スーパーロボッコ大戦
EP6



『複数の熱源感知、及び周辺に戦闘による物と思われるエネルギー残滓を確認』

 艦載AI《ブレータ》からの報告に、フェインティアの顔に驚愕が浮かぶ。

「戦闘!? 敵? 味方? それとも…… モニタリングできる?」
『可能です』

 映し出された外の画像と、そこにいる者達にフェインティアは更に驚く。

「何? まさかトリガーハート?」
『違います。全員から生命反応を確認、この惑星の有人機動兵器と思われます』
「何と戦ってたの? 分かる?」
『不明です。ただ彼女達の武装及び兵器の内在エネルギーから、かなりの高エネルギー戦闘が行われたと推測できます』
「どことも知れない宙域で、よりにもよって所属不明の機動兵器の真ん前に出ちゃったようね……… パージしたあたしのユニットパーツはどうなった?」
『それも分かりません。敵に回収された可能性があります』
「ぐ」
『現在搭載している、アンカーシステムのテスト用砲撃艦のみ使用可能です。随伴艦喪失状態。戦闘は可能ですが、状況は楽観できません』
「例のガルシリーズ二艦のみ、…ね。あんたも出力低下中だし、どーしよっか? 何事もパーフェクトにこなす私にとって、汚点になりそうな状況ね。最悪だわ」
『サイアクですか。……現地機動兵器のエネルギー出力上昇、戦闘もしくは準戦闘待機態勢に入ったと思われます』
「このまま落とされるなんて冗談じゃないわ! 出るわよ!」
『ユニットシンクロ、準備完了。…フェインティア、残念ですが、そろそろ私も限界です』
「離脱後はあんた、一旦隠れてなさい」
『了解。フェインティア出撃後、欺瞞モードへ。幸運を祈ります』
「ようし、行くわよ! ガルトゥース、ガルクアード!!」


「出てくるわよ」

 ミーナの言葉に、全員が一斉に戦闘体勢を取る。
 突如として出現した謎の宇宙船の中から、高速で何かが飛び出す。

「え?」
「女の子? 私達と同じくらいの………」
「違う、人間じゃない」

 中から飛び出してきた、オレンジ色の髪に赤いプロテクターとスーツをまとい、二機の小型武装ユニットのような物を従えた少女の姿に全員が一瞬呆気に取られるが、サーニャの一言に我に帰る。

「オールサーチ………体の半分は組成不明の合金と無機物、体表面と内臓らしき物と思われる有機物反応がありますが、こんな物は今の技術では作れません!」

 可憐が素早く風神の全センサーを使って相手をサーチするが、そこから導き出された少女の正体に悲鳴に近い声を上げる。

「大佐! 指示を!」
『………向こうから手を出さない限りは手を出すな。コンタクトは取れるか?』
『先程、こちらと極めて近い言語パターンを傍受してます! コンタクトは可能かと……』
「向こうに話す気があればね」

 冬后とタクミからの通信に、ミーナが僅かに焦りを浮かべながら、手にした銃の残弾を脳内で計算する。

「オイ、あの変な船だかなんだか、消えてくゾ!」
「さっきのと同じ光学迷彩!」
「まさかあいつの仲間!?」

 宇宙船の姿が消えていくのに気付いたエイラに、亜乃亜とエリーゼが先程戦ったワームの事を思い出す。

「マスター、彼女とさっきの宇宙船から高レベルの次元転移反応を感知したよ。マスターとほぼ同じレベル、間違いなく別の次元から来てるね」
「問題はそこじゃなくて、敵かどうかって事よ」

 ストラーフの報告に、ミーナは謎の少女から目を一切逸らさず、自分の固有魔法を発動させ続ける。

「私は超惑星規模防衛組織チルダ 対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器 《トリガーハート》TH44 FAINTEAR、ここはどこ?」

 謎の少女、フェインティアからいきなりかけられた言葉に、皆が僅かに動揺する。

「私達は統合人類軍 極東方面第十八特殊空挺師団・ソニックダイバー隊。まあ他の部隊も混じってるけど」
「極東方面? ここはどこの恒星系のなんて惑星? ヴァーミスとの闘いはどうなったの?」

 瑛花が代表して応えるが、フェインティアからの返答に更に困惑が広がる。

「どうしよ、訳の分からない事言ってるよ……」
「私達と同じね。なんて言えばいいかしら?」
「恒星系ってどういう意味?」
「え〜と学校の授業で一応習ったような……」
「ここは銀河系オリオン腕太陽系第3惑星、地球です」

 音羽を中心として皆が顔をつき合わせて密談する中、可憐がすらすらと答えた。

「銀河系オリオン腕? どこの辺境よ?」
「局部銀河群の棒渦巻銀河の端っこですから、確かに辺境と言えば辺境ですけど……」
「可憐ちゃんすご〜い」
「何言ってんだか全然分からナイゾ」
「亜乃亜にもさっぱり………」
「どうやら、とんでもない所に飛ばされたって事だけは分かったわ。それで、貴方達は何をしてたの?」
「ソニックダイバー隊の作戦目標はワームの本拠地《ネスト》の調査及び殲滅だ」
「ワーム? ネスト? 聞いた事も無いわね」
「………」

 話してみて、まるで人間と変わらない反応に、瑛花は迷う。
 だが、それ以上に過敏に反応していた者が一人だけいた。

「一つだけ教えて、貴方は人間じゃないの?」
「私はトリガーハート、最強にして最高、パーフェクトな兵器よ」
「つまり、ワームと同じだ!」

 静止の間も無く、エリーゼのバッハシュテルツェがMVランス片手にフェインティアに突撃する。

『交戦は許可してないぞ!』
「人間の姿をしただけの奴なんか、信用できるもんか!」

 冬后の通信に怒鳴り帰しながらも、MVランスの切っ先がフェインティアに突き出されようとした。

「ガルクアード!」

 だが、フェインティアの従えた二機の攻撃ユニットの一つ、砲撃&アンカー艦《ガルクアード》から光のラインを引きながら放たれたアンカーが、MVランスに突きつけられる。

「この!」

 エリーゼはとっさにアンカーを弾こうとするが、そこで奇妙な現象が起こった。
 ぶつかったMVランスとアンカーが、弾かれもせずにくっついたかと思うと、アンカーがMVランスに侵食していく。

「何これ!?」
「それを放して!」

 サーニャの言葉に、エリーゼがMVランスを手放し、そのままMVランスはアンカーに完全に侵食される。

「セイッ!」

 フェインティアはアンカーを勢い付けて回転させると、バッハシュテルツェに目掛けてMVランスを投げ帰す。

「危ない!」

 予想外の相手の反撃に、ミーナがとっさに前へと出てシールドを展開、シールドに直撃したMVランスはその場で爆発、四散する。

「なあに今の!?」
「爆発した!? そんな機能は付いてないはず!」
「離れて! もしあれがストライカーユニットやソニックダイバーに当たったら大変よ!」
「わあ! ゼロ取られたら大変!」

 全員が慌てて散開する中、フェインティアは彼女達を観察する。

(大した事は無さそうね。たださっきのバリアシールド、完全にこっちの攻撃を防いだ? しかも発生装置らしき物は見当たらない。どういう事?)
「このお!」
「エリーゼ!」

 フェインティアが怪訝に思う中、エリーゼが予備のMVランスを抜いて再度襲い掛かる。

「同じ手を何度も!」

 フェインティアが再度アンカーを繰り出すが、エリーゼが唐突にアンカーへと向けてMVランスを投げつけた。

「それはこっちの台詞!」

 アンカーにわざとMVランスを侵食させる事で逆にアンカーを封じたエリーゼが、腕部の可変出力レーザー砲をフェインティアに向ける。

「ガルトゥース!」

 ほぼ同時に、フェインティアのもう一つの攻撃ユニット砲撃専用艦《ガルトゥース》から高出力レーザーが射出される。

「え…」
「危ないゾ!」

 バッハシュテルツェのレーザーをあっさり飲み込み、迫ってくる高出力レーザーの前にエリーゼが一瞬硬直したのを、未来予知でそうなる事を見ていたエイラが強引にレーザーの範囲から押し出す。
 ガルトゥースのレーザーはエイラの後ろ髪をわずかにかすめ、そのまま海面へと直撃すると、海面が強大な水蒸気爆発を起こして盛大な水柱が上がる。

「なんて威力………」
「ソニックダイバーを遥かに上回る出力です! 直撃したらひとたまりもありません!」
「落ち着いて! 交戦理由は何も無い…」
「たあぁぁ!」
「この〜!」

 雷神の大型ビーム砲を軽く上回る破壊力に瑛花が呆然とし、可憐が素早くそのエネルギー数値を確認して悲鳴を上げる。
 ミーナがなんとか戦闘を止めさせようとするが、MVソードを抜いた音羽の零神が挑みかかり、お返しとばかりにルッキーニが銃撃を繰り出す。

「そんな攻撃!」

 フェインティアはアンカーで零神を狙い、ルッキーニの使っているのが旧式銃火器だと思って軽くかわすだけに留めるが、音羽はMVソードでアンカーを絡め取るような動きで明後日の方向に弾き飛ばし、ルッキーニの銃撃はガルトゥースの装甲を遠慮なく削っていく。

「な……どういう事!?」
『フェインティア、相手を甘く見てはいけません。特に脚部のみに飛行ユニットを装着した者達の生体エネルギー量は独自のパターンを形勢、恐らくはサイキッカーです』

戦闘超能力者コマンドサイキッカー!?」
「たあああぁぁ!」

 ブレータからの報告に驚くフェインティアに、音羽が上段から斬りかかる。

「く、この!」
「うじゅ!」

 とっさにガルクァードから至近距離で砲撃を繰り出すが、それを読んでいたのかルッキーニが零神の背後に回りこんで両者の間に多重シールドを展開。
 双方のエネルギーが直撃し、爆発を起こして双方が吹っ飛ぶ。

「うわああぁ!」
「うきゃああぁ!」
「キャアアァ!」

 悲鳴を上げて三人がそれぞれスピンしながら宙を舞うが、海面に直撃する前に全員が立て直して再度宙へと飛び上がる。

「び、ビックリした………」
「音羽! 交戦許可は出てないわよ!」
「うじゅ〜、危なかったぁ………」
「フランチェスカ・ルッキーニ少尉! 何を勝手に戦ってるの!」

 音羽とルッキーニが互いのリーダーに怒られる中、フェインティアは先程まで持っていた相手のイメージを完全に捨てる事にした。

「なんて連中よ……相当戦闘経験積んでるわ」
『フェインティア、ここでの交戦は無意味と推測します』
「やってきたのはあっちよ。なら、受けて立つまで!」
「隙あり〜!」

 ブレータからの勧告を無視して、フェインティアは直上から襲ってくるエリーゼのバッハシュテルツェに向けて砲口を向けた。


「もしもし! もしもし! こちら亜乃亜! 現在所属不明のメカ少女とスカイガールズが交戦中! 指示を! ってこっち向けて撃たないで〜!」

 なし崩し的に戦闘に突入してる現状に、亜乃亜が大慌てでG本部へと連絡を取る。

『こちらオペレッタ。現状は認識しています』
「じゃあどうすれば!? 戦っていいのかどうか……」

 Gのミッション管理オペレーションシステム《オペレッタ》からの返答に、亜乃亜は狼狽どころか半分泣きが入る。

『現在、状況処理のために新たに二名、天使が急行しています。到着までの間、双方の戦闘中断に尽力してください』
「どうやって!?」

 思わず叫んだ亜乃亜の背後で、再度巨大な水柱が立ち上る。

「え〜い、もう頑張るしかない!」

 半ばヤケクソで、亜乃亜はビックバイパーの機首を戦闘空域へと向けた。



 静かな海面を、二つの機影が高速で通り過ぎ、その後に巨大なソニックブームが海面を断ち切っていく。

「始まってるわね。亜乃亜はちゃんと仲裁できてるかしら?」
「このエネルギーのぶつかり合いだと、ダメっぽいよ?」

 前方を行く、赤と黄色のシャープなライディングバイパーを駆る桃色の髪をポニーテールにした少女の呟きに、後方を行く艦首砲とブースター部分のみという極めて風変わりなライディングバイパーを駆る黄色の長髪を青いリボンで数箇所縛ってツインテールにした少女が送られてくるデータを解析しながら返す。

「急ぎましょう、被害が出るのだけは防がないと!」
「高速仕様に改造してる暇があったら………あれ? 何だろこの反応?」

 ツインテールの少女は、自分達と反対側の方向から、同じ目的地へと向かう小さな反応に首を傾げていた。



「うわわわ! サーニャこっちダ!」
「うん」

 飛んでくる高出力レーザーに、エイラとサーニャは大慌てで回避する。

「ミーナ中佐! これどうすればいいンダ!?」
「もし彼女が私達と同じような状態なら、なんとかして戦闘行動を中断させるべき…」

 そういうミーナの脇を、アンカーに取られて侵食されたMVソードがすっ飛んでいき、海面に接触して爆発する。

「マスター、ボクが止めに入る? ちょっとどっちかの手足破損するかもしれないけど」
「それは幾らなんでもまずいわよ………せめてまともに会話できれば………」
「この状況で?」

 最初に手を出したエリーゼを筆頭に、音羽、ルッキーニの三人が中心となってフェインティアとの激戦を繰り広げている状況に、残った者達はどうするべきか戸惑っていた。

「止めるも何も、火力が違いスギル!」
「全然話聞いてくれそうも無い……」
「どうする? こちらも参戦して力尽くで抑えるか?」
「それしかないかしら………」
「待ってください! 今Gの天使が二人、こちらに向かってます! そうすればなんとか…」

 臨戦態勢を取ろうとする瑛花とミーナを亜乃亜が抑えようとするが、そこでガルトゥースのビームがかすめ、一撃で亜乃亜のビックバイパーのシールドが消失する。

「え………」
「どうやら、やるしかなさそうだな」
「ええ」



「なんて戦闘力だ………ワームなんか目じゃねえぞ」
「やはりあれは、敵なのか!?」
「いや、現状を理解していないだけかもしれない。なんとか回線は開けないか?」
「さっきからやってますが、戦闘の影響か上手くいきません!」
「ソニックダイバー隊のナノスキン、活動限界まで5分を切りました!」

 攻龍のブリッジ内で、フェインティアとの戦闘状態に突入した事に、どうすればいいかを誰もが迷っていた。

「至急ソニックダイバー隊を撤退」
「了解、と言いたい所ですが、難しいですね艦長……」
「いっそ、撃墜しては?」
「そう簡単に撃墜できる相手には見えんよ」
「でもこのままじゃ!」

 七恵が悲鳴を上げる中、ブリッジの扉が開くと、アイーシャが姿を現す。

「私が説得してみる」
「なに?」
「出来るのかアイーシャ!」
「はっきりとは分からないけど、彼女の制御神経系にナノマシンが使われている感じがする。恐らく有機CPUも使ってるから、可能のはず」
「けど、また倒れたら…」
「でも、私しかいない」

 ブリッジの全員が不安気に見る中、アイーシャは目を閉じ、精神を集中させて自らのナノマシンを活性化、シグナルを送信させる。



(サーニャ、聞こえる?)
「アイーシャ?」
(彼女を説得する。けど距離があって難しい。手伝ってほしい)
「分かった。私を中継して」
「何言ってんダ、サーニャ?」

 アイーシャからのシグナルを受信したサーニャが、エイラが不思議そうに見る中、自らの固有魔法の探査能力をフェインティアに集中させる。

(私の声が聞こえるか。フェインティア)
「な、何!?」
『どうかしたのか、フェインティア』
「私のナノニューロンに何かが直接アクセスしてきた! どういう事!?」
(私はアイーシャ、そこにいるのは私の仲間。貴方と戦う理由は無い)

 突然頭の中に響いてきたアイーシャの声に、フェインティアは露骨なまでに狼狽した。

「先にやってきたのは向こうよ!」
(それは謝る。エリーゼは前にワームに家族を殺されて、過敏に反応しただけ)
「じゃあ他の連中は!」
(みんな戸惑ってる。私達は、貴方のような人間に見える人間じゃない存在を知らない。だからどうしたらいいか分からない)
「じゃあ教えてあげるわ、私がパーフェクトなトリガーハートだって!」

 アイーシャの説得も聞かず、フェインティアが砲口を二つともバッハシュテルツェに向けると、エネルギーをチャージし始める。

(ダメだ!)
「大丈夫、飛べなくなるくらいに吹っ飛ばすだけだから!」

 明らかに撃墜する気満々でフェインティアがレーザーを発射する直前だった。

「主砲発射用意! 撃ぇ!」

 どこかから声が響いたかと思うと、小さな弾丸がフェインティアとエリーゼの間に放たれ、凄まじい閃光が炸裂する。

「閃光弾!?」
「誰だ!?」

 ウイッチ達もソニックダイバーも装備してない武装に、ミーナも瑛花も目をかばいながら飛んできた方向に目を向ける。

「く、目くらましなんて原始的な!」
「うう、くらくらする………」

 視覚素子を回復させながら、フェインティアが周囲をサーチして閃光弾を放った相手を探そうとする。
 だが、それは恐ろしい程間近に迫っていた。

「次元転移反応確認、指定条件に全項目一致。現時刻を持って、貴方を私のマイスターとして認識する」
「な、なにこれ?」
「武装神姫!?」

 フェインティアの目の前に、戦車の主砲を思わせるユニットとパイルバンカーを搭載した、重武装の武装神姫が一体、対峙していた。

「私は武装神姫・戦車型MMSムルメルティア、マイスターをサポートするようプログラミングされている。そして忠告する、彼女達は敵ではない」
「はあ!? いきなり現れて何言ってんのアンタ!」
『フェインティア、確かにここで戦うメリットは無い』
「あんたまで! 仕掛けてきたのあっちだから、応戦したまでよ!」
「今度こそ、もらったぁ!」
「このお!」
「カモーン! ゲインビー!」

 再度二人が激突しようとした瞬間、今度は丸っこくて巨大な寸詰まりで腕の生えた奇妙な機体が突き抜け、両者を弾き飛ばす。

「今度は何!?」
「きゃあぁ!」
「あれはゲインビー! ってことは!」
「双方そこまでです!」

 その攻撃に見覚えがあった亜乃亜が、上空からの声に歓喜の顔で振り向く。

「エリュー! マドカ!」
「えへっ♪ 亜乃亜大丈夫だった?」

 赤と黄色のライディングバイパー、ロードブリティッシュを駆るポニーテールの少女、エリュー・トロンと、原型を留めない程に改造されたライディングバイパー、マードッグバイパーを駆るツイテンテールの少女、マドカの姿に、亜乃亜は胸を撫で下ろす。

「この近辺に発生した次元転移災害は以後Gの管轄になります! 必要外の戦闘行為は許可されてません! 即刻戦闘を中断してください!」
「次から次へと……!」
『フェインティア、ここは従うべき。状況を理解するべきと提案する』
「仕方ないわね」

 フェインテイアが戦闘態勢を解くのを確認したミーナが胸を撫で下ろす。

「良かった。なんとか収まったみたいね」
「こちらもな」

 瑛花の視線の先には、ゲインビーの両手にソニックダイバーの頭を押さえられているエリーゼと音羽がもがいており、その脇には亜乃亜に肩を、ストラーフに尻尾を掴まれたルッキーニがむくれていた。

「離せ、この丸!」
「分かった、分かったから押さえるのやめて」
「ぶー、もう少しだったのにー」

 文句を言う3人にそれぞれの隊長が睨みを飛ばす。途端に3人とも沈黙した。

「エリーゼ、音羽」「ルッキーニさん」
『帰ったら覚悟しておきなさい』
『ひぃー』
「怖いわね〜、貴方達の隊長さん」

 抵抗の意思が無いのを確認したマドカがゲインビーを帰還させながら苦笑。

「それじゃルッキーニちゃんも大丈夫だよね」
「マスターに後は任せるよ」

 亜乃亜もそれにならい、ストラーフは手放した手をムルメルティアに向けてサムズアップ。
 それにムルメルティアは敬礼で返す。

「それではソニックダイバー隊は至急帰還! ナノスキンの限界が近いわよ!」
「わあ!」「急げ〜!」「すいませんが後で!」

 ソニックダイバー達が慌てて帰還する中、
ミーナがフェインティアへと近寄る。

「貴方も来てくれる? 多分、私達と同じ状況だと思うから」
「同じって、あんた達もどこかから転移してきたの?」
「ええ。詳しく聞きたいなら、着いてきて」
「行きましょう、マイスター」
「しょうがないわね………ブレータ、行ける?」
『低速航行なら可能です』
(ありがとうフェインティア。船で待ってる)
「自分で止めたんじゃないわよ………」

 ため息を吐き出しながら、フェインティアとウイッチ、そしてGの天使と武装神姫達は攻龍へと向かった。



「固定急げ!」
「おい、沈まないだろうな?」
「ブレータ、状況は?」
『前方の水上艦との曳航状態ならば維持可能。微低速運行状態にて自己修復開始』

 攻龍の整備班が総出で、フェインティアの乗ってきた脱出艦と攻龍をワイヤーで繋ぐ。

「確かにこりゃ宇宙船みてえだな……」
「宇宙船曳航した船ってこれが始めてじゃないっすかね?」
「多分最初で最後やと思うわ」
「そやそや」

 曳航される脱出艦を皆が興味深げに見る中、フェインティアの視線はそのまま横へと向き直る。

「で、これは何してるの?」
「ううう………」「しくしくしく………」「う〜〜〜………」

 曳航作業が続く攻龍の後部甲板で、頭にたんこぶをこしらえたエリーゼ、音羽、ルッキーニの三人が水の満載したバケツを両手に立たされていた。

「命令違反の懲罰だとさ」
「学生じゃあるまいし……」

 整備班長が呆れるが、涙目で立たされている三人は曳航される脱出艦と同様に興味の対象となっていた。

「この船、営倉も無いからちょうどええんやないか?」
「あのウイッチの中佐、中々慣れてはるで」
「冬后さんがやったら問題になるけどな」
「誰がやっても問題よ!」
「ええやないか。希望通り頭には一発で許してもらえたんやし」
「頭の方がよかったかもな」
「うう………」

 一番最初に突撃したエリーゼは、多めにもらう所を明晰な頭脳を盾に拒んだ結果、モーションスリットの下から僅かに見えるお尻が赤くなっていた。

「何で私がこんな事……」「ミーナ中佐怒ると無茶苦茶怖い………」「ずきずきする………芳佳がいたら治してくれるのに………」
「少しは反省した?」

 そこに懲罰を与えた張本人のミーナと瑛花、それにカメラ片手のタクミが顔を出す。

「あの、ミーナ中佐いつまでこうしてれば………」
「それなんだけど、30分後にミーティングと冬后大佐に言われてきた」
「だから、そぞろ止めていいわよ」
『やった〜♪』
「これの後にね」

 三人が歓声を上げた時、こちらに向かって一眼デジタルカメラを構えているタクミに気付いた。

「ちょ、まさか……」
「あの、タクミさん?」
「うえ!?」
「時間が無いから、写真張り出して懲罰代わりだそうです。じゃあ行きますよ〜」
「ま、待って! こんな姿…いやああああぁぁ………」

 エリーゼの悲鳴が響き渡る中、無常なシャッター音がその場に鳴った。



「秘密時空組織「G」所属権天使、エリュー・トロンです。今回の時空災害調査のリーダーを命じられてます」
「同じく、「G」所属大天使、マドカ。よろしく♪」
「特務艦攻龍艦長の門脇だ」
「副長の嶋だ」
「そしてオレがソニックダイバー隊の指揮官の冬后だ。よろしくな」

 ブリッジに現れた二人の天使に、ブリッジの管理職達も名乗る。

「それで、彼女がか」
「所属は?」
「私は超惑星規模防衛組織チルダ 対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器 《トリガーハート》TH44 FAINTEAR。ヴァーミスから逃げ出して転送した時、妙な時空振動に巻き込まれて、ここに来たわ」
「………正直、何を言ってるのか全く理解できんな」
「超惑星規模、という事は地球以外の惑星の出身なのね?」
「製造って言った方が正解ね」

 嶋が首を傾げる中、エリューの補足にフェインティアが頷く。

「タイムスリップかと思えば、今度はエイリアンか? 冗談にしても程があるだろが………」
「異星人なら、ここにも二人います」
『!?』

 エリューの言葉に、ブリッジの全員の視線がそちらに集中した。

「私は惑星グラディウス、マドカは惑星メルの出身なのです」
「じ、じゃあエイリアン!?」
「まるで普通の人間に見えますけど………」

 七恵とタクミがエリューとマドカをまじまじと見つめるが、外見上は全く普通の人間と変わらない。

「生物学的には私もマドカも地球人と大差ありません。ただ、彼女は違うようです」
「少女の姿をした兵器、か。どんな奴が何考えてこんなのにあんだけの戦闘力ぶち込んだ?」
「トリガーハートの作戦目標はヴァーミスの殲滅、それ以外に意味は無いわ」

 冬后の呟きにフェインティアが応じるが、それが冬后の表情を更に複雑にさせる。

「今、君の乗ってきた船のAIともデータリンクさせているが、詳しい状況を確認したい」
「後でいい? 先にボディ洗浄したいから。洗浄ユニットはどこ?」

 艦長の提案を、フェインティアはあっさりとあしらう。

「おい、何を勝手な事を…」
「副長、彼女はこちらの指揮下にありませんから、強制は出来ませんよ。洗浄って事は風呂か? 藤枝、は手が空いてないか。速水、案内してやれ」
「え、はい」
「今他の連中も入ってるから、覗くなよ」
「覗きませんよ! じゃあこっちへ」

 タクミがフェインティアを伴ってブリッジを離れると、誰からともなくため息が漏れる。

「一体、どうなっとるんだ?」
「Gでも把握できてません。偶発的時空転移にしても、異常です」
「問題は今何が起きているかよりも、これから何が起きるかだ」
「出来れば、これ以上増えてほしくはないな。攻龍の設備にも限界がある」
「整備なら任せて! メカなら得意だから!」
「あの、マドカには任せない方が……」
「整備がそちらで出来るならそうしてもらいたい。整備概要も分からん機体が増える一方では困る」
「にぎやかになってはいいんですけどね」

 冬后の漏らした言葉に、副長の冷たい視線が容赦なく突き刺さった。



「じゃあここ、みんなも今入ってるから、ケンカしないようにね」
「洗浄が共同なんて、不衛生もいいとこね」
「他の設備がスペース取ってるから……」

 タクミが乾いた笑いを浮かべつつ、途中で用立てた入浴グッズをフェインティアに渡す。

「くれぐれもケンカはダメだよ?」
「向こう次第よ」

 ものすごく不安を感じるが、さすがに中にまで入るわけに行かないタクミが何べんも念を押してその場を離れる。

「まったく、とんでもない所に転送されたわね………」

 説明を受けた通り、脱衣所で空いているカゴにボディスーツを脱いで入れたフェインティアが、ぶつくさと文句を言いながら浴室へと入る。

『あ』

 予想外の顔に、中で入浴中だった者達が思わず間抜けな声を上げた。

「あれ、お風呂入るの?」
「こっちはお前のせいで今日二回目ダゾ」
「誰かのせいで、体表がミネラルまみれなのよ。洗浄しないと」
「撃ってきたのはそっちじゃない!」
「先に仕掛けたのはそっちだ」
「お陰でこっちは頭一回、お尻三回もぶたられたんだから!」

 音羽がさも不思議そうに問いかける中、エリーゼとフェインティアが真っ先に睨み合う。

「海水流したいなら、源さんに言って熱湯でも被ってくればいいじゃない!」
「そんな事したら体表組織が痛むでしょうが! ユニットとシンクロしてないと防御が弱いんだから!」
「それじゃあランドリーにでも入ってきたら? ロボットなんだからそれでいいでしょ!」
「私を機械部品と一緒にしないでくれる!」
「エリーゼ、落ち着いて」
「ほらフェインティアも」

 一触即発の両者を可憐と亜乃亜が何とかなだめながら引き剥がす。

「うわ、柔らかい」
「そうなのカ?」

 フェインティアの体が予想と反して人間とほとんど変わらない事に、亜乃亜が思わず声を漏らす。

「フレームはともかく、ボディは人工有機素材よ。触感的には貴方達と左程変わらないわ」
「へ〜、スゴイですね」
「何言ってんだか分からないゾ………」

 鼻を一つ鳴らしながら、フェインティアが空いていたシャワーの前に腰掛ける。
 外見上は人間とまったく変わらないフェインティアに、周囲の視線が無遠慮に突きつけられる。

「これどうするの?」
「ここ捻ると出てくるよ。こっちに回してお湯で、こっちだと水」
「原始的ね」

 隣に座っていた音羽に教えられながら、シャワーからお湯を出してフェインティアが髪を洗い始める。
 その背後に近寄る影があった。

「せ〜の!」
「うきゃあ!?」

 いきなり背後から抱きつかれ、フェインティアの口から意味不明の声が漏れる。

「ホントだ、柔らか〜い」
「ちょっと何するのよ!」

 抱きついてきた相手、ルッキーニにフェインティアは文句を言うが、ルッキーニは無遠慮にフェインティアの胸を背後からわしづかみにしてその感触を確かめる。

「ねえねえ、これ本当に作り物?」
「離しなさい! そんな事して何が楽しいの! ちょっと、うひゃああ!?」

 ルッキーニを引き剥がそうとするフェインティアが再度意味不明の声が漏れる。

「ホントだ、全然作り物に見えない」
「ちょっと!?」

 隣に座っていた音羽が、フェインティアの尻を指で突付いていた。
 フェインティアがそちらを睨んだ所で、ふと他にも無数の視線がこちらを向いている事に気付いた。

「ほ〜、どういう仕組みになっているンダ?」
「今の技術じゃ、こんな完全なバイオアンドロイドは作れませんし」
「不思議ね〜、人間と全く変わらないようにしか見えないわ」
「確かに」
「感触は本当に普通でしたよ?」

 亜乃亜の最後の一言に、全員の目が何か危険な色を帯びる。

「……触ってみていい?」
「どうして!?」

 サーニャの言葉に、フェインティアが露骨に反応する。

「ちょっとでいいからサ」
「後学のために……」 
「ホントに人間と変わらないの?」
「興味はあるわね」

 ゆっくりとにじり寄ってくる者達に、フェインティアがどんな戦場でも感じなかった奇妙な恐怖を襲う。

「ルッキーニ、ちょっとそこ変わってクレ」
「うじゅ〜、もうちょっと確かめてからでダメ?」
「何を確かめてんのよ!」
「洗浄手伝いますから、ちょっとだけ素材の質感を……」
「そうね、みんなで洗ってあげる代わりという事で」

 気付いた時には、すでに周囲は完全に包囲されていた。

「ちょ、待ちなさい! 何を……いやあああぁあぁ……………」



「まだ風呂から出てこないのかあいつら?」
「心配ですし、様子見てきましょうか?」

 ミーティングの予定時間を過ぎても来ない一同に、冬后と七重が不安を感じ始める。

「あのフェインティアっての、見た目はあいつらと変わらないが、一応兵器だからな。かといって女湯に武装して入るわけにもいかんだろうしな………」
「大丈夫だと思うよ? 多分」
「でも万が一という事もありえる」
「やっぱり見てきます」
「すいません、遅れました〜」

 準備をしていたマドカが能天気な事を言うが、エリューも心配した所で、そこへ何かやけに楽しそうな音羽を先頭に、全員が作戦会議室へと入ってくる。

「お、大丈夫だったか?」
「はい! みんなで親睦を深めてきました!」
「親睦?」

 冬后が首を傾げた所で、エイラと可憐に肩を借り、やけに肌や髪がキレイになってるフェインティアがフラフラと室内に入ってきた。
 その目はどこかうつろで、先程の戦闘の時に感じた危険な雰囲気は微塵も感じられない。

「………何をした?」
「あ、皆でお風呂の使い方を教えただけです」
「ソウソウ」
「まあ、ちょっとアレとかコレとか………」
「この星の原住民は変態ばかりなの……」

 かすれた声でフェインティアがそう呟いたが、生憎と冬后の耳には届かなかった。

「ところで、どうしたんですかこれ?」
「いつの間にか、この船にあったそうだ」

 音羽が作戦会議室に持ち込まれたテーブルの上、ノートPCに繋がった小さなベッドのような物に横になって眠っているらしいストラーフとムルメルティアを指差すが、冬后も説明しようがなくただそれを見つめていた。

「ひょっとしてこれ、メンテナンスハンガー?」
「クレイドルって言うらしいですよ。充電とデータ整理を行う事が出来るそうです」
「彼女達の事、何か分かったの?」

 フェインティアも不思議そうにそれを見、七恵が説明した所でミーナがふと疑問を口に出す。

「副長が教えてくれたんです。昔、この子達そっくりのオモチャがあったとかで」
「だが、あの戦闘力は半端じゃない。その説明も聞きたい所だが………」

 そこでノートPCから電子音が鳴り響き、二体の武装神姫が同時に目を覚ます。

「データバンク並列化終了………起きるのね、はいは〜い………」
「データ交換終了……ん、起床時間か………」

 人間そっくりに起きる二体の武装神姫を、全員が興味深そうに見つめる。

「さって、何する?」
「まずは戦況見解の統一だ」
「確かにな」

 苦笑しながら、冬后がミーティングを開始した。

「お前らが風呂に入ってる間に、あの宇宙船の『ブレータ』とかいうAIから事情は聞いた」
「あの、AIって何でしょう?」
「あんた、そんなのも知らないの?」
「無理を言わない。マスターはまだ電子頭脳も無い時代から来たんだから」
「は?」
「データにはウイッチと呼ばれるこのコマンドサイキッカー達は、この時代より更に前、まだ大陸間ロケットすら無い時代からこの世界に転移してきたそうです、マイスター」

 ミーナとフェインティアの凄まじいジェネレーションギャップを、それぞれをマスターとした武装神姫が補足する。

「ま、それによりゃ、彼女はオレ達のでもウイッチ達でもない、全く別の世界の人間、いやトリガーハートって事になる」
「それによれば、彼女の生まれ故郷は星系国家を形成していた惑星の一つ。そして、そこにヴァーミスと呼ばれる自律戦闘単位集団が来襲、それに対抗するために作られたのが彼女達トリガーハートとの事よ」

 エリューの説明に、その場にいた半数は微妙に困惑した表情を浮かべ、残る半数は全く理解できないのかただ首を傾げる。

「全然意味分かんないゾ」
「私も」
「星系国家なんて、とても信じられないし……」
「分かんないけど、フェインティア柔らかかったし」

 自分達の常識の完全に外の話にウイッチ達は特に混乱していた。

「オレにもよく分からん。ただ言えるのは、彼女もオレ達も、戦ってる敵もやってる事もほぼ似たような物って事だ」
「今ブレータからこっちの戦闘データを回してもらったけど、ワームっていうの、確かにヴァーミスに似てるわ。ヴァーミスの方が色々厄介だけど」
「システム的には、ネウロイの方に近いようね」

 ブレータから回されたらしい戦闘データが作戦会議室のディスプレイに幾つか表示され、それを見たミーナが辛うじて理解する。

「それで、この子達はどこから?」
「それが、分からんらしい」
「は?」
「ボク達は起動した時はすでにこの世界にいたんだよね」
「インストールされたプログラムに従い、『次元転移反応を持ち、戦っている者をマスターとして登録し、サポートする事』。その作戦内容を忠実に実行したまでだ」
「つまり、他には何も覚えてないんですか? 内部データは?」
「調べてみたんですけど、この子達自身も操作できないブラックボックスみたいなデータがあるだけで、他には皆さんと会うまでのデータしかないんです………」

 可憐の問いに七恵が応えるが、ウイッチ達はやはり首を傾げていた。

「どういう事?」
「言ってみれば動いたばかり、生まれたばかりって言った方がいいかな? そういう状態なんですよ」
「でも、戦闘データだけはインストールされてるよ?」
「私もそれは認識している。起動したて、というよりも余計なデータを削除されているのかもしれん」
「余計な物は持ち込まない、か。昔のSF映画でそんな理由で未来から素っ裸でワープしてきたマッチョがいたな」
「でも、私らは色々持ち込んでるヨナ?」
「何でわざわざ消去して送り込んできたのかしら?」

 謎だらけの状況に、全員が首を傾げる。
 そんな中、エリューが口を開いた。

「とにかく、ウイッチ、そしてトリガーハート、更には武装神姫。これら異世界からの連続転移はGのデータにもほとんどありません。原因及び帰還方法の探索のため、しばらく皆さんと合同調査を行う事になります」
「どちらにしろ、私達には他に行くアテは無いようだからね」
「なんだって私がこんな原始的な船に………」
「あ、あんたの船は自己修復の限界で大気圏内行動が限界って聞いてるぞ。こちらで直そうにも、技術レベルが違いすぎて無理って整備の連中が言ってたな」
「サイアク………」
「私が出来うる限りのサポートをする。マイスター」

 げんなりした顔のフェインティアを、ムルメルティアがなだめる。

「とにかく、これ以上何が起きるか分からんが、ネストへの接近が原因の一端って可能性もある。攻龍は進路このまま、あとは出たとこ勝負だ。正直、これ以上増えてほしくないってのが本音だがな」
「増えたくて増えたんじゃないわよ!」

 冬后のぼやきにフェインティアが吠えるが、そこでいきなりドアが開くと、アイーシャが室内へと入ってくる。

「アイーシャ、もう大丈夫なの?」
「大丈夫、前よりも負担は軽い」
「ダメだよアイーシャ、無理しちゃ……」

 フェインティアへのナノマシン干渉の後、倒れそうになって医務室に行ったと聞いていたアイーシャの姿に、ソニックダイバー隊が心配そうに声を掛ける。

「何そいつ?」
「あなたを説得した人」
「じゃあ、私にハックしてきたのは!」
「ハックじゃない。説得。それで貴方はここに来てくれた」
「十分ハックよ! 一体どうやって!」
「アイーシャは、ナノマシンと生体融合してるの」
「だから、ナノマシンに干渉できるんです。フェインティアさんにも、使われてるんですよね?」
「そりゃあ、ナノニューロンの構築と伝播はナノマシンだけど………」
「だから分かった。貴方は敵じゃない」
「ぐぐ……」

 無表情なまま淡々と断言するアイーシャに、フェインティアは完全に気圧されてしまう。

「とにかく、色々含む所はあるだろうが、休戦協定って事で納得してくれ」
「マイスター、彼女達との戦闘で得られる戦果はない。休戦は打倒と判断する」
「分かったわよ………アンタ本当に私の味方?」
「私の作戦目標は条件に一致した人物をマイスターとしてサポートする事だ」

 冬后の提案を支持するムルメルティアにフェインティアはジト目で睨みつつ、ため息をもらす。

「さて、次の問題だが」
「まだあるのカヨ」
「ある意味、一番深刻な問題です」
「一気に三人、いやこいつら含めれば五人増えたが、部屋の空きが無い」
『………あ』

 冬后の一言に、全員が思わず声を上げる。

「え〜と、布団の予備持ってきてなんとか」
「ベッドの空き無いよ?」
「ルッキーニのとこ使えばイイ。昨夜も途中でどっか抜け出して寝てたゾ」
「ひょっとして昨日格納庫の上で人影が見えたのって……」
「私の使ってる士官室なら、まだ空いてるわよ?」
「え〜と、エリューもマドカも枕なんて持ってきてないよね?」
「来る訳ないわよ」
「なんなら、ベッドくらい作ろうか?」
「私は乗ってきた脱出船で休息するからいいわ」
『フェインティア、残念ながら現在修復中で居住用には不可能です』
「ぐ」
「じゃあ今空いてるのは、士官室が一つ、一般船室が一つ、あと一つどこか………」
「狭いけど私の部屋が空いてる。フェインティアが来るといい」
「何で私があんたと同じ部屋なのよ」

 アイーシャの提案に、フェインティアが即答で反論する。

「ミーナ中佐は一応士官だからな。入るとしたら士官クラス、となると必然的に」
「エリューか」
「え? リーダーと言っても臨時で」
「あとはタコ部屋だぞ? 風呂ですら共同嫌がってたじゃねえか」
「冬后さんタコ部屋なんてひどい! せめてイカ部屋で!」
「どう違うんダヨ?」
「じゃあマドカがリフォーム改造する?」
「止めなさい、原型留めないから」

 妙な所で議論が白熱する中、アイーシャとフェインティアは互いに無言で(フェィンティアの方が一方的に)睨みあう。

「あなたの体は、ダメージが残っている。自己修復に専念するなら、静かな部屋の方がいい。私は騒がない」
「そこまでバレてんの………確かにヴァーミスからの脱走とこいつらとの戦闘でちょっと無茶したけど………」
「じゃあ決定という事で。普通のベッドで大丈夫です? 簡易型だからちょっと寝心地悪いかもしれませんが」

 勝手に決めた七恵がてきぱきと部屋割りの詳細を出し、皆が準備のために格納庫へと向かっていく。
 後には冬后とアイーシャ、フェインティアとムルメルティアの四人が残された。

「色々言いたい事はあるだろうが、この船にいる間は大人しくしててくれや」
「大丈夫、すぐに慣れる」
「なんで私がこんな事に……」
「戦況は変動する物だ、マイスター」

 重い重いため息を吐き出すフェインティアだったが、そこでアイーシャがいきなり彼女の手を取って握り締める。

「な、なによ?」
「頼みがある。お父様はワームの発生は予見できたけど、こんな事態は予見していない。これから何が起こるか、誰も分からない。だから、力を貸して欲しい」
「何で私がそんな事…」
「あなたが強いから」

 無表情のままのアイーシャの断言にフェインティアは一瞬呆気に取られるが、段々その顔に自慢げな笑みが浮かんでいく。

「もっと褒めてくれていいわよ。褒められるの好きだから」
「エリーゼと音羽、それにルッキーニと一人で戦ったんだから、誰も弱いなんて思ってない。それは事実」
「本気出したら勝ってたわよ」
「そうかもしれない。だから、力を貸してほしい。私は戦いたいけど、戦えない。こちらで出来る事は何でもする。これから起きる事に、みんなで立ち向かうために」
「何かが起きるってのか? これ以上厄介な事が」

 冬后の問いに、アイーシャはしばし無言だったが、小さく頷く。

「ワームの戦い方が変わってきている。これからもっと変わる。対抗するには、全員の力を合わせる必要がある。無論私も、フェィンティアも」
「トリガーハートは戦うために作られた兵器だからね。私は異論無いわよ」
「……一つだけ言っとく。オレはソニックダイバー隊を戦うために集めたんじゃない。だから、戦うために作られたなんて言葉はあいつらの前では言わないでほしい」
「案外ナイーブなのね。ま、いいわ。それで私の部屋はどこ?」
「案内する」
「私の待機場所はあるか?」

 アイーシャがフェインティアとムルメルティアを連れて作戦会議室を出て行った所で、冬后はおもむろにコンソールを操作して先程の戦闘データを再生させる。
 最初のイルカ型ワーム、次のヒラメ型ワーム、そしてフェインテイアとの戦闘データを並べると、その中からヒラメ型ワームとの戦闘データを拡大、一連の戦闘状況を再度確認していく。

「確かにこいつは、明らかにウイッチ達を狙っていた感じがある。だとしたら、その先に何がある? ワームの狙いは、一体なんなんだ?」

 言い知れぬ不安に駆られる中、ふと先程まで騒いでいた少女達の顔が脳裏に浮かぶ。

「あれだけいりゃ、なんとかなるだろ。いや、何とかするのがオレの仕事か………」

 己自身にそう言い聞かせると、冬后は少女達の全データを整理し、頭に叩き込むためにその場を後にした………






感想、その他あればお願いします。


NEXT
小説トップへ
INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.