PART64 THE TRUTH ABOUT FAKE LAUGHTER


真・女神転生クロス

PART64 THE TRUTH ABOUT FAKE LAUGHTER





「穿て!」
「マハジオンガ!」

 キョウジの指示で仲魔のシヴァが強烈な電撃魔法をX―3に放つ。
 まとめてそれを食らったX―3だったが、直後に動いて銃撃を繰り出してくる。

「ちっ、機械のくせに耐電処置は完璧かよ!」
「ハアアァ!」

 そこに同じく仲魔のラーマが手にした曲刀で襲い掛かるが、直前にX―3の姿が全機掻き消え、斬撃は空振りに終わる。

「電波、光学、ついでに魔術ステルスか。厄介なモン作りやがったなオイ!」

 キョウジが悪態をつきながらステアーTMPサブマシンガンを横なぎに速射、その内の何割かが壁ではない何かに当たったのを聞いた仲魔達が一斉に襲い掛かるが、見えない何かにかすめたような感触を残して空振りに終わる。

「また空振り!?」
「ステルスだけじゃなくて動きも速ぇ。完全にこちら仕様だな」

 レイホゥもあまりに厄介な相手に攻めあぐねる。

「言いたくはないけど、確かにこれ造った奴は天才ね」
「今そこにいるけどな」

 キョウジがちらりと横を見ると、そこではペルソナ使い三人がかりに一人で対峙している神取の姿が有った。

「はあっ!」

 南条が上段から振り下ろした斬撃を、神取は片手持ちの刀で受け止める。

「ガブリエル!」『アクアダイン!』
「ニャルラトホテプ」『ガルダイン!』

 すかさずエリーのペルソナが放った水撃魔法を、神取がもう片方の手でアルカナカードをかざし、己のペルソナの疾風魔法をぶつける。

「くっ…」
「そこだ!」

 疾風魔法にあおられ、思わず後退する南条だったが、そこへレイジが一気に間合いを詰めて拳を叩き込もうとするが、神取はいつの間にか抜いたザウエルP229からの銃撃でそれを阻む。

「ちっ!」
「腕を上げたか、神取」
「君達と戦うのもこれで三度目だからな」
「とんだReturn Matchですわ!」
「今度こそ完全に引導渡してやる!」
「渡してみるといい、出来るのならば!」

 たった一人で三人のぺルソナ使いを平然と相手する神取に、かつての決戦を思い出しながら三人は対峙する。
 そこで南条が僅かに顔をしかめた。

「解せんな………」
「何がかな?」
「その力、あの海底遺跡の時となんら遜色ない、どころか増している感すら有る。一体何が有った?」
「さて、何が有ったと思う?」
「Contract」

 南条の問いをはぐらかす神取だったが、エリーがある言葉を告げる。

「Hadesに行ってきた方々から聞きましたわ。向こうのDeadの中で何か大きな存在とContractして力を得ていた者がいたと。貴方もそうなのですね?」
「ほう、さすがに詳しいな。本職顔負けだ」
「何? 手前、今度は何に手出しやがった! セベクの時も珠間瑠の時も、あれだけの事をやらかしておいてまだ飽き足りねえってのか!!」
「さあ、どうだろうな………」

 エリーの指摘に意味ありげに微笑む神取と対照的に、レイジは更に激昂する。

「今度こそ、止めてやる! モト!」『ウルバーン!』

 レイジが獣化魔法で人狼の姿へと変貌すると、神取へと襲い掛かる。

「またそれか」

 神取がセベクスキャンダルの時の事を思い出し、振り下ろされんとする一撃を刀で受け止めようとするが、そこでレイジの体が一瞬沈み、刃の下からアッパーカットの軌道で鋭い爪が跳ね上がってくる。

「!」

 思わず体をのけ反らせ、直撃を避けた神取だが僅かな鮮血と共に砕けたサングラスが宙を舞う。

「オレも前と同じだと思うなよ………何が何でもお前を止める必要があるからな」
「ふ、そう言えば父親になったのだったな………前の自暴自棄な戦い方とは確かに違うようだ」

 神取は眉間から滴る血を袖で軽く拭いながら、改めて異母弟を見る。

「なら止めてみろ、今のお前達の全てを使ってな」
「そうさせてもらう!」「無論」「Sure!」

 獣化したレイジを先頭に、三人のペルソナ使いは持てる力の全てを持って神取へと向かっていった。


「そこです!」

 ラーマが半ば勘で突き出した剣が何かに突き刺さり、皆がそこへ集中攻撃する。

「く、固い………」
「離れろ! 飽和攻撃!」
「メギドラ!」「マハサイオ!」

 キョウジの指示でラーマが横へと跳んだ直後、シヴァとレイホゥの魔法攻撃が同時に炸裂する。
 強烈な魔法攻撃にX―3の迷彩が霞み、その姿が露わになる。

「ガアァァ!」
「おらぁ!」

 その隙を逃さず、シュウの剣・斧・鉾の三連撃とキョウジの七支刀が叩き込まれ、X―3は派手なスパークを上げながら擱座する。

「やっと一機か…散れ!」

 胸を撫でおろす暇も無く、キョウジが叫んでレイホゥと仲魔が散った直後に残ったX―3の銃撃が襲ってくる。

「隙がねえなオイ!」
「無人機よね、一応…」
「無人、ではあるようだがよ」

 銃撃を避けながら、キョウジとレイホゥは先程擱座したX―3の方を見る。
 スパークを上げながら、擱座したX―3の残骸からケガレやマガツヒが漏れ出てくるのに、キョウジは思わず舌打ちする。

「妙な物載せやがって! その頭もうちょっとマシな方に使え!」
「元からロクな方向に使ってなかったはずよ」

 再度フォーメーションを組みながら、キョウジとレイホゥは見る事も感じる事も出来ない敵とその製造者に悪態をつく。

「気付いてる?」
「動きが変わったな」

 僅かに聞こえる床の上を移動する脚部の擦過音らしき物から、X―3の動きを大体察しながら二人はなんとか正確な位置を探ろうとする。

「見えぬし感じれぬなら!」
「見えるようにすればよし!」

 そこでシヴァとシュウが得物を床へと思い切り叩きつける。
 強烈な一撃に床は大きくひび割れ、無数の破片が舞う。
 そしてそのひび割れた床を踏みしめる跡に、皆が一斉に反応する。

「霞切り!」「大切断!」

 シュウとラーマの攻撃が足跡の主に炸裂し、迷彩が霞んでX―3の姿が見えるようになる。

「サイオ!」「メギドラ!」

 さらにそこへレイホゥとシヴァの魔法攻撃が炸裂し、X―3の装甲がひしゃげる。

「そこか!」

 装甲がひしゃげたポイントにキョウジが七支刀を突っ込み、そこを強引に広げてそこにピンを抜いたグレネードを突っ込み、退避する。
 直後にグレネードは爆発、装甲内部の爆発にさすがに耐えられず、X―3が崩れ落ちた所に仲魔のダメ押しの攻撃が集中し、完全に沈黙する。

「くそ、今ので最後の発破だ」
「ここに来るまでに使い過ぎたわね。でもってこれでようやく半分」

 残った二機のX―3を探すキョウジとレイホゥだったが、ひび割れた床を動く足跡が先程よりも更に高速になっている事に気付く。

「図体それなりにある癖にお仲間やられたら加速しやがる」
「しかも向こうから完全に分断されてる」

 レイホゥが神取達と戦うペルソナ使い達の方を見るが、足跡は即座にそれを遮るように動く。

「対サマナー・ペルソナ使いに完全特化してる訳か。しかも自己学習性能も高いようだな」
「ファントム辺りに売り込まれなくてよかったわ。絶対量産するわよ…!」

 会話の最後で、僅かに聞こえた駆動音にキョウジとレイホゥは半ば直感でその場から飛び退き、直後姿の見えないX―3からの銃撃が先程まで二人がいた場所を穿つ。

「そこかっ!」
「サイオ!」

 発砲音と銃火から相手のだいたいの位置を割り出したキョウジとレイホゥが銃撃と魔法で攻撃するが、連射された銃弾は最初の数発だけがかすめた金属音を響かせ、魔法攻撃はかすかにかすめて一瞬X―3の姿が霞んで見えたが、すぐにまた掻き消える。

「更に反応が早くなりやがったか!」
「こうなったら………シャッフラー!」

 レイホゥが特殊封印魔法を発動、封印カードが虚空に展開していくが、X―3の耐魔力処置が封印を阻む。

「そうでしょうね、けど!」
「劫火召喚!」

 レイホゥが目くばせするとシュウが劫火を呼び出し封印カードに着火、空のカードが燃える中、それを何かが突っ切るのがはっきりと見えた。

「大切断!」

 炎が途切れる先を見たラーマが攻撃を繰り出し、炎を突っ切っていた何かに直撃、炎から弾き飛ばされたX―3がその姿を現す。

「今だ!」

 そこへキョウジと仲魔達が一斉攻撃を加え、また姿を消される前に止めを刺そうとする。
 連続で叩き込まれる仲魔達の攻撃にX―3の装甲がひしゃげ、脚部がへし曲がり、武装が千切れ飛ぶ。

「一気に…」

 七支刀をひしゃげた倉庫の隙間から突き刺さうとしたキョウジの耳に、アラームを知らせるような電子音に続けて、カウントのような物が届く。

「全員防御! 伏せろぉ!」

 大声で叫びながら、キョウジは強引に足を止め、その場にうずくまる。
 仲魔も防御態勢を取り、レイホゥだけでなくペルソナ使い達も伏せた瞬間、X―3がその場で爆発する。
 狭い室内で爆炎と爆風が吹き荒れ、間近にいたキョウジは弾き飛ばされるのをとっさに仲魔達が受け止める。
 爆発が収まった時、そこには傷ついた者達と予めペルソナで完全に防御していた神取の姿が有った。

「てめえ、自爆装置だと! なんて物までつけてやがる!」
「機密兵器だよ、つけてて当然だろう」
「回復を! メディアラハン!」
「ガブリエル!」『リフレッシュリング!』

 焼けただれた腕を掴みながら叫ぶキョウジに神取はほくそ笑み、レイホゥとエリーが慌てて回復魔法をかける。

「無人兵器の利点は、最悪帰還を考えなくてもいいという点にある。戦況が不利ならば、勝利ではなく、少しでもこちらの有利にする敗北を選ぶようプログラムする物だろう?」
「ご高説ありがとよ」

 かろうじて回復した腕の具合を確かめながら、キョウジが奥歯を噛み締める。

(あと一体、だがまた自爆されたら事だ………どうする?)

 半ば原型を留めなくなった管制室の有様に、キョウジは内心で舌打ちする。

「おい、どういう事だ?」

 そこでキョウジ同様負傷して魔法でなんとか回復したレイジが神取を睨みつける。

「あんな物仕込むなら、もっと威力を上げれば片が付いていた。オレ達の不意を突くために手前が多少巻き込まれても、アンタなら気にしないはずだ」
「ふ、ふふ………さあなぜだろうな? 最新装備を詰め込みすぎて爆薬が足らなかっただけかもしれないぞ」
「では何故、お前はそこから動かなかった?」

 レイジに続けて南条の問いに、神取は僅かに笑みを浮かべて無言。

「この期に及んで、何を隠してやがる………」
「No。聞いてもAnserしてくれる相手で無い事は分かってますわ」
「ああ、その通りだ」
「後一体、なんとかこっちで抑える! レイホゥはそっちをサポートしろ!」

 まずは神取を抑える事を大事と考えキョウジはレイホゥをそちらに回すと、仲魔とGUMPの状態を確かめる。

(仲魔は多少ダメージ有るがまだいける、GUMPもなんとかか。強度上げてたのは正解か)

 GUMPの調子を確認しながらマグネタイト残量も確認、仲魔達と円陣を組みながら残った一機のX―3を探す。

(さっきの自爆、あの図体なら少なからずダメージを受けてるはずだが、どこに消えた?)

 完全に姿を消しているX―3をキョウジは必死に探す。

(あれが対サマナー戦のノウハウを組み込まれているとしたら、不利な状況で狙うのはサマナー本人。でもって周りを仲魔で囲ってる以上、狙ってくるとしたら………!)

 キョウジはその場から飛び退きながらステアーTMPを真上へと向けて連射、入れ違いになるように天井近くから放たれた無数の銃弾が先程までキョウジがいた場所を穿ち、飛び退くキョウジを追いかける。

「直上、総攻撃!」

 キョウジの指示に仲魔達が一斉に天井、正確にはそこに潜んでいる物を攻撃、僚機の爆発の隙にアンカーで天井にへばりついていた最後のX―3は回避行動を取るがかわしきれずに攻撃を食らって落下してくる。

「ゴツい割に身軽だなオイ!」

 キョウジは悪態をつきながらもマガジンを交換、レッド・スプライト号謹製の冷凍弾をセットする。

「こじ開けろ!」

 落下中に姿勢を立て直して着地するX―3の脚部をシュウが掴み、力任せに持ち上げて床へと叩きつける。
 僅かに動きが止まった隙を逃さず、シヴァの槍とラーマの曲刀が胴体部に突き刺さり、装甲をこじ開けていく。
 内部の機械と蠢くケガレが見えた中、その中に明滅するLEDランプが露わとなる。
 そのLEDランプの色が変わり、先程の電子音が響くより早くキョウジはトリガーを引いた。
 放たれた冷凍弾は引き裂かれた装甲の隙間から内部に撃ち込まれ、その中にある物を片っ端から氷結させていく。
 自爆装置のカウントダウンが響く中キョウジはためらいなく全弾を発射、カウントダウンの最後の音が響くが、氷結した自爆装置はその役目を果たさず沈黙する。

「ぶっ壊せ」
『心得ました召喚士殿!』

 キョウジの指示に仲魔が一斉に反応、手にした種々の得物が内部氷結して動きが鈍いX―3に次々と突き刺さり、叩きつけられ、トドメとばかりに渾身の攻撃が同時に炸裂し、最後のX―3は完全にスクラップとなって沈黙する。

「さて、取り巻きは片付いたぜ………」

 綱渡りな作戦が成功した事に、キョウジは空になったマガジンを交換しつつ、神取に向き直る。

「X―3がこうも簡単にやられるとはね。さすがは葛葉 キョウジと言うべきか」
「自爆装置までつけてた癖に何が簡単だ。基準がおかしいぞ」
「一人二人は倒してくれるかと思っていたがね。やはりこれだけの修羅場を潜り抜けてきただけの事はあるか」
「じゃあここで一区切りつけるぞ、手前を倒してな」

 まだどこか余裕を感じる神取の態度に、レイジが拳を握りしめながら吐き捨てる。

「そうだな、私を倒せば一つの区切りはつくだろう。倒せればだが」

 神取はそう言いながら、己のペルソナを最大出力で呼び出す。
 吹きすさぶすさまじい瘴気に、皆の顔が険しくなる。

「なんてレベルで降ろしてんのよ………これでどうやって正気を保てるの?」
「元から狂ってんだろ」
「あながち否定できんな」

 レイホゥが思わずたじろぐ中、レイジと南条がうそぶく。

「元から狂える神を降ろしている者に何を問う? 君達の正義か、私の狂気か。どちらが上か試してみようではないか」
「勝手に言ってろ!」

 己を揶揄するような神取に、キョウジが吐き捨てながら七支刀を振りかざす。
 振り下ろされた刃を己が刀で受け止めた神取だったが、今度は別方向から繰り出された南条の斬撃を無造作に突き出した腕で受け止め、甲高い音が周囲に響き渡る。

「ちっ、しっかり固めてやがったか!」
「素材には事欠かなかったのでね。それなりに準備はしていた」

 受け止めた袖が切れ、その下に見えたデモニカを流用したと思われるボディスーツにキョウジが舌打ちし、南条と共に離れる。

「ペルソナの防御とデモニカの防御、二段構えとは恐れ入った」
「手前、そこまで用心深かったか?」

 重装備の神取に、南条とレイジはむしろ不審を感じ始める。

「色々と渡り歩いたからな。それなりの物は必要だった」
「そういや、この巨大ロボの元データはライドウの所から強奪したんだったな………一体幾つ敵を作った?」
「さてね………」

 キョウジも油断なく神取を睨みつけながら問うが、神取はとぼけて見せる。

「いよいよ分からなくなりましたわ………あなたの本当のObjectiveは?」
「混沌をもたらす事、と言えばいいかな?」
「それなら分かるな。手前のせいでひでえ事になってるからな!」

 エリーも疑問に思う中、神取の言葉にレイジが叫びながら殴りかかるも、神取のペルソナに阻まれる。

「何を持って混沌とする? 一体あの海底遺跡の後、何が有った?」
「君達には想像も出来ないだろう事だよ」

 南条も剣を振るいながら問い質すが、神取は苦笑するだけだった。

「じゃあ力づくだ! 総力!」
『オオオォォォ!!』

 キョウジの号令と共に、仲魔達が一斉に神取に襲い掛かる。
 複数の得物が神取の四方から叩き込まれるが、神取はペルソナとデモニカの防御で何とかしのぎ切る。

「こやつ、本当に人か!?」
「押し切れぬ………」
「じゃあ穿つまでだ!」

 シヴァとラーマが驚愕するが、仲魔の影から近寄っていたキョウジが神取に向けてステアーTMPのトリガーを引く。
 フルオートで連射された弾丸だったが、命中する直前に何かに阻まれていく。

「魔術防護、じゃないな。まさかバリアか?」
「先日追加したばかりの最新機能だ。出力がやや不安定なのとバッテリーを食うのが問題だがな」
「! この船のプラズマ装甲をそのサイズに搭載したのか!?」
「さすがに南条の御曹司は勤勉だな。精々奇襲を防ぐのがやっとの代物でしかないが」
「ハイテク使いこなしてるんじゃねえ!」

 全く隙の無い神取にレイジが何度目か分からない拳を繰り出すが、ペルソナと神取自身によって阻まれる。

「多重の絶対防御、これを破らない限りはどうしようもねえな………」
「だが、どうする? 長期戦は下手したら押し寄せてくる軍勢と挟み撃ちになる」

 キョウジが舌打ちし、南条も冷静に状況を解析する。

「どうもこうもねえ、かなり怪しいがあいつも人間だろ。ずっと防げるわけじゃねえ………」
「Intelligenceでは敵いませんからね………正面からDuelと行きましょう!」

 余計な事を考えず、正面突破を提案するレイジにエリーも賛同する。

「ち、あんな化け物相手に消耗戦か。だが、他に手は無さそうだな」
「下手な邪神の方がまだマシね」

 キョウジが七支刀を、レイホゥが三節棍を構えながらボヤく。

「じゃあ行くか」

 何気に呟くと同時に、キョウジと仲魔達が一斉に神取へと襲い掛かる。
 振り下ろされるキョウジの七支刀を神取は自らの刀で受け止め、左右から襲ってくる仲魔達の攻撃をペルソナで受け止め、受け流していく。
 そこでレイホゥがキョウジを踏み台に跳び、大上段から三節棍を振り下ろすが、神取は無造作に片腕を突き出してそれを受け止める。

「キョウジ!」
「これでもダメかよ」
「中々いい連携だ。ヒビくらいは入ったかもしれん」
「じゃあ次は折れろ!」

 とっさに下がったキョウジ達と入れ替わるように、レイジを先頭にペルソナ使い達が襲い掛かる。
 レイジが凄まじい拳のラッシュを叩き込み続けるが、その全てが防がれ、スーツに阻まれる。

「ヤマオカ!」『ザンダイン!』
「ガブリエル!」『アクアダイン!』
「ニャルラトホテプ」『不滅の黒!』

 レイジの両脇から南条とエリーが魔法攻撃を繰り出すが、神取は己の攻撃魔法をぶつけ、それを相殺させる。

「やはり隙が無い」
「Reviveの度に油断が無くなっていきますわね」
「黄泉帰りは人生見つめ直すには最適だからな」

 思わず歯噛みする南条と焦りを覚えるエリーに、神取はどこか自嘲的な笑みを浮かべる。

「何べん死んだら懲りる気だ、手前は!」
「これで最後にしたいがね」
「そうさせてやる!」

 レイジは思わず激昂するが、神取の自虐的な笑みは変わらず、それが更にレイジを激昂させる。

「落ち着け城戸!」
「Heatしては思うつぼですわ」
「く………」

 仲間にたしなめられ、レイジは何とか落ち着きを取り戻すが、再度神取を睨みつける。

「やっぱおかしいぞ手前………そんなに守り固かったか? もっと攻めてくる奴だったはずだ」
「言っただろう? 人生を見つめ直した結果だ」
「二回も黄泉帰った奴が、今更死ぬのが怖ぇのか? やっぱり何か隠してやがるな?」

 更に疑惑を深めながら、レイジは拳を構え直す。
 そこでキョウジが隣に立ち、七支刀を構える。

「ガワはオレらでどうにかする。そこに叩き込め」
「………分かった、頼む」

 方法も聞かず、レイジは頷く。
 直後にキョウジは神取に突撃をかけ、仲魔達もそれに続く。

「おりゃあぁ!」

 気合と共に振り下ろされる七支刀の一撃を神取は己の白刃で受け止めるが、間髪入れず仲魔達が左右から襲ってくるのをペルソナで防ぐ。

「先程と変わらないように見えるが」
「かもな!」

 神取が首を傾げるが、キョウジは構わず七支刀を振るい続ける。

(力任せの連撃、こんな物でこちらの守りは崩せないと分かっているはず………)

 刃と刃がぶつかる金属音が連続して響く中、神取は疑問を感じずにはいられなかった。

(ペルソナ使い達は手を出してこない、彼を信用してるのか)

 振り下ろし、横薙ぎ、斬り上げ、と様々な角度から繰り出されるキョウジの斬撃に、神取は更に疑惑を深くする。

(経験を積んだ、いい斬撃だ。だが、これでこちらの守りを崩すのは難しい。何が狙いだ………?)
「オラアァ!」

 疑惑が深まる中、キョウジは大きく踏み込み、全力を込めた刺突を放ってくる。

「ほう」

 刀では防ぎきれない威力と瞬時に判断した神取は、その一撃を刀で受け止めると同時にペルソナを発動、刀とぺルソナの双方で繰り出された七支刀を完全に受け止める。

「さて、次はどうする?」
「そうだな」

 必殺とも言える刺突を受け止められたキョウジはそこで小さく笑うと、柄に隠されていたスイッチを押す。
 次の瞬間、七支刀が内部に仕込まれていた爆薬で粉々に砕け散った。

「な…」
「陣!」

 予想外の効果、だがダメージを与えるには小さい爆発に神取が驚く中、キョウジの指示に仲魔が一斉に動く。
 砕け散った七支刀、その枝刃を仲魔が次々と掴んで、神取を取り囲む。

(! そうか、先程までのは枝刃に均等にダメージを与えて別れさせるためのスイッチか!)

「レイホゥ!」

 キョウジとレイホゥも枝葉の一つを掴むと、レイホゥの詠唱が始まる。

「コノサトヲ ウシハキマス ウブスナノオオカミ オオコトヌシノ オオカミタチ トリワケテ イシュタルオオカミ ノ オオマエニ…」
(神鎮めか! 霊剣を媒介にしての封印術式、こんな手を隠していたとは…!)

 仲魔も総動員してのキョウジの切り札に、神取は己の力が封じられようとしているのに、必死になって抗う。

「ちっ、人間でこれに抗えるのかよ」
「さて、二度も黄泉帰った私は本当に人間だろうか?」

 キョウジの悪態に、神取は自嘲的な笑みを浮かべながらも、抵抗を続ける。

「アオヒトノ クサノココロモ ヤスカラズ アヤブミ ナゲキツツアルモ…」

 そんな中レイホゥは詠唱を続けるが、その額には玉のような汗が浮かび、詠唱に更に力がこもっていく。

「これだけの封印術式でSEALDできないとは………」
「言いたくは無いが、化け物とはああいう事か………」
「そんなの最初から分かってただろうが」

 臨戦態勢のまま封印を見守るペルソナ使い達も、神取の予想外の抵抗に絶句していた。
 だが徐々に七支刀を楔とした呪縛が強まっていき、神取を抑え込んでいく。

「大人しく、封印されろよ………」
「そういう訳にもいかないのでね………精いっぱい、足掻かせてもらおうか!」

 あと一歩、という所で突如として神取のペルソナが爆発的に膨れ上がり、その力を一気に開放、封印術式を力任せに吹き飛ばしてしまう。

「くそっ!」
「きゃあ!」

 キョウジとレイホゥのみならず、仲魔すら吹き飛ばされ何体かRETURNされていく。

「ふぅ、危ない所…」
「オオオォォ!」

 思わず神取が一息つこうとした所に、レイジが強引に突撃、神取の腹に拳を叩き込む。

「ふ、悪くは無いが…」
「オラァ!」

 ペルソナの力を上乗せされた拳だったがボディスーツに威力の大半を阻まれ、神取に大したダメージを与えられないのを構わず、レイジは拳を更に叩き込む。

「ヤマオカ!」『ガーディアンハンマー!』
「ガブリエル!」『リリーズジェイル!』

 更に南条とエリーの魔法攻撃が叩き込まれるが、神取はペルソナで阻む。

「惜しい所だったが、最早その程度では…」
「ハアァ!」

 余裕を取り戻そうとしていた神取だったが、レイジは渾身の右を再度ボディに叩き込む。
 その瞬間、神取のボディを激痛が貫いた。

「がはっ!」

 何が起きたかを確認すべく、己の腹部を見た神取は、そこに七支刀の枝刃の一つが突き刺さっているのを見た。

「フンッ!」

 密かに拾っていた枝刃に気付かせないために、無駄とも思える攻撃をしていたレイジが、突き刺さった枝葉に向けて更に拳を叩き込み、ナックルダスター越しに枝葉が深々と神取の腹へと突きこまれる。

「ぐふっ………」
「くたばれ!!」

 明らかに致命傷になりうるダメージに、神取が吐血した所に、レイジの今まで最高の力を込めた拳が、神取の顎を下から打ち抜き、神取の体が宙へと舞い上がり、受け身も取れずに床へと叩きつけられる。

「が、は………」

 再度吐血し、枝刃が突き刺さった傷口から止めどなく血を垂れ流しながら、神取がレイジを見る。
 レイジの全身は、幾度となく強引に突撃を繰り返し傷だらけだったが、その目は微塵も力を失っていない。
 それを見た神取は、小さく笑みを浮かべると、体から力が抜けていく。

「やるようになったな………レイジ」
「今度こそ、ケリはつけさせてもらったぜ………」

 この場に来て初めて名前を呼んできた異母兄を、レイジは冷徹に見下ろす。

「さて、では話してもらおうか………お前の目的は何だ? ここまでの事をして、何がしたかった?」

 レイジの隣に並んだ南条の問いに、神取は呼吸を荒くしながら呟く。

「目的、か………詰まらない事だ………」
「貴方が守っていたあの奥に、何が?」

 エリーも問う中、神取は懐から一枚のカードキーを取り出す。

「見てくるといい………」
「そうせてもらおう」

 神取から無造作にカードキーを受け取った南条に促され、ペルソナ使い達はブリッジの奥にある扉へと向かう。

「君達も見てきたらどうだ………」
「悪いが、まだ油断出来る相手と思えないからな」
「例え死相が浮かび始めてもね」
「安心しろ………さすがにここまでやられてはな」

 キョウジとレイホゥにも見てくるよう促すが、二人はまだ警戒を解かない。
 だがキョウジが顎で促し、レイホゥがペルソナ使いへと続く。
 カードキーで扉が明けられると、そこにある小さな部屋に皆が入っていく。

「何かあるな」
「明かりを…」
「これかしら」

 レイホゥが照明スイッチらしき物を押した時、室内に有った物が皆の目に飛び込んで来る。

「おい、これは………」

 レイジですら絶句した物、それは人一人が入れるほどのポッド状の物体で、その中に液体と共に一人の女性が入れられていた。

「これは、ワンロン千鶴じゃないか!?」

 その女性、かつて珠間瑠スキャンダルで神取と共にワンロン占いによる噂操作で珠間瑠に混乱をもたらした女性の姿に声を上げた南条のみならず、皆が驚愕していた。

「ひどい状態だけど………生きてるわ………」

 ポッドの中のワンロン千鶴は片足が無く、片手も半ば欠損し体の各所も負傷状態だが、かろうじて生気が感じられる事にレイホゥも唖然としていた。

「Wait、それよりも………彼女のBody………」

 エリーが恐る恐る、ポッドの中のワンロン千鶴の腹部、それが大きく膨らんでいるのを指差す。

「ひょっとして、妊娠している?」

 南条の一言に、レイジがその部屋を飛び出し、神取の元に駆け寄る。

「ま、さか……お前………」
「ああ、どうやら私の子らしい」
「!?」

 神取の口から飛び出した言葉に、キョウジも絶句する。

「あの時…崩落する海底神殿の中で………私は、いや私達は死んだ………はずだった。だが、闇の中で何者かが………語り掛けてきた…もう一度やってみないかと………」
「何? それでお前は…」
「私はそれに三度目はゴメンだと言った………それはならばこの女はどうだと言ってきた………彼女も同じ意見のはずだと私は言った………そしたらそれは、ならばお前の子はどうだと言ってきた………」
「………神取、お前はワンロン千鶴とお前の子を守るために、幾つもの世界を敵に回したのか?」
「彼女も馬鹿な選択をしたよ。子供がいると知った途端に、自身の体を戻す事もせずに、自分が受けるはずの力を全て腹の子に注いだんだ」
「ワンロン千鶴がそんな事を」
「それじゃ彼女はずっと、この状態で?」
「死んだ筈の闇の中で僅かに俺の魂に語り掛けてきたのが最後だ。その体には魂の残滓が残ってるにすぎん」
「oh……」
「マジかよ。下手したら魂が輪廻にすら戻れなくなるぞ」
「く、くく………ぐっ…」

 キョウジの質問に神取は小さく笑い、また吐血する。

「笑いたければ笑え………かつては世界をも御しようとした私が………そんな小さな物のために………こんな事をしでかしたのだからな………」
「ば、か野郎!! 何で言わなかった!」

 神取の独白に、レイジが思わず神取の襟首をつかみ上げる。

「言えると思うか? それは、世界を揺るがすために、私のような者達を集めた………そしてお前達はそれに抗する者達によって集められた………そんな者達にどう言えと?」
「つまり、相当でかい存在がお前の、いや恐らく他の連中のバックにもいるんだな?」
「どこまでかは知らないがね………」

 神取の恐るべき告白に、キョウジはある一つの結論に辿り着く。

「私はここまでだ………どうせこの体も力も、それが仮初めに与えた物だ………敗れた以上は、全て…」
「No! まだです!」

 神取の声が力を失っていく中、エリーが声を上げる。

「ワンロン千鶴はダメでも、せめてこの子位は!」
「だがどうする?」
「私のPersona、ガブリエルは受胎を告げる守護天使、なんとしてもその子を守ってみせます!」
「誰か、医療知識有る奴をこっちに来させろ! 大至急だ!」

 エリーが自らのペルソナでポッドの中のワンロン千鶴とその子に守護しようとし、キョウジは通信で下にいる者達にがなり立てる。

「ふ、ふふ………急いだ方がいい………私が敗れた以上、この機体の力も失われるだろう………」
「崩壊するというのか!? この巨体が!」
「始まるぞ………」

 南条が思わず問い返す中、神取の言葉を肯定するように、艦内が鳴動し始める。

「どうなってるの!?」「誰かまずいの!?」
「下ももうやばいぞ!」

 そこに咲とヒロコ、それに機動班の者達が飛び込んでくる。

「誰か産婦人医学の心得は!?」
「何ぃ!?」
「少しなら!」

 南条の問いに機動班のメンバーが思わず声をあげるが、そこでヒロコが名乗り出る。

「おい、このポッドどう開けるんだ!?」
「これ、元はこの艦の医療ポッドだ! これなら分かる!」
「私が守護してますから、早く!」

 皆が大急ぎで取り掛かり、傾けられたポッドのハッチが開く。

「自然分娩は無理ね………切開するしか」
「傷の手当ならともかく、妊婦の切開は………」
「待て、なんでかデモニカのデータに有る! 緊急医療アプリを起動!」
「急いで、でも慎重に!」

 機動班の一人がデモニカにセットされていた医療器具を取り出し、緊急手術を開始していく。
 そんな中、鳴動はドンドン大きくなっていった。

「よし、もう少し………」
「母体は………脳波が無い。胎児を優先だ」
「大丈夫、私のガブリエルの加護がある限りは………」

 慎重に胎児が母胎から取り出され、そこに一際強くガブリエルの力が注がれる。
 そして、戦場に最も似合わない物、産声がその場に響いた。

「臍帯処置を! そこから切って!」
「分かった! 止血を!」
「だれか清潔な布!」
「有るかそんなの!?」
「母体の心音が弱まってきたぞ!」
「いや、心音以前に体が消滅してきてる!?」
「子供のために注いでた力が切れたんだ」

 産声が響く中、ワンロン千鶴の体は瞬く間に消滅しはじめるが、意識が無いはずの顔に笑みが浮かんでいたのを見たエリーはペルソナの力を赤子へと集中させる。

「このBabyは私たちが守ります」

 そう声をかけると同時にワンロン千鶴の姿は完全に消滅した。

「なにか、この子を保護するものを!」
「急げ!」

 生まれた赤子を何とか保護しようとする者達に、近寄る人影が有った。

「これが………神取の………」
『どうするつもりだ?』

 通信を聞いて来たアレックスが、目を丸くしていたがジョージの問いにある決意を決め、その場でまとっていたデモニカを脱ぎ始める。

「私のデモニカの中に! 緊急の生命維持装置が付いてるわ! その子の保護くらいは出来る!」

 アレックスは脱いだデモニカの四肢に当たる分を畳んで縛り上げ、赤子を収められるサイズに調整しシステムを生命維持へと切り替える。

「分かったわ! 産着代わりに何か!」
「ありったけの医療パッド詰めろ! 未使用の!」

 外されたデモニカの中に赤子が納められると、それをレイジが抱き上げると、神取のそばへと歩み寄る。

「生まれたぞ、女の子だ」
「ああ、そうか………」
「しっかりしろ! 手前の最後の仕事だ、この子に名前つけろ兄貴! 後の事はオレがなんとかする!」

 初めて神取を兄と呼んだレイジに、神取は少しばかり驚きながら、デモニカの中の赤子を見る。

「そうだな………両親のような人生を歩まないように………静奈(せいな)とでも名付けよう………」

 最後の力を振り絞り、己の娘を見ながら神取は名付ける。

「静奈か、分かった」
「早く連れていけ………生まれてすぐ親の死に様なぞ見せるな………その部屋の後ろに脱出ハッチが有る」
「………そうだな」

 いよいよ鳴動が洒落にならなくなってきた所で、目から最早光を失っている神取がポッドの有った部屋を指差す。

「小次郎達も脱出中!」
「ヒトナリも脱出したそうだ!」
「オレらも行くぞ!」

 咲が他のメンバーの脱出を確認する中、一行が脱出ハッチに向かい、最後にアレックスが神取のそばに近寄る。

「事態が終わるまで、あの子は私が守る。世話になったせめての礼」
「………」
『急ごうアレックス』

 最早言葉も発しなくなった神取に宣言すると、ジョージに促されてアレックスも脱出する。
 程なくして、超力超神・改の崩壊が始まった。

「ぎゃああぁぁ!」
「逃げろぉ!」
「マガツヒが!!」

 内部に侵入していた悪魔や周囲にいた悪魔達は退避が遅れ、崩壊していく超力超神・改の破片がその上に降り注ぐ。
 絶叫が各所から響く中、超力超神・改の内部に溜め込まれていたマガツヒやケガレといったエネルギーが吹き出し、虚空へと拡散していく。

「総員、点呼を………」

 脱出し少し離れた場所でその光景を見ていた仁也が、呼吸を荒くしながら突入していた者達の生存を確認する。

「デモニカの反応は全部ある………」
「こっちも大丈夫だ、仲魔はだいぶやられたが」
「オレもだ」
「一人増えたがな」

 アンソニーが機動班の無事を確認、小次郎とキョウジがボヤく中、レイジが姪を収めた赤いデモニカをそっと抱え直す。

『バイタルは安定している、が的確な処置が出来る場所に運ぶべきだろう』
「一度珠間瑠に撤退して態勢を立て直すしかねえか………」
「負傷者多数だ、仁也はもう戦えないかもしれねえ」

 ジョージの進言に、キョウジは苦い顔をし、アンソニーは仁也に肩を貸しながら頷く。

「幸か不幸か、超力超神・改の崩壊で押し寄せてきていたシジマは壊滅状態のようだ」
「問題はリーダーの氷川という男は見かけなかった。どこにいるのか………」

 南条が壮絶な有様になっているのを確認するが、アレフが唯一の懸念を口にする。

「神取もアレの起動後の氷川の所在は掴んでいない。その気が無かったというべきか………まずはこの子が最優先」

 アレックスも僅かな情報を告げる中、己の外したデモニカの中にいる赤子を見つめる。

「とにかく連絡。超力超神・改とシジマは大体片付いた、一時撤退するから迎え頼むと」

 キョウジの指示に、機動班が通信機を操作する。

「にしても神取の野郎、最後の最後に色々残していきやがって………」

 キョウジが神取が契約していた謎の存在が、冥界のファントムソサエティが契約していた物と間違いなく一緒だろうと確信しつつ、ふとカグツチを見上げる。
 煌々と眼下の惨状を照らし出すカグツチに、言いようの無い物を感じたキョウジは思わず身震いする。

「アレも、まさか………」


 阻む壁を少しずつ超えた向こうに、大きな影が見え始める。
 糸達の相対すべきは、果たして………





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