スーパーロボッコ大戦
EP11



「な、なんだあれは!?」
「攻龍!? まさか!」

 漆黒のシルエットを持つ、攻龍そっくりの謎の飛行物体に攻龍ブリッジ内にも混乱が広がっていく。

「船籍登録パターン感知、照合は特務艦101号、《牙龍(がりゅう)》です!」
「牙龍! 牙龍だと! 有り得ん!」

 七恵からの報告に、副長が怒声にも近い声を上げる。

「牙龍は10年前のワーム大戦に沈んでいる。副長の目の前でな」
「し、しかしパターン信号は間違いなく……」

 艦長からの指摘も入るが、七恵は再度謎の船から感知された船籍パターンを照合、同じ結果が表示される。

「おかしいですよ! あのシルエットはどう見ても攻龍その物です!」
「ああ、攻龍はソニックダイバー運営用に改造されている。10年も前に沈んだ船が、なんで攻龍そっくりで飛んでやがるんだ?」

 タクミの指摘に、冬后も同じ疑問を持つ。

『あんなの、前にも見たよ!』
『おい、アレって!』
『うん、赤城と同じ………』
『冬后大佐! あの船は間違いなくネウロイ化しています! 極めて危険です!』
「ネウロイ化、とは?」

 ウイッチ達が愕然としながらの報告に、艦長が僅かに首を傾げる。

『私達が戦っていたネウロイは、金属を吸収、同化する特性があるんです! 前に一度、そのネウロイのコアを使用した試作兵器が暴走、空母赤城を取り込んであれと同じような状態に!』
「……つまり、あれは牙龍を取り込み、攻龍を模しているという事か」
『恐らくは』

 艦長の推察を、ミーナは肯定。
 そこでブリッジに鈍い音が響き渡り、全員が何事かとそちらを見ると、コンソールを叩き付けて激昂している副長に気付く。

「ふざけおって………!」

 普段から怒りやすい副長だったが、ここまで激昂しているのを初めて見る者達が思わず息を飲む。

「……牙龍の艦長は、副長の友人だったそうだ」
「……なるほど」
『冬后大佐! 指示を!』

 艦長の呟きに、冬后は一言だけ返して瑛花に指示を出そうとした時だった。
 宙に浮かぶ艦影の主砲の片方が旋回し、攻龍へと狙いを定め、その砲口に赤い光が点る。

『撃ってくるゾ!』
「緊急回頭!」

 エイラの声と同時に、艦長が叫ぶ。
 とっさに攻龍は面舵を切り、そこへ放たれた赤いビームが船体をかすめそうな至近距離で通り過ぎ、曳航していた脱出艦の尾翼の一部を蒸発させながら海面へと命中、凄まじい水柱が巻き起こる。

「なんて威力だ………」

 桁違いの相手の火力に、爆発の余波で翻弄されるブリッジ内で冬后は呆然と呟くしかなかった。



「うわあ!」
「ひぃい!」

 たった一発の発射で、攻龍上空に待機していた者達よりも高く上がった水柱が、雨となって皆に降り注ぐ。

「こんな威力のビーム、見た事ナイゾ!」
「ていうか攻龍そっくりなのになんでビーム!?」
「いや〜ん、髪が………」
「こんなの食らったら、ナノスキンなんて一発で消し飛ぶわよ!」
「ライディングバイパーのフィールドでも持たない!」
「ブレータ!」
『外装が一部損傷、被害は軽微』
「じゃあお返し! イミテイト風情が!」

 フェインティアが先陣を切って攻撃しようとするが、そこへもう片方の主砲が上空にいる者達へと狙いを定める。

『全員回避!』
「散開!」

 冬后とミーナの指示で全員が一斉に散るが、ちらりと狙いを定めようとした主砲を見たエイラの顔色が変わる。

「広がって撃ってクル!?」
「拡散掃射! もっと離れてください!!」

 可憐が叫ぶが、次の瞬間赤いビームが扇状に拡散、範囲内で逃げ切れてない者達を襲う。

「うりゃ〜!」

 気合だかどうか分からない声を上げながら、ルッキーニが多重シールドを展開しつつ、拡散しきる前のビームに突撃、そのほとんどを受け止めるが、ビームの消失と同時にシールドも消失し、小さな体が吹き飛ばされる。

「ルッキーニさん!」
「ルッキーニちゃん!」

 ミーナが悲鳴を上げるが、旋回していくルッキーニを近寄った音羽が零神でなんとか受け止める。

「大丈夫!?」
「うじゅ〜………目が回る〜………」
「怪我は無いみたいです! 目を回してますが………」
「でも助かったわ。Aモードじゃかわしきれなかった………」

 可憐が風神のセンサーでルッキーニのライフデータをチェックし、瑛花は拡散域の広さに思わず唾を飲み込む。

「ルッキーニのシールドで互角なら、私らのシールドなんて役に立たないゾ!」
「芳佳ちゃんがいたら……」

 今までパワー負けした事が無いルッキーニの固有魔法で相殺がやっとの威力に、エイラとサーニャの顔色も変わる。

「今度はこっちから行くわよ〜!」
「待って亜乃亜!」
「その威力じゃ、連射は無理ね!」
「待てマイスター!」

 次弾が放たれる前に亜乃亜とフェインティアが制止も聞かず、左右から回りこもうとする。
 だが、今度は艦首の両脇が開いたかと思うと、そこから妙な突起物が四つ付いた丸い塊が左右に複数放出される。

「テトラPOD!」
「爆雷!」

 それが何かを知っていた瑛花と悟ったミーナが同時に叫ぶ。

「え…」
「しま…」

 速度を出していたため、放出された物体に二人は突っ込みそうになるが、激突する前に物体は炸裂、至近で爆風が吹き抜けるが、なんとかダメージを免れた二人は慌てて距離を取る。

「間に合った………」
「危険は回避した、マイスター」

 制止は間に合わなかったが、なんとか迎撃に成功したエリューとムルメルティアが、胸を撫で下ろす。

「何から何まで攻龍パクるんじゃんないわよ!」
「何から何まで?」

 エリーゼが怒鳴りながらバッハシュテルツェのレーザー砲を向けるが、その一言に可憐の脳裏に攻龍の武装スペックが思い浮かぶ。

「正面から回避してください!」

 可憐が叫んだ時、艦首下部から何かが射出された。

「魚雷!?」
「空飛んだらミサイルよ!」

 ミーナと瑛花が叫びながら、同時に迫ってくる飛行魚雷に銃口を向け、それぞれが放った銃弾が何とか撃墜する。

「まるでハリネズミね………」
「下手に近付かないで! CIWSみたいな物まで見えるわ!」
「離れたら主砲来るよ…」

 ストラーフの語尾は、再度主砲から放たれたビームの音にかき消された。

「冬后大佐! 火力が違い過ぎます! 指示を!」

 瑛花の声は、半ば絶叫に近かった。



「なんて奴だ………」
「武装は攻龍その物ですが、性能も破壊力も段違いです!」
「どこまでもふざけおって………」
「兵装は全部ワームの分裂体に近い物で構成されてますが、こんな物は前大戦のデータにもありません」
「あれが狙っているのは、攻龍じゃない。音羽達だ」

 七恵と周王の報告が響く中、冬后と副長が相手の驚異的な戦闘力に奥歯を噛み締める中、アイーシャが小さく呟く。

「ソニックダイバー相手に、フリゲート艦用意したって言うんですか!?」
「違う、音羽達だけじゃない。サーニャ達も亜乃亜達も、フェインティアも狙っている」
「艦長! 反撃を!」
「主砲発射用意、射線確保」
「皆さん下がって下さい! 攻龍で…」
『ダメです! 幾ら攻龍でも、通常艦ではあのビームには耐えられません! 安全域まで撤退を!』

 艦長の命令を、ミーナが大慌てで否定する。
 直後、向こうから発射された主砲が攻龍の間近の海面に直撃、再度攻龍は爆風と荒波で翻弄される。

「でもそれなら皆さんも!」
『対ネウロイ戦では、通常兵器はウイッチ到着までの時間稼ぎにしかなりません!』
「それは君達の世界の話だろう! この攻龍は…」
「攻龍を安全圏まで待避、ただし主砲はいつでも撃てるように」

 ミーナの指摘に副長が反論しようとするが、艦長は即座にその意見を汲み取り、一時待避を指示する。

「艦長!」
「我々はワームとの戦い方は知っているが、ネウロイとの闘い方は知らない。なら、経験者の意見は重要だ」
「しかし!」
「今ここで攻龍が沈められる訳にはいかん」
「……分かりました」
「いいか、全員距離を取れ! 動き続けて狙いを定まらせるな!」
『了解! しかし、攻撃しても硬い上にすぐに再生してます!』
「くっ………」

 冬后の指示で全員が的確に散開するが、攻撃が効いていない事に誰もが焦りを感じ始める。

『バラバラに戦ってはダメ! 赤城相手の時は、501小隊ウイッチ11人総がかりでようやく倒せたのよ!』
「11人?」

 ミーナの声に、艦長が僅かに反応する。

『なら、楽勝じゃん! 今こっちにはスカイガールズ4人にストライクウイッチーズ4人、Gの天使が3人、それにトリガーハートで12人もいる!』
『ちょっと、ボクらもいるよ!』
『私とストラーフも総合戦力とすれば14名、空母相手に11名の兵力だったなら、十分勝算はある』

 音羽の根拠のあるような無いような断言に、武装神姫達が訂正を入れる。

「いやまあ、確かに数の上だけならそうですけど………」
「そう簡単に数だけの話ではないぞ!」

 タクミが困惑する中、副長が怒号を上げる。
 だが、そこで艦長が小さく笑みを浮かべた事に気付いた者はいなかった。

「ヴィルケ中佐、あれと類似タイプとの戦闘経験は参考になりそうか?」
『武装その他がこちらとは大分違いますが、多少は』
「現時刻を持って、当該目標を攻龍・イミテイトと呼称、現場での総指揮をヴィルケ中佐に一任。攻龍は全能力を持って彼女達を援護、攻龍・イミテイトを殲滅する」
「艦長!?」
「今あれを倒さねば、今度はこちらが海底に沈む事になる」
「……そうですね」

 とんでもない英断に副長が声を上げるが、艦長の毅然とした態度に、冬后もその意味する事を悟る。

「皆さん、今からヴィルケ中佐に現場指揮権を委譲、攻龍は全力でサポートします!」
『……501小隊ヴィルケ、了解します』
『ソニックダイバー隊一条、了解!』
『Gエリュー・トロン、了解!』
『仕方ないわね。チルダ・フェインティア、了解!』

 タクミの通信にそれぞれのリーダーが答えた所で、計14人の少女達が一斉に攻龍・イミテイトに向き直る。

『行くわよ皆!』
『オ〜!!』



「瑛花さん達は右翼、エリューさん達は左翼! 私達は上方から攻撃、目標の攻撃能力及び再生能力を確認! フェインティアさんはその間に背後に回って!」
「了解! 行くわよ!」
「私が先頭、亜乃亜の後にマドカ!」
「下から回るわ!」

 ミーナの指示で全員が分かれて攻龍。イミティトの四方を取り囲むように動きつつ、一斉に攻撃を開始する。

「兵装を狙って! 少しでも攻撃力を削がないと!」
「く〜! 近寄ればMVソードで一気にいけるのに!」
「ダメです! CIWSのバルカンファランクスがずっとこちらをマークしてます! これ以上近付けば蜂の巣にされます!」
「この〜!」

 ソニックダイバーが遠距離から銃撃を集中させるが、命中した端から再生していく事に皆が焦りを感じる。
 しびれを切らしたエリーゼがMVランスを投じるが、穂先が深くめり込んだかと思うと、柄が黒く変じながらブロック模様のような物が浮かび、そのまま飲み込まれていく。

「うえ!」
「取り込まれた!」
「不用意な近接攻撃はエサを与えるだけよ!」
「それを先に言って!」
「撃ち続けなさい!」

 ミーナの声にエリーゼが文句を言うが、瑛花が一括して火力を集中させていく。


「この、この!」
「なんて再生速度! サンプル取っていい?」
「こっちがサンプルにされるわ! 主砲にドラマチックバーストを集中させ…」

 ライディングバイパーの火力を持ってしても徐々に再生が追いついていく事に、エリューは一気に相手の火力を削ぐべく、プラトニックパワーを高めていく。
 だがそこでテトラPODが射出され、そちらの迎撃に専念するためにドラマチックバーストの発射を中断せざるをえなくなる。

「火力が違いすぎる………どうしたら………」
「なら、スピードで!」
「亜乃亜それでさっきアレにぶつかりそうになったよね?」
「う……」
「きっとどこかに弱点があるはずよ、それが見つかるまで!」
『そうね、それまで頑張ってね』
「え……」

 突然響いてきた通信に、エリューだけでなく亜乃亜とマドカの顔も一瞬戸惑うが、すぐにそれがほころぶ。

『今そっちに向かってるわ』
『7分以内に到達する。それまで生きてて』
「トゥイー先輩! ティタ!」
「来てくれたんですね!」
『もうちょっと早く来るはずだったんだけど、色々手間取ってね』
『ティタ2世、全速力』

 それが同じユニットの仲間からの通信だと悟った天使達が、その顔に一気に喜色を浮かべる。

「今私達のユニットのリーダーと新人がこちらに向かってきてる!」
「あの二人が来てくれたら、一気に戦力増加だよ!」
「じゃあそれまで、負けないわよ〜!」


「ブリッジを狙って!」
「それ〜!」

 ミーナの指示で、ウイッチ達は一斉にブリッジ周辺に向けて銃弾を叩き込む。

「でも効くノカ!?」
「これが攻龍を模しているのなら、ブリッジ周辺に電子探知機器が集束してるはずよ!」
「多分あれ」

 XM312重機関銃から12.7mm弾を連射してるエイラが叫ぶ中、サーニャがXM307オートグレネードランチャーの25mm高速グレネードを連射、レーダーと思わしき物体を破壊する。

「やったカ!?」
「ダメ、再生してる!」
「任せて!」

 即座に再生を始めていくレーダーに向かって、ストラーフは小型の剣フルストゥ・クレインを次々と投射していく。

「まだまだぁ、どんどん行くよぉ!」

 計八本の小剣を投じたストラーフは、手に湾曲した剣アングルブレードを持って突っ込んでいく。

「これでどうだ!」

 ストラーフが小剣で囲まれた部位の中央に剣を突き立てると、その周辺が無数の光の小片となって砕け散っていく。

「これは!?」
「周辺のナノマシンを崩壊させたよ! これでここは再生できない!」
「そんな便利なのあるなら、最初から使えヨ!」
「エイラ!」

 ウイッチ達がストラーフの意外な能力に驚くが、そこでバルカンファンラクスがこちらに狙いを定めた事に気付いて慌てて回避する。

「え〜い!」
「次はあの対空機銃をどうにかしないと!」
「お前、またさっきのアレやってきてクレ!」
「あのテトラPODどうにかしてもらえないと、ボクが食らったら消し飛んじゃう!」
「その前に、主砲をどうにかしないと………」

 応戦しながらも、ウイッチ達は次の手を必死になって考えていた。



「マイスター、後方から3、いや4発!」
「分かってるわよ! 迎撃できる!?」
「作戦認識、これより交戦状態に入る」

 攻龍・イミティトの下部を潜ろうとするフェインティアに向かって、テトラPODと飛行魚雷が次々と飛来してくる。

「落ちろっ!」

 後方から高速で迫る飛行魚雷に向かって、フィンティアの隣にいたムルメルティアは振り返るとメルテュラーM7速射拳銃を連射、弾頭部分を撃ち抜いて撃墜していく。

「マイスター、こちらの処理限界だ。一発抜ける」
「そうね、ガルクアード!」

 ムルメルティアの弾幕を潜り抜けてきた飛行魚雷に向かってフェインティアのアンカーが伸び、それをキャプチャーすると、旋回させて周囲のテトラPODを一掃、続けて船腹へと叩きつけ、爆発を起こす。

「これでどう!」
「ダメだ、すでに再生が始まっている」
「なんて再生速度よ!」
「本来なら水上船舶は喫水(きっすい)線下は装甲が薄いはずだが、これは逆のようだ」
「ちっ、早く後ろに回るわよ!」

 フェインティアとムルメルティアはそのまま真下を潜り抜け、攻龍・イミティトの後部に回りこむ。

「じゃあ、一気に攻撃…」
「! 後部ランチャー発動確認! 待避を!」

 一撃をお見舞いしようとしたフェインティアだったが、ムルメルティアの警告にとっさに強引にバック。
 そこへ、後部格納庫上にあるランチャーから一斉に何かが発射される。

「こちらに向かってこない?」
「ガス噴出確認! FAEB(※燃料気化爆弾)だ!」

 発射された弾頭から気化爆薬が噴出されているのにムルメルティアが気付いた瞬間、弾頭が着火。
 周辺をまとめて焼き払う凄まじい爆風が、攻龍・イミテイトを赤く照らし出した。

「うわあ!」
「何々!?」
「フェインティアさん!」
『フェインティアのシグナル確認、損害軽微のようです』

 いきなりの事に皆が戸惑う中、ブレータからの報告に皆が一様に胸を撫で下ろす。
 爆風が掻き消え、その向こうにフェインティアが姿を現す。

「あちちち、まさかあんな物まで装備してるなんて………あんたは無事?」
「問題ない、マイスター。我々でよかった。生身ならただではすまなかっただろう」
「こっちも一部は有機素材よ、ちょっと焦げたじゃない!」

 わずかに焦げた髪を見ながら、フェインティアが怒鳴りつける。

『一度そこから待避だ! 後ろが一番やばい!』
「言われなくても! たく、なんて重武装よ!」

 冬后の指示にいやいや従いながら、フェインティアとムルメルティアが上空へと逃れる。

「全員上空へ! 作戦を立て直します!」

 それに続くように、ミーナの指示で全員が攻龍・イミティトの上空へと集まっていく。

「データ収集及び解析、終了してます!」
「弱点どっか無い!?」
「ワームのセル結合に類似した組成ですが、かなり厚いです。これではどれだけ攻撃しても再生が追いつきます」

 可憐の解析結果に、思わず亜乃亜が飛びつくが結果は絶望的な物だった。

「そちらで前にあれみたいなのと戦った時は、どうやったの?」
「皆でドカ〜ンってやって、私とシャーリーでズバ〜ってやって、そこから芳佳とリーネとペリーヌが中に入って、コアドカ〜ンってしたの」
「………つまり、内部に入るしかないわけか」

 瑛花の問いにルッキーニが答えるが、その意味をなんとか理解したエリューがむしろ顔を曇らせる。

「あれのどこからどうやって入るってのよ!」
「どてっぱらにぶち込んでやったけど、すぐに再生したわ」
「でも上からだと対空機銃の的になるゾ」
「後部格納庫ハッチ、そこが一番結合が薄そうです」
「後ろに回ったら黒焦げになっちゃう!」
「それなら問題ない。至近で防護フィールドが間に合わなければ、遺体も残らず蒸発する可能性が高い」
「もっと悪いわよ!」
「オイ、こっち向かってくるゾ!」

 明確な作戦を立てる暇も無く、攻龍・イミテイトがその巨体を回頭させ、上空にいる少女達へと向かってきていた。

「撃ってくる! 下へ逃げロ!」
「船腹なら主砲は当たらない!」

 エイラが叫びながらサーニャを連れて逃げ出し、瑛花もそれに続いて他の者達も一斉に砲撃範囲から我先に逃げ出す。

(このままでは打つ手が無いわ! 何か、何か!)

 最後尾となったミーナのすぐ後ろを拡散発射された真紅の閃光が宙を貫く。
 ウイッチとしての経験上でもない強力すぎる攻撃と、死角の無い武装の数々に、ミーナの思考は半ば空回りしながらも、必死になって対抗策を講じようと回転する。

「この位置だとテトラPODと魚雷が来ます!」
「散開!」
「もう来た!」

 両脇から降ってくる爆雷と弧を描きながら迫る飛行魚雷に、それぞれが回避しながらも迎撃していく。

「可憐さん! 攻龍と比べて、武装の残弾数は!」
「それが、もう攻龍の搭載限界を超えてます!」
「当たり前よ、内部からエネルギー反応、生成してるわね………」
「プラントまで自前!?」
「う〜ん、やるな〜」

 フェインティアの指摘に、瑛花が仰天し、マドカが妙な感想を漏らす。

「じゃあ弾切れ無し!?」
「イカサマもいいとこじゃない!」
「じゃあエネルギーは! ワームでもある限度を越えれば、セルの再生速度が落ちるはず!」

 音羽とエリーゼも仰天する中、瑛花が別の可能性を指摘する。
 だが、データ解析を進める可憐からは更に悪いデータが告げられた。

「これまでのワームと桁違いのエネルギーです! 今までの攻撃で再生速度は全く落ちてません!」
「やはり、どうにかして内部のコアを破壊するしかないわね………」
「どうやって!」
「近寄る事も出来ない……ドラマチックバーストを撃つ隙も………」
「また来るわよ!」

 それぞれのリーダーが攻めあぐねる中、再度攻龍・イミティトがこちらへと艦首を向けてくる。

「避けてマスター!」
「このままでは追い込まれる!」

 二体の武装神姫が叫ぶ中、再度皆が砲撃範囲から散開していく。

(このままではいずれ、主砲に捕らわれる! いつまで逃げ続けられ………逃げ続ける?)

 ミーナの脳裏に、相手の戦闘パターンに奇妙な違和感が浮かぶ。

(幾ら宙を飛んでいるとはいえ、戦闘艦が小型機を追い回すのは有り得ない。つまり、追わなければならない理由が…………!)

 再度発射された閃光をかわしたミーナが、自分の仮説にある種の確信を得た。

「可憐さん! 向こうの主砲の攻撃範囲及び発射所要時間を割り出して! 他の皆は相対速度を目標に合わせて、船腹に向かって一斉攻撃!」
「は、はい!」
「エイラさんとサーニャさんは爆雷と飛行魚雷の対処!」
『了解!』
「もうじき応援が来る! それまで持ち応えれば!」
「エリュー、マドカ、ドラマチックバースト発動までの時間稼ぎお願い!」
「OK!」

 全員が一斉に船腹へと向けて弾幕を叩きつける。

「余計な物が来ないなら! MVソード!」
「MVランス!」

 音羽の零神とエリーゼのバッハシュテルツェが先陣を切って突っ込み、投じられる爆雷が撃破される爆風を縫って切っ先を相手の船体に突き刺し、そのまま一気に斬り割いていく。

「爆雷が増えてきたゾ!」
「手伝って!」
「分かってる!」
「亜乃亜急いで!」

 次々と投じられるテトラPODに、エイラとサーニャだけで処理しきれず、瑛花の雷神とエリューのロードブリティッシュも迎撃に食われる。

「ゲージ充填! ドラマチック…バーストー!」

 亜乃亜のビックバイパーから放たれた無数のレーザーが、二機のソニックバイパーが付けた斬撃を更に広げるように穿っていく。

「これはオマケよ!」

 ついでにとばかりにフェインティアがテトラPODと魚雷をまとめてアンカーで叩きつけ、更なるダメージを叩き込んだ。

「これなら!」
「いや、再生している!」

 ありったけの総攻撃の前に、攻龍・イミティトの船腹が大きくえぐれるが、即座にそれは無数のブロックが構築され、再生していく。

「今までの砲撃から砲撃範囲及び発射所要時間、出ました!」
「死角があるわね? 恐らく真上」
「確かにその通りです」

 ミーナの推察に、可憐が計算結果を転送表示さていく。
 それを見た瑛花も、相手の動きの意図を悟った。

「そうか、それでさっきからこっちを追い回してるのは!」
「主砲旋回範囲及び拡散範囲から計算して、攻撃範囲は水平範囲220°、垂直範囲82°!」
「後ろに回って、直上から突撃すれば、主砲は当たらない!」
「あのさ、後ろに回るとあのランチャーがあるわよ?」
「背後を取るのは不可能に近い作戦だ」

 活路を見出したかと思った矢先に、フェインティアとムルメルティアの指摘に皆の顔が曇る。

『ナノスキンの限界時間、半分を切ってます! 急いでください!』
「迷ってる暇は無いようね………」
「装備を整えて再出撃、なんて暇はもらえないでしょうし」

 タクミの焦った声に、瑛花とミーナは決断した。

「機銃と爆雷はこちらでなんとかします! エリューさん達はランチャーの発射を阻止、フェインティアさんは魚雷を!」
「その間に、私達が主砲を叩くわよ!」

 瞬時に部隊を分け、それぞれが己の役割を果たすべく機体を巡らせていく。

「エイラさんとサーニャさんは爆雷を! 私とルッキーニさんで機銃を叩き続けるわ!」
「サーニャは右、私は左! そちらに四つ続けて出る!」
「分かった」
「それ〜、十発十中!」
「再生し続ける! 撃ち続けて!」

 次々と投じられるテトラPODが爆破され、その爆炎の間から放たれてくる銃弾同士が交差し、片方はシールドに当たり続け、もう片方は再生し続ける相手を破壊し続ける。

「てぇい! つぇい! えい!」

 飛来する飛行魚雷をフェインティアはアンカーでキャプチャーすると、旋回させて他の飛行魚雷と誘爆、次々と爆散させていく。

「いけぇ!」
「レーザー、ミサイル、全弾斉射!」
「再生してる間は、向こうも撃てないはず! でも再生が早すぎるよ!」
「音羽ちゃん達が成功するまで、絶対撃たせない!」

 三機のライディングバイパーの一斉攻撃が後部ランチャーを破壊し続けるが、破壊されたランチャーが動画を高速巻き戻しするような勢いで再生していく。

「ダメ! 待って!」
「再生に、追いつかれる!」
「ああ、間に合わない……!」

 マドカが絶望的な悲鳴を上げた瞬間、ランチャーの多目的弾頭が三人の天使へと狙いを付ける。

「本当の私を見せて差し上げます!…全て、砕け散りなさい!!」
「我、プランクの刹那よりその力を形作らん…みんなひかりにかえれー!!」

 ランチャーが発射された瞬間に、巨大な爪の生えた複数の触手と、すさまじいレーザー爆撃が発射された弾頭ごと、ランチャーを吹き飛ばした。

「今のは!」
「リーダー!」
「ティタだ!」

 亜乃亜達の物を遥かに上回る破壊力を誇るドラマチックバーストに、三人が歓喜の顔で振り返る。
 そこには、対艦強襲型RV、セレニティバイパーを駆るメガネをかけたエキゾチックな少女、亜乃亜達の学校の先輩で亜乃亜達の天使ユニットのリーダー、ジオール・トゥイーと、バクテリアン兵器と似た形状の奇妙なRV、ビッグコアエグザミナを駆る左目をアイパッチで覆った無表情な少女、ティタ・ニュームの姿が有った。

「危ない所だったわね。三人ともよく頑張ったわ」
「さっきからティタも参加します」
「攻龍、聞こえますか? こちら秘密時空組織「G」グラディウス学園ユニットリーダー、力天使ジオール・トゥイー及び新人天使、ティタ・ニューム、今から敵殲滅に協力します」
『こちら攻龍、お二人のシグナルを登録しました!』
「なんか再生してる」
「あら。それじゃあみんな、行くわよ!」
『お〜!』

 五期のRVから放たれる一斉攻撃が、ランチャーへと向かって解き放たれた。


「他のみんなが相手をしてる間に、主砲を叩くわよ!」
「転送した攻撃有効範囲に気をつけてください!」
「りょ〜かい! 行くよゼロ!」
「突っ込むわよバッハ!」

 音羽の零神とエリーゼのバッハシュテルツェがそれぞれ近接武器を構える。

「スピードが命よ、失敗したら次は無いわ!」
「ソニックダイバーが、ゼロが速さで負けるなんてありえない! いっけええぇぇ!」
「バッハ、最大出力!」

 零神とバッハシュテルツェが更に加速し、攻龍・イミテイトの主砲に向かっていく。
 それに気付いたのか、主砲が限界ギリギリまで角度を上げ、更に船体を傾けて四機のソニックダイバーを狙う。
 だが次の瞬間、高速で通り過ぎた二機のソニックダイバーがすれ違い様に主砲の根元を両断する。

「発射!」「はい!」

 直後に、雷神の大型ビーム砲と小型ミサイルが直撃、主砲を跡形も無く吹き飛ばす。

「やった!」
「まだよ!」
「行くよ!」
「吶喊する!」

 風神と雷神の背後にいた二体の武装神姫が、攻撃の余波から再生を始める主砲へと向けて突撃していく。

「ちゃんとやってよ!」
「誰に言っている! お前こそぬかるな!」

 高速で突撃しながら、ストラーフは大型腕部パーツGA4チーグルアームパーツを展開、ムルメルティアはインターメラル 超硬タングステン鋼芯をセットする。

「地獄の門をノックするよ!」
「こいつはわたしのお気に入りでな とくと味わうがいい!」

 ストラーフが再生しようとする主砲を異常なまでの破壊力で破壊、トドメにアングルブレードを突き刺し、ムルメルティアは主砲機関部の中心にタングステン鋼芯を叩き込み、同時に双方に仕込まれていたナノマシン崩壊システムが発動、主砲の再生を完全に封じた。

「完勝! 完璧! 完全無敵!」
「戦闘に勝利した。中佐の読み通りだったな」

 二体の武装神姫が勝ちどきを上げながら待避。

「艦長!」
『全員待避して下さい!』
『主砲、連続発射!』

 攻龍・イミテイトの主砲を完全に封じた事を知った攻龍が、前進しながらこちらの主砲を連続発射していく。
 連続の砲撃が攻龍・イミテイトの装甲を削っていくが、それでもなお再生は続いていく。

「しぶとい……」
「やはりコアを破壊しなければ!」
『皆聞こえる! 今イミテイトの再生と組成パターンを解析完了したわ!』

 攻龍の連続砲撃に持ちこたえる攻龍・イミテイトに瑛花とミーナが内部突撃の手段を考えた時、周王からの通信が入る。

『ワームのセル程ではないけど、ホメロス効果で崩壊はムリでも、動きは封じられるはず!』
『総員、ソニックダイバーを援護! クアドラロックで動きを封じ、内部コアを…』
「目標に動きが!?」

 冬后の指示が飛ぶ最中、攻龍・イミテイトの異常に可憐が真っ先に気付く。

「あれ、なんか出てきたよ?」
「カタパルト!?」
「亜乃亜達が出撃する時と同じだね?」

 攻龍の甲板に、紛れも無いカタパルトが展開していく事に全員がある予感を感じる。

『クアドラフォーメション、急げ!』
「クアドラフォーメーショ…」
「来たわ!」

 四機のソニックダイバーがフォーメションに入るより早く、カタパルトから何かが発射される。

「なんだアレ!?」
「ネウロイ!」

 エイラとサーニャが思わず叫んだ時、一番最初に発射された物が何かを振りかざしたのを見た音羽が思わずMVソードを眼前に構え、その一撃を受け止める。

「え、ええ!? ゼロと私!?」

 それは、漆黒のシルエットをしていたが、姿形はMVソードを構えた零神その物だった。
 そのコクピットには明らかに音羽にそっくりの姿をし、だが顔だけは何も無いマネキンのような者が乗っている。

「いけえぇ!」

 先手必勝とばかりに亜乃亜が撃ったレーザーをかすめ、まったく同じレーザーがすれ違っていく。

「ってええ!? 何よあれ!」

 そこでそのレーザーを撃った相手が漆黒のシルエットを持つビックバイパーで、それに乗っているのが同じくマネキンのような何も無い顔の亜乃亜そっくりの何かだった。

「まさか、これは………」
「うきゃ〜〜!!」

 響いてきたルッキーニの奇妙な声に、ミーナがそちらを見つめる。
 そこには、同じく顔に何も無い、しかし姿形だけはストライカーユニットを履いたルッキーニそっくりの者が浮かんでいた。

「コピーネウロイ………ソニックダイバーやライディングバイパーまで?」
『なんなんですかアレ!?』
『そこまでパチ物そろえてんのか! いや、それ以前にもうナノスキンの残時間が五分きってやがるぞ!』

 迷ったのは僅かな間、悲鳴染みた攻龍からの通信にミーナは即座に決断する。

「フォーメーションの準備を! こいつらは私達でなんとかします!」
「なんとかって言われても……!」

 完全につばぜり合いの状態で動きが取れなくなった零神だったが、何かが横合いからコピー零神のMVソードを弾き飛ばす。

「こいつはボクに任せて!」
「近接戦闘武装ならある!」

 MVソードを殴り飛ばしたストラーフと、主砲と鋼芯を展開したムルメルティアが両者の間に割って入る。

「こっちもいるわよ!」

 更にフェインティアのレーザーがコピー零神をかすめ、相手は目標をそれらに変更するように向きを変える。

「この偽物〜!」
「エリュー、マドカ、亜乃亜を手伝って。こっちは大きい方を相手をするわ」
『了解!』

 二機のビックバイパーが壮絶なドッグファイトを始める中、更に二機のライディングバイパーがそれに加わる。

「サーニャさんとエイラさんは瑛花さん達のサポート! こちらは私とルッキーニさんで相手します!」
「ルッキーニは一人で十分だよ!」

 銃撃した相手にルッキーニがシールドを展開しながら突撃し、ミーナも指示を出しながらそれに続く。

「今の内! クアドラフォーメーション!」
「「クアドラ・ロック」座標固定位置、送りますっ!!」

 皆が奮戦している最中、上空へと舞い上がった。

「行くよゼロ!」

 四機が急降下しながら攻龍・イミテイトを取り囲み、零神のMVソードが甲板に突き立てられる。

「座標、固定OKっ!!」
「4!」「3!」「2!」「1!」
『クアドラロック!』






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