スーパーロボッコ大戦
EP23



 薄暗い室内で、大型ディスプレイにあるシーンが映し出される。
 そこには、コピー攻龍と化した牙龍から次々とこちら側の機体を模したコピーネウロイが飛び立つシーンで、その後にそれぞれが記録したと思われる各コピーネウロイとの戦闘シーンが映し出されていく。
 最後のコピールッキーニが撃墜されると、映像は終わり、室内が明るくなっていく。

「これとよく似たネウロイと遭遇したのは本当かね?」
「本当です」

 攻龍のミーティングルームで、副長からの問いに問われたウルスラはそう言いながら小さく頷く。

「それでは、貴女が遭遇したコピーネウロイとの相違点があったら、言ってみて」

 ミーナからの提言に、少し考えてからウルスラは口を開いた。

「まず私が遭遇したコピーネウロイの詳細を。事の起こりは私がかつて所属していたスオムス義勇独立飛行中隊・第二中隊にジュゼッピーナ・チュインニ准尉が配属されてきた事です。ジュゼッピーナ准尉は戦闘中に撃墜、行方不明になるも自力帰還しましたが、記憶喪失になっており、リハビリも兼ねて配属されたのですが、その実はネウロイに洗脳暗示を施されていました。
そして中隊の一員として戦闘に参加しながら、こちらの機動データを蓄積、ネウロイになんらかの方法で送信していたと思われます。その結果、これとよく似た、というよりも中隊メンバーの完全なコピーとも言えるコピーネウロイと遭遇、抗戦にいたりました」
「それで、どう対処したんだ?」

 誰もが思った疑問を、冬后が一番最初に口にする。
 帰ってきた答えは、簡単な物だった。

「こちらで遭遇したコピーネウロイは、あくまで中隊個人個人の機動データをコピーした物であり、フォーメーションプレイの対処が出来なかったんです。だから、私達は中隊全員で協力し、各個撃破していきました」
「それで、その洗脳されていた准尉はどうなったの?」

 ポリリーナからの問いに、更にウルスラは続ける。

「そのコピーネウロイとの戦闘の後、正体を看破され、隊長だった穴拭中尉と抗戦、ストライカーユニットを破壊されて撃墜後、そのショックで洗脳暗示が解け、その後中隊の一員として戦列に復帰しています」

 説明が終わった所で、その場にいた全員が難しい顔をして唸りを上げる。

「ウルスラが遭遇したコピーネウロイと、攻龍が遭遇したコピーネウロイ、明らかに状態が違いますね」
「確かに。こちらで遭遇した物は、その機動も戦闘力もオリジナルとは比べようもない杜撰な物と言ってよかった」
「私の経験とも確かに違います」

 エルナーと艦長の意見を、ウルスラが補足。

「それで、その洗脳されてた奴ってのは何か特徴あるのか?」
「まず極めて感情表現が乏しくなります。行動もおかしく、特に戦闘中に露骨にこちらを観察するようになり、後から思えばですが、完全にスパイとしか思えない行動を取っているようでした」
「そこまで怪しかったら普通はバレるだろ………」
「その当時は、まさかネウロイがそんな絡め手を使うとは誰も思ってなかったので」

 聞いてみた冬后本人が呆れるような特徴に、バルクホルンが言葉を濁しながら答える。

「でも、そんな人攻龍にはいないわよね?」
「それ以前に、撃墜されて戻ってきたなんて状況が無かったわ」
「いや、一度ウチのパイロットがまとめて行方不明になった事はあったな。もっとも平然とサバイバルしながらバカンスしてやがったが」
「じゃあ違うと思います。洗脳その物はそれ程長時間掛かる物ではない模様ですし、簡易的な物は一日もあれば可能です。私が見た限りで、雰囲気的には……」

 そこでウルスラがミーティングルームの端、ずっと無言で話を聞いていたアイーシャへと視線を送る。

「アイーシャは少し感情表現が下手なだけよ! スパイなんかじゃないわ!」
「いやそれは攻龍の全員が知ってるし、そもそも彼女が行方不明になった事なんて一度も無いからな」

 それに気付いた周王が激昂し、冬后がなんとかなだめる。

「……スパイはしていない。けれど、何かが私に干渉しようとしているのは確か。私だけじゃない。ティタもそれは感じている」
「干渉って、どういう事?」
「例の、誰かに見られてたって話ね」
「報告は受けているが、漠然とし過ぎていて何とも言えんな」
「………そいつが全ての黒幕って訳か」
「今の所、それ以上の事は何も分からない訳ですね」

 エルナーの言葉に全員が唸りを上げ、結局それ以上の成果は無いまま、その場は解散となった。

(もし、現状のメンバーであの時と同じ事が起きたら………やはり、あれの開発を始めよう)

 そんな中、ウルスラはある決意をすると、足早にその準備を始めるため、まずは姉の元へと向かっていた。



「必殺技が欲しい」
「は?」

 何か真剣な顔で格納庫に来たかと思えば、両拳を握り締めての音羽の要求に、零神のオーバーホール中だった遼平は間抜けな声を漏らした。

「必殺技って、クアドラロックがあるやないか」「そやそや」
「ち〜が〜う〜!!」

 隣で雷神、風神のオーバーホールをしていた嵐子と晴子が頷くが、そこで音羽が首を左右に激しく降りまくる。

「見たでしょ、坂本さんの必殺技」
「ああ、アレか………」
「ありゃすごかったで」
「もっとも本人ぶっ倒れてまだベッドの上聞いとるけど」
「あんなのがゼロにも欲しい」
「出来るわけねえだろ」

 力説する音羽に、遼平は即答。

「そんな〜〜少しは考えてみてくれても〜」
「ソニックダイバーにそんな余裕ねえよ! その坂本少佐にでも教わってこいって」
「それが、誰にも烈風斬は教えるつもりはないって言われて………」
「さっきやけに張り切ってお見舞い行ったもんやと思えば、そういう話かい」
「じゃあ諦めた方いいで」
「だから、どうにかこっちで付けられないかと……」
「付けたげようか?」

 格納庫の一部を借りてRVのオーバーホール中だったマドカが、こちらに顔を向けてにこやかに微笑む。

「……え〜と」
「あんたまた懲りてないのか。ヴィルケ中佐にめっちゃ怒られてたのに」

 零神を原型止めなくした前科があるマドカの提案に、音羽はしばし悩み、遼平は呆れ帰る。

「あ、あはは、もうストライカーユニットは改造しないよ?」
「ストライカーユニットは、かい………」
「懲りとらんな」

 引き攣って少し青くなったマドカが乾いた笑みを浮かべるが、ソニックダイバーはとは言ってない事に御子神姉妹も呆れる。

「言っとくが、こっちに手出したら承知せんからな」「そやそや」
「う〜ん、ゼロが原型止めなくなるけど、必殺技が付くのなら」
「おい! つまンねえ事喋ってる暇が有ったら手動かせ!」

 そこで所用から戻ってきた大戸班長が怒鳴りつけ、メカニック達が思わず肩をすくめて手を早める。

「ほら、あんたも仕事の邪魔だから訓練でもしててくれ」
「え〜、今大事な話の最中…」
「必殺技か? 一体どんなのを使いたいんだ?」
「どんなのって、こうすごいのを……」
「それがどんな物でソニックダイバーのスペックで出来るかどうかを考えてから来るんだな」

 体よく追い出された音羽は、考え込みながら艦内を徘徊していく。
 腕組みしながら唸りつつ歩く音羽の姿に、たまたま見かけたエリーゼが首を傾げた。

「音羽、どうしたの?」
「あ、エリーゼ。ゼロに必殺技付けてって言ったら、怒られちゃった」
「必殺技〜? そんなの付けられるんだったら、とっくの昔にバッハに付けてるわよ」
「でも欲しいよね、必殺技」
「………欲しい」

 しばらく考えたエリーゼも頷き、二人で腕組みして考え込む。

「あの、お二人して何してるんです?」

 奇妙なその光景に、たまたま見かけた可憐がおずおずと尋ねる。

「ねえ可憐ちゃん」「ねえ可憐」
「何ですかお二人して……」
『ソニックダイバーに必殺技って付けられる?』
「………え?」

 予想外の質問に、可憐が思わず硬直する。

「可憐ちゃんだったら、何か思いつかないかな〜って」
「急に言われても………」

 三人に増えた一同が、またしてもその場で考え込む。

「………何してるの、貴方達」
「あ、瑛花さん」
「聞いたわよ音羽、妙な事言って格納庫追い出されたって」

 通りかかった瑛花が、呆れ顔で三人を見つめる。

「ソニックダイバーで必殺技なんて出来るわけないでしょう。どうしても欲しいなら、持ってる人にでも聞いてみたら?」
「おお! さすが瑛花さん!」

 瑛花の言葉に、音羽は手を一つ叩いて外に出て行く。

「エリーゼも行く〜」
「………まさか本気にするなんて」
「まあ、音羽さんですから」

 エリーゼも音羽の後を追っていくのを、残された二人は複雑な顔で見送っていた。



「必殺技? そんな物そう簡単にあるわけなかろう」
「え? ウィッチの人って、てっきり全員持ってるかと」

 最初に出会ったバルクホルンに、開口一番に否定されて音羽は意表を突かれる。

「ああ、クロステルマン中尉やルッキーニ少尉のように、攻撃に特化したり転化できる固有魔法を持つウィッチもいる事はいるし、坂本少佐の場合は経験と訓練による物だ。一朝一夕に出来る物ではない」
「はあ………」
「っと、済まんが仕事の途中なのでこれで」

 今一納得しきれない音羽の前で、バルクホルンはいきなり固有魔法を発動、自分の前に有った大型コンテナを持ち上げ、それを運んでいく。

「………すごい怪力」「ソニックダイバー用の装備平然と持って行ったって聞いたよ、あの人………」
「すいませ〜ん、そこどいてほしいですぅ〜」

 地響きがしそうな重さのクラスのコンテナを運ぶバルクホルンを音羽とエリーゼが呆然としている中、背後から掛けられた声に二人が振り向くと、今度は本当に地響きを響かせながらユーリィが更に巨大なコンテナを運んでいた。

「こっちだそうだ、気をつけて運んでくれ」
「はいですぅ! 芳佳さんのゴハンできるまで頑張るですぅ!」
「………必殺技いらないね、あの人達」「………うん」

 重機クラスの怪力を持つ二人から、音羽とエリーゼはすごすごと離れていった。



「必殺技〜? そんなの適当にやってればそれっぽくなるわよ」
「適当って………」

 プリティー・バルキリー号の艦内で、舞の投げやりすぎる回答に、音羽も二の句が告げららずに考え込む。

「まあ……光の戦士は元から固有技能を特化してますからね。ある程度汎用性を持たせているソニックダイバーと仕様から違うと思いますよ」
「そう言えばそうね。所で、これ何してるの?」

 エルナーの説明にエリーゼが頷いた所で、二人の間、机に座って何か必死に書いているユナを指差す。

「補習よ、この子これ以上日数足りないと怪しいからね」
「うう、舞ちゃんヒドイ………」
「何言ってるんですかユナ。この間オフだからと夜更かししすぎて、翌日寝坊したのが悪いんですよ」
「ほらほら、それ全問解いたらOKなんだから、早くやっちゃいなさい」
「うう、ユーリィったら終わったらゴハンって聞いたらものすごい速さで終わらせちゃうし………」
「そう言えば、あんたら学校は?」

 ゆっくりとその場を離れようとしていた音羽とエリーゼが、その一言に思わず停止する。

「あ、私はもう海女として仕事してるんで………今はパイロットですけど」
「エリーゼはもうそのクラスならとっくの昔に卒業してるモン」
「あらそう? どうやら一番のおバカは決まったようね」
「舞ちゃんヒドイ!」
「ほらほら、あと二問。頑張ってくださいユナ」

 まだ騒がしい室内から、二人はこそこそと逃げ出した。



「必殺技? 何よそれ?」
「敵にもっとも有効的かつ壊滅的なダメージを一方的に与えられる戦法という事か」

 どこから持ってきたのか《安全第一》と刻まれたヘルメットを被ってカルナダインの改造作業を指揮しているフェインティアと、その肩で同じく神姫サイズのヘルメットを被っているムルメルティアに首を傾げられ、音羽は少し凹む。

「そんなの、こっちが強ければいいだけの話じゃない」
「マイスターの話にも一理ある。ならば自身の特性を考慮し、有効的なアクションを構築すればいい」
「え〜と、それってどうすれば?」
「それくらい、自分で考えれば? こっちはクルエルティアとエグゼリカが交代で修理中で私一人で色々忙しいのよ」
『あの〜、私もいるんですけど』『改造プランはこちらで組んでいます』

 それとなくカルナとブレータが自己主張するが、フェインティアは無視して改造を手伝っている機械人にあれこれ指示を出している。

「ま、戦闘データの交換でもしてみたら? 特に似たような戦闘パターン持ってる個体のデータなら参考になるでしょ」
「音羽と似たような戦闘パターン………」
「………一人しかいない気がする」
「いや、もう一人いる。参考になるかどうかは分からないが」
「え?」



「……必殺技、ですか?」

 惑星地下のマシンクレイドル内開発室で、装備改修中だった飛鳥が問われて首を傾げる。

「……そもそも、なぜ私に?」
「いや、他に剣使ってる人にも聞いてみたんだけど、フェンシングとかばっかで剣道やってるのは私と坂本さんとあなたしかいないみたいで」
「高速移動しながら近接格闘戦なんて、難易度高いからね〜」

 飛鳥の隣で出来上がったばかりのジレーザ ロケットハンマーを振り回しているストラーフに、エリーゼが視線を集中させる。

「そんなちっちゃいハンマー、役に立つの?」
「これはこうするんだよ!」

 そう言いながらストラーフはいきなりロケットハンマーを噴射させながらそばにあったデスクの一つに叩きつける。
 そのサイズからは考えられない轟音と共に、デスクは一瞬で粉砕していった。

「すご………」「………ウソ」
「物質結合連鎖崩壊、《アポカリプス・エクゼキューション》。全力だったらこんなんじゃない威力だよ」
「へ〜、それはすごいわね」
「あの、ここで技の試射は止めてくださいと言いませんでした?」

 ポカンとしている音羽とエリーゼにストラーフは胸を張って見せるが、そこでドアを開けてミーナと白香が姿を現す。

「どうマス、ター……」

 ミーナにも胸を張ろうとしたストラーフだったが、その目が全く笑ってない事に気付いて言葉を詰まらせる。

「ついさっき、あそこのイスを切り刻んでもうしないって言わなかったかしら?」
「いやその、役に立つかなんて言われたのでつい………」
「あらそう。すいません、後でどうにか弁償しますから」
「いえ、これくらいなら大丈夫です。ちょうど余っていたデスクですし」
「本当にすいません。後で言って聞かせますから」
「え?」

 白香に平謝りしながら、ミーナの手がストラーフを鷲掴みにする。
 いつの間にかその頭部には使い魔の耳が伸び、予想以上に強い握力にストラーフの脳裏にストライカーユニットを勝手に改造した後のマドカの事が思い浮かぶ。

「あの、マスター………」
「それじゃあストラーフさん、一回の注意で足りなかったようだから、ちょっとこっちに」
「待って! ちょっと待ってマスター! うわああああぁぁ…………」

 何とか束縛から逃れようとするストラーフを掴んだまま、ミーナがその場を離れ、ストラーフの段々小さくなっていく悲鳴がその場に残される。

「……それで、必殺技についてでしたね」
「うんそう」

 強引に見なかった事にした音羽が飛鳥に力強く頷く。

「……私の《飛燕》は霊刀 千鳥雲切のエネルギーと私自身の運動性を駆使した技です。音羽さんのソニックダイバーは運動性よりも速度を重点として設計されていると思いますので、その点を考慮した方がよろしいかと」
「速度、ね〜」
「確かにそうだけど、ソニックダイバーのスピードと音羽の剣か〜」

 とりあえずのヒントを貰い、二人はその場を後にする。
 ちなみに数時間後、自分用のクレイドルでどこかから持ってきたハンカチを引っかぶりながらゴメンマスター、もう勝手に物を壊しませんと言いながら震えているストラーフがハンカチの持ち主であるペリーヌに発見され、首を傾げられていた。



「それで、必殺技見つかった?」
「う〜ん、いまいち………」

 夕飯の席で、向かい合った亜乃亜に音羽は難しい顔をする。

「ソニックダイバーにはD・バースト付いてないしね」
「一応ヒントらしい事は聞けたんだけど………」
「武装神姫にまで聞きに行ったけどね」
「そこまでしたの……」

 エリーゼがオカズのカツレツをやたら細かく切りながら呟き、隣のテーブルのエリューがスープカップを手にさすがに呆れた顔をする。

「未来に来ても、そうそう簡単に未来の技術でパワーアップっていかない物なんですね」
「食材がワープだかなんだかですぐに送られてくるのは驚いたが」

 厨房で話を聞いてたタクミが首を捻るが、料理長は送られてきた新鮮その物の野菜に技術格差を感じていた。

「なんでも規格も材質も違うから、下手に組み込めないって聞いたよ」
「マドカもそれで苦労してるって言ってたね」
「たしかにそれはありますね……」

 タクミが缶詰らしき物体、但し開け方が全く分からないそれの説明書を苦労して読みながらもなんとなく納得。

「無理にハードを追加しなくてもいいのでは? そうですね、テンションが足りないのではないでしょうか?」
「いや、トゥイー先輩みたいになられても………」

 礼儀正しい仕草で夕食を口に運ぶジオールだったが、亜乃亜を始めとした皆が戦闘時のやたらと好戦的なジオールの姿を思い出して僅かに頬が引き攣る。

「音羽、まだ言ってるの?」「気持ちは分からなくもないですが………」

 そこに遅れて夕食に訪れた瑛花と可憐が呆れや困惑の顔を浮かべながら夕食の注文をする。

「だって〜、他のチームはどこもかっこいい必殺技持ってるし」
「だからって、ソニックダイバーで真似できる訳ないでしょ」
「そうそう、あちらから頂いたデータで造ったシミュレーション、明日あたりには完成しそうですから、完成したら即何セットかやっておくようにって冬后大佐から言われてます」
「う〜ん、そこに何かヒントが………」
「しつこいわよ」
「参考くらいにはなるかもしれない」
「これ芳佳から昨日のデザートのお礼だって〜」

 まだ諦めてない音羽に心底呆れる瑛花だったが、そこへ重箱を手にしたアイーシャとマドカが現れてそれをテーブルへと置いた。

「何々?」
「こっちはお饅頭、こっちはおはぎですね」
「ほ〜、なかなか立派なモンだ」
「おいしい、これ」
「うわわ!? ティタ食べるのは皆で分けてから!」
「早くしないと全部食べられちゃう!」

 皆が中身を確かめている間に、二人の後ろから来たティタが端から口の中に入れていく。
 慌ててマドカや亜乃亜が制止に入り、そこに音羽やエリーゼが慌てて自分の分を確保していく。

「………何やってんだお前ら?」
「あ、冬后さんも早く!」
「ティタ、だからそんな食べたらダメだって!」
「……ああ、なんとなく分かった」

 食堂に顔を見せた冬后が、そこで行われている争奪戦に思わずため息を漏らす。

「仲がよくって結構な事だな」
「いがみ合ったり、無視しあったりするよりはな………」

 段々激しさを増していく争奪戦に、冬后は我関せずを決めてコーヒーを注文する。
 なお、この後遅れてきたメカニックメンバーも加わって更に壮絶な争奪戦が繰り広げられる事になった………



(……以上だ。理解した?)
(はい。理解しました)(条件に一致するマスターをサポートすればいいんだね)(そして作戦終了まで行動を共にする)(……共に戦うために)(んにゃ〜、やってみるよ)(しかし、我々だけで大丈夫なのですか?)
(色々考えた結果、現状では最小限の影響で最大限の効果を出すにはこれしかなかった。これからメモリーを一部シールドするけど、時が来ればリリースされる。頑張ってきてほしい、これから出会うマスターと、仲間達のために………)

「うにゅ……う、ううん………」

 どこか間抜けな声を漏らしながら、アーンヴァルが起動していく。
 医務室のベッド脇に移動したクレイドルで目を覚ましながら、アーンヴァルは先程まで見ていた事を思い出す。

(あれは、確か………)

 まだ起動しきらない電子頭脳で考えながらベッドの方を見た時、そこが無人な事に気付く。

「………マスター、トイレですか?」

 状況を認識しきれない中、アーンヴァルは布団がちゃんと畳まれている事、そして用意してあった美緒の軍服が消えている事に気付き、一気に電子頭脳が覚醒する。

「まさか!?」



 まずは呼気を整える。精神を集中させ、手にした刀を正眼に構えた。

「ふっ!」

 鋭い呼気と共に、刀を振り下ろす。そしてゆっくりと腕を引きながら、次は刺突を繰り出す。
 動きが僅かに鈍い事を認識しながら、再度型を繰り返そうとする。

「マ〜ス〜タ〜〜〜〜〜!!」

 そこへ大声を上げながらアーンヴァルが戦闘スタイルで急加速しながらすっ飛んでくるのに気付いた美緒は、手にした刀を一度下ろした。

「おお、起きたかアーンヴァル」
「何をしてるんですかマスター!」
「見ての通り、朝の訓練だ」
「どうやって医務室から出たんですか!」
「二日間も人の出入りを見てれば、なんとなく分かった。もっともずっと寝ていたから、やはり少し体が鈍っているようだな」
「ダメですよ病み上がりなんですから!」
「だから軽い型稽古くらいで…」
「せめて安岐先生の診察が終わってからにしてください! それまでこれは没収です!」

 アーンヴァルが怒鳴りながら、美緒の持っていた刀を奪おうとする。

「あ〜、危ないぞ」

 美緒が警告するが、僅かに遅れて美緒の手から離れた刀が勢い余ってアーンヴァルの髪を一部切り落としながら地面へと突き刺さる。

「あ………」
「言わん事ではない。怪我はないか?」
「だ、大丈夫ですマスター………」

 流石に人間用の刀は重過ぎたのか、危ない所だったアーンヴァルが美緒の腕にすがりつきながら地面に突き立った刀を見つめる。

「坂本少佐〜」「坂本さ〜ん、どこですか〜」
「ぬ、ペリーヌに宮藤か。どうやら朝の訓練はここまでのようだな」

 遠くから自分を呼ぶ声に美緒は地面に突き立った刀を引き抜くと鞘へと納める。

「それでは、安岐先生の回診が来るまで大人しくしててください、マスター」
「ああ分かった。こうも心配されるようではな」

 袖から肩へと来たアーンヴァルに諭され、美緒は苦笑しながら声のしてくる方向へと向かって歩き出す。
 そこでふと、アーンヴァルの髪を見る。

「後で誰かに整えてもらった方がいいな。生憎と私はあまり器用ではないのでな」
「そうですね」
「見つけましたわ坂本少佐!」「まだダメですよ坂本さん!」

 心配そうな顔でこちらに駆け寄ってくる二人に手を上げながら、ふと美緒は遠くを見た。
 その視線の先にある、今だ修理中の各艦の姿に美緒の目が僅かに細められる。

「せめて、元の世界に戻るまでの間は……」
「マスター?」

 アーンヴァル以外に、その呟きが聞こえる事は無かった………



「ふ〜〜〜〜」
「大丈夫か、マイスター」

 疲れ切った吐息を漏らすフェインティアに、ムルメルティアが声を掛ける。

「やっとカルナダインの改造とクルエルティアとエグゼリカの修理の目処が経ったからね〜。もう次はこっちがフルメンテしてほしいわ」

 現状のレポートを攻龍に提出してきたフェインティアが、再度カルナダインのドッグに戻ろうとした所で、今だ地表上に広がったままの海の上に浮かぶボートと、そこから釣り糸を垂らしている冬后の姿に気付く。

「………何してるの」
「うん? 魚釣り見るのは初めてか?」

 声を掛けてきたフェインティアに首だけ向けた冬后が、それだけ言うと再度視線を竿へと戻す。

「釣り、原始的狩猟方ね。でも何か採れるの?」
「まあ待ってろ。今に大物を……」

 言葉に反して、水面に浮かぶ浮きはピクリとも反応しない。
 だがボートから少し離れた所で水音がしたかと思うと、そこからダイビングスタイルの音羽が姿を現した。

「おう桜野、そっちは?」
「底の方に少しありました」

 音羽はボートの方へと泳いでくると、そこに網とその中に入った貝やタコを持ち上げる。

「そうか、おっと来た来た〜!」

 そこでようやく当たりが来たのか、冬后が勢いよく竿を引くと、結構なサイズの魚が一気に上がってきた。

「うお、なかなか!」
「タモ無いですか!?」
「そんなのは釣り上げた後だ!」

 暴れる獲物を何とか釣り上げようとする冬后だったが、釣られた魚は大きくジャンプしたかと思うと、針が外れてしまう。

「ムルメルティア」「了解した」

 魚が海面へと飛び込んだ瞬間、急加速で接近したムルメルティアがインターメラル 超硬タングステン鋼芯を魚へと叩き込む。

「うぉい!?」
「問題ない、出力を抑えてポイントも外して有る」

 一撃で仕留められた魚が水面に浮かび上がり、それを冬后がタモで引き寄せる。

「何、食料でも足りないの?」
「いや、違うな。これは研究調査用だ」
「研究?」

 冬后はボートにおいてあったケースを開くと、そこに音羽が採ってきた貝やタコ、それに先程の魚を詰め込んでいく。

「ついでだ、これをプリティー・バルキリー号に届けてくれ」
「私を何だと思って………」
「この海がいつの時代のどこの海かを調査するのにサンプルが必要なんだって」
「あ……なるほどね」
「さあて、今度こそちゃんと大物を」
「じゃあこっちももうちょっと」

 そう言いながら再度釣り糸を垂らす冬后と潜水する音羽に呆れながら、フェインティアはムルメルティアを伴ってサンプルを運んでいった。



「海水の成分、プランクトンの種類、サンプルの体内含有成分から胃の内容物、全てを比較検証してみた結果が出ました」
「………間違いないわね」

 プリティー・バルキリー号の一室で、エミリーから渡された各種サンプルデータを確認した周王が、こちらで用意したデータとほぼ同一な事を認識した。

「この大量の海水は、間違いなく私達がいた世界の西暦2084年前後、しかも攻龍がいたのとほぼ同一海域の物と見て間違いないわね」
「問題はあのエビ型ワーム、そちらで確認された事が無い個体という事ですね?」
「ええ。攻龍のデータバンクを徹底的に見直したけど、あれほどのワームはほどんと確認された事は無かったし、同型は皆無だったわ」
「おかしいですね………じゃあアレ、どこから来たんでしょう?」
「まったくの新種か、それとも………いえ、確証が無いわね」

 現状で確認された幾つものデータを並べながら、エミリーと周王は結論が出ずに唸りを上げる。

「ヴァーミスの撃退には成功したけど、何がしかのバックがあるのは確実のようらしいけど」
「エルナーが機械化帝国の方でも解析を進めてますが、正直検討もつかないそうです。これだけの複数次元に干渉できるなんて、どれだけの技術とエネルギーがいるんでしょうか?」
「生憎と、そっちは専門外ね。次元工学なんて、こっちではまだ理論体系も出来てないわ。宮藤博士はなんでか初歩を確定できてるけど」
「どの世界でも、技術が一部だけ不自然に発達してるのも特徴ですね。そちらのナノマシン技術、こちらの物と比べても遜色ありません、と言うかアイーシャさんの体に使われている技術理論は、私でも構築できるかどうか………」
「彼女はクリシュナム博士が文字通り命懸けで調整した娘だからね。あのレベルは恐らくこちらでもしばらくは…」

 そこでふと、周王は何かを思い出した。

「そう言えば、アイーシャがここに飛ばされる前に、何かを聞いたような事を言ってたわね」
「何かって、何ですか?」
「さあ………本人も確証が無いみたい。後で聞いてみるわ」
「そうしてください。それじゃあ次は…」

 何気ない会話が、後に重大な意味を持つ事になるのを、当の二人は知る由も無かった。



「あれ、誰か飛んでる」
「う〜ん、同じ顔が二つ? ああそういえばエーリカさん、双子の妹さんも来てるって言ってたっけ」

 RVの微調整をしていた亜乃亜と、素振りをしていた音羽が格納庫の外に見える二人のウィッチの姿に互いに手を休めてそちらを見た。

「………あれ?」
「なんか……」

 程なくして、色々な飛行パターンを行う姉妹の動きの違いに二人は気付いた。

「なるほどな、双子って言ってもこういう違いもあるわけか」
「そりゃ双子だから言うても、なんでもそっくりなわけないやろ」「そやそや」

 双眼鏡を手にその様子を観察していた冬后の呟きに、嵐子と晴子が呆れながら首を縦に振る。

「片方の動きが鈍いんじゃなくて、片方の動きが良すぎるんだな。だからどうしても差が目立つ」
「それはそうでしょう。エーリカさんはトップエースだし、ウルスラさんはトップエンジニア、ウィッチでも畑が全然違いますもの」

 冬后のそばで同じく双子の飛行訓練を見ていたミーナがそう言いながら微笑。

「あ〜、そう言えばそんな話だったっけ」
「あれ、じゃあ妹さんも参戦するの?」
「いいえ、何か思いついた事があるから、飛行時のデータを取りたいと言われてね。今向こうで宮藤博士が計測してるはずよ。きっと新型の開発ね」
「新型! そうかそれとゼロを合体させれば…」
「攻龍にそんな余裕無いぞ」

 新型の言葉に音羽が過敏に反応するが、冬后が一言で切り捨てる。

「そんな冬后さん……この星のすごい未来技術でゼロのパアーアップパーツを作るとか………」
「あのな、基礎設計から始めてどれくらいかかる思っとるんや?」
「ソニックダイバーはただでさえ調整の難しい機体なんや。そうほいほい新型だの合体だのはできひんで」
「うう〜………」

 御子神姉妹に駄目押しされ、音羽は項垂れながら唸り声を上げる。

「音羽」
「んひゃあ!? ってアイーシャ……」

 いきなり気配も無く掛けられた声に、音羽が思わず素っ頓狂な声を上げるが、それはアイーシャだと分かると胸を撫で下ろす。

「音羽、聞きたい事がある」
「何? 私に分かる事?」
「この星に飛ばされる直前、誰かが何かを言っていた。音羽は聞かなかった?」
「飛ばされる時? う〜ん………そう言えば、
何か聞いたような………あっ!」

 思わず声を上げた音羽に、皆の視線が集中する。

「どした桜野?」「桜野さん?」
「確かに聞いた! 気をつけて、あれは機械を統べるもの、って」
「おい、そんな話聞いてないぞ」
「いやその、すっかり忘れてて………」
「まあ、すぐにあの激戦じゃね。でも何それ?」

 照れ隠しに頭を掻く音羽に、亜乃亜も賛同。
 だが、その前の言葉を音羽は口に出す事をためらった。

(あの時確かに、音姉って私の事を呼んだ。あれは、まさか優希? でも……)

 行方不明になった弟の事を内心に隠し、音羽はその言葉の意味を考えていた。



「聞きましたか、玉華」
「ええ、先程報告を受けました」

 マシンクレイドルの最深部、皇帝の私室で余人を退け、厳重にプロテクトを施した上でエルナーと玉華は密かな会談を行っていた。

「機械を統べるもの、確かに音羽はそう聞いたそうです」
「でも、まさか………」
「私も信じられません。しかし、それならつじつまは合います」
「ですが、あれは神話の時代、時空の彼方に封じられた。そのはずです」
「間違いありません。私のもっとも古いデータにも、そう記憶されてます。だが、封じられただけ、倒されてはいないのです………」
「だとしたら、あれが復活したのなら、今の我々に対抗できる力は!」
「………今ある全ての力を結集させても、対抗するのはかなり難しいでしょう。それにまだ、確証があるわけではありません」
「この事は………」
「しばらく我々だけの秘密にしておきましょう。もっとも、明らかにした所で信じてはもらえないでしょうが………」
「ええ、何せ相手は、《神》なのですから…………」





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