スーパーロボッコ大戦
EP30


「各当該監視目標、予定空域に集結中。集結率65、上昇中」
「危険数値、許容範囲を突破」
「使用可能全戦力を逐次投入」
「目標殲滅、遂行中………」



「また別のウィッチ隊が到着しました! 識別信号は507統合戦闘航空団!」
「識別信号を登録。ウィッチ隊の総指揮はどうなっている?」
『こちらクルエルティア! ウィッチの上位指揮ユニットをお連れしました!』
『届いてるか? こちらアドルフィーネ・ガランド少将。ウィッチの指揮はこちらに任せてもらおう』
『カルナダインにエスコート、ブリッジ内で指揮をしてもらいます! カルナ、各ウィッチ隊の識別登録及び識別表示は!?』
『こちらカルナ、準備万端です!』
『こちらポリリーナ、機械化惑星からの物資が次々到着してるわ! 武装、弾薬、医療品何でも持って行って!』

 次々と到着するウィッチ達によって、戦況は徐々に好転しつつあった。

「それにしても、すごい数だな………一体ウィッチは何人いるんだ?」
「現状だと、42名です。まだ到着してない部隊もある模様ですから、最終的には倍近くにはなるのでは?」

 攻龍ブリッジで嶋副長が思わず漏らした呟きに、登録数を確認した七恵が概算こみで答えた。

『ふむ、これはすごいな………こちらガランド、空中母艦に到着した。今からここでウィッチ達の指揮を取る』
「攻龍艦長の門脇だ。ウィッチの指揮を一任する。現状、複数の敵性体と交戦中だが、対処は可能か?」
『問題ない、ウィトゥルースが教えてくれる』

 通信画面に表示されたガランドの肩口のあたりにいる武装神姫の姿に、攻龍のブリッジ内で僅かな驚きと納得の表情が皆に現れた。

「本艦6時方向、小型ワーム複数体確認!」
「ソニックダイバー隊は!」
「現在格納庫にて補給中!」
『こちらで受け持とう。504、手の開いてる者から新たな敵群に攻撃を開始』
『こちら504竹井、了解しました。………余談ですけれど、少将ストライカーで飛んできませんでした?』
『気にするな』
「少将って事は、お幾つなんでしょう?」
「さあ………どう見ても坂本少佐より年上に見えますけど………」

 通信内容にそこはかとなく疑問を覚えた七恵とタクミが小声で話すが、新たな敵群の出現に即座に疑問を思考の隅に置いてそれぞれの仕事を再開する。

『こちらエルナー、敵の出現パターンから明らかに一定の感覚を持って転移してきている物と思われます! それらしいワームホール反応探知に尽力します!』
『こちらブレータ、演算を一部ワームホール探知に割きます』
『こちらアーンヴァル、増援艦隊が一部到着、交戦状態に突入しました! なおも増援がこちらに向かってます!』

 次々と状況が好転する要素に、攻龍のブリッジ内に僅かに緊張が緩む。

「なんとか巻き返せますかね?」
「敵の総戦力が不明だ。もしこちらの戦力以上に存在するのなら、決して安心は出来ない」

 冬后が僅かに顔を緩ませながら問うが、門脇艦長はなおも緊張状態を保ったままだった。

「センサーに大型反応! 8時方向から全長30m前後のバクテリアン接近!」
「言ってる端からこれか!」
「506とGが交戦に入ります!」



「な、なんじゃアレは!?」
「あれって………」

 ハインリーケの上げた声に皆がそちらに一斉に振り向き、海面を大きな波を上げながらこちらに向かってくる巨大な影に唖然とする。
 それは、どう見ても巨大なシャコ貝のような物体だった。

「あの、敵なんでしょうか?」
「敵だよ! あれ知ってる!」

 邦佳も思わず唖然とするが、そこに亜乃亜が鋭い声を上げた。
 目前まで迫った巨大シャコ貝はその口を大きく開く。
 その中には、これまた大きなアザラシが姿を現した。

「………あれ撃っていいのか?」「さあ………」
「攻撃!」

 予想外の敵にB中隊のウィッチ達も動きが止まるが、エリューの号令と同時に、皆が一斉に攻撃を開始する。

「プリンセス・セイレーン! こんな所まで!」
「違うよ! 構成元素が全く一致しない! コピーみたい!」

 その巨大アザラシ、かつてGの天使達が戦った事のあるプリンセス・セイレーンの登場にジオールが驚くが、マドカが素早く解析して違う事を突き止めた。

「ここに来る前も偽者出てきた。多分他にも出てくる」
「ええい、偽者だろうがなんだろうが構わん! 全員攻撃じゃ!」

 ティタの淡々とした指摘に、ハインリーケは半ばやけくそで叫びつつ、自らも銃口をセイレーンに向ける。

「胸のオーブ、あれが弱点よ!」
「コアという訳じゃな。狙いやすくてよい!」

 亜乃亜の指摘に攻撃がセイレーンの胸へと集中しようとするが、セイレーンはその巨体に似合わぬ高速で貝ごと海面から浮かび上がり、攻撃を回避する。

「早っ!?」
「させるか!」

 邦佳が驚く中、エリューは素早くRVの機首をひるがえし、レーザーをオーブへと集弾させる。
 攻撃を食らいながら、セイレーンは体を捻り、巨大なナイフを無数に投じてきた。

「サーカスではないぞ!」
「迎撃よ!」

 ウィッチと天使達は迫るナイフをかわし、防ぎ、撃墜していく。

「気をつけよ! 愉快な容姿と違って強敵じゃ!」
「他にも来るわよ、お嬢さん」

 ハインリーケが叫ぶ中、イーアネイラが警告を発する。
 水中から空中へと跳ね上がったイーアネイラを追うように、水中から無数の小型バクテリアンが浮上してウィッチと天使へと襲いかかる。

「この、この!」
「雑魚はこっちで受け持つ! あのデカアシカを!」「え、オットセイじゃないのか?」「トドじゃないの?」

 襲ってくる小型バクテリアンに亜乃亜が攻撃を仕掛けるが、それを遮るようにしてB中隊のウィッチ達が小型へと攻撃を集中させていく。

「急いで! こいつピンチになると、小型を一斉に呼び出すわ!」
「え〜!?」
「また何か来るよ!」

 エリューの指摘に邦佳が更に驚くが、そこにハンチングハットを被ったボーイッシュなウィッチ、イザベル・デュ・モンソオ・ド・バーガンデール少尉がセイレーンの奇妙な挙動に注意する。
 直後、セイレーンはボール型に導火線という古めかしい型の巨大な爆弾を投擲、全員が仰天して一斉に逃げだし、投擲された爆弾は弧を描いて着水、爆発して巨大な水柱を上げる。

「ええい、多芸な海獣類じゃ! コアもやけに固いではないか!」
「でも効いてる! あと一押し!」
「みんな、D・バースト準備! 一気に倒しましょう!」

 短期決戦にするべく、ジオールの指示で全RVがD・バーストの発射態勢に入った時だった。
 セイレーンは突然巨大シャコ貝の中に入ったかと思うと、海面へと向っていく。

「逃げよったぞ!?」
「アレ? そんなはずは………」
「違う、狙いはあっち」

 ティタが呟きながらセイレーンの向かっていく方向を指さす。
 そこには、大和の姿が有った。

「いかん! 攻撃、攻撃じゃ!」
「大和に緊急連絡! 回避を!」

 目的が大和への体当たりだと悟った全員が一斉攻撃をかけるが、異常に固い貝に攻撃は弾かれるだけだった。

『ソニックダイバー隊、大型バクテリアンの大和突撃をなんとしても阻止するんだ!』
「了解! ソニックダイバー隊全機、目標を大型バクテリアンに変更!」
『504、506を援護し、大和防衛に当たれ』
「504竹井、了解しました。みんな、なんとしてもあの貝を止めるのよ」
『了解!』

 冬后とガランドの指示が飛び、ソニックダイバー隊と504・アルダーウィッチーズが即座に狙いをセイレーンへと変更する。

「させない、MVソード!」
「赤ズボン隊、突撃!」

 先陣を切って音羽と赤ズボン隊が突撃し、壮絶な集中攻撃を食らわせるが、それでもなおセイレーンの突撃は止まらない。

「喰らえ〜、ドラマチック・バースト!」

 亜乃亜がD・バーストを発射、無数のサーチレーザーがセイレーンを襲うが、それですら貝の表面で弾かれてしまう。

「ダメ、MVソードも通らない!」
「可憐、どこか密度が弱い所は!」
「今探してますが、どこもほとんど………」
『こちらアーンヴァル、向かってくる目標の速度が早い上に水面ギリギリで、大和主砲で狙えません! 激突まであと300秒!』
『504及び506、大和前に集結してシールド全開、直撃だけは避けろ』
「ええい、それしかあるまい!」
「皆、急いで!」

 ガランドの指示でウィッチ達が大和の前に防衛線を構築しようとするが、天使とソニックダイバーはなおもなんとか動きを止めようと攻撃を続けていた。

「どこか、どこか密度が低い所が………!」

 可憐が焦りながら、必死になって風神のレーダーを総動員させていた時だった。

「おい、そこの大型ストライカー!」

 下から響いてきた声に可憐がそちらに向くと、増援で来たらしい魚雷艇の上で仁王立ちしている一人の陸戦ストライカーを履いたウィッチと目が合った。

「あの、今急いで」
「分かってるさ。だから頼みがある。私をあの貝の上に運んでくれ」
「え?」

 妙な提案に、可憐がまじまじとその陸戦ウィッチを見る。
 よく見れば、スオムス陸軍の軍服をまとったその陸戦ウィッチは銃を手にしておらず、なぜかスコップと巨大な手榴弾を手にしていた。
 凛々しいその目に何か策があるらしいと考えた可憐は、魚雷艇に近寄るとその陸戦ウィッチの手を風神で掴んで一気に舞い上がる。

「それで、何か策は?」
「策? そんな物は無い」
「え?」

 あっさりと断言された事に可憐が絶句するが、その陸戦ウィッチは貝の真上まで来ると手を話して貝に着地、そのまま一気に中央へと進んでいく。

「誰か貝の上に!」
「避けて! 危ない!」

 誤射を懸念して天使もソニックダイバーも攻撃が一時中断する中、貝の中央で陸戦ウィッチは手にしたスコップを高々と持ち上げ、そのまま一気に振り下ろす。

「ふん!」

 気合と共に、スコップの先端が今まで如何な攻撃をも弾いていた貝の表面に深々と突き刺さった。

「………え?」「ウソ!?」

 自分達が繰り出した近接攻撃も弾かれていた音羽とエリーゼが目を見開く中、スコップが貝の表面をまるで発泡スチロールでも掘るがごとく、あっさりとえぐっていく。

「はっはっはっ! この程度か!」

 高笑いを上げながら、陸戦ウィッチはそのままいとも簡単に貝を掘っていき、瞬く間にセイレーンを守っていた貝に大穴が開いていく。

「そおれ!」

 最後の一息と同時に、穴が貫通。
 中にいたセイレーンと目が合うと、陸戦ウィッチは不敵な笑みを浮かべ、そこに持っていた巨大な手榴弾を次々と入れていく。

「退避!」
「可憐、彼女を回収!」
「D・バースト発射可能な人は、あの穴に向けて発射!」

 瑛花が慌てて陸戦ウィッチの回収を可憐に指示、ジオールは予想外の好機に一斉攻撃を叫んだ。

『ドラマチック・バースト!』

 RV全機が一斉にドラマチックバーストを穴へと発射、閉鎖された貝の内部で巨大手榴弾と合わさって大爆発を起こし、巨大な火柱と共に断末魔の絶叫が響き渡る。
 セイレーンの体が貝ごと崩壊しながら海中へと沈んでいき、それを見ていた皆が喝采を上げる。

「良かった………」
「ふん、あの程度で苦戦するとはだらしない連中だ」

 可憐も安堵の吐息を漏らすが、当の陸戦ウィッチはさも当然とした顔をしていた。

「おっと、自己紹介がまだだったな。私はスオムス陸軍所属、アウロラ・E・ユーティライネン中尉だ」
「あ、私はソニックダイバー隊・風神パイロット、園宮 可憐曹長と言いま…ユーティライネン、さん?」

 自己紹介した陸戦ウィッチ、アウロラの苗字に聞き覚えがあった可憐が、思わずアウロラの顔をまじまじと見つめる。

「あの、ひょっとしてエイラさんの………」
「お、妹を知っているのか? 今どこにいる?」
「向こうの、青い宇宙…いや飛行戦艦の方です」
「そうか、ではそっちに向かうとするか」

 元乗っていた魚雷艇に降り立ったアウロラはそう言うと、艦首をそちらへと向けさせながら、可憐へと向かって手を振る。

「え〜と、エイラさんのお姉さん?」
「………みたいです」
「ウィッチの姉妹って、ロクなのいないんじゃない?」
「すごいお姉さんですね〜」
「すごすぎよ………」

 ソニックダイバー隊も天使達も遠ざかっていく魚雷艇を呆然と見ていたが、新たな敵群に慌てて戦闘を再開した。



「みんな、無茶はしないで! 怪我した人やお腹すいた人は後ろに!」

 プリティー・バルキリー号の上で負傷や補給に来る者達に叫びながら、ユナはマトリクスディバイダーPlusを連射する。

「ユーリィ補給完了ですぅ!」

 ダメージから復帰したユーリィもユナの隣で双龍牙を連射していく。
 なお、そばの海面にはユーリィ一人に中身を食いつくされたコンテナが数個、海中へと沈んでいく所だった。

「リューディア、送れるだけ物資を送りなさい! 幾らあっても足りませんわ!」
「エリカ様、まだ治療の途中です! 動かないで!」
『全物資を送るとなると、合計で…』

 治療を受けながら転移装置に向かってエリカが怒鳴るが、リューディアが総額を言おうとした所で転移装置にギャラクシーブラックカード(限度超無制限)を叩きつける。

『現在こちらで転移ゲートの出力強化に取り掛かってます!』
『なんとしても永遠のプリンセス号とリンクさせるのだ!』

 通信の向こうでは鏡明と剣鳳が怒鳴りながら切り札とも言えるミラージュキャノンを転移可能にさせるべく、奮闘している姿が見えていた。

「これで、魔力が回復するの?」
「実地試験済みだ、保証する」
「へ〜、不思議な飲み物ですね」

 補給に立ち寄った圭子と真美がバルクホルンから手渡された回復ドリンクを不思議そうな顔をしながら、一緒に飲み干していく。

「おや、確かに魔力が回復してる。これあとでまとめてウチの部隊に配備してくれないかしら?」
「いいですね、でもどこで製造してるんでしょうか?」
「言っても信じられないだろうから、聞かない方がいいぞ」
「未来だよ」

 圭子が興味津々で次々と送られてくる回復アイテムや弾薬の方を見つめるが、バルクホルンが言葉を濁した所でハルトマンがあっさりと教える。

「………未来?」
「正確には仮定因果律線上の一つに存在し得る世界軸上の未来です、陛下」
「たまにあんたの言ってる事が分からないのよね………」

 首を傾げる圭子に、サイフォスが詳細を伝えるが、余計混乱しただけだった。

「さて、マルセイユとライーサも補給に戻らせないと」
「マルセイユさんのお陰でなんとか戦線は維持出来てますけど………」
「今から、攻勢に転じます」

 再出撃しようとした圭子と真美の背後で、誰かの声が聞こえたと思うと、何かが格納用ハッチから降りてくる。

「あなた、確かハルトマン中尉の」
「妹のウルスラ・ハルトマンです。姉さん、今まで任せてしまってすいません。けど、今完成しました」
「へえ、これって………」


「きゃあ!」
「ライーサ!」

 シールドの限界ギリギリの攻撃を食らった相方がバランスを崩しそうになるのを、とっさにマルセイユがサポートに入ってガードする。

「すいません!」
「一度補給に下がれ! ケイ達が来るまで、私が持たせる!」
「けれど…」

 一瞬ためらったライーサだったが、その脇を何かが高速で通り過ぎて行く。

「………ハルトマン?」

 通り過ぎていった謎の機体に、見覚えのある顔が笑みを浮かべていたのをマルセイユは唖然として見送った。

「ウルスラ、すごいよこれ!」
「出力調整はこちらでやります。姉さんは戦闘に集中してください」
「了〜解!」

 プリティー・バルキリーから発進した円盤翼機にも似た特異なシルエットを持つ未知のストライカーユニット、幾つもの世界の技術理論の結集により完成した新型魔力同調式複座型ジェットストライカーユニット《ホルス》を駆りながら、ハルトマンは喝采を上げる。

「わ〜い、早いよこれ!」
「魔導タンデムエンジン、出力安定。加速率、予測値より7%上昇。各部数値予測内」

 練習用複座型ストライカーユニットと違い、両者が前後にややずれる形となって騎乗し、上前方部でパイロットをする姉は驚異的な速度に喝采を上げ、下後方部の妹は各種計器をチェックしていく。
 試作型ジェットストライカーユニットの欠点であった魔力の過剰消費を抑えるべく、魔力の波長が近い血縁者同士の複座によって解決した新型機に、周辺の敵が反応して近寄ってくる。

「行くよ〜!!」

 ソニックダイバーの余剰パーツを流用した20mm機関砲を手にとったハルトマンが、周辺に群がってきたネウロイとヴァーミスの編隊に向けて、一斉斉射。
 離れた弾幕は、周辺の敵をまとめて薙ぎ払っていく。

「うわ、すごい威力!」
「姉さんと私の二人分の魔力が上乗せされた結果です。魔力同調の効果は予想以上、消費率も問題なし」

 ウルスラが計器を確認しながら、バイパスその他を調整していく。
 妹に微調整を任せ、姉は新型ストライカーで戦場を縦横に飛び、次々と敵を撃墜していく。

「ずるいぞハルトマン! なんだそのストライカーユニットは!」
「へへ〜ん、あげないよ〜」
「すいませんマルセイユ大尉、現状では魔力波長の近い血縁者でしか使えないんです」

 驚異的な性能にマルセイユが文句を言うのを姉がからかい、妹が淡々と説明して断る。

「ハルトマン中尉、調子に乗って突出し過ぎないで! 他の人達は補給と治療は済んだ!?」
「大体終わってます!」「うじゅ! やるぞ〜!」「お返しはさせてもらいませんと」
「ストライクウィッチーズ、出撃!」

 他の部隊のウィッチや新型ストライカーを駆るハルトマン姉妹が奮戦している間に、ミーナは501の他のメンバー達が態勢を整えた事を確認し、再出撃を命ずる。

「行こうエイラ」「分かったサーニャ………ん?」

 サーニャに伴われて飛び上がったエイラだったが、ふと妙な悪寒が背中を駆け上がる。

「い、今何かイヤな事起きそうな予感ガ…」
「何が?」
「ほう、面白いストライカーユニットがあるようだな」

 突然下から聞こえてきた声と、見えた未来にエイラの全身が凍りつく。
 理性では拒否しつつも、ゆっくりと足元を見ると、そこには魚雷艇の上からこちらを見上げているアウロラの姿があった。

「ね、ねねね、姉ちゃん!?」
「無事のようだなエイラ」
「お久しぶりです、アウロラ中尉」
「リトビャク中尉も元気そうでなによりだ」
「なんでここに居るンだ!? 一線退いて回収部隊のはずだろ!?」
「戦闘可能なウィッチは総動員との指示だったからな。あちこちから前線復帰したウィッチが集まってるぞ。それとあの新型、他に無いのか?」
「あるわけナイだろ! 姉ちゃん何するつもりだ!」
「血縁者なら乗れるのだろう?」

 嬉々とした表情でそう言う姉に、エイラの顔色がどんどん青くなっていく。

「一機しかないシ、そもそも姉ちゃん陸戦ウィッチだロ!」
「むう、そうか」
『待ってください! 設計データは機械化惑星に転送済みです! 向こうの技術力ならばすぐに弐号機が製造できます!』
『調節データも今解析している。調整すれば他のウィッチにも応用出来ると思う』
「余計な事言うナ〜〜〜〜!」

 明らかに乗りたがっているアウロラをなんとか押し留めようとしたエイラだったが、そこに飛び込んできたエルナーと宮藤博士の言葉に頭を抱え込む。

「はっはっは、それでは弐号機完成まで、久しぶりに姉妹共闘と行くか!」
「共闘した事ナんて無かったロ!」
「そうだったか? いやリトビャク中尉も交えて三人で行くとするか!」
「分かりました」
「聞くなサーニャ〜!」

 エイラは絶叫しながら、押し寄せてくる敵へと向けて銃口を構えざるをえなかった。



「グラーフ・ツェッペリン到着、交戦に入りました!」
「戦線、更に拡大! 各ウィッチ隊が奮戦、なんとか押し始めました!」
「対ネウロイ用三式弾、非常時用以外残弾無し! 徹甲榴弾に変更しました!」
「ほとんどのウィッチ達は到着しました! 反撃開始です!」

 大和のブリッジ内、主砲発射の轟音が途切れない中、矢継ぎ早に報告が相次ぐ。

「一体、敵はどれくらいいるのだ? すでに相当数が撃墜されたはずだが………」

 杉田艦長が多数のウィッチ達によって次々と撃墜されているはずが、一向に数が減ったように見えない敵影に顔をしかめる。

「恐らく、あちこちからワームホールを使って転移してるようです。現在場所を特定中ですから、それさえ分かれば、敵の増援を遮断出来ます」
「幾つか分からない言葉が混じってるが、なんとなくは分かった。それまでの辛抱か」

 ブリッジ内でターミナルを操作していたアーンヴァルの説明に、何人かは顔を見合わせるが、杉田艦長は概要だけは把握出来たらしく、いささか渋い表情のまま、飛来する敵と迎撃するウィッチ達を見つめていた。

「それと、さっきから気になってるんですが、坂本少佐、何かおかしくありませんか?」

 ブリッジ内で情報整理を手伝っていた土方が、上官の戦い方に違和感を感じ、それとなくアーンヴァルに問うた。

「坂本少佐、出撃してから一度も刀を抜いていませんし、なんか腰にいっぱい下げた水筒を次々と飲み干して………」
「! マスター、すぐに帰還してください! それ以上の戦闘は無理です!」
『問題ない、ドリンクはまだ残数は残っている。援護射撃くらいはできるだろう』
「けど、マスターの魔力は戦闘行動を行うにはもう限界です!」
『………そうも言ってられないようだ』

 通信越しに、美緒の言葉に続けて銃の連射音が響く。

「限界って、坂本少佐の魔力はもうそこまで………!」
「はい、前の戦闘でかなり無理をして………」
「少佐! 帰還してください! 危険です!」

 土方も通信機に張り付いて叫ぶが、美緒は聞き流して戦闘を続行していた。

『情報が届いてるぞ、坂本少佐。撤退しなさい。指揮官命令だ』
『しかしガランド少将………』
『それに、代わりが到着した。彼女なら安心して任せられるだろう』
『代わり?』
『わ〜はっはっは!』

 ガランド少将からの命令にも抵抗しようとする美緒だったが、そこで通信機から聞き覚えのある高笑いが鳴り響いた。

「な、なんでしょうか今の?」
「さあ………?」

 アーンヴァルが思わず耳に当たる部分の聴覚素子を抑える程の高笑いに、土方も首を傾げる。
 大和のブリッジ内でも首を傾げる者が出る中、その前を一人の扶桑海軍のセーラー服を着てマフラーを巻いた小柄なウィッチが通り過ぎていった。

「新しいウィッチの到着を確認、部隊認識………無し?」



「たあぁぁぁ!!」

 気合と共に小柄なウィッチが手にした扶桑刀を一閃、軌道上にいた敵を片っ端から斬り捨てていく。

「そこだぁ!」

 斬撃の軌道上から逃れた敵には、即座に身を翻して予想移動位置に斉射、放たれた弾丸は見事に敵へと全弾命中していく。

「すごい………坂本さん以外にあんなウィッチが………」
「な、なんかエイラさんのお姉さんと違う意味で強くない?」

 見事としか言い様のない小柄なウィッチの戦闘機動に、音羽と亜乃亜は思わず攻撃の手を休めて見とれてしまう。

「あの動きに予測射撃………まさか、義子か!?」
「ん? おう坂本、久しぶり!」

 美緒に気付いたその小柄なウィッチ、かつての戦友である西沢 義子 飛曹長が扶桑刀を握ったまま手を降ってくる。

「義子、あなたどこにいたの!? 連絡取ろうとしたのに、全然見つからなかったのよ!」
「そうか? そういや立ち寄った基地で何か言われてたな」

 同じく義子の姿に気付いた醇子が声を上げるが、義子は気にせずに戦闘を続けていく。

「それにしてもいいなここは! 倒しても倒しても敵が出てくる! 来た甲斐がある!」
「義子、お前状況理解しているのか?」
「わかってるぞ、最強ウィッチ決定戦が行われるってな!」

 嬉々としている義子に、さすがの美緒も一瞬表情が硬直する。

「違うのか? こいつはそう教えてくれたぞ」

 そう言いながら義子は傍らにいる大型ウィングに大剣を持った武装神姫、戦乙女型MMSアルトレーネを指差す。

「え〜と、そこの武装神姫」
「アルトレーネなのです。マスターには一応説明したのです………」

 他の武装神姫と違い、何かすでに疲れてるような表情をしたアルトレーネは、それだけ言うと視線を逸らす。

「ご主人様、何があったんでしょう?」
「ハウリン、聞かない方がいいわ。なんとなく想像がつくから」
「確かにな………」

 かつて美緒、諄子、義子の三人でリバウの三羽烏などと言われた過去から、義子の性格はよく理解している諄子と美緒がとんでもないのをマスターにしてしまったであろうアルトレーネに憐憫の視線を送る。

「坂本、見てたがなんか無理でもしたか? ここは私に任せて、休んでおけ」
「…そうだな。義子、諄子これを!」

 美緒が残った回復ドリンクを二人へと投げ渡し、アルトレーネとハウリンがマスターに代わって受け取った。

「なんだこれは?」
「それを飲めば魔力が回復する。まだあるだろうから、必要ならあっちの駆逐艦か青い飛行艦の所に行ってくれ」
「おう、ありがとう」
「ひっ!?」

 礼を言うなり、義子は手にした扶桑刀で回復ドリンクの口(アルトレーネの前髪含む)を切り飛ばし、それを一気飲みする。

「色々とすごい人だね、あっちのマスター………」
「なにせ、リバウの魔王なんて呼ばれてたから。それじゃあ美緒の抜けた分、よろしく頼むわよ義子」
「おう任せとけ! 行くぞアの字!」
「アルトレーネなのです!」

 美緒の抜けた穴を埋める、という気が有ったのか無かったのか、魔王と戦乙女が、押し寄せる敵へと向かって突撃していった。



「大分出遅れたようだな」
「仕方ありません、出発も遅れてしまいましたし」
「あんた達、もっと速度出ないの?」
「無理いうな! これでも全速力だ!」

 主戦場に一番遠かった502・ブレイブウィッチーズが、すでにかなり戦況が進んでいる事を通信越しに確認しつつ、フェインティアの先導で先を急ぐ。

『フェインティア、こちらカルナ。最優先事項の変更です』
「どうしたのカルナ?」

 突然届いたカルナからの通信に、フェインティアの動きが止まる。
 それを見た502のウィッチ達も足を止め、ブライトフェザーが通信を仲介して皆にも見せた。

『こちらエルナー、サーチの結果、そこから近い場所に、ワームホールの存在が確認されました。敵群の転移も確認しています。どうやらそこから一度散開してからこちらに向かってきている模様です。座標を送りますから、ウィッチの方々と共にワームホールを破壊してください』
「なるほど、こんな所に………破壊は可能かしら?」
「ワームホールって何だい?」
「門のような物、と思って下さい」
「破壊って、壊したら素通しって事は………」
「データから考察するなら、不活性状態で安定化、転移時のみ実体化してるようです。不活性状態で飽和レベルにまで攻撃を加えれば、崩壊消失するはず」
「相変わらずお前の言ってる事はほとんど分かんないな〜」

 最後の直枝の一言に、502全員が頷く。

「全く、なんだってパーフェクトな私がこんな連中と………」
「文句は後だマイスター、敵援軍の停止は最優先作戦目標だ」
「分かってるわよムルメルティア。方向はあっちね、急ぐわよ」
「だから速度が違うのだが」

 一応ウィッチ達に併せて低速飛行するフェインティアに先導され、ウィッチ達はワームホールの場所に向う。
 たどり着い先、そこには海面に巨大な半透明の渦が浮かんでいた。

「これが、ワームホール?」
「間違いないわね。かなりの大型、しかも常時接続なんてどうやってるのかしら?」

 ラルの質問に、自らのセンサーを総動員して状態を確認したフェインティアが間違いない事を確認する。

「一応これは閉じてるって事でいいのかな?」
「鍵は開いている、向こうはいつでも来れると思えばいい」

 クルピンスキーにムルメルティアが説明しながら、全兵装をワームホールへと照準していく。

「皆さん、先程言った通り、この状態を維持するのはかなりのエネルギーが必要です。再度開く前に、皆さんの魔力を全開で攻撃すれば、計算上十分に破壊できます」
「仕組みは分からないが、そういう事なら簡単だ。ブレイブウィッチーズ総員、あの渦に向けて構え! 合図と同時に、全魔力を込めて一斉攻撃!」
『了解!』

 ラルの号令の元、ウィッチ達が銃口を一斉にワームホールに向け、魔力を込めていく。

「ガルトゥース・ガルクァード、サイティング! フル出力チャージ!」

 フェインティアもフルパワーで攻撃準備に入る。
 そこで、ワームホールが発光を始めた事に気付いた。

「行けない、活性化が始まった!」
「転移が始まります! 攻撃を!」
「全員、撃…」
「そうはいかないのよね〜」

 武装神姫達の焦った声にラルが攻撃を命じようとした時、突然上空から声が響いてきた。
 全員が一斉に振り返り、そこにいる真紅の影に絶句した。

「ああ、あいつだ!」
「ホントにもう一人いやがったぞ!」
「現れたわね、偽者!」

 その真紅の影、フェインティア・イミテイトの姿にウィッチ達は口々に叫び、フェインティアも怒りを露わにする。

「それ、今壊される訳にいかないのよ、だから!」

 フェインティア・イミテイトの声と同時に、周囲に一斉に攻撃ユニットが出現して狙いを定める。

「散開!」

 ラルが攻撃を中断して叫び、全員が一斉に散った直後、すさまじい弾幕が一斉に襲いかかる。

「またこれ〜!」

 ニパの泣き叫ぶ声を掻き消すような攻撃に、全員が持てる限りの飛行技術とシールドなどを駆使して回避していく。
 フェインティア・イミテイトの攻撃は巧みで、ワームホールへの直撃は的確に避け、なおかつウィッチやフェインティアがワームホールに近づけないように的確に弾幕で誘導していた。

「なんて火力………! とても近寄れない!」
「ラル隊長! ロスマン曹長! こっちへ! 下原少尉!」
「分かりました!」

 身体的問題で他のウィッチよりも僅かに動きが鈍い二人を庇って、アレクサンドラと定子が二人がかりでシールドを張ってなんとか攻撃を防ぐ。

「この野郎〜!」
「ナオちゃん!」

 強引に突撃した直枝が扶桑刀を抜き放ち、弾幕を回避しながら攻撃ユニットの一つを斬り裂き、クルピンスキーがそれを援護しながら銃弾を叩き込み、なんとか撃破するが、攻撃ユニットはまだ多数有った。

「ムルメルティア!」「了解だマイスター!」

 フェインティアが最高速度の高速機動で弾幕をかいくぐってアンカーを叩き込み、ムルメルティアもその小さな体を活かして攻撃の隙間から攻撃ユニットにインターメラル 超硬タングステン鋼を連続して叩き込んでいく。

「へえ、でもこれならどう!」

 次々と攻撃ユニットを破壊していく一番厄介な二人に、フェインティア・イミテイトはいきなり攻撃を一人に集中させる。

「え………」
「マズ! ガルクァード!」

 自分に攻撃が集中した事に気付いたニパが必死にシールドを張るが、圧倒的攻撃にシールドが破砕する直前、フェインティアがアンカーで強引に弾幕の外へと引っ張りだした。

「あうう………」
「ニパさんこちらに!」

 直撃は避けたが、かなりかすめたニパが目を回しかけてるのを見たジョゼがアンカーから離れたニパを回収し、ニパの固有魔法の超回復能力に自分の固有魔法の治癒魔法を重ねてかける。

「陰険ねアンタ!」
「さあね、でも何度でもやるわよ」

 フェインティアが無事だったニパの方を横目で見つつ言い放つと、フェインティア・イミテイトが庇われているラルとロスマンへと目を向ける。

「まずは、鈍いのからかしらね!」
「逃げなさい!」

 オリジナルとイミテイト、二人の口から全く逆の言葉が飛び出し、無数の弾幕が一斉にラルとロスマン、そしてそれを守るアレクサンドラと定子へと集中する。

「く、これは………」
「も、持ちません!」
「二人共、私達を置いて逃げなさい!」
「このままじゃ共倒れになるわ!」
「拒否します隊長!」
「でも、あとどれくらい…」

 シールドの限界を超えるような弾幕に、二人がかりでもシールドがきしみ始める。

「やめろぉ!!」
「させるかあ!」
「遅い!」

 直枝とクルピンスキーが攻撃を止めようと攻撃ユニットに襲いかかるが、そこへフェインティア・イミテイト自身が高速で二人を弾き飛ばす。

「この…」
「マイスター、増援を確認」

 フェィンテイアも攻撃に移ろうとした時、ムルメルティアが短く報告しながら、上空を見た。
 そして、上空から管楽器を思わせる甲高い音が響いてくる。

「何…」

 フェィンテイア・イミテイトも思わず上を見た時、何かが急降下、同時に砲撃してきた。
 急降下と同時に放たれた砲撃は、それぞれが恐ろしい正確さで攻撃ユニット一つ一つに直撃、一撃で破壊していく。

「私のユニットが!?」
「一撃! これは…」

 予想外の攻撃に、フェインティアも上空を見つめる。
 そして、上空から顔に傷跡のある、とんでもない大型の砲を装備したウィッチが通り過ぎ、そのまま海面すれすれで水平飛行に移って上昇してくる。

「あの音、そしてあの急降下攻撃、ルーデル司令!」
「ユニットトラブルで出遅れたかと思ったが、ちょうどいい所だったようだな」

 顔に傷跡のあるウィッチ、対地ネウロイ撃破数最高を誇り、マルセイユ、ハルトマン、ハイデマリーと並ぶウィッチ4トップの一人、ハンナ・ウルリーケ・ルーデル大佐が手にした37mm機関砲を手に、凄絶な笑みを浮かべた。

「話は聞いている。こいつらの陣地を荒らした赤い悪魔ってのは………どっちだ?」
「あっちよ!」

 ルーデルが同じ顔が2つ並んでいるのを交互に見、フェインティアが思わずイミテイトを指差し怒鳴る。

「あなた、よくも私のユニットを半分も!」
「的が大きくて狙いやすかった。次はお前か?」

 こちらも怒鳴るフェインティア・イミテイトに、ルーデルが37mm機関砲を向ける。
 その大口径の銃口を見たフェインティア・イミテイトが、ふとある事に気付いてルーデルを見つめた。

「この時代の武器は、どれも実体弾のはずよね。その砲、あと何発残ってるかしら?」
「目ざといな。だが、お前を撃つくらいは残っているぞ」
「へえ〜、試してみる?」

 フェインティア・イミテイトがそう言うと、残った攻撃ユニットが一斉にルーデルへと狙いを定める。

「司令!」「ルーデル大佐!」

 危険を察したルーデルと同じカールスランド出身のウィッチ達が叫ぶが、ルーデルは笑みを浮かべたまま急降下を始める。

「逃さないわよ!」

 容赦の無い攻撃をフェインティア・イミテイトはルーデルへと向けるが、ルーデルは海面スレスレにまで降下、そのまま水平飛行をしながら放たれる弾幕やレーザーをかわしていき、水面に激突した弾幕が壮絶な水しぶきを上げる。

「へ〜、それが狙い。けど、そんなアナクロな手が通じるとでも思ってんの!」

 ルーデルの目的が回避のみでなく、水しぶきを誘発しためくらましにあると悟ったフェィンティア・イミテイトがセンサーを総動員、ルーデルの場所を即座に探り当て、そこに攻撃を集中させる。

「行けない! 援護を…」
「いや、もうされているようだマイスター」

 フェインティアや他のウィッチ達が援護に向かおうとするが、ムルメルティアはある反応に気付いていた。

「主の加護を!」

 水平飛行を続けるルーデルの背中で、小さな人影がそう言いながらクロスを突き出し、応じて生じたシールドが回避しきれない攻撃を防いでいた。

「いいタイミングだ。ハーモニーグレイス」
「もちろんです、マスター!」

 ルーデルの背中でそう言いながらガッツポーズを取る武装神姫、シスター型MMSハーモニーグレイスがフェインティア・イミテイトの方を見た。

「主とマスターの御名に置いて、貴方に天罰を下します!」
「忌々しいわね、このミニマムサイズが!」
「でも、結構便りになるわよ」
「全くだ」

 ルーデルとハーモニーグレイスに気を取られてる隙に、フェインティアとクルピンスキーがフェインティア・イミテイトの左右を取って攻撃。

「その程度!」

 フェインティア・イミテイトは即座に上昇して放たれたレーザーと銃撃をかわすが、そこに待ち構えていた者達がいた。

「目標接近、照準!」
「診察のお時間です!」

 ムルメルティアとブライトフェザー、二体の武装神姫がそれぞれインターメラル 3.5mm主砲と注射器型ランチャー バスターシュリンジを極至近距離にて同時発射。

「うあっ!」

 かわす暇も無かったフェインティア・イミテイトに武装神姫の攻撃が直撃、その体が大きく揺らいだ。

「当たった!」
「畳み掛けるぞ!」

 前に戦った時はほぼ防戦一方だった502のウィッチ達が、思わず喝采を上げながら追撃をかけるべく、フェインティア・イミテイトへと銃口を向ける。

「この、人形風情が!」

 体勢が崩れたまま、フェインティア・イミテイトは強引に加速してウィッチ達の弾幕をかいくぐる。
 かわしきれなかった弾丸がかすめ、込められた魔力がフェインティア・イミテイトにわずかずつだが、確実にダメージを与えていく。

「遅い!」

 無理な加速とダメージによって動きが鈍った隙を逃さず、フェインティアが砲撃艦からレーザーを同時発射。

「当た、るか〜!」

 さすがに直撃はまずいと判断したフェインティア・イミテイトが更に無茶な機動を行い、体を強引に攻撃ユニットの影に潜り込ませ、レーザーを回避。
 だが、その一瞬を狙っていた者がいた。

「そう、逃げ道はそこにしかない」
「はっ!?」

 待ち構えていたルーデルが、37mm機関砲を発射。
 フェインティア・イミテイトは体を捻って37mm弾の直撃を避けるが、攻撃ユニットに直撃した弾頭は炸裂、爆風でフェインティア・イミテイトの体は大きく弾き飛ばされる。

(なんて威力………! 内包されてる生体エネルギーとの相乗がここまで破壊力を増すなんて! けど、かろうじてナノスキンが持って…)

「だああああああぁぁぁ!!」

 致命傷だけは回避したとフェインティア・イミテイトが判断した時、こちらに向かってくるウィッチに気付いた。
 気勢を上げながらフェインティア・イミテイトに迫っていく直枝は右拳を振り上げ、そこに発生したシールドがどんどん収縮、やがて拳大の圧縮された光の塊となった。

(生体エネルギーシールドを圧縮!? まずい、今あれを食らったら、破壊される!)

 直枝の固有魔法、圧縮式超硬度防御魔方陣の内包した破壊力をサーチしたフェインティア・イミテイトが、残ったエネルギーで強引にブースターを動かそうとした時だった。

「マイスター!」「マスター!」「マスター、何かが来ます!」

 三体の武装神姫が同時に叫び、直後に海面下のワームホールが閃光を放ち始める。

「何だ!?」
「…チャンス!」

 直枝の注意が一瞬逸れた隙に、フェインティア・イミテイトはブースターを吹かして直枝の攻撃軌道から回避。
 その間にも、閃光は更に光量を増していった。

「何、これは!」
「転移の前兆です!」
「まずい、あいつに時間を取られすぎたわ! さっさと破壊を…」

 ラルの問にブライトフェザーが答える中、フェインティアが砲撃艦のサイティングをしようとする。
 だが、フェインティアのセンサーがある数値を感知し、それはどんどん増加していった。

「転移エネルギー量、50万、いえ100万、まだ増える!? 何が転移してくるのよ!」
「つまり、どういう意味?」
「この時代の戦艦、確か大和とかいうのよりも遥かに巨大な何かが転移してくる! 大気圏内に何を送り込んでくるつもり!?」
「大和より大きいって、そんな物が存在するんですか!?」
「ふ、ふふふふ、あっはっはっは!」

 狼狽するフェインティアやウィッチ達を尻目に、先程までピンチだったはずのフェインティア・イミテイトが哄笑を上げ始める。

「破壊すればいいんだろ? 早くあれを壊してしまえば」
「ダメよ! もう構成直前、今攻撃したら私達も吹っ飛ぶわ!」
「マイスター、ここは………」
「撤退、本隊と合流する」

 ムルメルティアの言葉を続けるように、ルーデルが撤退を宣言。

「ラル隊長!」
「ルーデル司令の言う通りよ、ここは撤退するわ」
「くそ、あと一歩でアイツを……!」
「残念だったわね〜………それとも、見学していく? 貴方達の絶望を!」

 ラルの判断に、502のウィッチ達も従い、哄笑を上げ続けるフェインティア・イミテイトを睨みながらも、他のウィッチ達と合流するためにその場を離脱する。

「覚えてなさい! 次に会ったら絶対痛い目合わせてやるんだから!」
「すぐに会うわよ。けど、どっちが痛い目見るのかしらね〜?」

 捨て台詞を言いながら殿をつとめて撤退するフェインティアに、イミテイトは嫌味な台詞を返してやる。

「マイスター、全力で離脱を進言!」
「言われなくても!」

 ワームホールは激しく明滅し、そこから感知されるエネルギーは更に増大していく。

「あははは、あーっはっはっは!」

 フェインティア・イミテイトの哄笑が再度響く中、やがてあまりに巨大な質量故に、ワームホールその物を崩壊させながら、それは巨体を出現させていった………





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