スーパーロボッコ大戦
EP27



「全目標データ解析完了」
「想定危険数値、0・87」
「許容危険数値を大幅に逸脱」
「作戦を変更、変更内容は………」



「全装置、設置確認」
「接続の確認を。くれぐれも厳重に」
「いや〜、一時はどうなるかと思いましたが、これで一安心ですね」

 攻龍を中心に、転移装置の設置終了を聞いた鏡明が確認を支持する中、種々のチェックを行っていたエルナーが思わず声をもらす。

「これで明日にでも実験に入れるでしょう」
「再度の襲撃も懸念されますので、用心に越した事は無いはずです」
「こちらでも警戒は厳にしています。対電子戦装備の準備も進んでおります」
「なるほど、あれがそうですか」

 鏡明の説明に、エルナーはふと向こう側を歩く影、まるで鎧のような重装備をまとった小柄な人物を見る。

「……重い」
「仕方ありません。これでも小型化したんですが………」
「これじゃあ思うように動けないよ〜」

 文句を言う人影、試作型防護アーマーをまとった亜弥乎が、隣を歩く白香に文句をもらす。

「やっぱり脱ぐ!」
「改良の余地ありですね………」

 その場で防護アーマーを脱ぎ始める亜弥乎に、白香が項垂れる中、上空を影が通り過ぎる。

「これだけ厳重に警戒してれば、次は直ぐに見つかると思いますし」
「それもそうだね」

 二人の上空、ウィッチと天使がそれぞれ上空警戒に当たり、さらにその上空をカルナダインが常時索敵を行うと言う厳戒態勢が敷かれていた。

「ユナは夜の担当になったってボヤいてたよ」
「無事に攻龍が戻れるまでの辛抱ですね」

 前回の襲撃以降、総員が交代で警戒にあたり、起動時間が短いソニックダイバーですら交代で準戦闘体制を維持するという状態の中、打って変わった平穏が続き、それぞれの修理及び転移装置の設置はつつがなく終わろうとしていた。



「なんか、拍子抜けだね」
「いいんじゃない? またバッハぶん投げられても困るし」

 念には念を入れた警戒態勢にも関わらず何も起きない事に、音羽は攻龍の艦上で思わずぼやき、エリーゼはむしろ喜んでいる。

「エリーゼはもう少しでも早く戻りた〜い」
「色々あったからね。私はもうちょっといてもいいかな? 坂本さんにもう少し剣術教わりたいし」
「だったら早い方がいいわよ」

 そこへジオールが何か含むような笑みで声をかけてくる。

「早くって?」
「さっきオペレッタから通信があって、ウィッチの人達の世界の座標が特定されたそうよ。すでにエージェントを一人向かわせたらしいわ」
「え? じゃあウィッチの人達もすぐ帰っちゃうんですか?」
「装置の実験が終われば、後は座標を入れるだけだから、そうなるわね」
「そっか、じゃあやっと元通りになるのね」
「え、ええそうね」

 エリーゼが無邪気に言う中、ジオールはそれに付随していた情報を言うべきか僅かに迷うが、心中に留めておく。
 不確定だが、ウィッチの世界に多数の転移らしい反応があったという情報を。

「じゃあ、その前に坂本さんに剣の修行を」
「音羽、その前に頭の上の置いてった方が」
「むにゃむにゃ………」
「そうね」

 ここ数日、音羽の頭の上を寝床にしているヴァローナを指差し、ジオールも思わず小さく笑う。

「いや、なんでか私の頭の上が気に入ってるらしくて………クレイドルよりも、私の頭の上の方が多いんじゃないかな」
「い〜っつもそこで寝てるし。音羽の脳が始終暖かいとか」
「他の武装神姫と大分雰囲気が違うのよね、この子」
「寝てばかりで全然サポートしてないし。音羽に合わせたらこうなったとか」
「む〜、そこまで言わなくても」
「ふにゃ? オーニャー、あと五分………」

 言いたい放題のエリーゼに音羽が膨れるが、そんな中ヴァローナは一度起きたかと思うと、また音羽の頭の上に横になる。

「何か、こちらに来てからアンドロイドという物の認識が変わりそうですわね」
「やっぱり早く帰りたい………」
「そう言えば、この子達武装神姫ってどこから来たんだろ? 一緒に連れて帰っていいのかな?」
「………そう言えばそうだよね?」
「私もそこが気になってたのだけれど、エルナーさんはそのままでいいって言ってましたわ」
「いいのかな〜」

 音羽が首をかしげた拍子にヴァローナが音羽の頭からずり落ちそうになるが、寝たまま音羽の髪にしっかりしがみ付き、そのままスリープモードを続行する。

「ま、難しい事は頭のいい人達に任せとこ」
「音羽じゃ知恵熱出すのがいいとこだしね」
「む〜、どうせエリーゼみたいに数ヶ国語出来るほど頭よくないよ!」
「あらあら」

 どうこう言いながらも艦内へと向かう二人をジオールを微笑しながら見送る。

「あの様子なら、伝えない方がいいでしょうね」
「武装神姫の作戦目標を、ですか?」

 呟いた独り言に反応した人間がいた事にジオールが振り向くと、そこにはデータパッドを手にした可憐が立っていた。

「そろそろ、気付く人がいるとは思ってたわ」
「ええ、他に気付いてる人はいますか?」
「エルナーさんは気付いてるわね。核心持てないけど、薄々気付いてる人も何人か」
「どうにも信じられないけど、他に考えられません」
「そうね。私達Gは他の宇宙に行く事は珍しくないけど、そうでない人達には信じられないでしょう。一応、他の人には内緒にね」
「はい。なぜなら武装神姫の本当の目標は………」



「ふああぁぁ〜………ねむ〜い」
「ユーリィも眠たいですぅ〜」
「ほらほら、あと二時間で交代ですから、しゃんとしてください」

 くじ引きで夜の警備当番に当たってしまったユナとユーリィが、エルナーにせっつかれながらも一応パトロールと称してとぼとぼとドッグ周辺を歩いていた。

「ねえエルナー、芳佳ちゃん達も帰れるって本当?」
「ええ、Gの方でウィッチの世界を発見したそうです」
「そっか。じゃあさ、帰る前にみんなで打ち上げパーティーとかどうかな?」
「パーティーいいですぅ! 御馳走いっぱい食べられるですぅ!」

 ユナの提案に、ユーリィが先程とは打ってかわって目を輝かせながらよだれを垂れ流しそうになる。

「う〜ん、無事に帰れる事が決まったら、という事になるでしょうけど………」
「実験済んだらいいんでしょ? だったらいいじゃん♪」
「確かにいいですね〜」

 そこへ上空からRVにまたがった亜乃亜が降りてきて賛同する。

「亜乃亜ちゃんもそう思う?」
「せっかくみんなで頑張ったんだから、少しは楽しい事しないともったいないし」
「だよね〜」
「実験が無事に済んだらよ」
「でもいいんじゃないですか? 折角ですし」

 さらにそこへ上空からエリューと芳佳も降りてきて、ユナの意見にあれこれ述べていく。

「ようし、じゃあ明日の実験が終わったら、みんなでパーティーの準備しよう!」
「さんせ〜い!」
「分かりました!」
「わ〜い、ユーリィいっぱい食べるですぅ!」
「………いいの?」
「明日の実験次第、ですけど………」

 勝手に盛り上がる面々にエリューがエルナーに問うが、エルナーは諦めたのか一応了承する。

「じゃあ私、上にフェインティアさんいたから教えてきます!」
「私もエイラさんとサーニャちゃんに教えてきます!」
「お願いね〜」
「まったくユナはこういう事だけは積極的なんですから………」

 エルナーは完全に呆れるが、今更止めるのもどうかと思って、それ以上は口を出すのを止めた。

(果たして、無事に皆さん元の世界に帰れるといいのですが………)


翌日

「それでは、本日正午から一回目の転移実験を行うそうです」
「各員、第一種戦闘体制で警戒に当たるように。敵襲も十分考えられる、些細な事も見逃すな!」
『了解!』

 ミーナと美緒の説明に、501のウィッチ達は一斉に返答するが、直後にパーティーの話題に切り替わる。

「それで、いつやんの?」「玉華さんが会場用意してくれるそうですから、数日中に」
「バーベキューやろうバーベキュー」「わ〜い!」
「お前達! 今日の実験が無事に終わってからだぞ!」「私お茶用意します」「私も手伝いますわ」
「何か作りたい。材料は?」「リューディアが用意してくれるって。費用はエリカが持ってくれるってさ」
「もうみんなパーティーの事でもちきりね」
「いいのマスター?」

 騒がしい部下達にミーナが微笑むのを、肩にいるストラーフが首を傾げる。

「この実験が上手くいけば、我々も戻れるのだ。羽目を外したくもなるだろう」
「外しすぎるのも問題が………」

 豪快に笑う美緒に、アーンヴァルも思わず苦言を漏らす。

「……お姉様、バーベキューは実験の後で」
「おう、そうだな。じゃあ警備の準備に入るぞ」「早く終わらせよ〜」

 飛鳥に促され、シャーリーとルッキーニがユニットの点検に向かう。

「そう言えば、亜乃亜さんの仲間の人が私達の世界に行ったって聞きましたけど?」
「それなんだけど、その後連絡が取れないみたいなの。しぶとい人だから大丈夫だろうとは言ってたのだけど………」
「はあ………私達の世界でも何か起きてるんでしょうか?」
「何とも言えんな、確かめようもないし。とにかく、今は実験を成功させる事だ」

 芳佳の問いに、ミーナと美緒も言葉を濁す。

「それでは全員、装備を確認の上、定時までに配置につくように。昼食は各自の判断に任せるけど、軽めにね」
『は〜い』

 皆が思い思いに準備を始める中、ミーナと美緒はしばし考え込む。

「もし私達の世界で、似たような事が起こっていたら………」
「大丈夫、501以外にも優秀なウィッチは世界中にいる。何かあったらこちらの世界から救援に来るとも言われてるしな」
「それで済めばいいのだけど………」
「ボクらもいるし、大丈夫だって」「そうです。全力でマスターをサポートします」
「そうね」「頼もしい事だ」

 小さな応援に、二人は頷きながらも、各々の準備に取り掛かった。



「パーティー〜? なんだってそんなのに出なけりゃならないのよ、この間やったんじゃないの?」
「あれはお茶会名目だったしね。なんでも今度は各自何か余興をするのを推奨だそうよ」

 カルナダインのブリッジでフェインティアがふてくされる中、クルエルティアが回ってきたパーティーの詳細に目を通す。

「マイスターはパーティーに何か不信感でもあるのか?」
「うぐっ!?」

 パイルを磨きながら何気なく聞いてきたムルメルティアの一言に、フェインティアが露骨に言葉に詰まる。

「ああ、アレね」
『何ですかアレって?』

 クルエルティアも何かを思い出したのを、興味を持ったのかカルナも聞いてくる。

「あれはソトス星系の防衛戦の後、戦勝記念パーティーで正装だって言われてピンクのフリルドレスを…」
「わ〜〜〜!!」

 思い出したくも無い過去を晒されそうになたフェインティアが大声をあげた所で、アラームがブリッジに鳴る。

『予定時間です』
「あら、詳しい事は後でね」
「言わなくていい!」
「姉さん、そろそろ準備をしないと」

 そこへエグゼリカがブリッジ内に入ってくるが、何か慌てているフェインティアに首を傾げる。

「何かあったの?」
「マイスターがパーティーへの参加を拒否している理由についての説明を…」
「ストップ!」

ムルメルティアの口をフェインティアが強引に塞ぎ、そのまま掴むようにしながら慌ててブリッジから出て行く。

「え〜と……」
「後で説明するわ、それでは随伴艦との接続の後、所定の配置へ」
「はい。実験、うまくいくといいですね」
「失敗率は0・1以下よ。でも念のために」
「………うまく行ったら、私達もチルダに戻れるようになるのかも」
「そこまでは分からないわ。エグゼリカは戻りたい?」
「………私は、このまま地球のおとうさんと暮らすのもいいかなって」
「そうね。それじゃ準備を」

 実験に期待と不安、それらが入り混じった複雑な物を感じながら、トリガーハート達は警戒態勢へと入る事にした。



「全センサー、異常なし」
「通信リンク、オールグリーン」
「実験開始まで、あと30分」

 攻龍のブリッジ内で、種々のチェックが進められる中、艦長は攻龍前方にある転移ゲート発生装置を凝視していた。

「本当にあんなので帰れるのか?」
「今回は小さなゲート開けて、確認用のセンサーポッド入れるだけって話ですからね」

 副長も首を傾げる中、冬后は渡されていた資料に再度目を通す。

「手順だとまず直径3m前後のゲートを発生、そこへ各種センサー内蔵ポッドを投入、もし問題ないなら、向こうでGがポッドを確認、回収して異常が無いかをチェックする事になってます」
「面倒くさいモンだな。この間みたいにいきなり戦場に叩き落されるのも困るが………」
「我々に取っては完全に未知の技術だ。安全を最優先に考慮せざるをえない」

 七恵の詳細説明に、冬后も顔をしかめるが艦長の言葉にブリッジの誰もが同意する。

「ソニックダイバー隊、スプレッドブースにて待機」
「全兵装、安全装置確認」
「実験開始まで、あと15分です」



「装置最終確認完了」
「全接続ライン、点検完了」
「周辺および衛星軌道上、異常確認できません」

 機械人達が次々と報告を上げる中、今回の実験の総指揮を取る事になっている天鬼院・美鬼(相変わらず自分の修理を後回しで浮遊ポッドのまま)が自らも安全を確認していく。

「皆さん、配置完了しています」
「それでは、時間通りに始めます」

 そう言いながら美鬼は配置を再度見直す。
 転移装置の上空にカルナダインを配置し、その三方を囲むようにトリガーハートが待機、その下をプリティー・バルキリー号が配置、その周辺及び艦上に光の戦士達が待機し、Gの天使とウィッチが高空と低空を旋回するように巡回警備に当たり、転移装置の正面に攻龍、その艦上にエリカ7が警戒に当たり、ソニックダイバー隊もいつでも出撃可能な状態のまま待機している。
 完全臨戦態勢の警戒網が敷かれる中、蟻の子一匹通せそうに無い状態で今まさに実験が始まろうとしていた。

「時間です」
「動力炉に接続、エネルギーフィールド形成を…」

 まさに転移装置が動き出そうとした瞬間、突然謎の閃光が周辺を覆う。

「何事です!」
「転移装置が、勝手に動き出しました!」
「すぐに停止を! 動力遮断!」
「それが、まだ動力炉に繋いでません!」
「回線を切断! 動力炉も停止!」
「やっています!」

 美鬼の指示が飛ぶ中、機械人が大慌てで実験の停止作業に入る。
 だが、その時すでに、転移装置を中心に転移用ホールが形成され始めていた………



『緊急事態! 転移装置が暴走!』
「全員、手近の艦内に退避してください! 急いで!」
「そんな馬鹿な! 動力無しで装置が発動するはずが!」
「転移用ホール、形成されます!」

 プリティー・バルキリー号のブリッジ内に緊急事態のアラームが鳴り響き、エルナーの指示で皆が大慌てで艦内へと戻ってくる。
 宮藤博士とエミリーが必死になって現状を調べ上げ、原因を探ろうとする。

「やはり、装置と動力は完全に断線している! これは外部からの操作だ!」
「でもどうやって!? これだけのホール、外部からの操作だけでは開きません!」
「……信じられないが、恐らくはホールの向こう側からエネルギーを供給しているんだ」
「次元間のホール操作!? そんな事が………」
『こちらカルナダイン! トリガーハートおよびGの天使を収容!』
『こちら攻龍! 何がどうなってるんですか!』
「これは攻撃だ! 何者かが、我々をどこかに引きずり込もうとしている!」
「カルナダイン、重力アンカーを攻龍に射出! こちらからも打ち込んで攻龍を引き止めます!」

 悲鳴のような報告があちこちから響く中、皆の前で、とてつもなく巨大な渦が形成されていった。

「なんと巨大な………」
「通常転移でも有り得ません! これでは…」

 宮藤博士が絶句する中、エミリーも悲鳴じみた声を上げる。

「固定用アンカー射出! 攻龍牽引を開始!」
「カルナダイン降下中! アンカー射出距離まで後200!」

 ブリッジに待機していたミサキやポリリーナの声が響く中、とうとう各艦が渦へと引き込まれ始める。

「全員艦内に戻りましたか!?」
「それは確認したわ!」
「出力全開! 攻龍牽引のまま、安全距離まで退避!」
「地上の様子はどうなってますか!?」

 エルナーの言葉に、ミサキが外部モニターを見て奇妙な事に気付く。

「地上にはほとんど影響が出てないわ! このホールは、私達だけを狙っている!」
「指向性転移!?」
「時代もサイズも違うが、戦闘艦や準戦闘艦三隻を!? 一体、何が…」

 下の機械人達がこちらを指差しながら何かしようとしているのが見えるが、すでに巨大な渦からの吸引力はこちらの限界を超えようとしていた。

『こちら攻龍! アンカーを切除してください! 艦長が巻き添えを防げとの命令です!』
「残念だけど、それは出来ない相談ね。それに切除しても、もう間に合わない!」

 ポリリーナが叫ぶ中、更に吸引力は高まり、各艦を大きな振動が襲う。

「きゃああぁ!」
「エルナー! 一体何が起きてるの!?」
「ユナ! 伏せてください! 総員対ショック体勢!」
「ダメ、みんな吸い込まれる………!」

 ブリッジに飛び込んできたユナと亜弥乎にエルナーが叫んだ時、今まで最大の衝撃が各艦を襲った。

「艦体制御不能! 離脱不可能! 転移に巻き込まれます!」
「またぁ!?」
「全システム緊急閉鎖! ダメージを最小限に抑えろ」
「り、了解!」
「オペレッタ! リンク出力最大! 転移先を推定して!」
『了解しました』
「ちょっとちょっと! 問題ないんじゃなかったの!?」
「知らないわよ! いいから伏せなさい!」
「帰れると思ったのに〜!」
「伏せるか何かにしがみ付け!」
「はいマスター!」
「リーネちゃん!」「芳佳ちゃん!」

 幾つもの指示、悲鳴、怒号、それらが渾然と飛び交う中、ある者は伏せ、ある者は手近な物にしがみつき、ある者は傍らの友の手を掴む。
 そして、とうとう三つの船は渦に完全に飲み込まれ、その姿を機械化惑星から消した。
 直後、ウソのように渦は消え、あとは静かな風景だけが広がっていた。

「そ、そんな………ユナさんが………」
「転移装置オーバーヒート! 緊急冷却に入ります!」
「制御装置が幾つかダウンしています!」
「直ぐに復旧を! 玉華様に緊急連絡! それとプリンセス・ミラージュとも協力して皆さんの転移先を捜索! 全てを最優先!」
「被害状況をまとめよ! 動かせる人員、資材を総動員せよ!」
「く、こんな事になるとは………」

 我に返った美鬼と、外からの敵襲ばかりに警戒していた剣鳳と鏡明が急いで各種処理に入る。

「せめて、我々だけでも乗っていれば………」
「言うな鏡明、亜弥乎様だけでも乗っていただけ幸運と思おうぞ」
「転移装置の復旧時間と、転移先の計算を急いでください! 可能ならば、増援部隊を結成します!」

 恐らくそれは間に合わないだろう事を内心確信しながらも、鏡明も自ら転移装置の復旧へと取り掛かろうとしていた………



「うわああ! 落ちてます!」
「きゃああぁぁ!」
「今度はどこだぁ!?」

 攻龍のブリッジ内に悲鳴が響き、それに続けて大きな衝撃が響く。
 それによって生じた水しぶきを見た副長が、少なくても水上である事を確認。
 突然の着水に攻龍の艦体が何度か揺れるが、何とか揺れは収まっていく。

「艦体体勢建て直し、急げ!」
「他二艦は!?」
「上に一つ、後ろに一つ………どうやら無事か」

 上空にカルナダイン、後ろに同じく着水したプリティー・バルキリー号を確認した冬后が一応胸を撫で下ろす。

「各部署被害確認!」
「通信復旧、各システム緊急閉鎖解除!」
「通信リンク、復旧しました!」
「攻龍各部署、現状で異常発見されてません!」
「各システム緊急閉鎖解除、順次復旧………え?」

 七恵がシステムを復旧させていく中、ある事に気付く。

「2時方向、巨大な艦影を確認!」
「敵か!?」
「分かりません! 今確認を………不明艦、接近してきます!」
「イージスシステム復旧は!?」
「今復旧しました!」
「第一種戦闘態勢を…」
「ちょっと待った!」

 そこで双眼鏡で謎の艦を観察した冬后が、思わず手を伸ばして戦闘態勢発動を制止する。

「どうした!?」
「あれ、見覚えが………でもまさか………」

 今見た物を、信じられない冬后の声は、ただ震えていた。



「着水確認!」
「あいたたた。亜弥乎ちゃん、大丈夫?」
「うん、なんとか」
「異常確認の後、浮上!」
「攻龍、カルナダイン、双方無事です!」
「待って! 謎の大型艦、接近! 距離1000!」

 プリティー・バルキリー号のブリッジで皆が起き上がりながらも、矢継ぎ早に復旧作業に入る中、突如として確認された大型艦に色めき立つ。

「確認、急いで!」
「変位エネルギーの類は確認されず、船長260m前後の水上艦!」
「どうやら、現地の船のようですが………」
「現状はどうなっている!」

 ブリッジに入ってきた美緒の目に、拡大された謎の大型艦の映像が飛び込んでくる。

「これは………!」
「知ってるんですか美緒?」
「知ってるも何も、あれは……大和だ!」
「大和……って戦艦大和!?」
「間違いない! ではここは私達の世界か!」
「マスター、そうとも限らないと思います」
「大和、砲塔旋回開始! こちらを狙ってます!」
「いかん! 通信を! 周波数全域!」
「こちらではあいません! 攻龍を通します!」
「攻龍、こちらプリティー・バルキリー号! 接近中の戦艦は大和と判明! こちらからの通信を全周波数で回してください!」
『了解、って本物の戦艦大和ですかぁ!? ってうわああ! 主砲こっち向いてます!』
「だから急げ! 46cm砲に攻龍が耐えられるか!?」
『耐えられません! 繋がりました!』
「大和に告げる! こちら扶桑皇国海軍所属、坂本 美緒少佐! 当方三艦は敵に有らず! 繰り返す! こちら扶桑皇国海軍所属、坂本 美緒少佐! 当方三艦は敵に有らず!」
「もしこれでここがウィッチの世界じゃなかったら………」
「大和と一戦交える事になる可能性が………」
『返信来ました! 回します!』
『こちら大和。本当に坂本少佐が乗っているのかね? そもそも上空の巨大飛行艇は一体………』

 美緒の呼びかけを不安な気持ちで聞いていたポリリーナとエルナーだったが、タクミからの声と続いての返信に胸を撫で下ろす。

「どうやら、助かったみたいですね」
「そのようね。他に反応は?」
「遠方に他複数の水上艦隊らしき反応、でもかなり離れてるわね」
「作戦行動中でしょうか?」
「一体、何が起きてるのでしょう………」



「オペレッタとのリンクは?」
「断線したまま! もう少し待って!」
『プリティー・バルキリー、攻龍とのリンクは異常ありません』
「予想外だったわね………まさかこんな場所に飛ばされるなんて」
「向こうから転移先を操作するなんて………ヴァーミスですらそんな技術は持ってなかったわ」

 カルナダインのブリッジで、マドカがブレータの協力の元、Gとの通信リンクを復活させようと頑張っていた。
 その間にカルナダインのセンサーで周囲の状況その他を調べていたクルエルティアとジオールが完全に予想外の事態に眉根を寄せる。

「うわあ………軌道衛星の一個も無いなんて、どんな原始時代よ」
「どころか、周囲には化石燃料機関の水上艦しかない。戦力として当てになるかどうか」
「それ、ウィッチの人達の前では言わないでね」

 表示されていくデータを流し見していたフェインティアとムルメルティアが同じように腕組みして唸るが、亜乃亜は乾いた笑いを浮かべるしか出来なかった。

『リーダー、大和の艦長が攻龍で会談を行うそうです』
「そう、私もそっちに行くわ。みんなも念のため、いつでも出れるようにしてて」
「了解!」
「私も行きます。カルナ、ここをお願い」
『は〜い』

 ジオールとクルエルティアが攻龍へと向かう中、フェインティアはある疑問を感じていた。

「てっきり、引っ張り込まれたから何か待ち構えてるかと思ったけど、何もいないわよね」
「マイスターの言う通りだ。トラップにしては何か妙だ」
『でも、哨戒に出たエグゼリカも何も発見してませんよ?』
「もしくは、これから何かが………」

 ムルメルティアの危惧は、すぐに現実の物となる事を、誰も知る由が無かった。



「なんとも奇妙な………」

 大和のブリッジ内、大和艦長・杉田 淳三郎大佐とブリッジクルー達が、三隻の奇妙な船を双眼鏡や肉眼で凝視していた。

「あれが情報にあった船なのでしょうか?」
「分からん。坂本少佐がこちらに来るそうだが」
「うわっ!?」

 そこまで言った所で、誰かの悲鳴に皆がそちらを振り向くと、そこに先程までいなかったはずの三人の少女の姿が有った。

「お久しぶりです、杉田艦長」
「坂本少佐!? 今どこから?」
「驚かれるのも無理は無い。これが一番手っ取り早かったので」

 そう言いながら、美緒は一緒に現れた二人を紹介する。

「この二人はミサキとポリリーナ、分かりやすく言えば、未来のウィッチだ」
「乗艦許可も得ずに乗り込んで、失礼しました」「初めまして」
「未来!?」
「まさか本当に………」
「坂本少佐! 御無事だったんですね!」

 皆が驚く中、一人の若い軍人が駆け寄ってくる。

「おう、土方か。大和に乗っていたとは」
「一ヶ月以上も、一体どこにいたんですか!?」

 その軍人、美緒の従兵を勤めている土方 圭介の言葉に、今度は美緒が驚く。

「一ヶ月!? そんなに経っているのか!」
「正確には501の謎の集団失踪が確認されてから明日で40日になる。その間、こちらでも色々と起きている」
「悪いのですが、その説明は向こうの艦長の前でしてもらいたいのですが」

 杉田艦長が告げようとする言葉を、ポリリーナが遮って攻龍を指差す。

「ふむ、情報交換は確かに必要ではあるな。ではボートの用意を」
「それは必要ない。すぐに行ける」
「すぐ?」

 土方が首を傾げる中、美緒が小さく笑う。

「ではポリリーナ、杉田艦長を」
「ええ、これ位の距離なら大丈夫」
「あの、何を………」
「この二人の固有魔法、瞬間移動だ」
「じゃあ行くわよ」

 美緒が告げる中、ミサキが美緒の、ポリリーナが杉田艦長の手を握ったかと思うと、四人の姿がブリッジから掻き消える。

「うわあぁ!?」
「本当に消えた!」
「あの、確かに向こうにいます………」

 残された全員が驚く中、監視手が攻龍の後部甲板を双眼鏡で覗き、そこに現れた四人を確認した。

「坂本少佐は、一体どこで何をしてきたのでしょうか………」
「こちらが聞きたい。だが、こちらの想像できる事では無いようだ………」



「これは驚いた………」
「私も初めて見た時は同じ事を思った。こんな固有魔法を持つウィッチは知らないので」
「こちらから見たら、ウィッチの能力の方がすごいのだけれど」
「失礼します、大和の艦長の方でしょうか」

 そこへモーションスリットの上に軍用コートを羽織った瑛花が声をかけてくる。

「ああ、扶桑海軍・大和艦長、杉田淳三郎 階級は大佐だ」
「自分は、統合人類軍 極東方面第十八特殊空挺師団・ソニックダイバー隊リーダー、一条 瑛花 上級曹長です。当艦攻龍の艦長の命で、大和艦長を案内するように言われました。あの、坂本少佐から当艦の事は……」
「未来から来た、とだけ聞いている。一概には信じられないが………」
「内部を見学してもらいながら、との命です。すぐには信じられないかもしれませんが、艦内を見てもらえれば多少は分かってもらえるかと」
「見学させてもらえるのはありがたい。それと一つ聞きたい」
「なんでしょうか」
「彼らは何をしているのかね?」

 杉田艦長の視線は、攻龍の甲板でそれぞれどこかから持ってきたカメラやビデオカメラで大和を撮っている攻龍のクルーの姿が有った。

「すげえ、本物の大和だぜ大和!」
「もっと近寄ってくれねえかな?」
「46cm砲でけえ!」
「望遠ないか望遠!」
「誰か速水から借りてこい!」

 興奮しているクルー達の姿に、瑛花は赤面しつつ咳払いの真似事をする。

「申し訳ありません。私達の世界では、大和と言えば文字通り伝説の戦艦でして………」
「伝説か。出来れば軍機に抵触しかねないので、撮影は遠慮してもらいたいのだが………」
「い、今止めさせます! ちょっと貴方達!」

 瑛花が慌てて駆け寄るが、杉田艦長はそれをどこか複雑な表情で見ていた。

「つまりこの船は、大和が伝説として扱われる程の未来から来たという事か」
「確か、ざっと130年弱だったと聞いている」
「私達はそれから更に220年程先という事になりますけど」
「どうにも私の頭脳では理解しきれんな………」
「私も未だ理解しきれてない。まあ手助けがあったから何とかなっている」
「お、お待たせしました……」

 そこへ息を切らせながら、没収したカメラを首や両手に吊るした瑛花が案内を再開しようと来る。

「そこまで頑張って制止してもらう程でもなかったのだが………」
「いえ! 軍機に触れる事は止めさせませんと!」
「未来にバレても問題ないと思いますけど?」
「確かにそれはあるかもね」

 没収したカメラをどうしようかと悩む瑛花のそばに、ジオールとクルエルティアが着艦する。

「彼女達もか………」
「初めまして、私は秘密時空組織「G」所属グラディウス学園ユニットリーダー、力天使ジオール・トゥイーと申します」
「私は超惑星規模防衛組織チルダ、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート・《TH32 CRUELTEAR》」
「一体幾つの組織が連合を組んでいるのかね?」
「は、話は中で。皆さんも」
「マスター、資料持ってきました!」
「お、すまんなアーンヴァル」

 艦内に向かおうとした所に、データパッドを持ったアーンヴァルが向かってくるのを見た杉田艦長が今度こそ驚きに目を見開く。

「それは………」
「ああ、これは武装神姫と呼ばれる物らしい。驚くのは無理もないが、かなり助けてもらっている」
「本当だったか………」
「え?」

 杉田艦長の呟きの意味を美緒が知るのは、すぐ後の事だった。



「攻龍艦長、門脇 曹一郎中将です」
「大和艦長、杉田 淳三郎大佐です」

 攻龍の士官室で、二人の艦長が握手をかわす。

「突然の事で、色々驚かれたでしょう」
「正直、半信半疑でしたが、確かにこの船の設備は何一つ、我が国どころかどこの国でも造れないでしょう」

 途中で見てきたソニックダイバーや各種設備、ついでに連絡用携帯端末などに杉田艦長は正直な感想を述べる。

「だが、一番驚いたのはこれです」

 杉田艦長の視線は士官室の中央、そこにある3D地球儀に向けられる。

「これが、我々とワームの戦いの結果です」
「ひょっとしたら、これが我々の闘いの結果になるのかもしれぬ………」

 無差別破壊兵器の影響で虫食い状態になっている地球儀に、杉田艦長の顔が青ざめる。

「さて、まずは何から始めるべきか」
「まずは我々がいなくなった後の戦況が知りたい。そもそもなぜここに大和が?」

 首を傾げる門脇艦長に、美緒が一番気になっていた事を問う。

「現在地は北大西洋、ジブラルタルから約2000kmの海域だ」
「大西洋、まあ前は太平洋に飛ばされたから近いと言えば近いわね」
「待て、確か大和は地中海からアドリア海に向かう予定だったのでは?」

 ミーナと美緒、二人のウィッチが顔を見合わせる中、杉田艦長の顔が深刻な物となる。

「状況が大幅に変わってしまったのだ。実は…」

 杉田艦長がある深刻な状況を述べようとした時、突然室内に甲高い警報が鳴り響く。

「何事だ!」
「カルナ! まさか!」
『レーダーに反応! 10時方向から無数の反応を確認しました!』
「映像回して!」

 それがカルナダインからの警報だと知ったクルエルティアが叫ぶと、クルエルティアの前にカルナダインからの映像が表示される。

「こ、これは………」

 その映像を見た全員が絶句する。
 そこには、おびただしい数のネウロイがこちらへと向かってきている光景が映し出されていた。
 それに一歩遅れて、プリティー・バルキリー、そして攻龍のレーダーも敵影を感知した。

「すまないが、話は後でという事で。第一種戦闘体勢!」
「大和に帰還する! すまないがすぐに向こうへ!」
「分かりました!」

 ミサキが杉田艦長の手を掴み、その姿に瞬間移動で掻き消える。

「マドカ! オペレッタとのリンクは!」
『あとちょっと!』
「亜乃亜、エリュー、ティタは私と出撃! マドカはリンクが回復次第に!」
「ユナ! 敵が来るわ! 急いで準備を!」
『分かりましたポリリーナ様!』
「エグゼリカ! 先陣をお願い!」
『了解です姉さん!』
「私達も!」「だが、なぜここにこれだけのネウロイが………」

 美緒の疑問は、別の疑問で消える。

『3時方向、別種の反応! パターン登録あり、ヴァーミス……って7時方向、ワーム反応複数………5時方向、バクテリアン!? 総数、約400体! 更に増加の傾向!』
「400、だと………」

 カルナが提示したそれが最低限の数字だという事に、門脇艦長も流石に冷たい汗が頬を流れるのを感じた………



「何て数………」

 こちらへと迫ってくるネウロイの大群と、カルナから送られてきた別方向からの軍勢に、エグゼリカは思わず呟かずにいられなかった。

『エグゼリカちゃん! 今行くから! ユーリィ、亜弥乎ちゃん、準備はOK?』
『エグゼリカさん! 今向かってますから無茶はしないでください!』

 通信から聞こえてくるユナと芳佳の声に、ふとエグゼリカの顔に笑みが浮かぶ。

「みんな直ぐに来るから。だから、行くよアールスティア、ディアフェンド! TH60 EXELICA、これより交戦に入ります!」

 向かってくるネウロイの大群へと向けて、アールスティアからの砲火が走る。
 それがこれから始まる激戦の開始の合図となった………





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