PART67 MOTHER of SHADOW


真・女神転生クロス

PART67 MOTHER of SHADOW





 それは、漆黒に無数の血管のような模様が浮かぶ異形の翼と、闇その物のような体を持っていた。
 その相貌はタカヤの物だったが、眼科は漆黒の闇のみをたたえ、吊り上がった口が薄い笑みを浮かべていた。

「これが我ら守護………ホロビを齎す神…」
「ニュクス、か………」

 かすれた、だが何故かよく通る声が告げようとする名を、美鶴が先に呟く。
 それを聞いたニュクス・タカヤが笑みを深くする。

「そう………今や私こそがホロビをもたらす存在………全てにホロビを…」
「! 階下にてシャドゥの異常発生確認!」
『こちらりせ! すごい数のシャドゥ! けど暴走してるみたいで、下のヨスガにも襲い掛かってるみたい!』
「あてられたか、まあ乱戦なら都合がいいか?」

 風花とりせの報告を聞きながら、八雲は一斉召喚した仲魔達を背に、ふと構えを解く。

「やり合う前に聞いときたい事がある。お前ら、こっちに来るのに何にそそのかされた?」
「そそのかされたっちゅうのは大概やな。教えてくれたのはいたで」

 片手で手榴弾をもてあそびながら、ジンが答える。

「可能性の世界、望むホロビを得られる世界……あれはそう言ってました………」
「そうか」

 ニュクス・タカヤもそう答える中、八雲は吐息を漏らすと、銃のセーフティーを外す。

「どうやらあちこちのヤバイ奴にヤバイ勧誘してる大元がいるって事はこれで確定か」

 完全に確信した八雲は、ソーコムピストルの銃口をニュクス・タカヤへと向ける。

「じゃ、始めるか」
「今の私にそんな物が効くとでも」

 ニュクス・タカヤが突きつけられる銃口に侮蔑の笑みを浮かべるが、八雲はためらいなくトリガーを引いた。
 放たれた銃弾をニュクス・タカヤは避けも防ぎもしようとしなかったが、直撃した銃弾は漆黒の渦のような物を発生させ、そこから怨嗟のような声が響き、ニュクス・タカヤの体を小さくだが穿つ。

「が!?」
「何やそれ!」
「あのマッチョマスター、なんちゅうモンを………怨霊なんぞ弾頭に込めるもんじゃねえぞ」

 八雲自身、先程補充した魔弾の威力に顔をしかめる。

「八雲さん…」
「気合入れろ、手前らのとこの破壊神だろ」

 八雲の隣に来た啓人が、やや青ざめた顔で片手に剣、もう片手に召喚器を構える。

「破壊神………違いますね。ニュクスは純然たる死その物。故にホロビの守護なのですよ………」

 ニュクス・タカヤがそう言いながら、その身から溢れる瘴気が辺りに吹き荒れる。

「うわっ!」
「きゃあ!」

 皆から悲鳴が漏れる中、八雲と啓人はなんとか踏み止まる。

「階下のシャドゥがここまで登ってきそうです!」
「明彦、岳羽と天田を連れて階下を防いでくれ!」
「英草、ダンテと一緒に雑魚を頼む。どうにもこいつは扱い注意みたいだ」

 風花からの報告に、手早く二手に分かれるよう指示が飛び交う。
 そんな中、チドリがニュクス・タカヤへ向き直る。

「それが………ストレガが目指してた物?」
「ええ、そうですよ………」
「これが、これこそがワイらの目指してた、ホロビの形その物や」
「本当にそんな物が?」

 チドリの問いに、ジンが顔をしかめる。

「なんや、また死ぬのが怖いんか? 元ストレガが」
「そう、怖い。一度死んだから。この命は順平が分けてくれた物、そう簡単に失う訳にはいかない」

 毅然と言い張るチドリだったが、そこで順平が彼女をかばうように前へと出る。

「そういう事だ。悪ぃけど、全力で邪魔させてもらうぜ」
「はっ、王子様気どりかいな」
「悪いか?」
「現実見せたる! モロス!」『デッドエンド!』
「トリスメギストス!」『利剣乱舞!』

 戦闘の口火を切り、ジンと順平のペルソナが激しくぶつかり合う。

「始まったか」
「こちらも…」

 八雲が横目でそれを見ながら仲魔と共に構え、啓人が召喚器をこめかみにあてた所で、アイギス達ロボ三姉妹が前へと出る。

「私達はこのために造られました」
「その通りや」
「私は違うけど、姉さんと一緒に戦う」

 戦闘態勢を取るロボ三姉妹に、ニュクス・タカヤは冷笑を返す。

「人ですら無い物にホロビを与える気は無かったが、望むなら与えよう。共なるホロビを…」『マハラギダイン!』

 ニュクス・タカヤがいきなり強烈な火炎魔法を放ち、皆が飛び退ったりペルソナで防御する。

「初っ端からこれか! ジャンヌ、補助魔法ありったけ!」
「はい召喚士殿、ラクカジャ!」
「く、タナトス!」『五月雨切り!』

 予想以上のニュクス・タカヤの攻撃力に八雲が舌打ちしながら仲魔に補助を命じ、啓人がペルソナで攻撃するもニュクス・タカヤはたやすく弾いてしまう。

「なっ…」
「アルテミシア!」『ブフダイン!』
「ガアアァ」

 そこへ美鶴が攻撃魔法を放ち、ケルベロスが業火を吹き付けるが、それすら弾かれてしまう。

「魔法耐性です! 半端な攻撃魔法は効きません!」
「ついで言うと物理もさっきの一発で警戒されたか」
「八雲やるなら脳天狙ってよ!」
「脳天撃ち抜いた程度で神が死ぬか」

 風花のアナライズ結果に八雲が補足すると、ネミッサからの怒号が飛ぶ。

「ふふ、その程度ですか………今まで私は何を恐れていたのでしょうか………」
「やべえモン召喚した奴は大抵そう言うぞ。まあ大体その後飲まれるが」
「別に構いませんよ………ホロビの世が訪れるのなら、私の事なぞ些細な事………」
「八雲さん………」
「よく見とけ、手遅れってのはこういう奴の事だ。でもって余計な事は考えるな」

 余裕のニュクス・タカヤに八雲は悪態をつき、啓人が引きつった顔で八雲に話しかけるが、八雲はGUMPを仕舞いながらナイフを抜く。

「神だろうが何だろうが、実体化してるって事は倒せるって事だ。さっきの大目玉みたいにな」
「随分派手にやっていたようですね………今から私と戦えるだけの力は残ってますか?」

 断言する八雲だったが、ニュクス・タカヤはここに来るまでにすでにかなり疲弊している者達を見て口を釣り上げて笑みを作る。

「やるしかない。元々オレ達はニュクスと戦うためにここまで来たんだ」

 啓人も八雲の隣で剣を構え、ニュクス・タカヤと対峙する。

「その意気、だ!」

 八雲は啓人の方を横目で見つつ、いきなりナイフをニュクス・タカヤへと投じる。
 ニュクス・タカヤは一応警戒して翼でナイフを防ごうとするが、ナイフは翼と接触した瞬間、いきなり爆発する。

「その程度…」
「フルアタック」
『おお!』

 それを皮切りに、八雲が仲魔に一斉攻撃を指示、仲魔が一斉にニュクス・タカヤへと襲い掛かり、八雲もネミッサとカチーヤと一緒にありったけの銃弾を撃ち込んでいく。

「そんな物…」
「ハアッ!」「ガアアァ!」

 相次ぐ一斉攻撃をニュクス・タカヤが振り払おうとするが、カーリーの六刀とケルベロスの牙が突き刺さり、一時的に動きを止めようとする。

「ハァイ♪」

 そこを狙ったかのようにネミッサが飛び上がり、蹴りを叩き込むような姿勢を取るが、その両足に拳銃がセットされているのにニュクス・タカヤが気付いた時、両足の銃口から連続の蹴りと共に魔力の込められた銃弾が叩き込まれる。

「そぉれ!」

 ダメ押しとばかりに顔面に蹴りと銃弾を叩き込んだネミッサが離れるが、ニュクス・タカヤはさすがに顔面を抑え、滴る黒い血を見る。

「つまらない事を…」
「八雲〜、顔面でもダメみたい」
「どこでそんな芸当覚えてきた………」
「マッチョのマスターが教えてくれた♪」
「だったら、タナトス!」『ジーザス・ペイン!』

 啓人のペルソナが無数の剣を生み出し、ニュクス・タカヤへと突き刺す。
 だが剣は切っ先のみが突き刺さったかと思うと、即座に弾かれてしまった。

「これでもダメか!?」
「魔法と物理両耐性だ? 無茶苦茶な…」
「でもやるだけや! アリアドネ!」『ストリングアーツ!』
「アテナ!」『ヒートウェイブ!』
「プシュケイ!」『ギガンフィスト!』

 突破口を見出すため、ロボ三姉妹が一斉にペルソナを発動、ニュクス・タカヤへと襲い掛かるが、その一斉攻撃も僅かに傷跡を残して弾かれてしまう。

「あかんか!」「そんな…」「まだまだ!」
「一度離れろ!」
「こちらから行きますよ」『マハジオダイン』
「ちっ!」「うわぁ!」「キャアァ!」

 歯噛みするロボ三姉妹に八雲が警告を発した所で、ニュクス・タカヤがお返しとばかりに放った電撃魔法がその場を荒れ狂い、かわしきれなかった者達が食らってしまう。

「みんな無事か!?」
「あ、危な………」
「メティスが食ろうた、ちと動けんで!」
「こっちにまで飛んできたぞ!」

 とっさにペルソナチェンジして耐えた啓人だったが、仲間達からの被害報告が飛び交う。

「取りあえず皆さん無事みたいです! 無傷とは言えませんが………」
「動けるならそれでいい」

 風花からの報告を聞きながら、自分も少し食らった八雲が体よりも義手のダメージを確認する。

「一応対魔法耐性つけてるとは言ってたが、なんとか持ったか」
「片腕を失ってまでもここまで来る気概は認めますが、そこまでして戦う意味はあるのですか?」
「こっちもとっとと切り上げたい所なんだが、手前みてえのが次々出てくるから、休む暇もねえんだよ…!」

 ニュクス・タカヤのあざけりとも取れる問いに、八雲はぶっきらぼうに答えながら、瞬時にソーコムピストルの銃口を向けて速射する。
 複数の弾丸を混ぜてあったのか、一発ごとに違う効果を見せる銃撃だったが、それもニュクス・タカヤにはあまり効果が出ない。

「悪あがき、とはそういう物ですね………」
「悪あがきすら出来ねえ奴はこんなとこまで来ねえよ」
「ええ、そうですね………」

 啓人も八雲の隣に並び、召喚器を己の額に当てる。

「悪いが、中ボスにもたついてる暇も無さそうでな。早めにクリアさせてもらう」
「ええ、こちらもそうしたいですね…!」

 ホロビをもたらさんとする者とそれを防がんとする者の必死の攻防が、再度繰り広げられていった。



同時刻 タルタロス402階

「ねえ、これってどういう状況?」
「ヤバい状況! ものすごく!」

 リンゴの問いにりせが裏返りそうな声で叫ぶ。

「上からも下からもすごい数のシャドゥ! 数えきれない!」
「ヨスガとカルマにも襲い掛かってるのは確認した! どころかシャドゥ同士の同士討ちまがいの事も起きている!」
「そんなの見た事も無い!」

 りせが完全に顔を青くする中、階下から戻って来たロアルドの報告に悠も顔色を変える。

「やっぱり上で呼ばれたのが原因かしらね?」
「恐らくはシャドゥの大元とも言える存在が守護として呼ばれたのでしょう。とても創世の力になるとは思えぬのですが………」

 ノゾミが上の方を見て呟くのを、彼女に憑依しているダヌーが肯定する。

「取りあえず今はこの階への侵入阻止が最大目標です! ここを落とされたら突入班が孤立しますわ!」

 イザボーが指示を出しながらも、装備を確認して自ら上階に続くターミナルへと向かおうとする。

「もう八雲さん達に任せるしかないな………」
「安心と不安が双方許容量MAXな気がするのはオレの気のせいか?」
「やっぱそっちでもあの人そうなんすね………」

 銃弾を装填しながら呟くアロウにサイゾーが思わず返すが、それを聞いた陽介が苦笑いする。

「学生達はそろそろ撤退させた方がいいんじゃないか?」
「だな。とっくの昔にX指定の状態だ」
「オレ達だってまだやれ…」

 アロウとサイゾーの指摘に陽介が反論しようとするが、どこかから轟音が響いてくる。

「何だぁ!?」
「ちっ、破られやがった!」
「来るぞ!」

 陽介が驚く中、アロウとサイゾーは防衛線が突破されたと判断し、即座に飛び出す。

「デケぇ!」
「ボスクラス! 気を付けて!」

 他の者達も一斉に臨戦態勢を取る中、全身を拘束され吊るされたような姿の大型シャドゥが上階に続くターミナルから姿を現す。

「何だこいつは!?」
「知るか! SM趣味が!」

 アロウとサイゾーが思わず叫びながら同時に速射、だが放たれた銃弾は大型シャドゥに弾かれる。

「弾かれた!」
「ちっ、物理無効か!?」
「違うよ!」
「周辺の石像が防御してるクマ!」

 敵の耐性かと思った二人に、りせとクマが同時にアナライズして大型シャドゥの特性を知らせる。

「あれか!」
「シャドゥってのは妙なのが多いな!」

 大型シャドゥの周辺にいる女神像を模したかのような石像にアロウとサイゾーは弾丸を再装填しながら構えようとするが、そこに飛来した槍が石像の一体を貫き、崩壊させる。

「すまん、一体通してしまった! 他はなんとか抑えている!」

 上階にいたはずのガストンが報告しながら、すばやく先程投じた槍を回収するが、更にもう一体の石像にアロウとサイゾーの銃撃が集中し、破壊していく。

「もう一体…」
「うおりゃああ!!」

 残った石像に皆が視線を向けた時、完二が咆哮と共にその石像を持ち上げ、そのまま手近のビルの外壁に叩きつけ、粉砕してしまう。

「無茶するな…」
「クラウドの旦那、学生連中に何教えやがったんだか…」

 アロウとサイゾーが呆れる中、不意に大型シャドゥが力を失ったように地面へと落下してきた。
 だがその笑ったような仮面の顔がこちらを見、その場にいた全員が即座に得物を大型シャドゥへと向ける。

「後がつかえている! 速攻で倒すぞ!」
「他にもこのサイズがいるのか!?」
「上と下にも出てる! 今双方交戦中!」

 槍を構え直すガストンの言葉に、アロウが思わず聞き返すが、そこでりせからの報告が重なる。

「こんなのが何体もいるのか!?」
「まだマシな方! さっきなんか神様名乗るでっかい目玉だったし!」
「そぉれ!」

 アロウとりせが思わず怒鳴り合う中、リンゴか背後から大型シャドゥに太刀型COMPを突き刺し、大型シャドゥの口から奇怪な絶叫が漏れる。

「効いてる!」
「悪ぃが、リンチさせてもらうぜ!」

 アロウとサイゾーの声と共に、周囲にいた者達が一斉に大型シャドゥに襲い掛かる。
 アロウとサイゾーの放つ銃弾が突き刺さり、陽介と完二のペルソナ攻撃が放たれ、ガストンの槍が突き刺さる。

「手早く行くわ、あいつの弱点は?」
「無いけど、炎や闇は止めた方いいみたい」
「そ」

 りせから相手の特性を聞いたミレディが素早く駆け寄り顔面を中心にサイ型COMPで瞬く間に穴だらけにしていく。

「あのお姉さん結構エグい………」
「ファントムの暗殺者だからな。エグいのは仕事柄って奴だ」

 りせが顔色を変える中、サイゾーがマガジンを交換しながら説明してやる。

「サマナーってやっぱそういう人多いんだ………」
「おいおい、言っとくけどミレディやましてやクラウドの旦那を基準にすんじゃねえぞ?」
「いや、なんか他の人も似たり寄ったりなんだけど」
「どんだけやべえのが集まってんだここ………」
「ハアアァァ!」

 りせの話に段々サイゾーが逃げたくなってくる中、ガストンの槍が大型シャドゥを貫通し、その巨体が崩壊していく。

「てこずったな………上に戻る!」
「こいつを!」

 相手の消滅を確認したガストンが即座に上階に戻ろうとするのに、完二が用意されていた回復アイテムセットを手渡す。

「ありがたい。だがこのままではいずれ押し切られるぞ………」
「取りあえず珠間瑠とのリンクは繋げてる! ヤバくなったら即撤退!」
「今がそのヤバい時だと思うんだが………」

 ガストンが焦りを口にし、りせは撤退準備は出来ている事を告げるが、サイゾーは今すぐ逃げるべきかを考える。

「今ここで持ち堪えないと、上に行った人達が挟み撃ちにされる可能性が!」
「クラウドの旦那だったらなんとか………いや双方巻き込んで自爆くらいしそうだな。まさか抜き取ったとかいう核物質持ってねえよな?」

 上下からの敵に警戒している悠が叫ぶが、サイゾーは最悪のパターンを思わず予想する。

「核物質はレッド・スプライト号で封印されているそうだ。さすがに大勢を巻き込んでの自爆はしないと思うが…」
「彼、前にある国の原発でファントムとやりあった時、メルトダウン起こそうとしたわよ。そこにいた敵味方双方のサマナーが全員逃げて未遂に終わったそうだけど」

 ロアルドが弾丸を補給して下階に戻ろうとする中、ミレディがものすごく気になる事を呟く。

「………マジで?」
「その時思ったわ、この男は下手な邪神よりもヤバい奴だって」
「逃げたのアンタかよ!」
「葛葉とヤタガラスも逃げてたわよ。本気でやりかねないって思われてんでしょうね」
「うわあ………ヤバい人だとは思ってたけど、そこまでとは………!? 下階のエンブリオンから増援要請! 向こうのボス二人が前線に立って強行突破してきてるって!」
「まずいな………来てもらえるか?」

 ミレディの語る未来の八雲にりせとサイゾーの顔色が変わる中、飛び込んできた急報にロアルドが視線を向けてくる。

「リンゴ! 下がやばそうよ!」
「分かった! 行くよ!」
「持たせられるか?」
「あの魔王相手だとちょっとな…」

 ロアルドの要請に、リンゴ達が下へと向かっていく。

「オレ達は…」
「サポートに徹して! 無理に出ないでくださいね!」
「つうかここ死守しといて! 逃げ時が近いかもだから!」

 悠が自分達も向かうべきか迷うのを、イザボーとノゾミが釘を刺して自分達は上階へと向かう。

「どっちにしても急いで! あとどれくらい持たせられるか分からないし………!」

 りせの声は最早悲鳴その物だった。



同時刻 珠間瑠警察署

「そうか、よりにもよってストレガが新たな守護を………」
『タルタロス内部は混戦状態、現状こちらも疲弊が激しく、増援派遣は困難と判断出来ます』

 克哉がアーサーからもたらされる最新状況に、表情を更に険しくする。

「こちらにも一部シャドゥの発生が確認されている。どうやら影響はタルタロス内部に収まらないようだ」
『召喚された守護・ニュクスを突入班による討伐が唯一の解決策の可能性大』
「神格クラスが二体目では、小岩達の疲弊も激しいだろう………だが任せるしかない」
『タルタロス内に新たに転移してきたサマナーが四名、こちらに加勢しているとのデータ有り。それなりの実力者、ただサマナー小岩氏を警戒している模様。時間軸的に更なる未来から来ているようです』
「……未来でもあいつは何をやっているんだ?」

 そこはかとなく知らなくても良かった情報を聞きつつ、克哉はため息を漏らす。
 そこで署長室のドアがノックされ、疲れを漂わせたたまきが入ってくる。

「周防署長、一段落ついたって事で自警団の半数以上が休息、小次郎達が代わりに警戒に当たってるわ。今レイホゥさんが外縁部に結界を構築しようとしてるけど、高尾先生が倒れて人手が足りなくて苦労してるって」
「そうか、他にも疲弊や負傷で離脱状態の者も多いからな。君も無理をしない程度に」
「正直、まともに戦える人の方はほとんど残ってないわね。私の仲魔も半分使い物にならない状態よ、多分サマナーのほとんども同じ状況ね」
「やはり増援は不可能か………今残っているので一番の勢力はヨスガとカルマの連合軍だが、ひどい混戦状態らしい」
「やっぱり、この街で籠城する準備をしておいた方いいわね。所長も最悪タルタロスにいる連中が一斉に撤退してくるかもしれん、って言ってたし」
「タルタロスが占拠されるのは回避したいが、どうなるかは不明だ。小岩達は新たに召喚された守護と交戦している」
「ダンテと八雲に世界の命運握らせるのはものすごく不安ね………」
「言わないでくれ。タルタロス内部に未来から来たサマナーが四名程出現したそうだが、小岩の事をやたら警戒しているそうだ………」
「どこでも変わらないわね、あいつ………」

 そこで署長室の電話が鳴り響く。

「はい周防………フトミミ氏が? そうか変わってくれ」

 電話に出た克哉が、それが部下を介してのフトミミからの連絡だと知る。

「何か有りましたか? 見えた? 氷川がここに!? どこから!」

 電話口からの情報に克哉が思わず立ち上がり、たまきが氷川の名に警戒度を一気に上げる。

「狭間に立つ者が集う場所? 具体的に…そうか分かりました」

 電話を切った克哉が険しい表情のまま考え込む。

「狭間に立つ者が集う場所に氷川が現れる、とフトミミ氏が予言したらしい」
「狭間に立つ者? それって…」
「特異点、だろうな。今特異点が一番集まっているのはタルタロスと……!」

 そこで克哉はデスク上の通信機をひったくるように取るとスイッチを入れる。

「こちら周防、フトミミ氏からの予言から氷川の行動を予測! 狭間に立つ者、つまり特異点となる者達が今一番集まっているのは、レッド・スプライト号の医療室だ!」



同時刻 レッド・スプライト号医療室

「もうちょっとそっち」
「こうか?」
「そうそう」
「あ、それくらいでいいです」

 医務室の一角で、麻希とレイジが用意した布で有り合わせの部屋を作り、その中に落ち着いた雰囲気の女性、他でもないレイジの妻が生まれて間もない赤子に授乳をしていた。

「悪いな、急にこんな事…」
「いいのよ、今日からこの子もウチの子なんだから。すぐにお姉ちゃんになるけど」

 そう言いながら、レイジの妻は第二子のいる腹をそっと撫でる。

「そう言えば鷹司君は?」
「避難所の方にいます」
「隣の七姉妹学園と春日山高校が臨時の避難所になったからな。藤堂達が警備してくれている」
「これ以上市街に被害が出ないようにしたいけど、私はまだドクターストップ中だし………」
「大規模な襲撃の可能性は低いだろうって南条は言ってたな。あと残っているのはほぼタルタロスの中だからな」
「すごい激戦になってるらしいわね。小岩さん達大丈夫かしら………」
「戻った。様子は?」
「注文の物持ってきました〜」

 そこへラボでデモニカの修理調整をしてもらったアレックスと、資材班のチェンがラボでつくったばかりのベビーグッズを運んでくる。

「たまにはこういうのを作るのもいいって班長張り切ってました」
「変な機能が付いていそうだが………」
「とにかく今必要なのはこの子が安心して眠れる環境だ。こちらへ」

 チェンとアレックスがゾイの指定に従ってベビーグッズを設置していく。

「何か変わったのばかりね」
「この子も狙われる可能性があるらしい。だから…」

 レイジが妻への説明の途中で突然艦内にけたたましい警報が鳴り響く。

『当艦に敵襲の可能性あり。艦内に第一級警戒態勢を発令。繰り返します、艦内に第一級警戒態勢を発令』
「何っ!?」

 警報が示す危険性に、レイジは即座に妻子を己の背に隠し、アレックスは即座にデモニカのメットを被ってバイザーを落とし、麻希はアルカナカードを手にする。

「今更ここを襲撃して何の意味があるんだ?」
「ですよね?」

 ゾアと看護師のメイビーが訝しむ中、レイジはちらりと姪の方を見る。

「今ここには、特異点となる人間が何人もいるそうだからな」
「私に、そこの静奈ちゃん、それに医療カプセルにセラちゃんに達哉君と祐子先生もいるし、多分アレックスちゃんも特異点の可能性が…」
「つまり狙われそうな人間ばかりがここにいるという事か」
「守護と呼ばれる物を召喚するだけの力を求めるとしたら、可能性は高い」

 レイジが医務室内にいる者達を順に見ていく中、麻希が指折りで数え、ゾイが納得して頷き、アレックスも賛同する。

「それって目的はこの医療室!?」
「かもな。何より園村は一度ヨスガに目つけられた事もあるからな」

 メイビーが顔色を変える中、レイジは警戒を高めていく。

「ゾイ先生! 緊急閉鎖を!」
「出来るわけがないだろう、いつ急患が来るかも分からん」
「けど!」
「艦内には戦闘員も多くいる。そう簡単にここまでは来れないはず」

 慌てふためくメイビーだったが、アレックスが冷静に指摘する。

「負傷者ばかりだが、確かに艦内には戦闘力は十分に残っている。襲撃出来る程の戦力を持つ勢力は残っていたか?」
「シジマもムスビも壊滅状態らしいが」
「じゃあ誰が?」

 ゾイの疑問にレイジも麻希も首を傾げる。

「そもそもどこからの情報?」
「あ、詳細来ました。フトミミさんの予言らしいです」

 アレックスは別種の疑問を感じる中、メイビーが端末に送られてきた詳細情報を確認する。

「予言って、貴方達そんなのに頼ってるの?」
「それが、すげえ当たるらしい」
「他にもちょっと意味が分かりにくい神託下す神様降ろしてる人もそこに…」

 アレックスが情報ソースに更なる疑問を感じる中、レイジが補足し、麻希が祐子が寝ている医療ベッドを指差す。

「聞いてた以上にヤバいのが集まってるようね」
「次々ぶっ倒れて担ぎ込まれてるのが一番やべえがな」

 アレックスが半ば呆れ、レイジも負傷者の多さに改めて感じる中、デモニカをまとって武装した人影が医療室に入ってくる。

「ここも敵襲の可能性が有る。動かせる者は動かした方がいい」
「残念ながら、そんな者は一人もいない」

 入って来た機動班と思われる人物の呼びかけをゾイは一言で切って捨てる。

「だが…」
「問題無い。私達がいる」
「それに赤ん坊までいるんだ。下手に動くのは…」

 アレックスとレイジも移動を断る中、ふとアレックスがある事に気付く。

「貴方、そのデモニカ最適化してないの?」
「いや、戦闘の連続で少し不調で…」

 相手のデモニカの関節部などに妙な歪みがある事をアレックスが指摘すると、相手はデモニカの各所の傷跡を示す。

「それは無いわ。デモニカは装着時に装着者に最適化され、余程の事が無い限りリセットされない。何より、そのデモニカ、利き手が逆よ」

 アレックスが相手が右手で銃を持っているのに、予備マガジンの類が同じく右側についている事を指摘すると、相手の動きが止まった。

「ふ、ふふ、慣れない物は使う物じゃないな」

 相手はそこでいきなり口調どころか声までもが変わり、デモニカのバイザーを上げる。

「手前!」
「シジマのリーダー、氷川…」

 その下から今一番警戒されている相手の顔が出てきた事に、全員一気に臨戦態勢を取る。

「デモニカを奪ってきたという訳………認証は誤魔化せても、利き手まではごまかせなかったみたいね」
「どうやら私もどこか焦っていたようだな」

 アレックスがホルスターに手を伸ばしながら氷川を睨みつけ、氷川は苦笑しながらデモニカのメットを脱いで投げ捨てる。

「のこのこ来たのが運の尽きだな。今に他の連中も…」
「ここで、戦おうと言うのかな?」

 レイジも拳を握り締めるが、氷川の指摘にはっとして周囲の医療カプセル、どれも負傷者で満杯の状態を改めて認識する。

「私は別に構わないがね。必要なだけの物はそろっている。異界を希望と絶望を携えて旅した陸上艦。そしてそこにいる複数の特異点。守護を呼ぶには十分に過ぎる」
「やれるモンならやってみろ………」

 不敵に笑う氷川に、レイジは拳を握り締めてファイティングポーズを取る。

「特異点の誰を媒介にするかは迷う所だが、やはりテクノシャーマンか、それとももっとも無垢な者がいいだろうな」

 続く氷川の言葉に、レイジの妻は思わず授乳途中の静菜を抱き寄せる。

「世界をこんなにしたイカれた奴とは聞いてたが、ここまでとはな」

 レイジは青筋が浮かびそうな程に憤怒をたぎらせ、氷川の顔面に拳を叩き込む事のみを考える。

「皆さんここはDangerと…!?」

 そこに警報を聞いて駆け付けたらしいエリーが、室内にいる氷川に気付き絶句する。

「Oh、すでにIntrusionされていたとは…」
「なんだって!?」
「あいつ、手配に有った!」

 さらにそこへ異常を察した機動班も駆けつけるが、場所が場所だけに銃口を向けた状態で膠着状態となる。

「この状態で守護を召喚する? そんな隙は与えないけど」

 アレックスもレイガンの銃口を氷川の頭部に定めながら、警告する。

「そうだな、なら隙を作るとしよう」

 そう言った氷川の足元で影が蠢き、アレックスは即座にトリガーを引いたが、放たれたエネルギー弾は氷川の直前で蠢いた影に阻まれる。

「Caution! 彼は強力なDark Summonerですわ!」
「艦内は召喚禁止だぞ!」

 エリーの警告に機動班の一人が思わず叫ぶ中、氷川の背後に冠を被った巨大な頭部、旧約聖書にてゲヘナの支配者とされる魔王 アルシエルが姿を現す。

「こんな所でこんなHighLankなDevilを!」
「まずい! カプセルが!」

 医療室を埋め尽くさんばかりの巨大なアルシエルに、設置したあった医療カプセルが押しつぶされそうになるが、カプセルの一つから突如として炎が噴き出し、炎がアルシエルを抑え込むように渦を巻く。

「させるか………」
「周防弟!」
「達哉君!」

 カプセルの中でまだ治療中だった達哉が、己がペルソナでアルシエルを抑え込もうとするが、アルシエルはそれに抗い、もがく。

「なるほど、中々だな。さすがは特異点が一つ、そしてコトワリと守護を持つ者………」
「モト…」

 氷川が達哉の方を見ながら呟く中、レイジはペルソナを呼び出すが、氷川が突然こちらに銃口を向けて、乱射してきたのをとっさにペルソナで防ぐ。

「きゃあ!」
「うわっ!?」

 弾かれた銃弾が跳弾する中、アレックスはとっさにレイジの妻と静菜の上にかぶさって盾となり、麻希もペルソナで他に被害が及ばないように防ぐ。

「これ以上怪我人を増やすつもりか!」
「守護さえ呼べれば、そんな不安も無くなるな」

 ゾイが思わず怒鳴るが、氷川は平然と言い放つと、銃弾の尽きた銃を無造作に投げ捨てる。

「そう言えばこんな物も有るか」

 氷川が装備用ポーチから手榴弾を取り出したのを見た全員の顔色が変わる。

「てめえ、そんな物使えば…!」
「ああ、マガツヒが溢れ出すだろうね」

 ほくそ笑みながら氷川は手榴弾のピンに指をかけるが、その手に円刃が突き刺さる。

「させるか!」
「ユッキー!」
「黛!」

 手を出しあぐねていた機動班の背後から、元エミルン学園ペルソナ使いだったゆきのが続けて円刃を投じようとする。

「なるほど。力を失ったペルソナ使いとはいえ、戦闘経験は変わらぬか」

 氷川が円刃の突き刺さった手をそのままにゆきのに視線を向けた隙に、麻希は懐からコンパクトを取り出す。

「マイちゃんアキちゃん、お願い! ノモラカタノママー!」

 麻希が切り札である自分の分身体の名を呼びながら、力を発動。
 周囲の光景が歪み、並んでいたはずの医療カプセルが消え失せ、まるで童話の中のような風変りな森へと変化していく。

「異界化か。さすがセベクスキャンダルの特異点、まだそんな力を残していたか」
「園村!」
「ご、ゴメン。これが手一杯………」

 レイジが思わず振り返る中、麻希がその場に崩れ落ちる。

「そのようだな。肝心なのが隠せていない」

 氷川が周囲に隔離されずに残っていた医療カプセルの中にセラや祐子の姿がある事に、口角を歪める。

「十分だ、これ以上妙なモン呼ばれてたまるか」

 レイジが崩れ落ちている麻希と背後にいる妻と姪をかばうように氷川へと立ち向かう。

「その通りだ。もうこの街に被害は出させない………」

 達哉がペルソナでアルシエルを何とか抑え込みながら呟くが、氷川はそれを気にせず片手を前に突き出す。

「ふむ、さすがにそろそろ手ごまも限界なのだが」

 そこで氷川の手首にはまった数珠の球が輝き、そこから何かが出てこようとする。

「そいつがCOMPか!」

 それに気付いたゆきのが円刃を狙って投じるが、何かに阻まれ弾かれる。

「そう同じ手は食わんよ」

 もう片方の手に突き刺さっていた円刃を氷川が抜いて投げ捨てる中、氷川が召喚した悪魔、蛇の絡みついた獅子頭と翼を持つ魔神 ミトラが姿を現す。

「くっ…」

 明らかに強そうなミトラの姿に、レイジは圧倒的不利を感じずにはいられなかったが、それでも拳を握り締める。

「アモン!」
「心得た」

 アレックスも仲魔のアモンを召喚し、ミトラとアモンが睨み合う。

「ほう、中々の悪魔を連れているな。そうか神取が見つけた特異点の少女とは君か」
『アレックス、気を付けろ。この男底が知れない』
「分かってる」

 アレックスを興味深そうに氷川が観察する中、AIのジョージの警告に頷きつつもアレックスはレイジと共に背後にいる二人をかばおうとする。

「さて、戦闘は彼らに任せて私はやるべき事をやるとするか」
「てめえ!」

 レイジが氷川に殴りかかろうとするが、即座にミトラがその前に立ちふさがる。

「させぬ」
「どきやがれ!」
「周防!」
「ダメだ、こいつを抑えるので精いっぱい…」
「大丈夫………今あの子達が彼を連れてきてくれる…」

 他の者達も焦る中、崩れ落ちたままの麻希が呟き、直後に森の中から少女二人に連れられ、一人の男が現れる。

「間に合った………大丈夫かみんな」
「藤堂!」
「尚也!」
「尚也さん…!」

 マイとアキに連れられ、元エミルン学園ペルソナ使いリーダー、尚也が氷川と対峙する。

「ほう、神取が最も警戒していた男、セべクスキャンダルを終結させたペルソナ使い、藤堂 尚也か」
「これ以上、オレの仲間は傷付けさせない。行くぞ…!」

 氷川を睨みつけながら、尚也はアルカナカードをかざした………



 終焉へと向かう中、必死に抗う糸達。
 その果てに在る物は、果たして………





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