるが、自身は氷川の相手で手一杯で、援護には行けそうにも無いのを歯噛みしていた。

「なるほど。この力、創生に関わるには十分に過ぎるな」
「言ったはずだ。そんな物に興味は無い。世界が滅ぶ様を三度も見る気はな!」

 白刃を振るう小次郎に、氷川は魔力の障壁でそれを防ぐが、防ぎきれずに手傷を追っていく。
 だが僅かな隙に氷川は攻撃魔法を繰り出し、小次郎は大きく跳んでそれをかわし、そこへ仲魔達が氷川に攻撃を仕掛けるが、氷川は巧みに魔法を攻防入れ替え、それに対処する。

「賊だ!」
「氷川様をお助けせねば!」
「結構よ」

 戦闘音を聞きつけ、こちらに向かってくる悪魔達に扉の前で咲がレールガンと攻撃魔法で応戦しながら、それぞれ応戦している二人に視線を送る。

(小次郎はかろうじて押してる、レイジは押されてる。短期決戦の予定だったけど、このままじゃ…)

 予定との狂いを感じつつ、咲は振り向いてReverse・Deva SYSEMに向けて銃弾を撃ち込むが、いかな防御システムか、弾丸は弾かれ、傷一つ付かない。

「無駄に頑丈に作りやがって………」
「大事な物だからな。早々壊されても困る」
「壊すために来たんだよ! モト!」『ウルバーン!』
「ニャルラトホテプ!」

 思わず悪態をつくレイジに、神取は余裕の笑みを浮かべるが、レイジは切り札とも言える人狼化魔法を発動、半人半獣の姿となってReverse・Deva SYSEMへと襲いかかるが、神取は己のペルソナでそれを防ぐ。

「やっぱりな………」

 獣がごとき唸り声を上げながら、レイジが神取を見る。

「今、何で攻撃してこなかった? 前のテメエだったら、カウンター狙ってきたはずだ。だが、ガードに専念した」
「おかしいかね?」
「ああ、おかしい。まるで、わざと長引かせて…」

 そこまで言った所で、何かに気付いたレイジが一気に後ろに飛び退きつつ、獣化を解除する。

「気をつけろ! 神取は時間稼ぎしてる!」
「時間稼ぎ、だと?」
「どういう事だ?」

 レイジの言葉に、小次郎だけでなく、氷川も首を傾げる。

「守護とも言える神を召喚するなら、膨大な贄、つまりマガツヒがいるわ! 少し時間稼いだ所で…」
「そうか、そういう事か」

 咲も疑問を感じる中、小次郎は聞いていた神取の情報から、ある可能性にたどり着く。

『皆さん、聞こえてますか!?』

 そこへ突然風花からの慌てた声の通信が入る。

『アーサーからの報告、神取はここ以外の世界でもヒルコと呼ばれるエネルギー体の収集及び兵器へのエネルギー転用を実験しており、今回のマガツヒ収集はその集大成の可能性有り、何かを動かすエネルギー源じゃないかだそうです!』
「やはり、神取は守護を召喚する気が無いのか」

 風花からの通信を、小次郎はむしろ確信して聞いていた。
 だが、氷川は表情を変えて神取を睨み付ける。

「どういう事だ? 何か狙いが有るのは知っていたが、一体このマガツヒを何に使うつもりだ?」
「く、くく、くくく、は、ああっはははは!」

 問い詰めてくる氷川に、神取は何故か笑い始め、やがてそれは哄笑へと変化していく。

「あと少しだけ足りなかったんでね。何、少しだけだ。残りはそちらで使うといい。これもこのまま使ってもらって構わない」

 宣言すると同時に、神取は指を一つ鳴らす。
 すると、部屋の隅に今まで光学迷彩で姿を隠していたもう一体のX―3が現れ、神取はそれに飛び乗る。

「ライン開放、ジェネレーターに転送開始」

 神取のボイスコマンドと同時に、集められたマガツヒがどこかへと転送され始める。

「貴様…!」
「それでは」

 氷川が激高し、攻撃しようとするが、別れの言葉一つ残して神取がX―3と共にその場から消える。

「バックレやがった!」
「作戦失敗! 緊急帰還を…」

 咲が撤退を告げようとする中、どこかから地響きが聞こえ始める。

「な、何だ?」
「何が起きている!」

 異様な地響きにレイジだけでなく氷川ですら状況を認識出来ず、声を荒げる。

『何? 何? 何が起きてるの!? シャドウが全部逃げ出したんだけど!』
『異常反応確認! 全員帰還させますから集結してください!』

 りせと風花も慌てる中、小次郎、咲、レイジは頷くと、入ってきた画面へと飛び込んでいく。

「待て…」

 氷川が止めようとするのを、残った攻撃アイテムをまとめて投げつけ、小次郎が仲魔を帰還させつつも画面へと飛び込んだ。



『アギダイン』
「アナンタ!」「任セヨ!」

 刈り取る者が放った、強化された火炎魔法をアレフは魔法耐性のあるアナンタに防がせ、アレフは業火が途切れると同時に斬りかかるが、刈り取る者は手にした長大なリボルバーで受け止める。

「メギド!」「マハラギオン!」

 そこへヒロコとアガレスの魔法攻撃が叩き込まれるが、刈り取る者の力は緩まない。

「カアアァァ!」

 更にカーリーのダメ押しの四刀がアレフとは反対側から刈り取る者に叩き込まれるが、刈り取る者はもう片方のリボルバーでそれを受け止める。

「なるほど、確かに出来る」
『アレフさん! 作戦失敗です! すぐに戻しますから、戦闘を中断してください!』

 剣を持つ手を緩めないアレフだったが、そこに風花の慌てた通信が飛び込んでくる。

「小次郎が失敗したの!?」
『神取って人が何か奥の手を隠してたみたいです! 何が起きるか分かりません!』
「もう起きているようだがな」

 ヒロコが驚く中、自分達の周囲をシャドウ達が我先に逃げ出している光景に、アレフは異変を感じ取ると、速攻でカタをつける事にする。

「総攻撃」
「マハラギオン!」「冥界波!」「シャアアァ!」「カハアアァ!」

 アレフの号令と同時に、仲魔達が一斉に刈り取る者へと襲いかかる。
 アガレスの火炎魔法とスサノオの斬撃波が左右から襲いかかり、アナンタの牙とカーリーの四刀が上下から刈り取る者を狙う。
 それらの攻撃をまともに食らいながらも、刈り取る者は動きを止めない。

『コンセントレイト…』

 更に魔力をチャージしてダメ押しの一撃を放とうとするが、ヒロコの投じた槍が袋のよな覆面に覆われた顔面で唯一むき出しになっていた片目に突き刺さるが、それでもなお刈り取る者は動きを止めない。

『メギ…』
「遅い」

 強烈な全体魔法を放とうとした刈り取る者だったが、仲魔の隙間から死角に潜り込むように迫ったアレフがブラスターガンを速射、更に大上段から振り下ろしたヒノカグツチが、刈り取る者を縦に両断する。
 更なるダメ押しでアレフは頭部、延髄、心臓部に当たる部分をブラスターガンで撃ち抜き、限界に達した刈り取る者はその場で崩壊していく。

「撤退だ」「いいわよ! こちらでも脱出魔法使うからタイミング指示して!」
『了解です!』


「いいぞ!」
『『エスケープロード!』』

 小次郎の言葉と同時に、特別捜査隊も含めた全員がその場からかき消え、業魔殿へと戻る。
 それに合わせたかのように、業魔殿のモニターもブラックアウトした。

「ぜ、全員無事?」
「多分全員いるぜ………」
「間違いなくいます」

 悠が周りを見回し、陽介が適当に応えるが直斗が素早く確認する。

「陽動部隊に連絡、作戦は失敗、至急撤退を…」
「分かりました、けどこの反応………待ってください! 向こうからも非常事態シグナルです!」



「何だ、あれは………」

 戦闘中だった者達が、いきなりの地響きに気付き始める。
 そして、それが虚空から巨大な何かが降り立つ余波だという事に。

「おい、アレは!」
「ギガンティック号だ! 何故ここに!」

 機動班員達が、それがレッドスプライト号の同型艦、四番艦のギガンティック号だと気付くが、ギガンティック号が地面へと降り立つ直前、誰もが予想外の事態が起きる。
 突然、ギガンティック号の船体が展開し始め、なんと変形を始める。

「あんな機能、ギガンティック号に有ったのか?」
「ねえよ!」

 仁也が大真面目に言うのをアンソニーが怒鳴り返すが、変形は更に進んでいく。
 先程まで戦闘を繰り広げていた誰もが動きを止め、呆然とその様を見届ける。
 そして、変形が終了したギガンティック号は、巨大な人形になってその場に直立する。
 未だ雷鳴轟く中、その場に鎮座する鋼の巨人に人も悪魔も絶句するしかなかった。

「………ひょっとして、あれが超力超神………」

 チドリただ一人だけが、かつてゲイリンから聞いた人造の神の名を呟く。

『ギガンティック号を確認、全ミッションを緊急中断。総員撤退を支持します』

 そこで響いてきたアーサーからの緊急通信に、全員が我に返って一斉に撤退を開始する。
 シジマの悪魔達は追撃も忘れ、ただ鋼の巨人を呆然と見ているしかなかった。

「あんなのと、どう戦えば………」

 殿を努めようとする尚也の呟きは、その場にいる全ての者達の心中を如実に表わしていた………


 雷鳴轟く闇の中から、鋼の虚神がそびえ立つ。
 それが糸達にもたらす物は、果たして………





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