スーパーロボッコ大戦
EP2


 芳佳の手から発せられる暖かい光が、舞の体を包み、各所の傷が見る間に消えていく。

「これで大丈夫です」
「アンタ、便利な技持ってるのね〜」
「芳佳ちゃんすご〜い♪」
「負傷者はこれで全部、芳佳ちゃんの治癒魔法のお陰で全員生命の問題は無いだろうって言ってたよ」
「後はお巡りさんが片付けてくれるそうです〜」

 負傷者の救出搬送、手当てを手伝っていたリーネやユーリィも駆け寄り、皆が安堵のため息を漏らす。

「安心したら、お腹すいちゃった」
「あはは、そうだね」
「ねえねえ、どこかでご飯食べようよ」
「え、でもお金持ってない……」
「助けてもらったお礼に、おごっちゃうよ♪」
「よ〜し、ユナのおごりね」
「いっぱい食べるです〜」
「舞ちゃんはおごられる理由ないよ……」
「うふふ、まあいいじゃない。それに、どこかで落ち着いて話をしたい所だし」
「ポリリーナ様がそう言うんだったら……」

 おごりと聞いて張り切る舞とユーリィを白い目でユナは睨むが、ポリリーナが笑いながらの賛同に渋々了承する。

「芳佳ちゃんは何食べたい? おいしいパスタ屋さん知ってるんだ」
「あの、おごってもらうんだったら、ぜいたくは……」
「それに、彼女の知らない物も多いでしょう。パスタでもなんでもいいですから、行きましょう」

 エルナーが急かす中、一行は空腹を満たすべくパスタ屋へと向かった。



「ごちそうさま〜」
「ご馳走さまでした」
「すいません、私までおごってもらって……」
「いいからいいから。あっちに比べれば……」

 オープンカフェスタイルのテーブルで、食事を済ませた芳佳とリーネが礼を述べる。
 その隣のテーブルではユーリィがぶっ通しでメニューの端からパスタを次々と平らげて空の皿を重ね、臨席では一番高いメニューを頼んだ舞が食事しながら携帯電話で彼氏(別口)との会話に余念が無かった。

「さて、では話を始めましょう」
「何の?」
「彼女達についてです!」

 マジボケしているユナにエルナーが声を張り上げる。

「そ、そうだね。本当にここって、未来なの?」
「それなのですが、どうにも正確には貴方達の言う歴史と、この世界の歴史は違うようなのです」

 芳佳の問いに、エルナーは仮説交じりで説明を始める。

「貴方達の話だと、20世紀初頭、ネウロイと呼ばれる存在と人類は全面戦争に突入、特に貴方達のようなウイッチと呼ばれる存在が最前線に立ったそうですが、その時代、そんな未知の存在からの攻撃はありませんでしたし、ウィッチという言葉自体はありますが、意味がどうにも少し違うようです」
「けど、彼女達は確かにここに実在する」
「ええ、その通りです」

 ポリリーナの指摘に、エルナーも頷く。

「そして彼女達の装備です」

 オープンカフェの植え込みに立てかけてあるストライカーユニットと機関銃を見ながら、エルナーは続ける。

「この銃、今じゃ博物館でも行かなければまずお目にかかりませんし、ましてや実用に使える物なんて皆無でしょう」
「そうなんだ……」
「ちらっと見たけど、お巡りさんが見た事もない形の銃持ってたよ……」
「ああ、あれは非殺傷用のインパルスガンです。軍隊でも、リニアガンが今は主流ですからね」
「インパルス? リニア?」
「えと、それ何ですか?」
「まあ、それは後にしましょう。問題はこのストライカーユニットと呼ばれる物です。簡易サーチですが、確かに個々の部品は随分と古めかしい物です。しかし、システム自体は私自身、見た事も無いような理論構築で形成されています。恐らく、今の最新技術を持ってしても、製作は不可能でしょう」
「そこまで……つまり全く違う技術体系の産物という訳ね?」
「間違いありません。このストライカーユニットの設計理論を構築した人物は、相当な天才でしょう」
「それ、芳佳ちゃんのお父さんが作ったんだよ」
「え? 本当?」
「うん……もういないんだけどね」
「うわあ、すごいな〜家のパパとえらい違い」

 ストライカーユニットを撫でながら、ユナが心底感心する。

「それともう一つ、これを見てください」

 エルナーの目から光が照射されたかと思うと、テーブルの上にある映像を映し出していく。

「これって、映写機?」
「エルナーさんって、頭いいだけでなく、こんな事も出来るんだ……」
「いいですから、これを」

 テーブルの上には、芳佳達が見た事のある戦闘機が遠くに飛ぶ中、一人の少女の後ろ姿が映し出される。
 その少女は、ユナと似てはいるがどこか甲冑のような古めかしいデザインのバトルスーツに身を包み、山中を駆けている。
 そしてその少女の前に、突然敵が現れると、少女はマトリクスディバイダーを手に立ち向かっていく。

「これって!」
「ネウロイ!?」

 芳佳とリーネがその敵、確かに彼女達が戦っていたネウロイと戦う少女を見て目を丸くする。
 だが、次の瞬間更に二人は目を大きく見開く。
 そのネウロイと戦う少女の顔が大写しになるが、それは芳佳そっくりの顔だった。

「私!?」
「ウソ……」
「いえ、彼女の名前は宮藤 ユウカ。ユナから何代か前の光の救世主です。そして彼女はこの敵を怪異と呼んでいました」

 その少女、ユウカは怪異を次々と倒し、更に先へと進む。
 彼女の進む先には、巨大な漆黒の竜巻のような物が、天高くそびえている。

「これって、ネウロイの巣!」
「どういう事だろ……」

 そこで映像は途切れ、芳佳とリーネは思わず互いを見つめる。

「ちょうど貴方達が居たという時代、突如出現したこの怪異に、当時光の救世主だった彼女は敢然と立ち向かい、これを封じた記録が残っています。かなり古い記録ですが」
「それってどういう事?」
「………」

 小首を傾げるユナに、エルナーはしばし沈黙する。

「……パラレルワールド」
「恐らくは」

 ポリリーナが発した一言に、エルナーは頷いた。

「パラレル……ワールド?」
「私、聞いた事ある……異世界とか、並行世界って呼ばれてる」
「ええ、つまりこの世界とよく似た、別の世界。芳佳が光の救世主だった世界、逆にユナが光の救世主じゃなかった世界、そういう様々な世界がこの宇宙とは違う時空に存在する。もっとも、私も実際に見るのは初めてですが………」
「う〜ん、よくわかんない……」
「ユナはそうでしょうね。ただ、確かに彼女達は今、ここにいる。それはなによりも確かです」
「でも、じゃあどうしたら元の世界に戻れるんだろう………」
「501のみんなも無事だといいけど………」

 うなだれる芳佳とリーネだったが、そこでポリリーナがある事に気付いて口を開く。

「あのネウロイ、あれは貴方達がこの世界に飛ばされる前から戦ってたの?」
「あ、いえあの大型は似たようなタイプだったら別の部隊との交戦記録はあったけど……」
「私達は見るのも戦うのも初めてです」
「それって、貴方達とは別に飛ばされた可能性もあるって事じゃない?」
「あ……!」
「だとしたら、芳佳達の世界とユナ達の世界の接点は、他にもあるのかもしれません」
「本当ですか!?」
「それに、ひょっとしたら一緒に飛ばされた仲間達も、案外近い所にいるかもしれませんよ」

 エルナーの意見に、芳佳とリーネは顔を輝かせる。

「よし、じゃあ探しに行こうよ!」
「ユナちゃん……」
「お友達のお友達、ならほっておけないじゃん」
「……うん!」

 ユナの無邪気な笑みに、芳佳も笑みを返す。
 ちなみに、未だにユーリィは空の皿を積み重ね続け、舞は電話に夢中なままだった。



同時刻 ネオ東京郊外

 丁寧に整えられた巨大な庭園に、大きなテーブルがセットされている。
 その最前席に、一人の栗色の髪の少女が優雅な佇まいで座っている。
 そばに控えるメイドが彼女の前に芳醇な香りの紅茶をカップに満たし、背後へと下がると少女はカップを手に取り、静かに一口含む。

「エリカ様、今日はお招きありがとうございます」
「いいえ、今日は貴方達の日頃の努力をねぎらうために呼んだのだから、ゆっくりなさい」

 カップをソーサーに戻しながら、己の左右の席に並ぶエリカ7と呼ばれる少女達に少女は笑みを返す。
 その少女、この庭園を有する巨大な邸宅、そしてその主である香坂家の令嬢、香坂 エリカは、自分の取り巻きでもある左右の少女達にねぎらいの言葉をかける。

「ただ、久しぶりにみんなそろうと思ったのに半分というのが残念ね」
「アコとマコは銀河カップのために遠征、セリカは惑星スピドでレースの真っ最中です」

 エリカの右脇に座る、ややたれ目がちの少女、演劇部キャプテンの銀幕のミキこと白鳥 美紀がこの場にいないメンバーのスケジュールを応える。

「セリカは特に総合優勝がかかってますからね。気合入ってました」

 その隣、茶色の髪でプロポーションのいいフィギュアスケート部キャプテンの氷のミドリこと佐々木 緑が前に会った時の事を思い出す。

「こっちはリーグ終わっちゃったからな〜」
「あ〜、そういえば来月から強化合宿だった」

 エリカの左隣、短髪のいかにも熱血そうなソフトボール部キャプテン、闘魂のマミこと星山 麻美が呟く中、その隣、同じく短髪の快活そうなサッカー部キャプテン、ストライカー・ルイこと留衣・マリア・マーシーが小さく声を上げる。

「今日くらいはみんなゆっくりなさい。こんな優雅な日くらい…」
「ぁぁぁぁぁああああ!!」

 そう言いながらエリカが再度紅茶を手に取った時、どこからともなく声が近づいてきたかと思うと、上から降ってきた何かがテーブルに直撃、盛大な音と共にそれぞれの前にあった紅茶とケーキが宙を舞う。

「あいたたた、ここはどこですの?」

 ケーキと紅茶を派手に被りながら、テーブルに直撃した声の主、長い金髪に眼鏡をかけた少女が顔を上げる。

「ちょっと、そこの貴方」
「は、はい?」
「この香坂 エリカの優雅なティータイムに随分と派手な飛び入りね」
「こ、これはすいません! このガリア貴族ペリーヌ・クロステルマンの不覚です!」

 その少女、ペリーヌが慌てて頭を下げた時、唖然とその光景を見ていた他の者がペリーヌの両足のストライカーユニットと、背にあるブレン軽機関銃Mk.1、そして頭から生えるネコ耳と腰の尻尾に気付く。

「……この近くでこんな舞台の予定はあった?」
「いいえ、こんな変な戦争物はないわ」
「今貴族とか言ってなかった?」
「うん聞いた。でもガリアなんて聞いた事ないな?」

 エリカに怒られて平身低頭するペリーヌに、エリカ7は首を傾げる。

「あの、所でここはどこなのでしょう? 私はロマーニャ上空にいたはず………」
「ここはこの香坂 エリカの住まう香坂邸。ネオ東京の郊外よ」
「東京!? ここは扶桑だと言うんですの!?」
「扶桑? 貴方何を言って……」

 話が全く噛み合わない事をエリカがいぶかしんだ時だった。
 突然、テーブルの向こう側の空間に巨大な渦が出現する。

「何かしら、あれ……」
「あの渦は、あの時!」

 振り返ったペリーヌが、その渦が自分が飲み込まれた時と同じ物だと悟った時、突然そこから無数の影が出現する。

「今度は何ですの!?」
「ネウロイ! いえ違う?」

 その影、小型の戦闘機や戦車を模した無数の機械達が、渦から続々と庭園に溢れ出す。
 その機械が、一斉にこちらへと向いた瞬間、ペリーヌは直感的にテーブルからそちらへと飛び出しながらシールドを展開する。
 直後、謎の機械達から放たれた弾幕がペリーヌのシールドに阻まれる。

「きゃあ!」
「攻撃してきた!」
「エリカ様下がってください!」

 皆が驚く中、ペリーヌはシールドで必死になって皆を守り続ける。

「何がどうなってるか全然分かりませんが、ここは私に任せてくださいまし! 早く避難を!」

 ペリーヌが叫ぶ中、機械達の放った弾は庭園を穿ち、向こうにある邸宅にまで被害が及びかける。

「ふ、うふふふ……この香坂邸に攻撃とは、舐められた物ですわ! セキュリティ、オートディフェンス!」

 エリカの声と同時に、庭園の各所からランチャーやガトリングが競りあがったかと思うと、機械達に攻撃を開始する。
 だが、機械達の予想以上の固さに、放たれたミサイルや銃弾は弾かれ、逆に次々と破壊されていく。

「もう許しませんわ! この香坂 エリカ自ら不埒者を成敗してくれますわ!」

 怒号と共に、エリカの姿が紫を基調としたバトルスーツへと変ずる。

「あ、貴方ウイッチなんですの!?」
「ウィッチ? 何の事かしら?」

 ペリーヌが驚く中、エリカはその手にエレガントソードを構える。

「行きますわよ!」
『ハッ!』

 エリカの号令と同時に、エリカ7達も次々とバトルスーツ姿へと変じていく。

「私とエリカ様で相手をするわ! ミキは避難誘導、マミとルイはその警護を!」
「分かったわ!」「おっしゃあ!」「OK!」

 ミドリの指示で三人が腰を抜かしているメイドを引っつかみながら邸宅の方へと向かい、残る三人が機械達へと対峙する。

「空は任せてくださいまし!」
「任せましたわ!」

 事態が飲み込めないが、ともかく被害を最小限に留めるべく、ペリーヌがストライカーユニットの出力を最大にして飛び上がり、その真下でエリカとミドリが突撃していく。

「食らいなさい!」
「行きなさい!」

 エリカのエレガントソードとミドリの放つツララが戦車型を貫き、破壊していくが敵は更に沸いて出てくる。

「そこ!」

 邸宅へと向かう戦闘機型にペリーヌは銃撃を加えていくが、敵の多さに明らかに火力は足りていなかった。

「いけない!」

 邸宅目前に迫った戦闘機型に銃口を向けた所で、ペリーヌはその向こう、邸宅の窓から驚愕で凍り付いているメイドの姿に気付く。

「くっ!」

 とっさに銃口を下ろし、最大速度で邸宅の前へと出たペリーヌはシールドを張るが、そこに一斉攻撃が加わり、抑えきれずに邸宅へと弾き飛ばされ、窓の一枚を割って中へと飛び込んでしまう。

「あつつ………」
「だ、大丈夫?」
「これくらい平気ですわ! それよりも早く避難を!」

 先程のメイドが恐る恐る声をかけてくるのに、ペリーヌは怒鳴るように返しながら立ち上がった所で、そこが古めかしい武具が飾ってある部屋だと気付く。
 そしてそこに、立派な拵えのレイピアを見つけると、迷わず手に取った。

「これ、少しお借りしますわ!」
「え、それは…」

 メイドの返答も聞かず、ペリーヌはレイピアを鞘から引き抜き、それを手に再度舞い上がる。
 そして目前まで迫ってきた戦闘機型へとその切っ先を突き刺す。

「トネール!」

 掛け声と共にペリーヌの体から電撃が放たれ、それはレイピアを通じて相手を一撃で粉砕する。

「急いで! 邸宅の被害なんてエリカ様は気にしませんから!」
「食らえ、イエローカード!」
「大リーグシューター!」

 ペリーヌが電撃交じりの剣戟と銃撃で必死に防ぐ真下で、ミキが必死に使用人の避難誘導を行い、そこに押し寄せる敵にルイの放ったイエローカードとマミの大リーグシューターからの球撃がガードしている。

「行きますわよ、サイキックピース!」
「オーロラファンネル!」

 エリカのテレキネシスが、破壊された敵の残骸を操って敵に襲い掛かり、ミドリの操るファンネルがそれを援護する。
 だが、敵の多さとその防御力に、じわじわと押され始めていた。

「エリカ様! 避難は完了しました! ここは一時撤退を!」
「撤退? なぜ私が私の家から逃げ出すというのです!」
「しかし! く、スポットライトビーム!」

 ミキが手にしたスポットガンからのビームで応戦しながら撤退を進言するが、エリカは頑として応戦を続ける。

「そうです! 一度退けば、そう簡単に取り戻せないのです!」
「けどこの数は……!」

 ペリーヌも縦横無尽に宙を舞いながら戦うが、ファンネルでそれをサポートするミドリの目にも劣勢は明らかだった。

「もう二度と、家を、故郷を失う人を出すわけには!」

 ペリーヌが押し寄せる戦闘機型に銃口を向けてトリガーを引くが、手にした銃からは乾いた音だけが響き、銃弾は出てこない。

「弾切れ!? しかしまだ私にはこのレイピアがありますわ!」

 銃を投げ捨て、ペリーヌがレイピアを構えた時だった。

「シュトゥルム!」
「はあああぁぁ!!」

 突如上空から旋風が駆け抜け、無数の銃撃が機械達を貫く。

「これは!」
「ヤッホー、ペリーヌ無事?」
「苦戦しているようだな、クロステルマン中尉」

 ペリーヌのそばに、小柄で金髪で無邪気な顔をし、ダックスフンドの耳と尻尾を持つウィッチと、大型機関銃を二丁で持った黒髪を二つに束ね、気難しそうな顔にジャーマンポインターの耳と尻尾を持ったウィッチが飛来してくる。

「ハルトマン中尉! バルクホルン大尉!」
「何かこっちでドンパチしてるのが見えてさ、トゥルーデと来てみたんだ」
「話は後だ! ネウロイではないようだが、民間人への無差別攻撃は見過ごせないぞ!」
「へいへい、ともあれ、行くよ〜!」

 新たに来た二人のウィッチ、大気を操る固有魔法を持つエーリカ・ハルトマンと怪力の固有魔法を持つゲルトルード・バルクホルンが戦場へと飛び込んでいく。

「エリカ様! 上空にまた誰か!」
「味方みたいです!」
「この際、手伝ってくれるのなら誰でも構いませんわ!」

 上空の敵を次々と薙ぎ倒していく二人のウイッチに、地上で応戦しているエリカ達も俄然勢いを取り返し、なんとか戦況を拮抗状態へと盛り返していく。

「このまま、一気に押し返しますわよ!」
『オー!』
「トゥルーデ、こっちも!」
「分かっている!」

 決着をつけるべく、全員が猛攻に打ってでる。
 謎の機械達もみるみる数を減らし、壊滅まであと僅かの時、突然先程とは比べ物にならない巨大な渦が虚空に現れる。

「な………」
「何あれ!?」

 予想外の事態に誰もが絶句する中、そこから巨大な機械仕掛けの足が進み出る。
 渦から現れたのは、巨大な歩行戦車、いや歩行戦艦とも言えるとてつもない巨大な敵で、その背後から新たなる敵影が無数に続く。

「これがこいつらの旗艦か!」
「こ、こんなのとどう戦えば……」
「何を言っているのです! この私とエリカ7の力を会わせれば…」
「危ないですわ!!」

 エリカがエレガントソードを歩行戦艦に向けた時、歩行戦艦の砲塔が光り、放たれたビームをウィッチ達が急降下して張ったシールドが辛くも防ぐ。

「うわ、なんて火力!」
「堪えろ!」
「くううぅ!」

 すさまじい出力に、三人のウィッチは魔力を振り絞り、シールドを張り続ける。
 ようやくビームが途切れた時、魔力をほとんど使ってしまったペリーヌの猫耳と尻尾が消え、地に手をつく。

「ペリーヌ!」
「下がれクロステルマン中尉! ここは私達が……」

 歩行戦艦の向こうから現れた無数の敵に、さすがのバルクホルンの顔にも焦りが浮かびそうになるが、それを気力で払いのける。

「まだ、戦えますわ……」
「無理よ! 貴方ずっと無理して…」

 立ち上がろうとするペリーヌを、ミキが慌てて支える。

「エリカ様!」
「……皆は退きなさい。私が後始末を致します」
「ダメです! ならば私達も…」

 エリカも多過ぎる敵に、プライドだけでその場に残ろうとする。

「あれ……?」

 そこで、ハルトマンが向こうから高速でこちらに向かってくる影に気付いた。

「……ウイッチ?」

 少女の影に機影が重なったそれを、ウイッチかと思ったハルトマンだったが、どんどん近づいて来るその姿がウイッチともエリカ達とも似て非なる物だと確認したが、それが何かを考えた時だった。

「行って、ディアフェンド!」

 掛け声と共に、三角形のアンカーがこちらへと飛来してくる。

「今度は何!?」
「分かりませんわ!」

 エリカとペリーヌも混乱する中、飛来したアンカーが戦闘機型の一体に突き刺さる。
 すると、アンカーから放たれたエネルギーが戦闘機型を侵食し、完全に捕らえた。

「行っけええぇぇーー!!」

 少女の掛け声と共に、アンカーは捕らえた敵ごと振り回され、そのまま周囲の敵を巻き込み、破砕していき、そして放たれて更に多くの敵を破壊していった。

「何あれ……」
「トゥルーデより無茶してる………」
「ヴァーミス! 地球はこのTH60 EXELICAが守ってみせる!」

 エリカ7もウィッチ達も唖然とする中、とんでもない戦い方を見せ付けた謎の少女、エグゼリカが機械達を指差して宣言する。
 すみれ色の髪に童顔、小柄なその少女は、格好は白いバトルスーツにも見えるが、その周囲に半自律随伴砲撃艦「アールスティア」とアンカーユニット「ディアフェンド」を従え、その目に闘志を漲らせている。

「ねえねえ、そこの君。あれはヴァーミスって言うの?」
「そうですけど、貴方は?」
「私? 私はカールスラント空軍第52戦闘航空団第2飛行隊・501統合戦闘航空団《ストライクウィッチーズ》のエーリカ・ハルトマン中尉って言うんだ」
「私は超惑星規模防衛組織チルダ、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート《TH60 EXELICA》」
「……エグゼリカでいい?」
「ええいいですよ」

 間近に飛んできたハルトマンの問いにエグセリカは笑顔で答えるが、すぐにその顔は真剣な顔になる。

「そこのお前! あれを知っているなら、弱点は!」
「トゥルーデ、もうちょっとやさしく聞くとかさ……」
「ヴァーミスは金属細胞と生体装甲を持つ自律戦闘単位集団です! 圧倒的な破壊力で完全に破壊しない限り、接触した相手から情報を取り込んで更に進化した兵器となります!」
「ようは、ネウロイと一緒か!」
「多分ね」
「行きます!」

 エグゼリカの説明をなんとか理解したバルクホルンとハルトマンだったが、エグゼリカは単騎で突撃していく。

「アールスティア!」

 突撃するエグゼリカをアールスティアが砲撃で援護し、ディアフェンドで再度ヴァーミスをキャプチャーして振り回しながら叩きつけていく。
 それを見ていたバルクホルンだったが、ふと手を叩く。

「そうか、ああすればいいのか」
「………トゥルーデ?」

 何か嫌な予感がしたハルトマンがバルクホルンを見るが、すでにバルクホルンは真下の戦車型ヴァーミスに急降下しながら、両手のMG42機関銃を投げ捨てる。

「う、おおおおぉぉぉ!」

 手近にいたヴァーミスを、バルクホルンは固有魔法の怪力で持ち上げていく。
 そしてそれを力任せにぶん投げるが、一体を巻き込んだだけで、しかも小破に終わる。

「力が足りんか………!」
「こっちだこっち!」
「センタリングだ!」

 破壊力が足りない事を悟るバルクホルンだったが、そこでマミとルイが前へと駆け出す。
 意図する事に気付いたバルクホルンが、再度ヴァーミスを持ち上げ、マミへと全力で投じる。

「ダブルヘッダー!」

 マミは手にしたビームバットで飛んできたヴァーミスをジャストミートし、全力で打ち上げる。
 打撃の破壊力で粉砕されながら他のヴァーミスを巻き込んで直撃、爆発四散するのを見たルイが今度はこっちだとサインを送る。

「おりゃあああ!」
「ハリケーンシュート!」

 飛んできたヴァーミスを、マミの全力のシュートが蹴り上げ、別のヴァーミス二体を巻き込んで爆発四散する。

「よっし!」
「じゃあ今度は2ランだ!」
「おりゃあああ!」
「こっちはハットトリックだ!」
「どりゃああ!」

 バルクホルンの怪力で投じられたヴァーミスをマミとルイが打ち返し、蹴り返して敵がどんどん減っていく。

「うわあ、無茶苦茶だ……」
「アンカーユニットも無しにあんな事が出来るなんて……」

 上空からその様を見ていたハルトマンがあきれ返り、エグゼリカもさすがに唖然とする。

「よし、私達は大物を相手しますわよ!」
「心得ましたわ!」

 小型のヴァーミスが次々と倒されていく中、エリカとペリーヌは歩行戦艦型ヴァーミスと対峙する。

「攻撃を大型に集中させてください! 小型と装甲は段違いです!」
「じゃあ行くぞ!」
「ここからクライマックスシリーズだ!」
「チャンピオンシップはもらった!」

 エグゼリカの忠告を聞いたバルクホルンが、マミとルイへの投擲の方向を変え、マミとルイが攻撃を大型ヴァーミスへと集中させる。

「サイキックピース!」
「トリプルアクセル!」
「イルミネーションレーザー!」

 エリカが破壊された鉄くずや敵の破片をまとめてぶつけ、ミドリの華麗なスピンが穿ち、ミキのパラスポキャノンから放たれた七色のレーザーがえぐっていく。

「ディアフェンド! 最大出力!」

 エグゼリカが残っていた小型ヴァーミスをまとめてキャプチャーし、最大出力で振り回す。

「行っ、けえええぇぇぇーーー!!」

 巨大な塊となったヴァーミスが大型ヴァーミスに直撃、その装甲が一気に破壊されていき、その中央に浮かぶ制御コアを露にする。

「そこが弱点ですわね!」

 ペリーヌが残った魔力を振り絞って舞い上がり、コアへと突撃していく。
 そこへ、己のテレキネシスで強引に飛んだエリカも併走した。

「独り占めなんて許しませんわよ?」
「なら、私達で優雅に行きましょう!」

 二人の顔に笑みが浮かび、それぞれの剣が構えられる。

「エレガントダンス!」
「はああぁ!」

 エリカの振るうエレガントソードが優雅な舞を伴った剣舞と共に振るわれ、ペリーヌの振るうレイピアが無数の斬撃と突きとなり、制御コアを刻んでいく。

「これで、終わりですわ!」
「その通り! トネール!」

 エレガントソードの斬撃がコアを大きく両断し、そこに突き立てられたレイピアから放たれた電撃がコアを貫き、限界に達した制御コアが粉々に砕け散る。
 力を失い、爆破するヴァーミスからペリーヌはエリカを伴って脱出、離れた所に降り立つ。

「やりましたわね」
「この香坂 エリカにとって、これ位当然ですわ」
『オホホホホ!』

 まるでそろったように、二人は口元に手を当てて哄笑する。

「うわ、ペリーヌが二人いるみたい……」
「あの方、エリカ様に似てるみたいですね」

 遠巻きからそれを見ていたハルトマンとミドリが思わず呟く。

「まさか、ヴァーミスがこの地球にまで来るなんて………」

 そこへ舞い降りたエグゼリカが、残存した敵がいない事を確認しながら漏らす。

「ヴァーミス、と言ったな。あれはどこから来たのだ?」
「地球って事は、他の惑星から?」

 バルクホルンの問いに、ミキが続けた所でその言葉にバルクホルンが怪訝な顔をする。

「他の惑星? そんなSF小説のような事があるのか?」
「何を言ってるの? 今銀河には居住可能な惑星が無数にあるじゃない」
「ま、待て。銀河にだと!? 我がカールスランドでもまだ有人宇宙飛行にすら成功してないぞ!?」
「? それこ何を言ってるの? 確か、人類が宇宙に出てからもう300年以上は経ってるのよ?」
「300年!? 今は一体西暦何年だ!?」
「今年は西暦2300年だけど?」
「うん間違いない」
「ば、馬鹿を言うな! 私達が居たのは西暦1945年だぞ!」
「はあ?」「それこそそんな馬鹿な事が……」

 ウイッチとエリカ7のかみ合わない会話を聞いていたエグゼリカの顔がこちらへと向けられ、その顔に驚愕が浮かぶ。

「ひょっとして、あなた達も時空転送に巻き込まれた……」
「時空転送? 何それ?」
「もう何が何やら……そういえばこれ、お返ししますわ」
「いえ、私達を守ってくれたお礼に差し上げますわ」

 混乱しながらも、ペリーヌがレイピアをエリカに差し出すが、エリカが笑みを浮かべてそれを断る。

「しかし、これは相当な…」

 高価な業物だと気付いていたペリーヌが何気なくそのレイピアを見た所で、その柄に刻まれた紋章に気付く。

「こ、これはクロステルマン家の紋章!? なぜここに?」
「? それは大分昔に、あるフランス貴族の令嬢が我が香坂家に嫁ぐ時、花嫁道具の一つとして持参したとか……」
「クロステルマン家が? 扶桑に? そんな話聞いた事もありませんわ!?」
「そう言われましても………」

 別の意味で混乱の度合いが深まる中、エリカの懐で軽快なメロディが鳴る。

「はい?」
「あらユナからだわ」

 エリカは懐から携帯電話を取り出し、着信ボタンを押す。
 そこから3D映像が浮かび上がり、送信相手を映し出した。

「な、何ですのそれ!」
「3D携帯電話も知りませんの? はいこちらエリカ」
『あ、エリカちゃん! ちょっとお話があるんだけど!』
「すいませんけどユナ、こちらはちょっと立込んでまして…」
『ひょっとして、ウィッチを名乗る少女がそこにいませんか!?』

 通話にエルナーが割り込み、エリカの視線がペリーヌやバルクホルン達に注がれる。

「……おりますけど」
『やはり! 大規模な時空転移反応があなたの家の方角からあったんです! そこにいるウィッチは、パラレルワールドから来た人達です!』
「パラレルワールド? どういう事ですのエルナー?」
『だ、誰がいるんですかそこに!』
「ちょ、宮藤さん!?」

 3D映像に割り込んできた芳佳に、ペリーヌも思わず割り込む。

『あ、ペリーヌさん! 他にも誰かいますか!』
「バルクホルン大尉と、ハルトマン中尉がいますわ!」
『こっちはリーネちゃんと一緒です!』
「宮藤とリーネもいるのか!」
「え、どこどこ?」
「ちょっと、そんなに割り込まないで下さい!」

 バルクホルンとハルトマンも割り込み、エリカも思わず悲鳴を上げる。

『ともかく、今からそちらに向かいます! 重要な話がありますから!』
「こちらにも、それに詳しそうな方が一人おります。お待ちしておりますわ」

 エグゼリカの方をちらりと見ながら、エリカは電話を切る。

「避難していた者達に帰還を。それと新しくお茶の用意をさせておきなさい」
「一体、何が起きてるんでしょう?」
「さあ? 厄介な事なのは間違いないですわね」
「確かに」

 ミドリの呟きに、エリカとペリーヌは同時にため息を漏らした。






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