クリスマスの変・弐式


クリスマスの変・弐式



@ムサシ・ケンド&アニー・ケンドの場合

きょうはクリスマス
トナカイたちがひく空とぶソリにのって、サンタクロースのおじさんがやってきました
サンタクロースのおじさんは、ねているこどもたちのまくらもとにそっとプレゼントをおいて、めをさましたこどもたちがよろこぶのがなによりもたのしみなのです
ところが、いきなり銃をもったわるものたちが、まちをせんきょしました
『クリスマスはおれたちがせんきょした!』
わるものたちは銃をらんしゃして、いえをこわし、ひとびとをきずつけてはいろいろなものをぬすみはじめました
めをさましたこどもたちは、わるものたちにおびえてないています
それをみたサンタクロースのおじさんはいかりだいばくはつ
こどもたちをまもるため、ねむっていたちからをかいほうし、まっしぶぼでぃのスーパー参多駆狼須にへんしんです
こどもたちをまもるためにおなじくはいぱー化したトナカイたちとスーパー参多駆狼須は、わるものたちにたたかいをいどみます
まるたのようなごうわんがわるものそのいちをなぐりとばし、ぞうもかくやというごうきゃくがわるものそのにをけりとばします
にげようとしたわるものそのたおおぜいを、はいぱートナカイたちがつのでつきとばし、ひづめでふみつけていきます
『こうなったらみちづれだ!』
わるものおやだまは、いっぱいのばくだんにひをつけてまちもろともふきとばそうとしました
『そんなことはさせないぞ!』
スーパー参多駆狼須は、はいぱートナカイたちがひくソリとともに、ばくだいなえねるぎーをほうしゅつしながらわるものおやだまにとつげきしていきます
クリスマスをいろどるすいせいとなって、わるものたちにじごくいきをぷれぜんとするスーパー参多駆狼須のさいしゅうおうぎ、《ふぁいなる・めりーくりすます》がさくれつ、わるものおやぶんはほしのかなたにふきとばされていきました……………



「それ以来、鍛え抜かれた男達が悪者からクリスマスを守るようになったんだ」
「へ〜」
「だからパパはきょうお仕事なんだ」
「そういう事、だから今晩はママと一緒にすごすんだぞ」
『は〜い』
「じゃあ行ってくる」

5歳の双子の息子と娘が元気よく返事するのを確認したスミスは、出勤の準備を始める。

「普通に仕事で帰れないって教えたら?」
「それじゃあ夢がないだろ?なあトシゾウ〜」

呆れ顔の妻に笑いながら、スミスは彼女の胸に抱かれてるもう直一歳になる息子の頬をつつく。

「クリスマスに馬鹿やる人間が多いからな、警官はクリスマス休暇無しだ。教会で祈るなり、家でケーキ食うなり、友人と飲んだくれるなりしてりゃ世の中平和なんだがな………」
「仕方ないわよ。じゃあ気をつけて」
「おう、行ってくる」

その晩、サンタクロースの格好をしたモビルポリスのパワードスーツが武装テロリストをぶちのめすニュースが流れ、ケンド家は喝采と苦笑に包まれたのであった…………



Aトモエ・バーキン・八谷の場合

「ジングルベ〜ルジングルベ〜ル」
「鈴が〜鳴る〜」

6歳のトモエが、母親のシェリーと一緒に歌いながら楽しげにクリスマスのご馳走を盛り付けていく。

「今日は楽しい〜」
「くりすます〜」

3歳になる弟のトウジとこっそりとトモエはつまみ食いをし、シェリーは盛り付けたサラダを運び、ツリーの飾り付けをチェックしていく。

「パパもお休みできればよかったのにね」
「クリスマスは事件が起きやすいからね、ママもトモエとトウジのために無理言ってお休みもらったのよ」
「せっかくのパーティーなのに、これない人ばっかじゃつまんない〜!」
「ない〜」
「みんなが楽しくクリスマスを過ごすためにSTARSの皆は頑張ってるのよ、来れる人達だけで過ごしましょ」
「そうだね〜……今年はクレアさんやレベッカさん来るかな?」

その時、玄関のチャイムが鳴った。

「さっそく誰か来たみたい。トモエ、トウジよろしくね」
「は〜い♪」
「いらっしゃいませ〜」

その夜
トモエの部屋の鍵穴に極細のノズルを入れると、スプレーの中身を中へと吹き込む。
きっかり三分待つと、シェリーは部屋の扉を開けた。

「よし、大丈夫ね…………」

娘が寝ているのと、流し込んだ催眠ガスが空気中に分解されたのを確認すると、シェリーは被っていたガスマスクを外した。

「サンタクロースは寝ている間に来ないとね………」

どこか間違えている事を呟きながら、シェリーはトモエの枕元に吊るされている靴下に手を突っ込み、中の紙を取り出す。

「どれどれ、サンタさんへのお願い………は…………」

月明かりに紙に書かれている要望を見たシェリーの顔が硬直していく。

サンタさんへ
かっこいいかれしがほしいです トモエ

「夢が有ると言えば有るんだけど、ちょっとね…………」

自分が娘と同じ年の願い事はなんだっただろうか?と思いつつ、シェリーは勉強机の上からペンを取ると裏に返答を書いていく。

10年はやいです。これでもっとキレイになってからにしましょう サンタ

プレゼントの子供用メイクセットと一緒に紙を靴下へと入れると、シェリーはトモエの安らかな寝顔を覗き込む。

「メリークリスマス、トモエ」

その額にそっとキスをすると、シェリーは静かに部屋を出て行った………



Bレン・水沢の場合

「明日香さん氷嚢用意して!そっちの棚から包帯を!点滴架も!」
「うう、痛えよ〜……」
「我慢しなさい!クリスマスに酔ってケンカなんかするからよ!」
「母さん、また一人!」
「状態聞いておいて!緊急ならこっちに運んで!」

街角の小さな診療所で、クリスマスに浮かれて飲みすぎたりケンカで負傷したりした患者を、この診療所の院長であるミリィは手際よく捌いていく。
その脇を診療所に勤める女性看護士と共に、中学生のレンがミリィの手伝いをしていた。

「せ、先生〜」
「勉さんまた飲みすぎよ!お正月とお盆にも来たの忘れたの!?」
「す、すんません………」
「レン、氷切れそうだから買ってきて!明日香さんタクシー呼んで、治療が済んだの叩き返しておいて!」
「せ、せめて入院させて………」
「こんなの入院するくらいじゃないわよ!世の中には肋骨折れても顔色変えない人間だっているんだから!」
「……Mですか、その人?」
「死んだ旦那よ」
「…………どういう人だったんですか?」
「大馬鹿よ」
「さいで………」

急性アルコール中毒で運び込まれた男性と、女性看護士が何気なくミリィの診療デスクの上に置いてある写真に目を写す。
そこには、妙にごつい連中が映っている写真と息子とミリィ二人の写真がそれぞれ飾ってあり、前者の写真の中央やや右寄りには片側を若いミリィが、もう反対の金髪の少女に挟まれている墨色の小袖袴のレンによく似た男性が映っていた。

「先生〜、診てくれ〜」
「また一人………」
「今度は何!?どんどん来なさい!…………」

日付が変わってしばらく経った所で、ようやく急患の波が途切れる。
最後の患者を帰した所で、ミリィはようやく一息ついた

「もう大丈夫みたいね…………明日香さん帰っていいわよ」
「そうします……お疲れさんでした〜………」

多少ふらつく足取りで、女性看護士が更衣室へと向かう。
その後姿を見送ると、ミリィは大きく伸びをした。

「ふ〜……」
「お疲れ、母さん」

レンが入れてきたココアを、ミリィはゆっくりと飲む。

「レン、手伝ってくれるのは嬉しいけど、イブの予定は何か無かったの?」
「特には。母さん忙しいの知ってたし………」
「ダメよ、もう中学生なんだからガールフレンドの一人もデートに誘いなさい」
「いないのを誘えと言われても……」
「……たく、似てほしくないとこばっか似てるわね。少しは母親に似ても良かったのに……」
「そうなのかな?」

首を傾げる息子に、ミリィは呆れ顔でため息をついた。

「あ、これ母さんにクリスマスプレゼント」
「あら、何かしら?」

レンの手渡したプレゼントを、ミリィは開けてみる。
箱の中からは、小さなイヤリングが出てきた。

「ありがとう、付けてみていい?」
「うん、そのために買ってきたんだから」
「そうね。似合うかしら?」
「いいと思うよ」
「それじゃあ、これは私から」

ミリィの出してきたプレゼントを、レンは開けてみる。
中から、新品のスニーカーが出てきた。

「ありがとう母さん、ちょうど新しいの欲しかったんだ」
「喜んでもらえてうれしいわ。さて、戸締りして帰りましょう」
「うん、外で待ってるよ」

レンは新品のスニーカーを自分のバッグに仕舞い、外へと出ると先程までの顔と打って変わり、鋭い顔で周囲を見回す。
そして、ふらつく足取りでこちらへと向かってくる男を見つけた。

「痛え、痛えよ……先生よ〜」

ふらつき虚ろな目でこちらへと向かってくる男は、懐からゆっくりと包丁を取り出す。

「母さんは貴賎はつけないからな、どんな患者でも診る。貴様のようなジャンキーでもな………」
「痛えよ、おい………」
「やばい目をしていたから気になっていたが、やはりか」

レンは背中に手を伸ばすと、そこに仕込んでおいた木太刀を引き抜く。

「母さんは疲れてるんだ。お前の相手をしている暇は無い」
「うう、うあ…」

相手が絶叫しながら包丁を振りかざそうとした瞬間、レンの姿が霞み、鈍い音が数回響く。
数秒後、一刀の元に叩き折られた包丁と、急所に連撃を食らった男が路面へと倒れ伏す。
そこで、どこかから拍手の音が響いてきた。

「見事だな、さすが先生自慢の息子だ。こっちが出る幕もねぇ」
「小菅さん、見てたのか……」

レンが視線を向けた先には、スーツを着込み、明らかにヤクザ者の雰囲気をまとった男が立っている。
男が指を鳴らすと、そばに停まっていた車から数人のヤクザが降り、失神している男を車内へと連れ込んだ。

「先生にはいつもお世話になってるからな。揉め事起こす馬鹿は始末しろって親分からの言いつけだ。こいつにはどこから変な物を買ったかじっくり聞きたいしな」
「この事は、母さんには内密に」
「分かってるって、あんな立派な人に迷惑も心配もかけるつもりはねえ。オレとお前の秘密って事にするからよ」
「頼みます」
「よせやい、カタギはヤクザに頭下げるもんじゃねえよ。あの先生に上げる頭持ってるヤクザもこの街にはいねえけどな」

おどけた調子で言いながら、ヤクザはレンをまじまじと見る。

「母ちゃん、大事にしろよ。父ちゃんみてえに早死にはするな。その腕前で平穏に生きるってのは無理そうだがな………」
「ええ」
「レン〜帰るわよ〜」
「あ、は〜い」

母親の声に応じるレンに、ヤクザは黙って背を翻し、車へと乗り込む。

(いい息子持ったな、先生。強くて、優しくて、どこに出しても恥ずかしくない男だ…………)

家路に向かう母子を見送ると、車は静かにその場から遠ざかっていった。
二人の邪魔を、嫌うかのように…………



聖なる夜に、数多の人々の思いは集い、通い合い、そして幸せを願う。
優しく、強く、暖かく。そして未来への願いを紡ぐ。
今、彼方はどんな思いを抱いて夜を過ごしていますか?


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